背任罪と横領罪の区別
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第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ⑯/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
背任か、業務上横領か
図:銀行の金を、友人に貸した支店長
前回は、背任行為を背信説で答えると見ました。信任関係に違背した財産侵害です。そして、背信的権限濫用説では同じ土地に抵当権を二重に付けた、二重抵当の設定者を拾えないが、背信説なら拾える、という結論でした。今日は、その続きです。設例です。銀行の支店長が、回収できないと分かっていながら、銀行のお金を、銀行の名義で、友人に貸しました。貸付を任された支店長が、その任務に背いたのですから、背任罪に見えます。一方で、支店長は銀行のお金を保管する立場でもあり、預かったお金を勝手に使ったのですから、業務上横領罪にも見えます。
決め手は、財物を自分のものとして扱ったかどうか、です。今日はその分かれ目と、背任行為の具体例を見ます。
背任行為の具体例
図:背任行為の典型例
背任行為の具体例です。どの例にも共通するのは、本人の財産を守る任務を負った人が、その任務に背いて、本人の財産に穴をあけることです。五つの類型を、なぜ任務違背になるのかを添えて見ます。まず、不良貸付です。銀行の融資担当者が、経営の行き詰まった取引先に、担保もとらず追加で貸す場合です。貸付は、返してもらえることを前提に任されています。回収の見込みがないと知りながら貸すのは、その前提に背くので、任務違背です。背任の最も典型的な例で、冒頭の支店長の貸付もこれです。次に、粉飾決算です。経理を担当する取締役が、赤字の決算書を黒字に書き換えて、出してはいけない配当を出したとします。決算書を正しく作ることが任務なのに、偽って会社の財産を外へ流したので、任務違背です。三つ目に、債務負担行為です。本人に債務を負わせる行為をいいます。会社の代表者が、会社の名で、会社と関係のない友人の借金の連帯保証をした例があります。会社は返済を迫られる立場になります。会社の利益のために結ぶはずの契約を、無関係な他人のために結んだので、任務違背です。
債務を負っただけで、現金が出ていなくても、会社は将来払う義務を抱えます。財産の状態としては、すでに悪くなっています。ここでは、契約を結ぶ行為も背任行為になりうる、と押さえてください。
図:背任行為の典型例②
四つ目は、取締役が会社と取引する、自己取引です。取締役が、自分の持ち物を会社に相場より高く売ったとします。会社法356条1項2号は、取締役が自己又は第三者のために会社と取引をしようとするときは、株主総会で重要な事実を開示し、承認を受けなければならないと定めています。取締役会を置く会社では、この承認は取締役会で受けます。会社の利益を守る立場なのに、自分の利益と会社の利益がぶつかる取引をしているので、承認を受けずに会社に損害を加えれば、任務違背となり、背任になりえます。五つ目は、事実行為です。契約のような法律行為ではない、現実の行為をいいます。倉庫の冷蔵設備の保守を任された社員が、わざと設定を狂わせて、在庫の商品をだめにする例があります。また、開発担当者が、新製品の設計データのように財産的価値のある秘密を、競合他社に渡す例もあります。どちらも、会社の財産や秘密を守る任務に背いています。横領罪の回で、預かった腕時計を川へ捨てるのは横領だと見ましたが、あれは自分が預かっている物を、所有者のように処分したからです。この保守担当の社員は、在庫の商品を預かっているわけではないので、横領の主体になれません。それでも、任された保守に背いて会社の財産を傷つけているので、背任です。
契約でない事実行為も、背任行為に含まれます。理由は、前回の背信説です。背任行為は、信任関係に違背した財産侵害でした。任された信頼に背いて本人の財産を傷つけたかを見るので、契約などの法律行為に限りません。短答では、背任行為は法律行為に限られるか、と問われます。背信説では、事実行為も含まれるので、限られない、が正解です。権限濫用説だと事実行為は拾えませんが、背信的権限濫用説と背信説なら含まれます。秘密の漏示が背任になるのは、財産的価値のある秘密に限ります。背任罪は、本人の財産を守る罪だからです。単に知られたくない話を漏らしただけでは、財産の侵害になりません。ここは、典型が不良貸付で、事実行為も含まれる、と押さえてください。
横領との区別が問題になる場面
図:事務処理者と占有者の重なり
区別が問題になるのは、どんなときかを絞ります。条文を二つ確認します。
条文刑法247条
刑法247条(背任) 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
条文刑法253条
刑法253条(業務上横領) 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。
背任の主体は、他人のためにその事務を処理する者です。業務上横領の主体は、業務上、他人の物を占有する者です。二つの立場が、同じ人に重なると、どちらの条文にも当たります。重ならない場合は、区別の問題は起きません。仕入れを任されただけで、物を預かっていない担当者は、背任しかありえません。二重抵当のように自分の物への行為は、他人の物ではないので横領にならず、背任だけです。問題になるのは、他人のための事務処理者が、同時に他人の財物の占有者でもある場合です。支店長は、貸付の事務を任されていて、銀行のお金を業務上保管してもいます。だから、背任にも業務上横領にも当たりえます。
刑の重さも違います。背任は5年以下の拘禁刑か、50万円以下の罰金、業務上横領は10年以下の拘禁刑です。どちらで処理するかで結論が大きく変わるので、基準が要ります。基準は、学説で二つあります。
基準A——権限の濫用か逸脱か
図:基準A・濫用か逸脱か
まず基準Aです。背信的権限濫用説から出る考え方で、事実上の事務処理権限の濫用にとどまれば背任、権限を逸脱すれば横領、と分けます。濫用は、任された権限の範囲内で悪く使うこと、逸脱は、その範囲を超えることです。具体例を二つ並べます。一方の例は、貸付の権限を持つ支店長が、規程で決められた貸付の枠の中で、返済の見込みのない友人に貸した場合です。貸すこと自体は任された仕事の範囲内なので、濫用にとどまり、背任と読めます。もう一つは、同じ支店長が、保管している金庫の現金を持ち出して、自分の借金の返済に充てた場合です。支店長が任されているのは、銀行のために貸すことと、銀行のために保管することで、自分のために使うことは、任された仕事の範囲を超えています。逸脱なので、横領と読めます。この二例では、基準Aはうまく働きます。では、二重抵当ではどうでしょう。Aさんが、Bさんに自分の土地の抵当権を設定して、登記に協力する約束をしました。ところがAさんは、その登記をしないまま、同じ土地にCさんの抵当権も設定してしまいました。前回見たとおり、Aさんは、登記を終えるまで、主としてBさんのために協力する任務を負うので、他人のための事務処理者です。任されているのは、その登記への協力です。ここで一度止めて考えてください。この行為は、権限の濫用でしょうか、逸脱でしょうか。基準Aだと、どの罪に回ることになるでしょうか。
逸脱と見るのが素直です。ところが、そこで壁に当たります。この土地はAさん自身の所有物で、他人の物ではありません。252条も253条も、客体は他人の物です。横領に回されたのに、横領も成立しない、という穴です。逸脱だから横領へ、でも自分の物だから客体を欠く、と三段で覚えてください。前回、背信的権限濫用説では二重抵当の設定者を拾えない、と見たのは、この三段のことでした。基準Aの弱点は、横領に回すか背任にとどめるかを、権限の範囲という形式的な線だけで決めてしまう点にあります。二重抵当は、背任として処罰したいのに、基準Aだと入口が閉じます。前回、背信的権限濫用説は、背任行為の意味としては答案で採ってもかまわない有力説だと見ました。けれども、横領との区別にこの濫用か逸脱かの線を使うと、二重抵当で穴が空きます。区別の答案では、次の基準Bを使います。ここは論文で論点になりうるところです。
基準B——財物の領得行為か、その他の背信行為か
図:基準B・入れ子の関係
基準Bに入る前に、1問です。前に横領罪を見ましたが、思い出してください。横領罪の横領とは、何を実現する行為でしたか?領得行為説でした。領得とは、権限がないのに、所有者でなければできない処分をすることで、自分が得をしたかは問いません。今日、財物を自分のものとして扱う、と言っているのは、この意味です。基準Bは、この領得行為説と、背信説を組み合わせます。横領も、預かった物を任せた人の信頼に背く点で、背信行為の一種です。そこで、背信行為全体を大きな輪、その中で、財物を領得する行為を小さな輪で表します。小さな輪の中が横領です。輪の外側、つまり、財物の領得ではない背信行為が、背任です。基準Bの言い方は、財物についての領得行為なら横領、その他の背信行為なら背任、です。同じ支店長の設例で、輪の内と外を見ます。例えば、支店長が、保管している銀行の現金、1,000万円を、自分の借金の返済に使ったとします。このお金は、支店長が自分のものとして使ったのですから、財物についての領得行為です。小さな輪の中で、業務上横領です。対して、支店長が、銀行のための融資として、銀行の名義と計算で、その1,000万円を友人に貸したとします。お金が支店長の手を離れて他人に渡る点は、先の例と同じです。けれども、貸したのは銀行の貸付という本人のための形で、支店長は財物を自分のものとして扱っていません。横領罪の回で、預かった物を友人に貸すのも横領だと見ましたが、あれは自分の物のように貸したからです。銀行の貸付として貸すのは、本人に代わって本人の財産を動かすことで、所有者としての処分ではありません。領得ではない背信行為なので、輪の外側の帯、背任です。
見るのは、誰の手に渡ったかではなく、支店長が財物を自分のものとして処分したかどうかです。自分の返済に使えば自分のものにした、銀行の貸付として動けば自分のものにしていない、という違いです。二重抵当は、外側の帯、背任です。土地を自分のものにしたわけではなく、もともと自分の土地に、先に設定した人に対して不利益な形で、抵当権という負担を重ねたからです。財物の領得ではない、その他の背信行為に当たるので、背任で処理できます。主体の要件は、前回見た登記協力の任務で満たしています。基準Bが決めるのは、その背信行為が、横領と背任のどちらの輪に入るかです。基準Aでは穴が出た二重抵当が、基準Bでは収まります。この差が、答案でBを採る決め手です。
⭐ 論文で書く規範:【論文で書く規範】横領罪と背任罪の区別 背信行為のうち、財物についての領得行為が横領罪、その他の背信行為が背任罪になる。 (規範(学説)——背信説と領得行為説から導く)
出どころは、条文ではなく学説です。背信説と領得行為説の二つから導く解釈で、条文を読み上げても出てきません。だから規範として、文言を覚えます。ここは論文で論点になりうるところです。
判例の目印——名義と計算
図:二つの判例の対比
判例は、基準Aと基準Bのどちらを採るかを、言葉にしてはいません。ただ、不良貸付の場面では、結論に目印があり、その目印は、あとで見るとおり基準Bで説明できます。本人の名義かつ計算で貸したなら背任、自己の名義または計算で貸したなら横領、とみえるのです。名義とは、誰の名で契約したか、計算とは、その取引の損得が誰に帰属するか、です。事案を二つ見ます。村長の事案は、村長が、自分が保管する村の公金を、村の計算で第三者に貸し付けたというものです。大審院は、背任として処理しました。収入役の事案は、村の収入役が、自分が保管する村の公金を、村の名義ではなく、自分の名義で第三者に貸し付けたというものです。こちらは、業務上横領の成立を認めました。二つの事案は、公金の保管者が、その公金を第三者に貸したという点で、そっくりです。分けたのは、誰の名義で、誰の計算で貸したか、という点でした。村長は村の計算で、収入役は自分の名義で貸しています。
対応は、村長が村の計算で背任、収入役が自己の名義で業務上横領、です。人物ではなく、名義と計算で覚えてください。なぜ、名義と計算が分かれ目になるのか。基準Bで説明できます。本人の名義かつ計算で貸せば、貸した金を返してもらう権利、つまり返還請求権は本人に帰属します。本人の利益になる形で動いているので、財物を自分のものにしたとは言えず、その他の背信行為として背任です。反対に、自己の名義で貸せば、返してもらう権利は、表向き自分に帰属します。自己の計算で貸せば、利息などの損得が自分に帰属します。どちらも、本人のお金を、自分の取引として動かしたことになります。これは所有者でなければできない処分なので、財物の領得行為として横領です。
名義と計算は、横領か背任かの定義ではありません。本体は基準Bで、領得行為かどうかを見分ける手がかりが、名義と計算です。実際の不良貸付の判例は、この手がかりに沿って結論が分かれているように見えるので、目印と呼びます。答案では、目印を先に書くのではなく、基準Bで規範を立て、あてはめで名義と計算に触れます。支店長の設例に戻ります。銀行の名義で、銀行の計算で貸した支店長は、背任です。同じ支店長が、自分の名義で貸し、利息も自分の懐に入れていたなら、自分のものとして処分した領得行為なので、業務上横領です。
今日の地図(保存版)
図:背任罪②のまとめ
まとめます。冒頭の問いの答えは、銀行の名義と計算で貸した支店長は背任、でした。背任行為の具体例は、不良貸付、粉飾決算、債務負担行為、取締役の自己取引、設備の設定をわざと狂わせて在庫をだめにする行為や秘密の漏示のような事実行為です。背信説なので、契約に限りません。区別の答案の手順は三つです。一つ目に、行為者が、他人のための事務処理者かを確かめます。二つ目に、同時に、他人の財物の占有者かを確かめます。両方に当たると、背任と業務上横領が競合します。三つ目に、その行為が財物についての領得行為かを見ます。領得行為なら横領で、そうでなければ、その他の背信行為として背任です。基準Aは、濫用なら背任、逸脱なら横領ですが、二重抵当が逸脱として横領に回り、自分の物で客体を欠くという難点があります。基準Bは、二重抵当も背任で処理できます。答案は基準Bです。判例の目印は、本人の名義かつ計算なら背任、自己の名義または計算なら横領です。
参照条文
- 刑法247条
- 刑法253条