捜索・差押え⑨「逮捕の現場」の範囲
問い:逮捕に伴う令状なしの捜索・差押えは、場所としてどこまで、物としてどこまで及ぶか。
骨組み
- 1条文と2つの根拠(・):逮捕の現場で令状なしに差押え・捜索。根拠=緊急処分説(隠滅等を防ぐ緊急の必要)/相当説(証拠がある蓋然性が高い)。両説の違いがいちばん出るのが「逮捕の現場」
- 2差し押さえてよい物(両説共通):逮捕の理由とされた被疑事実に関する物に限る。別の事件の証拠物は含まれない
- 3相当説の場所(学説):逮捕した場所と同一の管理権が及ぶ範囲(被疑者の管理権ではない)。追跡して逮捕したら追跡した場所すべて。被疑者以外の者の場所は「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」が要る(の準用)
- 4緊急処分説の場所(学説):伝統的には身体および手の届く範囲(直接の支配下)。近時は、緊急性があれば同一管理権の範囲まで認める見解も有力 → 「一室全体は捜せない」とは言い切れない
- 5東京高判昭44・6・20(裁判例):ホテルの待合所(解説書の言い方ではロビー)で逮捕 → 別の階の相部屋の洗面所を捜索(Bは見つかった物を同室者の物と述べた)。「時間的・場所的且つ合理的な範囲」を超えた違法なものと断定し去ることはできない。「管理権」の語は使っていない。原判決(無罪)を破棄して有罪
- 6東京高判への評価:緊急処分説はもちろん相当説からも批判が多数(待合所と客室は同一の管理権にあるとはいえない/同室者は不在で確実に逮捕できる状況でなかった)。解説書はどちらの説からも違法とみる
- 7福岡高判平5・3・8(裁判例):職務質問を続けるため第三者B方へ場所を移して逮捕 → 捜索できる場所もおのずと限定 → B方の捜索は違法(重大な違法ではなく証拠能力は肯定)。批判=論拠が明確でない。解説書=相当説からは違法とすべき理由はなかった
- 8折衷的見解(学説・有力):被疑者の居宅で逮捕=相当説/第三者の居宅で逮捕=原則として緊急処分説。この見解で説明されているのは福岡高判
- 9別の事件の証拠を見つけたら:では差し押さえられない → 任意提出・領置()/新たな令状/その物で新たに逮捕し、その逮捕に伴って差押え
色の札は出どころ:条文 判例 学説(同じ色の 裁判例 は高裁の判決、解説書 は学説の紹介ではなく解説書の著者自身の検討)。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。
主語を分けて覚える。「同一の管理権」「手の届く範囲」は学説の物差しで、2つの裁判例の言葉ではない。東京高判は「時間的・場所的且つ合理的な範囲」、福岡高判は「逮捕した場所との同一性」という言葉を使った。2つの裁判例を1本の軸(たとえば「誰の家か」)で分けた判断はどこにも無く、どちらも学説から批判されている。
1条文と2つの根拠条文学説
- 柱書:検察官・検察事務官・司法警察職員は、被疑者を逮捕する場合(通常逮捕・現行犯逮捕。緊急逮捕も同様)において必要があるときは、次の処分ができる。2号=「逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること」。
- :1項の処分には令状は必要としない。
- 緊急処分説:逮捕の場面では抵抗・逃亡・証拠隠滅のおそれがあり、それを防ぐ緊急の必要があるから令状なしで許される。
- 相当説:逮捕の現場には証拠がある蓋然性が高いから、裁判官による令状審査までは要らない。講義解説は、逮捕に着手した後に被逮捕者が逃走しても、証拠は現場に残っている以上、相当説なら(逮捕と時間的に接着していれば)その現場を捜索できうるとする(緊急処分説では緊急性がなくなり違法)。
- 2説の違いは「逮捕する場合」(いつ)と「逮捕の現場」(どこ)の解釈に出る。場所の範囲=「逮捕の現場」で違いがいちばんはっきり出る(項目3・4)。
- 「逮捕する場合」の時間の幅:判例(最大判昭36・6・7)は逮捕との時間的接着を要するが逮捕の着手の前後は問わないとし、学説も着手前の捜索を認めるのが一般(解説書)。この基準は緩やかすぎるとの批判が強く、解説書は、着手前の捜索については逮捕すべき者が現在していて確実に逮捕できる可能性が要るとする(項目6の批判②・項目7の福岡高判で使う)。
2差し押さえてよい物(両説共通)学説裁判例
- どちらの説でも、差し押さえてよいのは逮捕の理由とされた被疑事実に関する物に限られる。
- 講義解説:に「被疑事実に関する物に限る」という明文は無い。無制限に認めると、軽い罪での逮捕を口実にした別件の家探しができてしまう → 根拠づけは違っても結論は一致する。
- 裁判例:解説書 p.87 は、暴行の事実で通常逮捕し、現場で捜索して覚醒剤を差し押さえたような場合はどちらの説からも違法、という例を挙げて札幌高判昭58・12・26を引く(判決の全文は裁判所サイトに無い)。
- 凶器の扱いは教材で分かれる:論文対策の問題集は、逮捕への妨害を排除する措置として取り上げ・保管できるが差押えではない、と整理する。講義解説は、差し押さえてよい物に凶器を含める(解説書には記述が無い)。
傷害で逮捕し、その場で捜索したら大麻が出てきた → 逮捕の理由(傷害)に関する物ではないので、どちらの説でもでは差し押さえられない(扱いは項目9)。
出題Ⅰ(相当説)に立っても、捜索・差押えの対象は逮捕の理由とされた被疑事実に関する証拠物に限られる(○)
- 「差押えの対象は、逮捕の理由とされた被疑事実に関する証拠物に限られない」「被疑事実以外の事実に関する証拠物も含まれる」
- 「相当説なら被疑事実に限られないが、緊急処分説なら限られる」のように、説で結論を分ける形(両説共通で限られる)
3相当説の場所:逮捕した場所と同一の管理権学説条文
- 通常の捜索と同じく、被疑者の身体・携帯品に加え、逮捕した場所と同一の管理権が及ぶ範囲。令状が出たとしたら捜索できる範囲と考える。
- 基準は逮捕した場所の管理権であって、被疑者が管理する場所ではない。被疑者の自宅で逮捕すれば家全体が範囲に入りうるが、隣家で逮捕したら範囲は隣家(被疑者の家は入らない)。
- 逮捕に着手してから追跡して逮捕したときは、その場所すべてが「逮捕の現場」。
- は裁判所がする捜索の規定で、が捜査機関の押収・捜索(・・)に準用している。だから逮捕の現場の捜索にもがかかる(準用なので、の「被告人」は被疑者と読む):被疑者の身体・物・場所=必要があるとき()/被疑者以外の者の身体・物・場所=「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り」()。
- 第三者の住居で逮捕したら、相当説ではその住居が「逮捕の現場」になるが、の状況がなければ捜索できない。
被疑者を隣家の居間で逮捕した。相当説でも、捜せるのは隣家(逮捕した場所)と同じ管理権の範囲で、被疑者自身の家は「逮捕の現場」に入らない。被疑者の家を捜すなら令状が要る。隣家も被疑者以外の者の住居なので、隣家を捜すにもの状況が要る(図の3段目)。
友人のアパートで逮捕した。相当説ならその部屋は「逮捕の現場」だが、友人(被疑者以外の者)の住居なので、証拠がそこにあると認めるに足りる具体的な状況がなければ捜索できない。
出題Ⅰ(相当説)では、逮捕の現場は令状が出たら捜索できる範囲=逮捕の場所と同一の管理権が及ぶ範囲内の場所と考えられる(○)
出題Ⅰ(相当説)でも、第三者の住居で逮捕したとき、被疑事実に関する証拠の存在を認めるに足りる状況がなければ、その住居での捜索差押えは違法(○)
出題Ⅰ(相当説)に立つと、被疑者の隣人方で逮捕したとき、隣人方のほか被疑者方でも捜索差押えができる(×)
出題Ⅰ(相当説)に立つと、令状によらない捜索の範囲は被逮捕者の身体と直接の支配下にある場所・物件に限られる(×)
- 「相当説では、被疑者の隣人方で逮捕しても、被疑者方まで捜索できる」(予備R5-17-イ)=基準は逮捕した場所の管理権
- 「相当説では、範囲は被逮捕者の身体と直接の支配下に限られる」(予備R8-24-ア)=それは緊急処分説の範囲
- 「相当説なら、第三者の住居で逮捕しても、その住居は証拠の状況を問わず捜索できる」(の状況が要る)
4緊急処分説の場所:身体と手の届く範囲(+有力説)学説
- 伝統的な理解:身体および手の届く範囲。過去問の言い方では「被逮捕者の身体及びその直接の支配下にある範囲」「手が届くなどの事実的支配が及ぶ範囲」。
- 近時の有力説:第三者による証拠隠滅のおそれも考え、緊急性が認められれば同一管理権の範囲内まで認める。
- 有力説と相当説の違い=個別に正当化できる事由(緊急性)があるときだけ広げるか、一律に同一管理権の範囲まで認めるか。
- だから緊急処分説でも、被疑者方の一室で逮捕したとき「手の届く場所だけで、一室全体は捜せない」とは言い切れない。
- 根拠がその場の隠滅・抵抗の防止なので、住居で逮捕して警察署へ連行した後に「逮捕の現場」として住居を捜索することは、緊急処分説からは根拠を欠く。
| 相当説 | 緊急処分説 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 証拠がある蓋然性が高い | 隠滅・抵抗等を防ぐ緊急の必要 |
| 場所の物差し | 逮捕した場所と同一の管理権が及ぶ範囲 | 伝統=身体および手の届く範囲/有力説=緊急性があれば同一管理権の範囲まで |
| 被疑者方の一室で逮捕 | 被疑者方(同一の管理権)が範囲に入りうる | 伝統=身体および手の届く範囲に限られる/有力説=緊急性があれば一室全体以上(同一管理権の範囲内)に及ぶ余地 |
| 隣人方で逮捕 | 範囲は隣人方。被疑者方は入らない | 伝統=身体および手の届く範囲/有力説=第三者による証拠隠滅等のおそれも考え、緊急性が認められれば隣人方の同一管理権の範囲内まで。どちらも被疑者方は入らない |
| 第三者の住居で逮捕 | その住居が逮捕の現場。の状況が要る | 伝統=身体および手の届く範囲/有力説=第三者による証拠隠滅等のおそれも考え、緊急性が認められればその住居の同一管理権の範囲内まで。どちらも被疑者方は入らない |
| 差し押さえてよい物 | 両説共通:逮捕の理由とされた被疑事実に関する物だけ(項目2) | |
被疑者を自宅の一室で逮捕した。伝統的な緊急処分説なら身体と手の届く範囲が出発点だが、共犯者がすぐ戻って証拠を処分しそうだなど緊急性が具体的にあれば、同一管理権の範囲まで広げる見解が有力 → 「その部屋の中は捜せない」とは言い切れない。
出題Ⅱ(緊急処分説)に立つと、差押えの対象は被逮捕者の身体及びその直接の支配下にある範囲の証拠物に限られると考えることができる(○)
出題Ⅱ(緊急処分説)に立つと、逮捕の現場は被逮捕者の手が届くなどの事実的支配が及ぶ範囲内の場所と考えられる(○)
出題Ⅱ(緊急処分説)に立つと、被疑者方の一室で逮捕したとき、捜索差押えは逮捕時に手が届く場所に限られ、一室全体で実施できるとは考えられない(×)
- 「緊急処分説なら、被疑者方の一室で逮捕しても、手の届く場所に限られ、一室全体で実施できるとは考えられない」(予備R5-17-エ)=一室全体に及ぶと考える余地がある
- 分かれ目は言い切りかどうか:伝統的な理解の帰結として「身体及びその直接の支配下にある範囲の証拠物に限られると考えることができる」は○(予備R3-16-C)。有力説があるのに「一室全体において実施することができるとは考えられない」と可能性まで否定すると×(予備R5-17-エ)
- 「緊急処分説に立っても、連行した後に逮捕の現場として住居を捜索できる」
5東京高判昭44・6・20(ホテルの事件)裁判例
- 「ホテルから出て来た外人二人が大麻らしいものを喫つていた」との通報 → 警察官がホテルで張込み
- 外出先から戻った米兵Bを、ホテルの待合所で職務質問・任意の所持品検査 → 大麻たばこ1本 → 現行犯逮捕
- Bが別の階の客室にある自分の所持品を持って行きたいと申し出る。警察官は、逮捕の現場では令状なしで捜索差押えができるとして同室を捜索すると告げ、Bを客室へ連行
- 逮捕の約35分後から捜索。同室者(被告人)は外出して不在。居間・寝室はBに自分の物を区別させ、Bの物だけを捜索
- 洗面所は区別させずに捜索。洗面用具入れバッグについてBは「自分の物ではなく被告人の物」と申し出たが、中を捜索して大麻たばこ7本を発見・差押え
- 捜索差押えから1時間20分ないし1時間45分位のうちに被告人が戻り、緊急逮捕
- 裁かれたのは、捜索のとき不在だった同室者(被告人)。原審は捜索差押えを違法として無罪、東京高裁は原判決を破棄して有罪(懲役1年・執行猶予3年)。
- 判決が立てた物差し:
- 刑事訴訟法第二二〇条第一項第二号が、被疑者を逮捕する場合、その現場でなら、令状によらないで、捜索差押をすることができるとしているのは、逮捕の場所には、被疑事実と関連する証拠物が存在する蓋然性が極めて強く、その捜索差押が適法な逮捕に随伴するものである限り、捜索押収令状が発付される要件を殆んど充足しているばかりでなく、逮捕者らの身体の安全を図り、証拠の散逸や破壊を防ぐ急速の必要があるからである。
従つて、同号にいう「逮捕の現場」の意味は、
…右の如き理由の認められる時間的・場所的且つ合理的な範囲に限られるものと解するのが相当である。 - 理由に蓋然性(相当説の根拠)と急速の必要(緊急処分説の根拠)の両方を挙げている。どちらか一方の説を採るとは書いておらず、「管理権」の語も無い。
- 判決自身が認めた疑問点:逮捕と捜索の間に約35分ないし60分の間隔/場所の違い(下の引用)/Bが自分から部屋へ案内したことには種々の見方がありうる/Bが「被告人のもの」と述べていた → 適法か「疑いの余地が全くないわけではない」。
- なかば公開的な待合所と同ホテルf階の、宿泊客にとつては個人の城塞ともいうべきg号室との差異のほかに若干の隔りもあり
- それでも違法と断定しなかった事情:捜査の端緒/被告人とBの関係(飛行機の中で知り合い、行動を共にし、同室もしていた)→ 共同所持の疑いもないわけではない/時間的・場所的な距りは「さしたるものではな」い/逮捕後Bが自ら相部屋へ案内した/捜索差押え後、被告人が戻って緊急逮捕された/検挙が困難で、罪質もよくない大麻事案。
- Bの逮捕と同たばこの捜索差押との間には時間的、場所的な距りがあるといつてもそれはさしたるものではなく、
- この大麻たばこ七本の捜索差押をもつて、直ちに刑事訴訟法第二二〇条第一項第二号にいう「逮捕の現場」から時間的・場所的且つ合理的な範囲を超えた違法なものであると断定し去ることはできない。
- 「東京高判は、待合所と客室が同一の管理権の範囲にあるとして適法とした」(判決は管理権の語を使っていない)
- 「東京高判は、時間的・場所的な隔たりは問題にならないとした」(隔たりが「さしたるものではな」いことを、違法と断定しない事情に挙げた)
- 「東京高判は、相当説(蓋然性)だけを根拠に逮捕の現場の範囲を定めた」(蓋然性と急速の必要の両方を挙げた)
6東京高判への評価学説解説書
- 学説:緊急処分説からはもちろん、相当説からも批判的なものが多数。
- 批判①(場所):集合住宅は部屋ごとに管理権がある。ホテルの客室も同じで、待合所(ロビー)と客室は同一の管理権にあるとはいえない。
- 捜索は、Bの逮捕の後、同室者(被告人)の緊急逮捕の前(判決)。差し押さえたのは、Bが同室者(被告人)の物と述べた物(判決は二人の共同所持の疑いも挙げる)なので、同室者を「逮捕する場合」の捜索として説明できるかも問題になる。
- 批判②(「逮捕する場合」):同室者は捜索のとき部屋におらず、確実に逮捕できる可能性が無かった → 同室者を「逮捕する場合」の捜索と見るのも無理。
- 判決を正当化するには、「逮捕の現場」を諸事情・時間・罪質で変わる相対的な概念と見るしかないが、それでは令状主義の例外の範囲が不明確になり妥当でない、と批判される。
- 解説書の検討:どちらの説からも違法とすべき。Bはすでに逮捕済みで証拠隠滅のおそれは無く、同室者も不在 → 早急に令状を請求すべきだった。
- 緊急処分説の有力説との関係:解説書は有力説を東京高判に当てはめていないが、有力説が広げる上限も同一管理権の範囲内なので、待合所と客室の管理権の批判(批判①)はそのまま残る(解説書の有力説の定義からの帰結)。
同室者が捜索のとき部屋にいて、すぐ逮捕できる状況だったなら、批判②(確実に逮捕できる可能性が無い)は当たらなくなる。ただし、待合所で逮捕して別の階の客室を捜すという管理権の問題(批判①)は残る。
- 「学説の多くは、相当説の立場から東京高判の結論を支持する」(相当説からも批判が多数)
- 「緊急処分説の有力説に立てば、同室者が戻って証拠を隠すおそれが緊急性になるので、東京高判は説明できる」(有力説が広げる上限も同一管理権の範囲内で、待合所と客室は同一の管理権にあるとはいえない)
7福岡高判平5・3・8(第三者の家へ移動して逮捕)裁判例
全文は裁判所サイトに無い。事案と判断は解説書 p.91(承諾の点は p.26)の紹介による。
- 暴力団組長Aが車のトランクに大量の覚醒剤を隠しているとの情報
- AがBを助手席に乗せてB方へ行き、荷物をB方に運び入れるのを確認
- 再び車に乗ろうとしたAに職務質問 → Aは全力で逃走し、荷物を放り投げる
- 追いついた警察官がAと共にB方へ戻り、Bの承諾で入室。Aの「勝手にしろ」を承諾と判断して荷物の中身を確認=覚醒剤1kg
- 「他に覚醒剤を隠していないか。あったら出しなさい」→ Aは「見せんでいいぞ」と怒鳴ったが、Bが「いいですよ」→ B方を捜索し、台所で覚醒剤2kg
- その後、AとBを現行犯逮捕(捜索は逮捕より前)
- 判断(解説書の紹介):「逮捕の現場」は逮捕した場所との同一性を意味する概念ではあるが、被疑者を逮捕した場所でありさえすれば常に逮捕に伴う捜索等が許されるとは解せない。
- 職務質問を続ける必要から、A以外の者であるBの住居内(被疑者A以外の者の住居=第三者の住居)に、Bの承諾を得て場所を移し、そこでAを逮捕したような場合は、逮捕に基づいて捜索できる場所もおのずと限定される → B方の捜索は逮捕に基づくものとして正当化できず違法。
- ただし重大な違法ではないとして、証拠能力は肯定(解説書の紹介)。
- 同じ判決は、承諾家宅捜索も違法ではないとしつつ、本件では完全な自由意思による承諾があったとは認められないとして違法とした(解説書 p.26)。
- 批判(学説):捜査機関が令状主義を潜脱する目的で、わざと被疑者を移動させて逮捕したのならともかく、そうした事実は無く、論拠が明確でない。
- 解説書の検討:相当説からは、B方は逮捕した場所と同一の管理権が及ぶので「逮捕の現場」であり、本件の事実からはの状況もあり、捜索は逮捕より前だがAの逮捕は確実で「逮捕する場合」にも当たる(項目1) → 違法とすべき理由はなかったように思われる(判決の判断ではなく解説書の見方)。
- 「福岡高判は、逮捕した場所でありさえすれば、逮捕に伴う捜索は常に許されるとした」(常に許されるとは解せないとした)
- 「福岡高判は、B方の捜索を違法としたので、証拠能力を否定した」(重大な違法ではないとして肯定)
- 「福岡高判は、B方がAの管理する場所でないことを理由に違法とした」(理由は職務質問を続けるため第三者の住居に場所を移して逮捕したこと)
8折衷的見解(有力)学説
- 被疑者の居宅で逮捕=居宅全体に証拠物が存在する蓋然性が認められる限りで相当説(同一の管理権が及ぶ範囲)。
- 第三者の居宅で逮捕=原則として被疑者の手の届く範囲に蓋然性が認められるので緊急処分説(身体および手の届く範囲)。
- 位置づけは「有力」な見解。通説とも、判例の立場とも書かれていない。
- この見解からは、福岡高判は「第三者宅での逮捕として捜索範囲を制限したもの」と説明できる。
- 東京高判は、逮捕した場所が待合所で、被疑者の居宅でも第三者の居宅でもない → この見解で説明されているのは福岡高判だけ。
知人の家の居間で逮捕した → この見解なら、原則として被疑者の身体とすぐ手元にある物は捜せるが、同じ家の台所の戸棚や2階の寝室は手の届く範囲の外。相当説なら、その家が「逮捕の現場」で、の状況があれば捜索できる(項目3)=どの説に立つかで答えが変わり、一つに断定はできない。
- 「被疑者の居宅なら相当説、第三者の居宅なら緊急処分説、というのが通説である」(有力な見解の一つ)
- 「ホテルの事件は、被疑者の居宅での逮捕として相当説の枠組みで説明される」(逮捕した場所は待合所。この見解で説明されているのは福岡高判)
- 「2つの裁判例は、距離ではなく誰の家かで結論が分かれた」(そう判断した裁判例は無い。東京高判は時間的・場所的な距りが「さしたるものではな」いことを事情に挙げた)
9捜索中に別の事件の証拠を見つけたら条文
- 逮捕の理由とされた被疑事実に関する物でなければ、では差し押さえられない(項目2)。見逃すしかないわけではなく、講義解説は3つの適法な処理を挙げる。
- ①任意提出と領置:所有者・所持者・保管者が任意に提出した物は、令状なしに領置できる()。
- ②新たな令状:見つけた物について、別の事件の令状の発付を受けて差し押さえる()。
- ③新たな逮捕:見つけた物を理由に現行犯逮捕・緊急逮捕し、その新しい逮捕に伴ってで差し押さえる。
- 過去問で確かめられるのは③:令状で大麻を捜していて覚醒剤らしい結晶と注射器を見つけ、予試験で覚醒剤と出たので覚醒剤取締法違反で逮捕 → 結晶も、ポーチ(結晶が入っていた)・注射器(血液の混じったような液体入り)も、新しい逮捕の被疑事実(覚醒剤取締法違反)に関する物として、その逮捕に伴って令状なしで押収できる。
出題令状による捜索中に見つけた白色結晶が予試験で覚醒剤と出て、覚醒剤で逮捕した後、白色結晶の押収に令状の発付を受ける必要はない(○)
出題同じ場面で、ポーチと注射器の押収には令状の発付を受ける必要がある(×)
- 「覚醒剤で新たに逮捕した後も、ポーチ・注射器を押収するには令状が必要」(司法H22-23-エ)=新しい逮捕に伴って令状なしで押収できる
- 「別の事件の証拠を見つけたら、その場で無条件に差し押さえてよい」(の対象は逮捕の理由とされた被疑事実に関する物だけ)