捜索・差押え⑥データを差し押さえる4つの方法
印刷のコツ
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第2章 捜査 ㉓/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
パソコンの中身は、目に見えない

投資詐欺グループの摘発現場です。令状には、「被疑者が使用するパソコン一式」と書かれています。ところが、今日は少し事情が違います。パソコンの画面を開いても、見えるのはフリーメールのログイン画面だけ。犯行のメールは、このパソコンの中には保存されていません。クラウド上、つまり契約しているメールサーバのどこかです。パソコンごと持って帰っても、中身は空っぽかもしれません。データは、有体物の差押えとは違う道具立てが要ります。今日は、その道具を4つ、渡します。
電磁的記録の特殊性——目に見えず、読めない
図:有体物には備わる可視性と可読性が電磁的記録には無いことを対比する板
差押えの対象は、本来「証拠物又は没収すべきと思料する物」、つまり有体物です。ところが、電磁的記録、つまりデータ自体は、有体物ではありません。USBメモリやハードディスクという「媒体」は有体物ですが、その中のデータは違います。データには、有体物には無い特徴が4つあります。1つ目、見てもわからない、可視性の欠如です。USBメモリを見つめても、中に何が入っているかはわかりません。2つ目、読んでもわからない、可読性の欠如です。データは機械の中で、人の目では読めない形式で記録されています。3つ目は、冒頭のクラウドの話です。データは、遠く離れたサーバにあることも珍しくありません。可搬性・遠隔性です。4つ目、データはとにかく量が多い。大量性です。現場で1件ずつ選ぶのは、現実的ではありません。
この4つの困難に対応するために、平成23年の改正で、新しい処分が導入されました。それが、これから見る4つの道具です。
誰が使えるか——222条1項の準用とリモートアクセス

これから見る条文は、多くが「裁判所」を主語に書かれています。そこで効いてくるのが、222条1項です。裁判所向けの規定の一部を、検察官・検察事務官・司法警察職員にも準用する、という条文です。押収と捜索のルールは、まず裁判所がする場面として、法律の前のほうに、まとめて書かれています。捜査機関の分は、同じルールを書き直さずに、222条1項で借りてくる作りです。だから、何が使えるかは、222条1項の一覧で確かめます。
条文刑事訴訟法第222条第1項(抜粋・準用部分のみ)
刑事訴訟法第222条第1項(本回で使う準用範囲の抜粋) 第九十九条第一項、第百条、第百二条、第百三条から第百五条まで、第百十条、第百十条の二前段、第百十一条第一項前段及び第二項、第百十一条の二前段、…の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、…それぞれ準用する。
110条の2は、あとで見る、代替処分の条文です。データを丸ごとではなく、必要な分だけ写して押さえる道具です。その前段には、1号と2号の両方が含まれています。だから、捜査機関自身が複写する方法も、相手にやらせる方法も、どちらも使えます。後段で外れているのは、公判廷、つまり、裁判が開かれている法廷で、差し押さえる場合の規定だけです。目の前の機械の外にあるデータに手を伸ばす、1つ目の道具です。
条文刑事訴訟法第218条第2項
刑事訴訟法第218条第2項 差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。
これが、いわゆるリモートアクセスです。被疑者宅のパソコンに、ネットワークでつながっているメールサーバから、データを複写した上で、差し押さえることができます。良いたとえです。ただし、どんな物置でも開けてよいわけではありません。条文が対象を2種類に限定しています。その電子計算機で「作成・変更した電磁的記録」。その電子計算機で「変更・消去できるとされている電磁的記録」です。被疑者が、そのパソコンから普段ログインして書いているメールなら、含まれます。自分で作ったデータだからです。一方、そのパソコンからは書き換える権限もない、赤の他人のクラウドアルバムまでは、含まれません。
いえ、使った経験の有無ではありません。そのパソコンで作ったり書き換えたりしたデータか、書き換えたり消したりできることになっているデータか、の2つです。だから、共有フォルダのように、書き換えられるものは、一度も開いたことがなくても、含まれます。無制約にネットワーク上の全データへ及ぶわけではありません。その2種類に限られるのは、そのパソコンで作ったり、書き換えたり、消したりできるデータは、置き場所がサーバでも、実質はそのパソコンの中身と同じだからです。令状が差し押さえるのは、そのパソコンです。だから、手を伸ばせるのも、そのパソコンの中身と言える範囲までです。なお、同じ内容の規定は、裁判所が差押えを行う場合の99条2項にも置かれています。主体が裁判所か、捜査機関かの違いだけです。
代替処分——サーバごとではなく、必要な分だけ
図:記録媒体の差押えに代えて複写印刷移転した他の媒体を差し押さえる代替処分の構図板
次は、目の前の記録媒体の中で済ませる場面です。差し押さえようとするハードディスクの中に、事件と無関係なデータも、大量に混じっている場面です。
条文刑事訴訟法第110条の2
刑事訴訟法第110条の2(差押えに代わる処分) 差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状の執行をする者は、その差押えに代えて次に掲げる処分をすることができる。公判廷で差押えをする場合も、同様である。 一 差し押さえるべき記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体に複写し、印刷し、又は移転した上、当該他の記録媒体を差し押さえること。 二 差押えを受ける者に差し押さえるべき記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体に複写させ、印刷させ、又は移転させた上、当該他の記録媒体を差し押さえること。
サーバやハードディスクをまるごと持って帰らず、必要なデータだけを別の媒体にコピーして、そのコピーの方を差し押さえる方法です。1号は、捜査機関自身が複写する方法。2号は、差押えを受ける者、つまり相手方にやらせる方法です。222条1項は、1号も2号も、まとめて準用しています。だから、どちらの方法も使えます。そこがねらいです。会社の業務用サーバを丸ごと持っていけば、業務が止まってしまいます。必要なデータだけコピーすれば、サーバ自体は現場に残せます。
協力要請——鍵のかかった機械を開けてもらう
図:差押状捜索状の執行者が処分を受ける者に電子計算機の操作その他の協力を求める構図板
次の場面です。差し押さえようとする共犯者のパソコンに、パスワードがかかっていました。この場合は、相手の協力を求めることになります。パソコンも、捜査する側が自分で開けられるなら、その「必要な処分」で開けてかまいません。ただ、パスワードは、持ち主の頭の中にあります。そこで、持ち主に操作を頼める条文が、別に置かれました。
条文刑事訴訟法第111条の2
刑事訴訟法第111条の2(協力要請) 差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは、差押状又は捜索状の執行をする者は、処分を受ける者に対し、電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる。公判廷で差押え又は捜索をする場合も、同様である。
机の引き出しに鍵がかかっていて開かないので、持ち主に開けてもらう、というイメージです。協力すべき法的義務はあります。ただし、義務に違反しても、罰則はありません。パスワードを頑として教えなくても、それ自体を処罰する規定は無い、ということです。
通信履歴の保全要請——消される前に時間を止める

最後は、少し毛色の違う場面です。プロバイダのサーバから、通信履歴が今にも自動で消去されそうです。でも、まだ差し押さえる準備ができていません。
条文刑事訴訟法第197条第3項・第4項
刑事訴訟法第197条第3項・第4項 3項 検察官、検察事務官又は司法警察員は、差押えをし、又は電磁的記録提供命令により電磁的記録を提供させるため必要があるときは、電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者又は自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者に対し、その業務上記録している電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なものを特定し、三十日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう、書面又は電磁的記録により求めることができる。この場合において、当該求めに係る電磁的記録について差押えをし、又は電磁的記録提供命令により当該電磁的記録を提供させる必要がないと認めるに至つたときは、当該求めを取り消さなければならない。 4項 前項の規定により消去しないよう求める期間については、特に必要があるときは、三十日を超えない範囲内で延長することができる。ただし、消去しないよう求める期間は、通じて六十日を超えることができない。
プロバイダに対して、「この通信履歴を、消さないでほしい」と求める制度です。期間は30日以内。特に必要があれば延長でき、ただし通じて60日を超えられません。データを差し押さえる制度ではなく、あくまで「時間を止める」だけの制度です。この後に見る電磁的記録提供命令などで、実際に提供させることが前提になっています。
4つの道具の振り返り
図:リモートアクセス代替処分協力要請保全要請の4つを対象方法期間で並べた一覧表板
ここまでの4つを、並べて振り返ります。気をつけてほしいのは、これらは全部、条文にそのまま書かれている成立要件だ、ということです。判例・解釈で立てた規範とは違います。捜索の執行を扱った回で見た、「必要な処分の限界」という比例原則の規範とは、別の話です。こちらは、条文を読めばそのまま出てくる話です。有体物なら、「持って帰る」の一手で足りました。データだと、その一手が場面ごとに詰まるからです。データが遠くのサーバにあれば、持って帰る物が目の前にありません。だから、外へ手を伸ばします。無関係なデータが大量に混じっていれば、丸ごと持って帰ると取りすぎます。だから、中で必要な分だけ写します。鍵がかかっていれば、中身を確かめられません。だから、相手に頼みます。取りに行く前に消えてしまうなら、まず時間を止めます。
被疑者宅でパソコンを押さえたのに、メールはクラウドにしか無い。これは外へ手を伸ばす場面です。一方、プロバイダの通信履歴が消えかけているのに、まだ令状が無い。こちらは、外へ手を伸ばす道具は使えません。押さえたパソコンも、差押えの令状も無いからです。まず時間を止めます。サーバをまるごと持って帰ってよいかの答えは、この回の後半で扱います。その前に、もう1つ、大事な制度の書き換えを押さえておきます。
令状に書く記載事項、覚えていますか
図:令状に書かれた記載事項の欄が複写すべき電磁的記録の範囲まで広がったことを示す板
ここで、少し前の回に戻ります。令状の請求を扱った回です。その回で学んだ、令状に書く記載事項を、思い出せますか?データをリモートアクセスで差し押さえるときは、この記載事項に、「複写すべき電磁的記録の範囲」も加わります。リモートアクセスで複写する範囲は、令状の段階から、別枠で明示しておく必要があります。この記載事項の広がりを踏まえて、次は、この分野で最近一番大きく変わった制度を見ます。
制度の書き換え——電磁的記録提供命令
図:旧制度が廃止され現行の電磁的記録提供命令に置き換わったことを示す一本道のフロー板
冒頭の事件に、もう1つ場面を足します。詐欺グループが利用していた、協力的な名簿管理会社です。この会社のサーバから、被疑者に関するデータだけを提供させたい場面です。これは、相手が協力的で、しかも「命令」という形式で出させたい場面です。この制度は、現在大きく書き換わっています。今、効いている現行の条文は、これです。
条文刑事訴訟法第102条の2
刑事訴訟法第102条の2 裁判所は、必要があるときは、電磁的記録提供命令(次の各号に掲げる者に対し、当該各号に定める方法により必要な電磁的記録を提供することを命ずる命令をいう。以下同じ。)をすることができる。 一 電磁的記録を保管する者 次のイ又はロに掲げる方法 イ 電磁的記録を記録媒体に記録させ又は移転させて当該記録媒体を提出させる方法 ロ 電気通信回線を通じて電磁的記録を当該命令をする者の管理に係る記録媒体に記録させ又は移転させる方法 二 電磁的記録を利用する権限を有する者(前号に掲げる者を除く。) 同号イ又はロに掲げる方法(電磁的記録を記録媒体に記録させるものに限る。) 電磁的記録提供命令は、提供させるべき電磁的記録及び提供の方法を指定してするものとする。
これが、電磁的記録提供命令です。218条1項は、捜査機関が、裁判官の令状を得て行える処分を並べた条文です。差押え・捜索・検証と並んで、この電磁的記録提供命令も書かれています。だから、令状を得れば、検察官・検察事務官・司法警察職員も、この命令を使えます。別の制度です。218条2項は「複写して差し押さえる」、こちらは「相手に命じて提供させる」。相手が協力的な場合に向いています。協力要請とも違います。協力要請は、差押えの現場で、パスワードの解除などの手助けを求めるものです。提供命令は、差押えとは別に、データを出すこと自体を命じるものです。
管理会社に荷物を出してもらうイメージのとおりです。この制度は少し前まで、全く別の名前で呼ばれていました。サーバの管理者などに命じて、必要なデータだけ記録・印刷させ、その媒体を差し押さえるという制度でした。中身は似ていますが、現在の電磁的記録提供命令には、当時には無かった方法が加わっています。「イ」の、媒体に記録・移転させて提出させる方法に加えて、「ロ」の、電気通信回線を通じて、命じる側の管理する記録媒体に直接記録・移転させる方法です。媒体という「物」を介さずに、回線越しに直接受け取れるようになったわけです。
この制度、名簿管理会社への提供命令には、もう1つ、付け加えられる仕組みがあります。
秘密保持命令——命令を受けたことを漏らさせない

名簿管理会社の担当者に、電磁的記録提供命令を出したとします。場合によっては、もう1つ、付け加えることができます。
条文刑事訴訟法第218条第3項
刑事訴訟法第218条第3項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、電磁的記録提供命令をする場合において、必要があるときは、裁判官の許可を受けて、当該電磁的記録提供命令を受ける者に対し、一年を超えない期間を定めて、みだりに当該電磁的記録提供命令を受けたこと及び当該電磁的記録提供命令により提供を命じられた電磁的記録を提供し又は提供しなかつたことを漏らしてはならない旨を命ずることができる。
これが、秘密保持命令です。命令を受けたことも、データを提供したことも(提供しなかったことも)、1年を超えない期間、口外してはならない、と命じられます。名簿管理会社の担当者が、詐欺グループの一員に「実は警察から命令が来た」と漏らしたら、どうなりますか。詐欺グループが気づいて、証拠を隠したり、逃げたりしそうです。捜査の密行性、つまり気づかれずに進める必要があるからこそ、この命令が用意されています。物置の管理会社に、「命令が来たことも、荷物を出したことも、しばらく口外しないでほしい」と付け加えるイメージです。
協力が得られない場合と、範囲の限定

では、振り返りで立てた問いに戻ります。協力が得られなくても、通常どおりの捜索・差押えとして、犯罪事実に関連するデータを特定した上で、USBメモリ等に複写し、それを差し押さえることができます。110条の2を、捜査機関自身が使う場面です。理論上、できなくはありません。ただし、業務への支障が大きいため、まず複写等の方法が想定されています。令状の審査を扱った回で見た、差押えの必要性の判断です。差押えで相手が受ける不利益の程度も、考え合わせる、という規範でした。もう1つ、冒頭のクラウドメールの話に戻ります。被疑者宅のパソコンから、接続先のクラウドを複写する場合も、さっき見た限定がそのまま効きます。
そのパソコンで作ったり書き換えたりしたデータか、書き換えたり消したりできることになっているデータなら含まれ、そのパソコンで作ってもおらず、書き換える権限もない他人のデータは含まれません。ネットワーク上の全データへ、無制約に及ぶわけではない、ということを、覚えておいてください。
今日の地図(保存版)
図:4つの道具立てと制度の書き換えを1枚にまとめた保存版の地図板
今日の内容を振り返ります。データは有体物ではなく、見えず、読めず、遠くにあり、量が多い、という特殊性があります。この特殊性に対応するため、4つの道具が用意されました。外へ手を伸ばすリモートアクセス。目の前で済ませる代替処分。相手に頼む協力要請。時間を止める保全要請です。これらはすべて、条文どおりの成立要件でした。そして、相手が協力的な場合に使う電磁的記録提供命令は、制度自体が書き換わり、媒体を介さない提供方法も加わりました。秘密保持命令で、捜査の密行性も守られます。どの道具も、対象には限定があり、無制約には及びません。
4つの道具は、「誰の協力が得られるか」「データがどこにあるか」で選ぶんですね。ただ、まだ答えていない問いがあります。冒頭で触れた、パソコン一式を押収する場面です。中身を1つも確認せずに、パソコンごと差し押さえていいのか、という話ですね。今日の4つの道具は、どれも「必要なデータを特定できている」ことが前提でした。では、特定する前の段階で、中身を確認せずに差し押さえることは許されるのか。これは、有名な判例が答えを出している問題です。
参照条文
- 刑事訴訟法第222条第1項(抜粋・準用部分のみ)
- 刑事訴訟法第218条第2項
- 刑事訴訟法第110条の2
- 刑事訴訟法第111条の2
- 刑事訴訟法第197条第3項・第4項
- 刑事訴訟法第102条の2
- 刑事訴訟法第218条第3項