刑法ゼロから刑法#163

難燃性建造物と機能的一体性

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第17章 社会的法益|公共の平穏・取引の安全・風俗 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

空き部屋の内装だけを燃やした

問い・コンクリート造の空き部屋に放火 図:問い・コンクリート造の空き部屋に放火

前回の続きです。建物の一部にだけ人がいるとき、決め手は、燃やした場所ではなく、その火が人のいる部分に危険を及ぼすかどうかでした。まず物理面で、普通に考えて燃え広がりうるか、つまり類型的な延焼可能性を見ました。木造で廻廊がつながる平安神宮の社殿は、その代表例でした。今日は、その物差しが効きにくい場面を扱います。問いを二つ出します。一つ目。鉄筋コンクリート造の集合住宅で、住人のいない空き部屋の内装にだけ、火をつけました。壁も床もコンクリートで、燃えにくい建物です。ほかの部屋には住人がいます。これは、人のいる建物への放火になるでしょうか。

燃えにくい建物なら、軽く見えるかもしれません。二つ目の問いです。同じ集合住宅の、エレベーターに火をつけたら、どうでしょう。エレベーターは、ロープで下がっている箱にすぎず、住戸とは構造上ほとんど接していません。それでも、住宅への放火になるのでしょうか。答えの方向だけ先に言います。決め手は、やはり、その火が人のいる部分に危険を及ぼすかどうかです。前回の物理面に加えて、機能面という、第二の見方があります。

燃えにくい建物でも、一体か

難燃性建造物・回る余地は消せない 図:難燃性建造物・回る余地は消せない

ここで1問です。前回、類型的な延焼可能性の、類型的、とは、どういう意味でしたか?現実に燃え移ったかではなく、普通に考えて、燃え広がりうる形になっているか、という意味でした。では、冒頭の空き部屋に戻ります。空き部屋と、住人のいる部屋は、同じ建物で、物理的にはつながっています。ただ、鉄筋コンクリートは燃えにくい。そこで、こう考えたくなります。難燃性の建物なら、延焼可能性はない。だから分けて見て、空き部屋は、人が住まず、人もいない建造物として、109条の問題になる。そういう考え方です。結論から言います。この考え方は、多くの場合、とりません。燃えにくい造りでも、火が別の部屋へ回る余地を、完全には消せないからです。だから、たいていは、延焼の可能性がまだあると言えます。空き部屋も、住人のいる部分と一体の、一つの現住建造物になり、108条の問題です。

燃えにくいことと、燃えないことは、別のことです。たとえば、空き部屋の玄関のドアや窓が開いていれば、火は外の廊下やベランダへ回れます。そこに可燃物があれば、そちらから隣の部屋に届くかもしれません。天井裏や配管のまわりを、火や熱が伝うこともあります。ここは、たとえば、という話です。個別の事案で経路を確かめる、という意味ではありません。類型的に、普通に考えて、火が届きうる余地が残る、ということです。同じ観点で、現住性を肯定した高裁の裁判例もあります。注意が二つあります。一つ目。言えるのは、多くの場合は、です。常に、ではありません。二つ目。ここで見ているのは、一つの建物として見るかどうか、だけです。条文で確認します。今日も、建造物、という言葉に注目してください。

条文刑法108条

刑法108条(現住建造物等放火) 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。

冒頭の一つ目の答えです。鉄筋コンクリート造の集合住宅でも、空き部屋への放火は、多くの場合、住人のいる部分と一体です。人のいる建物への放火として、108条の問題になります。決め手は、前回と同じです。その火が、人のいる部分に届きうるか。燃えにくくても、届きうる余地が残る以上、人への危険は消えません。

つながりが弱くても、一体か

エレベーターと住宅部分・二種類のつながり 図:エレベーターと住宅部分・二種類のつながり

ここで1問です。エレベーターは、ロープで下がっている箱にすぎません。物理的なつながりが弱いなら、分けて見るべきでしょうか?物理面だけを見れば、分けて見る結論になりそうです。エレベーターは吊るされているだけですから、住まいへの延焼可能性は否定されそうです。まして、素材が燃えにくければ、なおさらです。ところが、結論は違います。物理的なつながりに欠けても、現住や現在の部分との、機能的な一体性が認められるなら、なお現住建造物、現在建造物として扱います。理由は、この場合にも、建造物の中にいる人に対する危険が認められるからです。判断の根っこは、前回と同じです。

建物のそれぞれの部分が、住む人の生活の中で、一体のものとして働いているか、という面です。集合住宅のエレベーターは、住人が自分の部屋へ出入りするための通り道で、いわば、玄関の延長です。玄関が燃えれば、住人は出入りも避難もできなくなります。エレベーターで火が出ても、同じです。火が燃え移らなくても、住人の出入りや避難が直接に脅かされる。そこに、人への危険があります。離れて建つ別棟なら、話は違います。たとえば、集合住宅から離れて建つ、中に誰もいない物置小屋に火をつけたとします。物理的なつながりは無く、住人の出入りや避難の通り道でもありません。住まいへの延焼も、出入りや避難の妨げも、普通は考えにくい。物理面でも機能面でも一体と言えなければ、分けて見ます。判例を読みます。集合住宅のエレベーターに放火した事案です。

判例最決平1・7・7 集刑252号203頁

エレベーターへの放火 なお、一、二審判決の認定によれば、被告人は、一二階建集合住宅である本件マンシヨン内部に設置されたエレベーターのかご内で火を放ち、その側壁として使用されている化粧鋼板の表面約〇・三平方メートルを燃焼させたというのであるから、現住建造物等放火罪が成立するとした原審の判断は正当である。

決定文は短いです。12階建ての集合住宅のエレベーターのかごの中で火をつけ、側壁の鋼板を、約0.3平方メートル燃やした。この事実のもとで、現住建造物等放火罪が成立するとした原審の判断は正当だ、と述べます。理由は書かれていません。ですから、機能的な一体性、玄関の延長、という言葉は、決定文にはありません。この結論は、エレベーターを玄関の延長と見て、現住部分との機能的な一体性がある、と見ることで説明されます。判例が言った理由ではなく、結論の説明として持ってください。わずかな焼け方でも成立するのか、という疑問は残ります。ただ、それは、燃えたと言えるか、という別の問題です。今日は、エレベーターを一つの現住建造物の一部と見るか、だけです。決め手を1文で言います。エレベーターは、住人の出入りと避難の通り道で、そこで火が出れば、建物の中の人が危険にさらされるから、住宅と一体と見るのです。冒頭の二つ目の答えは、住宅への放火として、108条の問題になる、です。

判断の手順と、答案での位置

判断の手順・物理面から機能面へ 図:判断の手順・物理面から機能面へ

判断の手順を、一本にまとめます。人のいる部分と、そうでない部分からなる建造物の、そうでない部分に放火したとします。まず一つ目。物理面です。現住や現在の部分へ、類型的な延焼可能性があるか。難燃性の建物でも、多くの場合は肯定されます。あれば、全体を一つの現住建造物と見て、108条です。物理面で延焼可能性が乏しいときは、二つ目に進みます。機能面です。現住や現在の部分との、機能的な一体性があるか。エレベーターのように、玄関の延長として一体に働いていれば、なお108条です。どちらもなければ、三つ目。さっきの、離れて建つ物置小屋のように、分けて見て、109条以下の問題です。この手順の縦串は、どの段も同じです。建造物の中にいる人に対する危険が、そこに及ぶか。この一本の理由で、物理面と機能面を並べています。

実際の判例は、物理面と機能面を並べて、総合して判断しています。平安神宮での機能面は、社殿の全体が、日夜、人の起居に使われていた、という使われ方でした。今日のエレベーターも、住人が出入りし避難する通り道、という使われ方です。どちらも、建物がどう使われているかから、人への危険を見ています。二段は、答案で整理するときの手順と考えてください。もう一つ、区別しておきます。ここで1問です。以前、建造物損壊で、物が建物の一部といえるかは、どんな二つの要素で決まりましたか?接合の程度と、建物における機能上の重要性、でした。同じ、一体性、という言葉ですが、目的が違います。建造物損壊の、建物の一部か、は、損壊の対象になる範囲を決めるものでした。放火の一個性は、人への危険がどこまで及ぶか、つまり、どこまでを一つの現住建造物と見るかを決めるものです。どちらにも、機能、という言葉が出ます。建造物損壊の、機能上の重要性は、その物が建物の役に立っているか。放火の、機能的な一体性は、その部分が住む人の出入りや生活とつながっていて、火が人に危険を及ぼすか、です。最後に、答案での位置です。この論点で、どの条文の罪で検討するかが決まります。重い108条になるのか、それより軽い109条や110条にとどまるのか、その分かれ目です。どの条文の構成要件に当てはめるかを選ぶので、構成要件選択の論点と呼びます。どの罪かが決まらないと、その先の検討に進めません。だから、通常は、答案の冒頭で検討します。論文で論点になりうるところです。

整理と、冒頭の答え

客体の一個性・整理 図:客体の一個性・整理

まとめます。冒頭の二つの問いに答えます。一つ目。鉄筋コンクリート造の集合住宅の空き部屋に放火しても、燃えにくいだけで、延焼のおそれが絶対にないとはいえません。多くの場合は、なお延焼可能性を肯定できて、全体が一つの現住建造物になります。108条の問題です。二つ目。エレベーターは、物理的なつながりが弱くても、玄関の延長として、機能的に一体です。住宅への放火として、108条の問題です。物差しは、最初から一本です。その火が、建造物の中にいる人に対する危険を、及ぼすか。物理面では、類型的な延焼可能性を見ます。難燃性でも、多くは肯定です。物理面が弱くても、機能面の一体性があれば、なお一つと見ます。どちらもなければ、分けて見て、109条以下です。この手順は、答案の冒頭で使います。今日のエレベーターの事案も、もう一度出てきます。

参照条文

  • 刑法108条

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