刑法ゼロから刑法#173

虚偽公文書作成罪と偽造公文書行使罪

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第17章 社会的法益|公共の平穏・取引の安全・風俗 ⑭/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

住民票と証明書、持ち歩きと提示

問い・四つの設例 図:問い・四つの設例

前回の終わりに約束したとおり、今日は、公務員が内容を偽る、虚偽公文書作成を見ます。あわせて、偽造した文書を使う罪も見ます。設例を四つ出します。Kです。実際には別の町で暮らし続けるつもりなのに、人気の学区に子どもを通わせたくて、その学区の町に引っ越したと役所に届け出て、住民票にその町の住所を記載させました。窓口の職員は、嘘と気づきませんでした。Lです。窓口で、この町で3年間、店を続けている、と嘘を言って、そのことを証明する市の証明書を出してもらいました。職員は、嘘と気づきませんでした。Mです。市の施設の関係者用の立入許可証を偽造して、バッグに入れて持ち歩いているだけです。Nです。同じ偽造の立入許可証を、施設の警備員に見せて入りました。

しかも、MとNは、偽造した許可証を持っている点は同じです。それなのに、片方だけが、使った、つまり行使になります。分かれ目は二つあります。一つは、条文の並べ方です。私人が役所に嘘を言って作らせた書類は、157条に並んだ重要な書類のときだけ、処罰されます。もう一つは、使うとは何か、です。使うとは、相手が中身を読める状態に置くことです。順に見ていきます。

今日の道筋 図:今日の道筋

今日の道筋です。まず、156条の骨格。次に、その間接正犯の3つの形。そのあと、157条と、他の罪との関係。それから、使う罪の158条。最後に、現行の条文に入った電磁的記録を確認して、冒頭の四つの設例に答えを出します。

156条・虚偽公文書作成の骨格

156条 図:156条

条文です。

条文刑法156条

刑法156条(虚偽公文書作成等) 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書等若しくは電磁的記録文書等を作成し、又は文書等若しくは電磁的記録文書等を変造したときは、印章等又は電磁的記録印章等の有無により区別して、前二条の例による。

前回、155条で定義された言葉が、そのまま出てきます。文書等は、文書と図画。印章等は、印章と署名。電磁的記録文書等と電磁的記録印章等は、電子データ版です。新しく覚えるものはありません。要点は三つです。一つ目は、主体です。公務員が、その職務に関して、と書かれています。さらに、その公文書を作る権限のある公務員に限られます。権限のある人だけがなれる犯罪なので、真正身分犯です。ここで復習です。文書偽造の罪の最初の回を思い出してください。偽造と虚偽作成は、それぞれ、何が嘘なのでしたか?偽造は、名義の嘘です。名義人と作成者がズレています。虚偽作成は、内容の嘘です。名義人と作成者は一致しているのに、書いてあることが嘘でした。名義の嘘が有形偽造、内容の嘘が無形偽造でした。作成権限のない者が他人の名義で作れば偽造、作成権限のある者が内容の嘘を作れば虚偽作成です。156条は、この虚偽作成の側です。二つ目は、行為です。虚偽の公文書や公図画を作ること、または変造することです。ここでの変造は、155条とは主体が違います。155条の変造は、権限のない者が、真正な文書の非本質的部分を変えることでした。156条の変造は、権限のある公務員が、真正に成立した公文書に変更を加えて、内容の嘘の公文書にすることです。三つ目は、刑です。前二条の例による、とあります。前二条とは、154条と155条です。詔書などの虚偽作成なら154条の刑、通常の公文書なら155条の刑を借ります。印章や署名のある有印なら、1年以上10年以下の拘禁刑。無印なら、3年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金です。公務員が自分の名義で作る文書には、通常、印章か署名があるので、重い刑になることが多くなります。

行使の目的も要ります。虚偽の文書を、内容の真実な文書として使う目的のことです。どうして、公文書だけ、内容の嘘まで罰するんですか。公文書は、役所が作ったというだけで、社会が内容を信じて動くからです。私文書の無形偽造は、原則として罰しない、というのが、文書偽造の罪の最初の回の整理でした。公文書は、有形も無形も罰します。例を作ります。保健所の所長Aが、検査をしていない飲食店について、検査に合格したという証明書を、自分の名義で作りました。作る権限のある公務員が、内容の嘘の文書を作ったので、156条です。名義も作成者もAで、ズレていないので、155条の偽造ではありません。

156条の間接正犯・三つの形

保健所の三人・三つの形 図:保健所の三人・三つの形

156条には、大きな論点があります。間接正犯です。156条は、作成権限のある公務員しか犯せない、真正身分犯でした。では、人を道具のように使って、内容の嘘の公文書を作らせたとき、使った人に156条が成り立つのは、どこまででしょうか。間接正犯の回で、身分が問われる罪では別の限界が出る、と予告した話です。分かれ目は、使った人が、公務員として職務に関わっているか、私人か、です。保健所の三人で、三つの形を見ます。Aは所長、Bは起案を担当する職員、Cは飲食店の店主です。一つ目の形です。所長Aが、情を知らない事務員に命じて、内容の嘘の合格証を作らせました。作成権限のあるAが、自分の犯罪として、道具を使ったのです。Aに、156条の間接正犯が成立します。事務員が事情を知って共謀していたなら、共犯です。身分のない者も、身分犯に加われば共犯になる、という、身分犯と共犯の回で見た65条1項の話です。二つ目の形です。職員Bが、検査していないのに検査済みと書いた報告書を起案して、事情を知らない所長Aに出しました。Aは、内容を信じて、合格証に記名して押印しました。Bには、権限者でないのに、間接正犯が成立するのでしょうか。

確かに、Bに合格証を作る権限はありません。でも、判例は、Bの間接正犯の成立を認めました。作成権限のある者を補佐して、公文書の起案を担当する職員が、行使の目的で、内容の嘘の公文書を起案して、情を知らない上司に出し、内容を真実と誤信させて署名や押印をさせた場合も、なお、虚偽公文書作成罪の間接正犯だ、というのです。

⭐ 論文で書く規範:【判例の趣旨】起案担当の公務員の間接正犯 作成権限者を補佐して公文書の起案を担当する公務員が、行使の目的で内容虚偽の公文書を起案し、情を知らない権限者に提出して内容を真実と誤信させて署名・記名・押印させたときは、その職務に関し内容虚偽の文書を起案し、情を知らない作成権限者を利用して虚偽の公文書を完成したものとして、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。 (判例の要旨——最判昭32・10・4 刑集11巻10号2464頁)

決め手は、Bが、その職務に関して起案をしている点です。Bは、公文書を作る流れの中に、公務員として組み込まれています。その職務を使って、情を知らない権限者を道具にしたので、権限者本人がやった場合と、同じ評価になります。三つ目の形です。飲食店主のCが、所長Aに、検査は終わっています、と嘘を言って、合格証を出させました。Aは、嘘と気づきませんでした。Cは、公務員でもなく、作成権限もありません。この場合、Cに、156条の間接正犯は成立するでしょうか。判例と通説は、成立しない、と答えます。理由は、157条の存在です。

私人の間接正犯・理由 図:私人の間接正犯・理由

⭐ 論文で書く規範:【論文で書く規範】私人による156条の間接正犯 刑法は、公文書の無形偽造のうち、公務員に虚偽の申立てをして重要な公文書に不実の記載をさせた場合だけを、156条よりはるかに軽い刑で、157条に定めている。そこで、公務員でない者が虚偽公文書作成の間接正犯となる場合は、157条の場合のほか処罰しない趣旨と解する。 (規範(判例の趣旨)——最判昭27・12・25 刑集6巻12号1387頁)

順を追って言います。私人が役所に嘘を言って、公文書を作らせる事態は、日常的に起こりえます。もし、156条の間接正犯を一般に認めると、重い刑で罰することになります。ところが、刑法は、わざわざ157条で、重要な公文書に限って、ずっと軽い刑で罰しています。重い刑で一般に罰するつもりなら、157条は要りません。157条があるということは、私人については、その範囲だけを軽く罰して、あとは罰しない、という立法者の判断だと読めます。これが、否定の理由です。理屈の上では、私人のCにも、間接正犯の考え方は及びえます。だから、157条が、156条の間接正犯の処罰を、条文に並んだ場合に限って、軽くする仕組みになっているのです。学説は、否定説が通説です。判例の結論と一致します。肯定説は、156条の間接正犯を一般に認めて、157条に当たるときは法条競合で157条だけが成立する、と考えます。157条は、当罰性の軽いものを、定型的に軽くしただけだ、という見方です。ただ、論文は、否定説で書きます。

三つの形・結論の表 図:三つの形・結論の表

表にします。権限者が権限のない者を使えば成立。起案担当の公務員が権限者を使っても成立。私人が権限者を使えば不成立です。ここで落とし穴があります。権限のない者が、権限者を使ったら不成立、とだけ覚えると、二つ目で間違えます。割れ目は、その人が、公務員として職務に関与しているか、私人か、です。もう一つ、この判例には副産物があります。Cが出させた合格証は、虚偽公文書作成の間接正犯が成立しない以上、虚偽の公文書とは言えません。だから、後で使っても、行使の罪になりません。これは、行使のところで思い出します。この論点は、短答でも論文でも重要な所です。

157条・公正証書原本不実記載と免状等不実記載

157条 図:157条

条文です。1項、2項、3項と、まとめて読みます。

条文刑法157条1項〜3項

刑法157条(公正証書原本不実記載等・免状等不実記載) 公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。 公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札若しくは旅券に不実の記載をさせ、又は電磁的記録文書等その他の電磁的記録であって、免状、鑑札若しくは旅券の全部若しくは一部として用いられるものに不実の記録をさせた者は、一年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。 前二項の罪の未遂は、罰する。

先ほどの理由を、条文で確認します。157条は、私人が役所に嘘を言って、不実の記載をさせる行為を、条文に並べた場合に限って、軽く罰する規定です。意味は、156条の間接正犯を、限定して、軽くすることです。行為は、公務員に対して、虚偽の申立てをして、不実の記載をさせることです。罪の名前は、1項が公正証書原本等不実記載罪。2項が免状等不実記載罪です。刑は、1項が5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。2項が1年以下の拘禁刑か20万円以下の罰金です。156条の1年以上10年以下に比べて、はるかに軽くなっています。3項は、未遂を罰します。この条文を、短答では、1項と2項の客体と、刑の差と、未遂まで、問われます。

設例K・L・住民票と証明書 図:設例K・L・住民票と証明書

冒頭のKとLを、条文に当てます。まず、1項の客体、権利若しくは義務に関する公正証書の原本です。公正証書とは、公証人が作る、あの公正証書だけではありません。判例の考え方では、公務員が職務上作成する文書で、権利義務に関する、ある事実を証明する効力を有するものを指します。

⭐ 論文で書く規範:【定義】権利若しくは義務に関する公正証書の原本 公務員が職務上作成する文書で、権利義務に関するある事実を証明する効力を有するもの。 (定義(判例の趣旨)——最判昭36・6・20 刑集15巻6号984頁)

例は、条文に出てくる登記簿と戸籍簿。それから、土地台帳です。土地台帳は、公務員が申立てを受けて、内容を審査せずに記載するものでも、審査して取捨選択して記載するものでも、また、私法上の権利義務を証明するのが目的でなくても、該当する、とされています。そして、住民票も、公正証書の原本です。住民票は、市の職員が職務として作って、役所に備えておく原本で、どこに住んでいるかを証明します。住所は、選挙や、子どもが通う学校など、権利や義務の基準になる事実です。だから、定義に当たります。Kに当てます。Kは、暮らすつもりのない町の住所で、転入届を出し、住民票にその住所を記載させました。虚偽の申立てをして、住民票、つまり公正証書の原本に、不実の記載をさせたので、1項です。Kは、157条1項で処罰されます。電磁的記録も、1項に並んでいます。住民基本台帳のファイルのように、公正証書の原本として用いられる電磁的記録に、不実の記録をさせる場合です。名前だけ押さえてください。次に2項の客体です。免状は、役所が、特定の人に、ある行為をしてよいという資格を認めて、渡す証明書です。運転免許証、医師免許証、狩猟免状が例です。鑑札は、公務所の許可や登録があったことを証明する証票です。犬の鑑札や、古物営業の許可証が例です。旅券は、パスポートです。

どれにも当たりません。この町で3年間、店を続けている、という市の証明書は、役所に備えておく原本ではありません。Lに渡すために、その都度作る書類です。1項は、原本に限っているので、当たりません。2項の免状、鑑札、旅券でもありません。だから、157条の客体ではありません。そうすると、Lが、156条の間接正犯になるかが残ります。私人が公務員を利用した場合は、157条の場合のほか処罰しない、というのが先ほどの理由でした。だから、Lは、文書偽造の罪としては処罰されません。Kとの分かれ目は、書類の種類が、157条の条文に並んでいるかどうかです。

157条と他罪との関係

三つの場合分け 図:三つの場合分け

157条と、他の罪との関係を、三つの場合で見ます。一つ目は、公務員と共謀した私人です。例えば、Kが、窓口の職員と示し合わせて、住民票に嘘の住所を載せさせた場合です。判例は、公務員に156条が成立し、私人にも、65条1項により、156条の共同正犯が成立する、とします。156条は身分犯なので、身分のない者も、身分のある者と一緒に実行すれば共犯になる、という理屈です。有力説は、私人は157条にとどまる、と考えます。私人が役所を使う形は157条で軽く罰する、という先ほどの条文の並べ方が、共謀した場合にも及ぶ、という理屈です。論文では、どちらの立場でも書けます。二つ目です。共謀はなかったものの、窓口の公務員が、虚偽と見抜いていた場合です。まず、その公務員に、156条が成立するかを考えます。ここで、審査権限の違いが出ます。実質的審査権限とは、申請の内容が真正かどうかを審査する権限です。形式的審査権限とは、書類の形式が整っているかを見る権限です。学説は、実質的審査権限のある公務員なら、156条が成立するとします。嘘だと分かれば記載を拒める立場なのに、あえて載せたので、自分で内容の嘘の公文書を作ったと言えるからです。形式的審査権限しかない公務員は、見抜いても、形式が整っていれば受け付けるしかないので、不成立とします。載せることが、法律で決められた職務そのものなので、自分の判断で内容の嘘を作った、とは評価できないからです。

例を作ります。窓口の職員が、転入届の書式は整っているが、虚偽だと気づきました。この職員が形式の審査しかできないなら、156条は成立しません。実質の審査をする権限を持つ職員が、見抜きながら作ったなら、156条が成立します。どちらの場合も、私人については、157条の成立を認めるのが一般的です。公務員が見抜いても、虚偽の申立てをして、不実の記載をさせた事実は変わりません。不実の記載が完成すれば、既遂です。三つ目は、詐欺罪との関係です。免状や旅券の下付、つまり役所から交付を受ける行為は、詐欺罪として別に罰しません。判例は、免状や旅券は、下付を受けて持っていなければ役に立たないと考えています。157条2項の構成要件は、不実の記載をさせることで足ります。その性質上、不実の記載のある免状などの下付を受けることも、当然に含まれる、というのです。刑も著しく軽いので、詐欺罪は問わず、157条2項だけです。この判例は、旅券の下付が事案です。この結論は、免状や旅券の下付を受ける行為についてのものです。短答で、旅券などの下付を受けたことについて、157条2項の罪と詐欺罪が成立して科刑上一罪、と書かれていたら、×です。詐欺で別の財物を得る場合は、別に考えます。次の158条の罪数で見ます。

158条・偽造公文書行使

158条 図:158条

次は、使う罪です。158条を読みます。

条文刑法158条1項・2項

刑法158条(偽造公文書行使等) 第百五十四条から前条までの文書等若しくは電磁的記録文書等を行使し、同条第一項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供し、又は同条第二項の電磁的記録を人の事務処理の用に供した者は、その文書等若しくは電磁的記録文書等を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書等若しくは電磁的記録文書等を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する。 前項の罪の未遂は、罰する。

長いので、柱だけ取り出します。154条から157条までの文書を使うと、行使の罪です。刑は、偽造や虚偽作成や不実記載をした者と、同じです。未遂も罰します。短答で問われやすいのは、どの罪の文書を使ったかの対応です。名義の嘘なら155条の文書の行使、内容の嘘なら156条の文書の行使、データなら157条1項の電磁的記録の供用、と対応させてください。供用とは、不実の記録をさせたデータを、公正証書の原本として使われる状態に置くことです。では、行使とは何でしょうか。偽造した文書を、真正な文書として、虚偽の文書を、内容の真実な文書として、使うことです。使うとは、他人に文書の内容を認識させるか、認識しうる状態に置くことです。

⭐ 論文で書く規範:【論文で書く規範】行使 行使とは、偽造文書を真正な文書として、虚偽文書を内容の真実な文書として、使用することをいう。使用とは、他人に交付、提示等して、その閲覧に供し、その内容を認識させ、またはこれを認識しうる状態におくことである。 (規範(判例の趣旨)——最大判昭44・6・18 刑集23巻7号950頁)

設例M・N・認識しうる状態に置いたか 図:設例M・N・認識しうる状態に置いたか

冒頭のMとNに当てます。Mは、偽造した許可証を、バッグに入れて持ち歩いているだけです。誰の目にも触れていません。他人が内容を認識しうる状態に置いたとは言えず、行使ではありません。Nは、警備員に見せています。提示して、内容を認識させたので、行使です。判例は、偽造した運転免許証を携帯して運転していたに止まる事件で、行使にあたらない、としました。理由は、偽造公文書行使罪が、公文書の真正に対する公共の信用が、具体的に侵害されることを防止するものだからです。バッグの中にあるだけなら、誰かが偽の文書を信じる事態は、まだ起こっていません。信用が具体的に害される段階に、達していないのです。たとえ、法令上、運転する時に免許証を携帯して、求められたら提示する義務があっても、同じです。携帯しているのと、実際に見せるのとは、別です。次に、行使の相手方です。行使は、偽造文書を真正な文書として使うことなので、相手方は、偽造や虚偽と知らない者でなければなりません。情を知らないと思って示したが、実は知っていた場合は、未遂です。行使の方法は、問いません。例えば、来店者用の受付の端末の画面に、偽造した証明書を表示して、職員に見せる場合も行使です。電子データの場合は、後で読みます。認識しうる状態は、相手が実際に読んだことまでは要りません。例えば、偽造文書を郵送して、相手方に到達すれば、その時点で既遂です。携帯だけでは足りず、到達や提示で足ります。そして、電子的な場合も、閲覧できる状態に置けば既遂です。

行使の対象の限定 図:行使の対象の限定

先ほどの副産物です。私人が公務員を利用して作らせた証明書は、虚偽の公文書とは言えません。だから、後で使っても、158条の行使にならない、と判決は述べています。偽造でも虚偽作成でも不実記載でもない文書は、158条の客体ではありません。最後に、罪数です。偽造や虚偽作成と、その行使は、牽連犯です。牽連犯は、目的と手段の関係にある犯罪で、一つの刑で処理する、と牽連犯の回で見ました。判例は、公正証書原本不実記載と、その行使と、詐欺罪も、牽連犯とします。

判例最決昭42・8・28 刑集21巻7号863頁

不実記載・行使と詐欺の罪数 右公正証書原本不実記載罪およびその行使罪と詐欺罪とは、罪質上通例手段結果の関係にあるものと認められるから、右数罪は、刑法五四条一項後段のいわゆる牽連犯に当る

読みどころは、手段結果の関係にあれば牽連犯、の一点です。例えば、嘘の申立てで、他人の土地を自分の名義に登記させ、その登記を見せて、土地を担保にお金を借りて、だまし取る場合です。不実記載と行使が、詐欺の手段にあたります。お金は、登記とは別の財物です。さっきの、免状や旅券の下付が詐欺にならない話とは、型が違います。下付そのものは、157条2項に含まれます。それに対して、この事案は、別の金銭を取る詐欺です。後で学ぶ偽造通貨行使と詐欺の関係は、また違うので、そこで確認します。

令和7年の改正で入った電磁的記録

156・157・158条に入った客体 図:156・157・158条に入った客体

前回、155条の2号で見た、電磁的記録の客体が、今日の条文にも入っています。表にします。156条は、虚偽の電磁的記録文書等の作成や変造も対象です。有印か無印かは、印章等または電磁的記録印章等の有無で分かれます。157条2項は、免状や鑑札や旅券の、全部または一部として用いられる電磁的記録に、不実の記録をさせた場合を加えています。たとえば、運転免許証やマイナンバーカードのICチップに、虚偽の申立てをして、不実の記録をさせる場合です。1項の電磁的記録は、前から条文にありました。158条は、電磁的記録文書等の行使と、157条2項の電磁的記録を、人の事務処理の用に供した場合を加えています。電磁的記録文書等を画面に表示して、人に示せば、行使です。

前回、電磁的記録そのものは文書ではない、と見ましたよね。今日の条文でも、同じ考え方ですか。同じです。前回見たとおり、文書の定義には手を付けずに、文書と同じ働きをする電磁的記録を、別の客体として足しただけです。偽造も、虚偽作成も、行使も、考え方は紙と同じです。なお、詔書の偽造を定めた154条は、今回の改正で変わっておらず、文書のままです。

整理と、冒頭の答え

今日の整理 図:今日の整理

まとめます。156条は、作成権限のある公務員が、内容の嘘の公文書を作る罪で、刑は155条の例です。間接正犯は、権限者が権限のない者を使う場合と、起案を担当する公務員が情を知らない権限者を使う場合は成立します。私人が権限者を使う場合は、157条があるので、成立しません。157条は、虚偽の申立てで、条文に並んだ重要な公文書に不実の記載をさせる罪です。1項は公正証書の原本、2項は免状、鑑札、旅券で、刑は軽く、未遂も罰します。158条は、認識しうる状態に置く行使の罪です。携帯だけでは行使ではなく、相手方は知らない者であることが必要で、偽造や虚偽作成との間は牽連犯です。現行の条文は、電磁的記録も並べています。冒頭の答えです。Kは、住民票という公正証書の原本に、虚偽の申立てで不実の記載をさせたので、157条1項で処罰されます。Lは、証明書が、157条の客体ではなく、私人による156条の間接正犯も成立しないので、文書偽造の罪としては不可罰です。Mは、偽造した許可証を持ち歩いているだけで、認識しうる状態に置いていないので、行使ではありません。Nは、警備員に見せたので、行使です。二つの分かれ目は、条文に並んでいるか、他人が認識しうる状態に置いたか、でした。

判断の順序・公文書の最後の項 図:判断の順序・公文書の最後の項

判断の順序を、図にまとめます。文書か、偽造か、有印か、偽造か変造か。そこまでが前回です。偽造にあたらなければ、虚偽作成か、つまり、作成権限のある公務員が内容の嘘の文書を作ったかを見ます。私人が公務員を使ったなら、その文書が157条の客体かを見ます。そして、使ったなら、行使かを見ます。

参照条文

  • 刑法156条
  • 刑法157条1項〜3項
  • 刑法158条1項・2項

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