捜索・差押え④関連性と報道機関の取材資料
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第2章 捜査 ㉒/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
窃盗の令状で見つかった、別の紙切れ

窃盗事件の令状を持って、Bさんの家を捜索しています。令状に書かれた「差し押さえるべき物」は、盗まれた指輪類です。机の引き出しを開けると、指輪はありません。代わりに、見慣れないメモが出てきました。読んでみると、薬物の取引の記録らしきものです。これは、差し押さえていいのでしょうか。それとも、令状の範囲外なので、触れずに置いておくべきでしょうか。この問いに答えるには、令状の「執行」の話とはまた別の、もう1段深い物差しが要ります。今日は、そこを見ていきます。
「正当な理由」の中身——関連性と必要性

令状の請求を扱った回で、憲法35条1項の「正当な理由」を学びました。あれは、令状を「発付する」段階の話でした。今日は、その令状を「執行する」段階、現場で物を目の前にした段階の話です。4つの問いのうち、「事件と関わりがあるか」を関連性、「今差し押さえる必要があるか」を必要性と呼びます。現場で物を見た瞬間にも、この2つを問い直すことになります。
条文日本国憲法第35条
日本国憲法第35条 1項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。 2項 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
この2つの言葉は、条文の文言ではありません。「正当な理由」を具体化するために、判例・学説が解釈で立てた規範です。そちらは、条文どおりの成立要件です。「差し押さえるべき物」に当たるか、という問いに答えるために、関連性・必要性という解釈上の物差しを当てはめる、という関係です。
条文刑事訴訟法第219条第1項
刑事訴訟法第219条第1項 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所、身体若しくは物、提供させるべき電磁的記録、提供させるべき者及び提供の方法、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、捜索若しくは検証に着手し、又は電磁的記録提供命令をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
令状には、「指輪類」としか書いてありません。目の前の薬物取引のメモが、この「指輪類」の一部と言えるか。これを関連性・必要性という物差しで判定します。
別罪の証拠になりうる物——メモ押収の最高裁判決

まず、「別罪の証拠になりうる物」という場面です。この場面を扱った判例があります。恐喝事件の令状で暴力団事務所を捜索したところ、暴力団を示すバッジやメモと一緒に、賭博に関するメモが見つかった事案です。このメモは、恐喝とは別の、賭博開張の事件の証拠として使われました。
判例最高裁判所判決・昭和51年11月18日(判時837号104頁)
最高裁判所判決〈別罪の証拠になりうる物の差押え〉 令状に明示されていない物の差押が禁止されるばかりでなく、捜査機関が専ら別罪の証拠に利用する目的で差押許可状に明示された物を差し押えることも禁止される。もっとも、本件メモは、別罪である賭博被疑事件の直接の証拠となるものではあるが、同時に恐喝被疑事件の証拠となりうるものであり、令状に明示された「暴力団を標章する状、バッジ、メモ等」の一部として差し押えられたものと推認することができ、専ら別罪である賭博被疑事件の証拠に利用する目的でこれを差し押えたとみるべき証跡は、存在しない。
判旨は2段構えになっています。まず、令状に書かれていない物を押収すること自体、もともと禁止です。そして、それだけでなく、令状に書かれた物であっても、専ら別罪の証拠に利用する目的で差し押さえることも、同じく禁止です。令状主義は、捜索・差押えの範囲を事前に限定して、捜査機関による権限の逸脱・濫用を防ぐ制度です。「別の事件の証拠にも使えるから」という理由で際限なく押収を広げれば、この歯止めが崩れます。
⭐ 論文で書く規範:別罪の証拠になりうる物の差押え 令状に明示された物であっても、捜査機関が専ら別罪の証拠に利用する目的で差し押さえることは禁止される。もっとも、差押物が令状記載物の一部と推認でき、被疑事実(罪体または量刑上重要な情状に関する事実)との関連性が認められる限り、専ら別罪の証拠に利用する目的があったとはいえず適法である。 (規範(最判昭51.11.18))
罪体とは、犯罪があったことそのもの。情状とは、刑の重さを左右する事情です。このメモは、「暴力団を標章する状、バッジ、メモ等」という令状記載物の一部と推認できる、とされました。暴力団員であることを示すメモ類の中に、賭博のメモが紛れていた、という構図です。そして、「専ら賭博の証拠に利用する目的」だったと疑わせる事情も、見当たりませんでした。だから、適法と判断されました。気をつけてほしいのは、この判決が「別罪の証拠になる物も自由に押収してよい」とは言っていないことです。適法とされたのは、令状の「メモ等」の一部と言えたからです。一部と言えない物ならどうなるかは、冒頭の薬物メモで確かめます。
関連性の射程——罪体だけではない

「関連性」の範囲を、もう少し正確に見ておきます。犯罪そのものの証拠になることだけが、関連性ではありません。被疑事実との関連性は、罪体、つまり犯罪があったことそのものに関する事実に限られず、量刑上重要な情状に関する事実のいずれかと関連すれば、それでも足ります。そういう事情も含みます。冒頭の窃盗事件で例えるとわかりやすいです。薬物取引のメモの中に、盗んだ指輪の売却先が書かれていたら、どうですか。それは、窃盗事件の証拠そのものですね。これは罪体との関連性が明らかです。では、窃盗事件とは直接関係ないが、Bが常習的に盗品を転売して生活していたことを示すメモだったらどうですか。
窃盗そのものの証拠じゃないけど……常習性は、量刑を決めるときに効いてきそうです。量刑上重要な情状に関する事実として、関連性が肯定されます。その場合は、罪体とも情状とも関連せず、別罪とだけ関連する証拠になります。関連性を欠くので、押収すれば、専ら別罪の証拠に利用する目的が推認され、違法になりうる。見た目の分類ではなく、被疑事実とのつながりの有無で決まります。
別件捜索・差押え——口実にされた軽い事件

今の話には、裏返しの場面があります。さっきは、「本件の令状で捜索したら、別罪の証拠が出てきた」という場面でした。今度は、「本当に欲しいのは別罪の証拠なのに、わざと軽い別件で令状を取って、家に入る」という場面です。これを別件捜索・差押えと呼びます。名前は似ていますが、別件逮捕・勾留は、人の身柄を拘束する場面でした。こちらは、物を押収する場面です。口実を見抜く「専ら」という物差しだけが共通しています。例えば、軽い迷惑防止条例違反の令状を得て会社に入り、実は狙っていた贈収賄の帳簿を押収する、という構図です。
迷惑防止条例違反で、会社の中まで捜索する必要なんて、あるんですか。そこがポイントです。軽微な事件では、そもそも家宅捜索までする必要性が乏しいことが多いです。事件が軽ければ、集まる証拠の価値も小さい。それなのに家や会社の中まで捜すのは、侵害が大きすぎて釣り合わないからです。これを扱った裁判例があります。モーターボート競走法違反という軽微な事件の令状で捜索したところ、預金通帳が見つかり、任意提出を受けて、これが業務上横領事件の証拠になった事案です。
判例広島高等裁判所判決・昭和56年11月26日(判タ468号148頁)
高等裁判所判決〈別件捜索・差押えの違法性〉 捜索差押えについて「違法の疑いが強い」としつつ、預金通帳は任意に提出されていることから、重大な違法があるとまではいえないとした(要旨)。
判断は2段です。1段目は、捜索・差押えに違法の疑いが強いこと。2段目は、それでも証拠から外すほどの違法ではない、という点です。まず、1段目です。この裁判例は、捜索の必要性に乏しい軽微な別件を利用して、本件、つまり横領事件の証拠を得た点を、強く疑っています。さっきの最判の物差しに当てはめると、どうなりますか。軽微な別件では、もともと必要性が乏しいので、「専ら別罪、つまり横領の証拠に利用する目的だった」と推認されやすくなります。必要もないのに捜索したのなら、本当の狙いは別の事件にあった、と見られるからです。
学説には、別件捜索・差押えを独立に論じる必要はなく、関連性の有無で解決できる、とする見解もあります。裁判例に戻ると、2段目は、通帳が本人から任意に差し出された物だった点が効いています。「重大な違法」とは、違法な捜査で得た証拠を裁判から外すかどうかの物差しです。中身は、証拠法の章で扱います。
報道機関への差押え——博多駅事件が立てた枠組み

もう1つ、「差し押さえてよい物か」が鋭く問われる場面があります。冒頭のBさんが、窃盗の現場をテレビ局に撮影されていた、とします。犯行の一部始終が映った未放映の映像を、捜査機関が差し押さえたい、と考えます。報道機関には、21条が保障する報道の自由と、21条の精神に照らしじゅうぶん尊重に値する取材の自由があります。一方、捜査機関には、適正迅速な捜査を実施する必要があります。この2つの憲法上の要請がぶつかる場面です。ここで効いてくるのは、もう一方の物差し、必要性です。証拠として押収する必要性が、報道機関側の不利益を上回るか、という形で問われます。まず、裁判所が提出を命じる場面の根拠条文を見ます。
条文刑事訴訟法第99条第3項
刑事訴訟法第99条第3項 裁判所は、差し押えるべき物を指定し、所有者、所持者又は保管者にその物の提出を命ずることができる。
この条文の力を報道機関にどこまで使ってよいかが、実際に争われた事件があります。報道機関が撮影した集団の事件現場のフィルムに、裁判所が提出を命じた事件です。
判例最高裁判所大法廷決定・昭和44年11月26日(刑集23巻11号1490頁)
最高裁判所大法廷決定〈報道機関に対する提出命令と比較衡量〉 一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において、取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきである。
この決定は、取材の自由も無制約ではないが、一方的に制約してよいわけでもない、として、天秤にかけて決める、という枠組みを立てました。左の皿に、犯罪の性質・態様・軽重と、証拠としての価値。右の皿に、取材の自由が妨げられる程度と、報道の自由への影響です。撮り終わった映像を持っていかれても、取材の自由まで傷むんですか。傷みます。取材に応じた人は、自分の映った映像が捜査に使われると知れば、次からは協力しなくなります。持っていかれるのは今の1本でも、失うのは将来の取材なんです。この枠組みが、捜査機関による差押えの場面にも使えるかが、次に問題になります。
TBS決定——捜査機関による差押えと比較衡量

暴力団組長らの集団的な脅迫・傷害事件で、テレビ局が撮影・放映済みの番組のマザーテープが差し押さえられた事件です。マザーテープとは、放送のもとになった、元の録画テープのことです。さっきは、裁判所による提出命令、要請は「公正な刑事裁判の実現」でした。今度は、捜査機関による差押え、要請は「適正迅速な捜査の遂行」です。
判例最高裁判所決定・平成2年7月9日(刑集44巻5号421頁)
最高裁判所決定〈報道機関に対する差押えと比較衡量〉 公正な刑事裁判を実現するために不可欠である適正迅速な捜査の遂行という要請がある場合にも、同様に、取材の自由がある程度の制約を受ける場合があること、また、このような要請から報道機関の取材結果に対して差押をする場合において、差押の可否を決するに当たっては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押さえるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによって報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきであることは、明らかである。
この決定は、比較衡量の枠組みを、捜査機関による差押えでも使っています。実は、検察官による差押えについて、先に同じ判断をした決定があり、TBS決定はそれを警察による差押えにも及ぼしました。なぜ、捜査にまで広げてよいのか。捜査で証拠が集まらなければ、公正な裁判もそもそも開けないからです。捜査は、裁判の入口なんです。考えてみましょう。窃盗は、決して軽い犯罪ではなく、犯行の一部始終が映った映像は、証拠としての価値が高いです。一方、この映像がすでに放映済みであれば、報道の機会そのものは奪われていません。未放映であれば、報道の機会が奪われる不利益が加わり、天秤は報道機関側に少し傾きます。TBS決定の事案では、番組はすでに放映済みで、犯行を制止せずに撮影した取材方法自体が、将来保護されるべき必要性に乏しい、とも評価されました。犯罪が軽微でなく、証拠価値が大きい一方で、報道機関側の不利益は小さい。この判断で、差押えは適法とされました。
⭐ 論文で書く規範:報道機関に対する差押えの比較衡量 差押えの必要性の判断において、①犯罪の性質・態様・軽重②証拠としての価値、から見た適正迅速な捜査を実施する必要性と、③取材の自由が妨げられる程度④報道の自由への影響、から見た報道機関が受ける不利益とを、比較衡量して決すべきである。 (規範(最大決昭44.11.26/最決平2.7.9))
丸暗記でなく、天秤の両側に何を乗せるかで覚えてください。左に、捜査の必要性を支える2つ。右に、報道機関の不利益を支える2つです。なお、報道機関から得た物を証拠に使うことは、本来控えるべきだ、というのが出発点です。公正な裁判を実現する必要と、適正で迅速な捜査を進める必要とが、報道機関の受ける不利益を大きく上回るときだけ、使ってよい、とする有力な見解もあります。
比較衡量は「必要性」の中身——弁別の総仕上げ

この比較衡量は、独立の新しい制度でしょうか。位置づけを整理します。この比較衡量は、「正当な理由」のうちの、差押えの必要性の判断です。報道機関という特殊な場面で、「必要性」の中身を具体化したものなんです。最判昭51の「専ら別罪の目的」も、TBS決定の「比較衡量」も、出発点は同じ、憲法35条1項「正当な理由」です。前者は関連性の中身を、後者は必要性の中身を、それぞれ場面に応じて具体化しただけです。冒頭の薬物メモは、関連性で測りました。迷惑防止条例の令状で帳簿を狙う話は、必要性の乏しさが、関連性の疑いに跳ね返る場面でした。テレビ局の映像は、必要性を天秤で測りました。
押収拒絶権——報道機関は列挙されていない

もう1つだけ、一言触れておきます。そこが、今日の最後のポイントです。刑訴法105条は、医師や弁護士など、一定の職業に押収拒絶権を認めています。しかし、この列挙に、報道機関は含まれていません。だからこそ、比較衡量という、解釈による調整が必要になるんです。
今日のまとめ
図:関連性と必要性という2本の物差しに今日の3つの場面をそれぞれ振り分けたまとめ板
今日の内容を振り返ります。出発点は、憲法35条1項の「正当な理由」でした。これを、関連性と必要性という2つの物差しに分解しました。関連性は、罪体だけでなく、量刑上重要な情状に関する事実にも及びます。令状に明示された物であっても、専ら別罪の証拠に利用する目的で差し押さえることは禁止されますが、差押物が令状記載物の一部と推認でき、被疑事実との関連性が認められれば、適法です。この物差しは、裏返せば、必要性に乏しい軽微な別件を利用した別件捜索・差押えの違法性を見る物差しにもなります。報道機関に対する差押えでは、必要性の中身が、犯罪の性質・態様・軽重、証拠としての価値、取材の自由が妨げられる程度、報道の自由への影響、この4要素の比較衡量として具体化されました。105条の押収拒絶権に、報道機関は含まれていません。
別罪の証拠も、別件捜索も、報道機関の取材資料も、全部「関連性」と「必要性」という、同じ2本の物差しで測れるんですね。場面ごとに名前は違っても、測っているものは1つです。
参照条文
- 日本国憲法第35条
- 刑事訴訟法第219条第1項
- 刑事訴訟法第99条第3項