偽造通貨収得罪と収得後知情行使罪
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第17章 社会的法益|公共の平穏・取引の安全・風俗 ⑳/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
同じ偽札を使ったのに、刑が桁違いなのはなぜか
図:設例YとX
前回の設例Xを思い出してください。Xは、本物そっくりの一万円札を自分で刷って、店で使いました。通貨偽造と偽造通貨行使の牽連犯で、刑は無期または3年以上の拘禁刑でした。今日は、受け取ってしまった側の話です。設例Yです。Yは、買い物のお釣りで、一万円札を受け取りました。家に帰ってから、それが偽物だと気づきました。損をしたくなくて、翌日、別の店で、その一万円札を使いました。Xと同じ重さではありません。桁が、まるで違います。どれくらい違うかは、あとで条文で確かめます。分かれ目は、受け取った時に、偽物と知っていたかどうかです。今日は、受け取る側と準備の条文を見て、最後にYに戻ります。
通貨偽造の罪の残り——拾う・準備・未遂
図:通貨偽造の罪の流れ
前回の流れの図に、残りの条文を全部入れます。準備が153条です。作るのが148条1項で、使う、渡す、輸入するのが148条2項です。ここまでが本流で、前回見た、作った側です。そこに、脇道が加わります。受け取るほうが150条です。知らずに受け取って、あとで知って使う側が152条です。外国の通貨は149条、未遂は151条です。覚え方を一つ。作ったら148条1項、使ったら148条2項、拾ったら150条です。収得とは、偽貨を自分のものにする一切の行為です。拾う、もらう、買う、どれも収得です。有償か無償かは問いません。
図:149条と150条
まず、149条です。前回、148条の客体に、外国の通貨は含まれないと言いました。それを受ける条文が149条です。日本国内に流通している外国の貨幣、紙幣、銀行券を、偽造、変造し、また、行使、交付、輸入する罪で、刑は2年以上の有期拘禁刑です。条文が、日本国内に流通している、と絞っています。試験での出番は、あまり多くありません。次に、150条です。条文を見ます。
条文刑法150条
刑法150条(偽造通貨等収得) 行使の目的で、偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を収得した者は、三年以下の拘禁刑に処する。
要件は三つです。行使の目的、偽貨であること、収得です。行使の目的とは、前回見たとおり、真正な通貨として流通に置く目的でした。つまり、受け取る時点で、偽物と知っていて、いずれ使うつもりでもらう場合が、150条です。知らずに受け取ったなら、150条にはなりません。知らなければ、偽貨を収得する認識がないからです。この場合は、あとで見る152条の話になります。境界を確かめます。受け取った一万円札が偽物だと気づいて、店の人が、警察に届けるために預かる場合は、どうでしょうか。偽物と知って、手に入れています。でも、使うつもりがありません。行使の目的がないので、150条は成立しません。刑は、3年以下の拘禁刑です。作る148条の無期まで置かれた刑と比べると、ずいぶん軽いです。受け取っただけでは、まだ世の中に流していません。自分の手元に取り込んだ段階だからです。ただ、収得して、そのまま使えば、150条と148条2項が成立し、牽連犯になります。150条も、行使の目的がなければ成立しない罪なので、受け取ることと使うことは、初めから手段と結果の関係にあるからです。
図:未遂と準備
続いて、151条です。
条文刑法151条
刑法151条(未遂罪) 前三条の罪の未遂は、罰する。
前三条とは、148条、149条、150条です。例えば、偽札を刷り始めたが完成前に捕まった場合は、148条1項の未遂です。ここで、数え間違いに注意してください。152条と153条は、前三条に入っていません。この二つは、未遂を罰しません。最後に、153条です。
条文刑法153条
刑法153条(通貨偽造等準備) 貨幣、紙幣又は銀行券の偽造又は変造の用に供する目的で、器械又は原料を準備した者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
偽造の準備、つまり予備のうち、処罰されるのは、器械又は原料を準備する行為だけです。印刷機を買う、専用の用紙やインクを買いそろえる、こうした行為は、準備にあたります。一方、偽札を作れる技術者を探して頼むだけでは、器械でも原料でもないので、この罪にはなりません。自分で偽造するための準備でも、他人に偽造させるための準備でも、成立します。刑は、3月以上5年以下の拘禁刑です。短答でよく問われます。
152条——知らずに受け取った人はなぜ軽いのか
図:152条の構造
いよいよ、冒頭のYの条文です。152条を見ます。
条文刑法152条
刑法152条(収得後知情行使等) 貨幣、紙幣又は銀行券を収得した後に、それが偽造又は変造のものであることを知って、これを行使し、又は行使の目的で人に交付した者は、その額面価格の三倍以下の罰金又は科料に処する。ただし、二千円以下にすることはできない。
構造は、三つの順です。まず、本物と思って、収得します。次に、あとで、偽物と知ります。そして、知りながら、行使するか、行使の目的で人に交付します。行使と交付の意味は、前回の148条2項と同じです。150条との違いは、収得した時に偽物と知っていたかどうかです。刑は、額面価格の3倍以下の罰金または科料です。ただし書の、2千円以下にすることはできない、というのは、額面の小さい硬貨のような場合の下限の定めで、Yの一万円札では問題になりません。
図:軽い理由
軸は、期待可能性です。責任の回で見ました。この行為に出ずに、適法に振る舞うことを期待できるか、という考え方です。Yで考えます。お釣りで受け取った時は、本物と思っていました。気づいた時には、もう自分が損を抱えています。損を、そのまま自分でかぶって、偽札を捨てるのが、法に沿う行動です。けれど、その損を別の誰かに回したくなるのは、人情として、無理もありません。適法な行動を期待しにくいのです。ただし、責任の回で見たのは、期待可能性が無い場合で、そのときは責任が否定されました。Yは、無いのではなく、低いだけです。だから、それでも犯罪ではあります。偽札が世の中に流れ出して、通貨への信用が傷つくことは、変わらないからです。そこで、罰するけれど、刑は著しく軽くする、という作りになっています。
初めから偽物と知って受け取る人は、事情が違います。知っていて受け取れば、知らないうちに損を押し付けられたわけではありません。同情の余地がないので、150条で、重く罰します。
図:受け取る時の認識で分ける
三つの場合を、並べて整理します。偽物と知って、使うつもりで受け取る。これが150条で、使えば148条2項です。本物と思って受け取り、あとで偽物と知って使う。これが152条です。本物と思って受け取り、本物と思ったまま使う。これは、偽物という認識がないので、罪になりません。ここで、問いです。受け取った時は本物と思っていた一万円札を、偽物と気づいてから使った場合、どの条文で、どれくらいの刑になるでしょうか? 受け取る時に、偽物と知っていた場合と比べて考えてみてください。
図:設例Yの当てはめ
Yに当てはめます。お釣りで受け取った時は、本物と思っていました。収得ですが、150条ではありません。帰宅後に偽物と知り、翌日、別の店で使いました。知りながらの行使なので、152条です。刑は一万円の3倍、つまり3万円以下の罰金、または科料です。罰金は1万円以上、科料は千円以上1万円未満です。Xは無期または3年以上の拘禁刑でした。同じ偽札を使っても、これだけ違います。分かれ目は、最初に受け取った時の認識です。
偽造通貨を使えば、詐欺も成立するのか
図:詐欺との関係の問い
最後に、前回の終わりに残した疑問です。Xは、偽札で、店から商品を受け取りました。店をだまして、物を取っています。詐欺罪も、成立するでしょうか。その前に、牽連犯の回の復習です。手段と結果の関係にある犯罪は、どう処理されたでしょうか?牽連犯で、罪は二つ成立するけれど、刑を科すときは、最も重い刑で一つにまとめる、でした。文書偽造では、偽造した文書を行使して、人からお金をだまし取れば、偽造と行使と詐欺が、牽連犯でした。通貨も、同じ扱いになるでしょうか。
図:通貨と文書の対比
結論は、違います。偽造通貨の行使は、行使罪だけが成立して、詐欺罪は別に成立しません。判例も通説も、そう考えます。罪数の回で見た、吸収です。詐欺の分は、行使罪の評価の中に包み込まれて、別の罪にはなりません。罪が二つ成立したまま、刑だけを一つにまとめる牽連犯とは、そこが違います。少数説は、詐欺罪も成立すると考えます。行使罪と詐欺罪が成立して、牽連犯になるという立場です。守るものが違う、というのが理由です。通貨の罪は、社会の信用を守ります。詐欺は、個人の財産を守ります。守るものが違うので、両方成立する、というわけです。
図:吸収の決め手
決め手は、152条の軽さです。Yに、詐欺罪も成立するとします。偽札で商品を取っているので、詐欺罪の10年以下の拘禁刑が、問題になります。牽連犯なら、重いほうの詐欺の刑で処断されます。すると、知らずに受け取った人だけ軽くした152条の意味が、なくなってしまいます。Xのほうでも、結論は同じです。148条2項の刑は、無期または3年以上と、詐欺罪より重いです。行使罪が、すでに十分重く罰していて、詐欺を重ねて足す意味がありません。だから、判例も通説も、行使罪だけと考えます。文書の行使には、152条のような軽い罪がないので、詐欺を別に評価して、牽連犯にします。ただ、文書でも、前に見た免状や旅券の下付は、詐欺は別に問いませんでした。下付、つまり役所から受け取ることが、免状や旅券に不実の記載をさせる157条2項の罪に、初めから含まれるからでした。短答で、偽造通貨を行使して商品を得た場合に、行使罪と詐欺罪の牽連犯、とあれば、判例・通説と合わず、誤りです。ここは、論文で論点になりうる所です。
整理と、冒頭の答え
図:通貨と文書の比較
まとめます。通貨と文書を並べます。偽造の測り方は、通貨は真券らしさ、文書は名義人と作成者の人格の同一性でした。行使の意味は、通貨は流通に置くこと、文書は他人が認識しうる状態に置くことです。違いが出るのは、受け取る側です。通貨には、知らずに受け取って、あとで知って使う人に向けた、軽い罪の152条があります。文書には、同じ軽い罪がありません。そして、詐欺との関係も違います。通貨の行使は行使罪だけで、文書の行使は、詐欺が別に成立して牽連犯です。
図:今日の整理
条文を整理します。通貨偽造の罪は、準備が153条、作るのが148条1項、使うのが148条2項、受け取るのが150条、知って使うのが152条です。149条は外国通貨で、未遂の151条は、148条、149条、150条だけが対象です。153条は、器械又は原料の準備だけを罰します。150条は、偽貨と知って、使う目的で収得する罪です。152条は、知らずに受け取って、あとで知って使う罪で、刑は、額面の3倍以下の罰金または科料です。軽い理由は、損を他人に回したくなる人情で、適法な行動を期待しにくいからです。詐欺は、行使罪に吸収されて、別には成立しません。冒頭の答えです。Xは、無期または3年以上の拘禁刑でした。Yは、3万円以下の罰金、または科料です。同じ偽札を使っても、受け取った時に偽物と知っていたかどうかで、刑は桁違いに変わります。
参照条文
- 刑法150条
- 刑法151条
- 刑法153条
- 刑法152条