通信傍受②立会いとスポットモニタリング
問い:傍受令状が出たあと、実施の最中と終わったあとに、どんな歯止めがあるか。
骨組み
- 1令状の提示(10条1項):傍受令状は通信管理者等に示す。ただし被疑事実の要旨は示さなくてよい
- 2立会い(13条):通信管理者等を立ち会わせる。できないときは地方公共団体の職員。立会人は意見を述べることができる
- 3スポットモニタリング(14条1項):傍受すべき通信か明らかでない通信は、判断のため必要な最小限度の範囲に限り傍受できる(直ちに止める、ではない)
- 4他犯罪傍受(15条):令状記載以外の犯罪で、別表第一・第二の罪か死刑・無期・短期1年以上の拘禁刑に当たる罪の通信と明らかに認められるとき → 傍受できる。裁判官が事後に審査(27条3項)
- 5一時的保存命令方式(20条・21条):裁判官の許可。暗号化して一時保存する段階は立会い不要/復号して再生する段階で立会いが戻る。鍵は裁判所の職員が作る
- 6特定電子計算機方式(23条):裁判官の許可。傍受の実施の場所に設置された特定電子計算機へ伝送 → 立会い不要(後で再生するときも)。全部を自動で記録
- 7記録(24〜26条・29条):傍受した通信は全部記録 → 立会人が封印 → 裁判官に提出(特定電子計算機方式は封印の手続なし)。複製から無関係な通信を消して傍受記録
- 8通知と聴取等(30〜32条):傍受記録の通信の当事者に通知=原則30日以内。捜査が妨げられるおそれ → 請求により地方裁判所の裁判官が60日以内の期間を定めて延長(捜査の支障を理由に通知を省くことはできない)
- 9不服申立て(33条):裁判官の裁判→その裁判官が所属する裁判所/検察官・検察事務官・司法警察職員の処分→地方裁判所。取消し・変更を請求できる
色の札は出どころ:条文 判例 学説(同じ色の 解説書 は、解説書の著者自身の説明)。この回の条文は、断りの無いかぎり通信傍受法(犯罪捜査のための通信傍受に関する法律)のもの=番号は文字のままで、押しても開きません。丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。この回に判例はありません。
3段で覚える。実施中=立会い(2)・聞く範囲の限定(3)・他犯罪傍受の事後審査(4)/立会いを外す・減らす2つの新方式(5・6)/実施後=記録(7)・通知と聴取等(8)・不服申立て(9)。
1傍受令状の提示(通信傍受法10条1項)条文
- 10条1項:傍受令状は、通信管理者等に示さなければならない。ただし、被疑事実の要旨については、この限りでない。
- 傍受ができる期間が延長されたときも同じ(10条2項)。
- 令状に被疑事実の要旨を書くこと(6条1項)と、通信管理者等に示すときに要旨を除くことは別の話。
傍受令状には被疑事実の要旨が書いてある。それでも、通信会社の担当者に令状を見せるときは、その部分は見せなくてよい。
- 「傍受令状は、被疑事実の要旨を含めて、通信管理者等に示さなければならない」
- 「通信管理者等に示さなくてよいのだから、傍受令状には被疑事実の要旨を書かなくてよい」(書くことと示すことは別)
2立会い(通信傍受法13条)条文
- 13条1項:傍受の実施をするときは、通信管理者等を立ち会わせなければならない。通信管理者等を立ち会わせることができないときは、地方公共団体の職員を立ち会わせなければならない。
- 通信管理者等=通信手段の傍受の実施をする部分を管理する者(会社その他の法人・団体ならその役職員)またはこれに代わるべき者(5条4項)。
- 13条2項:立会人は、検察官・司法警察員に対し、その傍受の実施に関し意見を述べることができる。
- 捜査機関以外の者が立ち会い、手続の適正を外から確かめる。解説書は立会人の役割を「チェック機能」と呼ぶ。特定電子計算機方式ではこれを機械の記録で代える(6)。一時的保存命令方式は一時保存の段階だけ立会いを外し、再生で戻る(5)。
携帯電話会社の設備で傍受する。会社の担当者が立ち会えないとき、警察署の別の課の警察官を立会人にすることはできない。代わりは地方公共団体の職員。
- 「通信管理者等を立ち会わせることができないときは、立会人なしで傍受の実施ができる」
- 「通信管理者等が立ち会えないときは、傍受に関わらない他の警察官を立ち会わせればよい」(代わりは地方公共団体の職員)
3スポットモニタリング(通信傍受法14条)条文
- 14条1項:傍受の実施をしている間に行われた通信で、傍受令状に記載された傍受すべき通信に該当するかどうか明らかでないものは、該当するかどうかを判断するため、これに必要な最小限度の範囲に限り、傍受をすることができる。
- 判断するのは、令状記載の傍受すべき通信に当たるかどうか。当たらないと分かれば(15条の通信と明らかに認められないかぎり)そこで止める。他の犯罪かどうかを確かめるための傍受を許す規定ではない。確かめている最中に15条の通信と明らかに認められれば、15条で傍受できる(項目4)。
- 14条2項:外国語の通信や暗号など、傍受の時に内容を知ることが困難で判断できない通信は、全部を傍受できる。この場合は、速やかに該当するかを判断しなければならない。
薬物取引の令状で傍受中、誰と何の話か分からない通話が始まった。すぐ切る必要はなく、判断に要る最小限だけ聞き、家族の雑談と分かった時点でやめる。
出題傍受すべき通信か明らかでない通信は、直ちに傍受を停止しなければならない(×)
- 「傍受すべき通信に該当するかどうか明らかでない通信は、直ちに傍受を停止しなければならない」(司法H23-26-ウ)=判断に必要な最小限度なら傍受できる
- 「外国語でも暗号でもない、ふつうの日本語の通話で、該当するかどうか明らかでないものは、全部を傍受してよい」(全部を傍受できるのは外国語・暗号などで判断できない通信=14条2項。それ以外は必要な最小限度)
4他犯罪傍受と事後審査(通信傍受法15条・27条)条文
- 15条:傍受の実施をしている間に、傍受令状に被疑事実として記載されている犯罪以外の犯罪であって、①別表第一・別表第二に掲げるもの、または②死刑・無期・短期1年以上の拘禁刑に当たるものを、実行したこと・実行していること・実行することを内容とするものと明らかに認められる通信が行われたときは、その通信の傍受をすることができる。
- 数字の向きに注意:令状の段階で問題になる準備の罪(別表の罪と一体のものとして、その実行に必要な準備のために犯される罪)は「死刑又は無期若しくは長期2年以上の拘禁刑」(3条1項3号)。他犯罪傍受は「短期1年以上」(短期=刑の下限、長期=刑の上限)。
- 事後審査:傍受の実施の終了後、遅滞なく、令状を発付した裁判官が所属する裁判所の裁判官(25条4項の裁判官)に出す書面に、15条の通信について罪名・罰条と、15条の通信に当たると認めた理由を書く(27条1項6号)。裁判官は15条の通信に当たるかを審査し、当たらないと認めるときは傍受の処分を取り消す(27条3項)。取り消すときは33条3項・5項・6項を準用=一定の場合、その通信の記録の消去を命じる。特定電子計算機方式(23条1項1号)の書面では27条2項4号が同じ役。
覚醒剤の譲渡しを被疑事実とする令状で傍受中、仲間が「来週、あいつを殺す」と段取りを話し合っている。殺人は死刑・無期を含む罪なので、令状に書いていなくても傍受できる。ただし、まだ何の話かはっきりしない段階で許されるのは、令状記載の通信かどうかを確かめるスポットモニタリングまで。
出題覚せい剤取締法違反の傍受令状で実施中、無関係の殺人の計画と明らかに認められる通信は傍受できる(○)
- 「傍受令状に記載されていない犯罪の通信は、どれほど重い犯罪でも傍受できない」
- 「令状記載以外の犯罪なら、罪の重さを問わず、明らかに認められれば傍受できる」(別表第一・第二か、死刑・無期・短期1年以上の拘禁刑に当たる罪に限る)
- 「他犯罪傍受は、短期1年以上ではなく長期2年以上の拘禁刑に当たる罪」(長期2年以上は令状の段階の準備の罪)
- 「他犯罪傍受は、傍受した捜査機関の判断で終わり、裁判官の審査は無い」(27条3項の事後審査)
5一時的保存命令方式(通信傍受法20条・21条)条文解説書
- 背景(解説書):従来の方式は、実施中ずっと立会いが要る → ①立会人の確保が難しい ②実施場所が通信管理者等の施設に限られる ③リアルタイムの聴取が前提で、捜査機関と立会人が長時間待つ。それでも、捜査機関が知りうる範囲を必要最小限度にする措置は要る → 平成28年改正で、従来の方式に加えて2つの方式を入れた(従来の方式は残る)。
- 20条1項:裁判官の許可を受けて、通信管理者等に命じて、指定期間に行われる全ての通信を、変換符号で暗号化させ、一時的保存をさせる。この傍受の実施には13条(立会い)を適用しない(20条1項後段)。
- 許可の請求は傍受令状の請求の際にし、裁判官は許可をするとき傍受令状にその旨を記載する(4条3項・5条3項・6条2項)。この方式の実施の場所は、裁判官が許可のときに通信管理者等の管理する場所として定める(5条4項)。
- 指定期間内は、検察官・司法警察員は傍受の実施の場所に立ち入ってはならない(20条5項)。
- 21条1項:後で、傍受の実施の場所で、通信管理者等に命じて対応変換符号で復号させ、通信を復元させて再生する。再生の実施には11条〜13条を準用=立会いが戻る。
- 鍵(変換符号・対応変換符号)は、裁判官の命を受けて裁判所書記官その他の裁判所の職員が作り、通信管理者等に提供する(9条1号)。解説書:暗号化と、鍵を裁判所の職員が作ることで、リアルタイムで立ち会わせる必要がなくなった。
- 復号が終わったら、一時保存した暗号化信号は通信管理者等が直ちに全部消去する(22条1項)。
一時保存の間は立会人がいなくてよく、捜査官は実施の場所に入れない。保存した通信を開けて聞くときは、通信会社の担当者が立ち会う。
- 「一時的保存命令方式では、立会いは一切要らない」(再生の段階で13条が準用される)
- 「一時的保存命令方式では、改変できない自動記録の機械が無いので、一時保存の段階でも立会いが要る」(一時保存の段階は13条を適用しない=20条1項後段)
- 「変換符号・対応変換符号は、捜査機関が作る」(裁判所の職員が作る)
- 「平成28年改正で、従来の方式は新方式に置き換えられた」(従来の方式に加えた)
6特定電子計算機方式(通信傍受法23条)条文解説書
- 23条1項:裁判官の許可を受けて、通信管理者等に命じて、全ての通信を変換符号で暗号化させ、傍受の実施の場所に設置された特定電子計算機に伝送させる。この傍受の実施には13条(立会い)を適用しない。
- やり方は2つ:①受信と同時に復号して傍受(23条1項1号) ②受信と同時に一時的保存をし(同項2号)、後で特定電子計算機で復号して再生(23条4項)。
- ②の再生の実施に準用されるのは11条・12条・21条7項〜9項=13条は準用されない → 再生でも立会いは戻らない(一時的保存命令方式との違い)。
- 特定電子計算機は、傍受・再生した通信を、全て、自動的に暗号化して記録する機能などを持つもの(23条2項)。鍵はこの方式でも裁判所の職員が作る(9条2号)。
- 解説書:立会人のチェック機能を機械の記録で代え、事後に検証できる → 立会人なしで、捜査機関の施設で傍受を実施することが可能になった(条文は「傍受の実施の場所に設置された」で、捜査機関の施設に限ってはいない。傍受の実施の場所は傍受令状に記載される=6条1項)。
| 従来の方式 | 一時的保存命令方式 | 特定電子計算機方式 | |
|---|---|---|---|
| 新方式の許可 | (傍受令状だけ) | 裁判官の許可(20条1項) | 裁判官の許可(23条1項) |
| 聞くとき | 実施中にその場で | 一時保存 → 後で復号・再生 | 受信と同時に復号/同時に一時保存 → 後で再生 |
| 立会い | 要る(13条1項) | 一時保存の段階は要らない/再生で要る(21条1項後段) | 要らない(後で再生するときも) |
| 鍵 | — | 裁判所の職員が作る(9条1号・2号) | |
| 立会いの代わり | — | 暗号化・指定期間中の立入禁止(再生では立会い) | 暗号化・全部を自動で記録 |
特定電子計算機方式でも、いったん保存しておいて後で再生できる。その再生のときも立会人は要らない。一時的保存命令方式なら、再生のときに通信会社の担当者が立ち会う。
- 「特定電子計算機方式でも、保存した通信を後で再生するときは立会いが要る」(23条4項は13条を準用しない)
- 「特定電子計算機方式は、受信と同時にしか聞けない」(同時に一時保存して後で再生するやり方もある)
- 「新しい2つの方式は、捜査機関が自分の判断で選べる」(どちらも裁判官の許可が要る)
- 「特定電子計算機方式は、捜査機関の施設でしか実施できない」(条文は「傍受の実施の場所に設置された」)
7記録と傍受記録(通信傍受法24条〜26条・29条)条文
- 24条1項:傍受をした通信は、全て記録媒体に記録する(一時的保存命令方式では、再生をした通信)。無関係な通信も入る。回線を流れた全ての通信ではない。
- 傍受の実施(一時的保存命令方式なら再生の実施)を中断・終了したら、速やかに立会人に封印を求める(25条1項・2項)→ 遅滞なく、傍受令状を発付した裁判官が所属する裁判所の裁判官に提出(25条4項)。
- 特定電子計算機方式:24条・25条にかかわらず暗号化して記録し(26条1項)、封印の手続なく、実施の終了後遅滞なく同じ裁判官に提出(26条4項)。
- 裁判官に提出した記録媒体=傍受の原記録(29条6項の呼び名)。
- 傍受記録=刑事手続で使うための記録。同時に作った記録媒体や複製から、①傍受すべき通信 ②14条2項で傍受した通信で、なお内容を復元する措置を要するもの ③15条の通信 ④それらと同一の通話の機会の通信 以外の記録を消して作る(29条3項。再生した通信の記録も同じ形で作る=4項。両方をまとめて傍受記録と呼ぶ=5項)。
- 傍受記録に記録されたもの以外の傍受した通信は、内容を他人に知らせ、使用してはならない(29条7項)。
傍受中に家族の雑談をスポットモニタリングで少し聞いた。その部分は裁判官に出す記録媒体には残るが、捜査で使う傍受記録からは消される(同じ通話の中に傍受すべき通信があれば残る)。
- 「記録媒体には、傍受すべき通信だけを記録する」(傍受をした通信は全て記録する)
- 「特定電子計算機方式の記録媒体も、立会人の封印を受けてから提出する」(封印の手続なく提出)
8通知と聴取等(通信傍受法30条〜32条)条文
- 30条1項:検察官・司法警察員は、傍受記録に記録されている通信の当事者に、傍受記録を作った旨などを書面で通知しなければならない。通知には、傍受記録の聴取等・原記録の聴取等の許可の請求・不服申立てができる旨も書く(30条1項7号)。
- 30条2項:通知は、当事者が特定できない・所在が明らかでない場合を除き、傍受の実施が終了した後30日以内に発する。ただし、地方裁判所の裁判官は、捜査が妨げられるおそれがあると認めるときは、検察官・司法警察員の請求により、60日以内の期間を定めて延長できる。
- 捜査に支障があっても延ばせるだけで、通知を省くことはできない。当事者が特定できない・所在が明らかでないため期間内に出せなかったときも、特定・判明したら速やかに通知する(30条3項)。
- 31条:通知を受けた当事者は、傍受記録のうち自分の通信の部分を聴取・閲覧・複製できる(裁判官の許可は要らない)。
- 32条1項:31条で聴取等をした当事者が、傍受記録の正確性の確認のために必要その他正当な理由があるときは、請求により、原記録保管裁判官が傍受の原記録の相当部分の聴取等を許可しなければならない。
捜査に差し支えるからといって通知をやめることはできない。地方裁判所の裁判官に請求して、60日以内の期間を定めて期限を延ばしてもらえるだけ。
出題傍受の事後の通知は、捜査が妨げられるおそれがあれば通知しないことができる(×)
- 「通知により捜査が妨げられるおそれがあると認めるときは、通知をしないことができる」(司法H23-26-オ)=延長できるだけ
- 「通知の期間は、捜査機関が自ら延長できる」(請求を受けた地方裁判所の裁判官が延長する)
- 「傍受の原記録も、通知を受けた当事者は許可なく聴取できる」(許可なくできるのは傍受記録。原記録は裁判官の許可)
9不服申立て(通信傍受法33条)条文
- 33条1項:裁判官がした通信の傍受に関する裁判に不服がある者は、その裁判官が所属する裁判所に、その裁判の取消し又は変更を請求することができる。
- 33条2項:検察官・検察事務官がした傍受・再生に関する処分→その検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に、司法警察職員がした処分→その職務執行地を管轄する地方裁判所に、処分の取消し又は変更(傍受の実施・再生の実施の終了を含む)を請求できる。
- 不服申立ては、通知の後に限られない(2項は実施の終了を求めることも含む)。
- 刑事訴訟法では、裁判官がした検証に関する裁判の取消し・変更は請求できない(準抗告の対象を定める刑事訴訟法に検証は無い。司法H19-39-4 が正しい肢)=傍受は違う。
| 不服の対象 | どこに | 条文 |
|---|---|---|
| 裁判官の裁判 | その裁判官が所属する裁判所 | 33条1項 |
| 検察官・検察事務官の処分 | その検察庁の所在地を管轄する地方裁判所 | 33条2項 |
| 司法警察職員の処分 | その職務執行地を管轄する地方裁判所 | 33条2項 |
出題刑訴法では裁判官がした検証に関する裁判の取消し・変更を請求できないが、通信傍受法では傍受に関する裁判の取消し・変更を請求できる(○)
- 「刑事訴訟法の検証と同じく、裁判官がした通信の傍受に関する裁判の取消し・変更は請求できない」
- 「不服申立ての対象は、検察官・検察事務官の処分に限られ、司法警察職員の処分は含まれない」(33条2項は司法警察職員の処分も明記)