刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#46

捜索・差押え⑩移動先での身体捜索とごみの領置

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第2章 捜査 ㉔/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

警察署まで連れて行ってから調べる理由

路上で逮捕した被疑者を数分先の警察署まで連行してから所持品を調べる場面と、家の前に捨てたごみを警察が持ち帰る場面を並べた導入板

警察署まで連れて行ってから調べる、そうした場面は実際にあります。しかも、それでも適法になる場合があります。もう一つ、別の問いも立てます。あなたが、家の前に捨てたごみを、警察が令状なしで持ち帰る。これは、できるんでしょうか。この2つ、実は同じ制度の続きの話です。前回・前々回で見た、逮捕に伴う令状なしの捜索・差押えという制度には、まだ語り終えていない場面が残っています。今日は、その残り2つの場面を見ていきます。

おさらい——逮捕の現場は、なぜ・どこまで

220条1項2号の柱書と2号を再掲し緊急処分説の手の届く範囲と相当説の同一管理権を並べた確認板

前々回、なぜ令状なしで許されるかを見ました。前回は、どこまでの場所に及ぶかを見ました。

条文刑事訴訟法第220条第1項(柱書・第2号)

刑事訴訟法第二百二十条(抜粋) 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。 二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。

緊急処分説は、証拠隠滅の危険を防ぐ、緊急の必要性。相当説は、証拠が存在する蓋然性の高さ。どちらの説も、差し押さえてよい物は、逮捕の理由となった被疑事実に関する物と、凶器に限る、という点で一致していました。被疑者本人の居宅なら、相当説から、同一の管理権が及ぶ範囲まで、第三者の居宅なら、緊急処分説から、身体および手の届く範囲に限られる、という整理でした。移動してからでも「逮捕の現場」と言えるか、そこが今日の1つ目の論点です。ただし、前回までの「場所の広がり」とは、少し違う話になります。

対象は「場所」ではなく「本人」

前回の場所的範囲は建物や部屋という場所そのものが対象だったのに対し今日の論点は被疑者本人の身体・所持品が対象だという対比板

前回までの論点は、「建物のどこまでを捜索してよいか」、つまり場所そのものが対象でした。今日の1つ目は、場所ではなく、被疑者本人の身体・所持品が対象です。身近な場面で考えてみましょう。路上でもみ合いになって、相手を取り押さえたとします。周りに人が多く、衣服を検めるその場での確認は、さすがに気が引けます。そこで、少し先の自転車置き場まで一緒に移動してから、ポケットの中身を確認する。場所を数十メートル変えても、ポケットの中身が入れ替わるわけではありません。証拠がそこにある蓋然性も、証拠を守る緊急の必要性も、場所を移しても変わらない。だから、判例は、移動先での捜索も「逮捕の現場」と同視できる、と説明します。最高裁まで争われたのは、大学で起きた、グループどうしの襲撃事件、いわゆる内ゲバ事件です。警察官は被疑者たちを逮捕しましたが、そのうち1人が腕に着けていた籠手や、ほかの2人が持っていたバッグなどを、その場で調べて差し押さえるのには向かない状況でした。そこで、警察署まで連れて行ってから、差し押さえました。

判例和光大学内ゲバ事件〈最高裁判所第三小法廷決定〉

逮捕現場付近の状況によっては、最寄りの場所まで連行した上での捜索・差押えも「逮捕の現場」と同視できる 「逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときには、速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上、これらの処分を実施することも、同号にいう『逮捕の現場』における捜索、差押えと同視することができ、適法な処分と解するのが相当である。」

判例は3つ挙げています。1つ目、被疑者の名誉等を害するおそれ。衆人環視の中で、衣服を検めるような場面です。2つ目、被疑者らの抵抗による混乱。3つ目、現場付近の交通の妨げ。こうした事情があって、しかも移動先が「捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所」であることが条件です。

論文で書く規範:「逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときには、速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上、これらの処分を実施することも、『逮捕の現場』における捜索、差押えと同視することができる」 (論文で書く規範(最決平8・1・29))

その場合は、「適当でない事情」が無いので、同視できません。衆人環視でも混乱のおそれもないのに、取調べに都合がいいから遠くまで連れて行く。これは、「逮捕の現場」とは同視できない、違法の疑いがある移動です。学説からも、同じ結論を別の言い方で説明できます。捜索・差押えの実効性を確保するための、「必要な処分」として、必要最小限度の移動が許される、という説明です。対象が被疑者本人の身体・所持品である限り、場所を移しても中身は変わらない。この一点さえ押さえれば、どちらの言い方でも説明できます。論文で覚えるべき規範の文言は、判例の言い回しです。

居合わせた第三者の身体を捜索できるか

逮捕現場に居合わせた第三者の身体は102条2項の準用により緊急処分説と相当説で範囲が異なることを一言で示す板

これは、前回見た102条2項が、ここでも準用されます。

条文刑事訴訟法第102条第2項(222条1項で捜査における捜索に準用)

刑事訴訟法第百二条第二項 被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。

被疑者以外の人の身体は、押収すべき物がありそうな状況がなければ、調べられない、ということです。以前、令状で捜索する場面では、居合わせた人の身体は、場所の令状の理屈では正当化できない、別の論点だ、と言いました。今日は、令状の無い逮捕の現場なので、この102条2項の要件を、その場で満たすかどうかで決まります。範囲は、前回の2説が、そのまま人にも当てはまります。なぜそのまま使えるのか。2説が見ているのは、証拠を隠される危険と、証拠がそこにある蓋然性でした。この2つは、証拠が部屋の棚にあっても、人のかばんにあっても、変わりません。だから、同じ物差しで、人の範囲も決まります。緊急処分説なら、被疑者の手の届く範囲にいる人まで、相当説なら、同一の管理権が及ぶ場所にいる人まで、ただ、どちらの説でも、たまたま居合わせただけでは調べられません。逮捕の直前に、被疑者から紙袋を受け取って、自分のかばんに入れた。そういう具体的な状況が要ります。ここからは、冒頭のもう1つの問い、ごみの話に移ります。

捨てたごみは、遺留物か

221条の遺留した物と任意に提出した物という要件を再掲し公道上のごみ集積所に出されたごみが遺留物にあたるかを問う板

もう1つの制度を思い出してください。逮捕に伴わなくても、令状なしで物を取れる場面が、別にもう1つありました。

条文刑事訴訟法第221条

刑事訴訟法第二百二十一条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。

前に見たとおり、領置は、奪うのではなく、占有者が自分から手放した物を受け取る処分です。だから、令状が要りません。この条文の「遺留した物」は、単に落とした物とは少し違い、占有を放棄した物、という意味でした。「まだ取りに戻るつもりがある物」は、遺留物には当たらない、という話もしました。出したごみが遺留物にあたるか、そこが今日の2つ目の論点です。強盗殺人事件の容疑者として浮かんだ人物の自宅付近、公道上のごみ集積所から、ごみ袋を回収した事案を見ます。犯行当時の防犯カメラ映像の人物が着ていたのと似た衣類や時計です。これを発見して領置しました。

判例も、その期待の存在自体は否定していません。

判例強盗殺人事件〈最高裁判所第二小法廷決定〉

公道上のごみ集積所に排出されたごみは占有を放棄しており、他人に見られない期待があっても遺留物として領置できる 「不要物として公道上のごみ集積所に排出し、その占有を放棄していたものであって、排出されたごみについては、通常、そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても、捜査の必要がある場合には、刑訴法二二一条により、これを遺留物として領置することができるというべきである。」

「不要物として排出し、占有を放棄していた」という点と、「捜査の必要がある」という点の、2つが決め手です。プライバシーへの期待があることと、占有を放棄した物であることは、別の話です。期待があっても、占有を放棄してしまえば、もう自分の支配は及びません。

論文で書く規範:「不要物として公道上のごみ集積所に排出し、その占有を放棄していたものであって、排出されたごみについては、通常、そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても、捜査の必要がある場合には、刑訴法221条により、これを遺留物として領置することができる」 (論文で書く規範(最決平20・4・15))

判例は、もう1つ付け加えています。市区町村が処理のためにそのごみを収集する予定であっても、それは廃棄物を適正に処理するための収集なので、遺留物としての領置は妨げられない、という付言です。収集の予定と、占有放棄の事実は、別の問題です。

境界線——まだ出していないごみは違う

公道上のごみ集積所に出したごみ袋は占有放棄で領置可能な一方まだ室内に置いたままのごみ袋は占有放棄にあたらないという境界板

まだ公道に出していない段階では、占有を放棄したとは言えません。玄関先に置いただけで、収集日を待っているだけの段階も、同じです。現に手元に置いている限り、占有はまだ排出者にあります。ただし、この「公道上」という点にも、実はもう1つ落とし穴があります。

マンションのごみ置き場は、公道ではない

マンションの敷地内共用ごみステーションのごみは公道ではなく回収後に管理会社等へ占有が移りその所持者から任意提出を受けて領置するという歯止めの板

同じ「捨てたごみ」でも、出す場所が変わると、結論も変わります。住人以外は建物に入れない、オートロック式のマンションで、各階に共用のごみ置き場がある、そういう場所です。公道ではありません。まだ建物の管理という枠の中にあります。宅配便で届いた段ボール箱を、潰して家の前の公道に出せば、もう排出した人が、占有を手放した物として扱われます。ところが、同じ箱をマンションの共用ごみ置き場に出した場合は、住人以外が勝手に持ち出せば咎められます。この場面を扱った判例を見ます。清掃会社が各階のごみステーションからごみを回収した時点で、ごみの占有は、排出者から、管理組合・管理会社・清掃会社へと移った、と解しました。

判例マンションごみステーション事件〈東京高等裁判所判決〉

マンションの共用ごみステーションのごみは、回収時点で管理会社・清掃会社等に占有が移り、その「所持者」から任意提出を受けて領置できる マンションの各階のごみステーションに排出されたごみについて、遅くとも清掃会社が各階のごみステーションから回収した時点で、その占有は排出者から管理組合、管理会社及び清掃会社に移転し、重畳的に占有される。管理会社の管理員から任意提出を受けて領置した本件の手続は、捜査の必要性が高く、開封する袋を絞り込むなど方法も相当であったから、適法であるとした。

「重畳的に」とは、重なり合って、という意味です。管理組合も、管理会社も、清掃会社も、同時に占有している、ということです。所持者は、所有者とは違います。所有者ではなくても、現に占有している人を指します。マンションの管理会社や清掃会社は、ごみの所有者ではありませんが、現に占有している限り、221条の「所持者」にあたります。しかも判例は、捜査の必要性の高さに加えて、開封する袋を極力絞り込むといった相当性への配慮も見ています。管理会社が応じても、袋の中身は住人の物です。住人の「中身を見られない」という期待は、まだ建物の中で守られています。だから、開ける袋を必要な分に絞る配慮が求められるのです。

論文で書く規範:マンションのように、管理組合の委託を受けた清掃会社がごみを回収する仕組みがあれば、遅くとも清掃会社が回収した時点で、ごみの占有は排出者から管理組合・管理会社・清掃会社へ移る。現にこれを占有する「所持者」から任意提出を受けて領置するのが筋であり、東京高判は、捜査の必要性の高さと対象を絞り込むなど相当な方法であったことから、適法とした (実務の対応(集積型))

公道上なら、占有放棄が認められれば、そのまま遺留物として領置できます。マンションのように、管理する人が回収の仕組みを持っている場所なら、ごみはその人たちの手に移っているので、その「所持者」から任意提出を受ける形を取ります。「ごみなら何でも無制約に取れる」わけではない、という歯止めです。

今日の地図(保存版)

移動先での身体捜索と2種類のごみの領置を1枚にまとめた保存版の地図板 図:移動先での身体捜索と2種類のごみの領置を1枚にまとめた保存版の地図板

今日の内容を振り返ります。逮捕した被疑者本人の身体・所持品は、名誉侵害・混乱・交通の妨げといった事情があって、最寄りの適する場所まで移動した場合、「逮捕の現場」と同視できます。対象が被疑者本人である限り、場所を移しても中身は変わらないからです。ごみの領置は、公道上に排出すれば、プライバシーへの期待があっても、占有放棄によって遺留物として領置できます。一方、マンションのように、清掃会社が回収する仕組みがある場合は、回収された時点で、占有が管理組合・管理会社・清掃会社に移っているため、「所持者」からの任意提出という形を取ります。

本人の身体・所持品は、場所を移しても中身が変わらない。ごみは、どこに出したかで、誰の支配の下にあるかが変わる。何が変わって、何が変わらないか、という一点で説明できるんですね。これで、逮捕に伴う令状なしの捜索・差押えと、領置という制度をひととおり見終えました。

参照条文

  • 刑事訴訟法第220条第1項(柱書・第2号)
  • 刑事訴訟法第102条第2項(222条1項で捜査における捜索に準用)
  • 刑事訴訟法第221条

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