通信傍受①傍受令状の要件と通信傍受法
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第2章 捜査 ㉖/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
令状があれば、何でも聞けるのか

発付の時点で、対象は確定しています。電話の傍受にも、同じように令状が出せるんですか。そこが、今日の出発点です。電話は、これから誰が何を話すか、かけてみるまで分かりません。対象を決めようがないのに、令状を出すんですか。出します。ただし、捜索差押許可状や五感で調べる検証令状より、ずっと厳しい条件を付けたうえで、です。前回まで、体の中から証拠を取る場面を見てきました。今日から、質の違う処分に入ります。一回で終わる処分ではなく、発付されたあともしばらく回線を開けたまま、まだ話されていない会話を待ち受ける処分です。
その理由を、今日は1つずつ積み上げていきます。
何が傍受で、何が傍受でないか

まず、定義から確認します。捜査機関が、犯罪を捜査するために、話している当事者のどちらからも同意を取らずに、電話やメールといった電気通信の中身をその場で聞き取る。これが通信傍受で、強制処分にあたります。
条文刑事訴訟法第222条の3
刑事訴訟法第222条の3 通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分については、別に法律で定めるところによる。
電気通信の傍受はこの条文が入口になり、中身は別の法律、通信傍受法に委ねられる、というところまで渡してあります。今日は、その「別に法律で定める」中身に入ります。通信の秘密は、憲法で保障されています。
条文日本国憲法第21条第2項
日本国憲法第21条第2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
電気通信の傍受は、この通信の秘密を実質的に侵害する処分なので、厳格な統制が要ります。ここまでが入口です。ここから、何が傍受にあたって、何があたらないか、4つの場面で切り分けます。1つ目、通信の当事者の一方の同意がある場合です。例えば、誘拐事件で、犯人からの電話を受ける家族の同意を得て、捜査官が一緒に聞く場合です。それは、傍受ではないんですか。任意捜査です。秘密は一方の管理下にもあるので、同意した側の意思で開示される限り、傍受にはあたりません。2つ目、すでに終わった通話の録音体や、送信済みの電子メールです。
傍受にはあたらないんですか。あたりません。傍受は、「現に行われている」通信を対象にします。終わった通話は、もう「これから起きること」ではなく、確定した物です。だから、捜索・差押えで足ります。3つ目、被害者から任意提出を受けた録音テープを再生して聞くこと。少し考えてみてください。これは、通信傍受にあたると思いますか?答えは、あたりません。もらった手紙をあとで開けて読むのと同じです。すでに自分の手元にある物の中身を確かめているだけで、相手同士のやりとりの最中に割り込んでいません。任意提出、つまり領置で受け取った物の内容を確認する行為であって、新しく通信を捕まえる処分ではありません。
4つ目は、電気通信によらない、口頭の会話の傍受です。これは、秘密録音の回で扱いました。認める条文が無く、検証許可状でもできない、という結論でした。対象を「これから起きること」の中からしか絞れない、という今日の出発点の感覚を、覚えておいてください。この先の話は、全部、ここにつながります。
なぜ法律を作ったか——制定の経緯

実は、通信傍受法ができる前にも、電話傍受を認めた判例があります。覚醒剤の密売事件で、検証許可状によって電話が傍受されました。最高裁は、一定の要件のもとでなら、検証許可状による電話傍受も法律上許されていた、と結論しました。検証は、五感の作用で、場所や物、身体の状態を認識する強制処分でしたね。電話の会話を耳で聞いて記録するのも、五感で認識する点では検証と同じだ、というのが理由です。もうできていたなら、なぜ新しい法律を作る必要があったんですか。そこが、今日の2番目の論点です。検証許可状の枠組みには、弱点が3つありました。1つ目、犯罪関連の通話とそうでない通話を分けるために、無関係な通話まで傍受せざるを得ません。
それでも、無関係な人の会話に一度は触れてしまいます。2つ目、立会いなど、具体的な手続の規定がありません。検証許可状の条文は、もともと一回的な処分を想定していて、継続する傍受の細かい実施方法までは定めていません。3つ目、不服申立ての手段がありません。傍受されたあと、本人に知らせる手続も、本人が異議を言う手続も、検証許可状には備わっていません。この3つ目は、最高裁自身も、問題があると認めていました。その不備を、平成11年、通信傍受法という専用の法律で埋めました。傍受令状の創設。犯罪関連通話を分別する措置の整備。通信事業者の立会い。事後通知。不服申立て手段の整備。この5つが、検証許可状には無かった部品です。
今日は、「なぜ専用の法律が要ったか」という理由だけ持ち帰ってください。
対象犯罪——どんな事件でも傍受できるわけではない

ここで、1つ問題です。単なる殺人事件の被疑者の通信は、傍受できますか。できません。殺人罪は、いまは対象犯罪の一覧に入っています。それでも、単なる殺人事件では足りないんです。傍受は、発付後もしばらく回線を開けたまま、無関係な会話まで一緒に聞いてしまう処分です。だから、対象犯罪も、組織性が高く、他の手段では立件しにくい類型に絞られています。平成11年の制定当初は、4類型でした。薬物犯罪、銃器犯罪、集団密航、組織的殺人です。どれも、共犯構造が前提になりやすい類型です。平成28年の改正で、対象犯罪が増えました。現住建造物等放火・殺人・傷害・傷害致死・爆発物使用などの殺傷犯。逮捕監禁・略取誘拐。窃盗強盗・詐欺恐喝。児童ポルノ。
ここに、歯止めが付いています。追加された類型は、「あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体」により行われるものと疑うに足りる状況が、別枠で必要です。だから、単なる個人の殺人事件には、この歯止めを満たさず、傍受はできません。消防が、ぼやに1台、大規模な火災にだけ特別な車両を何台も出すのに似ています。通常の捜索差押えで足りる事件に、傍受という重装備は使わせません。ここで、少し前回までの話を思い出してみましょう。体の中から証拠を取るとき、令状を組み合わせましたね。物か、人体の一部か、専門的な働きかけが要るか。今日の対象犯罪も、同じように、何で絞りの重さが決まっていたか、思い出せますか?
……組織性の高さと、他の手段では足りるかどうか、でしたね。その絞りが、令状の要件そのものにどう表れるか、次はそこを見ていきます。
傍受令状の発付要件
図:傍受令状の4要件が嫌疑数人共謀犯罪関連通信補充性であることを示す一覧板
では、対象犯罪の事件で、実際に傍受令状を取るには、どんな要件が要るか。傍受令状と、捜索差押許可状や検証令状との違いは何ですか。対象犯罪の限定は、いま出てきました。ほかにもあるんですか。あります。通信傍受法3条1項に、4つの要件がまとまっています。
条文通信傍受法第3条第1項(柱書・1号・抄)
犯罪捜査のための通信傍受に関する法律第3条第1項(抄) 検察官又は司法警察員は、次の各号のいずれかに該当する場合において、……犯罪関連通信……が行われると疑うに足りる状況があり、かつ、他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるときは、裁判官の発する傍受令状により、……これを用いて行われた犯罪関連通信の傍受をすることができる。 一 別表第一又は別表第二に掲げる罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由がある場合において、当該犯罪が数人の共謀によるもの……であると疑うに足りる状況があるとき。
別表第一と第二は、さっき見た対象犯罪の一覧です。1つ目、嫌疑です。対象犯罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由が要ります。通常逮捕の「相当な理由」より濃い嫌疑でした。ただ、傍受は「これから起きる会話」を対象にせざるを得ません。だから、すでに犯された犯罪の嫌疑だけでなく、引き続き同じ犯罪が行われている嫌疑、重大犯罪の準備として行われ引き続き対象犯罪が行われる嫌疑でも足りる、という形になっています。2つ目、数人共謀。数人の共謀によるものと疑うに足りる状況が要ります。組織的な事件でなければ、傍受までする必要性が乏しい、という表れです。
ほとんどの対象犯罪では必須ですが、薬物などの譲渡し・譲受けを処罰する一部の罪は例外です。数人共謀の状況が無くても足ります。3つ目、犯罪関連通信。犯行の実行、準備、証拠隠滅の謀議などに関連する通信が行われると疑うに足りる状況が要ります。4つ目、補充性。他の方法では、犯人の特定や犯行状況の解明が著しく困難なことです。ほかの手段で足りるなら、侵入性の強い傍受を使わせない、最後の歯止めです。例えば、覚醒剤の密売グループで、表に出ない元締めが、携帯電話で売人に取引を指示している事件。覚醒剤の密売は対象犯罪で、取引がいまも続いている疑いが濃ければ、嫌疑はそろいます。元締めと売人で、数人共謀。取引の指示の電話が、犯罪関連通信です。尾行や張り込みでは元締めまでたどれないので、補充性も満たします。
取引の日時と場所がもう分かっていて、張り込みと捜索差押えで足りる場合です。それなら、傍受までは使わせません。
覚えるポイント — 傍受令状と他の令状の違い
ここで、冒頭の問いに戻ります。捜索差押許可状や検証令状は、発付の時点で対象を確定できる、一回的な処分です。傍受令状は、発付の時点では「これから話される内容」しか分かりません。発付後もしばらく回線を開けたまま待ち受ける、継続的な処分です。定点カメラを据えるのに似ています。まだ何も起きていない場所にカメラを据えて、これから何日か映るものを待ち受けます。何が映るかは、据えた時点では分かりません。映り続ける間、無関係なものまで一緒に記録してしまいます。捜索差押許可状の有効期間、原則7日は、令状を使い始められる期限でしたね。傍受令状の期間は、聞き続けてよい長さです。別のものです。対象の特定不能性、継続性、無関係な通信への広がり。この3つが、傍受令状の要件を加重しています。
請求・発付の特別ルール

発付要件が厳しいだけではありません。誰が請求できるか、誰が発付できるか、どれだけの期間続けられるか。ここにも、特別な縛りが付きます。現場の一存では、請求できません。検察官なら検事総長が指定する検事、司法警察員なら国家公安委員会や都道府県公安委員会が指定する警視以上の警察官等に限られます。警視は、現場の捜査員より何段も上の、幹部の階級です。例えば、覚醒剤密売の捜査を担当する若手の警察官が、自分の名前で傍受令状を請求することはできません。指定された警視以上の警察官を通さなければ、請求書は出せません。
発付する裁判官にも、限定があるんですか。あります。地方裁判所の裁判官に限られます。継続的で広範囲な処分だからこそ、発付できる立場を、手続の入口から絞ります。被疑者の氏名、被疑事実の要旨、罪名、罰条、傍受すべき通信、通信手段、実施の方法や場所、傍受ができる期間、実施に関する条件、有効期間など、かなりの項目が記載事項になっています。そこまでは要りません。被疑事実の要旨、罪名、罰条まで記載が求められる点だけ、頭に入れておいてください。期間は、どれくらいなんですか。ここは、数字をきちんと覚えてほしいところです。
⭐ 論文で書く規範:傍受期間——覚える数字 発付時に定める傍受ができる期間は10日以内。10日以内の期間でさらに延長できるが、延長を重ねても通じて30日を超えることはできない。 (通信傍受法5条1項・7条1項(数字は短答対策))
継続的な処分だからこそ、期間にも上限を置いて、無期限に続けさせません。請求権者、発付裁判官、期間の上限。どれも、現場の一存で傍受が広がらないための歯止めです。
今日の地図(保存版)
図:傍受にあたる場面と立法の理由と4要件と特別ルールを1枚に並べた保存版の板
今日の内容を振り返ります。通信傍受は、通信の当事者のいずれの同意も得ないで、現に行われている通信を受けることでした。一方の同意があれば任意捜査、終わった通話の記録物や任意提出を受けた録音テープの再生は、傍受にはあたりません。検証許可状の枠組みには、無関係な通話への広がり、手続規定の不足、不服申立ての欠如という弱点があり、それを埋めるために、平成11年、通信傍受法が作られました。対象犯罪は、組織性の高い類型に絞られ、令状の発付には、嫌疑、数人共謀、犯罪関連通信、補充性という4つの要件が必要でした。請求権者、発付裁判官、傍受できる期間にも、特別な限定が付きます。
全部、対象を特定しきれない、継続的な処分だから、という1つの理由につながっているんですね。この物差しは、令状の重さを比べるとき、どこでも使えます。
参照条文
- 刑事訴訟法第222条の3
- 日本国憲法第21条第2項
- 通信傍受法第3条第1項(柱書・1号・抄)