捜索・差押え⑧逮捕に伴う捜索が令状なしで許される理由
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第2章 捜査 ㉔/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
盗品を捜すのに、いつも令状がいる

ところが、被疑者を逮捕するときだけは、令状なしで家探しをしてよい場面があります。もう1つ、気になる点があります。被疑者がまだ帰ってこない段階で、先に家探しを始めてしまってよいのか、という問題です。その2つの疑問に、今日答えます。
令状主義に空いた、憲法上の穴

まず、令状主義の原則から振り返ります。中立公平な裁判官が事前にチェックする、という話でした。この原則を定める条文自体が、実は自分で例外を書いています。
条文日本国憲法第三十五条第一項
憲法第三十五条第一項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
33条は、逮捕には令状がいる、という条文です。つまりここでは、「逮捕の場合を除いては」と言っています。これを受けて、刑事訴訟法220条が、具体的にどんな処分を認めるかを定めています。
条文刑事訴訟法第220条
刑事訴訟法第二百二十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。 一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。 二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。 2 前項後段の場合において逮捕状が得られなかつたときは、差押物は、直ちにこれを還付しなければならない。第百二十三条第三項の規定は、この場合についてこれを準用する。 3 第一項の処分をするには、令状は、これを必要としない。 4 第一項第二号及び前項の規定は、検察事務官又は司法警察職員が勾引状又は勾留状を執行する場合にこれを準用する。被疑者に対して発せられた勾引状又は勾留状を執行する場合には、第一項第一号の規定をも準用する。
「第百九十九条の規定により逮捕する場合」は通常逮捕、「現行犯人を逮捕する場合」は現行犯逮捕、「第二百十条の規定により逮捕する場合」は緊急逮捕です。そして3項が、「令状は必要としない」と明記しています。4項は、2号と3項の部分を、勾引状・勾留状を執行する場面にも使い回す、という条文です。ただし、被疑者に対して発せられた勾引状・勾留状を執行する場合は、1号、つまり人の捜索も、併せて準用されます。なお、2項は、緊急逮捕で結局逮捕状が出なかったときに、差し押さえた物を直ちに返す、という規定です。
1号と2号——逮捕のための捜索、逮捕に伴う捜索

今の条文には、1号と2号、2つの処分が並んでいました。捜す対象が違います。1号は「被疑者の捜索」、つまり、人を捜す処分です。2号は「差押、捜索又は検証」、つまり物を捜す処分です。警察官が被疑者Aを通常逮捕する場面を考えます。A自身の自宅で逮捕できるなら、そのまま自宅の中で、令状なしに物を差し押さえたり捜索したりできます。これが2号です。Aが、見ず知らずの第三者の家に逃げ込んだ場面を考えます。この第三者の家に入って、Aという人を捜すことも、令状なしにできます。これが1号です。
逮捕そのものが令状なしでできる場面がある以上、被疑者本人を見つけるための立ち入りまで令状が必要だと、逮捕の実効性が保てません。だから、第三者の家であっても、1号は適用されます。そして今日の中心は、実務での活用頻度も論点の数も多い、2号です。
なぜ令状なしで許されるのか——緊急処分説と相当説
図:緊急処分説と相当説の根拠の違いを一覧で示す対立軸板
2号の話に戻ります。逮捕の現場でだけ、なぜ令状なしで捜索・差押えが許されるんでしょう。それだと、「怪しさ」がどこまで家探しを正当化するのか、説明になっていません。身近な場面で考えてみましょう。友人同士がもみ合いになって、片方がもう片方を取り押さえたとします。居合わせた人が、とっさに相手のポケットを確認することがあります。この確認を許してよい理由は、実は2通り考えられます。1つ目、取り押さえた直後はまだ相手が暴れたり、何かを取り出したりする危険があるから、今すぐ確認しないと間に合わない、という考え方です。これが緊急処分説です。逮捕の場面には抵抗・逃亡・証拠隠滅の危険が大きく、それを防いで証拠を保全する緊急の必要があるから許される、と考えます。2つ目、取り押さえたその場のポケットには、もめ事の原因になった物が入っている可能性が高いから、後で確認しても意味は同じ、という考え方です。これが相当説です。逮捕の現場には証拠が存在する蓋然性が高く、令状を請求すればどうせ「正当な理由」が認められて発付されるはずだから、事前審査を経る必要が薄い、と考えます。
被疑者がその場にいて、すぐ捜索する場面なら、両説とも同じ結論になります。ただし、両説とも共通の縛りが1つあります。差し押さえられるのは、逮捕の理由になった事件に関わる物です。凶器や逃げるための道具は、その場で取り上げることができますが、これは逮捕を妨げさせないための措置と説明されます。別の事件の証拠まで、ついでに押さえるのはだめです。暴行罪で通常逮捕した現場で、たまたま見つけた覚醒剤を差し押さえる、というのは、どちらの説からも違法です。対立が出るのは、被疑者がまだそこにいない場面です。緊急処分説をとると、もう緊急性が消えたとして、正当化できなくなります。相当説をとると、ポケットの中身が変わるわけではないので、続けて確認してよい、という話になります。
被疑者が帰ってこないうちに家探しを始めた場合が、次の論点です。
「逮捕する場合」とはいつからいつまでか

その前に、前の回を思い出してください。令状があれば、裁判官はまず何を審査していましたか?差し押さえる物と、事件との間に、関連性があるか、というやつですね。相当説の発想は、逮捕の現場ならその関連性、つまり「正当な理由」が当然に認められるはずだ、という点にあります。ここで、実際の事件を見てみます。麻薬取締官らが、被疑者Aを現行犯逮捕しました。Aの供述から、共犯者Bも緊急逮捕するため、B方へ向かいました。ところが、Bは不在でした。取締官らは、Bが帰宅したら直ちに逮捕する態勢のまま、先にB方の捜索を始めました。捜索がほぼ終わる頃にBが帰宅し、そこで緊急逮捕しました。
「逮捕する場合」を「現実に逮捕した場合」に限ると読めば、逮捕前のこの捜索は違法になります。この「逮捕する場合」の意味が争われたのが、大阪西成事件です。
判例大阪西成被疑者不在ヘロイン所持事件〈最高裁大法廷判決〉
「逮捕する場合において」と「逮捕の現場で」の意義 「『逮捕する場合において』と『逮捕の現場で』の意義であるが、前者は、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり、……なお、前者の場合は、逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は、これを問わないものと解すべき」として、緊急逮捕に先行した本件捜索・差押えも、逮捕と時間的に接着してなされたものとして適法とした。
「逮捕する場合」とは、逮捕という単なる一時点よりも、幅のある「逮捕する際」を指す、という読み方です。逮捕と時間的に接着していればよく、逮捕に着手する前か後かは問わない、ということです。たとえば、Bが帰ってこないまま捜索を終えて引き揚げ、翌日になってからBを逮捕した、という場合です。これでは逮捕と時間的に接着していないので、「逮捕する場合」の捜索とは言えません。大阪西成事件では、捜索の最中にBが帰宅して、その場で逮捕しています。判例は相当説に基づくもの、と説明されます。証拠がある蓋然性は、逮捕の前後で変わらない、という発想です。
緊急処分説は、逮捕した場面に限らない代わりに、逮捕までの時間の近さをより厳しく判断する、という立場です。一方、相当説では、逮捕の前か後かにはこだわらず、もう少しゆるく判断してよい、とされます。実は、強い批判があります。判例の基準、つまり逮捕の可能性が確実でなくても適法とした点は、緩やかすぎる、という批判です。
⭐ 論文で書く規範:「逮捕する場合」とは、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいい、逮捕との時間的接着を要するが、逮捕着手の前後関係は問わない。ただし、逮捕されるべき者がその場にいて、確実に逮捕できる状況にあることを要する (論文で書く規範(前段=最大判昭36・6・7/ただし書き=有力説による限定))
有力な見解は、もう1つ条件を加えます。逮捕の対象となる者がその場に居合わせて、ほぼ確実に取り押さえられる状況でなければ、「逮捕する場合」には当たらない、という考え方です。なぜなら、令状なしで許されるのは、あくまで逮捕に伴うからです。逮捕できるかどうか分からないうちに捜索を始めれば、逮捕に伴うという前提が無いまま、ただの無令状捜索をしていることになります。反対に、Bが家の中にいると分かっていて、玄関で逮捕に取りかかるのと同時に捜索を始めた、という場合なら、確実に逮捕できる状況なので、この立場からも適法です。この立場から大阪西成事件を見直すと、Bが不在で、逮捕の可能性がまだ確実とは言えない段階で捜索を始めています。そのため、有力説の限定に立てば、相当説を採っても、違法と評価される余地があります。
判例の結論と、学説の望ましい基準は、一致しないこともある、と知っておいてください。
逮捕に着手したが、失敗した場合

もう1つ、時間的範囲の応用です。捜査機関が逮捕に着手した後、捜索の途中で被疑者に逃げられた場面を考えます。それまでの捜索は無効にはなりません。着手した時点ではまだ被疑者がいたわけですから、捜索を始めたこと自体は、両説どちらから見ても適法です。ここでは逮捕に着手した後に捜索を始めているので、結果として逮捕に成功することまでは要求されないと考えられています。割れるのは、被疑者に逃げられた後の捜索です。この場面は、講学上、次のように整理されます。緊急処分説の立場からは、被疑者がいなくなった以上、もはや証拠隠滅の緊急性はないとして、違法と考えられます。相当説の立場からは、証拠が現場に残っている蓋然性は変わらないので、逮捕と時間的に接着していれば、適法になりうる、と考えられます。ただ、判旨は「時間的に接着して逮捕がなされる限り」と、逮捕が実際になされることを前提にした言い方をしています。逃げられて逮捕に至らなかった場面まで、判例が直接認めたわけではありません。
根拠の違いが、場面ごとの結論の違いに、そのまま反映されます。
220条2号でできることの限界

最後に、220条2号そのものの限界にも触れておきます。2号が認めるのは、あくまで「差押、捜索又は検証」だけです。220条には出てきません。どちらも、令状による処分を定めた218条の側にだけ書かれています。特にリモートアクセスは、目の前の機械の外にあるサーバに手を伸ばすので、どこまで写してよいかを、令状であらかじめ決めておく仕組みになっていました。逮捕にあわせて、被疑者が持つスマートフォンの本体を、令状なしで押収することは可能です。ただし、それを操作して、接続先のメールサーバから新たにデータを複写する行為は、2号には含まれません。
令状なしでできることは、条文が挙げた処分にきちんと限られます。なお、令状なしで物を取れる場面は、もう1つあります。占有者が自分から手放した物を受け取る「領置」です。これは220条とは別の条文が定める処分です。
今日の地図(保存版)

今日の内容を振り返ります。憲法35条は、33条の逮捕の場合に、令状主義の例外を自ら認めていました。これを受けて220条1項は、人を捜す1号と、物を捜す2号を分けています。2号が令状なしで許される根拠は、緊急の必要性を見る緊急処分説と、証拠存在の蓋然性を見る相当説です。そして「逮捕する場合」は、逮捕との時間的接着があれば、着手の前後を問わない、というのが判例です。ただし、有力な見解は、逮捕できる可能性が確実であることまで求めます。論文では、この限定まで書いておきます。根拠が違うと、「いつまでならよいか」の答えも変わってくるんですね。この2説の対立は、今日見た時間的な範囲だけでなく、もう1つ、別の範囲にも効いてきます。逮捕の現場と言える場所は、建物のどこまで広がるのか、という問題です。
参照条文
- 日本国憲法第三十五条第一項
- 刑事訴訟法第220条