捜索・差押え⑩移動先での身体捜索とごみの領置
問い:逮捕した被疑者を連れて行った先で身体・所持品を調べてよいか。捨てたごみを令状なしで持ち帰ってよいか。
骨組み
- 1移動先での身体捜索(最決平8・1・29):対象が逮捕した被疑者の身体又は所持品なら、名誉等を害する・抵抗による混乱・交通の妨げのおそれといった事情(例示)でその場で直ちに実施することが適当でないとき、速やかに、実施に適する最寄りの場所まで連行して行う → 「逮捕の現場」と同視でき適法
- 2判例の事案:腕に籠手(こて)を着けていたA=約500m・約5分で警察署へ/所持品のB・C=まず近くの駐在所で着手したが抵抗で中止。そのうえで約3km先の警察署へ連行し、逮捕から約1時間後に差押え → どれも同視でき適法。判例は理由を述べていない
- 3学説の説明:相当説・緊急処分説は、逮捕に伴う令状なしの捜索がなぜ許されるかの根拠の説。相当説(根拠=その場に証拠が存在する蓋然性)=身体・所持品は動かしても、証拠がある蓋然性は変わらない/緊急処分説(根拠=証拠隠滅を防ぐ緊急の必要性)=緊急性が変わらない場合がある。そのうえで学説多数は必要最小限度の移動を認めるが、「同視」ではなく捜索に「必要な処分」として説明する=判例と説明が違う
- 4居合わせた第三者の身体(・):押収すべき物の存在を認めるに足りる状況があるときに限る。たまたま居合わせただけでは調べられない
- 5捨てたごみの領置(最決平20・4・15):「遺留した物」には落とし物も、占有を放棄した物も入ると解されている。最決平20は、不要物として公道上のごみ集積所に排出したごみ(占有を放棄した物)が当たるとし、見られない期待があっても、捜査の必要がある場合には遺留物として令状なしで領置できるとした
- 6判例の外側(解説書の検討):捜査の必要が無ければ違法の余地。マンション・個人の敷地内のごみは無断立入りが違法となりうる → 管理会社・清掃会社等から任意提出、難しければ令状
- 7マンションのごみ(東京高判平30・9・5):遅くとも清掃会社が回収した時点で占有は管理組合・管理会社・清掃会社に移る → 所持者から任意提出を受けて領置。開封は押収物への必要な処分。ごみの捜査の必要性・相当性(相当説とは別の話)もあり → 適法。最決平20とは事案を異にする(遺留物/任意提出)
色の札は出どころ:条文 判例 学説(同じ色の 解説書 は、学説の紹介ではなく解説書の著者自身の検討。最高裁の判断を判例、高裁の判断を 裁判例 と呼び分け、札の色はどちらも判例)。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。
主語を分けて覚える。最決平8・1・29 が言ったのは規範と当てはめだけで、「なぜ同視できるか」の理由(蓋然性・緊急性が変わらない)は学説の分析(項目3)。ごみの側では、判例・裁判例が言ったのは公道上の集積所(最決平20)とマンション(東京高判)の事例判断で、敷地内は無断立入りの問題になるという見方(項目6)は解説書の著者の検討。
1移動先での身体捜索(最決平8・1・29)条文判例
- :被疑者を逮捕する場合において必要があるときは、2号「逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること」ができる(令状は要らない=)。
- 問題:逮捕した場所で調べるのが不適当なとき、被疑者を別の場所へ連れて行ってから身体・所持品を調べても「逮捕の現場」での捜索・差押えといえるか。
- 右の処分が逮捕した被疑者の身体又は所持品に対する捜索、差押えである場合においては、
逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときには、
速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上、これらの処分を実施することも、
同号にいう「逮捕の現場」における捜索、差押えと同視することができ、適法な処分と解するのが相当である。 - 「右の処分」=2号の逮捕の現場での捜索・差押え等。
- 限定は3つ:①対象が逮捕した被疑者の身体又は所持品であること(判例の規範は身体又は所持品の場合のもの。場所には及ばない) ②その場で直ちに実施することが適当でないこと(名誉・混乱・交通は「といった事情」=例示で、3つに限られない) ③速やかに、実施に適する最寄りの場所まで連行すること。
- 判例は、なぜ同視できるかの理由を述べていない(理由づけは学説の分析=項目3)。
人だかりのできた歩道で準現行犯人を取り押さえた。その場で上着の内ポケットを探れば見せ物になる → すぐ近くの交番へ連れて行き、着いてすぐ所持品を差し押さえた=名誉を害するおそれがあり、速やかに最寄りの適する場所へ移っている → 同視できる側。同じ場面で交番を素通りし、取調べに都合がいいからと遠くの本署へ連れて行って長く待たせてから調べた → 「速やかに」「最寄り」が問題になり、同視できない方向へ動く。
出題逮捕現場付近で捜索差押えをすると被疑者の抵抗による混乱等が生じる事情があるときは、捜索の実施に適する最寄りの場所に連行した上で、逮捕に伴う令状によらない捜索差押えをすることができる(○)
- 「逮捕現場で直ちに捜索するのが適当でないときでも、最寄りの場所まで連行して身体を捜索することはできない」(判例は同視できるとした)
- 「移動が許されるのは、名誉・混乱・交通の3つの事情のどれかに当たる場合に限られる」(3つは「といった事情」=例示)
- 「速やかに」「最寄りの」を落として、不適当な事情があればどこへでも連れて行けるとする形
- 路上で逮捕した被疑者を離れた被疑者の自宅まで連れて行き、その自宅(場所)を、この規範で「逮捕の現場」と同視して捜索できるとする形(判例の規範は身体又は所持品の場合のもので、場所には及ばない)
2判例の事案と結論判例
- 兇器準備集合・傷害の事件(いわゆる内ゲバ事件。和光大学内ゲバ事件と呼ばれる)。被告人3名を準現行犯人として逮捕したが、籠手(こて)・所持品は逮捕の時に警察官が現認したものの、逮捕後直ちには差し押さえず、警視庁町田警察署へ連行した後に差し押さえた。
| 被告人A(籠手) | 被告人B・C(所持品=バッグ等) | |
|---|---|---|
| 逮捕 | 犯行終了後約1時間、犯行現場から直線約4km離れた派出所の警察官が見付け、職務質問から逃げ出したので約300m追跡。腕に籠手 → 準現行犯逮捕 | 犯行終了後約1時間40分、直線約4kmの路上で職務質問から逃げ出し、数十m追跡 → 準現行犯逮捕 |
| その場で差し押さえなかった事情 | 店舗裏搬入口付近で、興奮さめやらぬAの抵抗を抑えて籠手を取り上げるのに適当な場所でない。逃走防止のため至急車に乗せる必要。車内で実力で取ろうとすると更に混乱のおそれ | 道幅の狭い道路上で、車両が通る危険性等。近くの駐在所でいったん差押えに着手したが抵抗を受け、混乱を招くおそれからやむなく中止 |
| 差し押さえた所 | 逮捕場所から直線約500mの警察署。約5分で到着し、間もなく差押え | 逮捕場所から直線約3kmの警察署。逮捕の時点から約1時間後に差押え |
| 結論 | いずれも「逮捕の現場」における差押えと同視でき、適法 | |
- 以上のような本件の事実関係の下では、被告人三名に対する各差押えの手続は、いずれも、逮捕の場で直ちにその実施をすることが適当でなかったため、できる限り速やかに各被告人をその差押えを実施するのに適当な最寄りの場所まで連行した上で行われたものということができ、刑訴法二二〇条一項二号にいう「逮捕の現場」における差押えと同視することができる
- B・Cは、逮捕場所が道幅の狭い道路上で車両が通る危険性等もあったうえ、まず逮捕場所近くの駐在所でいったん差押えに着手し、抵抗を受けて中止した。これらの事情があって、約3km・約1時間でも同視された。
- 同じ決定は、3名の準現行犯逮捕も適法とした(2号ないし4号)。上告棄却・裁判官全員一致。
- 「最高裁は、警察署へ連行した後の差押えを違法とした」(同視でき適法とした)
- 「判例は、対象が本人の身体・所持品なら場所を移しても証拠の蓋然性・緊急性は変わらないから同視できる、と理由を述べた」(判例は理由を述べていない。蓋然性・緊急性の分析は学説)
3学説の説明(同視か、必要な処分か)学説解説書
- 前提:相当説・緊急処分説は、逮捕に伴う令状なしの捜索・差押え(2号)がなぜ許されるかの根拠の説。そのうえで学説多数は、必要最小限度の移動を、捜索に「必要な処分」(付随措置)として認める(下)。
- 鍵は、対象が身体・所持品であること。
- 相当説(令状なしの捜索が許される根拠を、その場に証拠が存在する蓋然性に求める説):身体・所持品は移動しても、証拠がある蓋然性は変わらない。
- 緊急処分説(令状なしの捜索が許される根拠を、証拠隠滅を防ぐ緊急の必要性に求める説):具体的な事実関係によるが、緊急の必要性が変わらない場合がある(言い切らない)。
- そのうえで、現場での実施が名誉の保護・混乱の防止などの点で不適当なら、必要最小限度の移動は許される=学説多数。
- ただし多数説は、「逮捕の現場と同視できる」からではなく、捜索の実効性を確保するための付随措置=捜索に「必要な処分」として説明する(「必要な処分」はの文言=捜索状などの執行に付随する処分。捜査機関にはで準用)。
- 解説書の設問の検討:相当説なら適法。緊急処分説でも、証拠保全の緊急の必要性を指摘できれば同様。判例からは「同視できる」、反対説(上の学説多数)からは「必要な処分」と説明できる=結論は同じでも、法的な説明は違う。
| 判例(最決平8・1・29) | 学説多数 | |
|---|---|---|
| 移動先での捜索 | 許される | 必要最小限度の移動は許される |
| 説明 | 「逮捕の現場」と同視できる | 捜索に必要な処分(付随措置) |
| 理由 | 述べていない | 相当説=蓋然性は変わらない/緊急処分説=緊急性が変わらない場合がある |
被疑者を手錠で拘束して車に乗せ、所持品も袋に入れて封をした状態で警察署へ向かった → 相当説なら蓋然性は変わらない。緊急処分説からは、隠滅の緊急性がまだ残っているかを個別に問われうる。
出題証拠存在の蓋然性を根拠とする考え方に立つと、逮捕した現場で直ちに捜索するのが適当でないときでも、最寄りの場所まで連行して被逮捕者の身体を捜索することはできない(×)
- 「相当説(蓋然性の考え方)に立つと、最寄りの場所まで連行して身体を捜索することはできない」(司法H22-24-ウ)=身体・所持品は動かしても蓋然性は変わらない
- 「学説の多数も、判例と同じく、移動先の捜索は逮捕の現場と同視できると説明する」(多数説は必要な処分として説明)
- 「緊急処分説からも、移動しても緊急性は常に変わらない」(変わらない場合がある、にとどまる)
4居合わせた第三者の身体条文学説
- 逮捕に伴う捜索にもが準用される()。
- :被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる → 被疑者以外の人の身体は、この状況がその場であるときに限って調べられる。
- 講義解説の整理(解説書には無い):の状況が要ることを前提に、対象になる第三者の範囲が説で違う。緊急処分説なら被疑者の身体および直接支配下にある場所にいる第三者に限り、さらにその第三者が証拠隠滅をするおそれ等が要る。相当説なら同一管理権の及ぶ場所にいる第三者まで。どちらでも、この状況がなくたまたま居合わせただけでは調べられない。
逮捕の直前に、同行者が被疑者から紙袋を受け取って自分のかばんに入れた → 押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある。隣に座っていただけなら足りない。
- 「逮捕の現場に居合わせた者の身体は、それだけで令状なしに捜索できる」(の状況が要る)
5捨てたごみの領置(最決平20・4・15)条文判例
- :検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。
- 領置=遺留物・任意提出物の占有を取得する処分。占有の取得に強制を伴わないので令状は要らない。
- 「遺留した物」には、落とし物(遺失物)のほか、自分の意思で占有を放棄して手放した物も入る、と解されている。取りに戻るつもりの有無は決め手にならない。
- 事案:強盗殺人等の事件。警察官が、被告人とその妻が自宅付近の公道上にあるごみ集積所に出したごみ袋を回収し、警察署内で中身を確認して、現金自動預払機の防犯ビデオに写っていた人物が着用していたものと類似するダウンベスト・腕時計等を発見し、領置した。
- 被告人及びその妻は,これらを入れたごみ袋を不要物として公道上のごみ集積所に排出し,その占有を放棄していたものであって,排出されたごみについては,通常,そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても,捜査の必要がある場合には,刑訴法221条により,これを遺留物として領置することができるというべきである。
また,市区町村がその処理のためにこれを収集することが予定されているからといっても,それは廃棄物の適正な処理のためのものであるから,これを遺留物として領置することが妨げられるものではない。 - 決め手は2つ:「不要物として排出し、占有を放棄していた」ことと、「捜査の必要がある場合」であること。
- 見られないという期待があることと、占有を放棄した物であることは別の話=判例は期待の存在を否定せず、それでも領置できるとした。
- 市区町村が収集する予定でも、それは廃棄物の適正な処理のため → 領置は妨げられない。
- この決定は、占有を放棄した物が遺留物に当たる例を示したもの。「遺留物は放棄した物に限る」とは言っていない。
出題強盗殺人事件の捜査で、被疑者が不要物として公道上のごみ集積所に排出したごみ袋を、令状なしで領置しても違法ではない(○)
出題公道上の集積所に排出されたごみ袋の領置は、令状がなくても適法と評価される余地がある(○)
判例の規範には「捜査の必要がある場合には」が付く。予備R4-16-エは強盗殺人事件の捜査という場面での肢、予備R8-18-イは「余地がある」と言うだけの肢なので、どちらも判例と食い違わず○。どちらの肢も、捜査の必要を問わず領置できるとは言っていない(必要が無い場合は項目6)。
出題本人に知られずに、自宅から公道上のごみ集積所に排出されたごみ袋を持ち帰ることは、令状がなくても適法と評価される余地がある(○)
出題本人に知られずに、自宅から公道上のごみ集積所に排出されたごみ袋を持ち帰ることは、あらかじめ令状を得ていなければ適法と評価される余地がない(×)
- 公道上の集積所に排出されたごみ袋の持ち帰りを「令状がなければ適法の余地がない」側に入れる形(予備H26-14-イ)=遺留物として令状なしで領置できる
- 「中身を他人に見られないという期待があるから、令状が必要」(期待があっても領置できる)
- 「市区町村が収集する予定のごみだから、遺留物として領置できない」(妨げられない)
- 「落とし物は遺留物に当たらない」「持ち主に取りに戻るつもりがあれば遺留物ではない」(遺失物も入る)
6判例の外側(解説書の検討)解説書
- 問題:集積所のごみなら、無制約に遺留物として領置できるのか。
- 解説書は、重大事件で捜査の必要性がある以上、期待があっても領置は適法とみる。逆に、捜査の必要性がないのにごみを領置すれば、違法となる余地がある(判例の規範に「捜査の必要がある場合には」とある)。
- 集積所のごみなら全部領置できると考えるべきではない。マンションや個人の敷地内にあるごみは、敷地内への無断立入りが違法となりうる → 所有者・所持者・保管者にあたる管理会社・清掃会社・自治体の清掃事務所等の協力を得て任意提出を受けて領置するか、それが難しければ令状で捜索・差押えをすべき。
- どれも解説書の著者の見解で、判例の判示ではない(東京高判平30・9・5 も無断立入りの可否は判断していない)。
一戸建ての門の内側に置かれたごみ箱から、警察が家人に断らずに袋を持ち出した → 公道上の集積所の判例はそのまま使えない。解説書は、敷地内への無断立入りが違法となりうるとして、任意提出か令状によるべきとする。
- 「判例は、集積所のごみであれば、捜査の必要の有無を問わず領置できるとした」(判例は「捜査の必要がある場合には」とした)
- 「判例は、敷地内のごみは無断立入りになるので令状が必要だとした」(解説書の見解)
7マンションのごみ(東京高判平30・9・5)裁判例
- 事案:会社事務所等を狙った侵入窃盗事件の容疑者として被告人が浮上。マンションの各階にゴミステーションがあり、ごみ処理は管理組合の業務で、管理組合→マンション管理会社→清掃会社と委託して清掃員が各階から回収していた。
- 居住者等は,回収・搬出してもらうために不要物としてごみを各階のゴミステーションに捨てているのであり,当該ごみの占有は,遅くとも清掃会社が各階のゴミステーションから回収した時点で,ごみを捨てた者から,本件マンションのごみ処理を業務内容としている管理組合,その委託を受けたマンション管理会社及び更にその委託を受けた清掃会社に移転し,重畳的に占有しているものと解される。
- 「重畳的に」=重なり合って。3者が同時に占有している。
- 捜査の流れ(判決が認めた事実の順):
- 警察が、マンション管理会社の指示を受けて、同社の管理責任者・清掃会社のごみ回収責任者とやり方を協議。被告人の住戸のある階のごみを専用の容器で分けて地下1階のごみ置場に下ろし、立会いのもとで確認する方法で、平成28年4月8日頃からごみの捜査
- 5月16日、警備室で管理員の了解を得てごみ置場へ。外観から被告人の出したごみの可能性のある4袋を、管理会社の管理員の立会いで1袋ずつ開封
- そのうち1袋から紙片等が出た → 立ち会っていた管理員からその1袋の任意提出を受けて領置
- その1袋を管理員にいったん還付し、改めて管理員から紙片等のみの任意提出を受けて領置
- 判決は、紙片の出た1袋を含む4袋を、管理会社・清掃会社が占有するに至っていた物とし、その所持者が任意に提出した物を警察が領置したものと評価した(判決の法的な評価。事実としては、上のとおり開封が任意提出より先)。
- 本件紙片等の入っていたごみ1袋を含むごみ4袋は,その所持者が任意に提出した物を警察が領置したものであり,警察がそのごみ4袋を開封しその内容物を確認した行為は,領置した物の占有の継続の要否を判断するために必要な処分として行われたものであるといえる。
- =判決は、ごみを占有する管理会社・清掃会社の側を所持者とし、立ち会った管理員から任意提出を受けた形を適法とした。開封・確認は、押収物(領置した物)についての「必要な処分」(原審は・を挙げた。=前項の処分は押収物についてもできる)。項目3の、捜索に付随するの「必要な処分」とは場面が違う。
- ごみの捜査の必要性・相当性(このごみの捜査=領置・開封の当否として判決が見た事情。項目3の「相当説」とは別の話):
- 必要性:侵入窃盗事件の嫌疑が高まっていて、ごみの捜査の必要性は高かった。相当性:平成28年4月8日頃から逮捕の前日の8月1日頃まで続いたが、被告人が検挙を避ける行動をとっていると推測される状況からやむを得ない。しかも袋を絞り込んでいた。
- 警察は,被告人の住戸のあるE階のごみの中から,外観から被告人が出したごみの可能性のあるごみ袋に絞り込んでおり,領置して開封するごみ袋を極力少なくする配慮をしていたのである。
- 本件マンションの居住者等は,ゴミステーションに捨てたごみが清掃会社によりそのまま回収・搬出され,みだりに他人にその内容を見られることはないという期待を有しているものといえるが,このことを踏まえても,本件紙片を領置するに至った捜査は,上記のような必要性があり,その方法も相当なものであったのであるから,
…捜査手続は適法なものといえる。 - 弁護人は、最決平20は公道上の集積所への排出を占有放棄の重要な要件としていると主張した。高裁の答え:
- しかし,上記最高裁決定は,遺留物に関するものであり,所持者が任意に提出した物に関する本件とは事案を異にするものである。
- =高裁は「公道か否か」を占有放棄の線として採ったのでも、退けたのでもない。結論は最決平20と同じく適法で、変わったのは法律構成(遺留物の領置 → 所持者からの任意提出による領置)。
- オートロックで部外者の立入りが制限されプライバシー保護の程度が高い、という弁護人の主張にも、必要性の高さ・方法の相当性に照らし適法と答えた。
- 所有権:高裁は判断していない(原審は、ゴミステーションに捨てた時点で所有権を放棄したと構成した)。任意提出によらなければならない(令状による差押えは許されない)とも言っていない=本件の任意提出・領置を適法とした事例判断。
| 最決平20・4・15 | 東京高判平30・9・5 | |
|---|---|---|
| 出した場所 | 自宅付近の公道上のごみ集積所 | マンション各階のゴミステーション |
| 占有 | 排出者が放棄 | 遅くとも回収時に管理組合・管理会社・清掃会社へ移転(重畳的) |
| 法律構成 | 遺留物の領置 | 所持者が任意に提出した物の領置 |
| 見た事情 | 捜査の必要がある場合 | ごみの捜査の必要性が高い・方法が相当(絞り込み) |
| 見られない期待 | あっても領置できる | あるが、ごみの捜査の必要性・相当性があり適法 |
| 結論 | 適法 | 適法 |
同じマンションで、警察が階を区別せず、全住戸のごみ袋を数か月にわたって毎回すべて開けていた → 東京高判が相当性を認めた事情(被告人の階に限り、外観で絞り込み、開封する袋を極力少なくした)が欠ける → 適法とは言いにくくなる方向。
- 「マンションの共用ごみ置き場に出したごみは領置できないとされた」(結論は適法。法律構成が任意提出による領置に変わった)
- 「東京高判は、公道上への排出を占有放棄の要件とし、公道以外に出したごみは遺留物にならないとした」(最決平20とは事案を異にするとしただけ)
- 「東京高判は、ごみ袋の中身はまだ住人の所有物だとした」(所有権は判断していない)
- 「マンションのごみは、所持者からの任意提出によらなければ取得できないとされた」(任意提出に限るとは言っていない)