通信傍受②立会いとスポットモニタリング
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第2章 捜査 ㉖/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
令状を取ったあとにも、歯止めがある
図:傍受令状の紙面から実際に電話を聞く現場への場面転換を示す導入板
前回、傍受令状の話をしました。令状が取れても、聞き放題にはなりません。令状を取ったあとにも、歯止めがあります。令状の要件をクリアしたのに、まだ縛りがあるんですか。あります。傍受は、発付の時点で対象を確定できない継続的な処分でしたね。だから、実際に聞いている最中にも、歯止めを効かせ続ける必要があります。今日は、その続きです。その前に、1つだけ確認させてください。前回、傍受令状の発付には、4つの要件がありましたね。嫌疑、数人共謀、犯罪関連通信——前回のもう1つは、何でしたか?……他の方法では難しい、という補充性です。この4つを満たして、ようやく令状が出ます。今日は、そこから先の話です。
実施の歯止め①——立会いと、示さなくてよいもの
図:傍受令状は通信管理者等に示すが被疑事実の要旨だけは示さなくてよいことを示す一覧板
傍受を実際に行うとき、まず何をするか。通信を扱っている事業者、通信管理者等に、傍受令状を示します。ただし、被疑事実の要旨だけは、示さなくてよいことになっています。通信傍受法10条1項のルールです。被疑事実の要旨を見せると、どの事件の誰を捜査しているか、事業者側の担当者に具体的に伝わってしまいます。捜査中の事件の秘密を守るための例外です。通信手段や傍受すべき通信の範囲さえ分かれば、事業者は対応できます。次に、実施の現場を誰が見張るかです。
条文通信傍受法第13条第1項
通信傍受法第13条第1項 傍受の実施をするときは、通信管理者等を立ち会わせなければならない。通信管理者等を立ち会わせることができないときは、地方公共団体の職員を立ち会わせなければならない。
通信管理者等が立ち会えないこともあるんですか。あります。小規模な事業者だと、長時間の立会いを出せないこともあります。そのときの受け皿が、地方公共団体の職員です。捜査機関以外の目が常に入ることで、「令状に書いていない話まで聞いていないか」をその場で確認できます。
実施の歯止め②——スポットモニタリングと他犯罪傍受

ここで、1つ考えてみてください。傍受令状には、聞いてよい通信が書いてあります。でも、実際に聞いてみるまで、その通信が対象かどうか分からないことがあります。薬物犯罪を調べていて、電話の向こうで殺人の計画を話し始めたら、警察はどうすればいいと思いますか?ここを整理するために、2つの制度を見ます。1つ目、スポットモニタリングです。会話傍受と秘密録音の回で、判断のために少しだけ聞く、として出てきた呼び名です。今は、この条文に書かれています。
条文通信傍受法第14条第1項
通信傍受法第14条第1項 検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に行われた通信であって、傍受令状に記載された傍受すべき通信(以下単に「傍受すべき通信」という。)に該当するかどうか明らかでないものについては、傍受すべき通信に該当するかどうかを判断するため、これに必要な最小限度の範囲に限り、当該通信の傍受をすることができる。
対象の通信かどうか、分からない段階で、判断するために必要な最小限だけ聞く。これがスポットモニタリングです。「これは対象かな」と断続的に確認するだけで、対象でないと分かれば、そこで止めます。2つ目、他犯罪傍受です。
条文通信傍受法第15条
通信傍受法第15条 検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に、傍受令状に被疑事実として記載されている犯罪以外の犯罪であって、別表第一若しくは別表第二に掲げるもの又は死刑若しくは無期若しくは短期一年以上の拘禁刑に当たるものを実行したこと、実行していること又は実行することを内容とするものと明らかに認められる通信が行われたときは、当該通信の傍受をすることができる。
こちらは、対象かどうか分からない場面ではありません。令状に書いていない犯罪の、しかも対象犯罪か、死刑・無期・短期1年以上の拘禁刑にあたる重い罪の話だと明らかに分かった場面です。だから、冒頭の問いに戻ると、答えは2通りあります。まだ何の話か分からない段階では、スポットモニタリングで、判断に必要な分だけ聞きます。たとえば家族との夕食の相談だと分かれば、そこで切ります。殺人の計画だと明らかに分かった段階で、はじめて他犯罪傍受として傍受できます。理由は2つあります。1つ目。その会話は、令状どおりに傍受している最中に、もう耳に入っています。重い犯罪だと明らかな話を、令状に書いていないというだけで捨てさせるのは不合理です。2つ目。重い犯罪で、しかも内容が明らかな場面に限られます。令状に書いていない話を探しに行くための仕組みではありません。そのうえで、もう1つ歯止めが付いています。他犯罪傍受をした場合は、通信傍受法27条にもとづいて、あとから裁判官が事後審査をします。要件を欠いていたと認められれば、その通信の傍受は取り消されます。
実施の最中に広がりすぎないための歯止めが、立会い、スポットモニタリングの限定、他犯罪傍受の事後審査。この3つです。
なぜ合理化が必要だったか——従来方式の非効率

ここまでが、従来からある実施方式の話です。ただ、このやり方には、大きな負担がありました。課題は3つあります。1つ目、傍受の実施中は常時、立会人が要ります。事業者側の担当者を、何日も拘束することになります。2つ目、立会人を確保する関係で、実施場所が通信管理者等の施設に限られます。捜査機関の側で場所を選べません。3つ目、通信はいつ行われるか分からないので、捜査機関と立会人が、長時間待ち続けることになります。とはいえ、立会いを単純にやめることはできません。捜査機関が知りうる通信の範囲を必要最小限度に抑えるチェックは、引き続き必要です。チェックが無ければ、夕食の相談のような無関係な会話まで、聞き続けられてしまいます。
そこで平成28年、2つの新しい方式ができました。
平成28年改正——2つの新方式と、立会いに代わる担保

1つ目、一時的保存命令方式です。
条文通信傍受法第20条第1項
通信傍受法第20条第1項 検察官又は司法警察員は、裁判官の許可を受けて、通信管理者等に命じて、傍受令状の記載するところに従い傍受の実施をすることができる期間(前条の規定により傍受の実施を終了した後の期間を除く。)内において検察官又は司法警察員が指定する期間(当該期間の終期において第十八条の規定により傍受の実施を継続することができるときは、その継続することができる期間を含む。以下「指定期間」という。)に行われる全ての通信について、第九条第一号の規定により提供された変換符号を用いた原信号(通信の内容を伝達するものに限る。)の暗号化をさせ、及び当該暗号化により作成される暗号化信号について一時的保存をさせる方法により、傍受をすることができる。この場合における傍受の実施については、第十三条の規定は、適用しない。
実施中の通信は、その場では聞かず、変換符号、つまり暗号化の符号を使って暗号化したうえで、一時的に保存させます。この一時保存の段階には、13条の立会いの規定は適用されません。立会いは完全になくなるんですか。違います。保存したあとに、復号して、つまり暗号を元に戻して聞く段階があります。
条文通信傍受法第21条第1項
通信傍受法第21条第1項 検察官又は司法警察員は、前条第一項の規定による傍受をしたときは、傍受の実施の場所(指定期間以外の期間における傍受の実施の場所が定められているときは、その場所)において、通信管理者等に命じて、同項の規定により一時的保存をされた暗号化信号について、第九条第一号の規定により提供された対応変換符号を用いた復号をさせることにより、同項の規定による傍受をした通信を復元させ、同時に、復元された通信について、第三項から第六項までに定めるところにより、再生をすることができる。この場合における再生の実施(通信の再生をすること並びに一時的保存のために用いられた記録媒体について直ちに再生をすることができる状態で一時的保存の状況の確認及び暗号化信号の復号をすることをいう。以下同じ。)については、第十一条から第十三条までの規定を準用する。
復号させて、通信を復元し、再生して聞くこの段階には、11条から13条までが準用されます。つまり、立会いはこの再生の場面で戻ってきます。リアルタイムで常時張り付く必要がなくなっただけです。ここに、もう1つ仕掛けがあります。暗号化に使う変換符号と、復号に使う対応変換符号は、捜査機関ではなく、裁判所の職員が作って提供します。通信傍受法9条のルールです。鍵にあたる符号を裁判所側に握らせることで、立会いがなくても捜査機関が勝手に聴取・改変できない仕組みになっています。鍵のかかる宅配ボックスに近いです。荷物は、その場では開けずに箱へ入れておく。鍵を作るのは、運ぶ側ではなく管理会社。開けるときは、立会人が横で見ています。
2つ目、特定電子計算機方式です。
条文通信傍受法第23条第1項(柱書・抄)
通信傍受法第23条第1項(柱書・抄) 検察官又は司法警察員は、裁判官の許可を受けて、通信管理者等に命じて、傍受の実施をしている間に行われる全ての通信について、第九条第二号イの規定により提供された変換符号を用いた原信号(通信の内容を伝達するものに限る。)の暗号化をさせ、及び当該暗号化により作成される暗号化信号を傍受の実施の場所に設置された特定電子計算機に伝送させた上で、次のいずれかの傍受をすることができる。この場合における傍受の実施については、第十三条の規定は適用せず、第二号の規定による傍受については、第二十条第三項及び第四項の規定を準用する。
こちらは、暗号化した通信を、捜査機関の施設にある、特定電子計算機に送らせます。この方式の傍受の実施には、13条の立会いの規定が適用されません。こちらは、一時保存方式と違って、あとから立会いが戻ってくる場面もないんですか。ありません。捜査機関の施設で、立会いなしに実施できます。特定電子計算機は、傍受・再生した通信のすべてを、改変できない形で自動的に記録する機能を持っています。立会人がその場で見張る代わりに、機械の記録が残るので、あとから「本当に対象の範囲しか聴取していないか」を検証できます。ドライブレコーダーに近いです。横に誰も座っていなくても、書き換えられない形で全部記録が残ります。
どちらも、暗号化と、あとから検証できる仕組みで、適正さを担保しています。捜査機関のふつうのパソコンで、録音しながら聞くのではだめなんですか。だめです。ふつうのパソコンの記録は、あとから書き換えられます。立会いを外せるのは、改変できない自動記録という代わりの担保があるときだけです。
覚えるポイント — 従来方式と2つの新方式の対比
歯止めをなくしたわけではありません。立会いという「歯止めのやり方」を、暗号化と自動記録という技術に置き換えた、というのが、平成28年改正の中身です。
傍受が終わったあと——記録・通知・不服申立て
図:原記録の作成から傍受記録の作成通知閲覧不服申立てへ至る流れを示す通し図
傍受の実施が終わったら、どうなるか。まず、聞いた通信の全部を記録媒体に記録します。通信傍受法24条1項のルールです。これが原記録です。無関係な通話も含めて、全部入っています。原記録は、立会人に封印してもらったうえで、傍受令状を発付した裁判官が所属する裁判所の裁判官に提出します。25条のルールです。さっきの特定電子計算機方式は、これと同じ手順ですか。そこは違います。特定電子計算機方式で作られた記録媒体は、暗号化されていて改変できません。だから、26条4項のルールで、封印は不要とされています。実施が終わったら、遅滞なく裁判官に提出すれば足ります。
次に、原記録から、使う部分だけを取り出します。
条文通信傍受法第29条第3項(柱書・抄)
通信傍受法第29条第3項(柱書・抄) 第一項に規定する記録は、第二十四条第一項後段若しくは第二十六条第二項の規定により記録をした記録媒体又は第二十五条第三項の規定により作成した同条第一項の記録媒体の複製から、次に掲げる通信以外の通信の記録を消去して作成するものとする。
原記録の複製から、事件と無関係な通信を消去したものが、傍受記録です。防犯カメラの録画にたとえると、録画全部が原記録、事件に関係する場面だけを残した編集版が傍受記録です。だから、実施中には気づけなかった本人に、あとから気づかせる仕組みが要ります。
条文通信傍受法第30条第2項
通信傍受法第30条第2項 前項の通知は、通信の当事者が特定できない場合又はその所在が明らかでない場合を除き、傍受の実施が終了した後三十日以内にこれを発しなければならない。ただし、地方裁判所の裁判官は、捜査が妨げられるおそれがあると認めるときは、検察官又は司法警察員の請求により、六十日以内の期間を定めて、この項の規定により通知を発しなければならない期間を延長することができる。
通知は、原則30日以内。捜査に支障があれば、地方裁判所の裁判官の許可で、60日以内の期間を定めて、延ばせます。通知を受けた当事者は、自分に関わる傍受記録を、聴取・閲覧・複製できます。通信傍受法31条のルールです。正確性を確認する必要があるときなど、一定の事情があれば、裁判官の許可を得て、原記録まで遡れます。32条1項のルールです。最後に、不服があるときの手段です。
条文通信傍受法第33条第1項
通信傍受法第33条第1項 裁判官がした通信の傍受に関する裁判に不服がある者は、その裁判官が所属する裁判所に、その裁判の取消し又は変更を請求することができる。
条文通信傍受法第33条第2項
通信傍受法第33条第2項 検察官又は検察事務官がした通信の傍受又は再生に関する処分に不服がある者はその検察官又は検察事務官が所属する検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に、司法警察職員がした通信の傍受又は再生に関する処分に不服がある者はその職務執行地を管轄する地方裁判所に、その処分の取消し又は変更(傍受の実施又は再生の実施の終了を含む。)を請求することができる。
裁判官のした裁判に不服があれば1項、検察官や検察事務官、司法警察職員がした処分に不服があれば2項です。実施中に気づけなかった分まで、通知、閲覧、不服申立てで事後的に埋め合わせる。これが、傍受が終わったあとの歯止めです。
今日の地図(保存版)

今日の内容を振り返ります。実施中の歯止めは、立会い、スポットモニタリングの限定、他犯罪傍受の事後審査でした。従来方式は、常時立会いのせいで、立会人の確保、実施場所の制約、長い待機時間という負担がありました。平成28年改正は、歯止めをなくすのではなく、暗号化と自動記録という技術に置き換えました。一時的保存命令方式は立会いを残しつつリアルタイム性をなくし、特定電子計算機方式は立会いそのものを自動記録に置き換えました。終わったあとは、原記録から傍受記録を作り、通知、閲覧、不服申立てで、実施中に気づけなかった本人の権利を事後的に守ります。
発付前は4要件で絞り、実施中は立会いと事後審査で絞り、実施後は通知と不服申立てで埋め合わせる。令状を取って終わりではないんですね。発付前、実施中、実施後。この3段で、通信傍受法の手続を通しで言えるようになりました。
参照条文
- 通信傍受法第13条第1項
- 通信傍受法第14条第1項
- 通信傍受法第15条
- 通信傍受法第20条第1項
- 通信傍受法第21条第1項
- 通信傍受法第23条第1項(柱書・抄)
- 通信傍受法第29条第3項(柱書・抄)
- 通信傍受法第30条第2項
- 通信傍受法第33条第1項
- 通信傍受法第33条第2項