刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#47

検証・身体検査と強制採尿

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第2章 捜査 ㉕/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

尿は「物」か、「体の一部」か

覚醒剤の使用が疑われる被疑者が採尿を拒み警察官が令状によって医師にカテーテルで尿を採取させる場面を示す導入板

最後の手段として、令状を取って、医師にカテーテルという細い管を尿道に入れて尿を取らせる、ということが実際にあります。尿は、体の中にある「物」でもあり、取り出すには「体」に触れる必要もあります。だから、既存の令状のどれにも、すっきり収まりません。最高裁の答えを、先に言っておきます。令状は、物を取る捜索差押許可状。そこに、体を調べる令状から「条件を付ける」仕組みだけを借りてきて、医師に行わせる、という形です。今日は、その答えにたどり着くまでの道筋を一緒にたどります。

検証と実況見分——同じ現場確認でも、片方は令状が要る

令状を要する検証と犯罪捜査規範104条により令状なしで行える実況見分を並べた対比板

検証とは、五感の作用で、場所・物・人の状態を認識する強制処分です。事故現場のブレーキ痕を測ったり、犯行現場の部屋の状況を記録したりする処分、と思ってください。強制処分なので、令状が要ります。交通事故の現場検証って、いつも令状を取ってからやっているんですか。そこがポイントです。公道上のように、第三者の権利を害するおそれがなく、しかも相手方の承諾がある場合には、検証と同じ中身の処分を、令状なしで行えます。これを実況見分と呼びます。根拠は犯罪捜査規範の104条です。任意捜査の原則から、実況見分で足りるときは実況見分を、相手の承諾が得られないときは検証を行う、という使い分けになります。実務では、交通事故の現場確認はほとんど実況見分で処理されます。令状を取って検証をするのは、被疑者の自宅など承諾が得にくい場面がむしろ多いのです。

どちらも調書として作られますが、人から聞いた話をそのまま記録した書面と同じ性質を持つ、伝聞書面です。作成した人が法廷で、自分が間違いなく作った書面だと証言すれば、証拠として使えます。321条3項という条文の話ですが、証拠法の詳しい中身はまた別の回で扱います。

検証令状の請求と実施——捜索・差押えとほぼ同じ規律

218条1項を再掲し検証許可状の請求手続が捜索差押えとほぼ同じ規律であることを示す板

検証の令状に入る前に、1つ思い出してください。前の回の記載事項は何でしたか?罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所、それに有効期間でした。その同じ219条1項に、「検証すべき場所」「検査すべき身体」、そして「身体の検査に関する条件」も並んでいます。令状請求の一般論は、検証令状にもそのまま当てはまります。

条文刑事訴訟法第218条第1項

刑事訴訟法第二百十八条第一項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索、電磁的記録提供命令又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

検証も、捜索・差押えと同じ218条1項に規定されていて、令状請求の手続、記載事項、実施、立会いも、基本的には同じ規律です。違いは3つです。1つ目、検証だけの専用の令状、検証許可状が発付されます。2つ目、検証許可状請求書という専用の書式を使います。3つ目、被疑者以外の人を対象にする場合、捜索・差押えほど厳格な要件は求められません。押収すべき物がありそうだ、という必要性があれば、足ります。検証の一種なのに、わざわざ別の名前の令状を要求している。なぜ身体検査だけ特別扱いなのか、この後でじっくり見ていきます。その前に、検証のもう1つの道具、「必要な処分」を確認します。

言葉は同じですが、条文が違います。あちらは111条、捜索・差押えの執行に伴う処分でした。こちらは129条、検証に伴う処分です。129条は、できることを条文が自分で挙げているのが特徴です。

条文刑事訴訟法第129条

刑事訴訟法第百二十九条 検証については、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊その他必要な処分をすることができる。

検証を実施する際には、この129条に挙がっている処分、身体の検査や、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊などもできます。できますが、限度があります。検証は捜査機関が自分で行う処分なので、ここでの身体の検査や解剖は、医学的な専門知識を使わなくても分かる範囲、目で見て認識できる範囲に限られます。専門知識が要る場合は、別の制度、鑑定に依頼します。この「専門知識が要るかどうか」という線引きが、この後何度も出てきます。

身体検査の3つの顔——同じ言葉が3つの令状に分かれる

捜索としての身体検査・検証としての身体検査・鑑定処分としての身体検査という3類型と対応する令状及び侵害の程度の大小を示す一覧板

ここからが今日の骨格です。「身体検査」という同じ言葉が、実は3つの違う制度で使われます。空港の保安検査を思い浮かべてください。まず、かばんの中身を探す手荷物検査。次に、金属探知機で体の外形をチェックする検査。最後に、疑わしい人だけ別室で精密検査を受けさせる検査。目的も中身も段階も違います。刑事手続の身体検査も、これと同じように3段階あります。1つ目に入る前に、前に一度「別の論点になります」と送っておいた話につなげます。居合わせた人の身体そのものは、場所に対する令状の理屈では捜索できない、と見ましたね。身体を探るなら、身体そのものを対象にして令状を取る——それが、この1つ目です。1つ目は、捜索としての身体検査です。服の中やポケットに、隠し持っている物を探す処分で、根拠は捜索許可状です。2つ目は、検証としての身体検査です。体そのものの状態を、目で見て認識する処分で、根拠は身体検査令状です。腕にある傷の位置を確認したり、入れ墨の有無を確認したりするのがこれです。3つ目は、鑑定処分としての身体検査です。専門的な知識を使って、体の機能や、体内の試料を調べる処分で、根拠は鑑定処分許可状です。血液を採取したり、体内から異物を取り出したりするのがこれです。

1つ目が探しているのは、服の中に隠した「別の物」です。体そのものは見ません。2つ目は、体そのものの状態を見ます。隠し持った物ではなく、体についている情報を見るのです。そして3つの中で、人権への侵害の程度は、捜索より検証、検証より鑑定処分の方が大きい、というのが通説の物差しです。この3つのどれにも、実はきれいに収まらない行為があります。それが今日の最後の主役、強制採尿です。覚えておいてください。

身体検査令状の特別な規律——医師の立会いと、条件を付ける権限

218条8項の請求事項と218条9項の条件付与を並べ間接強制137条138条と直接強制139条の段階を示す板

身体検査令状には、通常の検証許可状にはない、特別な規律があります。検証の一種なのに、なぜ特別扱いなのか。調べる相手が、物や場所ではなく、生身の人の体だからです。やり方を誤れば、健康を害したり、名誉や羞恥心を傷つけたりします。

条文刑事訴訟法第218条第8項

刑事訴訟法第二百十八条第八項 検察官、検察事務官又は司法警察員は、身体検査令状の請求をするには、身体の検査を必要とする理由及び身体の検査を受ける者の性別、健康状態その他裁判所の規則で定める事項を示さなければならない。

身体検査令状を請求するときは、通常の記載事項に加えて、なぜ身体の検査が必要なのかという理由と、検査を受ける人の性別・健康状態を、示さなければなりません。そして、もう1つ大事な条文があります。

条文刑事訴訟法第218条第9項

刑事訴訟法第二百十八条第九項 裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を付することができる。

裁判官は、身体の検査について、「適当と認める条件」を令状に付けることができます。例えば、医師を立ち会わせる、とか、特定の方法で実施する、といった条件です。この「条件を付けられる」という仕組みを、しっかり頭に入れておいてください。この後、強制採尿の令状を組み立てる部品として使われます。実施のやり方にも配慮が求められます。性別・健康状態その他の事情を考慮して、方法に注意し、名誉を害さないようしなければなりません。特に、女子の身体を検査するときは、医師か、成人の女性に立ち会ってもらわなければなりません。

まずは間接強制です。拒んだ人を10万円以下の過料と費用賠償に処すか、10万円以下の罰金か拘留に処します。それでも効果がなければ、最後に直接強制です。

条文刑事訴訟法第139条

刑事訴訟法第百三十九条 裁判所は、身体の検査を拒む者を過料に処し、又はこれに刑を科しても、その効果がないと認めるときは、そのまま、身体の検査を行うことができる。

過料や刑を科しても効果がないときは、そのまま身体の検査を実施できます。ただし、力ずくで何をしてもいいわけではなく、目的を達するために必要な限度、という比例原則がかかります。

鑑定処分としての身体検査——専門家に頼んでも、直接強制が届かない

鑑定人への准用は139条に届くが鑑定受託者への准用は139条に届かないという2本の矢印が途中で切れる断絶図

3つ目の、鑑定処分としての身体検査に進みます。血液採取のように、専門知識が要る身体検査は、鑑定処分許可状で行います。2種類の立場があります。1つは、裁判所が選任する鑑定人。もう1つは、捜査機関が依頼する鑑定受託者です。実務で強制採尿の現場にいるのは、ほとんどの場合、捜査機関が依頼した医師、つまり鑑定受託者です。その鑑定受託者は、拒否されたら直接強制できるんですか。ここが重要な落とし穴です。鑑定には、168条1項という条文があります。

条文刑事訴訟法第168条第1項

刑事訴訟法第百六十八条第一項 鑑定人は、鑑定について必要がある場合には、裁判所の許可を受けて、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り、身体を検査し、死体を解剖し、墳墓を発掘し、又は物を破壊することができる。

鑑定に必要な処分——住居への立入り、身体の検査、死体の解剖など——をできる、という規定です。問題は、これを拒まれたときに押し切れるかです。鑑定人については、168条6項という条文が、131条・137条・138条・140条を準用しています。この準用リストに、直接強制を定めた139条は入っていません。ただ、鑑定人には別の道があります。拒まれたら、172条で裁判官に身体の検査を頼めます。裁判官は検証の規定に従って行うので、そこで139条の直接強制に届きます。225条4項は、168条の2項から4項と6項だけを準用していて、168条1項自体も、139条につながる172条も、準用リストには入っていません。どちらのルートをたどっても、139条には届かない。だから、鑑定受託者には、直接強制の権限がない、というのが結論です。

鑑定人は、裁判所が選んだ人です。裁判所の手続の中にいるので、さきほどの172条という道があります。鑑定受託者は、捜査機関が捜査の段階で依頼した人です。裁判所の手続の外にいるので、頼む先の裁判官がそもそもいません。体に力を加える直接強制は、裁判所が関与する形でしか用意されていない、ということです。この「鑑定処分だけでは直接強制ができない」という結論を、しっかり覚えておいてください。この後、強制採尿の令状をめぐる学説対立の、一番の前提知識になります。

令状によらない検証——逮捕の現場での例外

逮捕の現場で無令状検証ができる220条1項2号と裸にしない限り無令状で指紋等が採れる218条4項を一言で示す板

ここで一度、検証にも無令状の例外があることを確認します。220条1項2号は、逮捕の現場で、差押え・捜索だけでなく、検証も令状なしでできると定めています。典型例は写真撮影です。この論点の詳しい中身は、以前の回ですでに見ました。もう1つ、別の無令状の場面があります。身体を拘束されている被疑者について、指紋・足型を採ったり、身長・体重を測ったり、写真を撮影したりするのは、被疑者を裸にしない限り、令状が要りません。これも逮捕現場での無令状検証と同じ場面で、222条1項が準用する配慮規定、性別・健康状態への注意も及びます。

その答えは、もう少し待ってください。まず、実際の事件を見てから、答えに向かいます。

強制採尿は許されるのか——愛知江南事件

覚醒剤譲渡しで逮捕された被疑者が任意の尿提出を拒み警察官が医師にカテーテルで採尿させた愛知江南事件の事案を示す関係図

覚醒剤の譲渡しで逮捕された被疑者がいます。両腕に注射痕があり、言動からも、覚醒剤を自分でも使っている疑いが生じました。任意に尿を出すよう求めましたが、被疑者は拒み続けました。警察官は、身体検査令状と鑑定処分許可状の発付を受けて、医師に依頼しました。自然に排尿するのを待ちましたが、被疑者は応じません。最終的に、被疑者を押さえつけて、医師がカテーテルで、約100ccの尿を採取しました。これって、そもそも許される行為なんですか。そこが争われました。学説の中には、強制採尿は被疑者に高度な精神的苦痛を与え、人格の尊厳を侵害するから、絶対に許されない、とする考え方もあります。最高裁は、この考え方を取りませんでした。医師などが適切に行えば、身体・健康上の危険は乏しく、検証としての身体検査でも似たような精神的な打撃はありうる、として、強制採尿を一律に禁じる理由はない、としました。

判例愛知江南強制採尿事件〈最高裁判所第一小法廷決定〉

強制採尿は、一定の事情のもとで最終的手段として許されうる 「被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。」

挙がっている事情は4つです。被疑事件の重大性、嫌疑の存在、証拠の重要性と、それを取得する必要性、そして、適当な代替手段がないこと。この4つに照らして、捜査上本当にやむを得ないと言えるときに、最後の手段として許される、という建て付けです。注射痕という、客観的で分かりやすい徴候があったこと、そして、任意提出を求めても応じなかった、つまり代替手段が尽きていたことです。別の事件では、被疑者が錯乱状態で、任意提出が望めない状況でも、「犯罪の捜査上真にやむを得ない」と認めた判例があります。最終手段性の要件が、状況によって緩む例です。なお、押さえつけるなどの実力行使は、目的を達するために必要な範囲、比例原則の枠内でなければなりません。

どの令状で行うのか——「条件付捜索差押許可状」という発明

令状選びで対立した鑑定処分許可状説と併用説それぞれの発想と弱点を並べた対比板 図:令状選びで対立した鑑定処分許可状説と併用説それぞれの発想と弱点を並べた対比板

許されるとして、どの令状で行うのか。学説が割れました。物差しは2つです。1つは、医師が医学的に相当な方法で行う、という体への縛りを、令状に書き込めること。もう1つは、抵抗されても実施できる、直接強制。この2つを同時に満たせる令状はどれか、で答えが分かれます。1つ目の学説は、まさにそう考えます。体内に器具を入れる、医学的な行為だから、鑑定処分許可状で行うべきだ、という説です。でも、さっき見た弱点がそのまま当てはまります。鑑定処分許可状だけでは、鑑定受託者に直接強制の権限がありません。被疑者が抵抗すれば、実施できず、実効性を欠きます。

検証としての身体検査は、目で見て分かる範囲までだと見ました。尿道に管を入れて尿を取り出すのは、その範囲を超えます。さっき見た身体検査令状も一緒に取ればいいのではないですか。それが2つ目の学説、併用説です。鑑定処分許可状の弱点を補うために、身体検査令状も併せて発付を受けます。身体検査令状には139条の直接強制が及ぶので、理屈上は実施できます。実は、さっきの愛知江南事件でも、警察官はこの併用の形で令状を取っていました。ところが、この併用説には、強い批判があります。目的を果たすために、令状を2枚組み合わせる、というやり方自体が、便宜的すぎるのです。どの処分にどの令状が要るかは、法律で決まっているべきだ、という強制処分法定主義の発想から見ると、据わりが悪い。最高裁は、この2つの学説とも違う、3つ目の答えを出しました。

体内の尿は物として体外に出ていく性質を持ち採取行為は捜索・差押えの性質を有するという判例の理由づけを示す板

判例愛知江南強制採尿事件〈最高裁判所第一小法廷決定〉

体内から尿を採取する行為は、捜索・差押えの性質を持つ処分であり、身体検査令状の条件付与規定が準用される 「体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有するものとみるべきであるから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とすると解すべきである。ただし、右行為は人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する刑訴法二一八条五項〔現行9項〕が右捜索差押令状に準用されるべきであつて、令状の記載要件として強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であると解さなければならない。」

尿はやがて体外に出ていく、もう体に必要のない「物」です。その物を体内から取り出す行為は、血液のように体の一部を傷つけて取る行為とは違い、「物を取り出す」という性質が前面に出る、という理解です。だから、令状は普通の捜索差押許可状で足りるとしました。捜索差押許可状なら、直接強制が当然に及びます。

宅配便の特記事項欄にたとえ捜索差押許可状のまま218条9項の条件だけを部品として借りて医師実施の条件を書き込む仕組みを示す板

そこで判例は、もう一段付け加えます。荷造りの伝票を思い浮かべてください。普通の宅配便の伝票にも、「壊れ物注意」といった特記事項の欄があります。中身が食器でも、伝票の様式自体を「食器専用伝票」に変える必要はなく、普通の伝票に特記事項を書き込めば足ります。強制採尿の令状も、これと同じ発想です。令状の種類は捜索差押許可状のままにして、身体検査令状の条件付与規定、現在の218条9項だけを、部品として借りて準用します。そして、「医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせる」という条件を、令状の記載事項として必ず書き込ませます。

令状の性質は捜索・差押えのままなので、被疑者が拒否しても、直接強制ができます。それでいて、令状には必ず「医師が医学的に相当な方法で行う」という条件が書き込まれるので、身体への配慮も確保されます。鑑定処分許可状説の弱点、直接強制ができない、という問題も、併用説の弱点、便宜的すぎる、という問題も、この「条件付捜索差押許可状」という形でまとめて解消されています。最高裁は、医師が医学的に相当な方法でおこなっていたことなどから、違法とまではいえない、としました。

論文で書く規範:「体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有するものとみるべきであるから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とすると解すべきである。ただし、右行為は人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する刑訴法二一八条五項〔現行9項〕が右捜索差押令状に準用されるべきであつて、令状の記載要件として強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であると解さなければならない。」 (論文で書く規範(最決昭55・10・23))

判例の後の改正で、項番号が繰り下がりました。今覚えるのは、さっき見た218条9項、「適当と認める条件を付することができる」という規定です。この「条件付捜索差押許可状」は、「強制採尿令状」とも呼ばれます。

令状が出た後で、本人が「自分から出す」と言ったら

令状発付後に被疑者が翻意して尿を任意に提出したい旨を申し出た場合捜索差押えとして押収する扱いになるという板

強制採尿は、あくまで「最終的手段」です。令状が出たことを知った被疑者が、翻意して自分から尿を提出すると申し出たなら、強制採尿を実施せずに、提出させるべきです。それって、普通の任意提出、つまり領置になるんですか。そこが少し意外な点です。この場合も、任意提出・領置の手続とはみなされず、捜索・差押えの一環として押収された、という扱いになります。ここで問題になっている、任意に提出した物の領置は、相手が自分の意思で出した、という任意の意思だけを根拠に、占有を続ける手続です。ここでは令状がもう出ています。出さなければ強制採尿が実施される、という状況で出てきた尿を、任意の提出とは呼べません。押収を支えているのは、あくまで令状です。だから、扱いは捜索・差押えのままになります。ただし、何でも提出の申し出を待ち続ける必要はありません。単なる時間稼ぎのための申し出であれば、捜査機関はそれ以上提出の機会を与えなくてよい、とした裁判例もあります。

今日の地図(保存版)

検証・身体検査の3類型・強制採尿という条件付捜索差押許可状の発明を1枚にまとめた保存版の地図板

今日の内容を振り返ります。検証は五感で調べる強制処分で、承諾が得られる場面では実況見分として無令状で行えます。身体検査には3つの顔があり、隠し物を探す捜索としての身体検査、体の状態を見る検証としての身体検査、専門知識を使う鑑定処分としての身体検査、それぞれ対応する令状が違いました。鑑定処分許可状は、鑑定受託者に直接強制が及ばない、という弱点がありました。強制採尿は、4つの要件のもとで最終手段として許されうるとされ、令状は、捜索差押許可状に、身体検査令状の条件付与規定を準用して、医師による実施という条件を付けた、条件付捜索差押許可状で行います。

尿は、体内にある「物」として捜索・差押えの令状で取りつつ、体への配慮は、身体検査令状の「条件」だけ借りてくる。2つの令状のいいところだけを組み合わせた、ということですね。

参照条文

  • 刑事訴訟法第218条第1項
  • 刑事訴訟法第129条
  • 刑事訴訟法第218条第8項
  • 刑事訴訟法第218条第9項
  • 刑事訴訟法第139条
  • 刑事訴訟法第168条第1項

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