刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#45

捜索・差押え⑨「逮捕の現場」の範囲

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第2章 捜査 ㉔/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

逮捕した場所と、捜索していい場所

ホテル5階ロビーで逮捕した米兵が7階の自室を捜索されるという事案から場所の範囲を問う導入板

逮捕に伴って捜索できること自体は、前回見ました。逮捕した場所と、捜索してよい場所は、実は同じとは限りません。今日は、「逮捕の現場」が場所としてどこまで広がるのか、この線引きを見ていきます。

おさらい——なぜ令状なしで許されるか

220条1項2号の柱書と2号を再掲し前回の根拠から今日の場所の物差しを引き出す確認板

本題に入る前に、前回の2つの説を思い出しましょう。逮捕の現場でだけ令状なしで許される理由、前回の2つの説では、それぞれ何でしたか?緊急処分説は、逮捕の場面には証拠隠滅などの危険があって、急いで押さえる必要があるから。相当説は、逮捕の現場には証拠がある見込み、つまり蓋然性が高いから、でした。今日は、この2つの根拠から、捜してよい場所の広さを引き出します。

条文刑事訴訟法第220条第1項(柱書・第2号)

刑事訴訟法第二百二十条(抜粋) 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。 二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。

緊急処分説なら、急いで押さえる必要があるのは、被疑者がすぐ手を伸ばせる所だけです。だから物差しは、被疑者の身体および手の届く範囲になります。相当説なら、証拠がある見込みが高いのは、逮捕した場所と同じ人が管理している所です。だから物差しは、逮捕した場所と同一の管理権が及ぶ範囲になります。

「逮捕の現場」の場所的な意味——2説の違い

相当説の同一管理権と緊急処分説の手の届く範囲を住宅図で対比する対立軸板 図:相当説の同一管理権と緊急処分説の手の届く範囲を住宅図で対比する対立軸板

相当説は「同一の管理権が及ぶ範囲」と言いました。令状で捜せる範囲を見た回でも使いました。その場所への出入りを決める支配、のことです。被疑者自身の自宅なら、家全体を被疑者が管理しています。だから相当説からは、家全体が捜索の対象になりえます。被疑者が見ず知らずの他人の家にいた場合を考えるのが、今日の核心です。被疑者に管理権が無い場所まで、同じように家探ししてよいとは言えません。だから条文にも、歯止めが用意されています。

条文刑事訴訟法第102条第2項(222条1項で捜査における捜索に準用)

刑事訴訟法第百二条第二項 被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。

この102条2項は本来、令状を使う捜索の条文ですが、222条1項が無令状捜索にも準用しています。「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」、つまりそこに証拠がある具体的な手がかりが要ります。この歯止めを頭に置いた上で、冒頭のホテルの事件を見ていきます。

ホテルのロビーから、7階の部屋へ

ホテルの建物内で5階ロビーの逮捕から7階714号室の捜索まで場所が移った関係図 図:ホテルの建物内で5階ロビーの逮捕から7階714号室の捜索まで場所が移った関係図

警察官がホテルの5階ロビーで職務質問したところ、米兵Aが大麻たばこを持っていたため、現行犯逮捕しました。Aは「7階の自室に所持品がある」と申し出て、警察官をその部屋へ案内しました。実は、その部屋には同居者もいて、洗面所の洗面用具入れを調べる前に、Aは「自分の物ではなく、同居者の物だ」と申し出ていました。それでも警察官は中を調べ、大麻たばこを発見しました。判例は、隔たりがある点は認めた上で、いくつかの事情を積み重ねて適法と判断しました。

判例横浜米兵大麻たばこ所持事件〈東京高等裁判所判決〉

「逮捕の現場」から時間的・場所的且つ合理的な範囲を超えた違法なものであると断定し去ることはできない 「逮捕の現場」から時間的・場所的且つ合理的な範囲を超えた違法なものであると断定し去ることはできない。

判例が挙げた事情を、順に見ていきます。まず、大麻たばこは同居者との共同所持の疑いがあったこと。次に、ロビーから7階の部屋まで、逮捕と捜索が時間的にも場所的にもそれほど離れていなかったこと。さらに、Aが自ら警察官をその部屋に案内したこと。加えて、捜索の後1時間半ほどのうちに、同居者も現場に戻って緊急逮捕されたこと。そして、大麻取締法違反という罪質からしても、検挙が難しい事案だったことです。判決自身は、管理権という言葉は使っていません。さっき見た事情の積み重ねで、「違法と断定できない」と判断しただけです。相当説で説明しようにも、ロビーと7階の部屋を、同じ人が管理する一つの場所と見るのは苦しいですし、緊急処分説からも「手の届く範囲」を超えているため、どちらの説からもすっきりとは説明しきれない判断です。ただし緊急処分説にも近年、新しい流れがあります。被疑者以外の人物が証拠を隠す危険を理由に、急ぐ必要さえあれば、同一管理権の範囲まで捜索を認めてよいとする考え方です。この考え方に立てば、ホテルの件では、共同所持を疑われた同居者が、いつ部屋に戻って大麻を片づけるか分からない、という点が、緊急性の手がかりになります。

強い批判があります。ホテルの客室は、マンションの各部屋と同じように、それぞれ別の管理権があるのが通常です。ロビーと客室が同一の管理権にあるとは言えない、という批判です。さらに、220条が定める「逮捕する場合」という文言に当てはめること自体、無理があるという批判もあります。捜索を始めた段階では、同居者を確実に逮捕できる状況ではなかったからです。事情の積み重ねで決まる相対的な概念になってしまうと、令状主義の例外の範囲が不明確になる、という指摘もあります。

第三者の家に移動して逮捕したら——福岡の事件

覚醒剤の被疑者Aが屋外の職務質問で逃走し警察官が追いついてB方へ連れ戻り逮捕・捜索する関係図

もう1つ、対照的な事件を見ます。警察官は、暴力団組長Aが車のトランクに大量の覚醒剤を隠しているという情報を得て、内偵していました。Aがその荷物を第三者Bの家に運び込むのを確認したため、警察官が職務質問すると、Aは全力で逃走しました。追いついた警察官は、Aを連れてB方まで戻り、Bから了承を得て中へ入りました。そこで荷物の中身、覚醒剤1キロを確認します。さらにBに「他に隠していないか」と尋ね、Bの承諾を得たとしてB方を捜索し、台所から覚醒剤2キロを発見して、AとBを現行犯逮捕しました。この点、判例は逆の結論を出しています。

判例覚醒剤営利目的所持事件〈福岡高等裁判所判決〉(要旨)

「逮捕の現場」だからといって、逮捕した場所でありさえすれば常に捜索が許されるわけではない 「逮捕の現場」は逮捕した場所との同一性を示す概念ではあるが、逮捕した場所でありさえすれば、それだけで捜索が当然に許されるわけではない。

判例は、職務質問を続ける必要からBの住居内に場所を移し、そこでAを逮捕したような場合には、逮捕に基づいて捜索できる場所も自ずと限定される、と述べました。その上で、B方の捜索を「逮捕に基づくもの」として正当化できず、違法だと判断しました。ただし、重大な違法とまでは言えないとして、見つかった覚醒剤の証拠能力自体は肯定しています。違いは、逮捕した場所が誰の生活圏だったかです。B方は、Aの生活圏ではなく、あくまで第三者Bの家です。警察官がAを連れて戻っただけの場所まで、Aの逮捕を理由に家全体を調べてよいとは言えません。

B方は、Bが管理する住まいです。Aをそこで逮捕したのは、職務質問を続けるために、たまたま場所を移したからにすぎません。たまたま逮捕した場所だというだけで、Aが管理していない家の全体まで、令状なしで開けてよいことにはなりません。さっきの102条2項が、被疑者以外の者の場所に、もう一段高いハードルを置いていたのも、同じ考え方です。この判断にも批判があります。捜査機関が令状主義を潜脱する目的で、わざと被疑者を移動させて逮捕したわけではなく、違法とした論拠が明確でない、という批判です。相当説に立って見ても、AはB方で確実に逮捕されており、本件の経緯を見る限り、102条2項が求める手がかりも十分にあった以上、違法とすべき理由はなかった、とも指摘されます。

2つの判例を分ける軸——誰の家か

ホテル事件は適法福岡の事件は違法という結論を誰の生活圏かという軸で対比する整理板 図:ホテル事件は適法福岡の事件は違法という結論を誰の生活圏かという軸で対比する整理板

2つの事件を並べてみます。ホテルの事件は、同じ建物の中の、Aと関わりのある部屋でした。福岡の事件は、Aの住まいではない、第三者Bの家でした。身近なたとえで考えてみましょう。自分の机の引き出しで問題を起こした人がいれば、上司がその場で「引き出しの中を確認させてくれ」と言うのは、自然に受け入れられます。では、その人がたまたま同僚の机を借りて座っていただけだったらどうでしょう。「同僚の机の引き出しも全部確認する」と言われたら、さすがにやりすぎだと感じます。せいぜい、今座っている椅子の周りを確認するくらいが限界でしょう。「自分の机」が相当説の範囲、「たまたま座った同僚の机」が緊急処分説の範囲、に対応します。学説には、この2つの説を場面ごとに使い分ける整理もあります。

論文で書く規範:被疑者の居宅で逮捕した場合は相当説により居宅全体まで、第三者の居宅で逮捕した場合は緊急処分説により手の届く範囲に限られる 被疑者の居宅で逮捕された場合は、居宅全体に証拠が存在する蓋然性が認められる限りで相当説により「同一の管理権が及ぶ範囲」まで捜索できる。第三者の居宅で逮捕された場合は、原則として緊急処分説により被疑者の身体及び手の届く範囲に限られる。 (規範(通説で立てる)・学説の折衷的整理)

この整理に当てはめると、ホテルの事件は、「同居者の部屋」という被疑者本人の居宅だったので、相当説の枠組みで説明されます。もっとも、ロビーと客室の管理権が同じと言えるかには、さっきの批判がなお残ります。福岡の事件は、第三者の家への移動と見て、捜索範囲を制限したもの、と説明できます。たとえば、知人の家の居間で逮捕したなら、被疑者の身体や、すぐ手元にある物は捜せます。でも、同じ家の台所の戸棚や、2階の寝室まで開けるのは、手の届く範囲の外です。前回の言葉で言えば、根拠の違いが、そのまま捜せる場所の広さの違いになる、ということです。なお、どちらの説からも共通する縛りがあります。差し押さえてよいのは、逮捕の理由となった事件に関わる物に限られます。凶器などは、逮捕を妨げさせないための措置として取り上げることができる、という扱いです。

逮捕に伴って差し押さえてよい物の範囲

逮捕に伴う無令状差押えの対象は被疑事実に関する物に限られ凶器は妨害排除の措置として別扱いという物的範囲の板

220条には、「被疑事実に関連する物に限る」という明文はありません。この限定は、令状による差押えで見た「関連性」と同じ発想を、逮捕の原因になった被疑事実に当てはめたものです。もし無制限に認めると、軽い罪での逮捕を口実にした、別件の家探しができてしまいます。だから、学説も実務も、根拠づけは違っても、結論は一致します。差し押さえてよいのは、逮捕の原因となった被疑事実に関する物だけです。凶器は、差押えとは別枠で、逮捕を妨げさせないための措置として取り上げて保管することができます。それは220条の対象外です。では、見つけてしまったら、見逃すしかないのでしょうか。

捜索中に別の事件の証拠を見つけたら

別事件の証拠を見つけた場合の任意提出プラス領置新規令状別件逮捕という3つの適法ルート板

実は、見逃す以外にも、適法な処理が3つあります。1つ目、任意提出と領置です。

条文刑事訴訟法第221条

刑事訴訟法第二百二十一条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。

令状の取り方を見た回で出てきた、領置の条文です。所有者や保管者が自ら提出してくれれば、令状なしで受け取ってよい、というものでした。2つ目、新規令状の取得です。見つけた物について改めて裁判官に別事件の令状を発付してもらい、それを根拠に差し押さえます。3つ目、別事件での現行犯逮捕、または緊急逮捕です。目の前に覚醒剤があるなら、覚醒剤所持の現行犯として新たに逮捕し、その新しい逮捕を根拠に、220条を使って差し押さえることもできます。どのルートを通るかは状況次第ですが、見つけた瞬間に無条件で差し押さえてよいわけではない、ということは覚えておいてください。

今日の地図(保存版)

相当説緊急処分説2判例の対比折衷説物的範囲別事件処理を1枚にまとめた保存版の地図板

今日の内容を振り返ります。「逮捕の現場」の場所的な範囲は、相当説なら同一の管理権が及ぶ範囲、緊急処分説なら身体および手の届く範囲です。ホテルの事件は、同居者との関わりなど複数の事情が積み重なって、別の階の部屋まで適法とされました。福岡の事件は、第三者の家への移動として、その家の捜索は違法とされました。学説の折衷的な整理では、被疑者の居宅なら相当説、第三者の居宅なら緊急処分説です。そして、差し押さえてよい物は被疑事実に関する物に限られます。凶器は逮捕を妨げさせないための措置として取り上げられるだけで、別事件の証拠は、任意提出・領置、新規令状、別事件での逮捕、いずれかのルートを通る必要があります。

参照条文

  • 刑事訴訟法第220条第1項(柱書・第2号)
  • 刑事訴訟法第102条第2項(222条1項で捜査における捜索に準用)
  • 刑事訴訟法第221条

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