刑法ゼロから刑法#126

財産犯の3つの分類軸

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第15章 個人的法益④|財産に対する罪①(総論・窃盗・強盗) ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の結びから

どちらも盗んでいる、のか 図:どちらも盗んでいる、のか

前回、財産犯に共通する客体を固めました。今日は、その客体をどう仕分けるかに進みます。まず、2つの場面を比べてみましょう。友人から預かっている自転車を、こっそり売り払う場面です。もう1つは、駐輪場に停めてある見知らぬ人の自転車を、無断で持ち去る場面です。どちらも『盗む』ように聞こえますが、法律上は別の顔をしています。何が違うんですか。そこが、今日の1つ目のテーマです。もう1つ、こんな問いも考えてみてください。価値が変わらない取引に見えても、財産犯になることがあるのか。損も得もしていないのに罪になるのかも、今日のテーマです。この2つの問いを、3つの物差しで解いていきます。1つ目は、何を奪ったかという物差しです。2つ目は、どういうつもりで、どう手に入れたかという物差しです。3つ目は、奪われたあと、財産全体がどうなったかという物差しです。

3つの物差しは、判例ではなく、通説が積み上げてきた分類です。最後に、3本の物差しを同時に当てます。財産犯の全部を、1枚の地図に落とします。

分類軸①財物罪と利得罪

財物罪と利得罪 図:財物罪と利得罪

まず、1つ目の物差しです。何を奪ったか、という物差しです。前回、財物と財産上の利益の違いを学びましたが、覚えていますか?財物は有体物で、財産上の利益はそれ以外の財産的利益、でした。この2つの客体をもとに、財産犯は3つに仕分けられます。財物を客体にする罪が、財物罪です。財物だけを客体にするのは、窃盗罪、不動産侵奪罪、横領罪、盗品等に関する罪、毀棄・隠匿の罪です。財物と財産上の利益の両方を客体にできる罪もあります。強盗罪、詐欺罪、恐喝罪です。そして、財産上の利益だけを客体にする罪が、背任罪です。ここでは罪名の単位で数えていて、246条の2のように詐欺罪の仲間として財産上の利益だけを客体にする規定は、詐欺罪の側に数えています。

⭐ 論文で書く規範:客体で財物罪と利得罪を分ける 「財物を客体とする罪が財物罪、財産上の利益を客体とする罪が利得罪である。両方を客体とする罪は、その両方にあたる。」 (規範(通説で立てる))

ここで、1つ気づいてほしいことがあります。窃盗罪には、財産上の利益を客体にする規定がありません。前回、ラーメンを食べ終えてから代金を踏み倒した例が、窃盗罪にならなかったのも、235条に財物としか書いていないからでした。もし、財物を客体とする条文しかなかったら、どうなるでしょうか。他人のサービスや権利を、だましたり脅したりして手に入れても、不可罰になってしまいます。だからこそ、利得罪という受け皿が必要になります。強盗・詐欺・恐喝・背任が、財産上の利益の侵害まで拾えるのは、そのためです。

コインパーキングで何が起きたか 図:コインパーキングで何が起きたか

実際の場面で考えてみましょう。無人のコインパーキングです。精算機の中の硬貨を、こじ開けて盗み出したとします。では、精算機を壊して、料金を払わずに車を出したら、どうでしょうか。駐車という利益は得ていますが、財物は盗んでいません。だから、この行為だけでは、窃盗罪になりません。器物損壊などの限度にとどまります。詳しい成立要件は、それぞれの罪を学ぶ回で扱います。

分類軸②領得罪と毀棄・隠匿罪

領得罪と毀棄・隠匿罪 図:領得罪と毀棄・隠匿罪

2つ目の物差しは、どういうつもりで手に入れたかです。同じ『他人の物を奪う』行為でも、法律は2つに分けます。自分の物として使ったり売ったりするつもりがある罪と、ただ壊したり隠したりするだけの罪です。

⭐ 論文で書く規範:不法領得の意思の要否で領得罪と毀棄・隠匿罪を分ける 「不法領得の意思を要する罪が領得罪、要しない罪が毀棄・隠匿罪である。」 (規範(通説で立てる))

前者を領得罪、後者を毀棄・隠匿罪と呼びます。私腹を肥やす意思があるかどうか、というくらいの見立てで、今日は十分です。たとえば、駐輪場の自転車を、自分の物にするつもりで持ち去れば、窃盗罪です。嫌がらせで、その自転車のタイヤを切り裂けば、器物損壊罪です。詳しい中身は、また別の回で扱います。この差は、法定刑にも表れます。刑の上限で比べると、窃盗罪は、10年の拘禁刑です。器物損壊罪は、3年の拘禁刑です。私利私欲のために他人の財産権を奪う行為の方が、社会的な非難が大きいからです。ただし、盗品等に関する罪と背任罪は、この2択には入れません。理由は、最後の地図のところで確かめます。

領得罪の内側——奪取罪と横領罪

奪取罪と横領罪 図:奪取罪と横領罪

冒頭の2つの場面に戻りましょう。友人から預かっている自転車を、こっそり売り払う場面。駐輪場の見知らぬ人の自転車を、持ち去る場面です。そこで効くのが、占有移転の有無です。

⭐ 論文で書く規範:占有移転の有無で奪取罪と横領罪を分ける 「占有移転を伴う領得罪が奪取罪、占有移転を伴わない領得罪が横領罪である。」 (規範(通説で立てる))

友人の自転車は、すでにあなたが預かっています。占有は、売り払う前から、もうあなたにあります。他人の占有を奪ってはいないので、これは横領罪の話です。駐輪場の自転車は、まだ持ち主の占有下にあります。それを持ち去ると、占有が移転します。これは奪取罪の話です。窃盗、不動産侵奪、強盗、詐欺、恐喝は、いずれも奪取罪です。横領罪と占有離脱物横領罪は、占有移転を伴わない側です。占有離脱物横領罪は、落とし物のように、誰の占有からも離れた物を自分のものにする罪です。奪われる占有が、そもそもありません。この線引きが、横領罪の成立要件の根っこを決めます。友人の自転車のように、横領罪は、占有を奪うのではなく、物を預けてくれた持ち主の信頼を裏切る罪だからです。この、預けた・預かったという信頼の関係を、委託信任関係と呼びます。詳しくは、横領罪を学ぶ回で扱います。

奪取罪の内側——盗取罪と交付罪

盗取罪と交付罪 図:盗取罪と交付罪

奪取罪の内側にも、もう1本、物差しがあります。占有移転が、相手の意思に反しているか、意思に基づいているかです。

⭐ 論文で書く規範:意思に反するか基づくかで盗取罪と交付罪を分ける 「占有移転が相手方の意思に反するなら盗取罪、相手方の意思に基づくなら交付罪である。」 (規範(通説で立てる))

無理やりに限りません。窃盗、不動産侵奪、強盗は、盗取罪です。相手が気づかないうちに、あるいは実力で押し切って、占有を奪います。詐欺と恐喝は、交付罪です。被害者自身が『渡す』という行為、処分行為をしています。被害者が自分から渡しているのに、なぜ財産犯になるんですか。渡すという判断そのものが、だまされたり脅されたりして、ゆがめられているからです。具体的に考えてみましょう。店員の目を盗んで商品を持ち去れば、窃盗です。店員を騙して『どうぞ』と渡させれば、詐欺です。この処分行為の有無が、詐欺罪と窃盗罪の分水嶺になります。この先、何度も出てくる見分け方です。

分類軸③個別財産と全体財産

個別財産と全体財産 図:個別財産と全体財産

3つ目の物差しは、奪われたあと、財産全体がどうなったかです。個別の財産が失われれば足りる罪と、財産全体が減ったことまで必要な罪に分かれます。冒頭のもう1つの問い、価値が変わらない取引でも財産犯になるのかを、考えてみましょう。

フリマアプリで起きたこと 図:フリマアプリで起きたこと

フリマアプリで、出品者Bが『最新モデル』と偽ったとします。中古のゲーム機を、3万円で購入者Aに売りました。実際は型落ちの旧モデルでしたが、旧モデルにも中古市場で3万円の相場価値がありました。Aの財布からは3万円が消えて、代わりに3万円相当の物を得ています。財産全体で見れば、差し引きゼロです。ですが、『最新モデルだと思って、払った3万円』という、特定の財産が欺かれて手放された。この事実そのものが、損害になります。

⭐ 論文で書く規範:財産全体の減少要否で個別財産犯と全体財産犯を分ける 「個別の財産が失われれば足りるのが個別財産に対する罪、財産全体が減少したことを要するのが全体財産に対する罪である。」 (規範(通説で立てる))

詐欺罪は、個別財産に対する罪だからです。この行為だけで、詐欺罪は成立しえます。

会社の資金が目減りするとき 図:会社の資金が目減りするとき

これに対して、財産全体まで見なければならない罪が、1つだけあります。背任罪です。会社の資金運用を任されている経理担当者Cがいます。取引先Dから、個人的なリベートを受け取ったとします。その見返りに、会社の資金を、市場価値より明らかに割高な資産に投資させました。ところが、背任罪ではそれでは足りません。財産構成が入れ替わっただけでなく、財産全体の価値が実際に目減りしていることまで必要です。理由は、条文の作りにあります。財産犯の中で、財産上の損害を加えたことを条文に書き込んでいるのは、背任罪だけです。損害が出たかどうかを確かめるには、財産全体を見ることになります。

全体財産に対する罪に当たるのは、背任罪だけです。背任罪を除く財産犯は、すべて個別財産に対する罪に当たります。この区別は、答案の結論を左右する土台になります。ここは論文で論点になりうるところなので、名前だけ押さえておいてください。詳しい中身は、詐欺罪や背任罪を学ぶ回で扱います。

一覧板——第15章・16章の地図

強盗罪は、どこに乗るか 図:強盗罪は、どこに乗るか

ここまでで、3つの物差しがそろいました。一覧板を見る前に、1つ、自分で考えてみてください。強盗罪は、この3つの物差しのどこに乗るでしょうか?財物と財産上の利益、両方を客体にできるので、財物罪かつ利得罪です。占有移転が相手の意思に反するので、奪取罪の中の盗取罪です。個別の財産を奪えば足りるので、個別財産に対する罪です。3つとも、自分で導けましたね。

第15・16章の地図 図:第15・16章の地図

財物罪と利得罪の軸、領得罪と毀棄・隠匿罪の軸、個別財産と全体財産の軸です。この3本を、全部の罪に同時に当てると、こういう地図になります。盗品等に関する罪と背任罪の2つは、領得罪か毀棄・隠匿罪かの2択に入れず、枠の外に置きました。背任罪は、任された仕事に背いて、仕事を任せた本人に、財産上の損害を与える罪です。条文が求める心の要件は、自分や第三者の利益を図るか、本人に損害を加える目的です。不法領得の意思とは、別の要件です。自分の利益を図る目的は、私腹を肥やす意思と似て聞こえます。ですが、本人に損害を加える目的だけでも、この要件は満たされます。たとえば、さっきの経理担当者Cが、リベートを受け取らず、会社に損をさせるためだけに、割高な資産に投資させた場合です。盗品等に関する罪は、ほかの人が財産犯で手に入れた物に、あとから関わる罪です。

駐輪場から持ち去られた、あの自転車で考えます。盗まれた物だと知りながら、持ち去った人から買い取れば、この罪にあたります。自転車を持ち主から奪ったのは、持ち去った人です。買った人が関わったのは、そのあとです。この罪は、持ち主の物を、直接、自分のものにしたり壊したりする罪を仕分ける2択には、そのままは乗りません。どちらも、その罪を学ぶ回で、条文の要件から確かめます。この一覧が、これから第15章、第16章で学ぶすべての罪の地図になります。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ 図:今日のまとめ

今日の内容を整理します。財産犯を仕分ける物差しは、3つでした。1つ目は、何を奪ったかという物差し。財物罪と利得罪でした。2つ目は、どういうつもりで、どう手に入れたかという物差しです。領得罪と毀棄・隠匿罪、その内側の奪取罪と横領罪、盗取罪と交付罪でした。3つ目は、奪われたあと財産全体がどうなったかという物差し。個別財産に対する罪と、全体財産に対する罪でした。

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