業務上横領罪・占有離脱物横領罪
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第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ⑭/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
預かったお金を使い込んでも、条文は変わる
図:預かった物を使い込んだ二人と、鞄を持ち帰った一人
前回までで、横領罪の基本形である252条が固まりました。今日は、その上と下に付く2つの条文を見ます。設例です。Aさんは、旅行に出る友人から荷物を一晩だけ預かり、それを売ってしまいました。Bさんは、保険代理店で毎月保険料を集金して預かる担当者で、集めたお金を使い込みました。Cさんは、電車の網棚に置き忘れられた鞄を、そのまま持ち帰りました。三人とも、条文が違います。分かれ目は、預かることが仕事かどうか、そして、そもそも預かる約束があったかどうかです。今日は、それを言えるようになります。
業務上横領罪は、二重の身分
図:253条は、252条に「業務上」が付いた形
まず条文です。
条文刑法253条
刑法253条(業務上横領) 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。
252条1項と読み比べてください。違いは「業務上」の一語だけです。法定刑は、252条が5年以下、253条が10年以下の拘禁刑と、倍になります。このように、基本の犯罪に、重くなる事情を付け足した犯罪を、加重類型と言います。預かることを仕事にしている人は、他人から物を任される立場に、繰り返し立っています。周りは、その人を信用して預けます。その信用を裏切る度合いが大きく、非難も強くなる、と考えられています。任された地位を裏切る罪、という横領罪の見方を、そのまま強めた形です。主体の身分を整理します。身分には2種類あります。その身分がなければ犯罪そのものが成立しないのが真正身分、成立はするが刑の重さが変わるだけなのが不真正身分です。第一に、占有者という身分。占有者でなければ横領罪は成立しないので、真正身分です。第二に、業務者という身分。業務者でなくても252条が成立し、業務者だと刑が重くなるので、不真正身分です。253条は、この二つの身分が重なった、二重の身分の犯罪です。
253条の業務は、預かることが仕事の中身
図:3つの「業務」の対比
253条の「業務」は、他人から預かった物を保管することが、仕事の中身になっている職務だと解されています。211条、233条と234条、253条の業務には、共通点があります。どれも、社会生活上の地位に基づいて、繰り返し行う事務であることです。何度もおこなった実績は要らず、繰り返し行うつもりで始めれば、1回目から当たります。ただ、その事務の中身は、条文が守るものに合わせて変わります。211条では、生命や身体に危害を及ぼすおそれのある事務でした。233条と234条では、危険性は要らず、社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務で、私的な家事や娯楽は含まれません。253条では、他人の物を預かって保管する事務です。ですから、運転を仕事にしている人は、211条の業務者ではあっても、荷物を保管する仕事をしていなければ、253条の業務者ではありません。逆に、倉庫会社の保管担当は、危険性を伴わなくても、253条の業務者です。同じ言葉でも、条文ごとに別の概念として読みます。典型例は、荷物を預かる運送会社の従業員、質屋の店主、示談金を預かった弁護士、会社のお金を保管する経理担当者です。報酬があるかどうか、本業か兼業かは、問いません。
Aさんは、一度きりの預かりで、この先も繰り返し預かるつもりはないので、業務とは言えません。252条にとどまります。保険料を毎月集金するBさんは、預かることが仕事の中身なので、253条です。1つ、間違えやすいところです。会社の金庫からお金を持ち出した社員は、業務上横領になるでしょうか。金庫のお金を、委託を受けて預かっていたのでなければ、横領ではありません。その社員は、会社の占有する物を取ったので、窃盗の問題です。物を扱う仕事をしていることと、委託を受けて預かっていることは、別のことです。
部外者が加わったら
図:運送会社のドライバーと、部外者の知人
部外者の話に入る前に、前回の復習です。横領罪の主体は、他人の物を占有する者に限られる身分犯でした。占有していない人が共犯になれるのは、どの条文のおかげでしたか?前回出てきた、65条1項です。身分のない人でも、身分犯に加功したら共犯になる、という条文でした。条文を、もう一度出します。
条文刑法65条
刑法65条(身分犯の共犯) 1項:犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。 2項:身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。
設例です。運送会社のドライバーのAさんが、預かった荷物を、取引先でも従業員でもない知人のBさんと示し合わせて売り払いました。Bさんは、占有者でも業務者でもありません。Bさんの罪名と、科される刑は、どうなるでしょうか。占有者は1項、業務者は2項と、身分ごとに分ける読み方が、素直に見えますね。実は、65条の一般論では、判例も、罪を作る身分は1項、刑を動かす身分は2項と分けて、罪名と刑をずらしません。共犯と身分の回で見た、判例・通説の読み方です。ところが、業務上横領のこの場面だけは、判例は罪名と刑を分けて決めます。罪名は1項で、刑は2項です。まず判例を見ます。
判例最高裁判所第三小法廷判決(昭和32年11月19日)・刑集11巻12号3073頁
業務上横領と身分のない者 被告人両名はかかる業務に従事していたことは認められないから、刑法六五条一項により同法二五三条に該当する業務上横領罪の共同正犯として論ずべきものである。しかし、同法二五三条は横領罪の犯人が業務上物を占有する場合において、とくに重い刑を科することを規定したものであるから、業務上物の占有者たる身分のない被告人両名に対しては同法六五条二項により同法二五二条一項の通常の横領罪の刑を科すべきものである。
この事案では、村長と助役が、村の寄附金を業務上保管していた収入役と共謀して、そのお金を横領しました。村長と助役は、業務上の占有者ではありません。判旨の流れを、設例に当てはめます。Bさんは業務に従事していませんが、65条1項により、253条の業務上横領罪の共犯が成立します。そのうえで、253条は業務上物を占有する場合に特に重い刑を科す規定ですから、Bさんには65条2項により、252条1項の通常の横領罪の刑が科されます。判例は、業務上の占有者という身分を、253条という一つの罪を作る、一つの身分としてまとめて扱います。こう整理すると分かりやすいです。253条の業務は、預かって保管することそのものでした。占有と業務が一つの地位に重なっていると見れば、分けずに、罪を作る身分として1項に当て、罪名は253条になります。一方で、判旨のとおり、253条は業務上の占有者に特に重い刑を科す規定でもあります。刑を重くする部分は刑を動かす身分の働きなので、その部分だけを2項で外し、252条の刑に落とすのです。これに対して、判例と対立する考え方があります。この考え方は、占有者の身分は真正身分なので1項を、業務者の身分は不真正身分なので2項を当て、Bさんを単純横領罪の共犯とします。判例自身の一般論、罪名と刑をずらさない読み方を、そのまま253条にも当てたものです。一般論では分けないのに、ここだけ分けている判例を、この考え方は、身分を二つに割れば分ける必要はない、と批判します。
図:身分のある者と、ない者の結論
結論を表にします。罪名は、判例では業務上横領、対する考え方では単純横領と違います。ただ、Bさんに科される刑は、どちらでも252条の刑で同じです。罪名と科刑が分かれるのが、この場面の特徴です。逆に、Bさんが組んだ相手が、友人の荷物を一晩預かっただけのAさんなら、業務者の身分はそもそもありません。Bさんは65条1項で252条の共犯になり、罪名と刑はずれません。罪名と刑が分かれるのは、相手が業務上の占有者のときだけです。
⭐ 論文で書く規範:【論文で書く規範】業務上の占有者に加功した非占有者 非占有者が業務上の占有者と共同して横領した場合は、65条1項により業務上横領罪(253条)の共犯が成立するが、業務者という身分のない者には、同条2項により単純横領罪(252条1項)の刑を科す。 (規範(判例))
ここは論文で論点になりうるところです。
占有離脱物横領罪の客体
図:占有を離れた他人の物
下の条文に移ります。
条文刑法254条
刑法254条(遺失物等横領) 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
条文の見出しは遺失物等横領ですが、講学上は占有離脱物横領罪と呼びます。遺失物と漂流物は例示にすぎず、もっと広い物が対象だからです。この罪は、預かる約束、つまり委託信任関係がない場合の受け皿で、横領の罪で最も軽く処罰されます。対象は、占有者の意思に基づかずに占有を離れた他人の物です。その中身は、二つあります。まず、誰の占有にも属していない物。道に落とされた財布のように、持ち主の手を離れ、管理者もいない物です。次に、委託関係に基づかずに、行為者の占有に入った物です。ここで一度止めて考えてください。誤って自宅に配達された荷物を、開けてそのまま使った人は、252条と254条のどちらでしょうか。分かれ目は何でしょうか。
荷物は自分の手元にありますが、誰かに預けられたわけではありません。だから、254条だと思います。分かれ目は、委託によって手元に来たのか、たまたま来たのかです。誤配は、横領の最初の回でも見たとおり、誰にも預かる約束をされていないので、254条です。もう一つの例が、つり銭です。買い物で、多すぎるつり銭を渡されたとします。その場で多いと気づいたのに、黙って受け取れば、告げるべきことを告げない、不作為による欺罔になり、詐欺罪の問題です。帰宅してから多いことに気づいて、そのまま使えば、254条です。事後に気づいた点が、分かれ目になります。
落とし物なら、いつでも誰の占有にも無い、とは限りません。占有を離れたように見えても、なお他人の占有が及んでいる物は、254条の対象ではなく、窃盗になります。旅館のトイレに忘れられた財布は、旅館の主人の占有が及んでいる、と考えられています。占有の有無は、窃盗の占有と同じ物差しで、事実上の支配と支配する意思を、社会通念で総合して判断します。もう一つ、意思に基づいて離れた物は、そもそも対象外です。自分から預けたのなら、預かった人の252条か253条になります。
窃盗か、横領か、占有離脱物横領か
図:2段ふるい
物が手に入ったとき、どの罪になるかを、二つの問いで振り分けます。
条文刑法235条
刑法235条(窃盗) 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
1つ目の問いは、占有は誰にあるか、です。他人の占有下にある物を取れば、窃盗です。自分の占有にあるか、誰の占有にもない場合は、2つ目に進みます。2つ目の問いは、委託信任関係があるか、です。あれば252条、業務なら253条。なければ254条です。順番は、占有、次に委託です。他人の占有を破って取るのが窃盗で、10年以下と重く処罰されます。252条は、占有は破りませんが、任された信頼を裏切るので5年以下です。254条は、誰の占有も破らず、誰の信頼も裏切らないので、1年以下と最も軽いのです。だから、まず重い窃盗に当たるかを占有で外し、残った物を、委託があるかで横領の中に振り分けます。事例で確かめます。その順で考えてください。友人に頼まれて預かった荷物を売れば、占有は自分にあり、委託もあるので、252条です。運送会社で預かった荷物を配達員が売れば、仕事として預かっているので、253条です。
誤配の荷物は、手元には来ていますが、預かる約束はありません。委託が無いので、254条です。帰宅後に気づいたつり銭を使った場合も、同じ理由で254条です。では、商店街の共用ベンチに置き忘れられた財布です。持ち主が遠く離れてしまってから、通りがかりの人が持ち帰れば、持ち主の占有はもう及んでいないので、254条です。持ち主がすぐ近くにいて、戻れば見つかる状態で持ち去れば、占有が及んでいるので、窃盗です。貸し会議室の管理人が管理している部屋に、利用者が忘れた物を、第三者が持ち去れば、管理者の占有が及んでいるので、窃盗です。死者が持っていた財物は、死者の占有の回で見た結論だけ押さえます。殺したあとで初めて奪う気になった場合、判例・多数説は、殺した犯人自身が、死亡と時間的にも場所的にも近い範囲で奪うときに限って、生前の占有をなお保護し、窃盗とします。この二つの条件のどちらかを欠けば、無関係の第三者が奪った場合も、殺した本人が時間をおいて奪った場合も、占有離脱物横領です。冒頭のCさんも、この順で決まります。網棚の鞄に持ち主の占有がもう及んでいなければ窃盗ではなく、預かる約束もないので254条です。分かれ目は、占有が誰にあるか、そして預かる約束があるか、預かることが仕事か、でした。
占有離脱物横領罪の行為と既遂時期
図:既遂・事後の処分・錯誤・255条
最後の段階です。行為は、横領です。既遂の基準は、252条と同じです。横領の行為と既遂の回で見たとおり、領得の意思を外に表す行為、つまり発現行為があった時点で、直ちに既遂になります。254条では、不法領得の意思を持って、その物を自分の事実上の支配内に置けば、それが発現行為になり、その時点で既遂です。届けるつもりで拾ったのなら、拾った時点では領得の意思がないので、まだ発現行為がありません。あとで自分の物にしようと決めて、隠したり、売ったりすれば、それが発現行為になり、その時点で既遂です。見るのは、発現行為がいつあったか、この一点だけです。領得した後に、その物を使ったり、壊したり、売ったりしても、別の罪は成立しません。持ち主の所有権を、254条で、すでに侵害した範囲を超えないので、不可罰的事後行為になります。窃盗との錯誤は、錯誤の回で見たとおり、どちらも他人の物を自分の物にする点で重なり合うので、軽い254条の限度で成立します。窃盗のつもりで実は占有離脱物だった場合も、その逆の場合も同じです。最後に、255条です。親族間の特例である244条は、配偶者や同居の親族などの間なら刑を免除する、といった特例でした。255条は、これを252条から254条まで全部に準用します。
今日の地図(保存版)
図:横領5部作のまとめ
まとめます。冒頭の問いの答えは、委託があるかどうか、預かることが仕事かどうか、でした。友人の荷物を売ったAさんは252条、保険料を使い込んだBさんは253条、鞄を持ち帰ったCさんは、持ち主が遠く離れていれば254条です。3つの条文は、任された信頼を裏切る度合いで並びます。上が253条、真ん中が252条、下が254条です。253条は、占有者と業務者の二重の身分の犯罪で、業務は、預かることが仕事の中身であることを指します。211条や234条の業務とは、別の概念として読みます。部外者が加わったら、判例は65条1項で業務上横領の共犯、2項で252条の刑です。窃盗との振り分けは、占有は誰にあるか、次に委託があるか、の2段です。これで、横領の罪の全体がそろいました。
参照条文
- 刑法253条
- 刑法65条
- 刑法254条
- 刑法235条