刑法ゼロから刑法#133

強盗罪の暴行・脅迫と反抗抑圧

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第15章 個人的法益④|財産に対する罪①(総論・窃盗・強盗) ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の受けから

2つの問い 図:2つの問い

前回で、窃盗罪の話は一区切りしました。今日からは、強盗罪に入ります。財産犯の中でも、最重要の構成要件です。1つ、考えてみてください。刃物を突きつけて、「金を出せ」と言う。これなら、強盗だとすぐに分かります。では、夜道ですれ違いざまに紐を引っ張っただけなら、どうでしょうか。うーん、ひったくりという感じがします。ひったくりは、強盗になる場合と、窃盗にとどまる場合があります。実は、暴行罪と脅迫罪の回で、予告してきたことがあります。「強盗罪の暴行・脅迫は、最も狭い意味のものだ」という話です。今日は、その”程度”の中身を開けます。どこまでの強さがあれば強盗で、どこからが窃盗や恐喝にとどまるのか。この物差しを、条文と判例で確かめていきます。

236条1項——暴行・脅迫から強取までの1本の道

暴行・脅迫、反抗抑圧、強取という3段階 図:暴行・脅迫、反抗抑圧、強取という3段階

まず、条文を確認しましょう。

条文刑法236条1項

刑法236条1項(強盗) 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期拘禁刑に処する。

財産上の利益を奪う場合は、236条2項の話になります。3段階の流れとして見てください。まず、暴行・脅迫を加える。それによって、被害者の反抗が抑圧される。その状態に乗じて、財物を強取する。この3段階が、1本の条文にあらかじめ仕組まれています。3つの罪をあわせた性質を持つ罪だと、理解してください。今日はこの先、3段階の”どこ”に着目するかで、論点が説明できることを見ていきます。

暴行・脅迫の程度——客観的基準

一般人を基準にした、客観的な物差し 図:一般人を基準にした、客観的な物差し

思い出してください。暴行罪・脅迫罪の回で見た「最狭義」、覚えていますか?相手の反抗を抑圧する程度、というものでしたね。問題は、その”程度”を、何を基準に測るかです。実は、被害者本人を基準にするという発想が、直感に反するところです。判例は、被害者の主観ではなく、客観的な基準で決めています。

判例最高裁判所判決(昭和24年2月8日・刑集3巻2号75頁)

最高裁判所判決——匕首を示して脅迫し、現金と財布を強取した事案 他人に暴行又は脅迫を加えて財物を奪取した場合に、それが恐喝罪となるか強盗罪となるかは、その暴行又は脅迫が、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであるかどうかと云う客観的基準によつて決せられるのであつて、具体的事案の被害者の主観を基準としてその被害者の反抗を抑圧する程度であつたかどうかと云うことによつて決せられるものではない。

本人を基準にすると、力の強さが同じでも、相手が臆病なら強盗、肝が据わっていれば恐喝になってしまいます。罪の重さが、たまたま出会った相手の性格で変わるのはおかしい。だから、その場の状況に置かれた一般の人を基準に測るんです。ここで、1つ考えてみてください。友人と手を組んで、相手の手首を机に押さえつけたとします。相手が本気を出しても振りほどけない、強い力だったとします。そのあとで、机の上のスマホを持っていく。これは「力で動きを封じてから、持っていった」という1つの筋の話です。逆に、押さえた力が弱かったとします。相手が本気を出せば、簡単に振りほどける程度です。

たとえ相手が驚いて動かなかったとしても、“封じた”とは呼べません。一般的に見て、その力では反抗を抑圧できないからです。この「一般的に見た力の強さ」という物差しが、この先も効いてきます。その場合は、恐喝罪の話になります。恐喝罪との詳しい境界線は、また別の回で扱います。今日は、236条の程度要件そのものが、この境界線だと理解しておいてください。

ひったくりの限界——3つの場面

力の強さで見る、3つの場面 図:力の強さで見る、3つの場面

この物差しで、ひったくりの場面を見ていきましょう。1つ目は、スリが軽くぶつかって、財物を盗む場合です。反抗を抑圧する程度の暴行とはいえません。相手を怖がらせる程度でもないので、恐喝罪にもあたりません。その後に財物をすり取れば、窃盗罪にとどまります。2つ目は、不意に、通行人を後方から突き倒して奪う場合です。反抗を抑圧する程度の暴行といえ、強盗の暴行にあたります。3つ目は、自動車の窓から、紐をつかんで引っ張る場面です。つかんで引っ張った段階では、強盗の暴行とはいいがたいところです。ただし、被害者が紐を離さなかったとします。そのまま、つかんだ状態で自動車を進行させたら、どうでしょうか。

それは、引きずられる危険が生まれます。最高裁も、手を離さなければ引きずられる段階になれば、強盗の暴行にあたる、と判断しています。力の強さという物差しが、行為の途中で変わっていく、と見るのがポイントです。

手段性——暴行・脅迫は何に向けられていなければならないか

力は、財物を奪う手段でなければならない 図:力は、財物を奪う手段でなければならない

ここまでは、暴行・脅迫の”強さ”を見てきました。もう1つ、忘れてはいけない要件があります。強盗罪の暴行・脅迫は、財物を奪う手段でなければなりません。なぜ、そんな要件が要るのでしょうか。暴行・脅迫と、財物の奪取が、たまたま重なっただけでは足りません。236条1項が定めているのは、暴行・脅迫を「用いて」強取した、という1本のつながりです。そのつながりが無ければ、暴行罪と、別の罪が並んでいるだけになってしまいます。たとえば、AがBと口論になり、腹を立ててBを殴って立ち去ったとします。そのあと、Bが落とした財布に、たまたま気づいて持ち去った場合です。

だから、強盗罪の暴行にはあたりません。暴行罪と、占有離脱物横領罪、あるいは窃盗罪が別々に成立するにとどまります。逆に、Aが最初からBの財布を奪う目的で、Bを殴り倒したとします。抵抗できなくなったBから、財布を奪った場合はどうでしょうか。こちらは、暴行が財布を奪うために向けられていますね。この場合は、強盗罪の暴行にあたります。力の強さと、財物奪取に向けられていること。この2つがそろって、初めて強盗罪の暴行・脅迫といえます。この”向けられているか”という視点は、この後、とても重要になります。今日の前半は、力の強さという物差しを見てきました。後半は、この力が財物を奪う結果に、どうつながるかを見ていきます。

強取の意義と反抗抑圧の要否

反抗抑圧が現実になくても、強盗は成立するか 図:反抗抑圧が現実になくても、強盗は成立するか

まず、「強取」という言葉の意味を確認します。強取とは、暴行・脅迫で被害者の反抗を抑圧すること。その状態に乗じて、財物を奪取することをいいます。ここで、1つ難しい問題が出てきます。反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫を、客観的には加えたとします。ですが、その被害者は、現実には反抗を抑圧されなかった場合です。怖がって財物は渡したけれど、抵抗しようと思えばできた場合ですか。そういう場面です。この場合、強盗罪は成立するでしょうか。

判例最高裁判所判決(昭和24年2月8日・刑集3巻2号75頁)

最高裁判所判決——反抗抑圧が現実になくても強盗罪は成立するか 従つて右認定事実は強盗罪に該当するものであつて、仮りに所論の如く被害者Aに対しては偶々同人の反抗を抑圧する程度に至らなかつたとしても恐喝罪となるものではない。

匕首の事件と同じ判決です。客観的基準を貫くと、当然にこの結論になります。現実に反抗が抑圧されたかどうかは、問わないということです。これに対して、通説は違う立場を採ります。通説は、①暴行・脅迫、②反抗抑圧、③財物の奪取。この因果の流れが、236条1項に予定されていると考えます。根拠は、手段性のところで見た、条文の「用いて」強取した、という言葉です。暴行・脅迫が、現実に反抗を抑圧し、その結果として財物を奪えたとき、はじめて「用いて」奪ったといえる、と読むんです。だから、②の反抗抑圧は、現実に必要だとするんです。

通説からは、強盗罪の未遂にとどまります。判例と通説で結論が違うのは、出発点が違うからです。判例は、客観的基準を貫くことを重視します。通説は、因果の流れが現実に貫徹することを重視します。

事後的奪取意思——順番が変わると、結論も変わる

先に封じたか、あとで封じたか 図:先に封じたか、あとで封じたか

もう1つ、超頻出の論点があります。暴行・脅迫のあとに、初めて財物を奪う気持ちが生まれた場合です。場面を1つ、考えてみましょう。Aが、恨みを晴らす目的で、Bを殴り倒したとします。財物を奪う気持ちは、この時点ではありません。Bが恐怖で身動きできなくなったあと、あることが起きます。Aが、Bの高価な腕時計に気づき、その時計を持ち去りました。実は、原則として強盗罪は成立しません。少し前に見た「手段性」、覚えていますか?強盗罪の暴行・脅迫は、財物を奪う手段でなければなりませんでした。Aが最初にBを殴った行為は、恨みを晴らすためのものです。財物を奪うために向けられたものでは、ありません。

先に財物を持っていって、あとで喧嘩になって押さえつけた場合。これと、実質的には同じ筋の話になってしまいます。どちらも、“押さえつける力”と”財物を取る”行為が、つながっていません。なお、取り返されないための暴行なら、事後強盗という別の罪になります。これは、別の回で扱います。窃盗罪にとどまります。ただし、ここには例外があります。Aが財物を奪う意思を生じたあと、あることをしたとします。反抗抑圧の状態を続けさせる、新たな暴行・脅迫です。その新たな暴行・脅迫を手段として、強盗罪が成立します。具体的に見てみましょう。Bが時計を取り返そうと、腕を動かしたとします。そこで、Aが改めてBの腕を強く押さえつけました。

腕を押さえ直したその力が新たな暴行にあたり、強盗罪の成立を肯定しやすい場面です。もう1つ、Aが「この時計はもらっておくぞ」と言った場合はどうでしょうか。渡さなければ、さらに何かする、という趣旨が伝われば足ります。新たな脅迫として、肯定できます。逆に、Bがすでに気絶していたり、死亡していたりした場合はどうでしょうか。その場合は、新しく力を加えることも、脅すこともできません。財物奪取に向けられた新たな暴行・脅迫を、認定できません。だから、強盗罪は成立せず、窃盗罪にとどまります。なお、被害者が死亡していた場合は、別の問題も出てきます。死者に占有が残るか、という問題です。窃盗罪の回で見たとおり、殺した本人が死亡の直後に奪えば、生前の占有が保護されて、窃盗罪になります。

強盗予備と未遂・既遂

予備、未遂、既遂という3つの段階 図:予備、未遂、既遂という3つの段階

ここからは、236条1項の因果の流れが、どこまで進んだかという話です。まず、準備の段階を見てみましょう。

条文刑法237条

刑法237条(強盗予備) 強盗の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の拘禁刑に処する。

強盗の目的で、準備行為をした段階を処罰する規定です。1つ、注意点があります。殺人予備罪などと違って、強盗予備罪には、情状による免除規定がありません。免除の規定が無いので、準用できるかどうかが、そのまま結論を左右するんです。次に、未遂です。強盗罪の未遂も罰せられます。

条文刑法243条

刑法243条(未遂罪) 第二百三十五条から第二百三十六条まで、第二百三十八条から第二百四十条まで及び第二百四十一条第三項の罪の未遂は、罰する。

235条から236条までを含む列挙が、そのことを定めています。そして、既遂の時期です。被害者の財物に対する占有を排除する。行為者または第三者が、その占有を取得する。この時点をもって、既遂といえます。これを占有取得説といいます。

判例最高裁判所判決(昭和24年6月14日・刑集3巻7号1066頁)

最高裁判所判決——事務所に押し入り事務員を縛って財物を持ち出す寸前で逮捕された事案 被告人は共犯者等と共に被害会社の事務所に押入り、居合わせた男女事務員の全部を縛つて全然抵抗し得ず奪われた物を取返し得ない状態に置き洋服類は着込み、その他の物は荷造りして持ち出すばかりにしたところを、警察隊に踏み込まれて捕縛されたのであつて、上告論旨が通説なりとするいわゆる「取得説」から言つて、既に物の支配を取得したと言い得るのであり……強盗罪についてもこの点は同様であり、論旨は理由がない。

被告人が共犯者と、被害会社の事務所に押し入りました。居合わせた事務員全員を縛って、抵抗できない状態にしました。洋服類は着込み、その他の物は荷造りをして、持ち出すだけの状態にしました。そこで、警察に踏み込まれて捕まりました。それでも、この判決は既遂を認めました。すでに、物の支配を取得したといえる、という理由です。占有を排除して、自分の支配下に置いた時点で、既遂と評価されます。なお、先ほどの反抗抑圧の要否の話も、ここにつながります。通説の立場では、被害者の反抗が現実に抑圧されなかった場合。たとえ財物を取得しても、236条1項が予定する流れを満たしません。だから、未遂にとどまります。

主観的要件

故意に加えて、不法領得の意思が要る 図:故意に加えて、不法領得の意思が要る

最後に、主観的な要件です。強盗罪も、財物を奪う罪です。構成要件的故意に加えて、不法領得の意思が必要です。権利者を排除して、自分の物として振る舞う意思と、物を経済的な用法に従って、利用・処分する意思でした。前の方は、少し借りるだけの行為を、後の方は、壊す・隠すだけの行為を、財物を奪う罪から外すための要件です。窃盗罪で見た考え方が、そのまま強盗罪にも引き継がれます。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ 図:今日のまとめ

今日の内容を整理しましょう。236条1項は、①暴行・脅迫、②反抗抑圧、③強取。この1本の因果の流れを定めた条文でした。その流れの”どこ”に着目するかで、論点が整理できる、という話でしたね。①の強さそのものを見るのが、程度論でした。一般人を基準にした客観的な物差しで決まり、ひったくりもこの物差しで線引きされました。①から③への”つながり”を見るのが、因果関係論でした。判例は客観的基準を貫き、通説は現実の反抗抑圧を必要とします。事後的奪取意思は、暴行・脅迫が財物奪取に向けられていたか。この”順番”の問題でした。

強盗予備、未遂を経て、財物の占有を取得した時点で既遂となります。236条1項という、たった1つの条文の中に、多くの問題が仕組まれていました。今日、それがつながったはずです。

参照条文

  • 刑法236条1項
  • 刑法237条
  • 刑法243条

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