刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#38

捜索・差押え③「場所」の令状が及ぶ範囲

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第2章 捜査 ㉑/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

令状1通で、どこまで開けられるのか

3階建てアパートの301号室の前に立つ捜査員と、部屋の中の金庫・玄関先の自転車・道路の自動車・居合わせた家族と来客・宅配便の荷物を俯瞰で示す導入板

前回、Bさんの家、301号室を捜索する令状が出るところまで見ました。今日は、その令状を持って、現場へ行きます。でも部屋の中には、金庫があります。玄関先には自転車、少し先の道路には、自動車も停めてあります。おまけに、捜索の途中で、宅配便まで届きます。答えを先に言います。決め手は、「誰の物か」ではありません。その令状が指した場所を、おなじ人が管理している範囲にあるか、です。金庫も、車も、カバンも、宅配便も、この一つの物差しで決まります。今日は、そこを一つずつ見ていきます。

「身体」「物」「場所」——条文の書き分け

刑訴法102条が身体・物・住居その他の場所を書き分け219条1項も同じ3つを並べて記載していると示す条文対照板

令状の対象を決めている条文を見てみます。

条文刑事訴訟法第102条

刑事訴訟法第102条 1項 裁判所は、必要があるときは、被告人の身体又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる。 2項 被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。

この条文は、裁判所が主語ですが、捜査機関がする捜索・差押えにも、準用されます。

条文刑事訴訟法第222条第1項

刑事訴訟法第222条第1項 第九十九条第一項、第百条、第百二条、第百三条から第百五条まで…の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について…準用する。

長い条文ですが、見てほしいのは、102条が準用されているという一点です。捜査機関が捜索するときも、「身体」「物」「住居その他の場所」は、条文上、区別されています。もう一つ、前々回に見た、令状の記載事項の条文にも、同じ書き分けが出てきます。

条文刑事訴訟法第219条第1項

刑事訴訟法第219条第1項 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名差し押さえるべき物捜索すべき場所、身体若しくは物、提供させるべき電磁的記録、提供させるべき者及び提供の方法、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、捜索若しくは検証に着手し、又は電磁的記録提供命令をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

条文だけを見ると、「場所」の令状と、「物」の令状は、別物のはずなんです。だとすると、部屋の中の金庫は、「物」だから、別に令状が要るはずではないですか。でも実務は、「場所」の令状1通で、中の金庫まで捜索します。なぜ、そうなるのか。ここに、今日の一つ目の山場があります。

管理権の同一性——「場所」の令状はなぜ「物」にも及ぶのか

1つの管理権が及ぶ範囲を点線で囲み中の金庫・自転車を「及ぶ」側に敷地外の自動車を「及ばない」側に振り分けた管理権マップ板

302号室や203号室には、301号室の令状は及びません。管理する人が違うからです。今日は、この話を裏返します。「管理権が違えば別の令状が要る」ということは、「同じ1つの管理権の中なら、1通の令状で足りる」ということでもあります。301号室という「場所」の管理権は、部屋の中にある机にも、クローゼットの中身にも、金庫にも、同じように及びます。裁判官は、「この管理権の範囲で捜索・差押えをしてよい」と事前に審査したわけですから、その管理権が及ぶ物にも、令状の効力が及ぶと考えます。「各別の令状」が要求しているのは、管理権ごとの線引きです。線の内側では、1通の令状で足ります。

論文で書く規範:「場所」の令状の効力が及ぶ範囲——管理権の同一性 「場所」に対する捜索差押許可状の効力は、当該令状に係る捜索場所と同一の管理権が及ぶ範囲、つまりその敷地・付属建物及びそこに存在する物に及ぶ。 (通説(憲法35条2項「各別の令状」の要求を裏返した理解))

「場所の令状は、同一の管理権が及ぶ範囲に効力が及ぶ」、これが、この論点で論証の出発点になります。

敷地の中と外——自転車と自動車で見る境界線

301号室の敷地内にある自転車を「及ぶ」側に敷地外の道路に停めた自動車を「及ばない」側に置き同じアパートの一室の管理権の境界を示す板

前回の最後に、「敷地内、例えば玄関先の自動車はどうですか」という質問が出ていました。今日、答えます。301号室の玄関先、つまり敷地の中に置いてある自転車は、どうですか。301号室の管理権が、敷地にも及ぶなら、捜索できそうです。敷地は、301号室を管理する人が、出入りを管理している範囲です。同じ管理権の中に入ります。前回出ていた玄関先の自動車も、敷地の中なら、同じですか。同じです。自転車でも自動車でも、敷地の中なら変わりません。少し離れた道路に停めてある自動車はどうですか。そこが、境界線です。道路は、301号室の管理権が及ぶ場所ではありません。道路上の自動車を捜索するには、別に令状が要ります。

見ているのは、誰の物かではなく、どの管理権の範囲にあるか、です。引っ越し業者に、「この部屋の荷物を運んでください」と頼んだ場面を考えてみてください。机も、クローゼットの中の服も、玄関の傘立ても、一つずつ品目を挙げなくても、業者は運んでくれます。依頼の対象が、「この部屋」という一つのまとまりだからです。友人が道路に停めた車は、「この部屋」という依頼の対象の外にあるからです。令状も、同じ発想です。

居合わせた者の所持品と身体——別の問題

301号室に居合わせたBの家族が提げるバッグと居合わせた来客が提げるバッグを対比しどちらに管理権が及ぶか問う板

今の話は、「物」が相手でした。では、「人」が相手だと、どうでしょう。その前に、一つだけ線を引いておきます。さっきの、102条の2項、被疑者以外の人には「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」が要る、というのは、そもそも令状を出せるかの要件で、前回見たところです。今日は、出ている令状がどこまで及ぶか、という別の話です。捜索中に、その場に居合わせた人の「所持品」と、その人の「身体」そのものは、分けて考える必要があります。所持品は、「物」の一種です。でも身体は、人身の自由という、別の権利利益に関わります。まず、所持品の方から見ていきます。

判例最高裁判所第一小法廷決定・平成6年9月8日(刑集48巻6号263頁・百選19)

居合わせた者のボストンバッグ——理由を示さなかった決定 …同室に居た被告人が携帯するボストンバッグの中を捜索したというのであって、右のような事実関係の下においては、前記捜索差押許可状に基づき被告人が携帯する右ボストンバッグについても捜索できるものと解するのが相当である。

この事件も、同居する居室を捜索していた途中、その場に居た人が持っていたバッグを開けた、という場面です。決め手は何だったんですか。それが、少し変わっていて、最高裁は、「捜索できる」とだけ言って、なぜかを特に述べていません。判決の全文を見ても、理由づけの説示はありません。こういう判例は、「なぜ」を自分で補って理解する作法が必要になります。

判例の読み方——学説はどう埋めているか

その人だけの持ち物だと一見して明らかでない限り捜索場所にある物として扱えるという有力説と各別の令状が要るのではという批判を対比した板

理由を言っていない部分を、学説がどう埋めているか、見ていきます。有力な理解は、こうです。居合わせた人のバッグも、「捜索すべき場所」にある「物」の一つとして扱ってよい、ただし、「その人だけの持ち物だと一見して明らかでない限り」、という条件つきです。床に置かれたバッグと、見た目で区別がつかないなら、部屋の管理権の中にあるものとして扱います。でも、誰の目にもその人固有の物だと分かるなら、話は別です。Bさんと同居する家族のトートバッグが、部屋の中に置いてあったら、どうでしょう。誰の物か、ぱっと見では分かりません。部屋の管理権の中にあるものとして、捜索の対象になります。

訪ねてきた人が持ち込んだバッグは、外から持ち込まれた、その人固有の物だと、一見して分かることが多いです。その場合は、301号室の管理権には入らない、という理解になります。同居している人の物か、訪ねてきただけの人の物か、という違いが、決め手なんですか。そこが、落とし穴です。決め手は、同居かどうか自体ではなくて、「その人だけの持ち物だと一見して分かるか」です。同居する人の持ち物は、部屋の物と見分けがつきにくいことが多いので、結果として、この基準を満たしやすい、という関係です。近所の人が、自分の買い物袋を提げて立ち寄っただけだったら。

近所の人の買い物袋でも、見分けがつかないバッグなら、理屈の上では対象に入ります。でも、事件と関係のない人が提げている物は、その人固有の物だと、むしろ一見して分かりやすい場合が多いはずです。だから、学説の中には、この考え方に批判もあります。居合わせただけの第三者の所持品にまで及ぶのは、実質的にはその人への捜索であって、憲法35条2項が求める「各別の令状」を潜り抜けてしまうのではないか、という指摘です。最高裁は理由を示していない以上、この批判に答えているとは言えません。「一見して明らかでない限り」という限定が、この批判に対する一つの歯止めになっている、という位置づけです。なお、身体そのものへの捜索は、この理屈では正当化できません。そこは、「必要な処分」の限度で触れうるかという、別の論点になります。

執行中に配達された物——理由を示さなかったもう一つの決定

捜索の途中で301号室に宅配便が届きBが受け取った場合と受け取りを拒んだ場合で管理権が及ぶかどうか分かれると示す板

もう一つ、別の場面を見ます。今日、301号室の捜索中に、宅配便が届く、という設定でした。令状を出した時点では存在しなかった荷物が、執行中に入ってくる。ここが問題になります。

判例最高裁判所第一小法廷決定・平成19年2月8日(刑集61巻1号1頁・百選20)

執行中に配達された荷物——ここでも理由を示さなかった決定 …被告人あてに配達され、被告人が受領した荷物について、警察官において、これを開封したところ、中から覚せい剤が発見された…警察官は、このような荷物についても上記許可状に基づき捜索できるものと解するのが相当である。

この事件の上告趣意は、「令状の効力は、提示した後に搬入された物には及ばない」という主張でした。でも最高裁は、それを退けました。ここでも理由の説示はありません。ただ、「受領した」という事実が判旨に出てくることから、学説はこう説明します。令状の効力は、発付された瞬間の「点」ではなく、有効期間の間、その管理権が及ぶ範囲、つまり「面」に及ぶ。だから、執行の途中で新しく入ってきた物でも、居住者が受け取って、管理権の中に入れば、対象になる、という説明です。Bさんが、受け取りを拒んだらどうなりますか。そこは、判例が直接答えた場面ではありません。受け取っていない以上、301号室の管理権の中にまだ入っていない、と考える方が筋が通る、という学説の理解です。

そこは、きちんと区別してください。判例が直接判断したのは、「受け取った荷物は捜索できる」という場面だけです。「拒否したらどうなるか」は、管理権が及ばないという理屈を裏返した、学説の理解にとどまります。

なぜ「場所」で区切るのか——明示の要請と特定基準

憲法35条1項の明示の要請から住居権管理権の個数を基準に場所を特定するとし建物名だけでは足りず号室まで書く必要があると示す板

最後に、そもそもなぜ、令状は「場所」で区切るのか、という土台の話をします。むしろ、今日の話は、全部ここにつながります。憲法35条1項は、捜索する場所を明示した令状を求めています。「明示の要請」と呼ばれます。無関係な場所にまで捜索が広がるのを防ぐためです。住居権や管理権という、プライバシーの単位を守るためです。住居権は、住む人がその空間を私的な領域として保つ利益、管理権は、その場所への出入りを決める支配の利益を指す言葉です。多くの場合は同じ人がまとめて持ちますが、必ずしも一致するとは限りません。事務所や倉庫のように、人が住んでいない場所もあるので、2つ並べて言います。

基準は、住居権・管理権の個数です。1つの管理権が及ぶ範囲ごとに、1つの「場所」として特定します。例えば、集合住宅で、建物名だけを書いた令状を考えてみます。それだと、建物の中の全ての部屋の管理権を、まとめて巻き込みます。特定として不十分です。「○○荘103号室」まで書いて、はじめて、1つの管理権に対応した特定になります。今日の301号室の令状も、同じ発想です。一軒家で、家族が同居していれば、世帯主の家として1つの令状で足ります。鍵付きの個室を借りた下宿人がいるなら、その個室は、下宿人が独立して管理している範囲だと見られれば、世帯主とは別の管理権として扱われます。世帯主方の令状だけでは、その個室までは及びません。

金庫や自動車が対象に入るかも、居合わせた人のバッグが対象に入るかも、配達された荷物が対象に入るかも、全部、「同じ管理権の中にあるか」という、一つの物差しで説明できます。

今日のまとめ

場所の令状は同一の管理権の範囲に及ぶこと居合わせた者の所持品はその人だけの持ち物だと一見して明らかでない限り対象に入ること配達された物は受領で管理権に入ることの3点をまとめた板

今日の内容を振り返ります。1つ目。「場所」に対する令状の効力は、同一の管理権が及ぶ範囲、つまり敷地や付属建物、そこにある物にまで及びます。敷地の外に出ると、別の令状が要ります。2つ目。居合わせた人の所持品は、その人だけの持ち物だと一見して明らかでない限り、部屋の管理権の中にある物として扱われます。さっきのボストンバッグの決定は、この結論を示しましたが、理由は述べていません。身体そのものは、また別の話です。3つ目。執行中に配達された物も、居住者が受領すれば、管理権の中に入って、捜索の対象になります。さっきの宅配便の決定も、理由は述べていません。受け取りを拒否した場合は、判例の直接の判断ではなく、学説による理解です。4つ目。「場所」で区切る理由は、住居権・管理権というプライバシーの単位を守るためで、その個数が、特定の基準になります。

参照条文

  • 刑事訴訟法第102条
  • 刑事訴訟法第222条第1項
  • 刑事訴訟法第219条第1項

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