強盗致死傷罪と死傷の原因
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第15章 個人的法益④|財産に対する罪①(総論・窃盗・強盗) ⑬/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
240条の重さと主体の入口
図:殺人罪より重い?——240条の法定刑
前回、事後強盗罪と昏酔強盗を見ました。今日は、強盗罪の中でも法定刑がもっとも重い、240条に入ります。今日はその先、強盗致死傷罪です。まず、この条文の重さを見てください。人を負傷させれば無期又は6年以上、死亡させれば死刑又は無期です。しかも、負傷させただけの場合でも下限は6年です。殺人罪の下限は5年ですから、負傷にとどまる240条前段のほうが、殺人罪よりも重い下限を持っていることになります。財物を奪う罪のはずなのに、なぜここまで重いんですか。そこが、今日1本通す軸です。この240条がここまで重いのは、強盗という財産犯罪の過程で、財産よりも重い法益である生命・身体が侵害される、という事態そのものを重く見ているからです。この視座が、今日扱う3つの論点、主体・故意ある場合を含むか・死傷の原因、すべてを貫きます。
条文刑法240条
刑法240条(強盗致死傷) 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の拘禁刑に処し、死亡させたときは死刑又は無期拘禁刑に処する。
まず、この「強盗が」の中身、主体から見ていきましょう。
主体——既遂・未遂を問わない
図:236条・238条・239条、すべてが240条の「強盗」
240条にいう「強盗」とは、強盗の実行に着手した者を意味します。財物を取れたかどうか、つまり既遂か未遂かは問いません。財物を奪えていない未遂犯でも、240条の主体になれるんですか。なれます。240条が見ているのは、財物の行方ではなく、強盗の実行に着手した者が人を死傷させたという事実そのものだからです。判例で確認しましょう。
判例最高裁判所判決(昭和23年6月12日・刑集2巻7号676頁)
最高裁判所判決——強盗の実行行為中の傷害と既遂 強盗に着手した者がその実行行為中被害者に暴行を加へて傷害の結果を生ぜしめた以上財物の奪取未遂の場合でも強盗傷人罪の既遂をもつて論ずべきである。
強盗の実行行為中に傷害の結果を生じさせた以上、財物を取れたかどうかとは関係なく、240条は既遂として成立します。そして、この「強盗」には、実は236条の強盗だけでなく、238条の事後強盗、239条の昏酔強盗も含まれます。前回・前々回、238条も239条も「強盗として論ずる」と定めていることを確認しましたね。この言い回しが、ここでもう一度効いてきます。たとえば、窃盗犯人が財物を得て逃げる際、追ってきた人を刃物で刺して負傷させれば、238条を通じて240条が成立します。事後強盗の主体もまた、240条の「強盗」に含まれるからです。
故意ある場合を含むか
図:最初から殺すつもりだったら?
2つ目の論点、故意ある場合を含むかに進みます。240条は、被害者に傷害・死亡という結果が生じ、かつ犯人にその結果についての故意がない場合、つまり結果的加重犯として成立するのは当然です。問題は、犯人に最初から傷害・殺人の故意がある場合、つまり財物を奪うために最初から被害者を殺すつもりで強盗を実行した場合にも、240条が成立するのかです。240条は結果的加重犯だと習ったのに、最初から殺すつもりだったなら、それは故意犯であって、結果的加重犯とは違う気がします。矛盾していませんか。ここが超頻出の論点です。
図:旧判例——本罪は純粋な結果的加重犯
かつては、240条を純粋な結果的加重犯の規定と解し、故意ある場合を含まないとする判例がありました。この見解では、240条が評価するのは故意のない死傷の結果までで、殺意の部分までは評価しきれない、と考えます。そのため、故意ある場合には、この240条に加えて、傷害罪・殺人罪も成立し、本罪と傷害罪・殺人罪との観念的競合として処理されます。ただ、この見解には批判があります。死傷の結果を二重に評価することになってしまいます。死亡という1つの結果を、強盗致死罪と殺人罪の両方で評価してしまう、という意味です。
図:現在の判例・通説——故意ある場合も含む
そこで、現在の判例・通説は、故意ある場合も240条に含むと解します。理由は2つです。1つ目は、強盗の現場では、抵抗や追跡がからむので、人が死んだりけがをしたりすることが実際に多いということです。240条は、その現実に目をつけて、強盗の場面での死傷を特に重く扱う規定なのです。殺意をもって強盗に及ぶ場合こそ、強盗の機会に死傷結果が生じる典型的な場面のはずです。そうであるにもかかわらず、240条がその典型的な事態を排除していると読むのは不自然です。2つ目の理由は文言です。結果的加重犯には、たとえば傷害致死罪205条のように「よって」という文言が使われるのが通常ですが、240条にはこの文言がありません。
「よって」が無いということは、故意による場合を排除する趣旨ではない、ということです。この2つの理由から、傷害・殺人の故意がある場合も、240条一罪に含まれると解するのが、大正時代の大審院の判例以来の立場、そして通説です。
図:240条は4つの類型を規定している
整理すると、240条は4つの類型を規定した条文だということになります。故意なしで傷害結果なら強盗致傷、故意なしで死亡結果なら強盗致死、故意ありで傷害結果なら強盗傷害、故意ありで死亡結果なら強盗殺人です。そして、いずれの類型でも、成立するのは240条一罪です。
死傷の原因——手段説と機会説
図:暴行・脅迫が直接の原因でなくても、本罪は成立するか
3つ目の論点、死傷の原因に入ります。強盗のために振るった暴行・脅迫そのものから、けがや死亡が直接生まれた場合に240条が成立するのは、当然です。たとえば、強盗の被害者が現場から逃げ出した先で、たまたま通りかかった車にはねられて死亡した場合です。犯人が振るった暴行・脅迫そのものが、直接の死因ではありません。この場合にも240条は成立するのでしょうか。
図:手段説——暴行・脅迫が直接の原因である場合に限る
まず、けがや死亡が、強盗のために振るった暴行・脅迫そのものから生まれた場合に限る、とする見解があります。手段説です。なお、強盗罪の回で見た「手段性」は、暴行・脅迫が財物を奪う手段でなければならない、という強盗罪の要件でした。手段説は、死傷の結果がどこから生じたかを問う240条の見解で、別の論点です。そのうえで、この見解には有力な批判があります。240条にいう「強盗」は、事後強盗を含みます。ところが、事後強盗の暴行・脅迫は、逮捕を免れる、あるいは財物を取り返されるのを防ぐ、といった目的でなされるもので、財物奪取そのものの手段ではありません。
窃盗犯人が、逃げる際に追跡者に暴行を加えて死傷させれば、238条を通じて、この240条が成立します。ところが、236条の強盗犯人が全く同じ行為、つまり追跡者に暴行を加えて死傷させた場合、その暴行が財物奪取の「手段」ではないという理由だけで、この240条が及ばないとしたら、どう感じますか。少し考えてみてください。これが手段説に対する批判です。「強盗の手段」という線引きにこだわると、かえって不均衡な結論を招いてしまいます。
図:機会説——強盗の機会に生じた行為であれば足りる
そこで、判例・通説が採るのが機会説です。けがや死亡は、強盗のために振るった暴行・脅迫そのものから生まれたものでなくてもよく、強盗に着手した後、その強盗の場面で行われた行為から生じたものであれば足りる、とする見解です。理由は、さっきの故意ある場合の話と同じですか。同じ理由です。さっき話したとおり、強盗の現場は死傷が起きやすいから、条文がその場面を重く見ているんでしたね。だからこそ、暴行・脅迫そのものが直接の原因でなくても、強盗の機会に生じた死傷なら本罪に含める、と考えるわけです。
判例最高裁判所判決(昭和24年5月28日・刑集3巻6号873頁)
最高裁判所判決——強盗殺人罪の機会 刑法第二四〇条後段の強盗殺人罪は強盗犯人が強盗をなす機会において他人を殺害することによりて成立する罪である。(中略)強盗行為が終了して別の機会に被害者両名を殺害したものではなく、本件強盗の機会に殺害したことは明である。
強盗行為が終了して別の機会に殺害したのではなく、まさに強盗の機会に殺害したと判断されています。ただし、注意が必要です。機会説といっても、強盗行為を契機として生じた死傷のすべてを含む、という趣旨ではありません。けがや死亡が、強盗の行為と切り離せないほど深く結びついた行為から生じた場合であることが必要です。具体的には、時間や場所が近いか、強盗をする意図がまだ続いているか、そして被害者が同じかどうか、という3つの点を見て判断します。機会説の理由は、強盗の場面では死傷が起きやすい、という点でした。強盗と切り離された別の動機や、別の決意による死傷には、その理由が当てはまりません。だから、強盗行為と密接に関連する行為から生じた死傷に限るわけです。つまり、大きな基準は「強盗の行為と密接に結びついているか」の1つで、この3つの手がかりは、それを確かめるための材料です。目安としては、財物を奪う場面、取り返されないよう確保する場面、逃げる場面、そのどこかで邪魔になった人に向けられた行為かどうかで見ます。
ただ、あちらが測ったのは、窃盗犯人がまだ見つかって、取り返されたり捕まったりしうる状況が続いているか、でした。こちらは、死傷が強盗と密接に結びつくかを測ります。測るものが違うので、手がかりも違います。
あてはめ——肯定される例と否定される例
図:具体例で、密接な関連性を確認する
判例最高裁判所判決(昭和25年12月14日・刑集4巻12号2548頁)
最高裁判所判決——強盗殺人罪と機会(母親と幼児2人) 強盗殺人罪は、必ずしも殺人を強盗の手段に利用することを要するものではなく、強盗の機会に人を殺害するを以て足りるものであつて本件においては少くとも強盗の機会にE、Fの両名をも殺害したこと明らかである
具体例で、密接な関連性を確認していきましょう。1つ目は、お金や品物を奪う目的で母親を手にかけたうえ、そばで眠っていた幼児2人までも手にかけた事案です。母親を襲った現場で、続けて幼児2人も手にかけていますから、密接な関連性が認められ、機会説の下で240条が成立します。判決は、3人の抵抗を排除する手段として殺害したと読んだうえで、仮にそうでなくても、強盗の機会に人を殺害すれば足りる、としています。被害者は母親とは別の人ですが、同じ現場で、同じ強盗の流れの中で続けて殺害しています。3つの手がかりは、全部そろうかを数えるのではなく、合わせて見るものです。ここでは、時間・場所も犯行の意図も、つながっています。2つ目は、さっき見た、追跡してきた家人を刺殺した事案です。これも同じ機会に生じた行為として、240条が成立します。
判例最高裁判所決定(昭和34年5月22日・刑集13巻5号801頁)
最高裁判所決定——強盗致傷罪の機会(タクシー車内) 被告人の本件傷害の所為は正にその強盗の機会に犯されたものというべく、時間的にも、場所的にも、又被害者が同一人である点及び犯行の意図からみても、(中略)新らたな決意に基いて強盗とは別の機会になされた別個独立の行為であるとはいい難い
被害者が運転する車の中で拳銃を向けてお金を求めた犯人が、いったん降りて、また乗り込み、約6キロメートル先の交番の前まで来たところで、逃げるために被害者を殴ってけがをさせた事案です。時間的にも場所的にも近く、被害者も同じで、犯行の意図も途切れていません。だから、新たな決意に基づく別の機会の行為とはいえない、と判断されています。4つ目は、被害者が逃げ出した先で、たまたま走ってきた第三者の車にひかれて死亡した場合です。犯人自身が暴行を加えたわけではありませんが、被害者が逃げ出したのは強盗から逃れるためであり、時間的・場所的にも強盗と密接に結びついていますから、これも機会説の下で240条が成立すると解されます。では反対に、密接な関連性を欠くために240条が成立しない、否定される例も見ておきましょう。1つ目は、強盗をしている最中に、誤って乳児を踏んでしまい死なせた場合です。時間も場所も強盗の最中ですが、踏んだのは誤ってのことで、奪う・確保する・逃げるための邪魔になる人に向けた行為ではありません。手がかりでいえば、強盗の意図とつながった行為ではない。だから、密接な関連性を欠きます。
判例最高裁判所判決(昭和23年3月9日・刑集2巻3号140頁)
最高裁判所判決——強盗殺人罪の機会を欠く場合(数時間後の殺害) 一旦強盗殺人の行為を終了した後新な決意に基いて別の機会に他人を殺害したときは右殺人の行為は、たとえ時間的に先の強盗殺人の行為に接近しその犯跡を隠ぺいする意図の下に行われた場合であつても別箇独立の殺人罪を構成し之を先の強盗殺人の行為と共に包括的に観察して一箇の強盗殺人罪とみることは許されない
判旨は、たとえ時間的に先の強盗殺人の行為に接近し、その犯跡を隠す意図でなされた場合であっても、いったん強盗殺人の行為が終了した後、新たな決意に基づいて別の機会に殺害した以上は、別個独立の殺人罪になる、としています。密接な関連性を欠くため、これは240条ではなく、別個独立の殺人罪にとどまります。ほかにも、ふだんから抱いていた恨みを晴らすために強盗の場面を利用して被害者を殺した場合、あるいは、強盗をしていた仲間同士が途中でもめて、一方が他方を殺してしまった場合も、同じく240条は成立しません。前者は私怨という別の動機に基づく行為であり、後者は強盗という犯罪そのものとは無関係な内輪もめだからです。
図:肯定される例と否定される例——決め手は密接な関連性
「強盗のついでに起きたことなら何でも本罪」ではなく、この3つの手がかりで密接な関連性があるかどうかを、そのつど確認します。強盗の場面で生命・身体が危険にさらされる事態を重く見るから広く及び、その理由が届かないところで止まる。今日の軸は、ここでも効いています。
今日の地図(保存版)
図:今日のまとめ
今日の内容を、整理します。この240条の重い法定刑の背後には、生命・身体という財産より重い法益を保護する、という1つの発想がありました。その発想が、主体・故意ある場合・死傷の原因という3つの論点、全部を支えていたんですね。主体は、強盗の実行に着手した者であれば足り、既遂・未遂を問わず、事後強盗・昏酔強盗も含みます。故意ある場合も、現在の判例・通説では本罪一罪に含まれ、強盗致傷・強盗致死・強盗傷害・強盗殺人の4類型として整理されます。そして死傷の原因は、手段説ではなく機会説が妥当ですが、密接な関連性による限定があります。
参照条文
- 刑法240条