刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#48

採尿のための連行・強制採血・体内の証拠物

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問い:強制採尿令状だけで、抵抗する被疑者を病院まで連れて行けるか。血液や飲み込んだ物は、どの令状で体から取るか。

骨組み

  1. 1留め置き(最決平6・9・16):エンジンキーを取り上げた後、約6時間半以上の留め置き=「任意捜査として許容される範囲を逸脱」して違法。違法の理由=説得行為の限度を超え、移動の自由を長時間奪った。決定は後で「早期に令状を請求することなく長時間」と言い直し、解説書はこの点を重く見る。逮捕と同視するとは言っていない(任意処分として比例原則で判断したと理解されている=解説書)
  2. 2違法だが重大でない(同):有形力はさほど強くない/運転を阻止する必要性が高い/本人がかたくなに拒否/当初から違法な留め置きの意図なし → 「令状主義の精神を没却するような重大なもの」ではない。令状は違法になる前の疎明資料で発付=適法、採尿手続にも違法なし → 尿の鑑定書の証拠能力を肯定
  3. 3二分論(裁判例):令状請求の準備に入った後は、請求していると伝えることを条件に所在確保のため必要最小限度なら強めにとどまるよう求めてよい(東京高判平21・7・1、東京高判平22・11・8)。否定した裁判例もあり定着していない。決定は約6時間半以上の全体を違法とした。言い直しの「早期に令状を請求することなく」と解説書の当てはめ(準備まで約4時間30分)からすると、重いのは準備に入る前の部分と読める
  4. 4連行(最決平6・9・16):強制採尿令状=尿を医師に強制採取させるための捜索差押許可状(医師に医学的に相当な方法で行わせる条件付き)。任意に同行することが事実上不可能なら、強制採尿令状の効力として採尿に適する最寄りの場所まで連行でき、必要最小限度の有形力も使える。理由=令状の目的を達せない/裁判官は連行の当否を含めて審査している。勾引状は要らない
  5. 5必要な処分説(学説):根拠規定の無い連行を令状の効力とするのは無理との批判から、・の「必要な処分」として連行を認める。差は事前審査の範囲に出るとする見解と、差は無いとする見解がある
  6. 6強制採血:わずかでも承諾なしなら令状が要る。身体検査令状+鑑定処分許可状の併用(有力説・実務)。血液は人体の一部で「物」とは言いがたい。直接強制は身体検査令状の側(→)
  7. 7採血の令状4説への批判(過去問):Ⅰ身体検査令状=捜査機関が採るのではない/Ⅱ鑑定処分許可状=直接強制の明文が無い/Ⅲ併用=検証としての身体検査の域を超えるなら併用しても意味が無い/Ⅳ捜索差押許可状=尿と血液は違う
  8. 8飲み込んだ物(解説書):原則=自然排出を待って差押許可状。排出が難しい・必要性緊急性が高い → 捜索差押許可状+鑑定処分許可状で医療措置。条件付きの捜索差押許可状で足りるとする見解は相当でないとされる

色の札は出どころ:条文 判例 学説(同じ色の 解説書 は、学説の紹介ではなく解説書の著者自身の整理)。最高裁=判例、高裁・地裁=裁判例。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。

項目1・2・4は1つの決定(エンジンキーの事件の続き)、項目3はその後の裁判例。決定の問いは「尿の鑑定書を証拠に使えるか」で、その下に留め置き(違法・重大でない)、令状の発付(適法)、連行と採尿(適法)が並ぶ。項目6〜8は「取る対象が物か人体の一部か」で本体の令状を選ぶ。鑑定処分許可状を重ねるのは、血液(併用が有力説・実務)と、医療措置で飲み込んだ物を出させるとき(医師などの専門家が行う必要があるため=解説書)。

1約6時間半以上の留め置き=違法(最決平6・9・16)判例

  1. 覚醒剤使用の疑い。積雪で滑りやすい国道で停止させ、職務質問を開始。空ふかしなどをしたのでエンジンキーを取り上げた(この取り上げは適法)
  2. 覚醒剤取締法違反の前科4犯との無線連絡。以後、数名の警察官が職務質問と警察署への任意同行の説得を続けるが、本人は自ら運転することに固執し、他の方法による同行をかたくなに拒否
  3. 車に乗り込もうとしたので両脇から抱えて阻止。以後エンジンキーは返さない。本人は異常な言動を繰り返す
  4. ようやく令状請求のため指揮官が現場を離れ、車両・身体の各捜索差押許可状と強制採尿令状を請求
  5. 令状が発付され、身体の捜索を抵抗を排除して執行=ここまでが約6時間半以上の留め置き
  6. 強制採尿令状を呈示すると激しく抵抗 → 両腕を制圧したまま警察車両で病院へ連行
  7. 病院で医師がカテーテルで採尿 → 尿の鑑定書
  • その後被告人の身体に対する捜索差押許可状の執行が開始されるまでの間、警察官が被告人による運転を阻止し、約六時間半以上も被告人を本件現場に留め置いた措置は、当初は前記のとおり適法性を有しており、被告人の覚せい剤使用の嫌疑が濃厚になっていたことを考慮しても、
    被告人に対する任意同行を求めるための説得行為としてはその限度を超え、被告人の移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法といわざるを得ない。
  • 同じ決定は、重大性を判断した段落の末尾で、違法とした措置を次のように言い直している。
  • 警察官が、早期に令状を請求することなく長時間にわたり被告人を本件現場に留め置いた措置は違法であるといわざるを得ない
  • 違法とした段落の理由は、説得行為の限度を超え、移動の自由を長時間奪ったこと。「早期に令状を請求することなく」は、重大性を判断した段落でその措置を言い直した言葉。この点を重く見るのは解説書の当てはめで、前科4犯と分かった職務質問開始の約20分後(解説書の設問。決定の認定では約15分後の午前11時25分頃)には令状を請求できる資料がそろっていたのに、職務質問の開始から請求の準備に入るまで約4時間30分(解説書の設問)かかった点を挙げて、釣り合わないとみる。
  • 時間の区切り(決定の認定):職務質問の開始から、指揮官が令状請求のため現場を離れるまで約4時間15分。そこから令状の発付を経て身体の捜索が始まるまで約2時間15分。合わせて約6時間半以上。
  • 解説書は、令状の効力で病院まで連行できる(項目4)以上、早く適切に令状を請求せずに説得を続けるのは令状主義の軽視と見られかねない、と2つの論点をつなぐ。
  • 「強制処分に当たる」「逮捕と同視する」とは言っていない=最高裁は実質的な逮捕に至らない任意処分として比例原則で判断したと考えられている(解説書)。実質的な逮捕だとする批判は学説の側。
  • どちらとみるかで何が変わるか(解説書の設問の検討):無令状の逮捕と同視できるとみれば、違法の程度は重大で、その後に集めた証拠も排除されるべきという結論もありうる。任意捜査の枠内とみれば、比例原則(自由の侵害・制約の程度と捜査の必要性が釣り合うか)で判断する。

同じ約6時間半でも、前科が分かった直後に令状を請求し、その発付を待つための時間だったなら、決定の言い直しの要素「早期に令状を請求することなく」は当てはまらなくなる=適法の方へ動く要素(結論までは言い切れない)。

×にされやすい形
  • 「約6時間半の留め置きは、逮捕と同視されて強制処分とされた」(任意捜査として許容される範囲を逸脱して違法、という判断)
  • 「留め置きは最後まで適法とされた」(エンジンキーの取り上げは適法、その後の留め置きは違法)

2違法だが重大でない → 尿の鑑定書は使える判例

  • なぜ留め置きの違法が尿の鑑定書に関係するか:強制採尿は、現場に6時間半以上留め置いて職務質問を続けた上で行われた。そこで決定は、強制採尿手続の適法性を、それに先行する一連の手続の違法の有無・程度も十分考慮して判断するとした(最判昭61・4・25を参照)。
  • 重大でないとした事情(決定が挙げた4つを総合):
  • ① 警察官が使った有形力は、エンジンキーを取り上げて返さない、キーを持った本人が車に乗り込むのを阻止した程度で、さほど強くなく、運転させないための必要最小限度。
  • ② 積雪で滑りやすい路面、覚醒剤中毒をうかがわせる異常な言動、それでも高速道路へ向かおうとしていた → 任意捜査の面だけでなく、交通危険の防止という交通警察の面からも、運転を阻止する必要性が高かった。
  • ③ 本人が自ら運転することに固執し、他の方法による任意同行をかたくなに拒否し続けた → 説得が長時間に及んだのもやむを得なかった面がある。
  • ④ そうした状況から、警察官に当初から違法な留め置きをする意図があったとは認められない。
  • 警察官が、早期に令状を請求することなく長時間にわたり被告人を本件現場に留め置いた措置は違法であるといわざるを得ないが、
    その違法の程度はいまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえない。
  • 次に、令状の発付手続について:
  • 本件の強制採尿令状は、被告人を本件現場に留め置く措置が違法とされるほど長期化する前に収集された疎明資料に基づき発付されたものと認められ、その発付手続に違法があるとはいえない。
  • 疎明資料(令状請求のときに出した資料)は、職務質問の開始から午後1時すぎ頃までの本人の動静を示すものと推認された。
  • 連行と病院での採尿にも違法は無い(項目4)。最後に一連の手続を全体として評価した:
  • 職務質問開始から強制採尿手続に至る一連の手続を全体としてみた場合に、その手続全体を違法と評価し、これによって得られた証拠を被告人の罪証に供することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとも認められない。
  • → 尿の鑑定書の証拠能力を肯定。理由は「留め置きの違法が重大でない」だけでなく、令状の発付は適法・強制採尿手続そのものに違法なし・全体として見ても証拠にするのが相当でないとはいえない、の積み重ね。

「違法か」と「証拠を排除するほど重大か」は別の物差し。本件の留め置きは違法と判断されたが、それでも鑑定書は証拠として使えた。

×にされやすい形
  • 「留め置きが違法なのだから、尿の鑑定書は証拠として使えない」
  • 「留め置きの違法は令状主義の精神を没却する重大なものとされた」
  • 「強制採尿令状は、違法な留め置きの間に集めた資料で発付されたので、発付手続も違法とされた」(違法になるほど長引く前の資料による発付で、適法)

3二分論(裁判例の立場・定着していない)裁判例

  • 二分論:留め置きを、純粋に任意の段階と、令状請求の準備に入った後の強制へ移る段階に分ける。後の段階では、令状を請求していることを対象者に伝えることを条件に、所在の確保に必要最小限度なら、意に反しても相当程度強くとどまるよう求めてよいとする。
  • 採った裁判例(適法とした例):東京高判平21・7・1(約3時間)、東京高判平22・11・8(約3時間20分)。正面から否定した裁判例:札幌高判平26・12・18。→ 実務上定着しているとは言いがたい(いずれも解説書の紹介による)。
  • 最決平6・9・16は二分論に触れていない(二分論を採った裁判例は、どれもこの決定より後のもの)。
  • 決定が違法としたのは、身体の捜索が始まるまでの約6時間半以上の全体(請求後の約2時間15分も含む)。ただ、言い直しの「早期に令状を請求することなく」と、解説書の当てはめ(準備に入るまで約4時間30分)からすると、重いのは令状請求の準備に入る前の部分と読める。二分論に立っても、強めの留め置きが認められうるのは準備に入った後の時間帯だけ。
  • 解説書の著者は、強制へ移る段階でも任意捜査であることに変わりはなく、捜査の必要性を高める事情にとどまる=強制と同視できる有形力は適法としがたい、とみる。留め置きを認める立法で解決すべきとの見解もある。
×にされやすい形
  • 「二分論は最高裁の判例の立場である」(高裁の裁判例が採った立場で、否定した裁判例もある)
  • 「本件の約6時間半は令状請求の準備に入った後の留め置きなので、二分論により適法とされた」

4強制採尿令状の効力としての連行(最決平6・9・16)判例

  • 強制採尿令状とは:決定の言葉では「被告人の尿を医師をして強制採取させるための捜索差押許可状」。体内の尿を証拠物として強制的に取るのは捜索・差押えの性質を持つので捜索差押許可状によるが、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が要る、とした最決昭55・10・23 の令状(条件付捜索差押許可状)。住居の捜索差押許可状とは、対象が場所でなく被疑者の身体(尿)で、この条件が付く点が違う。
  • 医師に行わせる点は、鑑定処分許可状を重ねるのではなく、令状の条件で手当てしている(かつての実務は身体検査令状+鑑定処分許可状の併用だった=解説書)。条件では足りないとされる場面は項目8。
  • 身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使することができるものと解するのが相当である。
  • けだし、そのように解しないと、強制採尿令状の目的を達することができないだけでなく、このような場合に右令状を発付する裁判官は、連行の当否を含めて審査し、右令状を発付したものとみられるからである。
  • 「右令状」=今言った強制採尿令状。連行は採尿とは別の新しい処分ではなく、同じ令状の効力の一部(令状効力説)。だから勾引状などの別の令状は要らない。
  • 解説書の理解:強制採尿令状には医師に医学的に相当な方法で行わせる条件が付いているので、それに適した場所へ連れて行くことも強制採尿の本来の内容に含まれる、と判例はしたもの。
  • 右令状に、被疑者を採尿に適する最寄りの場所まで連行することを許可する旨を記載することができることはもとより、被疑者の所在場所が特定しているため、そこから最も近い特定の採尿場所を指定して、そこまで連行することを許可する旨を記載することができることも、明らかである。
  • 令状に連行の許可を書けるとしたのは決定自身。それ以降の実務では書くのが通例(解説書)。記載が連行の要件だとは言っていない。
  • 本件の当てはめ:任意に同行させることは事実上不可能だった。両腕を制圧して車で病院へ運んだことも、連行のために必要限度を超えて拘束したり有形力を加えたものとはみられない。病院での強制採尿にも違法と目すべき点は無い → 強制採尿手続自体に違法なし。
  • 連行できるのは強制採尿令状の効力があるとき。覚醒剤を差し押さえるべき物とする住居の捜索差押許可状の執行中に使用の疑いが出ても、その令状で採尿のために病院へ連れて行くことはできない(司法H21-26エ)。
強制採尿令状が出ている・身柄の拘束なし採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能か連行の根拠にならない任意に同行するいいえはい行き先は採尿に適する最寄りの場所か令状で特定の採尿場所を指定することもできる令状の効力の外いいえはい有形力は必要最小限度か令状の効力の外いいえはい強制採尿令状の効力として連行できる別の令状(勾引状など)は要らない
紫の枠が判例の言葉(最決平6・9・16)。判例は3つの枠の中なら令状の効力で連行できるとしただけで、右の「令状の効力の外」は判例の言葉の裏から読んだもの(判例が違法とした場面ではない)。

令状を示すと、被疑者が「自分で病院に行く」と言って実際に車に乗った → 「任意に同行することが事実上不可能」に当たらないので、腕をつかんで連れて行く根拠にはならない。

出題任意に同行することが事実上不可能なら、強制採尿のための令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで連行できる(○)

出題任意同行が事実上不可能なら、採尿を許可する令状の効力として最寄りの場所まで連行でき、その際、必要最小限度の有形力を行使できる(○)

出題任意に同行することが事実上不可能な場合でも、採尿場所へ連行する際に有形力を行使することは許されない(×)

  • 採尿を実施する場面でも、安全に行うための必要最小限度の有形力は許される(予備H25-17オ○)。最決平6・9・16 は病院での強制採尿に「違法と目すべき点は見当たらない」としただけで、この言い回しは判旨に無い。

出題病室で激しく抵抗する被疑者をベッドに押さえ付けて医師が採尿=採尿を安全に実施するのに必要最小限度の有形力の行使は許される(○)

出題身体を拘束されていない被疑者を採尿のため最寄りの病院に連行するには、捜索差押許可状に加え勾引状が要る(×)

出題覚醒剤を差し押さえるべき物とする住居の捜索差押許可状で、使用の疑いが生じた被疑者を採尿のため最寄りの病院へ連れて行くことが許される(×)

×にされやすい形
  • 「採尿のための連行には、強制採尿令状とは別に勾引状が要る」(予備H27-17-ウ)
  • 「任意同行が事実上不可能でも、連行の際に有形力を使うことは許されない」(予備H25-17-エ)=必要最小限度なら許される
  • 「覚醒剤の住居の捜索差押許可状の効力で、採尿のために病院へ連れて行ける」(司法H21-26-エ)
  • 「本人が自分で行くと言っていても、強制採尿令状があれば腕をつかんで連行できる」(要件は任意の同行が事実上不可能なこと)

5必要な処分説と令状効力説学説条文

  • 学説の批判:強制採尿と強制連行は別の強制処分。連行を認める根拠規定が無いのに、令状の効力として連行を認めることはできない。
  • 必要な処分説:強制採尿令状の執行のために「その他必要な処分」として連行を認める。根拠=が準用する前段(差押状・捜索状の執行については、錠を外し、封を開き、その他必要な処分をすることができる)。
  • 両説の差:実質的な差は無いとする見解と、事前審査の範囲に差が出るとする見解がある(下の表)。
  • 実務は、連行の当否まで含めて事前に審査するのが通常。これには、連行を別個の強制処分として裁判官が審査し捜査官に授権していることになりかねず、刑訴法が明文で認めていない以上、強制処分法定主義との関係で疑問だ、という批判もある。
  • どちらの説が優れているかの決着は解説書に無い。短答・答案は判例(令状効力説)で書く。
令状効力説(判例)必要な処分説(学説)
連行の根拠強制採尿令状の効力そのもの・の「必要な処分」
裁判官の事前審査(差が出るとする見解)連行の当否まで含めて審査強制採尿の当否だけ。連行の必要性は現場の捜査官の判断
向けられる批判根拠規定が無い連行を令状の効力とするのは無理(学説)/連行の事前審査は強制処分法定主義から疑問(実務の運用への批判)解説書の範囲では、この説への批判の紹介は無い
×にされやすい形
  • 「判例は、連行を・の『必要な処分』として認めた」(判例は強制採尿令状の効力として認めた。必要な処分は学説)

6強制採血=身体検査令状+鑑定処分許可状条文学説

  • 強制採血は、強制採尿より屈辱感などの精神的打撃を与える程度が低く、許されると一般に考えられている。
  • ただし、わずかな採血でも、対象者の承諾を得て提出を受けられない以上は、強制処分として令状が必要。失神状態の被疑者から鑑定処分許可状なしに採血したことを違法とした裁判例がある(仙台高判昭47・1・25・解説書の紹介)。
  • 鑑定嘱託=検察官・検察事務官・司法警察職員が、捜査に必要なとき、被疑者以外の者(医師など)に鑑定を頼むこと()。
  • 鑑定を嘱託された者が身体を検査するなどの処分()をするには、裁判官の許可を受ける(・の許可状=鑑定処分許可状)→ 鑑定嘱託だけで医師に採血させることはできない。
  • どの令状か:捜索差押許可状(条件付き)によるべきとする学説もある(血液ができる過程も尿と変わらない)。しかし有力説・実務は身体検査令状と鑑定処分許可状の併用。
  • 理由(解説書):尿はやがて体外に排出される無価値な「物」→ 捜索差押えの令状になじむ。血液は人体の一部で「物」とは言いがたい → 体そのものを調べる身体検査令状(後段)。
  • 鑑定処分許可状を重ねる理由:強制採尿について解説書は、身体の内部への侵襲を伴うから医師などの専門家による鑑定処分として行うべき、とかつての併用の理由を述べる。飲み込んだ物の医療措置〔項目8〕も、医師などの専門家が行う必要があるとして併用する。強制採血の箇所では、併用という結論だけが示されている。
  • 直接強制:鑑定処分許可状には直接強制の明文が無い(は2〜4項・6項だけを準用し、を準用しない)。身体検査令状には、が準用する(過料や刑を科しても効果が無いときは、そのまま身体の検査を行える)がある → 併用すれば拒む相手からも採血できる。
  • 毛髪・唾液の成分を鑑定するために強制的に採取するときも、同じ扱い(身体検査令状+鑑定処分許可状)。どれも「強制的に採る」場面の話。

出題被疑者に対する鑑定・身体検査は直接強制を許す規定を欠くので、身体に直接強制を加えて血液を採取することは許されない(×)

出題採血を拒む被疑者について、令状の発付を受けなくても、医師に鑑定嘱託をして採血させることができる(×)

×にされやすい形
  • 「鑑定も身体検査も直接強制の規定を欠くので、強制採血はできない」(司法H18-25-ウ)=身体検査令状には→がある
  • 「令状なしで、鑑定嘱託だけで医師に採血させられる」(司法H22-23-カ)
  • 「強制採血は、強制採尿と同じく条件付捜索差押許可状による(実務)」(実務は身体検査令状+鑑定処分許可状)

7採血の令状をめぐる4つの見解とその批判学説

  • 過去問は、医師が捜査機関の依頼で注射器を使い、拒む相手から直接強制して採血するのに要る令状について、4つの見解と批判を組み合わせて問う。下の表の批判は、過去問で正しいとされた形。
見解令状向けられる批判
Ⅰ身体検査令状捜査機関が血液を採取するわけではない。身体検査令状が想定するのは身体の外表か、せいぜい体腔を外から確かめる程度で、身体の損傷を伴う採血まで行えるのは行き過ぎ
Ⅱ鑑定処分許可状拒んだときに直接強制する明文の規定が無い(これに対しⅡの側はの類推適用で対応できるとする)
Ⅲ身体検査令状+鑑定処分許可状(有力説・実務)採血が検証としての身体検査の域を超える以上、併用しても意味が無い。単独ではできないことを併用すればできるとするのは便宜に過ぎる
Ⅳ捜索差押許可状(強制採尿の判例と同じ考え方)尿と血液は性質が違う(老廃物の尿と、人体の一部の血液を同じには扱えない)
  • Ⅳへの批判の向きに注意:「尿と血液を区別して考える必要はない」は、Ⅳの側の考え方(同じ体液として強制採尿と同じ令状でよい)。批判はその逆で「区別すべき」。
  • 「身体検査の域を超える」という批判は、検証としての身体検査(身体検査令状)に向けられるもの(Ⅰ・Ⅲ)。Ⅱ(鑑定処分許可状)への批判は直接強制の明文が無いこと。

出題Ⅰ(身体検査令状)には、捜査機関が血液を採取するわけではないとの批判がある(○)

出題Ⅱ(鑑定処分許可状)には、鑑定処分としての身体検査の域を超えるから許されないとの批判がある(×)

出題Ⅱ(鑑定処分許可状)には、直接強制するための明文の規定が無いとの批判がある(○)

出題Ⅲ(併用)には、採血が検証としての身体検査の域を超える以上、併用することに意味がないとの批判がある(○)

出題Ⅳ(捜索差押許可状)には、老廃物である尿と血液とを区別して考える必要はないとの批判がある(×)

出題学生の会話から各自の令状を選ぶ(正答:A捜索差押許可状/B鑑定処分許可状/C身体検査令状/D鑑定処分許可状及び身体検査令状)

×にされやすい形
  • 「Ⅳの見解には、尿と血液を区別して考える必要はないとの批判がある」(予備H26-17-オ・司法H26-26-オ)=向きが逆
  • 「Ⅱの見解には、鑑定処分としての身体検査の域を超えるとの批判がある」(予備H26-17-イ・司法H26-26-イ)=Ⅱへの批判は直接強制の明文が無いこと

8飲み込んだ物(体内の証拠物)解説書

  • 原則:普通は自然に排出されるのを待って差し押さえれば足りる → 差押許可状でよい。
  • 例外:自然排出が困難、または証拠保全の必要性・緊急性が高く、医療措置(レントゲン照射などで場所を確かめ、下剤・吐剤を使う)で早く排出させる必要があるとき。
  • 飲み込まれた証拠物は「物」→ 捜索差押許可状による。医療措置は医師などの専門家が行う必要がある → 鑑定処分許可状を併用すべきと考えられる。本人が拒んでも、捜索差押許可状で直接強制できる。
  • 強制採尿と同じ条件(医師をして医学的に相当と認められる方法で行わせる)を付けた条件付捜索差押許可状でよいとする見解もある。しかし医療措置は強制採尿以上に身体への侵襲が強いので、相当でないとされている(解説書の整理・判例ではない)。
取る物対象の性質本体の令状専門家の処分
尿やがて排出される「物」条件付捜索差押許可状(医師をして医学的に相当な方法で)1枚
血液(毛髪・唾液も)人体の一部身体検査令状+鑑定処分許可状
飲み込んだ物・自然排出を待つ「物」差押許可状—
飲み込んだ物・医療措置で出させる「物」捜索差押許可状+鑑定処分許可状

飲み込んだ袋が自然に出てくると見込めるなら、差押許可状で待てばよい。早く出させる必要性・緊急性が高いなら、捜索差押許可状と鑑定処分許可状をそろえて医療措置に進む。

×にされやすい形
  • 「医療措置で飲み込んだ物を出させるには、強制採尿と同じ条件を付けた捜索差押許可状1枚で足りるとされている」
  • 「飲み込んだ物は人体の一部なので、身体検査令状による」(飲み込まれた証拠物は「物」=捜索差押許可状)

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