刑法ゼロから刑法#200

「その職務に関し」と一般的職務権限

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第18章 国家的法益|国家の存立・国交・国家の作用 ⑰/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

担当ではない申請への謝礼は、その職務に関するのか

設例の人物関係 図:設例の人物関係

前回の予告のとおり、今日は、どこまでの仕事が、その職務にあたるのかを通して、条文にあった、その職務に関し、という言葉を見ます。設例を使います。市役所で、道路の占用許可を担当している職員Aと、工事業者Bです。今回は、別の場面を足します。Bの占用許可の申請は、課の担当割りでは、同僚の担当分でした。Aの担当ではありません。それでもBは、Aに、審査を急がせてほしい、と頼みました。Aは、急がせる、と請け負い、Bから現金十万円を受け取りました。これが、今日の問いです。答えから言います。Aは、その職務に関して受け取ったことになります。担当ではなくても、Aの仕事の範囲に属している申請なら、その職務にあたるからです。なぜそう言えるのかを、判決で確かめていきます。

呼び戻し:職務の公正と社会一般の信頼 図:呼び戻し:職務の公正と社会一般の信頼

先に、前々回の物差しを呼び戻します。判例と多数の学説が採る立場では、賄賂の罪が守っているのは、職務の公正と、これに対する社会一般の信頼です。今日の範囲も、この物差しを基に考えます。ただし、判決自身が理由として信頼を挙げている場面と、挙げていない場面があります。そこは分けて確かめます。答案で理由を書くときに、混ぜないためです。

197条1項の三つの切れ目 図:197条1項の三つの切れ目

197条1項を読み直します。三つの切れ目のうち、今日は、二つ目の、その職務に関し、です。

条文刑法197条1項

刑法197条1項(収賄、受託収賄及び事前収賄) 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の拘禁刑に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の拘禁刑に処する。

条文は、その職務、としか書いていません。何が、その職務にあたるのかは、条文のどこにも書かれていません。ですから、範囲は、条文どおりではなく、判例が、解釈で決めています。

今日の流れ 図:今日の流れ

今日の流れです。まず、その職務の三つの層を、一枚の図で見ます。次に、現に担当している仕事と、仕事の範囲の違いを、判決で確かめます。続いて、最高裁の大法廷判決で、適法にできたかどうかが問われるのか、そして、総理大臣の指示の権限を見ます。最後に、冒頭の場面の答えを、もう一度確かめます。

「その職務」の三つの層

「その職務」の三つの層 図:「その職務」の三つの層

判例を整理すると、その職務は、三つの層に分けられます。一枚の図で、関係を見ます。一番内側が、具体的職務権限です。その公務員が、現に担当している事柄です。設例では、Aが自分で受け持っている許可の申請です。その外側が、一般的職務権限です。職権濫用罪のところで出てきた言葉で、意味も同じです。その公務員の仕事の範囲に属している事柄のことです。現には担当していなくても構いません。内側の、具体的職務権限も含みます。設例では、Aの課の、占用許可の事務の全体です。さらに外側が、職務密接関連行為です。その公務員の職務そのものではないけれども、職務と密接な関係にある行為のことです。今日は、名前と位置づけだけです。判例は、この三つとも、条文の、その職務にあたる、とします。

違いは、現に担当しているかどうかです。Aの課では、占用許可の審査が、課の事務として分担されているとします。Aが自分の担当として受け持つ申請は、具体的職務権限です。同僚の担当の申請は、Aの担当ではありませんが、同じ課の事務の範囲にあります。これは、Aの一般的職務権限です。仕事の範囲は、法令や、役所の事務の分け方を定めた規程で決まります。

職権と、その職務の違い 図:職権と、その職務の違い

ここで、前に見た、職権濫用罪の、職権と、取り違えないでください。そちらの職権は、一般的職務権限のうち、相手に、法律上、事実上の負担ないし不利益を生じさせるに足りる、特別の職務権限だけでした。賄賂の罪の、その職務には、そのような絞りがありません。一般的職務権限の全体を含み、さらに、密接関連行為まで広がります。同じ、一般的職務権限という言葉の上に、別の絞りが乗っているだけです。ここでの整理として、罪が守るものが違うので、言葉の範囲も違います。

「その職務」の三つの層 図:「その職務」の三つの層

なぜ広いのか、の見通しだけ言います。守っているのが、職務の公正と、社会一般の信頼だからです。担当ではない申請でも、Aの仕事の範囲にある事柄について現金が渡れば、あの許可はお金で買えるのではないか、という疑いが生まれます。担当かどうかで、その疑いは変わりません。ただし、判決自身がどんな理由を述べたかは、このあと、判決ごとに確かめます。最後に、この三つの層は、条文には書かれていません。判例の積み重ねを整理した型です。論文では、この三つの層を書いて、あてはめます。ここは、論文で論点になりうる部分です。

担当でなくても、その職務にあたる

担当割りと、課の事務の範囲 図:担当割りと、課の事務の範囲

設例の場面を、図に当てます。その前に、一問です。前回を思い出してください。賄賂になる利益は、現金に限られませんでした。では、賄賂とは、何に対する報酬でしたか?公務員の職務に対する対価としての、不正な報酬です。ただ、そこで言う、職務の範囲が、今日の話でした。設例です。Aの課では、占用許可の審査が、課の事務の全体として、分担されています。Bの申請は、同僚の担当分です。ですから、Aには、この申請を現に担当する権限、つまり、具体的職務権限がありません。ただ、この申請は、課の事務の範囲には属しています。Aの一般的職務権限には、属します。

判例は、あたる、とします。理由を、まず、判例の言葉ではなく、ここでの整理として言います。担当割りは、課の内部の事情で、いつでも変わるからです。担当でなければ除く、とすると、担当割りを書き換えるだけで、処罰の有無が変わってしまいます。判決自身が述べた理由は、これから見る判決で確かめます。

税務署の事案(事実) 図:税務署の事案(事実)

最高裁が、税務署の職員について判断した事案です。税務署の直税課、第一係の職員である被告人が、管内の納税者たちから、金品を受け取りました。問題になった点は二つです。ある納税者は、その年度に、係の主管者から分担を命ぜられた区域と業種の外にいました。また、別の贈り主の兄の所得税については、弁護人が、被告人は調査の補助者にすぎず、決定権は同僚にあった、と主張しました。分掌事務、つまり、係が分けて受け持っている事務、という言葉が出てきます。核心を読みます。

判例最高裁判所第一小法廷判決(昭和27年4月17日・刑集6巻4号665頁)

税務署の係の職員の職務権限 「されば第一係の所属職員は結局その第一係の分掌事務全般にわたつてこれに従事する職務権限を有するものであるといわなければならぬから、いやしくも第一係の所属職員である被告人はたとえ当該年度の担任ではなかつたとしても」……「法令上その職務権限を有するものであることは多言を要しないところである。」 …… 「たとい被告人においてEの兄の所得税の調査については補助者であつて決定権は同僚が有していたとしても右所得調査を目して被告人の職務権限に属しないものとはいえないこと論をまたぬ。」

判断です。第一係の職員は、係の分掌事務の全般について、職務権限を持ちます。その年度の担任ではなくても、法令上、その調査に関する職務権限を持ちます。同僚が決定権を持っていても、職務権限に属しない、とは言えません。収賄罪が成立しました。判決自身が述べた理由は、規程の読みです。税務署の分課規程と訓令に基づけば、係の職員は、係の分掌事務の全般に従事する職務権限を持ちます。分担事務の内容は、係の主管者が必要と認めれば、いつでも変更できます。この判決は、ここでは、信頼には触れていません。規程を読んで、職務権限を認めています。

ただし、担当の区域の内か外かが、判例の基準、というわけではありません。判決が見たのは、係の分掌事務の全般です。設例のAも、同じ課の事務の範囲に属する申請なら、担当が同僚でも、Aの職務権限の範囲です。次に、この考えを、一般論として言葉にした判決です。県の地方事務所の、農地課の事案です。

判例最高裁判所第三小法廷判決(昭和37年5月29日・刑集16巻5号528頁)

其職務は、一般的な職務権限で足りる 「刑法一九七条にいう「其職務」とは、当該公務員の一般的な職務権限に属するものであれば足り、本人が現に具体的に担当している事務であることを要しないものと解するを相当とする」

農地課に勤める事務吏員、つまり、事務を受け持つ県の職員が、日常は担当していない事務についても、課の分掌事務に属するものとして、課の事務の全般にわたり、上司の命を受けて処理し得る一般的な権限を持つ、とされた事案です。なお、この事件は、被告人も罪も複数で、結論は、一部の被告人について無罪部分を破棄して差し戻し、ほかの被告人の上告は棄却、というものでした。今日見るのは、其職務の一般論だけです。其職務は、その職務、と同じ意味です。要点は、二つです。その職務とは、その公務員の一般的な職務権限に属するもので足ります。本人が現に具体的に担当している事務であることは、要りません。つまり、具体的職務権限までは、要らないのです。これは、条文に書かれていない、判例の規範です。では、その公務員が、その行為を、法律上、適法にはできなかった場合は、どうでしょうか。次の判決で見ます。

適法にできたかは問わない・総理大臣の指示の権限

大法廷判決の事案 図:大法廷判決の事案

前々回の内容を、思い出してください。賄賂の罪が、守っているものは、何でしたか?職務の公正と、これに対する社会一般の信頼です。今日の判決は、前々回、この物差しの出どころとして出てきた、最高裁の大法廷判決です。総理大臣が、運輸大臣を通じて、民間航空会社に特定の航空機を買うよう働きかけることを頼まれ、その対価として、総理大臣に金員が渡された事件です。金員を渡した側の、贈賄罪の成否が争われました。贈賄罪は、賄賂を渡した側の罪です。渡した金員が賄賂と言えるのは、それが、公務員の職務の対価であるときだけです。ですから、頼まれた働きかけが、総理大臣の職務にあたるかどうかが、渡した側の罪の成否を決めます。前々回は、この判決の、次に引く一節の前半を見ました。今日は、その後半が本題です。

判例最高裁判所大法廷判決(平成7年2月22日・刑集49巻2号1頁)

職務権限と、適法にできたかどうか 「賄賂罪は、公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼を保護法益とするものであるから、賄賂と対価関係に立つ行為は、法令上公務員の一般的職務権限に属する行為であれば足り、公務員が具体的事情の下においてその行為を適法に行うことができたかどうかは、問うところではない。けだし、公務員が右のような行為の対価として金品を収受することは、それ自体、職務の公正に対する社会一般の信頼を害するからである。」

カードの言葉を補います。右のような行為、とは、前にある、公務員の一般的職務権限に属する行為のことです。前々回は、これを、公務員の職務に属する行為、と言いました。けだし、は、なぜなら、という意味です。判決は、二つのことを言っています。一つ目は、賄賂と対価関係に立つ行為は、法令上、公務員の一般的職務権限に属する行為であれば足りる、ということです。二つ目は、その公務員が、具体的な事情の下で、その行為を適法に行うことができたかどうかは、問わない、ということです。設例で考えます。Aが、書類が足りず、本来は許可を出せない申請について、許可を出す、と請け負って、現金十万円を受け取ったとします。実際には、適法に許可を出すことは、できませんでした。それでも、占用許可を出すという行為は、Aの仕事の範囲に属しています。ですから、その職務にあたります。逆に、水道料金の減額のように、Aの課の仕事の範囲に入らない行為は、できるかどうか以前に、一般的職務権限に属しません。適法にできたかを問わない、という結論の理由は、判決自身が述べています。それは、そのような行為の対価として金品を受け取ること自体が、職務の公正に対する社会一般の信頼を害するから、です。この場面では、判決が、信頼を理由に挙げています。前々回の物差しが、そのまま、判決の理由です。適法にできたかどうかで、信頼が害されるかどうかは、変わりません。

総理大臣の働きかけの二段の検討 図:総理大臣の働きかけの二段の検討

次に、この判決が、総理大臣の行為を、どう検討したかです。争われた行為は、総理大臣が、運輸大臣に、民間航空会社へ特定の機種を勧めるよう、働きかけることです。この判決の多数意見、つまり、裁判所としての判断は、これを、二段に分けて検討しました。一つ目は、運輸大臣が、民間航空会社に、特定の機種の選定購入を勧めることは、運輸大臣の職務権限に属するか、です。勧奨、つまり、すすめることです。機種を選ぶこと自体は、本来、航空会社が自分の責任で決める事柄です。明文の根拠規定もありません。ただ、新しい機種を就航させるには、運輸大臣の認可、つまり、大臣に認めてもらう手続が要ります。そこで、認可の仕組みの趣旨に照らして、必要な行政目的があるときは、運輸大臣が行政指導として勧めることも許される、と判決は考えました。行政機関は、任務や所掌事務、つまり、その機関が受け持つ事務の範囲内で、指導、勧告、助言などの行政指導ができます。判決は、こう述べています。

判例最高裁判所大法廷判決(平成7年2月22日・刑集49巻2号1頁)

運輸大臣の行政指導 「一般に、行政機関は、その任務ないし所掌事務の範囲内において、一定の行政目的を実現するため、特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言等をすることができ、このような行政指導は公務員の職務権限に基づく職務行為であるというべきである。」

行政指導とは、法律で命令するのではなく、指導や助言で、相手に動いてもらう、行政の方法です。ですから、運輸大臣の勧奨は、一般的には、運輸大臣の職務権限に属します。

二段目:総理大臣の働きかけ 図:二段目:総理大臣の働きかけ

二つ目は、総理大臣が、運輸大臣に、その勧めをするよう働きかけることは、総理大臣の職務権限に属するか、です。閣議、つまり、内閣の会議にかけて決めた方針がなくても、少なくとも内閣の明示の意思に反しない限り、総理大臣は、行政各部、つまり、各省などの行政機関に、指示を与える権限を持つ、と判決は述べました。

判例最高裁判所大法廷判決(平成7年2月22日・刑集49巻2号1頁)

内閣総理大臣の指示の権限 「内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有するものと解するのが相当である。したがって、内閣総理大臣の運輸大臣に対する前記働き掛けは、一般的には、内閣総理大臣の指示として、その職務権限に属することは否定できない。」

注目してほしいのは、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、という言葉です。閣議で決まった方針がなくても、内閣がはっきり反対していない限りは、総理大臣は、指示を与えられます。なぜ、二つとも要るのか。総理大臣の行為が、運輸大臣を通じた、間接的な働きかけだからです。働きかけの中身である、勧めることが、運輸大臣の職務権限に属することと、働きかけること自体が、総理大臣の職務権限に属することを、順に確かめたのです。働きかけが、総理大臣の職務にあたるので、結論は、贈賄罪の成立です。ここで、整理します。判決は、総理大臣や運輸大臣の権限について、具体的職務権限か、一般的職務権限か、と三つの層を使い分けて検討したわけではありません。使っている言葉は、職務権限に属する、一般的には、です。ですから、三つの層の図には、この判決を載せません。また、総理大臣の指示の権限は、総理大臣という地位についての、個別の判断です。規範として暗記するものではなく、論文では、あてはめる公務員の権限の根拠を、条文や法令から示します。もう一つ、この判決で押さえることがあります。結論は、裁判官全員が、贈賄罪の成立で一致しました。ただ、理由が分かれました。多数意見は、今見た、総理大臣の指示の権限を認めました。別の理由を述べた四名の裁判官の意見は、違います。運輸大臣の勧めは、特別な事情がなければ、運輸大臣の職務権限には属さない、とします。それでも、運輸大臣の職務と密接な関係にある行為で、総理大臣の指示は、その事実上の影響力に照らして、総理大臣の職務と密接な関係にある行為だから、結論は同じ、としました。

答案に書くのは、多数意見の判示です。一般的職務権限に属すれば足りること、そして、総理大臣は、内閣の明示の意思に反しない限り、指示の権限を持つことです。密接関連行為の理屈で、総理大臣の職務を認めたのは、この判決の多数意見ではなく、別の理由を述べた四名の意見です。混ぜないでください。なお、密接関連行為そのものは、最高裁が、別の事件で、正面から認めています。

二つの層の小まとめと、冒頭の場面への答え

三つの層と、判決の言葉 図:三つの層と、判決の言葉

三つの層を、判決の言葉つきで、もう一度見ます。具体的職務権限は、現に担当している仕事で、設例のAの担当分です。一般的職務権限は、仕事の範囲に属する事柄で、担当でなくても足ります。判例は、課や係の分掌事務の全般を、その公務員の職務権限と認めました。大法廷判決は、一般的職務権限に属する行為であれば足り、適法にできたかは問わない、と述べました。職務密接関連行為は、職務そのものではないが、職務と密接な関係にある行為です。三つとも、その職務です。もう一つ、整理があります。判決自身が信頼を理由に挙げたのは、大法廷判決の、適法にできたかを問わない場面でした。税務署の判決は、規程の読みで、職務権限を認めていました。総理大臣の指示の権限は、その地位についての個別の判断で、暗記する規範ではありません。理由を書くときに、混ぜないでください。

今日の整理 図:今日の整理

まとめます。

⭐ 論文で書く規範:今日の3点 「① 「その職務」は、三つの層。具体的職務権限は、現に担当している事柄。一般的職務権限は、仕事の範囲に属する事柄で、担当でなくてよい。職務密接関連行為は、職務そのものではないが、職務と密接な関係にある行為。」 「② 賄賂と対価関係に立つ行為は、法令上、一般的職務権限に属する行為であれば足り、適法にできたかどうかは問わない。」 「③ 判決が挙げた理由は、分けて覚える。適法にできたかを問わない理由は、社会一般の信頼が害されること。税務署の判決が職務権限を認めた理由は、規程の読み。」 (要点)

最初の問いの答えを、もう一度言います。Aの担当ではない申請でも、課の事務の範囲に属していれば、Aの一般的職務権限に属します。ですから、その職務にあたります。

参照条文

  • 刑法197条1項

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