特別公務員職権濫用罪と暴行陵虐罪
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第18章 国家的法益|国家の存立・国交・国家の作用 ⑭/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
警察官が理由なく逮捕したら
図:今日の流れ
前回は、公務員職権濫用罪、193条を見ました。今日は、その先を見ます。警察官が、逮捕する理由がないと知りながら、通行人を逮捕しました。一般の人が同じことをしたら、逮捕監禁罪です。刑は、220条が定める、三月以上七年以下の拘禁刑です。警察官がすると、何が変わるのでしょうか。人を逮捕する権限を預かった者が、その権限で人の身体を拘束したのに、一般の人より軽い刑で済むのは、釣り合いません。そこで、194条以下が、重い刑を用意しています。今日は、194条、195条、196条の順に見ます。最後に、193条も含めた四つの罪を、表で整理します。
194条 特別公務員職権濫用罪
図:220条と194条
次は、194条です。入る前に、一つ問いです。前に見た身分犯の二種類のうち、身分がなければ、その犯罪自体が成立しないのは、どちらだったか? もう一方は、身分があると何が変わるか?身分がなければ成立しないのは、真正身分犯です。もう一方の不真正身分犯は、身分がなくても犯罪は成立しますが、身分があることで、刑が重くなったり軽くなったりします。194条は、この不真正身分犯の側です。条文です。
条文刑法194条
刑法194条(特別公務員職権濫用) 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
主体は、裁判、検察、警察の職務を行う者です。裁判官、検察官、警察官です。そして、これらの職務を補助する者です。たとえば、裁判所書記官や、検察事務官です。193条の公務員の中から、裁判、検察、警察の職務に関わる者だけを、取り出した形です。罪名では、この人たちを、特別公務員と呼んでいます。行為は、職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁することです。逮捕監禁罪の回で見たとおり、逮捕は、人の身体を直接拘束して、身体活動の自由を奪うこと、監禁は、人の身体を間接的に拘束して、身体活動の自由を奪うことでした。「職権を濫用して」は、193条と同じ言葉です。前回見たとおり、職権とは、一般的職務権限のうち、相手に、法律上、事実上の負担や不利益を生じさせるに足りる、特別の職務権限でした。濫用とは、職権の行使に仮託して、つまり職権を行使する形を借りて、実質的、具体的に違法、不当な行為をすることでした。同じ言葉なので、ここでは、この読み方を194条にもそのまま使って整理します。冒頭の警察官でいえば、逮捕する権限は、相手の身体の自由を奪う、特別の職務権限です。逮捕する理由がないと知りながら、逮捕という形を借りて拘束したので、濫用です。220条と並べます。220条は、誰でも、三月以上七年以下の拘禁刑です。194条は、特別公務員で、六月以上十年以下の拘禁刑です。身分があることで、刑が重くなっています。ですから、不真正身分犯です。主体は、193条の公務員の中から取り出しましたが、刑の土台は、193条ではなく、220条です。193条は、公務員でなければ成立しない、真正身分犯でした。そこが違います。最初の問いの答えです。理由なく逮捕した警察官は、一般の人なら三月以上七年以下のところ、六月以上十年以下になります。下限も上限も上がります。人の身体を拘束する権限を預かった者が、その権限を濫用したので、重く扱われるのです。
図:「補助する者」の範囲
判例は、入らない、としました。195条1項の事案ですが、「これらの職務を補助する者」は、194条と同じ言葉です。警察署長から委嘱を受けた少年補導員が、少年補導に従事中、暴行を加えた事案です。事実から見ます。
判例最高裁判所第三小法廷決定(平成6年3月29日・刑集48巻3号1頁)
少年補導員が暴行を加えた事案の事実 「原決定の認定によれば、被疑者Aは、本件当時大阪府泉北警察署長から委嘱を受けた少年補導員であり、同警察署の警察官ら及び他の少年補導員らとともに少年補導に従事していたものであるが、申立人及びその友人らと少年補導員らとがもみ合いになった際、申立人に対し暴行を加えたというのである(なお、原決定は、右暴行について右Aと警察官らとの共謀は認められないとしている。)。」
この事案も、前回見た付審判請求という手続で、争われました。検察官が起訴しなかったとき、告訴や告発をした人が、裁判所に、審判に付するよう求める制度でした。判断を見ます。
判例最高裁判所第三小法廷決定(平成6年3月29日・刑集48巻3号1頁)
「警察の職務を補助する者」の範囲 「刑法一九五条一項は、「裁判、検察、警察ノ職務ヲ行ヒ又ハ之ヲ補助スル者其職務ヲ行フニ当リ」と規定しているところ、同条項は、これらの国家作用の適正を保持するため、一定の身分を有する者についてのみその職務を行うに当たってした暴行、陵虐の行為を特別に処罰することとしたものであり、このような特別の処罰類型を定めた刑法の趣旨及び文理に照らせば同条項にいう警察の職務を補助する者は警察の職務を補助する権限を有する者でなければならないと解するのが相当である。」
判例最高裁判所第三小法廷決定(平成6年3月29日・刑集48巻3号1頁)
少年補導員への当てはめ 「少年補導員は、警察署長から私人としての協力を依頼され、私人として、その自発的意思に基づいて、警察官と連携しつつ少年の補導等を行うものであって、警察の職務を補助する職務権限を何ら有するものではないというべきである。したがって、右Aは刑法一九五条一項にいう警察の職務を補助する者に該当せず、同人の本件行為は付審判請求の対象とならないとした原決定は、正当である。」
決め手は、権限を預かっているかどうかです。195条は、裁判、検察、警察という国の働きを適正に保つために、その権限を預かった者の暴行、陵辱、加虐を、特別に罰する条文です。少年補導員は、私人として協力しているだけで、権限を預かっていません。ですから、事実上、手伝っているだけでは、補助する者になりません。同じ言葉を使う194条の、補助する者も、同じ読み方で整理されます。
195条 特別公務員暴行陵虐罪
図:195条の読み方
次は、195条です。特別公務員暴行陵虐罪です。
条文刑法195条
刑法195条(特別公務員暴行陵虐) 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、七年以下の拘禁刑に処する。 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、前項と同様とする。
法定刑は、七年以下の拘禁刑です。1項も2項も、同じです。主体です。1項は、194条と同じです。裁判、検察、警察の職務を行う者と、補助する者です。補助する者の範囲は、先ほどの判例のとおりです。2項は、法令により拘禁された者を看守し、又は護送する者です。逃走罪の回で見た101条の主体と、同じ言葉です。たとえば、刑務官や、被疑者を護送する警察官です。客体は、被告人、被疑者その他の者です。証人や参考人なども含みます。そして、時は、その職務を行うに当たり、です。194条と違って、職権を濫用して、とは書かれていません。194条は、逮捕という権限の形を借りた場合でした。195条は、形を借りる必要がありません。取調べなど、職務をしている場面で殴れば、それで足ります。逆に、休日に、私的な口論で人を殴った警察官は、職務を行うに当たってではないので、195条ではなく、暴行罪です。行為は、二つです。一つ目は、暴行です。ここでは、暴行罪の暴行と同じく、人の身体に対する不法な有形力の行使として整理します。人に向けられた有形力であれば足りる、と広く読む見解も、あります。二つ目は、陵辱若しくは加虐の行為です。暴行以外の方法で、精神上又は肉体上の苦痛を与える、一切の虐待行為を指します。たとえば、取調べの間、長時間、休ませずに立たせ続けること、食事を与えないこと、用便に行かせないこと、わいせつな行為、侮辱的な言動です。
図:身分犯の種類
身分犯の種類を見分ける方法は、一つです。195条から身分を外したとき、同じ行為を罰する条文が、残るかです。暴行は、残ります。一般の人がしても、暴行罪、208条が成立します。身分があることで、刑が重くなるので、不真正身分犯です。194条が、220条に身分で刑を足したのと、同じ形です。陵辱、加虐は、残りません。苦痛を与える虐待行為そのものを、誰がしても罰する条文は、ないからです。一般の人の行為が、侮辱罪や強要罪に当たることは、あります。ただ、それは、それぞれの罪の要件を、別に満たしたときです。陵辱、加虐に当たれば必ず成立する、という関係ではありません。ですから、陵辱、加虐は、身分があってはじめて成立する、真正身分犯です。行為ごとに分けて、このように整理されます。性犯罪との関係です。陵辱、加虐の行為が、不同意わいせつ罪、176条や、不同意性交等罪、177条にも当たるときは、195条と、観念的競合になると整理されます。一つの行為が、国家作用の適正と、個人の性的自由という、別のものを害するので、両方の評価が要るからです。
196条 致死傷と刑の計算
図:196条の計算
最後の条文、196条です。194条と195条の、結果的加重犯です。
条文刑法196条
刑法196条(特別公務員職権濫用等致死傷) 前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
逮捕監禁罪の回で見た、221条と同じ形です。221条は、220条の逮捕、監禁の罪を犯して、その結果、人を死傷させた場合の、結果的加重犯でした。そのときと同じ計算の仕方をします。上限と下限を、それぞれ、傷害の罪と比べて、重いほうを採用します。こうすると、基本の罪だけのときより軽くも、傷害の罪だけのときより軽くも、なりません。比べる相手は、致傷なら、傷害罪です。刑は、204条が定めています。十五年以下の拘禁刑か、五十万円以下の罰金です。罰金は、拘禁刑より軽い刑なので、比べるのは、拘禁刑どうしです。下限は、条文に書かれていません。書かれていないときは、刑法12条1項で決まります。12条1項は、有期拘禁刑は一月以上二十年以下、と定めています。ですから、傷害罪は、一月以上十五年以下です。致死なら、傷害致死罪です。刑は、205条の、三年以上の有期拘禁刑です。上限が書かれていないので、同じ12条1項で、二十年です。195条の基本の罪も、下限が書かれていないので、下限は一月です。四通りを見ます。194条の罪の致傷。基本は六月以上十年以下、傷害罪は一月以上十五年以下です。下限は六月の方が重く、上限は傷害罪の十五年の方が重いので、六月以上十五年以下です。194条の罪の致死。基本は六月以上十年以下、傷害致死罪は三年以上二十年以下です。下限も上限も、傷害致死罪の方が重いので、答えは、三年以上二十年以下です。
195条の罪の致傷。基本は一月以上七年以下、傷害罪は一月以上十五年以下です。下限は同じ一月で、上限は傷害罪の十五年の方が重いので、一月以上十五年以下です。195条の罪の致死。基本は一月以上七年以下、傷害致死罪は三年以上二十年以下です。下限も上限も傷害致死罪の方が重いので、三年以上二十年以下です。もう一つ。221条のときと同じく、死傷の結果は、基本の罪、つまり逮捕、監禁や、暴行、陵辱、加虐との間に、因果関係があることが必要です。たとえば、違法に逮捕された人が、逮捕とは無関係な持病の発作で亡くなったときは、196条ではなく、194条にとどまります。
4つの罪の整理と弁別
図:4つの罪の一覧
四つの罪を、一枚の表で整理します。見分ける手がかりは、誰がしたかと、何をしたかです。193条は、公務員が、職権を濫用して、義務のないことを行わせ、権利の行使を妨害する罪で、真正身分犯です。194条は、裁判、検察、警察の職務を行う者と、補助する者が、職権を濫用して、逮捕、監禁する罪で、220条の加重にあたる不真正身分犯です。195条は、194条の主体に、看守者、護送者を加え、職務を行うに当たり、暴行、陵辱、加虐をする罪です。暴行は不真正身分犯、陵辱、加虐は真正身分犯と整理されます。196条は、194条と195条の罪を犯して、人を死傷させる、結果的加重犯です。
図:法定刑の階段
法定刑も並べます。193条は、二年以下です。194条は、六月以上十年以下です。195条は、七年以下です。力が人の身体に向かう194条と195条は、どちらも、上限が、193条の二年より高くなっています。196条の四通りは、先ほどの計算の表のとおりです。
図:弁別ミニ事例
事例を五つ、考えてください。見るのは、職権を使ったか、誰が、何をしたか、です。はじめの二つは、前回の終わりに考えた、税務署の調査官です。一つ目は、場面を少し変えます。税務署の調査官が、調査の必要がないと知りながら、調査に必要だと言って、嫌がらせのために、事業者に帳簿を持ってこさせました。どの罪でしょうか。二つ目は、前回と同じ事例です。同じ調査官が、休日に、友人に、運ばないと痛い目にあうぞ、と言って、荷物を運ばせました。三つ目。警察官が、逮捕する理由がないと知りながら、通行人を逮捕して、署に連行しました。同じことを一般の人がしたら、どうなりますか。
四つ目。警察官が、取調べ中の被疑者を殴って、けがをさせました。五つ目。警察官に頼まれて、容疑者を押さえるのを手伝った近所の人が、容疑者を殴りました。見るのは、職権を使ったか、誰が、何をしたか、でした。
図:今日の整理
まとめます。
⭐ 論文で書く規範:今日の4点 「① 194条は、220条の加重。裁判、検察、警察の職務を行う者と、補助する者が、職権を濫用して逮捕、監禁する罪。補助する者は、補助する職務権限を有する者に限る。」 「② 195条は、職務を行うに当たってした暴行、陵辱、加虐。暴行は不真正身分犯、陵辱、加虐は真正身分犯と整理される。2項は、看守者、護送者。」 「③ 196条は、194条と195条の結果的加重犯。傷害の罪と比べ、上限と下限を、それぞれ重いほうにする。四通り。」 「④ 見分けるのは、職権を使ったか、誰が、何をしたか。職権と濫用は、193条と同じ言葉なので、同じ読み方で整理する。」 (要点)
最初の問いの答えをもう一度言います。理由がないと知りながら人を逮捕した警察官は、194条で、六月以上十年以下です。取調べ中に殴ってけがをさせれば、195条と196条です。分かれ目は、人の身体に向けて、預かった力を使ったかどうかでした。
参照条文
- 刑法194条
- 刑法195条
- 刑法196条