刑法ゼロから刑法#148

横領罪の主体と客体・占有の意味

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第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ⑩/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

預かったカメラを質に入れたら

友人から預かったカメラ、勝手に質へ 図:友人から預かったカメラ、勝手に質へ

詐欺も恐喝も、相手の意思を歪めて占有を渡させる罪でした。今日はそこから離れて、こんな場面を考えます。友人からカメラを預かっていたとします。お金に困って、友人には黙って質屋に入れてしまいました。大事な違いがあります。カメラは、最初からずっとあなたの手元にありました。友人から奪ってはいません。占有はすでに自分にあるのに罪になるとすれば、いったい何を侵害したことになるのでしょうか。占有を奪っていないのに、罪になるんですか。なります。ただし、奪う罪とは中身が違います。今日は、任された人が裏切る罪、横領の罪の入口を見ていきます。

横領の罪、3つの地図

単純横領・業務上横領・遺失物等横領 図:単純横領・業務上横領・遺失物等横領

条文刑法253条・254条

刑法253条(業務上横領)・254条(遺失物等横領) 253条:業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。 254条:遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

横領の罪には3つあります。単純横領、業務上横領、遺失物等横領です。単純横領と業務上横領は、委託を受けて物を占有している場面を前提にします。この2つを委託物横領と呼びます。業務上横領は、その占有が業務によるものだった場合に、刑が重くなる形です。遺失物等横領は、委託を受けていない占有が前提です。拾った落とし物や、誤って配達された荷物のように、委託信任関係が無いまま手元にある他人の物を横領した場合にあたります。財産犯の全体像の回で見た、占有離脱物横領罪のことで、条文の見出しでは遺失物等横領と呼ばれています。法定刑がぐっと軽いことにも表れています。今日はまず、この3つに共通する土台を見ます。それが、奪取罪との違いです。

財産犯の全体像の回で見たとおり、占有移転を伴う領得罪が奪取罪、占有移転を伴わない領得罪が横領罪である、という関係で整理できます。窃盗や強盗、詐欺や恐喝は、占有を移す動作そのものが罪の本体でした。横領罪は、占有はすでに行為者の手元にあるところから始まります。だから、横領の罪が守っているのは占有そのものではなく、所有権と、物を預けた側との委託信任関係です。

252条を分解する——主体は誰か

自己の占有する他人の物、主体は占有者 図:自己の占有する他人の物、主体は占有者

条文刑法252条

刑法252条(横領) 1項:自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。 2項:自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。

単純横領の条文を見ます。自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する、とあります。2項は、自分の物であっても公務所から保管を命じられた場合に横領すれば同じように処罰する、という規定です。こちらは短答向けの知識として押さえておけば足ります。以下は1項を前提に見ていきます。この罪の主体は、他人の物を占有する者に限られます。行為者に一定の身分があることが、構成要件の要素になっている犯罪です。身分があってはじめて成立する犯罪なので、真正身分犯と呼ばれます。占有者という身分が無ければ、そもそも1人では正犯になれません。なぜ占有者に限るのか。この罪の中身は、任された地位を裏切ることでした。カメラを預かったあなたには裏切る地位がありますが、何も預かっていない隣の人には、そもそも裏切りようがないんです。

占有していない人が手を貸したらどうなるんですか。そこは共犯の問題になります。詳しくは、業務上横領を扱う回でまとめて見ます。今日は、主体が占有者に限られるという骨格だけ押さえてください。

客体①「物」——不動産は入り電気は入らない

動産だけでなく不動産も客体になる 図:動産だけでなく不動産も客体になる

条文刑法235条の2

刑法235条の2(不動産侵奪) 他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の拘禁刑に処する。

客体は「物」、つまり財物です。動産に限らず、不動産も含みます。窃盗罪は占有を奪う動作を前提にするので、動産に限られます。だからこそ、不動産を奪う行為を捕まえるために、不動産侵奪罪という別の条文が置かれています。横領罪は、占有を取得する態様を問いません。すでに手元にある物を裏切って処分すれば足りるので、最初から不動産も客体に含まれます。友人から管理を任されている土地を、勝手に売ってしまうような場面です。だから、横領罪には不動産だけの別条文がいらないんです。

条文刑法245条・251条

刑法245条(電気)・251条(準用) 245条:この章の罪については、電気は、財物とみなす。 251条:第二百四十二条、第二百四十四条及び第二百四十五条の規定は、この章の罪について準用する。

まず電気は財物ではありませんが、245条が、この章の罪については電気は財物とみなす、と定めています。ただし、この「この章」は窃盗・強盗の章のことです。詐欺・恐喝の章には、251条という準用規定があって、245条をそこにも及ぼしています。ところが、横領の章には、この準用規定がありません。準用規定が無い以上、横領罪の客体に電気は含まれません。電気を勝手に使い込んでも、財物を横領したとは言えないので、この罪では処罰されないことになります。

客体②「占有」——窃盗罪より広い理由

窃盗罪との対比——事実的支配に法律的支配を加える 図:窃盗罪との対比——事実的支配に法律的支配を加える

一度、窃盗罪の占有を思い出してみましょう。覚えていますか?刑法上の占有が認められるには、事実上の支配という客観的要件と、財物を支配する意思という主観的要件が必要で、その有無は社会通念にしたがって総合的に判断する、というものでした。横領罪の占有は、これより広くなります。事実的支配に加えて、法律的支配も含むんです。たとえば、不動産の登記名義人や、銀行預金の名義人も、横領罪との関係では占有者にあたります。横領罪の占有要件が求めているのは、処分できる地位です。窃盗罪は占有そのものを守る罪でした。だから、実際に手に持っているかどうかが問題になります。横領罪は、任された地位を濫用する罪です。実際に手に持っていなくても、登記や名義のうえで自由に処分できる地位にあれば、その地位を裏切ることができてしまいます。だから、法律的支配も占有に含めるんです。

預金の名義人には、法律上いつでも払戻しを受けられる地位があります。だから、預金名義人が委託の趣旨に反してそのお金を処分すれば、横領罪の占有者として扱われます。逆に、名義人以外の人が窓口をだまして預金を引き出すような場面では、占有は銀行の側にあって、預金名義人にはありません。同じ銀行預金でも、誰が占有者かは場面によって変わります。店の売上金を持ち出した場合は、任され方で分かれます。レジ打ちだけを任されたアルバイトなら、窃盗罪の回で見たとおり、上下関係のある店では、占有は上位の店主にあって、店員は店主の占有を手伝うだけの占有補助者にすぎません。持ち出せば窃盗です。これに対して、店主から店長として売上金の管理を全面的に任されている人なら、占有はその人自身にあるので、持ち出せば横領です。占有がどちら側にあるかを見極めることが、窃盗と横領の分かれ目です。冒頭のカメラに戻ると、あなたは何も奪っていません。それでも罰されるのは、友人から任された、処分できる地位を裏切ったからです。ここは、論文で論点になりうるところです。

委託信任関係——252条と254条の分かれ目

委託に基づく占有か、占有を離れた物か 図:委託に基づく占有か、占有を離れた物か

もう1つ、252条には条文に書かれていない要件があります。占有が委託信任関係に基づいていることです。なぜ書かれていない要件を足すのか。裏切ったと言えるためには、その前に「信頼して任せた」という関係が無ければならないからです。冒頭のカメラでいえば、友人が「預かっておいて」と頼んだ、その約束が委託信任関係です。委託に基づかない占有もあるんですか。あります。誤って配達された荷物や、道で拾った落とし物のように、委託を受けたわけではないのに手元にある他人の物です。この場合は、252条ではなく、さっき見た254条、遺失物等横領罪の問題になります。委託信任関係があるかどうかが、この2つの条文の分かれ目です。委託が無い分、裏切る信頼もそもそも無いので、254条の法定刑はぐっと軽くなっています。

委託信任関係が生まれる原因は、契約が典型ですが、それだけではありません。頼まれていないのに、他人のために事務を引き受ける事務管理のほか、慣習や条理によっても生まれるとされています。たとえば、留守中の隣人に届いた荷物を代わりに受け取って保管しておく場面です。頼まれてはいなくても、隣人のために預かっているという関係が生まれます。

物の他人性の入口——金銭の3つの型

封金・消費寄託・使途限定、金銭の3類型 図:封金・消費寄託・使途限定、金銭の3類型

客体には、もう1つ要件があります。「他人の」物であることです。所有権が自分以外にあることが必要です。この他人性が問題になる典型が、金銭です。3つに分けて考えます。1つ目は、封をしたまま預かった金銭、封金です。封がしてあって、中身をそのまま返す約束なので、金銭の所有権は預けた人のもとに残ります。だから、封金ごと持ち去れば横領罪の他人の物にあたります。封を破って中身だけ抜き取れば、窃盗罪の回で見た、封をした荷物と同じ理屈で、こちらは窃盗になります。2つ目は、消費寄託契約に基づく場合です。民法666条にあるとおり、同じ種類・品質・数量の物を返せばよいという約束で金銭を預かると、その金銭の所有権自体は預かった側に移ります。銀行にお金を預けるのが、この典型です。だから他人の物にはあたりません。この場合は、横領ではなく、任務に背いて財産上の損害を与える背任の問題になりえます。

3つ目は、使途を定めて金銭を預かった場合です。民法の考え方だと、お金は1枚ごとに見分けがつかないので、持っている人の物として扱われます。そうしないと、受け取ったお金が本当に相手の物か、いちいち確かめなければならず、取引が止まってしまうからです。ですが、それは見知らぬ相手とお金をやりとりする場面を守るための考え方です。友人から「この3万円で、来週の旅行の宿代を払っておいて」と預かったお金を、自分の買い物に使ってしまった場面を考えてください。ここで守るべきなのは、預けた友人の「この目的にだけ使う」という支配のほうです。横領罪は、預けた人と預かった人の内側で所有者を守る規定なので、民法の考え方がそのまま当てはまるわけではありません。だから、判例・通説は、このお金も他人の物にあたると解しています。

判例最高裁判所第二小法廷判決(昭和26年5月25日)

使途を限定して預けた金銭は他人の物にあたる かように使途を限定されて寄託された金銭は、売買代金の如く単純な商取引の履行として授受されたものとは自らその性質を異にするのであつて、特別の事情がない限り受託者はその金銭について刑法二五二条にいわゆる「他人ノ物」を占有する者と解すべきであり、従つて、受託者がその金銭について擅に委託の本旨に違つた処分をしたときは、横領罪を構成するものと言わなければならない。

判例は、使途を限定して預けられた金銭を、単純な商取引の代金とは性質が違うものとして扱い、受託者を他人の物の占有者と見ています。だから、委託の趣旨に反して勝手に処分すれば、横領罪が成立します。ここは、金銭の他人性という形で、論文でも問われる部分です。

今日の地図(保存版)

3つの横領・主体・客体を一枚で 図:3つの横領・主体・客体を一枚で

覚えるポイント — 横領罪①のまとめ

  • 全体地図=252・253は委託物横領/254は委託関係なし
  • 主体=占有者という真正身分犯
  • 客体・物=不動産も含み電気は含まれない
  • 客体・占有=事実的支配+法律的支配(窃盗罪より広い)
  • 委託信任関係=占有が委託に基づくことが必要
  • 他人性=金銭は封金/消費寄託/使途限定の3類型

今日を振り返ります。冒頭の問い、何を侵害したのかの答えは、任された地位への裏切りです。守られているのは、所有権と、物を預けた側との委託信任関係でした。横領の罪は、奪取罪と違って、占有がすでに行為者の手元にあるところから始まります。単純横領と業務上横領は委託物横領、遺失物等横領だけは委託関係がありません。主体は他人の物の占有者に限られる真正身分犯です。客体である物は、動産だけでなく不動産も含みますが、電気は準用規定が無いので含まれません。客体である占有は、事実的支配に加えて法律的支配も含み、処分できる地位そのものを問題にする点で、窃盗罪の占有より広くなっています。その占有は委託信任関係に基づくことが必要で、無ければ254条の問題になります。そして、他人の物にあたるかどうかは、金銭の場面では封金・消費寄託・使途限定の3類型で判断します。

参照条文

  • 刑法253条・254条
  • 刑法252条
  • 刑法235条の2
  • 刑法245条・251条

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