往来妨害罪と往来危険罪
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第17章 社会的法益|公共の平穏・取引の安全・風俗 ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
道をふさいだAと、線路に石を置いたB
図:問い・二つの「道の邪魔」
前回で、放火の罪は終わりました。今日は、同じく安全を守る罪のもう一つ、往来を妨害する罪に入ります。設例を二つ出します。Aは、近所の人が何十年も買い物や通学に使ってきた、幅3メートルほどの道の真ん中に、コンクリートブロックを積み上げて、人も自転車も通れなくしました。道の土地は、Aの所有です。Bは、腹いせに、郊外の単線の線路の上に、大きな石を置きました。運転士が石に気づいて急ブレーキをかけ、石の手前で電車は止まりました。誰も怪我をしていません。道をふさいだAと、線路に石を置いたBは、罪名も刑も違います。しかも、刑は桁違いです。決め手は、条文が要求している結果の段階です。先に結論だけ言うと、AもBも罪になり、Bの方がずっと重くなります。理由を、順に見ていきます。
図:今日の道筋
道筋です。まず、罪の全体の地図。次に、道をふさぐ罪。そこで人が死傷したとき。そのあと、線路や航路を危険にさらす罪。最後に、二つの違いを整理して、AとBの答えを出します。
危険の階段
図:危険の階段・4段
まず、守るものです。前に、公共危険罪は、不特定または多数の人の生命、身体、財産への危険を守る罪で、実害を待たず、危険の段階で処罰する、と見ました。往来を妨害する罪もその一つです。放火では、火が燃え広がることで、その危険が生じました。往来の罪では、交通を通じて、その危険が生じます。往来の罪が守るのは、道路、橋、線路、航路と、その上を動く人や乗り物の安全、つまり公衆の交通の安全です。罪は、4つの条文で、階段のように組まれています。表を見てください。124条が往来妨害、125条が往来危険、126条が汽車転覆等、127条が往来危険による汽車転覆等です。上に行くほど、三つのことが変わります。一つ目は、客体が絞られます。124条は道路、水路、橋と広いですが、125条は鉄道と艦船、126条は現に人がいる乗り物だけです。二つ目は、結果が重くなります。通れなくなる、事故のおそれが生じる、実際に転覆する、という順です。三つ目は、刑が重くなります。なぜこの順に重くなるのか。通れないだけなら、人は立ち止まるか、回り道ができます。事故のおそれが生じると、一度に大勢が死傷しかねない、一歩手前です。実際に転覆すれば、それが現実になります。上の段ほど、大勢の命に近づくので、刑も重くなるのです。刑の数字を見てください。124条1項は、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金です。125条は、2年以上の有期拘禁刑で、上限は20年です。124条の上限の2年が、125条では下限になります。一段上がると、軽い罰金刑が消えて、最低でも2年、最高で20年の拘禁刑になります。
今日は、下の2段、124条と125条です。
往来妨害罪
図:124条1項・条文
ここで1問です。前回までに見た、具体的危険犯と抽象的危険犯は、条文のどこを見て分けましたか?その危険が発生したことを、条文が要件にしているかどうかです。放火では、公共の危険という言葉がありました。往来の罪では、往来の妨害を生じさせた、往来の危険を生じさせた、という言葉が、同じ役割をします。条文にその状態が生じたことが書かれているので、124条も125条も具体的危険犯です。では、条文です。
条文刑法124条1項
刑法124条1項(往来妨害) 陸路、水路又は橋を損壊し、又は閉塞して往来の妨害を生じさせた者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。
読み方は、客体、行為、結果の三つです。まず客体。陸路、水路、橋です。陸路は道路です。水路は、船やいかだが通る河川や運河です。橋は、陸橋や桟橋も含みます。ただし、鉄道専用の橋は含みません。それは、次に見る125条の、鉄道の側です。この三つに共通する条件があります。公衆の往来の用に供されていること、です。一般の人が通る道として使われているか、で決まります。特定の人しか通らない、ある家の庭先の通路のようなものは、外れるとされています。その道の土地が誰のものかは、関係ないのですか。関係ありません。判例があります。事案は、被告人が、自分の所有地の一部に杭を打ち、有刺鉄線を張って、通れなくしたものです。その部分は町村道として認められ、長年、集落から市街地へ通じる唯一の車馬の道として使われていました。判旨です。
判例最決昭32・9・18 集刑120号457頁
陸路の意義 刑法第一二四条第一項にいう陸路とは、公衆の往来の用に供せられる陸上の通路を指称し、その通路敷地所有権が何人に属するかを問わない。
読みどころは、敷地の所有権を問わない、の一点です。決め手は、誰の土地かではなく、公衆の往来の用に供されているか、です。この罪が守るのは、道を通る人たちの交通の安全でした。ふさがれて困るのは通る人なので、土地の持ち主が誰かでは、結論は変わりません。自分の土地でも、公衆が通る道なら、ふさげば罪になります。次に、行為です。損壊と閉塞の二つです。損壊は、物理的な損壊に限る、というのが通説です。橋を壊す、道を掘り崩す、といったことです。心理的に通りにくくしただけでは、当たりません。たとえば、道の脇に、この先通行止め、と書いた偽の看板を立てた。道は物理的にはあいたままなので、損壊でも閉塞でもありません。
毀棄の罪の損壊は、物の効用を害することでした。字は同じ損壊でも、124条の損壊は、それより狭く、物理的なものに限られます。罪が違えば、範囲が違うということです。閉塞は、障害物でふさぐことです。ブロックを積む、バリケードを築く、土砂を積む、などです。
図:妨害の意味・通れない状態
結果です。往来の妨害とは、損壊や閉塞によって、人や車両などの通行を、不可能または困難にする状態をつくり出すことです。特定の人が、現に妨げられた事実は要りません。通れなくなった人がいたかどうかは問わず、その状態ができれば既遂です。未遂は、128条で罰します。たとえば、ブロックを積み始めたところで止められ、通行はできたままだった場合です。
図:冒頭のA・あてはめ
冒頭のAに当てます。Aの道は、近所の人が何十年も使ってきた、公衆の往来の用に供されている陸路です。Aの所有地でも、問いません。ブロックを積み上げたのは閉塞です。人も自転車も通れなくなったので、往来の妨害が生じています。124条1項が成立します。刑は、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金です。前に見たとおり、234条の威力業務妨害が守るのは、業務活動そのものでした。124条が守るのは、公衆の交通の安全です。同じ道をふさいでも、守るものが違う、ということです。ここでは、別の罪としての検討になる、と押さえれば足ります。
往来妨害致死傷罪
図:124条2項・条文
遺棄の罪の回を思い出してください。ここで1問です。傷害の罪と比較して、重い刑とは、上限と下限をどう比べるのでしたか?上限どうし、下限どうしを別々に比べて、それぞれ重い方を採るのでした。今日も、同じ比べ方で数字を出します。次は、道をふさいで、人が死傷したときの条文です。
条文刑法124条2項
刑法124条2項(往来妨害致死傷) 前項の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
構造は、結果的加重犯です。基本の犯罪は、往来妨害罪。よって、が目印です。故意を超えた死傷の結果が加わる型でした。重い結果、つまり死傷は、認識も認容も要りません。判例があります。事案です。被告人は、橋が台風で壊れたように見せかけて、補助金を得ようとしました。そこで、現に人が通れる吊り橋の大部分を、人に壊させました。壊している最中に、予想を超えて橋が落ち、通行人と作業員が死傷しました。最高裁は、死傷への責任を否定しませんでした。判旨です。
判例最判昭36・1・10 刑集15巻1号1頁
往来妨害致死傷罪の成立要件 刑法一二四条二項の罪が成立するためには、同条列記の客体を損壊または壅塞して往来の危険を生ぜしめる意思があれば足り、それ以外にさらに傷害ないし傷害致死の結果につき予見あることを要するものではない。
読みどころは、死傷の結果の予見は要らない、の一点です。判決文の壅塞は、今の条文の閉塞と同じ意味です。ここで、注意があります。判決文は、往来の危険、と書いています。しかし、この意味は、1項の往来の妨害です。125条の、往来の危険とは別物です。混ぜないでください。もう一つ。基本犯が既遂であることが前提です。往来妨害罪が既遂に達したうえで、死傷が生じた場合の規定なので、損壊や閉塞の行為そのものによる死傷は含まないのが通説です。この立場では、たとえば道を掘り崩す作業そのもので崩れた土砂に通行人が巻き込まれて死亡した場合は、2項ではなく、往来妨害罪と過失致死罪が成立し、両者は観念的競合になります。ところで、先ほどの判例の事案は、吊り橋を壊している最中に橋が落ちた場面でした。この通説との関係の評価は、分かれうるところです。ここでは、判例は、傷害の予見が要らない、という点だけを使ってください。
図:2項の法定刑・計算結果
刑です。傷害の罪と比べるのは、道をふさいで人を死傷させたのに、直接傷つけた場合より軽く済んでは、釣り合わないからです。124条1項は、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金です。下限は書いていないので、有期拘禁刑そのものの下限である1か月です。傷害罪の204条は、15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金でした。致傷の場合、下限はどちらも1か月、上限は204条の15年が重い。罰金も、204条の50万円が重い。よって、1か月以上15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。致死の場合は、傷害致死罪の205条、3年以上の有期拘禁刑と比べます。下限は3年と1か月、上限は20年と2年で、どちらも205条が重い。よって、3年以上の有期拘禁刑で、上限は20年です。拘禁刑の幅は、建造物損壊の致死傷で見た数字と同じです。こちらは、124条1項にも204条にも罰金があるので、致傷では罰金も選べます。最後に、未遂です。条文です。
条文刑法128条
刑法128条(未遂罪) 第百二十四条第一項、第百二十五条並びに第百二十六条第一項及び第二項の罪の未遂は、罰する。
124条で挙がっているのは、1項だけです。結果的加重犯の2項には、未遂がありません。
往来危険罪
図:125条・条文
次は、線路や航路の罪です。条文です。
条文刑法125条
刑法125条(往来危険) 鉄道若しくはその標識を損壊し、又はその他の方法により、汽車又は電車の往来の危険を生じさせた者は、二年以上の有期拘禁刑に処する。 灯台若しくは浮標を損壊し、又はその他の方法により、艦船の往来の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。
汽車、電車と、艦船は、一度に大勢の人を乗せて動く、重要な交通手段です。脱線や衝突が起きれば、多くの人が一度に死傷しかねません。その往来の危険を生じさせる行為を、124条より重く処罰するのが、趣旨です。客体は、1項が汽車と電車、2項が艦船です。条文に並んだものだけです。自動車は、列挙されていません。自動車が走る道の側は、124条の客体でした。行為です。1項は、鉄道か、その標識を損壊する、またはその他の方法です。鉄道とは、汽車や電車の運行に直接必要な一切の施設をいい、線路だけでなく、枕木やトンネル、鉄道専用の橋も含みます。標識は、信号機などの、目印になる物です。2項は、灯台か浮標の損壊です。灯台は、夜の海で船に位置や進路を知らせる、陸の上の明かりの施設です。浮標は、水上の標示物、つまりブイです。灯台を壊して明かりを使えなくする、ブイを流したり沈めたりして目印を失わせる、などです。大事なのは、その他の方法です。往来の危険を生じさせる行為なら、何でも入ります。線路に障害物を置く、無人の電車を暴走させる、線路脇の土地を掘る、などです。行為は、事実上、限定がありません。だから、結果、つまり往来の危険が、罪の本体になります。では、往来の危険とは何か。判例です。決定文の、往来ノ危険は、今の条文の、往来の危険と同じ意味です。判旨に出てくる、必然的は、必ず起きること、蓋然的は、起きる見込みが高いこと、です。
判例最決平15・6・2 刑集57巻6号749頁
往来の危険の意義 「往来ノ危険」とは,汽車又は電車の脱線,転覆,衝突,破壊など,これらの交通機関の往来に危険な結果を生ずるおそれのある状態をいい,単に交通の妨害を生じさせただけでは足りないが,上記脱線等の実害の発生が必然的ないし蓋然的であることまで必要とするものではなく,上記実害の発生する可能性があれば足りる
図:妨害と危険・対比
ポイントは三つです。一つ目。脱線、転覆、衝突、破壊など、危険な結果を生ずるおそれのある状態、です。二つ目。単に交通の妨害を生じさせただけでは足りません。124条の水準では足りない、ということです。三つ目。実害の発生が必然的、蓋然的であることまでは要らず、実害の発生する可能性があれば足ります。そこまで待たないのは、一度事故が起きれば、取り返しがつかないからです。具体的危険犯です。災害が現実に起きたことや、往来が現実に妨げられたことは、要りません。条文が、危険を生じさせた、と書いているからです。放火の、公共の危険と、混ぜないでください。公共の危険は、一般人がその場で危ないと感じるかで見ました。往来の危険は、判例の言葉のとおり、脱線などの実害が起きる可能性があるかで見ます。同じ具体的危険犯でも、何を危険と見るかの言葉が違います。
図:判例の二つの事案
妨害はあるのに危険がない、という場合は、あるのですか。あります。別の最高裁判決の事案です。駅の信号所で、電車の通行に必要な信号操作をせず、放置しました。しかし、連動式の信号装置のもとでは、操作をしなければ、各信号は停止信号になり、電車は手前で止まります。停止信号の手前では、低速で進む決まりがあり、見通しもよく、昼間でした。電車の運行は妨げましたが、脱線や衝突のおそれのある状態は、生じていません。最高裁は、往来の危険を否定し、業務妨害の点だけを有罪にしました。妨害はあっても、危険はない例です。道路でいえば、渋滞は起こしたけれど、事故を起こしかけてはいない、という状態です。逆に、認められた例です。こちらが、先ほど見た判例の事案です。国鉄に防災工事の費用の分担を拒まれて憤慨した者が、自分の所有地を、線路との境界沿いに、パワーショベルで深く掘りました。線路脇の電柱付近の土砂が崩れ、掘削の断面が電柱のすぐそばまで迫って、電柱が倒れかねず、電車が脱線しかねない状態になりました。国鉄職員らは危険と判断して、電車の運行を止めました。最高裁は、往来の危険を肯定しました。自分の所有地を掘っただけでも、その他の方法として成立します。
図:冒頭のB・あてはめ
冒頭のBに当てます。Bは、線路の上に大きな石を置きました。その他の方法です。大きな石に乗り上げれば、電車が脱線や転覆するおそれがあります。実害の発生する可能性があり、往来の危険が生じています。運転士が気づいて止まったことや、誰も怪我をしていないことは、関係ありません。現実に事故が起きたことは、要らないからです。125条1項が成立します。刑は、2年以上の有期拘禁刑です。124条なら2年以下で、罰金もありました。ここは、最低でも2年です。ただし、小石なら、危険の可能性が否定されることもあります。石の大きさ、置いた位置、見通し、運行の状況、といった事案の具体的な事情で決まります。往来の危険が生じたといえるか、という点は、論文で論点になりうるところです。未遂は、128条が罰します。たとえば、石を運んで線路に置こうとしたところを、取り押さえられた場合です。
整理と、冒頭の答え
図:124条と125条の対比
まとめます。124条は、陸路、水路、橋を、物理的に損壊するか、閉塞して、往来の妨害を生じさせる罪です。公衆の往来の用に供されていればよく、敷地の所有者は問いません。特定の人が現に妨げられなくても、通行が不可能または困難な状態ができれば既遂で、具体的危険犯です。2項は結果的加重犯で、死傷の予見は要りません。刑は、傷害の罪と比較して重い刑で、未遂はありません。125条は、汽車、電車、艦船の往来の危険を生じさせる罪です。行為は、鉄道や標識、灯台、浮標の損壊と、その他の方法です。往来の危険は、単なる妨害では足りず、実害の発生する可能性があれば足ります。これも具体的危険犯で、刑は2年以上の有期拘禁刑です。冒頭の答えです。Aは、自分の土地でも、公衆の往来の用に供されている道を、ブロックでふさいで通れなくしました。124条1項が成立します。決め手は、所有権ではなく、公衆の往来の用に供されているかと、通れない状態ができたかです。Bは、線路に大きな石を置きました。誰も怪我をしていなくても、125条1項が成立します。決め手は、妨害ではなく、事故のおそれ、つまり実害の発生する可能性が生じたことです。刑が桁違いなのは、結果の段階が、通れない状態から、事故のおそれへと、一つ上がっているからです。
参照条文
- 刑法124条1項
- 刑法124条2項
- 刑法128条
- 刑法125条