職務密接関連行為と職務関連性の3つの層
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第18章 国家的法益|国家の存立・国交・国家の作用 ⑱/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
取りまとめ役の働きかけに、謝礼が出たらどうなるか
図:設例の人物関係
前回の最後に予告したとおり、今日は、職務そのものではない働きかけに、謝礼が出たらどうなるかを見ます。賄賂の罪の最初の回で立てた物差しを、一文で呼び戻します。判例と多数の学説が採る立場では、賄賂の罪が守っているのは、職務の公正と、これに対する社会一般の信頼です。設例を使います。市役所で、道路の占用許可を担当している職員Aと、工事業者Bです。今回は、別の場面を足します。Aは、課の予算案づくりを取りまとめる立場にもあります。ただし、個別の業者を選ぶのは、契約担当の係長の権限で、Aに指揮権はありません。それでもAは、取りまとめの立場を背景に、係長に、B社に便宜を、と働きかけました。そして、Bから現金十万円を受け取りました。
今日の問いは、権限のない事柄への働きかけでも、その職務に関して受け取った、と言えるのか、です。答えから言います。権限そのものがなくても、本来の職務と密接な関係にある働きかけなら、その職務に関して受け取ったことになりえます。なぜそう言えるのかを、最高裁の決定で確かめていきます。
図:197条1項の三つの切れ目
197条1項を読み直します。三つの切れ目のうち、今日も、二つ目の、その職務に関し、です。
条文刑法197条1項
刑法197条1項(収賄、受託収賄及び事前収賄) 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の拘禁刑に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の拘禁刑に処する。
条文は、その職務、としか書いていません。職務そのものではない働きかけが、そこに入るのかどうかは、条文のどこにも書かれていません。ですから、範囲は、条文どおりではなく、判例が、解釈で決めています。
図:今日の流れ
今日の流れです。まず、その職務の三つの層の地図を、呼び戻します。次に、職務そのものではなくても含まれる、職務密接関連行為を、最高裁の決定で確かめます。そのあと、三つの層を並べて、場面ごとに見分けます。最後に、冒頭の場面を、もう一度確かめます。
「その職務」の三つの層の地図
図:「その職務」の三つの層
最初に、一問です。前回の設例を思い出してください。Bの占用許可の申請は、課の担当割りでは、同僚の担当分でした。Aの担当ではないこの申請に謝礼が出ても、Aの、その職務に関して受け取った、と言えました。なぜでしたか?担当ではなくても、課の事務の範囲に属しているからです。この範囲を、一般的職務権限と呼びました。では、三つの層を、一枚の図で呼び戻します。判例を整理すると、その職務は、三つの層に分けられます。一番内側が、具体的職務権限で、その公務員が現に担当している事柄です。その外側が、一般的職務権限で、その公務員の仕事の範囲に属している事柄です。ここまでが、前回の内容です。今日の主題は、一番外側の帯です。職務密接関連行為、つまり、その公務員の職務そのものではないけれども、職務と密接な関係にある行為です。前回、総理大臣が、運輸大臣を通じて、民間の航空会社に働きかけた事件の、大法廷判決を見ました。贈賄罪の成立という結論は全員一致でしたが、理由は分かれました。この外側の帯の理屈を使ったのは、多数意見ではなく、別の理由を述べた四名の裁判官の意見でした。今日は、この層を、最高裁が正面から認めた別の決定を見ます。
三つの層は、判例が、三つに分けて判示したものなのですか。違います。三つの層は、判例を整理した型です。判決が、三つの層という言葉で判示したわけではありません。ただ、三つとも、条文の、その職務にあたる、というのが、判例の立場です。三つの層は、条文には書かれていません。ですから、論文では、この三つの層を書いて、あてはめます。ここは、論文で論点になりうる部分です。
職務そのものでなくても、職務密接関連行為
図:長官の働きかけの事案(事実)
冒頭の問いに、最高裁が答えた事案があります。決定の事実を見ます。なお、これは決定の事実で、冒頭の設例とは別の話です。北海道開発庁、国の役所の長官である被告人が、港湾工事の受注を希望する会社の代表者らから、下部組織である開発局の港湾部長に、受注できるよう指示するなど、便宜な取り計らいを求められました。被告人は、長官室に港湾部長を呼び出し、予定される工事の表を出させるなどして、その会社が特定の工事を落札できるよう、便宜を求めました。その報酬として、合計六百万円の現金を受け取りました。押さえる点が、二つあります。一つ目は、この港湾工事について、長官に、指揮監督の権限はなかったことです。二つ目は、ただし、予算の実施計画づくりの段階では、庁と、下部組織の開発局や、その地域ごとの開発建設部などが協議して計画案を作り、長官は、予算の実施計画の作製事務を統括する権限に基づいて、職員を指導できる地位にあったことです。しかも、当時は、落札させる業者を、港湾部長が指名して、業者に通知することが、常態化していました。この通知を受けた業者の間で、入札金額を調整する談合が行われていました。決定の理由を読む前に、一問です。賄賂の罪の最初の回を思い出してください。賄賂の罪が守っているものは、何でしたか?
職務の公正と、これに対する社会一般の信頼です。この決定が、その言葉を、どう使ったかに注目して読みます。
図:決定が見た形と中身
決定の判断は、三つに分かれます。一つ目は、長官の働きかけが、長官の職務と密接な関係のある行為にあたるか、です。二つ目と三つ目は、被告人の主張に対する答えです。まず、一つ目を読みます。
判例最高裁判所第一小法廷決定(平成22年9月7日・刑集64巻6号865頁)
長官の働きかけと、職務に密接な関係のある行為 「北海道開発庁長官である被告人が,港湾工事の受注に関し特定業者の便宜を図るように北海道開発局港湾部長に働き掛ける行為は,職員に対する服務統督権限を背景に,予算の実施計画作製事務を統括する職務権限を利用して,職員に対する指導の形を借りて行われたものであり,また,被告人には港湾工事の実施に関する指揮監督権限はないとしても,その働き掛けた内容は,予算の実施計画において概要が決定される港湾工事について競争入札を待たずに工事請負契約の相手方である工事業者を事実上決定するものであって,このような働き掛けが金銭を対価に行われることは,北海道開発庁長官の本来的職務として行われる予算の実施計画作製の公正及びその公正に対する社会の信頼を損なうものである。したがって,上記働き掛けは,北海道開発庁長官の職務に密接な関係のある行為というべきである。」
言葉を補います。服務統督権限とは、職員が、職務を正しく果たすよう、上から指導し、取り締まる権限です。予算の実施計画とは、予算を使って、どの工事を、いつ、どこで行うかを、具体的に決める計画です。本来的職務とは、長官が、本来行うべき職務のことです。決定が見たのは、働きかけの形と中身です。形は、三つです。服務統督権限を背景にしたこと。予算の実施計画の作製事務を統括する職務権限を利用したこと。指導の形を借りたことです。中身は、指揮監督の権限はなくても、競争入札を待たずに、工事業者を事実上決めるものだったことです。このような働きかけが、金銭を対価に行われれば、どうなるか。決定は、長官の本来的職務である、予算の実施計画作製の公正と、その公正に対する社会の信頼を損なう、と述べました。ですから、長官の職務に密接な関係のある行為、とされました。ここで、決定自身が理由に挙げたのは、この事案での、予算の実施計画作製の公正と、その信頼までです。そして、決定は、働きかけの形と中身を挙げています。職務権限を背景にした働きかけで、中身が、業者を事実上決めるものだった、という点です。判例だから、ではなく、この二つが、本来の職務と結びついていたからです。
長官には、港湾工事の指揮監督の権限がなかったんですよね。それでも、長官の職務になるのですか。そこが、この決定の山場です。指揮監督の権限という、行為そのものの権限がなくても、本来の職務との関係が密接なら、その職務にあたる、と決定は考えました。長官の本来の職務は、予算の実施計画の作製です。その段階で、業者を事実上決めてしまう働きかけが、金銭で動くなら、その実施計画の公正が疑われるからです。冒頭の設例に戻します。Aは、取りまとめの立場を背景に、契約担当の係長に働きかけています。その中身が、業者の選定にかかわるものなら、Aの取りまとめという本来の職務と結びついた働きかけで、密接関連行為になりえます。逆に、予算の取りまとめとはまったく関係のない頼み事を、ただ同じ庁舎の人にしただけなら、本来の職務との関係が見えません。見るのは、行為の権限ではなく、本来の職務との関係です。
図:被告人の主張と、決定の答え
次に、被告人の二つの主張への答えを見ます。主張の一つ目は、こうです。入札の前に、落札する業者を決めてしまうのは、前に見た、談合にかかわる行為です。そういう行為は、正当な職務としては、およそ行えない、違法な類型だから、密接な関係のある行為には、なり得ない、というものです。決定は、こう答えました。
判例最高裁判所第一小法廷決定(平成22年9月7日・刑集64巻6号865頁)
違法な行為でも、判断は左右されない 「当該行為が密接関係行為に当たるかどうかは上記のように本来の職務との関係から判断されるべきものであり,その行為が所論のいうような違法な行為であることによってその判断は直ちには左右されないと解するのが相当である。」
決定の言う密接関係行為は、職務密接関連行為のことです。これにあたるかは、本来の職務との関係から判断します。その行為が違法でも、その判断は、直ちには左右されません。違法だから、職務と関係がない、とはなりません。言い換えると、適法かどうかと、職務と関係があるかどうかは、別の問いです。問われているのは、その行為が、適法な職務かどうかではなく、本来の職務との関係が密接かどうかです。談合は違法ですが、業者を事実上決めるという働きかけの中身が、予算の実施計画づくりという本来の職務と結びついていることは、変わりません。そして、その働きかけが金銭で動けば、実施計画づくりの公正が疑われることも、変わりません。主張の二つ目は、前回の大法廷判決をよりどころにしたものです。あの判決は、働きかけを受ける運輸大臣の権限も、確かめていました。ところが、この事件では、受注業者の指名が、港湾部長の職務権限に属することを、認定していない。だから、あの判決に反する、という主張です。条文を見直すと、197条1項は、公務員が、その職務に関し、と書いています。決定は、この、職務に関し、を、賄賂を受け取った公務員自身の職務との関連性だ、と述べました。働きかけを受ける公務員の職務との関連性は、条文上の要件そのものではありません。ですから、その関連性を、それ自体として認定する必要は、一般にはありません。決定は、一般には、と断っています。働きかけを受ける側の職務との関連性は、一般には、それ自体として認定しなくてよい、というのが決定の答えです。
答案に書く枠組みは、こうなります。密接な関係があるかどうかは、本来の職務との関係から判断します。その行為が違法でも、判断は直ちには左右されません。そして、職務権限を利用した働きかけか、その中身は何か、を見ます。
図:密接関連行為とされた他の例
ほかにも、密接関連行為にあたるとされた例として、挙げられるものがあります。議員が、同僚の議員に、ある議案への賛成を働きかける行為。国立の芸術大学の教授が、学生に、特定の楽器の購入を勧めたり、あっせんしたりする行為です。議員は、議案を審議して、賛否を決めるのが職務です。教授は、学生を指導するのが職務です。どちらの働きかけも、職務そのものではありませんが、その本来の職務と結びついています。
図:学説による整理
ここで、なぜ密接関連行為まで含めるのか、を整理します。これは、決定の理由ではなく、学説による整理です。一つ目は、その行為に謝礼が出ても、職務の公正に対する社会一般の信頼が害されることです。二つ目は、条文の言い回しです。前に見た、公務執行妨害罪の95条1項は、職務を執行するに当たり、と書いていました。あちらは、具体的な職務を執行している時を指す言葉でした。197条は、職務に関し、です。執行している時に限らない言葉ですから、職務そのものでなくても、含められる、という説明です。最後に、一つだけ見通しです。自分の職務とは関係のない公務員に、働きかける場合は、別の罪、あっせん収賄の問題になります。これは、別の回で見ます。
三つの層を並べて、場面を見分ける
図:三つの層と、判決の言葉
三つの層を、判決の言葉つきで、もう一度見ます。具体的職務権限は、現に担当している仕事で、設例のAの担当分です。一般的職務権限は、仕事の範囲に属する事柄で、担当でなくても足ります。判例は、課の分掌事務の全般を、その公務員の職務権限と認めました。職務密接関連行為は、職務そのものではなくても、密接な関係にある行為で、判例は、長官の働きかけを、これにあたるとしました。三つとも、その職務です。もう一つ、整理があります。今日の決定が、自分で理由に挙げたのは、予算の実施計画作製の公正と、その信頼でした。密接関連行為まで含める理由として、社会一般の信頼や、条文の言い回しを挙げたのは、学説による整理です。答案で理由を書くときは、この二つを混ぜないでください。ここからは、場面を四つ並べます。Aの場面ごとに、三つの層のどれにあたるか、どの層にもあたらないかを、答えを聞く前に、自分で選んでください。
図:場面ごとの違い、どの層か
一つ目。Aが、自分の担当の申請について、現金十万円を受け取りました。一つ目は、具体的職務権限です。Aが、現に受け持っている申請だからです。二つ目。Aが、課の中の、別の担当の申請について、現金十万円を受け取りました。二つ目は、一般的職務権限です。Aの担当ではなくても、課の事務の範囲に属しているからです。三つ目は、冒頭の場面です。Aは、予算案づくりの取りまとめの立場を背景に、契約担当の係長に働きかけて、現金十万円を受け取りました。業者の選定は、Aの権限ではなく、Aに指揮権もありません。三つ目は、職務密接関連行為です。Aに権限はなくても、取りまとめという本来の職務と結びついた働きかけで、中身が、業者の選定にかかわるからです。四つ目です。Aが、自分の課の事務とは全く関係のない、別の部署の発注について、現金十万円を受け取り、その部署の職員に、口をききました。
四つ目は、どの層にもあたりません。Aの本来の職務と、結びついていないからです。197条1項の、その職務には、あたりません。自分の職務と関係のない公務員への働きかけは、先ほど触れた別の罪、あっせん収賄の問題です。三つ目と四つ目の違いが、今日の山場です。どちらも、Aの担当でも指揮権の範囲でもありません。分けたのは、本来の職務との関係が、あるかないかです。
今日のまとめ
図:今日の整理
まとめます。
⭐ 論文で書く規範:今日の3点 「① 職務そのものでなくても、職務と密接な関係にある行為は、その職務にあたる。」 「② 密接な関係かどうかは、本来の職務との関係から判断する。その行為が違法でも、その判断は直ちには左右されない。」 「③ その職務は、具体的職務権限・一般的職務権限・職務密接関連行為の三つの層。場面ごとに、どれにあたるかで見分ける。」 (要点)
最初の問いの答えを、もう一度言います。取りまとめの立場を背景にした、業者の選定にかかわる働きかけは、職務密接関連行為にあたりえます。ですから、Aは、その職務に関して受け取ったことになりえます。
参照条文
- 刑法197条1項