刑法ゼロから刑法#138

強盗致死傷罪の既遂時期と241条

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第15章 個人的法益④|財産に対する罪①(総論・窃盗・強盗) ⑭/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の受けと既遂時期の問題提起

財物は奪えなかった。それでも既遂か? 図:財物は奪えなかった。それでも既遂か?

前回は、強盗致死傷罪、240条の主体と死傷の原因を見ました。では、240条の法定刑がここまで重いのはなぜだったでしょうか?240条がここまで重いのは、生命・身体という、財産より重い法益を守っているからだ、というお話でしたね。今日は、この視座を3つの場面に当てはめていきます。まず既遂時期、次に241条の強盗・不同意性交等罪、そして併発事例です。まず、既遂時期から考えてみましょう。次のような場面を考えてください。強盗に入ったところ、相手が逃げようとして転び、大怪我をしました。財物は結局奪えませんでした。

財物は奪えていないから、強盗自体は未遂ですよね。この場合、強盗致傷罪も未遂になるんですか。そこが今日の入口です。財物を奪う前に死傷結果が生じた場合、240条は未遂として扱われるのか、既遂として扱われるのか。

死傷結果基準——判例・通説

死傷結果が生じれば、財物が未遂でも本罪は既遂 図:死傷結果が生じれば、財物が未遂でも本罪は既遂

判例を確認しましょう。

判例最高裁判所判決(昭和23年6月12日・刑集2巻7号676頁)

最高裁判所判決——強盗の実行行為中の傷害と既遂 強盗に着手した者がその実行行為中被害者に暴行を加へて傷害の結果を生ぜしめた以上財物の奪取未遂の場合でも強盗傷人罪の既遂をもつて論ずべきである。

理由は、前回確認した視座と同じです。240条の刑がここまで重いのは、財産より生命・身体を重んじる条文だからです。守る対象が生命・身体である以上、既遂か未遂かの線引きも、財物の有無ではなく死傷結果が出たかどうかで決めるほうが筋が通ります。死傷結果が生じれば、財物奪取が未遂であっても、本罪は既遂になります。

243条の未遂が観念できる場合

243条は、強盗致死傷罪の未遂も定めている 図:243条は、強盗致死傷罪の未遂も定めている

さっきの結論を条文に当てはめてみましょう。

条文刑法243条

刑法243条(未遂罪) 第二百三十五条から第二百三十六条まで、第二百三十八条から第二百四十条まで及び第二百四十一条第三項の罪の未遂は、罰する。

ここで少し考えてみてください。240条は、結果について故意の無い強盗致傷・強盗致死と、故意のある強盗傷害・強盗殺人という、4つの類型を含んでいました。死傷結果が生じれば本罪は既遂になってしまうとすると、この4つのうち、未遂が実際に観念できるのはどれだと思いますか。うーん。傷害や死亡の結果が生じなかった場合は、結果自体が無いから、そもそも強盗致傷とか強盗致死とは呼べない気がします。冒頭の場面で、相手が転んでもけが一つしなかったとしましょう。財物も奪えていませんから、成立するのは強盗罪の未遂です。強盗致傷罪の未遂という独自の類型は観念できません。強盗傷害罪・強盗致死罪も同じです。結果が生じなければ、単なる強盗罪にとどまります。強盗致死罪で、死亡までは至らず、けがだけが生じたときは、強盗致傷罪の既遂になります。

犯人に殺人の故意があり、殺害行為に及んだものの、被害者が死亡しなかった場合。これだけが、243条にいう本罪の未遂、つまり強盗殺人未遂として観念できます。なぜ殺人だけなのか。殺人罪には、殺意をもって殺害行為に出れば、人が死ななくても殺人未遂として罰する、という未遂の形があるからです。その形が強盗の場面で起きたのが、強盗殺人未遂です。これに対して、傷害罪には未遂を罰する規定がありません。けがをさせるつもりで暴行して、けががなければ、成立するのは強盗罪です。この強盗殺人未遂を罰するために、243条の列挙が置かれているわけです。

脅迫による死傷結果

脅迫が原因でも、本罪は成立するか 図:脅迫が原因でも、本罪は成立するか

次は、死傷結果の原因についてです。ここまでは暴行が原因で死傷結果が生じた場合を前提にしてきましたが、犯人が手を出さず、脅すだけで強盗をしたのに相手がけがをした場合にも、本罪は成立するでしょうか。脅迫だけで直接手を出していない場合でも、判例はここでも本罪の成立を認めています。

判例大阪高等裁判所判決(昭和60年2月6日・高刑集38巻1号50頁)

大阪高等裁判所判決——脅迫による死傷結果 強盗の手段たる脅迫により被害者を畏怖させ、その結果傷害を生じさせた場合には、暴行にもとづくものでなくても、強盗致傷罪が成立する。

被害者にナイフを突きつけ、手錠でバイクに固定したうえで「倒れろ」と命じ、被害者が命じられたとおりにしなければ殺されるかもしれないと畏怖して、バイクごと転倒し負傷した、という事案です。それでも強盗致傷罪の成立が認められています。脅されて怖くなった被害者が、自分の判断で危険な行動をとって怪我をすることは、現実によくあることだからです。暴行そのものが直接の原因である必要はありません。

傷害の程度——見解の変化

「傷害」の程度をめぐる見解の変化 図:「傷害」の程度をめぐる見解の変化

もう1つ、傷害の程度について押さえておきましょう。強盗致傷罪・強盗傷害罪にいう「傷害」は、どの程度のものを指すのでしょうか。かつては、単なる傷害罪より重い傷害、目安として医者にかかる必要があるレベルの怪我でなければならない、という見解が主流でした。当時は240条前段の刑の下限が7年でしたから、酌量減軽をしても3年6か月までしか下がらず、執行猶予を付けられませんでした。軽い怪我にまで、猶予の余地が無い重い刑をあてがうのは行き過ぎだという発想から、「傷害」の範囲をあえて狭くとっていたのです。平成16年の改正で、下限が6年に引き下げられました。酌量減軽すれば執行猶予に届くようになったので、範囲を狭める必要はなくなりました。今では、通常の傷害罪と同じ意味に理解してよいという見解が有力です。

併発事例——びょう打ち銃事件

意図しなかった相手にも、結果が生じたら 図:意図しなかった相手にも、結果が生じたら

次は、併発事例です。1個の実行行為から、意図した被害者だけでなく、予期しなかった第三者にも死傷結果が生じた場合、どう処理されるでしょうか。ここで、総論で学んだ内容が生きてきます。1つの行為から複数の結果が生じたとき、行為者が認識していなかった相手にも故意が認められるかどうか、総論で法定的符合説というかたちで学びましたね。今日はその応用篇です。

びょう打ち銃事件——1個の行為から2人へ 図:びょう打ち銃事件——1個の行為から2人へ

事案を見てみましょう。警察官からけん銃を強取しようと企てた被告人が、殺害するかもしれないことを認識・認容しながら、手製の装薬銃を発射しました。弾丸は意図した警察官の体を貫通して負傷させただけでなく、さらに貫通して、たまたま近くを通行していた第三者にも命中し、負傷させました。最高裁の判断は、二段に分かれます。一つ目は、狙っていなかった通行人にも殺人の故意が認められるか。二つ目は、その通行人についても強盗殺人未遂罪になるか、です。

判例最高裁判所判決(昭和53年7月28日・刑集32巻5号1068頁)

最高裁判所判決——具体的事実の錯誤と強盗殺人未遂罪 犯罪の故意があるとするには、罪となるべき事実の認識を必要とするものであるが、犯人が認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実とが必ずしも具体的に一致することを要するものではなく、両者が法定の範囲内において一致することをもつて足りるものと解すべきである。……人を殺す意思のもとに殺害行為に出た以上、犯人の認識しなかつた人に対してその結果が発生した場合にも、右の結果について殺人の故意があるものというべきである。……被告人の右殺人未遂の所為は同巡査に対する強盗の手段として行われたものであるから、強盗との結合犯として、被告人のBに対する所為についてはもちろんのこと、Aに対する所為についても強盗殺人未遂罪が成立するというべきである。

人を殺す意思をもって殺害行為に出た以上、認識していなかった人に結果が発生した場合でも、その結果について殺人の故意が認められます。法定的符合説の考え方が、そのまま働いています。通行人は、けん銃を奪われる相手ではありませんよね。それでも強盗殺人未遂罪になるんですか。なります。判決は、その発射が警察官に対する強盗の手段として行われたことを決め手にしています。前回、死傷の原因は強盗の手段に限られず、強盗の機会に生じたもので足りる、という機会説を見ましたね。強盗の手段として撃った1発は、その機会の中でも、強盗との結びつきがいちばん強い場面です。ですから、手段説と機会説のどちらに立っても、本罪になります。判決が「手段」を挙げたのは、この事案がそれだけ強く結びついていたからで、前回退けた手段説に戻ったわけではありません。1個の発射行為から、被害者ごとに、それぞれ強盗殺人未遂罪が成立します。1個の行為から2つの罪が成立する場合ですから、罪数の処理としては観念的競合になります。1つの行為で、2人分の重い評価を受けることになるわけです。

本罪が成立するには、条件があります。この判決が判断したのは、あくまで強盗の手段として撃った1発から生じた結果です。前回見た、強盗の仲間同士がもめて一方が他方を殺した場合のように、強盗と切り離された行為から生じた死傷は、相手が誰であっても本罪にはなりません。

241条——強盗・不同意性交等罪

強盗の罪と、性的自由を侵害する罪の結合犯 図:強盗の罪と、性的自由を侵害する罪の結合犯

今日扱う3つ目の場面が、241条です。強盗という財産犯の過程で、これも財産より重い法益、つまり性的自由が侵害される事態を重く見て、強盗の罪と不同意性交等の罪を結びつけたのが241条です。今日は、241条という結合犯の構造だけを見ていきましょう。条文を見てください。

条文刑法241条

刑法241条(強盗・不同意性交等及び同致死) 1項:強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が第百七十七条の罪若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は同条の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は七年以上の拘禁刑に処する。 2項:前項の場合のうち、その犯した罪がいずれも未遂罪であるときは、人を死傷させたときを除き、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。 3項:第一項の罪に当たる行為により人を死亡させた者は、死刑又は無期拘禁刑に処する。

強盗が先で、そのあとに不同意性交等に及んだ場合はもちろん、不同意性交等が先で、そのあとに強盗に及んだ場合も、同じ1項が成立します。順序を問いません。どちらが先でも、強盗の場面で性的自由まで侵害された、という事態の重さは変わらないからです。どちらの罪についても、未遂にとどまった場合まで含めている点が重要です。強盗のほうが未遂でも、不同意性交等のほうが未遂でも、あるいは両方が未遂でも、1項は成立します。既遂・未遂の組み合わせを問わない構造です。両方の罪が未遂だった場合の扱いです。原則として刑を減軽できますが、人を死傷させたときはこの減軽ができません。ただし、自分の意思でどちらかの犯罪をやめた場合は、刑を減軽し、または免除しなければなりません。

3項も、故意ある場合を含む 図:3項も、故意ある場合を含む

3項は、1項の罪にあたる行為によって人を死亡させた場合の加重類型です。ここで、前回扱った論点を思い出してください。この3項も、「よって」という結果的加重犯を示す文言を使っていません。ですから、240条とまったく同じ構造で、殺人の故意がある場合も、この3項に含まれると解されます。

弁別パート——第15章の総まとめ

第15章を、1本の軸で見分ける 図:第15章を、1本の軸で見分ける

さて、いよいよ第15章の締めくくりです。窃盗から241条まで、この章で学んだ財産犯を、1本の軸で整理してみましょう。まず、暴行・脅迫があるか。あれば、その時点はいつか、奪取の前か後か。次に、手段の性質は何か、暴行・脅迫なのか、それとも昏酔させることなのか。そして、奪った対象は、財物か、不動産か、財産上の利益か。最後に、死傷結果が生じたかどうか。この5つの問いに沿って、順番に事例を仕分けていきます。

設例A〜D——平穏な奪取から、2項強盗まで 図:設例A〜D——平穏な奪取から、2項強盗まで

設例Aです。深夜、無人の資材置き場に忍び込み、置いてあった工具一式を黙って持ち去りました。誰とも接触していません。決め手は、暴行・脅迫が一切ない、平穏な奪取だということです。設例Bです。他人の空き地に勝手に資材を運び込んで小屋を建て、居座り続けました。客体が「財物」ではなく「不動産」そのものであることが決め手です。設例Cです。路上で刃物を示して「金を出せ」と脅し、財布を奪いました。暴行・脅迫を、財物を奪う手段として使っていますね。強盗罪1項、236条1項です。設例Dです。刃物を示して「借金を帳消しにしろ」と脅し、その場で借用書を破棄させました。

客体が財物ではなく、財産上の利益ですね。強盗罪2項、236条2項です。CとDは、どちらも暴行・脅迫を財物・利益を奪う手段として使っている点は同じですが、客体が財物か財産上の利益かで、1項と2項に分かれます。

設例E〜H——事後強盗から241条まで 図:設例E〜H——事後強盗から241条まで

設例Eです。万引きの現場を店員に見つかり、逮捕を免れるため店員を突き飛ばして転倒させましたが、怪我はありませんでした。暴行が、財物を奪ったあとに出てきていますね。事後強盗罪、238条です。決め手は、暴行が財物奪取の「後」に生じていて、目的が逮捕を免れる等の類型にあたることです。では、設例E’です。今の設例Eで、店員が転倒して骨折していたら、どうなりますか。前回確認した主体論が、ここでもう一度効いてきます。設例Fです。飲食店で相手の飲み物に睡眠薬を混ぜて眠らせ、財布を持ち去りました。抵抗を抑圧する手段が、暴行・脅迫ではなく、昏酔させることですね。昏酔強盗罪、239条です。設例Gです。相手を脅して金を奪おうとしたところ、相手が逃げようとして転んで骨折し、財物は結局奪えませんでした。

これは、今日の最初に見た設例そのものですね。財物奪取が未遂でも、死傷結果が生じていますから、強盗致傷罪の既遂です。本回の中心論点に戻ってきました。最後は、設例Hです。強盗に及んだうえで、相手に不同意性交等の罪も犯しました。こうして並べると、暴行・脅迫の有無、その時点、手段の性質、奪った対象、死傷結果の有無という1本の軸で、この章の財産犯すべてを見分けられることが分かります。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ 図:今日のまとめ

今日の内容を、整理します。既遂時期は、死傷結果が生じれば、財物奪取が未遂でも本罪は既遂となり、243条の未遂が実際に観念できるのは強盗殺人未遂の場合だけでした。241条は、強盗の罪と不同意性交等の罪の結合犯で、順序も既遂・未遂も問わず、3項も故意ある場合を含みます。併発事例は、1個の行為から複数人に死傷結果が生じれば、被害者ごとに本罪が成立します。どれも、前回確認した「財産より重い生命・身体の侵害を重く見る」という視座から、そのまま出てくる結論ですね。そして最後に、第15章全体を1本の軸で見分ける弁別パートで、窃盗から241条までを整理しました。

参照条文

  • 刑法243条
  • 刑法241条

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