刑法ゼロから刑法#153

背任罪の主体と背任行為

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第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ⑮/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

二重抵当も、任された仕事の裏切りも

物を預かってもいない二つの場面 図:物を預かってもいない二つの場面

設例を二つ出します。一つ目です。抵当権とは、借金の担保として土地に付けておき、返してもらえなければ、その土地を売ったお金から優先して回収できる権利です。Aさんは、Bさんからお金を借りて、自分の土地に抵当権を設定する約束をしました。登記とは、土地の権利を国の帳簿に載せる手続きです。ところが、Bさんの登記が済まないうちに、同じ土地にCさんのためにも抵当権を設定しました。先に登記を済ませたのはCさんで、Bさんの担保は2番目の順位に落ちました。二つ目です。会社から仕入れの交渉を任された担当者が、取引先に得をさせるために、わざと相場よりずっと高い値段で買う契約を結びました。

預かった他人の物を使い込む罪である横領罪は、この二つでは成立しません。それでも、この二人は罰せられる可能性があります。今日の問いは、物を預かっていないのに、あるいは自分の物なのに、なぜ罰せられうるのか、です。答えは、任された信頼を裏切って、相手の財産に損害を与えたからです。それを罰するのが、247条の背任罪です。

横領には、二つの穴がある

横領罪が届かない二つの場面 図:横領罪が届かない二つの場面

横領罪を思い出します。252条は、自己の占有する他人の物を横領する罪でした。守っているのは、預かった物そのものです。だから、二つの場面が抜け落ちます。一つ目は、物を預かっていない場面です。仕入れの担当者が扱っているのは、交渉と契約という仕事で、預かった物ではありません。占有する物がないので、横領の要件が欠けます。二つ目は、自分の物の場面です。土地に抵当権を設定しても、土地は依然として設定者のAさんの物のままです。252条は客体を他人の物としているので、自分の物には横領罪は成立しません。二重売買の回で、二重抵当が横領にならない理由として見たのが、これでした。横領罪の1回目で、同じ額を返せばよい約束で預かったお金、つまり消費寄託のお金は、預かった側の物になるので、横領ではなく背任の問題になりうる、と見ました。これも二つ目の穴です。背任になるかは、今日見る主体の要件で決まります。

ですから、見る場所を変えます。物ではなく、事務を任された人が、その信頼を裏切ることを見る条文です。まず条文を読みます。

条文刑法247条

刑法247条(背任) 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

読み方の要点です。「本人」とは、事務を任せた側の人です。仕入れの例では会社、二重抵当ではBさんです。事務を任された人が、任務に背く行為をして、本人に財産上の損害を加えると、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金になります。

条文の言葉が示す4つの性格

247条の言葉と性格の対応 図:247条の言葉と性格の対応

条文の言葉を、性格に結びつけます。四つあります。一つ目は、主体です。「他人のためにその事務を処理する者」でなければ、背任罪は成立しません。その身分がなければ犯罪そのものが成立しないので、真正身分犯です。横領罪の占有者と同じ型です。二つ目は、「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で」という部分です。故意に加えて特別の目的が要るので、目的犯と呼びます。仕入れの担当者で考えます。同じ高値の契約でも、取引先に得をさせたい、会社に損をさせたい、という目的がなければ、この点で背任になりません。三つ目は、「本人に財産上の損害を加えた」です。損害という結果が条文に書き込まれています。財産全体が減ったことを要するので、全体財産に対する罪です。目的と損害の中身は、別の回で扱います。四つ目は、故意犯であることです。過失を罰する規定はないので、うっかり会社に損害を与えても、背任罪にはなりません。

背任罪の位置と、横領との違い

横領罪と背任罪の対比 図:横領罪と背任罪の対比

位置に入る前に、財産犯の分類を思い出す、1問です。財産全体が減少したことを要する、全体財産に対する罪に当たるのは、財産犯の中でいくつの罪でしたか?背任罪だけ、でした。詐欺も横領も、個別の財産が奪われれば足ります。背任だけが、財産全体の減少を見ます。この違いを、横領と並べます。背任罪の247条は、刑法典の第37章「詐欺及び恐喝の罪」の中にあります。横領罪の第38章ではないので、六法の目次で背任を探すときは、詐欺の章を見てください。信頼の裏切りという点は横領と重なりますが、財産上の利益を客体にする点では、詐欺の側と並びます。詐欺罪の回で見たとおり、詐欺罪には、財産上の利益を得る2項がありました。背任罪は、財産犯を仕分けた回で見たとおり、財物ではなく財産上の利益だけを客体にする罪です。そのうえで、詐欺とも違い、財産全体の減少を見ます。例えば、返済の見込みが乏しい相手に、十分な担保もなく貸し付けたとします。貸主の手元の現金は、返してもらう権利、つまり債権に姿を変えます。その債権の価値が下がれば財産全体は減りますが、物が奪われたわけではありません。物を軸にした横領では、こういう損は拾えません。

主体その1——「事務」とは何か

「事務」の三つの問い 図:「事務」の三つの問い

主体を、二つの角度から見ます。一つ目の角度は、「他人のためにその事務を処理する者」の、「事務」です。一つ目の問いは、どんな事務でもよいのか、です。背任罪は財産犯なので、守られるのは本人の財産です。だから、事務は財産上の事務に限られる、と解されています。園児の見守りを任された保育士は、見守りを怠っても、背任罪にはなりません。任された内容は園児の安全で、本人の財産ではないからです。ほかの罪の問題にはなりえても、背任の問題ではありません。一方、会社の支払い管理を任された経理担当者は、財産上の事務を処理する人です。任務に背けば、背任罪の検討に入ります。二つ目は、裁量の余地のない事務も含むか、です。裁量とは、状況を見て、どうするかを自分で決められる幅のことです。有力説は、ある程度包括的で裁量のある事務に限り、物を見張るような機械的な事務は含まない、とします。これに対して判例は、裁量の余地のない事務も、事務に含めて考えます。次の事案で確かめます。株式会社の代表取締役だった被告人は、相互会社から融資を受け、担保として、会社の株式を目的とする質権を設定して、株券を相互会社に渡しました。質権とは、借金の担保として物を預け、返せなければそこから回収できる権利です。ところが被告人は、返済期を過ぎても返さず、会社の利益を図る目的で、株券をなくしたという嘘の理由で、除権判決を申し立てました。除権判決とは、なくした株券を無効にする裁判です。それを得て株券を失効させ、質権者に損害を加えました。

担保に渡した株券を、なくしたと偽った 図:担保に渡した株券を、なくしたと偽った

判例最高裁判所決定(平成15年3月18日)

質物の株券を失効させた質権設定者 株式を目的とする質権の設定者は,株券を質権者に交付した後であっても,融資金の返済があるまでは,当該株式の担保価値を保全すべき任務を負い,これには,除権判決を得て当該株券を失効させてはならないという不作為を内容とする任務も当然含まれる。そして,この担保価値保全の任務は,他人である質権者のために負うものと解される。したがって,質権設定者がその任務に背き,質入れした株券について虚偽の申立てにより除権判決を得て株券を失効させ,質権者に損害を加えた場合には,背任罪が成立するというべきであるから,

判旨は、裁量の有無には触れていません。ただ、担保価値を保全する任務には、失効させないという単純な不作為も含まれ、それは他人である質権者のための任務だとして、背任罪の成立を認めました。条文も、事務を裁量のあるものに限っていません。手を出さないだけの任務でも、破れば本人の財産は同じように傷つきます。裁量で絞る考え方には、ただの約束違反まで背任に広げたくないという心配があります。けれども、その心配には、次に見る「他人のため」の要件で応えられます。自分の債務を怠っただけの人はそこで外れるので、裁量で絞らなくても、処罰が広がりすぎることはありません。ですから、裁量の余地がなくても、他人の財産を守る任務なら、事務にあたると押さえてください。三つ目は、事実行為です。契約のような法律行為でなくても、現実に事務を担っていれば足ります。背任が守るのは、本人が財産を任せた信頼です。その信頼は、契約を結ぶ仕事にも、お金や物を実際に扱う仕事にもあり、正式な肩書きがあるかどうかでは変わりません。大審院の判例には、正式な収入役ではなく、事実上、収入役の代理を務めていた人を、背任の主体とした例があります。収入役とは、かつて市町村の会計を担当していた役職です。

主体その2——「他人のため」と二重抵当

自分の事務か、他人の事務か 図:自分の事務か、他人の事務か

二つ目の角度は、「他人のため」です。事務は、他人のための事務でなければなりません。自分の事務を怠っても、背任にはなりません。例えば、物を買った買主が代金を払わないのは、自分の債務の不履行にすぎず、民事の問題です。では、冒頭の二重抵当です。図に整理します。

同じ土地に、二人へ抵当権を設定した 図:同じ土地に、二人へ抵当権を設定した

Bさんの抵当権は、契約が先でも、登記が後です。ここで、民法の結論を一つ確認します。

条文民法177条

民法177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件) 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

抵当権も不動産に関する物権なので、登記が対抗要件になります。対抗要件とは、二重売買の回で見たとおり、登記が無いと、後から来た人に権利を主張しても負ける、ということです。さらに373条は、同じ不動産に数個の抵当権があるとき、順位は登記の前後による、と定めています。契約の先後ではなく登記の先後なので、Cさんが1番、Bさんが2番です。順位が後ろだと、土地を売ったお金は先に1番のCさんが受け取り、Bさんは残りからしか回収できません。抵当権を設定する契約には、登記に協力する義務が含まれます。問題は、この義務が、Aさん自身の義務にすぎないのか、Bさんのための事務なのか、です。

登記協力は、誰のための義務か 図:登記協力は、誰のための義務か

否定説は、契約で負った自己の義務にすぎない、と考えます。代金を払う義務と同じ型だという見方です。肯定説は、登記に協力する任務は、主として相手方、つまり抵当権者の財産権を守るためのものだ、と考えます。判例は肯定説で、答案もこちらで書きます。代金を払う義務と、登記に協力する義務の分かれ目は、その義務で守られるのが誰の財産か、です。登記は、設定者の協力がなければ、抵当権者が一人では完成させられません。Aさんが協力して初めて、Bさんの権利は登記で守られます。この関係の中で負う任務なので、主としてBさんの財産を守るためのものだ、と見るのです。代金を払う義務は、ここが違います。買主が差し出すのは自分のお金で、売主の財産を預かって守っているわけではありません。これに対して、抵当権は、契約でもうBさんの財産になっています。Aさんは、その他人の財産を登記で完成させて守る役目を任されているのです。判例です。二重に根抵当権を設定した事案で、被告人は、登記の義務は自分固有の事務で、他人の事務ではないと争いました。根抵当権とは、一定の範囲の取引から生じる債権を、限度額まで担保する抵当権です。

判例最高裁判所判決(昭和31年12月7日)

二重の根抵当と登記協力の任務 抵当権設定者は…これを完了するまでは、抵当権者に協力する任務を有することはいうまでもないところであり、右任務は主として他人である抵当権者のために負うものといわなければならない。

設定者は、登記を完了するまでは抵当権者に協力する任務を負い、その任務は主として他人である抵当権者のために負う、と答えました。先ほどの質権の判例と同じ筋です。担保を設定した側は、担保権者の財産を守る任務を、他人のために負います。この判決は、一番抵当権を二番抵当権にしたことも、247条の損害にあたると述べています。順位が落ちると、先ほど見たとおり、Bさんは残りからしか回収できず、担保の値打ちそのものが下がります。

⭐ 論文で書く規範:【論文で書く規範】二重抵当と「他人のため」 抵当権設定者は、抵当権設定の登記を完了するまでは、抵当権者に協力する任務を有し、その任務は主として他人である抵当権者のために負うものである。 (規範(判例))

ここは論文で論点になりうるところです。これで、二重抵当がなぜ背任になるかが言えます。横領では、自分の物なので客体の要件で落ちました。背任が見るのは物ではなく主体なので、自分の物でも、他人のための事務を処理する者なら拾えます。横領では客体の要件で落ち、背任では主体の要件で拾える、と覚えてください。

「任務に背く行為」と3つの説

契約を結ぶ人と、物を守る人 図:契約を結ぶ人と、物を守る人

次は、247条の行為、「任務に背く行為」です。背任行為とも言います。意義には多くの見解がありますが、押さえるのは三つです。例えば、二人の社員で考えます。Dさんは購買担当で、冒頭の仕入れ担当者と同じ立場です。会社を代理して契約を結ぶ、法的な代理権を持っています。Eさんは倉庫の保管担当で、代理権はなく、商品を守るのが仕事です。Dさんは会社に不利な高値の契約を結び、Eさんは商品をわざと壊しました。最初の説は、権限濫用説です。背任行為を、法的な処分権限、つまり代理権の濫用と考えます。Dさんの高値の契約は、代理権の濫用にあたります。ここで一度止めて考えてください。Eさんが商品をわざと壊したことは、代理権の濫用といえるでしょうか。権限濫用説は、Eさんを背任で拾えるでしょうか。

商品を壊すのは、契約を結ぶことではなくて、ただの事実行為です。代理権を使ったわけではないので、拾えないと思います。権限濫用説では、法的な代理権のある人しか主体にならず、Eさんのような事実行為は拾えません。範囲が狭すぎることが難点です。そこで、範囲を広げる説が出ます。背信的権限濫用説は、法的な代理権に限らず、事実上の事務処理権限の濫用まで含めます。保管を任された人が、その立場を利用して商品を壊すことも、事実上の権限の濫用として拾えます。有力説で、答案で採ってもかまいません。ただ、この説は、任された権限の範囲内で濫用すれば背任、範囲を超えれば横領、と分けることになります。すると、今日の二重抵当のAさんは、任された範囲を超えた行為に見えるのに、土地は自分の物なので横領にもならず、どちらでも拾えなくなります。三つ目が、背信説で、判例・通説です。背任行為を、権限の濫用と見ず、信任関係に違背して財産を侵害することと見ます。法的な代理権の有無を問わないので、Eさんも拾えます。決め手は条文の言葉です。247条は、権限を濫用し、ではなく、任務に背く行為、と書いています。権限があるかではなく、任された信頼に背いたかを見るのが、条文に素直です。二重抵当のAさんも、登記に協力する任務に背いた、と言えれば足りるので、背信説なら拾えます。

3つの説の比較 図:3つの説の比較

二つの物差しで比べます。法的な代理権のない人も主体になるか、事実行為を拾えるか、です。権限濫用説だけが、どちらも認めません。背信的権限濫用説と背信説は、どちらも拾えます。

⭐ 論文で書く規範:【論文で書く規範】任務に背く行為の意義 任務に背く行為とは、信任関係に違背して、本人の財産を侵害する行為をいう。 (規範(判例・通説)——背信説)

当てはめると、Dさんは代理を任された信頼に背いて高値で買い、Eさんは保管を任された信頼に背いて商品を壊しました。どちらも会社の財産を侵害しているので、任務に背く行為です。ここは論文で論点になりうるところです。

今日の地図(保存版)

背任罪①のまとめ 図:背任罪①のまとめ

まとめます。冒頭の問いの答えは、任された事務での信頼の裏切りを、247条の背任罪が拾うから、でした。247条は、真正身分犯、目的犯、全体財産に対する罪、そして故意犯です。置かれているのは、第37章の詐欺及び恐喝の罪です。背任の主体は、人から任された事務を、その人のために処理する立場の者です。事務は財産上の事務で、裁量の余地がなくても、事実行為でも含まれます。他人のための事務であることは、二重抵当で問題になり、判例は登記に協力する任務を、抵当権者のための任務としました。だから自分の物の二重抵当も、横領では客体で落ち、背任では主体で拾えます。行為は、背信説で、信任関係に違背した財産侵害です。目的と財産上の損害の中身は、別の回で扱います。

参照条文

  • 刑法247条
  • 民法177条

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