器物損壊・境界損壊・信書隠匿と毀棄罪の弁別
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ㉑/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
自分の物を壊して、罪になる?
図:二つの問い・壊した車と動かした杭
前回、毀棄や損壊の物差しを決めました。物の効用を害する一切の行為、つまり、その物が本来の役目を果たせなくなることです。今日は、この物差しで、毀棄及び隠匿の罪の残りを見ます。問いを二つ出します。一つ目。Aさんは、借金の返済が滞り、自分の車を差押えられました。その後、腹立ちまぎれに、自分の手で車を壊して、動かなくしました。自分の物を壊しただけです。罪になるでしょうか。二つ目。隣の土地との境に、安物の杭が打ってあります。この杭を、こっそり数メートル、隣の側へ動かしました。杭は1本も壊れていませんし、値打ちも小さい杭です。器物損壊罪は、3年以下で、告訴が要ります。それと比べて、この行為は軽いでしょうか、重いでしょうか。
どちらも、直感の逆になります。ヒントだけ出します。どちらの場面でも、守られているのは「物」そのものではありません。その物に乗っている、他人の権利です。今日はこの1本の筋で、条文を順に並べていきます。
毀棄及び隠匿の罪の全体
図:258〜264条を「守るもの」で並べる
刑法の第40章、毀棄及び隠匿の罪を、守るものの違いで並べます。前回見た258条、259条、260条は、公務所の文書、権利義務の文書、建造物でした。今日の4条は、他人の物すべて、他人の権利が乗っている自分の物、土地の権利関係、信書、です。264条は、どの罪が親告罪かを決める規定です。前回の物差しを、一言で呼び戻します。壊すか、隠すか、汚すか、方法は問いません。その物が本来の役目を果たせなくなれば、損壊です。今日の条文でも、この意味のまま使います。
器物損壊罪——261条
図:刑法261条
まず、原則規定の261条です。条文を読みます。
条文刑法261条
刑法261条(器物損壊等) 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
前の三条、つまり258条、259条、260条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、または傷害した者は、3年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、または科料です。位置づけは、こうです。文書と建造物は、前回見た258条から260条が先に拾います。そこから漏れた他人の物は、すべてここに入ります。だから、毀棄・隠匿の罪の原則規定であり、試験でも最も出やすい条文です。前回の文書の振り分けで、最後に残った出口は、この261条でした。「他人の物」の「他人の」は、その物が他人の所有に属する、ということです。占有ではなく、所有で見ます。行為は、損壊または傷害です。損壊の意味は前回のとおりです。動物の場合は傷害と呼びますが、中身は同じで、動物の効用を害する行為です。殺したり傷つけたりする場合に限りません。壊れていなくても損壊になる場面を、三つの型で押さえます。
図:損壊の3類型
一つ目は、心理的に使えなくする型です。他人が使う湯のみに、放尿したとします。洗えば、物としては使えます。しかし、そのあとで、その湯のみに口を付けたいと思う人は、まずいません。感情のうえで、使えなくなっています。物の効用は、物理的に使えるかだけでなく、普通の人が普通に使えるか、でも見ます。二つ目は、持ち主の手の届かないところへ出してしまう型です。他人が魚を養殖している池の水門を開けて、魚を川へ流したとします。魚は、死んでもいませんし、傷ついてもいません。でも、持ち主は、魚を捕まえて売ることができなくなりました。魚は動物なので、この場合は「傷害」と呼びます。殺傷でなくても、傷害です。三つ目は、隠匿です。同僚が作業で使っている道具を、資材庫の奥に隠したとします。道具は無傷ですが、同僚は使えません。物を壊さなくても、使えなくすれば損壊です。1問です。隠した行為は、窃盗にもなりえます。窃盗と261条は、何で分かれるのでしたか?
隠すときに、あとで売ったり、自分で使ったりするつもりなら、利用処分意思があるので窃盗です。もっぱら隠して使えなくするだけなら、利用処分意思がないので、261条です。ここで、刑の重さも確認します。窃盗は10年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金です。261条は3年以下です。ずっと軽いのは、自分の得にしようとする動機、つまり利欲犯的な性格がないからでした。261条は、親告罪です。告訴がなければ、公訴を提起できません。範囲の全体は、264条のところでまとめます。
自己の物の損壊等——262条
図:刑法262条・4つの状態
冒頭の一つ目に入ります。自分の物を壊して、罪になるのか。条文です。
条文刑法262条
刑法262条(自己の物の損壊等) 自己の物であっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、又は配偶者居住権が設定されたものを損壊し、又は傷害したときは、前三条の例による。
自己の物であっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、または配偶者居住権が設定されたものを、損壊し、または傷害したときは、前三条の例による、です。前三条とは、259条、260条、261条のことです。条文の「例による」は、その三条の罪と同じ扱いで処罰する、という意味です。自分の物でも、他人の物を壊した場合と同じ罪と刑になります。たとえば、差押えを受けた自分の建造物を壊せば、260条の例によって、5年以下です。ふつうの自分の物なら、261条の例により3年以下です。258条が入っていないのは、258条にはもともと「他人の」という限定がなく、自分の書いた文書でも客体になるからです。前回見たとおり、自分で書いて役所に出した申請書でも、破れば258条です。だから、自分の物の特例に入れる必要がありません。4つの状態を、順に見ます。差押えは、債権者が、債務者の物を、強制的に押さえた状態です。物権を負担するとは、抵当権や質権など、その物に他人の権利が付いていることです。賃貸は、貸している状態です。配偶者居住権は、相続のとき、亡くなった配偶者の家に、残された配偶者が住み続けられる権利で、設定されていると、この条文の客体になります。ここで、混同しやすい点があります。保険に付した物は、262条には入りません。自分の家に保険をかけ、燃やしたときの特例は、放火の条文にあります。それは、公共の危険に対する罪の回で扱います。
図:差押えを受けた車
冒頭の一つ目です。車の持ち主は、A。債権者は、Bです。Aの車は、Bによって差押えを受けています。Bは、車の値打ちから、返済を受けるつもりです。ところが、Aが車を壊して、動かなくしました。すると、Bが返済を受ける道が、消えます。車はAの物ですが、Bの権利が乗っています。だから、262条によって261条の例により、器物損壊罪と同じ扱いになります。3年以下です。差押えを受けていない、ふつうの自分の車なら、壊しても罪になりません。分かれ目は、他人の権利が乗っているかどうかです。なぜ、自分の物なのに処罰されるのですか。その物に、他人の権利が乗っているからです。差押えを受けた物を壊せば債権者の回収を害し、賃貸中の物を壊せば借り手の使う権利を害し、抵当権付きの物を壊せば担保の価値を害します。この条文は、他人の権利がある物の処分を制限する趣旨だと、説明されています。同じ発想の規定を、すでに見ています。窃盗の242条は、自分の物でも、他人が占有しているなら、他人の物とみなします。横領の252条2項は、自分の物でも、公務所から保管を命じられていれば、客体にします。自分の物でも、他人の権利や利益が乗っていれば、客体にする。262条も、同じ考えです。親告罪かどうかは、例にした条文に従います。「例による」以上、259条や261条の例による場面は親告罪のままです。260条の例による場面は、告訴が不要のままです。
境界損壊罪——262条の2
図:刑法262条の2
冒頭の二つ目です。条文を読みます。
条文刑法262条の2
刑法262条の2(境界損壊) 境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
境界標を損壊し、移動し、もしくは除去し、またはその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、5年以下の拘禁刑か、50万円以下の罰金に処せられます。境界標とは、土地の境目を示す杭や石です。条文に書かれた損壊、移動、除去は、例示です。要は、土地の境界が分からなくなる、あらゆる行為が対象です。杭を抜かずに土を盛って埋める、地形を変えて境目を見えなくする、といった行為も、含まれます。物を壊さなくても成立します。守っているのは、物の効用ではありません。土地の権利関係の明確性です。境界が分からなくなれば、隣どうしで権利がどこまでかを争うことになり、土地の利用も取引も困ります。被害が持ち主一人で終わらず、社会に及びます。だから、5年以下と重く、告訴も要らないと、説明されます。冒頭の二つ目の答えです。杭を数メートル動かした行為は、262条の2です。杭が安物でも、1本も壊れていなくても、器物損壊より重い罪になります。試験での重要度は低い条文ですので、ここでは、この筋だけ押さえてください。
信書隠匿罪——263条
図:刑法263条
三つ目は、信書の隠匿です。その前に、1問です。思い出してください。第14章の最初の回で、信書開封の133条と、263条の隠匿を、見比べました。同じ手紙で、二つを分けるのは何を見る点でしたか?開けたか、隠したか、です。開ければ133条で、隠せば263条です。今日は133条と263条を、表で完全に比べます。まず条文です。
条文刑法263条
刑法263条(信書隠匿) 他人の信書を隠匿した者は、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
他人の信書を隠匿した者は、6月以下の拘禁刑、10万円以下の罰金、または科料です。信書とは、特定の人から特定の人に対して、自分の意思を伝える文書でした。他人のとは、他人の所有に属する、ということです。行為は、隠匿です。通説的な整理は、こうです。隠匿は、本来、261条の損壊に当たります。それを信書については、器物損壊より軽く処罰する、と定めたのが263条です。法定刑は3年以下から6月以下に下がります。損壊は物理的な損壊に限る、という別の見解もあります。その見解に立つと、隠匿は本来処罰されないので、263条は信書に限って処罰を作る規定になります。前回の物差し、つまり効用を害すれば損壊という判例・通説の立場からは、前者の整理になります。答案も、前者で書けば足ります。
図:133条と263条の対比
対比表です。133条が守るのは、中身を知られない利益で、行為は開封、客体は封をしてある信書です。263条が守るのは、信書の使える状態で、行為は隠匿、客体は封の有無を問わない他人の信書です。法定刑は、133条が1年以下、263条が6月以下と軽く、下がります。どちらも親告罪です。133条は、秘密を守る罪の親告罪を定めた135条、263条は、このあと見る264条が根拠です。
図:届いた手紙・開けたか、隠したか
新しい設例です。Aさん宛に、別の人から、手紙が届きました。第三者がそれを見つけて、封をしたまま持ち帰り、読む気も使う気もなく、棚の奥にしまいました。Aさんは、その手紙を受け取れません。信書としての効用が、害されています。これは263条です。同じ手紙で、中を読むために、封を切ったなら、133条です。守っているのは、中身を知られない利益だからです。開封も隠匿もしたなら、罪数の問題になります。
親告罪の範囲——264条
図:刑法264条
最後の条文です。前回、258条は告訴なしで起訴できて、259条は親告罪、と見ました。ここで整理します。
条文刑法264条
刑法264条(親告罪) 第二百五十九条、第二百六十一条及び前条の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
259条、261条、および前条、つまり263条の罪は、告訴がなければ、公訴を提起できません。1問です。第40章には、258条、259条、260条、261条、262条の2、263条の罪があります。このうち、告訴が要らない罪は、どれでしょうか?264条に書いてあるのは、259条、261条、263条です。だから、258条、260条、262条の2は、告訴がなくても起訴できます。
図:親告罪は3つだけ
暗記は、「3つだけ」で固定します。259条、261条、263条です。この3つは、被害が持ち主個人に閉じるので、処罰を求めるかどうかを被害者の意思に任せていると、考えられています。たとえば、友人に自転車を壊されても、弁償してもらえれば、事を荒立てたくない人もいます。困るのが持ち主一人なら、その人が望まない処罰まで、国が進める必要はありません。逆に、公務所の文書、建造物、土地の境界は、被害が公務や社会に及びます。だから告訴を要しないと、考えられています。262条経由の自己の物も、例にした条文に従います。「例による」以上、259条や261条の例による場面は、親告罪のままです。告訴の効果や期間は、刑事訴訟法の分野ですので、そこで扱います。
財産犯の弁別——意思→占有→対象
図:弁別の順序
総まとめです。その前に、1問です。不法領得の意思のうち、利用処分意思が無ければ、どの罪の側に入るのでしたか?毀棄・隠匿の罪の側です。自分の物にする気がなく、ただ壊すか隠すだけなので、窃盗などの領得罪にはなりません。この考え方を、順序にします。一段目は、後で自分の物にする、売る、使う意思があるか、です。あれば領得罪、なければ毀棄・隠匿の罪です。二段目は、領得罪の中で、占有で選びます。他人の占有を奪えば、窃盗などの奪取罪、自分が占有を任されている物なら横領です。三段目は、毀棄・隠匿の中で、対象で選びます。公務所の文書は258条、権利義務の他人の文書は259条、建造物は260条、信書は263条、境界は262条の2、それ以外の物は261条です。ただし、この順序の外に置くものが、二つあります。一つ目は、自分が預かっている物です。横領は、所有権とともに、物を預けた人の信頼も守る罪です。その信頼を裏切る点は、使っても壊しても変わりません。だから、預かった物は、壊す、捨てるだけでも横領になり、一段目より先に見ます。前回も、預かった腕時計を川に捨てれば横領、と見ました。二つ目は、背任です。物ではなく、任された事務に背いて、財産上の損害を与える罪で、財産犯の総論の回で、盗品等に関する罪とともに、領得罪か毀棄・隠匿の罪かの二択の外に置きました。6問で試します。各問、意思、占有、対象の順に確認してください。
図:一問目・隠した工具箱
一問目。同僚が作業で使っている工具箱を、困る姿を見たくて、資材庫の奥に隠しました。売る気も、使う気もありません。
図:一問目・隠した工具箱の答え
一問目は、器物損壊罪の261条です。決め手は、売る気も使う気もなく、ただ使えなくしたにとどまる点です。
図:二問目・売るつもりで隠す
二問目。同じ工具箱を、ほとぼりが冷めたら中古店で売るつもりで、いったん資材庫の奥に隠し、その日のうちに自宅へ持ち帰りました。
図:二問目・売るつもりで隠すの答え
二問目は、窃盗罪です。決め手は、売る気があった点です。同じ隠す行為でも、売る気があれば窃盗、なければ261条に分かれます。
図:三問目・預かった絵
三問目。友人が展覧会に出すために預けた絵を、口論の腹いせに、自宅で切り裂きました。
図:三問目・預かった絵の答え
三問目は、横領罪です。決め手は、絵が預かった物である点です。預かった物は、切り裂くだけでも、先に横領を見る場面に入ります。判例も、横領の不法領得の意思には、利用処分意思を要しないとしています。
図:四問目・管理人の賃貸借
四問目。賃貸マンションの管理を任された管理人が、オーナーの名義で、オーナーへの恨みから、相場の半額で長期の賃貸借契約を勝手に結びました。
図:四問目・管理人の賃貸借の答え
四問目は、背任罪です。決め手は、物への加害ではなく、任された事務に背いた点です。管理人がマンションを預かっていると見ても、オーナーの名義と計算で結んだ、自分の物にする行為ではない背信行為なので、横領にはならず背任です。背任の回で見たとおり、預かった物について領得行為をすれば横領、そうでなければ背任です。
図:五問目・境界の杭
五問目。隣地との境の杭を、駐車場を広げたくて、こっそり抜いて捨てました。
図:五問目・境界の杭の答え
五問目は、境界損壊罪の262条の2です。決め手は、売る気ではなく、対象が土地の境界である点で、告訴も要りません。
図:六問目・届いた手紙
六問目。元の交際相手宛の手紙が、なぜか手元に届きました。封をしたまま棚にしまった場合と、封を切った場合は、どうなりますか。
図:六問目・届いた手紙の答え
封をしたまましまったなら、隠匿で263条です。封を切ったなら、開封で133条です。
図:誤りやすい組合せ
誤りやすい組合せを、まとめます。預かった物を壊す、捨てるのは、横領です。もっぱら隠す、使えなくするだけなら、261条です。後で売るつもりで隠すなら、窃盗です。手紙は、開ければ133条、隠せば263条です。ここは論文で論点になりうるところです。
今日の地図(保存版)
図:毀棄及び隠匿の罪の全体
まとめます。冒頭の二つの答えです。一つ目。差押えを受けた自分の車を壊して動かなくすれば、262条によって261条の例により、器物損壊罪と同じ扱いになり、3年以下です。車に、債権者の権利が乗っているからです。二つ目。境界の杭を動かせば、262条の2で、5年以下です。安物の杭でも、守っているのは土地の権利関係だからです。告訴は要りません。261条は、258条から260条以外の他人の物すべてを守る原則規定で、隠すことも損壊に入ります。262条は、自分の物でも、差押え、物権負担、賃貸、配偶者居住権があれば、259条から261条の例によります。263条は、信書の隠匿です。133条の開封とは、開けたか、隠したかで分かれます。親告罪は、259条、261条、263条の3つだけです。
図:財産犯全体の締め
最後に、財産犯全体の締めです。窃盗と、毀棄・隠匿の罪は、利用処分意思の有無で分かれます。預かった物なら横領、任された事務に背けば背任です。意思、占有、対象の順に見れば、条文が選べます。これで、第16章の財産に対する罪は終わりです。
参照条文
- 刑法261条
- 刑法262条
- 刑法262条の2
- 刑法263条
- 刑法264条