刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#48

採尿のための連行・強制採血・体内の証拠物

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第2章 捜査 ㉕/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

令状には「尿を採ってよい」としか書いていない

令状はあるのに座り込んで動かない被疑者と病院まで連れて行けるか迷う警察官を示す導入板

採尿は病院でしかできないのに、令状には「尿を採ってよい」としか書いていません。それじゃ、警察はこの人を病院まで連れて行けないんですか。そこが、今日の出発点です。前回、強制採尿は条件付捜索差押許可状で行う、というところまで渡しました。医師に、医学的に相当な方法で行わせる、という条件の付いた令状でした。でも、実際の事件では、被疑者を現場から病院まで連れて行くという場面が、どうしても出てきます。さらに、尿ではなく血を取るとき、飲み込まれた物を体から取り出すときにも、同じ疑問が生じます。今日は、その答えを、最高裁の決定と一緒に見ていきます。先に答えを言うと、連れて行けます。ただし、条件と、使ってよい力の限度が付きます。ちなみに、今日の事件は、新しい判例ではありません。エンジンキーを取り上げて、職務質問を続けた事件、あの事件の続きの場面です。

エンジンキーを取り上げたあと、この被疑者はどうなったか。その続きを、今日は見ていきます。

6時間半の留め置き——違法だが重大でない

エンジンキーを取り上げてから身体捜索差押許可状の執行開始まで約6時間半警察官が現場に留め置いた場面を示す図

エンジンキーを取り上げたあと、被疑者はどうなったか、思い出せますか?たしか、天秤で測る話がありました。エンジンキーを取り上げてから、身体に対する捜索差押許可状の執行が始まるまで、約6時間半、警察官は被告人の運転を阻止し、現場に留め置きました。被告人は、最後まで任意同行を拒み続けました。最高裁の判断は、2段です。1段目は、この留め置きが違法か。2段目は、違法だとして、それが重大か。1段目から読みます。

判例福島・エンジンキー取り上げ事件の続き

6時間半の留め置き——任意捜査の限界 「当初は……適法性を有しており、被告人の覚せい剤使用の嫌疑が濃厚になっていたことを考慮しても、被告人に対する任意同行を求めるための説得行為としてはその限度を超え、被告人の移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法といわざるを得ない。」

説得のための時間は、任意捜査の枠の中でしか許されません。6時間半という長さは、その枠を超えた、という判断です。なぜ枠を超えたのか。職務質問の回の天秤で測ります。左の皿は、本人が失う自由。時間がたつほど重くなります。嫌疑は濃くなっていましたが、6時間半の重さには追いつきません。数分のキーの取り上げなら釣り合っても、6時間半では左に傾き切る。同じ事件で結論が割れたのは、そのためです。そう単純ではありません。続きを読みます。

判例福島・エンジンキー取り上げ事件の続き

6時間半の留め置き——違法だが重大でない 「その違法の程度はいまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえない。」

2段目が、これです。なぜ重大でないと言えたのか、理由が4つ挙げられています。

論文で書く規範:違法だが重大でない理由——4点の総合考慮 ①警察官が行使した有形力は、エンジンキーを取り上げて返還せず、車に乗り込むのを阻止した程度で必要最小限度にとどまる。②積雪で滑りやすい路面・被告人の異常な言動という交通危険防止の必要性が高かった。③被告人が自ら運転することに固執し、他の方法による任意同行をかたくなに拒否し続けたため、説得が長時間に及んだのもやむを得ない面がある。④警察官に当初から違法な留め置きの意図があったとは認められない。 (最決平6・9・16(留め置きの当てはめ・論文で使う4点))

1つ目、有形力は必要最小限度にとどまっていたこと。エンジンキーを取り上げて返さず、車に乗り込むのを止めた程度で、それ以上の力は使っていません。2つ目、積雪で滑りやすい道路という、交通の危険を防ぐ必要性が高かったことです。3つ目は、被告人が自分で運転すると言い張って、他の方法での任意同行を頑なに拒み続けた。だから説得が長引いたのも、やむを得ない面がある、ということです。4つ目は、警察官に、最初から違法な留め置きをする意図があったとは認められないことです。この4点を総合すると、違法ではあるが、令状主義を没却するほどの重大な違法とは言えない、となります。だから、この事件では、留め置きの後に採った尿の鑑定書も、証拠として使えるとされました。

逆に、キーを取り上げる程度を超えて体を押さえ込み続けたり、最初から令状を取らずに済ませるつもりで留め置いたりしていれば、同じ6時間半でも、重大な違法の側に傾きます。この4点の総合考慮という型を、しっかり覚えておいてください。なお、この事件のように令状請求の準備に入った後の留め置きは、所在確保の必要性が高いとして適法性を認めやすいとする見解もあります。たとえば、令状を取りに行っている数時間、本人を現場で待たせておく場面です。その間は本人を見失わない必要が特に高い、という考え方です。ただ、これを正面から否定する裁判例もあり、実務上定着しているとは言いがたい状況です。

強制採尿令状の効力としての連行

令状が発付され身体の捜索が始まった後に警察官が両腕をつかみ警察車両で病院まで連行しカテーテルで採尿する場面を示す図

留め置きが続く間に、ようやく令状が発付されました。強制採尿令状を呈示したところ、被告人は激しく抵抗しました。警察官は両腕を制圧したまま、警察車両で病院まで連行しました。そこで医師がカテーテルで採尿しました。最高裁の答えを読みます。この後、論文でそのまま書く規範です。

論文で書く規範:強制採尿令状の効力としての連行——論文で書く規範 「身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使することができるものと解するのが相当である。」 (最決平6・9・16(連行の規範・逐語で覚える))

連行は、尿を採るための令状とは別の、新しい処分ではありません。同じ令状の力の一部だ、という位置づけです。理由も、同じ決定に書かれています。

論文で書く規範:連行を認める理由——論文で書く規範 「けだし、そのように解しないと、強制採尿令状の目的を達することができないだけでなく、このような場合に右令状を発付する裁判官は、連行の当否を含めて審査し、右令状を発付したものとみられるからである。」 (最決平6・9・16(連行の理由・逐語で覚える))

理由は2つです。1つ目、連行を認めないと、尿を採るという令状の目的を達成できません。病院に行かなければ、採尿という処分自体が実行できないからです。良いたとえです。届けるという目的を果たすには、動くことも仕事の一部として含まれます。ただし、動いてよいのは、届けるために必要な範囲だけです。ついでに別の用事を頼まれても、応じる権限はありません。それが、「必要最小限度の有形力」という縛りに対応します。2つ目、令状を発付する裁判官は、「この被疑者を任意に連れて行けるか」まで含めて審査した上で、令状を出している、とみられることです。

だから、連行だけを取り出して、別の令状を要求する必要がありません。本人が自分で行くと言っていても、腕をつかんで連れて行くことはできません。任意に同行することが事実上不可能、という条件を満たさないからです。実務では、令状の記載事項に、「被疑者を採尿に適する最寄りの場所まで連行することを許可する」という一文を書き込むことができ、この決定以降はこの文言が記載されるのが通例です。学説には、異論はないんですか。あります。強制採尿と強制連行は、別の法益を侵害する別の強制処分だから、強制連行を認める法律上の根拠規定が無いのに、令状の効力として連行を認めることはできない、という批判です。

令状効力説と必要な処分説の2つの理論構成で裁判官の事前審査が連行の当否まで及ぶかを対比する板

この批判を受けて、強制採尿令状の執行のために「必要な処分」として連行を認める見解もあります。検証に伴う129条とは別の、捜索・差押えに伴う「必要な処分」です。移動先での身体捜索の回で、逮捕した被疑者を最寄りの場所まで移して捜索する場面がありました。判例は「逮捕の現場と同視できる」、学説はこの「必要な処分」で、あの移動を説明していました。今日の判例は、令状の効力そのものとして連れて行けると言っています。

条文刑事訴訟法第222条第1項(111条の準用部分のみ抜粋)

刑事訴訟法第二百二十二条第一項(抄) 第……第百十一条第一項前段及び第二項……の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について……準用する。

条文刑事訴訟法第111条第1項

刑事訴訟法第百十一条第一項 差押状又は捜索状の執行については、錠を外し、封を開き、その他必要な処分をすることができる。

222条1項が、111条1項を準用します。「その他必要な処分」の一環として、連行もできる、という構成です。この立場を、「必要な処分説」と呼びます。判例の立場、「令状効力説」とは、出発点が違います。実質的な差は無いという見解もありますが、違いを指摘する見解もあります。令状効力説では、連行の当否まで含めて、裁判官による事前の司法審査が必要です。必要な処分説では、強制採尿の当否さえ審査すれば、連行の必要性は現場の捜査官の判断に委ねられる、という違いです。実務は、連行の当否を含めて事前に審査するのが通常です。ただ、これに対しては、連行を別個の強制処分として裁判官が審査し、捜査官に授権していることになりかねず、刑訴法が明文で認めていない以上、強制処分法定主義との関係で疑問がある、という批判もあります。配達の例えで言えば、令状効力説は、注文を受ける段階で「現場まで届けてよい」と決めておく形。必要な処分説は、行き先を配達員がその場で決める形です。

人の自由を強く縛る処分ほど、裁判官が前もって確かめる。令状主義の狙いに沿うのはこちらです。だから答案は、判例の規範で書きます。任意の同行が事実上不可能なら、令状の効力として、最寄りの場所まで、必要最小限度の力で連れて行ける。これが、冒頭の問いへの答えです。

設問の検討——留め置きと連行、2つのあてはめを通しで言う

留め置きの結論から連行の規範を経て有形力の相当性まで一気に通した検討の流れを示す板

ここまでの2つの場面を、通しで言ってみましょう。まず、6時間半の留め置きです。有形力は必要最小限度、交通危険防止の必要性が高く、被告人自身が拒み続け、警察官に違法な意図も無かった。4点を総合すると、違法だが重大ではない、という結論でした。身柄を拘束されていない被疑者を、任意に採尿場所へ同行させることが事実上不可能だと認められる場合には、強制採尿令状の効力として、病院まで連行できます。そこで、必要最小限度の有形力かどうかを、もう一段見ます。両腕を制圧した行為は、病院まで連行するために必要な範囲にとどまり、必要最小限度の有形力の行使として適法だと評価できます。激しく抵抗する相手を車に乗せて病院へ運ぶには、両腕を押さえることが欠かせません。連れて行くのに要る分だけの力、という評価です。

この2つのあてはめをセットで言えれば、この事件の検討は完成します。

強制採血の令状——身体検査令状と鑑定処分許可状の併用

呼気検査を拒む運転者から血液を採取するため身体検査令状と鑑定処分許可状を併用する場面を示す図

次は、尿ではなく、血を取る場面です。物損事故を起こした運転者から、酒の臭いがしました。呼気検査を求めましたが、頑として応じません。強制採血は、強制採尿に比べて、屈辱感などの精神的打撃を与える程度が低いと、一般に考えられています。ただし、わずかな採血であっても、任意の承諾なしに行うには、強制処分として令状が必要です。失神状態の被疑者から、鑑定処分許可状なしに採血したことを違法とした裁判例もあります。どの令状で血を取るんですか。ここが、今日の核心です。前編で、尿を取る令状を覚えましたね。学説の中には、血液の生成プロセスも尿と変わらないとして、同じように条件付捜索差押許可状によるべきだ、とする見解もあります。ですが、有力説・実務は、身体検査令状と鑑定処分許可状の併用によります。

尿は、やがて体外に排出される、もう体に必要のない「物」です。だから、「物を取る」性質が前面に出て、捜索差押えの令状になじみます。これに対して、血液は、人体の一部であって、「物」とは言いがたい。使用済みの容器を回収してもらう依頼と、治療のために体の一部を切り取って提出してもらう依頼の違いに似ています。前者は、もう不要になって外に出す予定の物を受け取るだけ。後者は、体そのものに切り込む行為だから、扱いのルールが一段重くなります。だから、血を採るには、体そのものを検査する令状、身体検査令状に、専門知識を要する処分を許す令状、鑑定処分許可状を組み合わせます。

血を採るのは、医師の専門知識が要る処分なので、鑑定処分許可状が要ります。ただ、前編で見たとおり、鑑定処分許可状だけでは、抵抗する相手に直接強制ができません。そこで、直接強制が届く身体検査令状を重ねます。尿は「物」なので、捜索差押えの令状1枚に乗せる道がありました。血は「物」とは言いがたく、その道が閉じています。だから、2枚を組み合わせるほかない、というわけです。なお、毛髪や唾液を成分鑑定のために強制的に採取するときも、同じ扱いになります。身体検査令状および鑑定処分許可状の発付を受けて、強制的に血液を採取し、血中のアルコール濃度を明らかにすることができます。

体内の証拠物——飲み込まれた物の取り出し方

所持品検査中に被疑者が白い粉を飲み込んでしまい自然排出を待つか医療措置で取り出すかを分ける板

もう1つ、体の中から取る場面があります。所持品検査中に、被疑者がビニール袋入りの白い粉を、いきなり飲み込んでしまいました。原則は、自然に排出されるのを待って、差し押さえれば足ります。この場合、差押許可状があれば十分です。体の外に出てきた物を拾うだけなので、体の中を探す「捜索」は要らず、差し押さえる令状で足ります。待てない場合もあるんですか。あります。自然排出が困難だったり、証拠保全の必要性・緊急性が高いときは、レントゲンで場所を確認し、下剤や吐剤を用いて、体外に排出させる必要があります。レントゲンで体の中を探すので、今度は「捜索」も要ります。

ここでも、「対象は物か、人体の一部か」から考えます。飲み込まれた証拠物は、「物」です。だから、捜索差押許可状によるべきですが、医療措置は医師などの専門家による実施が必要なので、鑑定処分許可状も併用します。被疑者が拒んでも、捜索差押許可状で直接強制ができます。医師をして医学的に相当と認められる方法で行わせなければならない、という条件を付ければ、条件付捜索差押許可状でよいとする見解もあります。ですが、相当でないとされています。引き出しにたとえると、わかりやすいです。忘れ物を自分で引き出しから出してもらうのが、自然排出です。鍵が見つからず、業者を呼んで引き出しを壊してでも出してもらうのが、医療措置です。医療措置は、下剤や吐剤を使い、強制採尿よりもさらに強く、体への侵襲を伴います。だから、尿のときのような簡便な条件付けでは済まされず、正面から2枚の令状、捜索差押許可状と鑑定処分許可状を揃えるべきだ、とされています。

差押許可状の発付を受けて、自然排出を待って差し押さえるか、早急に排出させる必要があるときは、捜索差押許可状および鑑定処分許可状の発付を受けて、医療措置を実施し、排出を促進して差し押さえることができます。

今日の地図(保存版)

尿・血・飲み込んだ物の3場面で対象の性質と実施者と令状とその理由を1枚に並べた保存版の板

覚えるポイント — 3場面のまとめ——何を取るか・誰がやるか・どの令状か

今日の内容を振り返ります。留め置きは、4点の総合考慮で、違法だが重大ではない、という結論でした。連行は、事実上不可能なら、強制採尿令状の効力として、必要最小限度の有形力でできました。血は、人体の一部だから、身体検査令状と鑑定処分許可状の併用でした。飲み込んだ物は、原則は待つだけ、早める場合は捜索差押許可状と鑑定処分許可状の併用でした。3つとも体の中から取るのに、令状の組み合わせが違ったのは、「取る対象が物か、人体の一部か」、それから「専門的な働きかけが要るか」、その2つで決まっていたんですね。この物差しは、体に関わる令状を見るとき、どこでも使えます。

参照条文

  • 刑事訴訟法第222条第1項(111条の準用部分のみ抜粋)
  • 刑事訴訟法第111条第1項

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