捜索・差押え⑥データを差し押さえる4つの方法
問い:データ(電磁的記録)は有体物ではない。捜査機関は、どの条文のどの道具でデータを押さえるのか。
骨組み
題の「4つの方法」=平成23年改正で入った、リモートアクセス(2・3)・差押えに代わる処分(4)・協力要請(5)・通信履歴の保全要請(8)。このうち保全要請は押さえる道具ではなく、消させないための道具。残る電磁的記録提供命令(6)と秘密保持命令(7)は、令和7年改正で入った「相手に命じる」制度。
- 1前提():差押えの対象は有体物 → データそのものではなく記録媒体を差し押さえる。中身が外から見えない・目の前のPCに無い(クラウド)→ 平成23年改正で新しい処分
- 2リモートアクセス():差し押さえるPCに回線で接続した記録媒体から、①そのPCで作成・変更した記録 ②そのPCで変更・消去できることとされている記録を複写して、PCか他の媒体を差し押さえる。捜査機関の根拠はそのもの(裁判所は)
- 3リモートアクセスの令状と時期:令状に複写すべきものの範囲を記載()。差押えが終わった後のリモートアクセスは許されない、と解説書は説明する(横浜地判平28・3・17 を挙げる)
- 4差押えに代わる処分():媒体の差押えに代えて、複写・印刷・移転した他の媒体を差し押さえる。1号=自分で/2号=差押えを受ける者にさせて。前段が準用=捜査機関はどちらも使える
- 5協力要請():差押状・捜索状の執行者は、処分を受ける者に電子計算機の操作その他の必要な協力を求められる。法的義務はあるが罰則はない
- 6電磁的記録提供命令(・捜査機関はの令状):保管者・利用権限者に提供を命じる(回線経由も可)。違反には罰則()。令和7年改正前の記録命令付差押え(罰則なし)に代わる
- 7秘密保持命令():提供命令をするとき、裁判官の許可を受けて、1年を超えない期間、命令を受けたこと・提供したこと(しなかったこと)を漏らさないよう命じる。違反には罰則
- 8通信履歴の保全要請(〜5項):検察官・検察事務官・司法警察員が、事業者に通信履歴を消さないよう書面又は電磁的記録で求める。30日以内・延長しても通じて60日まで。条文に令状の定めは無い
色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。この回はほぼ条文に書かれた要件の話。差押え後のリモートアクセスの可否(3)は解説書が裁判例を挙げて書く整理で、移転の意味(4)・協力要請の法的義務(5)・延長の回数(8)も解説書の説明です。
| 道具 | 捜査機関の条文 | 何をする | 令状・許可 | 違反への罰則 |
|---|---|---|---|---|
| リモートアクセス(4つの方法) | 接続先から複写して、PCか他の媒体を差し押さえる | 差押えの令状+複写すべき範囲の記載 | — | |
| 差押えに代わる処分(4つの方法) | 前段(で準用) | 複写・印刷・移転した他の媒体を差し押さえる(自分で/させて) | 差押状 | — |
| 協力要請(4つの方法) | 前段(で準用) | 操作その他の必要な協力を求める | 差押状・捜索状の執行の場で | なし(義務はある) |
| 電磁的記録提供命令 | 保管者・利用権限者に提供を命じる | 令状() | あり() | |
| 秘密保持命令 | 命令を受けたこと等を漏らさないよう命じる | 裁判官の許可 | あり() | |
| 通信履歴の保全要請(4つの方法) | 〜5項 | 通信履歴を消さないよう求める | 条文に令状の定め無し | 規定なし |
1前提:差押えの対象は有体物条文
- (捜査機関にはで準用):差し押さえるのは「証拠物又は没収すべき物と思料するもの」=有体物。
- データそのものは有体物ではないので差し押さえられない。USBメモリ・ハードディスクなどの記録媒体は有体物なので差し押さえられる。
- それでも現場では困る:①外から見ても中身が分からず、「差し押さえるべき物」か判定できない ②クラウドの普及で、目の前のPCにデータが無いことがある。データは量も多い。
- これに対応するため、平成23年改正で新しい処分が認められた(リモートアクセス・差押えに代わる処分・協力要請・保全要請。もう1つの記録命令付差押えは、現在は電磁的記録提供命令に置き換わっている)。
- 条文は二本立て:裁判所がする押収・捜索のルールは以下(法律の前のほう)にまとめて書かれ、捜査機関の令状による処分は以下に置かれる。その裁判所向けのルールのうち捜査機関も使うものは、書き直さずにで借りてくる(=準用)。何が使えるかは、の一覧で確かめる。
2リモートアクセス条文
- 差し押さえるべき物が電子計算機のとき、その電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体から、データをその電子計算機か他の記録媒体に複写した上、その電子計算機か他の記録媒体を差し押さえることができる。
- 手を伸ばせる記録媒体は、次のどちらかの記録を保管するのに使われていると認めるに足りる状況にあるものだけ:①その電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録 ②その電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録。
- ②は実際に使ったかではなく、できることになっているかで決まる。ネットワーク上の全データに無制約に及ぶのではない。
- 趣旨(解説書):サーバごとに別々に差し押さえるのは煩雑で、データはすぐ移されて隠される → PCの差押えの範囲を、一体として使われている記録媒体まで広げた。
- 捜査機関の根拠はそのもの。同じ内容の規定が、裁判所の差押えについてにも置かれている(主体が違うだけ)。がから準用するのはだけ=の準用ではない。
被疑者が自宅のPCからウェブメールにログインして送った勧誘メール(サーバにしか無い)→ ①そのPCで作成した記録=含まれる。被疑者のアカウントで書き換えられる共有フォルダ → 一度も開いていなくても②に当たりうる。同じクラウド上の、そのPCで作っておらず書き換える権限も無い他人のアルバム → 含まれない。
- 捜査機関のリモートアクセスは、がを準用して認められる、とする形
- ②を「そのPCで実際に使ったことのある記録」に限る形
- 接続しているネットワーク上のデータなら全部複写できる、とする形
3リモートアクセスの令状と時期条文裁判例
- の場合、令状には、通常の記載事項()のほか、差し押さえるべき電子計算機に回線で接続している記録媒体であって、その電磁的記録を複写すべきものの範囲を記載しなければならない。差し押さえるべき物の記載とは別に書く(例:アカウントで特定する=解説書)。
- 時期(解説書):は、差押えに伴ってリモートアクセスし、複写してから差し押さえる処分と考えられる → 差押えが終わった後のリモートアクセスは許されないと考えられる、と解説書は説明する。差押え終了後は許されない、という点で、解説書は横浜地判平28・3・17 を挙げる(判決の内容は解説書の紹介による)。
- 解説書はあわせて、検証として行う余地はある、と補っている。
差押許可状に「被疑者が使用するパソコン一式」とだけあり、複写すべき範囲の記載が無い → 現場でクラウドにメールがあると分かっても、の複写はできない。
出題リモートアクセスで複写して差し押さえるときは、令状に差し押さえるべき物とは別に複写すべきものの範囲を記載する必要はない(×)
- リモートアクセスでは、令状に複写すべきものの範囲を記載する必要はない、とする形(司法H26-25-イ)
- PCを押収した後、署に戻ってからでクラウドに接続して複写できる、とする形
4差押えに代わる処分条文
- 差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体のとき、差押状の執行をする者は、その差押えに代えて次の処分をすることができる。
- 1号:差し押さえるべき記録媒体のデータを他の記録媒体に複写し、印刷し、又は移転した上、当該他の記録媒体(移した先の媒体)を差し押さえる(自分で)。
- 2号:差押えを受ける者に複写させ、印刷させ、又は移転させた上、当該他の記録媒体を差し押さえる(させて)。
- 移転=複写して元のデータを消すこと(解説書)。
- は「第前段」を準用。前段に1号も2号も含まれる=捜査機関はどちらも使える。外れる後段は「公判廷で差押えをする場合も、同様である」の一文だけ。
- 条文は「することができる」。複写を先にする義務や「原則」は書かれていない。相手の協力が得られない場面との関係では、解説書は、協力が得られない場合でも、いきなり媒体を差し押さえるのではなく、関連データを特定して複写等をし、その媒体を差し押さえることができる、と説明する。
会社の業務用サーバ:丸ごと持っていけば業務が止まる → 関連フォルダだけを捜査官がUSBに複写して差し押さえる(1号)。社員に操作させて書き出させてもよい(2号)。サーバ自体は現場に残せる。
出題差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるとき、令状により差押えを実施する者は、差押えに代えて、差押えを受ける者に複写・印刷・移転させた上、当該他の記録媒体を差し押さえる権限がある(○)
- 捜査機関が使えるのは自分で複写する1号だけで、相手にさせる2号は使えない、とする形
- は複写を原則とし、記録媒体そのものの差押えは許されない、とする形(条文にそうは書かれていない)
5協力要請条文
- 差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体のとき、差押状又は捜索状の執行をする者は、処分を受ける者に対し、電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる。
- が「第前段」を準用=捜査機関も使える。
- 技術や専門知識のある者の協力を求める制度。応じる法的義務はあるが、罰則はない(解説書)。現行法にも、の違反を罰する規定は無い。
- 「義務はあるが罰則はない」の意味:パスワードを頑として教えなくても、それ自体を処罰する規定は無い。罰で応じさせる手段が無いので、相手が拒めば協力は得られない(解説書は、同じく罰則の無かった記録命令付差押えを「協力が得られない場合には、とることができない方法」と説明していた)。
差し押さえようとするパソコンにパスワード。協力を求められた者が操作を拒んだ → 協力すべき法的義務はある(解説書)が、拒んだこと自体を処罰する規定は無い。
出題差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるとき、令状により捜索又は差押えを実施する者は、処分を受ける者に電子計算機の操作その他の必要な協力を求めることができる(○)
- 協力要請に応じる法的義務はない(任意のお願い)、とする形
- 協力を拒むと罰則がある、とする形(罰則があるのは提供命令・秘密保持命令の違反)
6電磁的記録提供命令条文
- (裁判所):必要があるときは、電磁的記録提供命令=次の者に、次の方法で必要な電磁的記録を提供することを命ずる命令をすることができる。
- 1号 保管する者:イ 記録媒体に記録させ又は移転させてその媒体を提出させる/ロ 電気通信回線を通じて、命令をする者の管理する記録媒体に記録させ又は移転させる。
- 2号 利用する権限を有する者(保管者を除く):イ・ロの方法のうち、記録させるものに限る(移転はさせられない)。
- 同条2項:提供させるべき電磁的記録と提供の方法を指定してする。
- 捜査機関:=裁判官の発する令状により、差押え・捜索・電磁的記録提供命令・検証をすることができる。令状には「提供させるべき電磁的記録、提供させるべき者及び提供の方法」を書く()。
- 罰則:正当な理由がなくの提供命令に違反した者は、1年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金(。法人等も罰金=同条2項)。裁判所の命令の違反も同じ刑()。
- 差押えとの違い:は「自分で複写して差し押さえる」、提供命令は「相手に命じて提供させる」。協力要請とも違う=協力要請は差押え・捜索の現場での手助け(罰則なし)、提供命令はデータを出すこと自体を命じる(罰則あり)。
- 第2号(相手に「させて」)とも違う:2号は、差押状の執行の場で、差押えを受ける者に複写等をさせ、移した先の記録媒体を捜査機関が差し押さえる(従わないことを罰する規定は無い)。提供命令は、令状により保管者・利用権限者に提供を命じる処分で、違反には罰則()。
クラウド事業者(保管する者)に、特定のアカウントのデータを回線を通じて提供するよう命じる(1号ロ)。正当な理由なく従わなければ、1年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金。一方、そのアカウントを利用する権限があるだけの者(2号)に命じられるのは「記録させる」方法だけで、移転はさせられない。
時系列:記録命令付差押え(旧制度)は平成23年改正で新設 → 令和7年改正(令和7年法律第39号・令和8年5月21日施行)で廃止され、電磁的記録提供命令()に置き換わった。
| 令和7年改正前:記録命令付差押え | 現行:電磁的記録提供命令 | |
|---|---|---|
| させること | 記録媒体に記録・印刷させる | 記録・移転させる(印刷は無い) |
| 受け取り方 | その媒体を差し押さえる | 媒体を提出させる(イ)/回線を通じて受け取る(ロ) |
| 違反への罰則 | なし → 協力が得られなければ使えない(解説書) | あり() |
平成の過去問には、改正前の記録命令付差押え(命じて記録・印刷させ、その媒体を差し押さえる)を前提にした肢がある(例:司法H26-25 のア・オ)。現行法では制度そのものが電磁的記録提供命令に置き換わっているので、その肢の文をそのまま現行法の知識として覚えない。なお、オの芯(その実施に被疑者・弁護人が立ち会う権利がある、とする点)は、現行法でも同じく誤り:は、立会いの規定()を準用していない。
- 提供命令は罰則が無いので、協力的な相手にしか使えない、とする形(現行法では罰則がある)
- 提供命令も協力要請と同じく、拒んでも罰則はない、とする形
- 利用する権限を有するだけの者にも、データを移転させることを命じられる、とする形(記録させる方法に限る)
7秘密保持命令条文
- 検察官・検察事務官・司法警察職員は、電磁的記録提供命令をする場合に、必要があるときは、裁判官の許可を受けて、命令を受ける者に、1年を超えない期間を定めて、みだりに①提供命令を受けたこと ②提供を命じられた記録を提供し又は提供しなかつたことを漏らしてはならない旨を命ずることができる。
- 司法警察職員=司法警察員と司法巡査()。命令は司法警察職員ができるが、許可の請求は司法警察員まで()。
- 許可の請求は、令状の請求をする際に、検察官・検察事務官・司法警察員からする()。裁判官は令状にその旨と期間を書く()。必要がなくなれば取り消す()。
- 違反には提供命令と同じ罰則()。
- 条文は目的を書いていない。考えられるねらい:命令が来たことが被疑者側に漏れれば、証拠を隠されたり逃げられたりするおそれがある=気づかれずに進める必要(捜査の密行性)がある。
- 秘密保持命令は捜査機関だけの判断で(裁判官の許可なく)できる、とする形
- 期間を定めずに命じられる、とする形(1年を超えない期間を定める)
8通信履歴の保全要請〜5項条文
- 主体:検察官、検察事務官又は司法警察員(司法巡査は入っていない)。
- 目的:差押えをし、又は電磁的記録提供命令により提供させるため必要があるとき。
- 相手:電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者、又は自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者(例:電話会社・プロバイダ、LANを設置している会社・大学=解説書)。
- 対象:業務上記録している送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴のうち必要なものを特定して。通信の中身ではない。
- 期間と方式:30日を超えない期間を定めて、消去しないよう、書面又は電磁的記録により求める。差押え等の必要がないと認めるに至ったら取り消さなければならない。
- 延長():特に必要があるときは30日を超えない範囲で延長できる。ただし通じて60日を超えられない。延長の回数に制限は無い(解説書)。
- :必要があるときは、みだりにこれらに関する事項を漏らさないよう求めることができる。
- データを差し押さえる制度ではなく、消させない(時間を止める)だけ。条文に令状の定めは無い。実際に取るのは、後の差押えや提供命令。
30日で求め、20日延長、さらに10日延長 → 通じて60日でちょうど上限。それ以上は延ばせない。プロバイダに接続ログ(日時・接続元)の保全は求められるが、メールの本文は対象外(本文が要るなら差押え・提供命令で取りに行く)。
- 司法巡査も保全要請ができる、とする形
- メールの本文など通信の内容も保全させられる、とする形
- 延長を含めて最長90日、とする形/延長は1回に限る、とする形
- 保全要請は裁判官の令状が要る、とする形