刑法ゼロから刑法#162

現住建造物等放火罪と客体の一個性

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第17章 社会的法益|公共の平穏・取引の安全・風俗 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

倉庫だけに火をつけた

問い・店舗兼住宅の倉庫に放火 図:問い・店舗兼住宅の倉庫に放火

前回の最後に、ひとつ予告をしました。建物の一部にだけ人がいるとき、その建物をどこまで一つと見るか、という問題です。今日は、その答えの前半です。問いを出します。木造2階建ての、店舗兼住宅があります。1階は雑貨店で、夜は無人です。2階が住まいで、店主一家が寝ています。1階と2階は、階段や、天井と床でつながっています。深夜、何者かが、1階の店の倉庫だけに火をつけました。火をつけたのは、人のいない部分です。それでも、人がいる建物への放火、つまり、死刑まである罪になるでしょうか。倉庫だけの火なので、軽く見えるかもしれません。ヒントだけ出します。決め手は、燃やした場所に人がいたかどうかではありません。その火が、人のいる部分にまで危険を及ぼすかどうかです。今日は、その中でも、物理的なつながりの面から見ます。

前回の確認と、108条

108条の全文・現住と現在 図:108条の全文・現住と現在

前回の3点を確認します。108条の客体は、現住か、現在です。現住は、人の起臥寝食の場所として日常使用されていること。放火の時に誰もいなくても、現住です。現在は、現住でなくても、放火の時に現に人がいること。そして、その人は、犯人以外の者です。まず現住か、次に現在か、どちらでもなければ、109条以下の問題になります。108条を、もう一度読みます。今日は、建造物、という言葉に注目してください。

条文刑法108条

刑法108条(現住建造物等放火) 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。

前回は、この条文を、一つの建物について、現住か現在かを見る、という段階で読みました。今日は、その手前です。そもそも、どこまでが一つの建造物なのか。条文の建造物は、一つの単位です。その単位の取り方で、108条になるかどうかが変わります。

問題の所在・一つとして見るか、分けて見るか

問題の所在・複合的な建造物 図:問題の所在・複合的な建造物

冒頭の店舗兼住宅を、図にします。Aが、燃やした1階の倉庫。Bが、人のいる2階の住まいです。二つは、つながっています。このように、人のいる部分と、そうでない部分からなる建物を、複合的な建造物と呼んでおきます。問題は、その人のいない部分にだけ放火したときです。全体を一つの現住建造物と見るのか。それとも、燃やした部分だけを切り離して、人が住まず、人もいない建造物、つまり、非現住かつ非現在の建造物と見るのか。この差は大きいです。一つと見れば、108条で、死刑または無期もしくは5年以上の拘禁刑です。分けて見れば、109条1項で、2年以上の有期拘禁刑です。同じ火つけで、罪名も刑も、大きく変わります。だから争われます。この論点を、客体の一個性といいます。

答案では、108条か109条かを選ぶ前に、燃やした部分を含めて、どこまでを一つの建造物と見るかを決めることになります。論文で論点になりうるところです。

決め手は、人に対する危険

判断基準の導き方 図:判断基準の導き方

ここで1問です。前回、108条が特に重い理由は、二つの危険でした。何と何でしたか?一つは、不特定または多数の人の生命、身体、財産を脅かす公共の危険です。もう一つは、直接に放火の客体になった建造物の中にいる人に対する危険です。今日の物差しは、二つ目から出てきます。108条が、他の放火より重いのは、中に人がいる、または人がいる可能性が高い建物に火がつけば、中の人の命まで危ないからです。そうであれば、一つの建造物として見る範囲も、その人への危険が及ぶ範囲で決めるのが、筋が通ります。燃やした部分に誰もいなくても、その火が人のいる部分にまで危険を及ぼすなら、108条の重さを支える危険が、現にあります。反対に、火が人のいる部分に及ばないなら、重くする理由がありません。規範として持ちます。

⭐ 論文で書く規範:【規範】客体の一個性(物理面) 一つの建造物として見る範囲は、建造物内の人に対する危険が及ぶかで決める。物理面では、燃やした部分から、現住・現在の部分へ、類型的な延焼可能性があるかを見る。 (規範(判例・通説の判断基準)——人に対する危険)

類型的、という言葉の意味を確認します。前回の「類型として、人への危険がある」と同じで、一件ごとの結果を確かめずに、形で見る、という意味です。現実に、人のいる部分まで燃え移ったか、ではありません。普通に考えて、燃え広がりうる形になっているか、です。結果として、火が途中で消し止められても、人のいる部分に届かなくても、結論は変わりません。放火の時点で、その建物の構造が、火が届きうる形になっていたかを見ます。導火線のようなものです。つながった部分を伝って火が届く形なら、端に火をつけても、危険にさらされるのは奥にいる人です。境界を、ペアで見ます。階段や天井でつながった、木造の倉庫と住まいは、火が伝わる形です。一つとして見ます。一方、庭を隔てて離れて建つ別棟の倉庫は、火をつけても、普通は住まいまで届きません。住まいの人に危険が及ばないので、分けて見ます。

つながりさえあれば、いつも一つと見る、とは言い切りません。慎重に言います。今日は、延焼の可能性がある物理的なつながりか、という言い方に留めます。つながりがあっても燃え移りようがない場合は、別の扱いが必要になります。それは、最後に、問いとして残します。今日の物差しは一つです。燃やした場所ではなく、その火が、人のいる部分に届く形かどうかです。

冒頭の答えと、判例の同型

店舗兼住宅の答え・火は2階に届くか 図:店舗兼住宅の答え・火は2階に届くか

冒頭の問いに答えます。ここで1問です。1階の倉庫の火は、ふつう、階段や天井を通って、2階の住まいに届きうるでしょうか?木造ですし、階段も天井もつながっているので、届きうると思います。類型的な延焼可能性があります。だから、この建物は全体を一つの現住建造物と見ます。倉庫は、現住の部分と一体です。深夜の放火は、108条の問題です。燃やした倉庫に、誰もいなかったことは、結論を左右しません。もう一つ。類型的、ですから、実際に2階まで燃え移ったかも問いません。倉庫の火を、近所の人がすぐに消し止めて、2階には煙さえ届かなかったとしても、火をつけた時点で、2階に届きうる形だった以上、全体を一つの現住建造物と見る結論は同じです。決め手を、もう一度言います。108条は、建物の中の人への危険があるから重い。2階で寝ている一家には、1階の火が届きます。そこに危険がある以上、狙いが倉庫でも、危険を負うのは同じです。大審院にも、同じ型の判例があります。学校の校舎で、1階の一室が宿直室になっていて、教員が夜に泊まっている。その校舎の2階に放火した事案で、現住が認められました。人のいない部分に放火しても、つながった建物の全体が、現住とされる例です。判決自体は、宿直室のある校舎は全体が現住建造物だ、と述べたもので、延焼の可能性を論じたわけではありません。今日の物差しで言えば、2階の火が、同じ建物の1階の宿直室に届きうる形だった、ということです。

判例——社殿の全体は一つか

事案の関係図・廻廊でつながる社殿 図:事案の関係図・廻廊でつながる社殿

判例で確かめます。京都の神社の、社殿に放火された事案です。社殿は、本殿、拝殿、社務所、守衛詰所などの多数の建物からなり、それらが廻廊や歩廊でつながって、中央の広場を囲んでいます。夜は、神職と守衛ら4人が宿直し、社務所や守衛詰所で就寝していました。放火されたのは、祭具庫や西翼舎などです。弁護人は、こう主張しました。人がいた社務所などと、燃やした建物とは、別々の建造物だ。だから、非現住建造物放火にとどまる、という主張です。冒頭の問いと同じ構図です。判旨を、3枚に分けて読みます。まず、構造と、延焼の可能性です。

判例最決平1・7・14 刑集43巻7号641頁

構造と延焼の可能性 (1)平安神宮社殿は、東西両本殿、祝詞殿、内拝殿、外拝殿(大極殿)、東西両翼舎、神楽殿(結婚儀式場)、参集殿(額殿)、齋館、社務所、守衛詰所、神門(応天門)、蒼龍楼、白虎楼等の建物とこれらを接続する東西の各内廻廊、歩廊、外廻廊とから成り、中央の広場を囲むように方形に配置されており、廻廊、歩廊づたいに各建物を一周しうる構造になつていた、(2)右の各建物は、すべて木造であり、廻廊、歩廊も、その屋根の下地、透壁、柱等に多量の木材が使用されていた、(3)そのため、祭具庫、西翼舎等に放火された場合には、社務所、守衛詰所にも延焼する可能性を否定することができなかつた

物理面の事実が、三つ並んでいます。建物が廻廊と歩廊でつながって、一周できる。建物も廻廊も木造で、多量の木材が使われている。そのため、祭具庫や西翼舎への放火は、人が寝る社務所や守衛詰所にも、延焼する可能性を否定できない。今日の物差し、類型的な延焼可能性そのものです。次に、社殿の使われ方です。判旨は、これを機能的な面と呼んでいます。人が、建物の全体を、ひとまとまりの生活の場として使っているか、という面です。

判例最決平1・7・14 刑集43巻7号641頁

社殿の使われ方と宿直 (4)外拝殿では一般参拝客の礼拝が行われ、内拝殿では特別参拝客を招じ入れて神職により祭事等が行われていた、(5)夜間には、権禰宜、出仕の地位にある神職各一名と守衛、ガードマンの各一名の計四名が宿直に当たり、社務所又は守衛詰所で執務をするほか、出仕と守衛が午後八時ころから約一時間にわたり東西両本殿、祝詞殿のある区域以外の社殿の建物等を巡回し、ガードマンも閉門時刻から午後一二時までの間に三回と午前五時ころに右と同様の場所を巡回し、神職とガードマンは社務所、守衛は守衛詰所でそれぞれ就寝することになつていたというのである。

夜の宿直の実態です。4人が宿直し、社務所や守衛詰所で就寝する。しかも、社殿の建物の巡回もしていました。人が社殿の全体を使って、夜を過ごしていたわけです。結論です。

判例最決平1・7・14 刑集43巻7号641頁

結論——全体が一個の現住建造物 以上の事情に照らすと、右社殿は、その一部に放火されることにより全体に危険が及ぶと考えられる一体の構造であり、また、全体が一体として日夜人の起居に利用されていたものと認められる。そうすると、右社殿は、物理的に見ても、機能的に見ても、その全体が一個の現住建造物であつたと認めるのが相当であるから、これと同旨の見解に基づいて現住建造物放火罪の成立を認めた原判決の判断は正当である。

読みどころは三つです。一つ目。一部に放火されることで、全体に危険が及ぶと考えられる、一体の構造だった。二つ目。全体が一体として、日夜、人の起居に利用されていた。三つ目。だから、物理的に見ても、機能的に見ても、全体が一個の現住建造物である。使い方に注意してください。この判例は、物理面のあてはめの代表例です。ただ、判旨は、使われ方の面、つまり、機能面も述べています。物理面と機能面の両方から、全体を一個と認めた判例です。今日の物差しに当たるのは物理面で、機能面だけで一個と言えるかは、最後の問いにつながります。廻廊でつながっていれば足りる、という判例ではありません。木造で、延焼の可能性を否定できない、という事実が、根拠に入っています。決め手を1文で言うと、こうです。この社殿は、一部に火がつけば、人の寝ている部分を含む全体に危険が及ぶ構造だったので、人への危険という108条の重さの根拠が、全体にあったのです。

燃やした部分と人のいる部分が、燃え移りうる形でつながっている点で、冒頭の店舗兼住宅と同じです。規模が違うだけで、考え方は同じです。

今日の地図(保存版)

客体の一個性・整理 図:客体の一個性・整理

まとめます。冒頭の答えです。木造で、階段や天井でつながる店舗兼住宅は、1階の倉庫の火が2階に届きうる形です。だから全体が一つの現住建造物で、倉庫だけに放火しても、108条の問題になります。問題の所在は、人のいる部分と、いない部分からなる建物の、いない部分への放火で、全体を一つと見るか、分けて見るかです。決め手は、108条が重い理由でした。建造物内の人に対する危険が及ぶか、で決めます。物理面では、類型的な延焼可能性です。現実に燃え移ったかではなく、普通に考えて、燃え広がりうるかを見ます。平安神宮の決定は、木造で廻廊や歩廊がつながり、延焼の可能性を否定できない社殿の全体を、一個の現住建造物としました。判旨は、機能面も述べていました。最後に、次の問いです。では、燃え広がる見込みが乏しいときは、どうなるのか。

参照条文

  • 刑法108条

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