贈賄罪と恐喝された贈賄者
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第18章 国家的法益|国家の存立・国交・国家の作用 ㉔/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
断られた封筒と脅された業者
図:場面一 断られた封筒
今日は、二つの場面から入ります。まず、一つ目です。市役所で、道路の占用許可を担当している職員Aがいます。工事業者Bは、許可を早く出してもらいたくて、現金の入った封筒を、Aに差し出しました。Aは、受け取れません、と断りました。封筒は、Bの手に残ったままです。
図:場面二 脅されて渡す
二つ目の場面です。別の日、Aは、Bに、許可がほしければ現金を持ってこい、出さなければ許可は止める、と告げました。Aは、現金を受け取れば、許可を出すつもりでした。Bは、怖くなって、現金を渡しました。今日の問いは、この二つの場面で、Bに贈賄罪が成立するのか、です。答えを、先に言います。一つ目は、Bに贈賄罪が成立します。断られても、申込みをした時点で成立します。Aには、収賄罪は成立しません。二つ目は、脅されて贈った場合の贈賄罪の成否で引かれる最高裁の決定があり、その決定は、完全な自由意思までは要らないとして、成立を認める側の判断を示しています。学説には、否定する立場もあります。前に、類型の地図で、贈賄罪を見ました。収賄の反対にある罪として、名前と法定刑だけでした。渡した者も、職務の公正と、これに対する社会一般の信頼を害する原因を作っています。今日は、その贈賄罪の中身です。条文を読みます。
条文刑法198条
刑法198条(贈賄) 第百九十七条から第百九十七条の四までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の拘禁刑又は二百五十万円以下の罰金に処する。
覚えていてほしいのは、この条文が、供与、申込み、約束の三つを、又は、若しくは、でつないでいることです。この点は、あとで使います。
図:今日の流れ
今日の流れです。まず、条文を分けて、誰が、何をすれば成立するのかを確かめます。次に、収賄と向かい合う罪であることを確かめて、片方だけ成立する場面を探します。そして、脅されて贈った者を、決定の言葉で考えます。最後に、場面を五つ並べて、冒頭の二つに答えを出します。
贈賄罪の要件
図:贈賄罪の三つの要件
条文を三つに切ります。一つ目は、主体です。条文は、者、と書いています。誰でもよいのです。197条1項は、公務員が、と書いて、身分のある者だけを対象にしていました。贈賄罪は、身分を問いません。Bのような民間の業者でも、別の課の職員Cでも、主体になります。条文の言葉は、者、だけです。限定は書かれていません。
図:収賄と贈賄の行為の対応
二つ目は、行為です。条文は、供与し、又はその申込み若しくは約束をした、と書いています。供与、申込み、約束の三つです。設例で並べます。供与は、賄賂を渡して、相手に受け取らせることです。BがAに封筒を渡し、Aが受け取れば、供与です。申込みは、賄賂を受け取ってほしいと、相手に持ちかけることです。許可を早く出してもらえれば、礼をします、と持ちかければ、申込みです。約束は、賄賂を渡し受け取ることについて、相手と合意することです。来月渡します、分かりました、と、AとBの意思が合えば、約束です。収賄の行為と、向き合っています。受け取る収受には、渡す供与。求める要求には、持ちかける申込み。約束には、約束。三組です。条文は、又は、若しくは、でつないでいますから、どれか一つで成立します。三つそろう必要はありません。
申込みは、持ちかけるだけですよね。断られたら、何も起きていません。それでも、罪になるのですか。なります。申込みをした時点で、贈賄罪が成立します。相手が断っても同じです。理由は、条文の組み立てにあります。条文は、申込みを、供与とは別の行為として並べて、処罰しています。そして、相手がどう応じたかは、何も書いていません。受け取られて初めて成立するのは、供与のほうです。前に、要求は断られても成立する、と見ました。申込みも、同じ向きです。大審院の判例も、相手が受け取らなくても、申込みだけで成立するとしています。冒頭の封筒です。Bが差し出し、Aが断りました。Bは、申込みをした時点で、贈賄罪が成立します。Aは、受け取りも、要求も、約束もしていません。ですから、Aに収賄罪は成立しません。三つ目は、賄賂の範囲です。条文は、197条から197条の4までに規定する賄賂、と書いています。単純収賄、受託収賄、事前収賄、第三者供賄、加重収賄、事後収賄、あっせん収賄。収賄のどの類型の賄賂でも、贈る者の罪は、198条の一か条です。収賄は、類型ごとに刑が分かれていましたが、贈賄罪は、一つにまとまっています。刑は、三年以下の拘禁刑、又は二百五十万円以下の罰金です。収賄の基本形は、五年以下の拘禁刑でした。数字の上では、贈賄罪のほうが、軽く定められています。
向かい合う罪と片方だけの成立
図:向かい合う二本の矢印
贈賄罪の要件は、ここまでです。次に、収賄罪との関係を見ます。共犯の全体像で見た、必要的共犯を思い出してください。その一つ、対向犯とは、どんな型の罪でしたか?2人以上の、互いに向き合う行為を要件にする型です。例は、収賄罪と贈賄罪でした。向かい合う2本の矢印、と習いました。収賄罪にも贈賄罪にも、処罰規定があります。ここで、問いです。向かい合う二人のうち、片方だけが成立することは、あるのでしょうか。冒頭の封筒で考えます。Bが差し出し、Aが断りました。罪が成立したのは、どちらでしょうか?Bです。差し出した時点で、申込みが成立して、贈賄罪になります。Aは、受け取らず、要求も約束もしていないので、収賄罪は成立しません。片方だけが成立する場面は、実際にあります。どんな行為なら片方だけになるのか、先ほどの三組に戻って、整理します。
図:片方だけ成立する場面
三組を、一つずつ見ます。供与と収受は、一つの出来事です。渡す者から見たのが供与、受け取る者から見たのが収受で、一枚の紙の、おもてと裏の関係です。受け取ってもらえなければ、供与にならず、申込みにとどまります。ですから、供与と収受は、行為の面では、片方だけが成立する形になりません。約束と約束も同じです。合意は、二人で成り立ちます。合意に至らなければ、持ちかけた者の、申込み、または要求にとどまります。残る申込みと要求は、一方的な行為です。相手が応じなくても成立しますから、片方だけが成立します。表の四つです。一つ目は、Bの申込みを、Aが断った場合で、Bにだけ、贈賄罪が成立します。二つ目は、Aが現金を要求して、Bが応じなかった場合で、Aにだけ、収賄罪が成立します。197条1項の、要求です。三つ目は、Bが渡して、Aが受け取った場合で、Bは供与、Aは収受として、両方が成立します。四つ目は、約束です。二人の意思が合えば、約束どうしで、両方が成立します。
収賄には、請託を足したり、第三者に渡させたりする型もありました。そういう賄賂を贈った場合も、同じですか。同じです。条文は、197条から197条の4までに規定する賄賂、と書いています。請託を受けた職員に渡す場合も、退職した元職員に、在職中の不正の礼を渡す場合も、Aに頼まれて、団体に渡す場合も、別の課の職員へのあっせんの報酬を渡す場合も、贈る者の条文は、198条です。各類型の要件は、これまでの回で見たとおりです。
脅されて贈った者
図:脅されて贈った者の問題
冒頭の二つ目の場面に戻ります。Aは、許可を止めると脅して、Bに現金を渡させました。Aの罪は、前に確かめました。職務を執行する意思がある場合には、収賄罪と恐喝罪が成立して、観念的競合になる、というものでした。これは、前に採った、学説の一つの立場による整理です。そして前に、脅されて渡したBに、贈賄罪が成立するかは、贈賄罪の回で見る、と言いました。今日が、その回です。脅されて渡した、という事情をどう扱うかが、問題の所在です。贈賄罪は、賄賂を渡す行為を罰します。ところが、Bは、脅されて渡しました。この事情があっても、贈賄罪は成立するのか。決定を読みます。
判例最高裁判所第三小法廷決定(昭和39年12月8日・刑集18巻10号952頁)
贈賄罪の賄賂の供与と意思決定の自由 「贈賄罪における賄賂の供与等の行為には、必ずしも完全な自由意思を要するものではなく、不完全ながらも、いやしくも贈賄すべきか否かを決定する自由が保有されておれば足りるものと解するのが相当である。」
この決定は、贈賄の事件の上告を棄却したもので、その理由のなかで、今の判断を述べています。決定は、事案の事実を述べていません。決定が述べたのは、二点です。贈賄罪の賄賂の供与などの行為に、完全な自由意思は、必ずしも要らない。不完全でも、贈賄すべきか否かを決定する自由が保有されておれば足りる。ここまでです。脅された場合、と明言してはいません。この判断が、公務員に脅されて贈った場合の贈賄罪の成否で、引かれるのです。決定の言葉を、噛み砕く前に、確認です。恐喝罪は、盗取罪と交付罪のどちらでしたか?交付罪です。暴行や脅迫で相手を畏怖させて、その状態で、相手自身に財物を手放させる罪でした。脅されても、手放したのは、相手自身です。恐喝の脅しは、相手の反抗を抑えつけるところまではいかない強さでした。怖くはあっても、抵抗する余地は残ります。ですから、恐喝で脅された者は、渡すか、渡さないかを、自分で決めて、手放しています。この点を頭に置いて、決定の言葉を見ます。完全な自由意思は、要らない。怖い、断りたい、という不完全さがあっても、贈るか、贈らないかを、自分で決める自由が残っていれば足りる、という言葉です。輪郭を、例で確かめます。許可を止めるぞ、と告げられて、怖いながらも、Bが自分で封筒を用意して、Aに差し出しました。渡すか、渡さないかを、Bが決める余地は残っています。逆に、Bが身動きできないまま、Aに現金を取り上げられたなら、Bが決めて渡した、とは言えません。決定する自由が残っているかどうかを、見ることになります。決定が述べたのは、残っていれば足りる、までです。冒頭の二つ目の場面のBは、怖いながらも、自分で決めて、渡しています。決定の言葉に当てると、決定する自由が残っている場合です。答案では、この当てはめを経て、成立する、という結論を書くことになります。
成立を認める立場は、こう説明します。怖さという不完全さはあっても、渡すと決めたのは本人です。だから、成立を妨げる理由はない。これは、学説による説明です。決定自身が述べたのは、決定する自由が保有されておれば足りる、までです。決定は、どこまでの自由があれば足りるか、を述べました。なぜ成立を認めてよいのか、という説明は、学説のものです。答案では、この二つを、混ぜないでください。
図:二つの立場
学説には、否定する立場もあります。否定する立場の理由は、成立を認めれば、脅された被害者にも、脅されても渡してはいけない、と求めることになってしまう、というものです。整理します。決定は、成立を認める判断を示しています。学説には、否定する立場もあります。Aの罪は、先ほど確かめたとおり、別に問題になります。ここで、前に読んだ判決と、分けておきます。あの判決は、職務を執行する意思が無い場合に限って、公務員の罪は恐喝罪だけ、と述べ、その理由として、全然任意に出た交付とは言えない、と述べたものでした。渡した者の贈賄罪については、述べていません。贈った者の贈賄罪について述べたのは、今日の決定で、問われている罪が違います。この論点は、論文で論点になりうる部分です。問題の所在、決定の言葉、事例への当てはめ、という順に書くことになります。
五つの場面とまとめ
図:五つの場面
最後に、場面ごとに、成立する罪を選びます。聞いている軸が、場面ごとに違います。申込み、要求、約束、決定する自由、主体の五つです。先に、軸を選んでから、答えてください。一つ目は、Bが封筒を差し出し、Aが断った、です。冒頭の場面です。申込みの軸です。Bに贈賄罪が成立します。Aは、収賄罪になりません。二つ目は、Aが十万円を求め、Bは断った、です。要求の軸です。Aには、要求の時点で、収賄罪が成立します。Bは、応じていないので、罪になりません。今の二つで、申込みと要求は、片方だけ成立する、と確かめました。三つ目は、Bが、来月、お礼を渡す、と言って、Aが了承した、です。
約束の軸です。合意が成立しましたから、Bは約束による贈賄罪、Aは約束による収賄罪で、両方が成立します。四つ目は、Aに脅されて、Bが現金を渡した、です。冒頭の二つ目の場面です。決定する自由の軸です。決定は、成立を認める判断を示していますから、Bに贈賄罪が成立する、という結論になります。学説には、否定する立場もあります。五つ目は、別の課の職員Cが、Aに現金を渡して頼んだ、です。主体の軸です。条文は、者、としか書いていませんから、公務員のCも、贈賄罪の主体になりえます。ただし、Aに収賄罪が成立するかは、197条の要件で、別に決まります。この場面が聞いているのは、贈る者の主体だけです。
図:今日の整理
まとめます。
⭐ 論文で書く規範:今日の3点 「① 贈賄罪は、198条の一か条で、主体に限定がない。供与、申込み、約束のどれか一つで成立し、申込みは断られても成立する。197条から197条の4までの賄賂が対象で、刑は三年以下の拘禁刑又は二百五十万円以下の罰金。」 「② 収賄と贈賄は向かい合う罪で、申込みと要求は一方的な行為だから片方だけ成立する。供与と収受、約束と約束は、向かい合って成立する。」 「③ 脅されて贈った場合について、決定は、決定する自由が保有されておれば足りる、と述べ、成立を認める判断を示している。渡すと決めたのは本人、は成立を認める立場の説明で、否定する立場もある。」 (要点)
最初の二つの場面に答えます。一つ目は、Bの申込みの時点で、贈賄罪が成立します。Aは、受け取っていませんから、収賄罪は成立しません。二つ目は、脅されて渡したBについて、決定は、決定する自由が残っていれば足りる、と述べ、成立を認める判断を示しています。学説には、否定する立場もあります。
参照条文
- 刑法198条