横領罪の横領行為・不法領得の意思・既遂時期
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第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ⑫/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
預かった時計を川に捨てたら
図:同僚から預かった腕時計を、腹いせに川へ捨てた
前回までで、横領罪の客体、つまり何が「他人の物」になるかが決まりました。今日はその先、どんな行為をすると「横領した」になるのかを見ます。設例です。同僚のAさんから、修理に出してほしいと腕時計を預かったBさんが、ケンカの腹いせに、その時計を川へ捨てました。利用も換金もしていない処分でも横領になるか、が問いです。窃盗罪なら、もっぱら壊す目的では不法領得の意思が欠けて、窃盗にはなりませんでした。では、預かった物を捨てた場合はどうでしょうか。答えを先に言うと、判例の考え方では横領になります。理由は、窃盗と横領で不法領得の意思の中身が違うからです。
「横領した」とは何をすることか
図:領得行為説と越権行為説——毀棄・隠匿と一時使用で見る
横領罪の条文は「横領した者」としか書いていません。ここで、判例・通説は「横領」を、不法領得の意思を実現する一切の行為だと解します。領得行為説と呼ばれます。具体的には、売却、贈与、貸与、質入れ、抵当権の設定、費消、返還拒否など、所有者でなければできない扱いです。売却や質入れ、抵当権設定は法律上の処分、預かった金を使う費消や、物を壊す捨てるは事実上の処分です。預かった自転車を友人に貸すのも、所有者だけができる扱いなので入ります。これに対して、雨の日に持ち主の家まで自転車を運ぶ行為は、任務の範囲内で、横領ではありません。窃盗の回で見た、返すつもりで短い間だけ使う使用窃盗と、混同しないでください。横領でも、所有者のように振る舞う意思、つまり権利者排除意思にあたる部分は要ります。ごく短時間の軽微な使用は、所有者でなければできない処分とまでは言えず、否定されえます。友人への貸与は、物を自分の手から離して所有者のように扱う処分なので、横領です。これと対立する考え方に、越権行為説があります。委託された権限を超える行為をすれば、それが横領だとする学説です。
両説の結論が分かれるのは、2つの場面です。1つ目は、壊す、隠す目的の処分です。越権行為説は権限を逸脱していれば足りるので横領を認めます。領得行為説も、判例は利用処分意思、つまり窃盗の回で見た、物を経済的に利用・処分する意思を要しないので認めますが、利用処分意思も必要とする見解なら否定します。2つ目は、返すつもりで頼まれた範囲を超えて使う、一時使用です。越権行為説は権限逸脱だけで横領を認めやすく、領得行為説は領得の意思がないとして否定しうる。領得行為説がとられる理由は、権限を超えただけで横領だとすると、返すつもりの軽い一時使用まで横領罪になり、処罰が広がりすぎるから、と説明されます。だから、「不法領得の意思とは何か」が横領の成否を決めます。そこを次に見ます。
横領罪の不法領得の意思——利用処分意思は要らない
図:窃盗と横領の不法領得の意思を比べる
その前に、窃盗のときに見た不法領得の意思は、何と何の組み合わせでしたか?使用窃盗を外すための権利者排除意思と、毀棄・隠匿罪を外すための利用処分意思、の2つでした。横領では、この2つのうち、利用処分意思のほうが要りません。まず判例の言葉を確認します。
判例最高裁判所第三小法廷判決(昭和24年3月8日)・刑集3巻3号276頁
横領罪における不法領得の意思 横領罪の成立に必要な不法領得の意志とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意志をいうのであつて、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではなく、又占有者において不法に処分したものを後日に補填する意志が行為当時にあつたからとて横領罪の成立を妨げるものでもない。
読み方の要点は3つです。物を持っているのは自分。その持ち方は、任されたものであること。そして、任された範囲を超えて、本来は所有者にしかできない処分をする意思があること。自分がもうけるつもりかどうかは問わない、という意味です。窃盗との違いはその先にあります。窃盗の定式にあった、物を経済的な用法に従って利用・処分する意思が、ここでは要求されていません。決め手は、罪が守ろうとしているものの違いです。窃盗は、他人が持っている物を奪う罪なので、単に壊しただけの場合は毀棄罪との線引きが必要でした。横領は、任された地位を裏切る罪です。住人から荷物の保管を頼まれた管理人が、預かった荷物を自分では使わずに捨てたとします。使わなかったとしても、信頼を裏切った点は、使った場合と変わりません。
冒頭のBさんは、預かった時計を、所有者でなければできない捨てるという処分をしました。しかも、Aさんから頼まれた修理という任務に背いています。よって横領罪が成立します。反対の意見もあるんですか。あります。奪取罪と同じに解する見解です。横領は利欲犯、つまり利益を得ようとする犯罪だから、利用処分意思も必要だと考えます。この見解だと、Bさんの捨てる行為は、横領罪ではなく、器物損壊罪の問題になります。ただ、判例・通説は、横領で守ろうとするものが、物を利用して得をされることではなく、任せた相手への信頼だと考えます。そこで、毀棄も横領になります。
⭐ 論文で書く規範:【論文で書く規範】横領罪の不法領得の意思 他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思 (規範(判例型・最判昭24・3・8)——窃盗と違い、利用処分意思は要しない)
ここは論文で論点になりうるところです。では、この規範を、具体的な事案に当てて、輪郭を確かめます。
図:横領になる・ならない——任務に背いているか、所有者のように処分したか
1つ目は、冒頭の時計を川へ捨てた場合で、さっき見たとおり横領です。2つ目は、預かった商品を勝手に売って、その代金を自分では使わず、全額寄付した場合です。自分の利益にしていませんが、判旨の言うとおり、利益を得ることは必要ではありません。売るという所有者にしかできない処分をして、任務にも背いているので、横領です。3つ目は、持ち主から「壊れているから処分してほしい」と頼まれて、時計を捨てた場合です。頼まれた範囲の処分なので、任務に背いていません。捨てるという同じ行為でも、横領にはなりません。4つ目は、盗まれないよう、預かった時計の置き場所を移しただけの場合です。所有者でなければできない処分とは言えないので、これも横領ではありません。
答案でも、事案の行為が任務に背いているかと、所有者のような処分かを、規範に当てはめて書きます。
使い込んでも横領にならない場合——一時流用
図:町内会の会計係が、預かった積立金を旅行代に使う
逆の場面です。前回までに見たとおり、使途を定めて預かった金銭は他人の物です。では、預かった金を使ってしまえば、いつでも横領でしょうか。設例です。町内会の会計係のBさんが、町内会の宿代にと預かった積立金の一部を、自分の旅行代に使いました。まず、さっきの判例の続きを見てください。後日に補填する意志が行為当時にあったからといって、横領罪の成立は妨げられない、とありました。ただの「あとで返すつもり」は足りません。判旨が言っているのは、意思だけの場合です。そのうえで、通説は、使った時点で確実に埋め合わせる意思と能力の両方があれば、横領にあたらないと考えます。所有者のように、その金を自分のものにしてしまう意思とは言えないからです。さっき、返すつもりの一時使用は領得行為説なら否定しうると言いました。ここが違います。時計なら、少し使っても同じ物が戻りますが、お金は使えばその場で無くなります。だから、返すつもりだけでは足りず、確実に戻せる状態まで要るわけです。
図:填補の意思と能力——両方揃ったときだけ横領にならない
4つの場合を比べます。1つ目、Bさんに定期預金があり、その日のうちに確実に元へ戻すつもりで使った。填補の意思も能力もある場合で、横領にはあたりません。2つ目、取引先からの入金を待って戻すつもりだが、今は手元に原資がない。意思はあっても能力がないので、横領にあたります。判旨の言う、後日に補填する意志だけの場合が、これです。3つ目、預金は十分あるが、戻す気は最初からない。能力はあっても意思がないので、これも横領です。4つ目は、意思も能力もない場合で、当然に横領です。決め手は、任せた側から見た危険です。戻せる原資が無い、または戻す気が無いなら、預けた側は現実に金を失う危険にさらされます。両方が揃っているときだけ、その危険が無く、所有者としての処分とは言えないわけです。横領罪が守るのは、任せた物を確実に戻してもらえるという信頼なので、その危険が無ければ、裏切りとまでは言えません。
「取引先の入金が遅れただけで、月内には返せるはずだった」なら、どうですか。通りません。判断する時点は、使った時点です。後でお金が入る予定があっても、使った時点で確実に戻せる状態でなければ、能力があるとは言えません。冒頭の時計のように、壊して戻せない行為とは違い、戻せる状態が確実にある場面だけが例外になります。
いつ既遂になるか
図:窃盗は取りに行く途中から、横領は最初から手元にある
最後に、いつ既遂になるかです。判例は、次のように言います。
判例最高裁判所第二小法廷判決(昭和27年10月17日)・集刑68号361頁
横領罪の成立時期 横領罪は自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を外部に発現する行為があつたときに成立するものである。そしてその不法領得の意思を発現する行為は必ずしもその物の処分のような客観的な領得行為たることを要せず、単に領得の意思をもつて為した行為たるをもつて足るのである。
要点は、領得の意思を外部に発現する行為があれば、その時点で成立する、ということです。売却の引渡しや代金の受領といった、行為の完成を待ちません。つまり、直ちに既遂になります。発現行為って、決意しただけでも入るんですか。違います。心の中で決めただけでは足りません。この判例の事案では、保管許可の申請を頼まれて預かった刀剣を、警察官に贈与するつもりで、期日までに手続をせず、自分の物として、預かっていた場所にそのまま置いておきました。頼まれた手続をしないという外に現れた行為が、発現行為にあたりました。対比すると、預かった刀剣を贈るつもりだと、心の中で思っているだけなら、まだ横領ではありません。手続をせず自分の物としてそのまま置いておけば、その時点で横領です。
横領罪には未遂を罰する規定がありません。そもそも、占有が最初から自分の手元にあるので、取りに行く途中という段階がありません。発現行為があれば、その時点で既遂と考えるので、未遂を考える余地がないわけです。ただし、不動産の二重譲渡、つまり同じ不動産を2人に売ることや、抵当権の設定については、有力な見解があります。これは「発現行為で直ちに既遂」の例外ではなく、不動産では契約を結んだだけでは発現として不十分で、登記の完了をもって発現行為と見る、という位置づけです。契約だけではまだ所有権を失わせる危険が具体化していないからです。二重譲渡が成立するかどうか自体は、別の回で扱います。
図:不実の仮登記——仮登記をした時点で成立
この既遂時期が問われた事案があります。和解で他人に所有権が移った建物を預かり保管していた者が、登記名義がなお自分の会社のままなのを利用して、不実の抵当権設定仮登記をしました。原状回復にかこつけて、解決金を得ようとしたものです。仮登記とは、本登記の前に、順位だけを先に押さえておく仮の登記です。不実とは、中身が真実と違う、という意味です。
判例最高裁判所第二小法廷決定(平成21年3月26日)・刑集63巻3号291頁
不実の抵当権設定仮登記 不実とはいえ,本件仮登記を了したことは,不法領得の意思を実現する行為として十分であり,横領罪の成立を認めた原判断は正当である。
決定は、「既遂」という言葉は使っていません。仮登記をしたことが、不法領得の意思を実現する行為として十分だと述べて、横領罪の成立を認めています。登記が完了するまで待つ見解と、ぶつからないんですか。ぶつかりません。仮登記も登記簿に載る以上、所有者としての処分が外に現れています。しかも仮登記には、順位を守る力があります。あとで本登記をすると、順位は仮登記をしたときまでさかのぼります。だから、仮登記の後に本当の持ち主が建物を売ったり担保に入れたりしても、この抵当権が先に立ち、持ち主は建物の値打ちを削られてしまいます。契約を結んだだけなら、登記簿には何も現れず、この力もありません。ここが、契約だけでは足りず、仮登記なら足りる境目です。
整理板——横領の成否を判断する流れ
図:「横領した」かどうかを判断する流れ
覚えるポイント — 横領の判断の流れ
- 横領=不法領得の意思を実現する一切の行為(領得行為説)
- 不法領得の意思=任務に背いて所有者でなければできない処分をする意思(利用処分意思は不要)
- 一時流用=使った時点で確実な填補の意思と能力が両方あれば横領にならない
- 既遂=発現行為で直ちに(未遂規定は無い)
- 不動産=登記完了説が有力・不実の仮登記は仮登記時点で成立
まとめます。冒頭の問いの答えは、預かった時計を腹いせに捨てれば横領になる、でした。理由は、横領罪が守ろうとするのが、物を使って得をされないことではなく、任された地位の裏切りだからです。横領罪の行為は、所有者でなければできない処分を、任された地位を裏切ってすること、と言い直せます。窃盗の不法領得の意思と違って、利用処分意思は要りません。ただし、使った時点で確実な填補の意思と能力があるなら、一時流用として横領にはなりません。既遂時期は、発現行為の時点です。未遂を罰する規定はなく、不動産でも、不実の仮登記のように所有者としての処分が外に現れれば、その時点で成立します。