捜索・差押え③「場所」の令状が及ぶ範囲
問い:「場所」の捜索差押許可状で、そこにある物、居合わせた人の持ち物や身体、捜索の途中で届いた荷物まで捜索できるか。
骨組み
- 1場所の特定の基準(講義解説):の明示 → 住居権・管理権の個数で特定(1つの管理権=1つの場所)。集合住宅は号室まで/一軒家の家族は世帯主方で1つ/独立して暮らす下宿人の鍵付き個室は別
- 2場所の令状で物も(解説書=一般的な理解):条文は身体・物・場所を書き分けるが、裁判官が1つの管理権の範囲で事前に審査したと認められるなら → 同一の管理権が及ぶ範囲(敷地・付属建物・そこにある物)に及ぶ。タンス・机・金庫も捜索できる
- 3敷地の中と外:被疑者方の敷地内の自動車=その令状で捜索できる/敷地外に停めた自動車=別に令状が要る
- 4同居人が携帯していたバッグ(平6決定):被疑者(内妻A)と同居する被告人が携帯するボストンバッグ → 場所の令状で捜索できる(「右のような事実関係の下においては」・理由は示さない)
- 5所持品の学説:同一の管理権が及ぶ限り、居合わせた者が携帯・所持していても捜索できる。(解説書が同居人の事案に当てはめた検討)同居人の物は、その人個人の物と一見して明らかでない限り管理権が及ぶ
- 6居合わせた者の身体:場所の令状では当然には許されない。有力説=捜索場所にあった差押目的物を所持していると認めるに足りる状況があれば「必要な処分」(→前段)として必要かつ相当な範囲で
- 7執行中に配達された物(平19決定):令状呈示後に配達され被疑者が受領した荷物も捜索できる(理由は示さない)。学説=裁判官は有効期間中の正当な理由を判断したと考えられる(有効期間は原則7日)→ 呈示時に対象は固定されない
色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。平6決定=最決平6・9・8、平19決定=最決平19・2・8。
学説(解説書)の整理では、決め手が管理権(同一の管理権が及ぶか)になるのは「物」まで(項目2・3・5、項目7の学説)。身体(項目6)は別の基準。判例(項目4・7)は結論だけで理由を示していない。
判決文の「被告人」は、のちに起訴された人。平6決定では被疑者Aとは別の同居人、平19決定では捜索された本人(被疑者)。
1場所の特定の基準学説
- :令状は「捜索する場所及び押収する物を明示する」もの。
- 講義解説:明示を求めるのは、無関係な場所にまで捜索が広がるのを防ぎ、住居権(プライバシー)・管理権を守るため → 特定の基準は住居権・管理権の個数(1つの管理権が及ぶ範囲ごとに1つの場所)。
- 集合住宅:建物名だけでは全部の部屋の管理権を巻き込み、特定として足りない → 号室まで書く。
- 一軒家に家族が同居 → 世帯主方として1つの令状で足りる。鍵付きの個室で独立して暮らす下宿人がいれば、その個室は別の管理権 → 原則として別に特定する。
- この基準の出どころは講義解説(解説書の結論とは矛盾しない)。
- 「アパートの建物名だけを書いた令状で、全部の部屋を捜索できる」
2「場所」の令状は、そこにある「物」にも及ぶ条文学説
- 条文は対象を書き分ける:「被告人の身体、物又は住居その他の場所」(で捜査機関に準用)。令状にも「捜索すべき場所、身体若しくは物」を書く()。
- 問題:それなら「場所」の令状で、そこにある「物」は捜索できないのでは。
- 解説書(一般に考えられている理解):裁判官が1つの管理権の範囲で捜索・差押えをしてよいと事前に審査したと認められるのであれば、その同一の管理権が及ぶ敷地内・付属建物・そこにある物も捜索できる。
- 例:洋服タンス・机・金庫は、場所の令状で捜索できる。
被疑者の一軒家の令状で、寝室の鍵の掛かった机の引き出しを開ける → 机は家の管理権の中にある物なので、別の令状は要らない。
出題会社事務所を捜索すべき場所とする令状では、事務所にある金庫内は捜索できない(×)
- 「事務所を捜索すべき場所とする令状では、事務所内の金庫の中は捜索できない」(予備H23-16-オ)
- 「場所の中にある物を捜索するには、物を対象とする令状が別に要る」
3敷地の中と外学説
- 被疑者方の敷地内に停めた自動車は、同じ管理権の中の「物」→ 被疑者方の令状で車内まで捜索できる。
- 敷地外に停めた自動車は、被疑者方の管理権の外 → 自動車を対象とする令状が別に要る。
- 決め手は持ち主ではなく、令状の場所と同じ管理権の中にあるか。
| 被疑者方(一戸建て)の令状 | その令状で捜索 |
|---|---|
| 門の内側の駐車スペースの自動車 | できる |
| 同じ自動車を家の前の道路に停めた | 別に令状が要る |
出題甲方の捜索中、甲方の敷地内にある甲所有の自動車の車内を捜索すること(正答:1=許される)
- 「敷地内の自動車は『物』なので、被疑者方の令状では捜索できない」
- 「被疑者の所有物なら、どこにあっても被疑者方の令状で捜索できる」
4同居人が携帯していたバッグ(平6決定)判例
- 被疑者は被告人の内妻A(内縁の妻)(覚せい剤取締法違反)
- 捜索場所=A及び被告人が居住するマンションの居室とする令状
- 執行の際、同室に居た被告人(被疑者でない同居人)が携帯するボストンバッグの中を捜索
- …被告人の内妻であったAに対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき、同女及び被告人が居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け
…同室に居た被告人が携帯するボストンバッグの中を捜索したというのであって、右のような事実関係の下においては、前記捜索差押許可状に基づき被告人が携帯する右ボストンバッグについても捜索できるものと解するのが相当である
… - 結論だけで、理由は示していない。
- 判断したのは、被疑者と同居する者が携帯していた物について。来客・無関係の第三者の持ち物については何も述べていない。
- 「判例は、居合わせた者の所持品には部屋の管理権が及ぶから捜索できる、と理由を示した」
- 「判例は、居合わせた者であれば来客の持ち物も捜索できるとした」/「来客の持ち物は捜索できないとした」(どちらも判断していない)
- 「判例は、バッグを携帯していた被疑者本人について判断した」(携帯していたのは被疑者でない同居人)
5所持品の学説と同居人の物学説
- 問題の所在:居合わせた者の所持品・身体を捜索するなら、各別の令状(対象ごとに別の令状=。刑訴法はこれを受けて身体・物・場所を書き分ける)が要るのではないか。
- 学説は所持品(物)と身体を分ける。所持品=床に置かれている物と同じく、同一の管理権が及ぶ限り、居合わせた者が携帯・所持していても捜索できる(身体は項目6)。
- 解説書の検討(同居人の事案への当てはめ):同居人の物は、その人個人の物と一見して明らかでない限り、被疑者の管理権も及ぶ → 捜索できる。
- 「一見して明らかでない限り」は、同居人の事案に当てはめた検討の言葉で、学説の一般論の言葉ではない。
- 来客・通りがかりの人の持ち物に部屋の管理権が及ぶかは、判例も解説書も結論を書いていない(学説が示すのは「管理権が及ぶ限り」という基準まで)。
同居の家族が床に置いていたリュック → その人だけの物と一目で分からなければ、部屋の管理権の中の物として捜索できる(解説書の検討の基準)。
- 「居合わせた者が手に持っている物は、場所の令状では捜索できない」(学説は、管理権が及ぶ限り携帯していても可とする)
6居合わせた者の身体条文学説
- 身体は、場所の令状では当然には許されない(物と違い、人身の自由が別にかかる)。
- ただ、一切許されないとすると、目的物を身体に隠されたときに対処できない。
- 有力な見解:居合わせた者が捜索場所にあった差押目的物を所持していると認めるに足りる状況があれば、捜索・差押えの「必要な処分」(前段・で準用)として、妨害を排除し原状を回復して捜索・差押えを完遂するため必要かつ相当な範囲で身体を捜索できる。
- 前段:差押状又は捜索状の執行については、錠を外し、封を開き、その他必要な処分をすることができる。
| 所持品(物) | 身体 | |
|---|---|---|
| 場所の令状で | 同一の管理権が及ぶ限り捜索できる | 当然には許されない |
| 許される道 | 管理権の範囲の物として | 所持と認めるに足りる状況 → 必要な処分(必要かつ相当な範囲)=有力説 |
差し押さえるべき物を覚醒剤・注射器等とする令状で捜索中、居合わせた人が捜索場所にあった注射器をとっさに上着の内側へ入れたのを捜査員が見た → 所持していると認めるに足りる状況あり → 必要かつ相当な範囲で身体を捜索できる(有力説)。隠す様子もなく居合わせただけの人のポケットを探る → 有力説の要件を欠き、場所の令状では許されない。
- 「場所の令状があれば、居合わせた者の身体も当然に捜索できる」
- 「居合わせた者の身体は、どんな場合でも場所の令状では捜索できない」(有力説からは誤り=必要な処分としての道を認める)
7執行中に配達された物(平19決定)判例学説
- 捜索場所=被告人方居室等、差し押さえるべき物=覚せい剤等とする令状
- 被告人立会いの下で居室を捜索中、宅配便の配達員が被告人あての荷物を配達
- 被告人が受領した荷物を警察官が開封 → 覚せい剤
- 覚せい剤所持罪で現行犯逮捕、逮捕の現場で差押え(争点は令状による開封=捜索の部分)
- 所論は,上記許可状の効力は令状呈示後に搬入された物品には及ばない旨主張するが,警察官は,このような荷物についても上記許可状に基づき捜索できるものと解するのが相当であるから,この点に関する原判断は結論において正当である。
- 争点は、令状を呈示した時点(処分を受ける者に令状を示した時点=・で準用)で捜索の対象が固まるか。判例は結論だけで、理由は示していない。
- 学説は一般に判例の結論を支持:あとから搬入された物でも、管理権が及ぶ物と認められる限り、新たな管理権の侵害はない。裁判官は有効期間中の「正当な理由」を判断したものと考えられ、有効期間は原則7日(刑訴規則300条。相当と認めるときは7日を超える期間も定められる)→ 呈示した時点で目的物が固定されるとみる理由はない。
- 解説書の検討:受領すれば管理権が及ぶ。受け取りを拒むなどで管理権が及ばなければ、新たな令状で宅配業者等から押収する必要があろう(判例の判断ではない)。
| 捜索中に届いた被疑者あての荷物 | その令状で捜索 | 出どころ |
|---|---|---|
| 被疑者が受領した | できる | 平19決定 |
| 受け取りを拒み、配達員が持ち帰った | 新たな令状で宅配業者等から押収することになろう | 解説書の検討(判例は判断していない) |
出題甲方の捜索中、甲あてに配達され立会人の甲が受領した荷物を捜索すること(正答:1=許される)
出題令状の効力は呈示後に搬入された物品には及ばないから、甲が受領した宅配便の荷物は甲の承諾なく開封できない(×)
出題許可状の効力は呈示後に甲宅に搬入された物品には及ばないから、小包の開封は違法である(×)
出題令状で差し押さえられる物は、令状審査の時点で捜索場所に存在していた物に限られる(×)
- 「令状の効力は呈示後に搬入された物品には及ばない」(司法H23-24-ア・予備R6-22-オ)
- 「差し押さえられるのは、令状審査の時点で捜索場所にあった物に限られる」(予備R2-16-エ)
- 「受け取りを拒んだ荷物には新たな令状が要る、と判例が判断した」(判例は受領した荷物の場面だけ)