刑法ゼロから刑法#123

業務妨害罪と公務

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第14章 個人的法益③|秘密・名誉・信用・業務 ⑥/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の結びから

公務員の仕事も「業務」にあたるのか 図:公務員の仕事も「業務」にあたるのか

前回、『業務』をどう定義したか、覚えていますか?社会生活上の地位に基づき継続して行う事務、でした。そして前回の最後に、1つ問いを立てました。警察官の仕事や、役所の窓口業務も、この定義にあてはまりそうに見える、という話です。今日は、この問いに正面から答えます。公務員が行う仕事、つまり公務は、233条・234条の『業務』に含まれるのでしょうか。公務員も決まった仕事を毎日続けているという点だけを見れば、文言上はあてはまりそうに見えます。先に答えの形だけ言っておくと、判例は、公務をひとまとめにせず、2種類に分けて、一方だけを『業務』に含めています。どこで線を引くのか、なぜそこなのかが、今日の中身です。

業務と公務——問題の所在

暴行・脅迫が無ければ、公務執行妨害罪は成立しない 図:暴行・脅迫が無ければ、公務執行妨害罪は成立しない

具体的な場面で考えます。警察官が、捜索差押えの令状に基づいて、ある人物の自宅を捜索していたとします。令状の対象になっている人物が、これを妨害しようとしましたが、暴行や脅迫は一切用いず、嘘の証言や書類の偽造といった偽計だけで妨害したとしましょう。この警察官の捜索は、公務員が行う職務にあたります。そこで問題になるのが、95条1項です。

条文刑法95条1項

刑法95条1項(公務執行妨害) 「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。」

95条1項が処罰しているのは、公務員の職務執行に対して、暴行または脅迫を加える行為です。ところが、今の事案では、暴行も脅迫も用いていません。ですから、この行為には公務執行妨害罪は成立しません。そこで出てくるのが、業務妨害罪です。前回、233条と234条を確認しました。もう一度、内容を見ておきましょう。

条文刑法233条

刑法233条(信用毀損及び業務妨害) 「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。」

条文刑法234条

刑法234条(威力業務妨害) 「威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。」

233条後段の偽計業務妨害罪は、偽計を用いて人の業務を妨害すれば成立し、暴行・脅迫を要件にしていません。今の事案の行為は、まさに偽計にあたります。234条の威力業務妨害罪も同じで、こちらは暴行・脅迫ではなく威力、つまり相手の意思を押さえつけるような勢いを要件にしています。前回見た、店先で大声で怒鳴り続けて客を追い返す、といった妨害です。公務が業務妨害罪の『業務』に含まれるのであれば、95条では処罰できない偽計による妨害も、業務妨害罪で処罰できることになります。逆に、公務が『業務』に含まれないのであれば、この人物は不処罰ということになってしまいます。ここに、業務と公務の関係という論点が現れます。

判例の枠組み——権力的公務か否かで区分

公務を、権力的公務とそれ以外に分けて考える 図:公務を、権力的公務とそれ以外に分けて考える

この論点について、判例は1つの枠組みを示しています。公務を2種類に分けて考える枠組みです。1つは、強制力を行使する権力的公務。もう1つは、それ以外の公務です。ここでいう強制力とは、相手の抵抗を排除するための、物理的な実力のことです。たとえば逮捕は、相手が抵抗しても、警察官が実力でその抵抗を排除して身柄を確保できます。捜索や差押えも同じで、相手の意思に反してでも、実力で執行できる権限が法律上与えられています。後で判旨そのものを見ますが、判旨は、強制力を行使する権力的公務かどうか、という線を引くだけで、理由までは書いていません。この線がどこから来るのかは、こう考えると分かります。権力的公務には、もともと自力で妨害を排除できる実力の裏付けがあります。ですから、業務妨害罪まで持ち出さなくても、暴行または脅迫を用いた妨害があった場合に限って、95条の公務執行妨害罪で保護すれば十分だ、という発想です。

実力で押し返せるだけの権限を、もともと持っているという点は、そのとおりのイメージです。これに対して、権力的公務にあたらない、それ以外の公務には、そうした実力の裏付けがありません。偽計や威力によって妨害されても、自力でそれを排除する権限は与えられていないので、業務妨害罪による保護が必要になります。この理由づけで、判例の線引き、つまり、強制力を使う公務は業務妨害罪では守らず、それ以外の公務は守る、という区分が説明できます。

学説の整理

4つの立場を、結論と理由で整理する 図:4つの立場を、結論と理由で整理する

この論点をめぐっては、判例の立場のほかにも、いくつかの学説が主張されています。整理しておきましょう。まず、消極説。これは、公務は一切業務に含まれない、とする立場です。業務妨害罪と公務執行妨害罪とでは、そもそも罪質、つまり、その罪がどういう性質の犯罪なのかが違うので、刑法は公務と業務をはっきり分けて扱っている、という理由からです。ただ、この立場には、公務であるというだけで、偽計や威力による妨害から一切保護されなくなってしまう、という批判があります。次に、正反対の立場が積極説です。公務も業務に含まれる、とする立場で、公務も『社会生活上の地位に基づき継続して行う事務』という定義に、文言上あてはまることを理由にします。ただこちらにも批判があって、逮捕や強制執行のように、もともと自力で抵抗を排除できる権限を与えられている公務まで、一律に業務妨害罪で保護する必要はないだろう、というものです。

判例と同じ結論をとる立場を、学説では限定積極説と呼びます。消極説と積極説それぞれへの批判を踏まえた、折衷的な立場です。限定積極説をさらに一歩進めた、有力な学説です。同じ権力的公務でも、邪魔の手口が威力なら業務妨害罪では守らず、偽計なら守る、という立場です。理由はこうです。強制力、つまり物理的な実力の裏付けというのは、大声で怒鳴り続けて作業を止めさせるような威力による妨害なら、実力で排除して押し返せますが、嘘や欺きの手口である偽計に対しては、無力だという発想です。実力で押し返せる権限を持っていても、書類を偽造されたり、嘘の情報を信じ込まされたりする妨害までは、防ぎようがありません。今日のところは、こういう立場もある、という名前と結論だけ押さえておいてください。

具体例——権力的公務にあたるか、あたらないか

権力的公務にあたる例 図:権力的公務にあたる例

では、この区分を、具体例で確認していきます。まず、権力的公務にあたる例です。刑事の場面では、逮捕、勾留、捜索、差押え。民事の場面では、執行官が行う強制執行。行政の場面では、即時強制や行政代執行が挙げられます。いずれも、相手の意思に反してでも、実力で押し切ることが法律上認められている仕事です。強制力を行使する権力的公務にあたる以上、暴行・脅迫による妨害は95条で対応し、業務妨害罪の『業務』には含まれません。これに対して、権力的公務にあたらない例、つまり『業務』に含まれる例を、実際の事件で見てみましょう。

権力的公務にあたらない例(事件ごと) 図:権力的公務にあたらない例(事件ごと)

まず1つ目は、県議会の事件です。委員会が、条例案の採決などの審議を行っていたところ、被告人らが委員会室に入り込んで騒ぎ立て、採決などの進行を妨げた、という事案でした。

判例最高裁判所第一小法廷決定 刑集41巻2号140頁

業務妨害罪の「業務」と公務(判旨) — 新潟県議会事件 「本件において妨害の対象となつた職務は、新潟県議会総務文教委員会の条例案採決等の事務であり、なんら被告人らに対して強制力を行使する権力的公務ではないのであるから、右職務が威力業務妨害罪にいう『業務』に当たるとした原判断は、正当である」

最高裁は、この条例案採決等の事務は、被告人らに対して強制力を行使する権力的公務ではない、として、威力業務妨害罪にいう『業務』にあたると判断しています。ただ、注意してほしいのは、委員会に何の権限も無いわけではないということです。議長や委員長には、騒ぎ立てる者を制止したり退場させたりする、秩序を保つための権限はあります。判旨が『強制力を行使する権力的公務ではない』と言っているのは、その権限のことではなく、条例案の採決という仕事そのものが、相手に強制力を向けて行う仕事ではない、という点です。だからこそ、業務妨害罪による保護が必要になる、というわけです。同じ理由で、国立大学で行われる講義も、権力的公務にはあたらず、業務妨害罪の保護対象になると解されています。もう1つ、別の事件も見ておきましょう。

動く歩道事件——決め手は、工事そのものの性質 図:動く歩道事件——決め手は、工事そのものの性質

東京都が、新宿駅西口の地下通路に動く歩道を設置する計画に伴って、環境整備工事を行うことになりました。この工事は、通路で生活していた路上生活者に対して自主的に退去するよう説得し、これらの者が自主的に退去した後に残された段ボール小屋などを撤去する、という内容のものでした。最高裁は、この工事の中身を次のようにまとめています。判旨を見てみましょう。

判例最高裁判所第一小法廷決定 刑集56巻7号395頁

動く歩道事件——業務妨害罪の「業務」と公務(判旨) 「本件において妨害の対象となった職務は、動く歩道を設置するため、本件通路上に起居する路上生活者に対して自主的に退去するよう説得し、これらの者が自主的に退去した後、本件通路上に残された段ボール小屋等を撤去することなどを内容とする環境整備工事であって、強制力を行使する権力的公務ではないから、刑法234条にいう「業務」に当たると解するのが相当であり」

最高裁は、この工事は、説得して退去してもらい、残った物を片付けることなどを内容とする工事であって、強制力を行使する権力的公務ではない、と判断しました。さらに、自分から出て行かなかった人が警察官に連れ出され、その人の段ボール小屋が本人の意思に反して撤去された場合であっても、結論は変わらない、とまで述べています。ここまでの2つの事件で、権力的公務にあたる例とあたらない例の線引きが、具体的にイメージできたと思います。逮捕や捜索のように、実力での妨害排除が法律上組み込まれている仕事だけが、権力的公務として『業務』から外れる。議会の審議や、説得による退去を前提とした撤去作業のように、そうした実力の裏付けを欠く公務は、『業務』に含まれ、業務妨害罪で保護される。これが判例の到達点です。

冒頭の事案に戻る——権力的公務を偽計で妨害したら 図:冒頭の事案に戻る——権力的公務を偽計で妨害したら

令状に基づく捜索は、まさに強制力を行使する権力的公務にあたります。ですから、暴行・脅迫が無い以上、公務執行妨害罪は成立しません。限定積極説の立場では、権力的公務は業務妨害罪の『業務』にもあたらないため、偽計による妨害も処罰できない、ということになります。ただし、これはあくまで限定積極説からの帰結であって、権力的公務を偽計で妨害した場合の結論には、見解の対立があります。先ほど見た修正積極説は、権力的公務であっても、偽計による妨害であれば業務妨害罪が成立しうる、という立場でした。

95条『職務』との対応

業務(233・234条)と職務(95条)の対応——対比 図:業務(233・234条)と職務(95条)の対応——対比

もう1つ、隣接する論点を押さえておきます。今見た県議会の審議のような、権力的公務にあたらない公務は、業務妨害罪の『業務』に含まれることが分かりました。では、この公務は、公務執行妨害罪95条1項の『職務』には、あたるのでしょうか。そういう見解も主張されています。すでに業務妨害罪が守っている公務を、公務執行妨害罪がもう一度守るのは重複だ、という考え方です。ですが、判例はこの立場を採っていません。

判例最高裁判所第一小法廷判決 刑集32巻4号816頁

公務執行妨害罪95条の「職務」の範囲(判旨) 「同項にいう職務には、ひろく公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてが含まれるものである」

判例は、95条1項の『職務』には、公務員が取り扱うありとあらゆる事務のすべてが含まれる、としています。つまり、権力的公務にあたるかどうかにかかわらず、およそすべての公務が『職務』にあたる、という立場です。判旨は理由を述べていませんが、条文から筋が通ります。95条は『職務』という言葉に、何の限定も付けていません。それに、権力的公務を『業務』から外したのは、自力で妨害を排除できる実力の裏付けがあるから、でした。その裏付けを持たない公務を、暴行・脅迫からは守らない、とする理由はありません。この結果、権力的公務にあたらない公務は、業務妨害罪の『業務』にも、公務執行妨害罪の『職務』にも、どちらにもあたることになります。暴行・脅迫を用いて妨害すれば、95条の公務執行妨害罪が成立します。暴行・脅迫を用いずに、偽計や威力で妨害すれば、業務妨害罪が成立します。条文でいえば、233条と234条です。このように、二重に保護されているわけです。

なお、公務執行妨害罪がどのような場面で成立するかについては、職務執行中といえる時間的な範囲や、暴行・脅迫の程度といった細かい要件があります。これらは、公務執行妨害罪そのものを扱う回で、あらためて詳しく検討します。今日のところは、業務妨害罪との対応関係、つまり、権力的公務以外の公務は両方の条文で保護されうる、という位置関係を押さえておいてください。

今日の地図(保存版)

業務と公務の境界線 図:業務と公務の境界線

今日の内容を整理します。公務が業務妨害罪の『業務』に含まれるか、という論点で、判例は、公務を強制力を行使する権力的公務と、それ以外の公務とに分けて考えています。権力的公務には、自力で妨害を排除しうる実力の裏付けがあるので、業務妨害罪までは必要とされず、『業務』に含まれません。それ以外の公務には、そうした裏付けが無いので、『業務』に含まれます。学説では、公務は一切含まれないとする消極説、逆に公務も含まれるとする積極説、そして判例と同じ結論をとる限定積極説、さらに一歩進めて偽計と威力とで結論を分ける修正積極説がありましたね。具体例としては、逮捕・捜索・差押えのような公務が権力的公務にあたり、県議会の審議や、国立大学の講義、説得による退去を前提とした撤去作業のような公務は、権力的公務にあたらず『業務』に含まれるのでした。そして、こうした権力的公務にあたらない公務は、公務執行妨害罪の『職務』にも該当するため、暴行・脅迫による妨害と、それ以外の妨害の、両方から保護されることになります。

参照条文

  • 刑法95条1項
  • 刑法233条
  • 刑法234条

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