検証・身体検査と強制採尿
問い:人の体を調べるには、どの令状が要るか。尿を強制的に採るには、どの令状で、どんな条件のもとでなら許されるか。
骨組み
- 1検証と実況見分:検証=五官の作用で場所・物・人の状態を認識する強制処分(=令状)。公道など第三者の権利を害するおそれのない場所、または相手方の承諾があれば、同じ中身を実況見分(任意処分)として令状なしで
- 2検証の令状:手続は捜索・差押えとほぼ同じ。違いは 検証許可状/検証許可状請求書/被疑者以外が対象でも制限なく必要性で足りる。必要な処分()は専門知識の要らない範囲
- 3身体検査の3つ:衣服・頭髪・口腔などに差し押さえるべき物がないかを探す(ポケット・下着の中など)=捜索差押許可状/身体の状態を見る(外表部と体腔の入口付近まで)=身体検査令状/それより内部・専門知識=鑑定処分許可状
- 4身体検査令状の規律:請求時に理由・性別・健康状態()/裁判官は条件を付けられる()/女子は医師又は成年の女子の立会いが必須()/拒めば過料・刑(・)→ 効果がなければ直接強制()
- 5鑑定受託者:許可状で身体の検査はできる()が、拒まれても直接強制はできない(に届く道が無い)
- 6令状の要らない検証:逮捕の現場(・身体検査も可・の配慮あり)/身体拘束中の被疑者の指紋・写真等は裸にしない限り令状不要()
- 7強制採尿は許されるか(最決昭55・10・23):絶対に許されないとすべき理由はない。重大性・嫌疑・証拠の重要性と取得の必要性・代替手段の不存在等の事情に照らし真にやむをえないとき、最終的手段として。錯乱で任意提出が期待できない事案も是認(最決平3・7・16)
- 8どの令状か(同昭55決定):捜索差押令状+身体検査の条件の規定(現)を準用=医師をして医学的に相当な方法で行わせる条件の記載が不可欠。併用令状で採った事案は「適法性をそこなうものではない」
- 9学説と批判(解説書):身体検査令状+鑑定処分許可状の併用説は学説で今も有力。判例には強制処分法定主義に反するとの強い批判。「尿はやがて排出される物だから」は判例が明言していない
- 10令状の後の「自分で出す」(解説書):出させるべきだが、捜索・差押えとして押収した扱い(任意提出・領置ではない)。時間稼ぎの申出なら機会を与え続けなくてよい(東京高判平24・12・11)
色の札は出どころ:条文 判例 学説(同じ色の 解説書 は、学説の紹介ではなく解説書の著者自身の説明)。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。
主語を分けて覚える。最高裁が強制採尿について示した規範は「強制採尿は一定の事情のもとで最終的手段として許される」「令状は捜索差押令状で、医師による旨の条件の記載が不可欠」の2つ。なぜ捜索・差押えの性質なのかの理由(尿はやがて排出される物)、捜索・差押えだから拒否されても直接強制できること、併用説が今も有力なこと、判例への強制処分法定主義からの批判、令状の後の任意提出の扱い(項目8〜10)は解説書の説明で、判例の言葉ではない。
1検証と実況見分条文解説書
- 検証=五官の作用で、場所・物・人の形状・性質を認識する強制処分。強制処分なので令状が要る()。差押えと違い、物の占有は取らない。
- 公道上など第三者の権利を害するおそれのない場所や、相手方の承諾がある場合は、検証と同じ中身の処分を任意処分=実況見分として、令状なしで行える。2つはどちらか一方があれば足りる(両方そろう必要はない)。
- 実況見分で足りるなら実況見分、足りないとき(たとえば公道などでもなく、承諾も得られないとき)は検証(任意捜査の原則)。交通事故の現場はほとんど実況見分で処理され、令状を取って検証するのは被疑者の関係先や承諾が得られない場合などで、実務ではむしろ少ない。
- 実況見分は犯罪捜査規範104条に定めがあるが、同条が書くのは、事実発見のため必要があるときは実況見分を行わなければならないこと(1項)・関係者の立会いを得て行い調書に記載すること(2項)等で、「公道」「承諾」という要件は同条には書かれていない(要件は解説書の説明)。
深夜の国道の追突事故。運転者が立会いを拒んでも、公道上なので令状なしでスリップ痕を測り図面にできる(実況見分)。事件のあった民家の室内は、家主が承諾すれば実況見分、断られたら検証許可状。
出題住居主の承諾があっても、住居の内部を五官で認識する処分は令状なしには許されず、検証許可状が要る(×)
- 「住居主の承諾があっても、住居の内部を見分するには検証許可状が要る」(予備R1-15-オ)=承諾があれば実況見分
- 「公道上で、しかも相手方の承諾がある場合に限り、実況見分ができる」=どちらか一方で足りる(公道なら承諾が無くてもよい)
- 「実務では、令状による検証がむしろ多い」=むしろ少ない
2検証の令状と、必要な処分条文
- 検証も捜索・差押えと同じに定めがあり、令状請求の手続・記載事項・実施・立会いは基本的に同じ規律()。令状の記載事項には「検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件」が並ぶ()。
- 違いは3つ:①検証許可状が発付される ②検証許可状請求書という書式を使う ③被疑者以外の者を対象にする場合でも制限がなく、必要性があれば足りる。
- ③の対照:被疑者以外の身体・物・住居の捜索は「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り」できる()。が検証に準用する(準用=ある場面について定めた規定を、必要な読み替えをして、似た別の場面にも当てはめること)条文の並びには入っていない=被疑者以外を検証するのに、押収すべき物の存在は要らない。
- 必要な処分:検証については「身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊その他必要な処分」ができる()。比例原則がかかる。
- 検証は捜査機関が自分で行うので、ここでの身体の検査・解剖は、医学などの専門知識を要しない事実の認識に限られる。専門知識が要れば鑑定の嘱託による。
被害者の腕に残る噛み跡を記録するため、被害者を対象に身体検査令状を請求する。被害者は被疑者ではないが、押収すべき物があるかは問われず、捜査の必要があれば足りる。
出題身体検査令状で身体を検査できるのは被疑者に限られ、被疑者以外の者の身体は検査できない(×)
- 「身体検査令状により検査できるのは被疑者に限られる」(司法H20-27-ア)=被疑者以外も対象にでき、必要性で足りる
- 「被疑者以外の者の身体検査は、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況がある場合に限られる」=それは被疑者以外の捜索の限定()
3身体検査の3つ:何を探す・見るかで令状が分かれる条文判例解説書
| 身体の捜索 | 検証としての身体検査 | 鑑定処分としての身体検査 | |
|---|---|---|---|
| 何をする | 衣服のポケット・頭髪・口腔などに差し押さえるべき物がないかを探す | 身体の状態そのものを認識する(物を見つけるためではない) | 専門知識で身体の内部・試料を調べる |
| 範囲の例 | 衣服のポケット・頭髪・口腔・下着の中など | 外表部と体腔の入口付近まで(入れ墨・傷の位置など) | それより内部(血液の採取など) |
| 令状 | 捜索差押許可状 | 身体検査令状(後段) | 鑑定処分許可状 |
| 行う人 | 捜査機関 | 捜査機関 | 医師など専門家 |
- 身体の捜索は、人の身体を捜す場所として、衣服のポケット・頭髪・口腔などに差し押さえるべき物がないかを調べる。下着の中を捜して物を差し押さえるのも捜索で、捜索差押許可状で足りる(身体検査令状を併せて取る必要はない)。
- 身体検査令状=人の身体を対象にする検証(身体の検査)の令状。身体検査は検証の一種だが、生命・身体の安全や名誉にも関わるので「身体の検査は、身体検査令状によらなければならない」(後段)。
- 検証としての身体検査で許されるのは、身体の外表部と体腔の入口付近を認識するところまで。それより内部は、医師など専門家が鑑定処分として行う。
- 尿の強制採取は例外的な扱い:身体の内部への侵襲を伴うので、本来は専門家の鑑定処分の側に見えるが、判例は捜索・差押えの性質を有するとして捜索差押令状によるとした(項目8)。
ズボンのポケットや下着の中に隠した覚醒剤の包みを探す → 捜索差押許可状だけで足りる。口を開けさせて口の中の傷を目で確かめる → 身体検査令状。体の内部を医師など専門家が調べる → 鑑定処分許可状(採血は、身体検査令状と鑑定処分許可状の併用が有力説・実務)。
出題下着の中を捜索して物を差し押さえるには捜索差押許可状で足り、身体検査令状は要らない(○)
出題着用しているズボンのポケットの中を捜索して物を差し押さえるには、捜索差押許可状のほかに身体検査令状が要る(×)
- 「ポケットの中の捜索には、捜索差押許可状のほかに身体検査令状も要る」(予備R5-18-ウ)=身体の捜索は捜索差押許可状で足りる
- 「検証としての身体検査なら、体の内部まで調べられる」=外表部と体腔の入口付近まで
4身体検査令状の特別な規律条文
- 身体の検査は、身体検査令状によらなければならない(後段)。
- 請求のとき:身体の検査を必要とする理由、受ける者の性別・健康状態その他規則の事項を示す()。
- 条件:「裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を付することができる」()。例=医師を立ち会わせる。この規定は、強制採尿の令状の部品として使われる(項目8)。身体検査令状以外の検証許可状にもこの規定を準用できる(条件の付加は強制処分の範囲・程度を減縮させる方向に作用するから)、とする肢が判例に照らして○とされている(司法H25-25-ウ)。
- 実施の配慮(・で準用):性別・健康状態その他の事情を考慮し、方法に注意し、名誉を害しないように(1項)。女子の身体を検査するときは、医師又は成年の女子を立ち会わせなければならない()=法律が直接求める立会いで、令状に条件が付いているかどうかと関係ない。
- はもともと裁判所の検証の規定(捜査機関にはで準用)=裁判所が女子の身体を検査するときも立会いが要る。
- 拒まれたとき:まず間接強制=決定で10万円以下の過料・費用の賠償()、10万円以下の罰金又は拘留()。捜査機関が過料・賠償を求めるときは裁判所に請求する()。
- それでも効果がないと認めるときは「そのまま、身体の検査を行うことができる」=直接強制(。捜査機関にはで準用)。比例原則に従う。
女性の被疑者の背中のあざを確かめる身体検査令状に、立会いの条件が何も書かれていない → それでも医師か成年の女子を立ち会わせなければならない。
出題捜査機関が女子の身体を検査する場合、令状に立会いの条件が付されていない限り、医師又は成年の女子を立ち会わせる必要はない(×)
出題身体検査令状で女子の身体を検査する場合、医師又は成年の女子を立ち会わせなければならない(○)
出題裁判所が女子の身体を検査する場合も、医師又は成年の女子を立ち会わせる必要がある(○)
出題身体検査の条件を付ける規定は、強制処分の範囲・程度を減縮させる方向に働くので、身体検査令状以外の検証許可状にも準用できる(○)
- 「女子の身体検査の立会いは、令状に条件が付されたときだけ要る」(予備H29-17-ウ)=が直接求める
- 「条件を付けるのは裁判所」=条文は「裁判官は」
- 「身体検査を拒まれたら、過料・刑の効果を問わずに直接強制できる」=過料・刑を科しても効果がないと認めるとき()
5鑑定受託者は直接強制できない条文
- 鑑定人=裁判所が命じる()。鑑定受託者=捜査機関が鑑定を嘱託した者()。
- 鑑定受託者も、裁判官の許可を受けて、の処分(住居への立入り・身体の検査・死体の解剖・墳墓の発掘・物の破壊)ができる()=鑑定処分許可状で身体の検査はできる。
- 拒まれたとき:鑑定人の身体の検査に準用されるのは・・・で、は入っていない()。
- 鑑定人には別の道がある:拒まれたら裁判官に身体の検査を請求でき、裁判官は第十章(検証)の規定に準じて検査する()=ここでに届く。
- 鑑定受託者の許可状に準用されるのは〜4項と6項だけ()。は準用されない → に届かない → 直接強制はできない。
- だから鑑定処分許可状だけでは、抵抗されると強制採尿を実施できない(項目8の併用令状が使われた理由)。
| 鑑定人 | 鑑定受託者 | |
|---|---|---|
| 誰が選ぶ | 裁判所 | 捜査機関(嘱託) |
| 身体の検査 | 裁判所の許可() | 裁判官の許可() |
| 拒まれたら | 裁判官に検査を請求()→ に届く | の準用なし → 直接強制できない |
警察から嘱託された医師は、鑑定処分許可状があれば被疑者の採血ができる。しかし被疑者が腕を引っ込めて拒んだら、その許可状で押さえつけて採ることはできない。
出題鑑定の嘱託を受けた者は、鑑定処分許可状に基づき、身体検査を拒否する者に直接強制として身体検査を行うことができる(×)
- 「鑑定受託者は、鑑定処分許可状に基づき、直接強制として身体検査ができる」(予備H29-17-ア・R5-18-エ)
- 「鑑定受託者は、身体の検査そのものができない」=裁判官の許可を受けてできる()。できないのは直接強制
6令状の要らない検証条文
- 逮捕の現場では、差押え・捜索だけでなく検証も令状なしでできる(・)。典型は写真撮影。
- 逮捕の現場の検証として身体検査もできる。ただしはの検証にもを準用している=性別・健康状態・名誉への配慮が要る。
- 別の場面:身体の拘束を受けている被疑者の指紋・足型の採取、身長・体重の測定、写真の撮影は、被疑者を裸にしない限り、令状によることを要しない()。逮捕の現場に限らない。古い問題では3項。
勾留中の被疑者の顔写真・指紋 → 令状なしで取れる。シャツを脱がせて胸の手術痕を撮る → 裸にする検査なので身体検査令状が要る。
出題身体の拘束を受けている被疑者の顔写真を撮影するには、身体検査令状による必要はない(○)
出題身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影・指紋採取には身体検査令状が要る(×)
出題身体の拘束を受けている被疑者の指紋採取には、裸にしなくても令状が要る(×)
出題身体の拘束を受けている被疑者なら、身体検査令状なしに全裸にして写真撮影できる(×)
- 「身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影・指紋採取には、必ず身体検査令状が要る」(予備R5-18-イ・H28-16-オ・司法H20-27-イ)
- 「身体の拘束を受けている以上、全裸にして撮影することも令状なしでできる」(司法H24-23-イ)=裸にしない限り
7強制採尿は許されるか(最決昭55・10・23)判例
- 学説には、強制採尿は高度の精神的苦痛を与え人格の尊厳を害するので、およそ許されないとする見解も有力。最高裁はこれを採らなかった。
- 右採尿につき通常用いられるカテーテルを尿道に挿入して尿を採取する方法は、被採取者に対しある程度の肉体的不快感ないし抵抗感を与えるとはいえ、医師等これに習熟した技能者によつて適切に行われる限り、身体上ないし健康上格別の障害をもたらす危険性は比較的乏しく、
…右強制採尿が被疑者に与える屈辱感等の精神的打撃は、検証の方法としての身体検査においても同程度の場合がありうるのであるから、被疑者に対する右のような方法による強制採尿が捜査手続上の強制処分として絶対に許されないとすべき理由はなく、 - 被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。
- 比べている相手は、法律が強制処分として認めている検証の方法としての身体検査(後段)。それでも同程度の屈辱感等の精神的打撃がありうる以上、精神的打撃を理由に強制採尿を絶対に許されないとはいえない、という比較。
- 挙がっている4事情は「等の事情」=「等」つきの例示で、4つに限った列挙ではない。
- 事案:覚せい剤の譲渡しで逮捕した被疑者の両腕に静脈注射痕様のものがあり、言語・態度から自己使用の嫌疑。尿の任意提出を再三求めたが拒絶 → 翌日、身体検査令状と鑑定処分許可状 → 鑑定受託者である医師が自然排尿の機会を与えたのち、警察官数人に押さえつけられた被疑者からカテーテルで約100cc採取。
- 決定が要件を満たすとして挙げた事情:自己使用罪は10年以下の懲役の相当重大な犯罪/嫌疑あり/犯行を徹底的に否認していたので尿を取得する必要性/逮捕後33時間たっても任意提出を拒み、他に代わる適当な手段なし/医師が適切な医学上の配慮の下に合理的かつ安全な方法で実施/押さえつけは採尿を安全に実施するのに必要最小限度。
- 解説書の整理(判示ではない):覚醒剤事犯は一般に重大性を満たし、尿以外に適切な客観証拠が無いので必要性・代替手段の不存在も一般に認められる。最終的手段といえるには、説得を尽くしたことも必要。実力の行使は比例原則による。
- 錯乱状態の事案(最決平3・7・16):
- 被告人は、錯乱状態に陥っていて任意の尿の提出が期待できない状況にあったものと認められるのであって、本件被疑事実の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らせば、本件強制採尿は、犯罪の捜査上真にやむを得ない場合に実施されたものということができるから、右手続に違法はないとした原判断は正当である
- 平3決定は、昭55と同じ事情に当てはめて「真にやむを得ない」とした。「錯乱状態で任意提出が期待できないときは、任意提出の機会を与えずに令状で強制採尿できる」という形で出題され、○とされている(予備R6-26-エ)。
- 錯乱していても令状は要る(令状なしで採尿してよいとは言っていない)。
- どの令状で行うかは項目8。
出題重大性・嫌疑・証拠の重要性と取得の必要性・代替手段の不存在等の事情に照らし真にやむを得ない場合には、最終的手段として適切な法律上の手続を経て強制採尿できる(○)
出題強制採尿は強制処分として認められる以上、最終的手段でなくとも裁判官は令状を発付できる(×)
出題被疑者が錯乱状態で任意提出が期待できないときは、任意提出の機会を提供せずに、令状によって強制採尿できる(○)
出題錯乱状態で任意に尿を提出することが期待できない状態なら、医師に強制採尿させるのに令状は要らない(×)
- 「最終的手段でなくとも、令状を発付できる」(予備R6-26-ウ)
- 「錯乱状態なら、令状なしで強制採尿できる」(予備R8-18-エ)=錯乱でも令状は要る(平3決定は令状なしの採尿を認めていない)
- 「強制採尿は人格の尊厳を害するので、およそ許されないとした」=判例は採らなかった(学説の一つ)
- 「判例は、考慮する事情を4つに限った」=「…適当な代替手段の不存在等の事情に照らし」で、4事情は例示
8どの令状で行うか:条件付捜索差押許可状(同昭55決定)判例解説書
- 体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有するものとみるべきであるから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とすると解すべきである。
- ただし、右行為は人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する刑訴法二一八条五項が右捜索差押令状に準用されるべきであつて、令状の記載要件として強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であると解さなければならない。
- 「二一八条五項」=今の(裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を付することができる)。
- 令状の種類は捜索差押令状のまま、条件の規定だけを準用する=「強制採尿令状」とも呼ばれる。捜索・差押えなので、拒否されても直接強制できる(解説書)。
- 判例が述べた理由は、条件を準用する理由(人権の侵害のおそれで身体検査と共通)まで。なぜ捜索・差押えの性質なのかは、決定に書かれていない(項目9)。
- この事案の令状(身体検査令状+鑑定処分許可状)について:
- 令状の種類及び形式の点では、本来は前記の適切な条件を付した捜索差押令状が用いられるべきであるが、本件のように従来の実務の大勢に従い、身体検査令状と鑑定処分許可状の両者を取得している場合には、医師により適当な方法で採尿が実施されている以上、法の実質的な要請は十分充たされており、この点の不一致は技術的な形式的不備であつて、本件採尿検査の適法性をそこなうものではない。
- 審級:原審は本件採尿検査を違法視した(ただし鑑定書の証拠能力は肯定)。最高裁は、その原判断は法令に違反するが判決に影響しないとして上告を棄却した。
| 鑑定処分許可状だけ | 身体検査令状+鑑定処分許可状(併用) | 条件付捜索差押令状(判例) | |
|---|---|---|---|
| 何の処分とみるか | 身体の内部への侵襲を伴うので、専門家の鑑定処分 | 鑑定処分(直接強制のために身体検査令状を足す=2枚組み) | 捜索・差押えの性質。人権侵害のおそれの点で身体検査と共通なので、条件の規定だけ準用(1枚) |
| 医師に行わせる縛り | あり(専門家の鑑定処分) | あり | 条件の記載が不可欠 |
| 拒まれたら | 直接強制できない(項目5) | 身体検査令状にが及ぶ | 捜索・差押えとして直接強制できる |
| 位置づけ | だから併用された | 判例以前の実務の大勢・学説では今も有力 | 実務は判例どおりに定着。強制処分法定主義に反するとの強い批判 |
表の第1・2列と、第3列の「拒まれたら」「位置づけ」の欄は解説書の説明(判例の判示は第3列の「何の処分とみるか」「医師に行わせる縛り」まで)。
出題強制採尿のための令状には、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠(○)
出題裁判官は、強制採尿の令状の発付に当たり、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせる旨の条件を付さなければならない(○)
出題強制採尿の捜索差押許可状に医師による旨の条件を記載することは望ましいが、不可欠ではない(×)
出題尿の強制採取には捜索差押令状が要るが、人権侵害のおそれの点で検証としての身体検査と共通するので、身体検査の条件の規定が準用される(○)
出題被疑者が任意に尿を提出しなくても、捜索差押許可状の発付を受けて医師に強制採尿させることができる(○)
出題膀胱の尿は物ではなく身体の一部だから、捜索差押許可状で強制採尿はできない(×)
出題強制採尿は身体への侵襲を伴うから、鑑定処分許可状が必要(×)
出題人の身体から直接強制として尿を採取するには、身体検査令状による必要がある(×)
- 「条件の記載は望ましいが、不可欠ではない」(予備R4-16-ア)
- 令状の種類のすり替え:「身体検査令状による必要がある」(予備H29-17-オ)/「鑑定処分許可状が必要」(予備R6-26-イ)/「尿は身体の一部だから捜索差押許可状ではできない」(予備R6-26-ア)
- 「昭55の事案の併用令状による採尿は違法とされた」=形式的不備にとどまり、適法性をそこなわない(違法視したのは原審)
- 「判例は鑑定処分許可状に条件を付けて行うとした」=捜索差押令状
9学説の状況と判例への批判条文学説解説書
- 判例以前の実務の大勢は、身体検査令状と鑑定処分許可状の併用(専門家の鑑定処分として行うべきだが、鑑定受託者は直接強制できないので身体検査令状を併せて取った)。学説では、今も併用説が有力。
- 強制処分法定主義=強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、することができない(ただし書)。
- 判例(条件付捜索差押令状)には、立法によらず判例が強制採尿のための令状を作り出したもので、強制処分法定主義に反するとの強い批判がある。ただ実務は判例どおりに定着している。
- 「尿は血液などと違い、やがて体外に排出される無価値な物だから捜索・差押えの性質」という説明は、最高裁は明言していない=解説書の推測。判例の理由として覚えない。
- 併用説には「令状を2枚組み合わせるのは便宜的」との批判を講義解説が挙げる(解説書には無い)。
- 「判例は、尿がやがて体外に排出される無価値な物であることを理由に、捜索・差押えの性質を認めた」=決定に無い
- 「強制処分法定主義に反するとの批判は、併用説に向けられている」=批判されているのは判例の立場
- 「判例が出て、併用説は学説上も支持を失った」=学説では今も有力
10令状が出た後で「自分で出す」と言ったら条文解説書
- 強制採尿は最終的手段なので、令状を知った被疑者が翻意して自分から提出すると申し出たら、強制採尿をせずに提出させるべき。
- 任意提出・領置=所有者・所持者・保管者が任意に提出した物を、捜査機関が受け取って保管すること()。
- ただしこの場合も、任意提出・領置ではなく、捜索・差押えとして押収したものと扱う必要がある(解説書の説明・判例の引用は無い)。
- 時間稼ぎのために申し出ているような場合まで、強制採尿を控えて提出の機会を与え続ける必要はない(東京高判平24・12・11 判タ1400号367頁。解説書の紹介による)。
令状を見せられた被疑者が「自分でトイレで出す」と言い出した → 出させるべきだが、その尿は令状による捜索・差押えで押収した物の扱い。「出す」と言いながら何時間も出さない → 機会を与え続けなくてよい。
- 「令状の発付後に被疑者が自ら提出した尿は、任意提出物として領置する」=捜索・差押えとして押収した扱い