刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#41

捜索・差押え⑤令状外の写真撮影と押収物の処分・押収拒絶権

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第2章 捜査 ㉒/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

撮っていいのか、この写真

301号室で発見した盗品の宝石を捜査員がスマートフォンで撮影しているところを大写しにする導入板

前回、Bさんの301号室から、令状に書かれていた盗品の宝石が、見つかりました。でも、現場では、もう1つ作業が残っています。捜査員が、見つかった宝石の様子を、スマートフォンで撮影しました。令状には、「盗品の宝石を差し押さえてよい」としか書いてありません。写真を撮っていいとは、どこにも書いていないんです。この写真、撮っていいのか。そして、押収した宝石は、これからどうなるのか。今日は、令状に書かれていないこの2つを見ていきます。先に、答えだけ教えてください。撮っていいんですか。目的しだいです。決まった2つの目的の範囲なら撮れます。超えれば違法。ただ、その違法を、その場の不服申立てで争うことはできません。

写真を撮ることの正体——法的には検証

カメラを構える捜査員の隣に検証という言葉を大きく置き原則として検証許可状が必要だと示す板

まず、「写真を撮る」という行為自体の正体から見ます。法律的には違います。対象を、見て、記録する。これは、「検証」という処分の性質を持ちます。五官の作用で対象を観察し、その結果を記録する処分、それが検証です。写真撮影は、まさにこれに当たります。人の姿を撮る捜査を扱った回で見たのと同じ位置づけです。原則は、そうです。この考え方は、現場での写真撮影が争われた判例から導かれます。

判例最高裁判所第二小法廷決定(東京田端の捜索差押え執行中の写真撮影が問題となった事案・刑集44巻4号385頁)

東京地方裁判所の準抗告棄却決定に対する特別抗告についての最高裁判所第二小法廷決定〈令状執行中の写真撮影〉 写真撮影は……検証としての性質を有すると解される。

捜索差押許可状は、あくまで「捜索して、差し押さえる」ための令状です。そこに、「見て記録する」という別の処分の権限は、当然には含まれていません。さっきの宝石の撮影は、違法だったんですか。そこは、まだ早いです。原則には、例外があります。写真や動画で人の姿を無断で撮ること自体が強制処分に当たるかどうかは、別の回ですでに扱いました。今日は、「令状執行の現場での撮影」に絞って進めます。

随伴処分として撮ってよい範囲——2つの目的

宝石の発見場所を撮る場面と令状執行の様子を撮る場面を並べ証拠価値の保存と執行の適法性の担保という2つの目的で囲む板

原則は検証許可状が必要。でも、一定の範囲では、捜索差押許可状の効力だけで、撮影が許されます。捜索・差押えにくっついて許される処分、という意味で、これを「随伴処分」と呼びます。目的が2つに絞られます。

論文で書く規範:随伴処分として撮影が許される範囲——2つの目的 捜索差押許可状の効力に含まれる撮影は、①差し押さえるべき物を発見した場所・状態を記録すること(証拠価値の保存)、②令状の提示・実施状況・立会いの状況など、執行の適法性を担保すること、この2つの目的の範囲内に限られる。 (最決平2・6・27の補足意見(藤島昭裁判官)が示し、学説が支持する整理(規範・通説で立てる))

今日の宝石の話に当てはめてみます。まず1つ目。宝石がどこにどんな状態であったか、タンスの引き出しの中だったのか、床に置かれていたのか、この状態を撮っておく。これが、証拠価値の保存です。2つ目。捜査員が、いつ令状を提示したか、誰が立ち会ったか、執行の様子全体を撮っておく。これが、執行の適法性の担保です。理由は、プライバシーの侵害の程度にあります。捜索差押許可状そのものによって、住居内のプライバシーは、すでに適法に侵害されています。その状況を2つの目的の範囲内で撮影する程度は、すでに生じている侵害の範囲を超えません。受忍すべき限度の中に収まる、という理解です。

では、1つ問題を出します。捜索の途中、捜査員が、令状には書かれていない、Bさんの家族の私物のアルバムまで開いて、中の写真を撮影しました。考えてみてください。どちらにも当たりません。

範囲を超えた撮影——違法という評価

家族の私物のアルバムを開いて撮影する捜査員の手を随伴処分の枠の外側に置く違法評価の板

このアルバムの撮影は、随伴処分として許される範囲を超えています。検証許可状も無いのに、検証としての性質を持つ撮影をしてしまった、ということです。学説上は、違法と評価されます。あの事件でも、差し押さえるべき物に当たらない、印鑑やポケットティッシュ、電動ひげ剃り機、洋服ダンスの中の背広まで撮影していました。だから、この部分の撮影は、随伴処分の範囲を超えている、と学説上評価されています。

争えるか——押収に関する処分ではないという壁

アルバムを撮られた家族が写真を消してほしいと申し立てる様子を準抗告不可という壁の前で止める板

ここが、今日、いちばん意外なところです。押収物や押収の処分に不服がある人は、準抗告という手続で争えます。でも、この申し立ては、不適法として退けられます。先ほどの判例の事件で、最高裁がこう判断しました。

判例最高裁判所第二小法廷決定(東京田端の捜索差押え執行中の写真撮影が問題となった事案・刑集44巻4号385頁)

最高裁判所第二小法廷決定〈令状執行中の写真撮影に対する準抗告の可否〉 右の写真撮影は、それ自体としては検証としての性質を有すると解されるから、刑訴法四三〇条二項の準抗告の対象となる「押収に関する処分」には当たらないというべきである。

準抗告は、「押収に関する処分」だけを対象にした不服申立てです。そして写真撮影は、押収ではなく、検証としての性質を持ちます。だから、そもそも対象外、という判断です。「違法である」ことと、「準抗告で争える」ことは、別の話なんです。ただ、この決定には補足意見が付いていて、藤島裁判官の補足意見は、あの事件の印鑑や背広のように、令状に書かれていない物を撮った部分を、違法だと明言しています。学説には、押収物と実質的に同視できる撮影、たとえば日記帳の中身を逐一撮影するような場合は、「押収に関する処分」に含めて準抗告を認めるべきだ、とする有力説もあります。

ただ、この説には、準抗告はもともと、差し押さえで物を取り上げられるという、財産上の損失を救うための制度であって、占有を奪わない写真撮影とは性質が違う、という批判もあります。準抗告そのものの制度は、別の回でまとめて扱います。現行の実務では、違法な写真撮影を争う道は、公判で証拠として排除してもらうこと、これしかありません。この証拠排除の話は、また別の回で扱います。

押収した後の必要な処分——フィルムの現像に新しい令状はいらない

111条1項の執行中に対する処分と111条2項の押収後の物に対する処分を左右に対比しフィルム現像を右側に置く板

「令状の外側」は、ここまでにしておきます。次は、「押収のあと」です。その前に、もう1つ場面があります。押収した犯行メモ入りのUSBメモリ、中身を見たいですよね。前々回、「必要な処分」という条文を見ました。あれは111条1項でした。今日は、その次の項を見ます。

条文刑事訴訟法第111条第2項

刑事訴訟法第111条第2項 前項の処分は、押収物についても、これをすることができる。

対象が違います。111条1項は、これから捜索・差押えをするその現場そのものへの処分。111条2項は、すでに押収し終わった物への処分です。USBメモリの中身を読み出して、画面に表示したり、プリントアウトしたりすること。押収した未現像のフィルムを現像すること。これらは、111条2項の「必要な処分」として認められます。新しい令状は、いりません。押収そのものは終わっているので、その中身を見るための処分は、この条文がカバーします。

押収物の行き先——目録・保管・廃棄・換価・還付

押収から目録交付を経て保管・代保管・危険物の廃棄・換価保管に分岐し留置不要なら還付義務に至る一本のフロー板

では、押収した物のその先を見ます。まず、押収したその場で、やることがあります。

条文刑事訴訟法第120条第1項

刑事訴訟法第120条第1項 押収をした場合には、その目録を作り、所有者、所持者若しくは保管者(……)又はこれらの者に代わるべき者に交付しなければならない。

何を持っていかれたか所有者に明らかにさせて、紛失を防ぎ、あとで返還を請求しやすくするためです。次は、保管です。

条文刑事訴訟法第121条第1項・第2項

刑事訴訟法第121条 運搬又は保管に不便な押収物については、看守者を置き、又は所有者その他の者に、その承諾を得て、これを保管させることができる。(1項)危険を生ずる虞がある押収物は、これを廃棄することができる。(2項)

原則はそうです。でも、大型の機械や大量の資材のような不便な物は、所有者その他の者に、その承諾を得たうえで、保管させることができます。捜査機関の代わりに保管してもらうので、「代保管」と呼びます。勝手に押し付けていいわけではありません。そして、爆発物や劇薬のような、危険な押収物は、廃棄できます。保管している間に危険が生じる物まで抱え込む必要はありません。もう1つ、似た場面があります。

条文刑事訴訟法第122条第1項

刑事訴訟法第122条第1項 没収することができる押収物で滅失若しくは破損の虞があるもの又は保管に不便なものについては、これを売却してその代価を保管することができる。

生鮮食品や、型落ちですぐに価値が暴落する物、こういう物は、そのまま抱えていても価値が目減りするだけです。だから、売却して、代金の形で保管します。これを、換価保管と呼びます。ただし、売ってよいのは、没収できる押収物だけです。いずれ持ち主に返すかもしれない物を、勝手にお金に換えるわけにはいかないからです。さて、捜査の途中で、分かったことがあります。押収した宝石のうち、今回の被害者とは関係のない物が混じっていました。これは、どうなると思いますか。

条文刑事訴訟法第123条第1項・第2項

刑事訴訟法第123条 押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない。(1項)押収物は、所有者、所持者、保管者又は差出人の請求により、決定で仮にこれを還付することができる。(2項)

持ち主に返してあげるんですね。これを、「還付」と呼びます。ここで、条文の言葉に注目してください。「還付することができる」ではありません。「還付しなければならない」です。「留置の必要がない」、つまりもう証拠として使う予定も没収する予定もない状態になったら、事件が終わるのを待たずに、返す義務が生じます。まだ証拠として必要だけど、所有者が「今すぐ使いたいから返してほしい」と請求する場合もあります。この場合は、決定で「仮に」還付できます。「還付することができる」であって、まだ留置の必要があることを前提に、一時的に貸し出すような処分です。目録の交付、保管、代保管、廃棄、換価保管、還付、仮還付。押収した物は、この流れのどこかをたどって、最後に落ち着き先を見つけます。

そもそも押収を拒める人がいる——押収拒絶権

医師・弁護士・宗教の職に在る者などの職業を列挙しただし書の3つの除外事由を添えた押収拒絶権の対象者一覧板

最後に、押収の「前」に効く仕組みを見ます。前回、報道機関に押収を拒む権利が認められているといえるか、覚えていますか?認められていない、でしたね。今日は、逆に、誰にならこの権利が認められているのか、中身を見ます。

条文刑事訴訟法第105条第1項

刑事訴訟法第105条第1項 医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができる。但し、本人が承諾した場合、押収の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。

患者のカルテ、依頼者の相談内容、信者の告白の内容、こういう業務上の秘密を抱える職業には、押収を拒める権利が認められています。秘密が押収されてしまうなら、患者も依頼者も、本当のことを話せなくなります。守っているのは、その職業への信頼です。ただし、無条件ではありません。ただし書に3つの除外事由があります。本人が承諾した場合、押収の拒絶が被告人のためだけの権利の濫用と認められる場合、そして裁判所の規則で定める事由がある場合。この3つのどれかに当たれば、拒むことはできません。たとえば、患者本人が「カルテを出していい」と言えば、医師はもう拒めません。守るべき秘密の持ち主が、守らなくていいと言っているからです。

そして、この条文はもともと、裁判所の押収に関する規定です。

条文刑事訴訟法第222条第1項

刑事訴訟法第222条第1項(準用部分抜粋) 第百三条から第百五条まで、……第百二十条第一項、第百二十一条第一項及び第二項、第百二十二条、第百二十三条第一項から第三項まで……の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、……それぞれ準用する。

この準用リストに、105条を含む「103条から105条まで」が入っています。120条、121条、122条、123条、そして105条、今日見た条文はすべて、この222条1項によって捜査機関にも準用されています。だから105条の押収拒絶権も、捜査機関が行う押収にそのまま及びます。医師や弁護士のような明文の職業列挙に、報道機関は入っていません。だから明文の拒絶権が使えず、適正迅速な捜査の必要性と、報道機関が受ける不利益を比べる、比較衡量という解釈で処理するしかなかったんです。105条の中身を知って初めて、前回の話がつながります。

今日のまとめ

令状の外側の写真撮影と押収のあとの処理・押収拒絶権を1本の線でつないだまとめ板 図:令状の外側の写真撮影と押収のあとの処理・押収拒絶権を1本の線でつないだまとめ板

今日の内容を振り返ります。令状に書かれた枠の「外側」と、押収の「あと」を見ました。まず外側。写真撮影は、法的には検証で、原則は検証許可状が必要でした。ただし、証拠価値の保存と執行の適法性の担保、この2つの目的の範囲内なら、捜索差押許可状の効力だけで撮影できます。範囲を超えれば違法と評価されるけれど、写真撮影は押収に関する処分に当たらないので、準抗告では争えません。争う道は、公判での証拠排除だけでした。次は、押収のあと、押収した物への「必要な処分」は、111条2項で新しい令状なしにできます。押収物は、目録を交付し、原則は自ら保管、不便な物は承諾を得て代保管、危険な物は廃棄、没収予定で価値が目減りする物は換価保管、そして留置の必要がなくなれば、還付は義務でした。最後に、そもそも押収を拒める人がいる、という105条の押収拒絶権。医師や弁護士などの明文の列挙で、これは222条1項の準用で捜査機関にも及びます。

これで、第2章の「証拠の収集と令状主義」は、一区切りです。

参照条文

  • 刑事訴訟法第111条第2項
  • 刑事訴訟法第120条第1項
  • 刑事訴訟法第121条第1項・第2項
  • 刑事訴訟法第122条第1項
  • 刑事訴訟法第123条第1項・第2項
  • 刑事訴訟法第105条第1項
  • 刑事訴訟法第222条第1項

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