取調べの録音録画義務と供述調書
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第2章 捜査 ㉘/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
取調室から、帰れるか

いつでも帰れるのか、それとも、帰してもらえないのか、という質問ですね。答えは、場合によります。家にいる被疑者なら、帰れます。拘束されている被疑者は、実務では帰れません。ただし、話す義務まではありません。今日は、そこから始めます。被疑者本人から供述を得る手続、取調べそのものの骨格を見ていきましょう。
出頭要求と受忍義務——なぜ対立するかまで

まず、出頭要求の条文を確かめましょう。
条文刑事訴訟法第198条第1項
刑事訴訟法第198条第1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
逮捕も勾留もされていない被疑者、実務ではこれを在宅の被疑者と呼びますが、この人には出頭を拒む自由も、出頭したあと帰る自由もあります。在宅事件の取調べは、相手の同意に頼る任意捜査です。別件逮捕・勾留の回で見た対立を思い出しましょう。拘束中の被疑者が取調室から帰れるか。実務と学説、どちらが義務を認めていたか、思い出せますか?実務が認めて、学説は否定、でした。実務の根拠から見ましょう。この但書を逆から読む、つまり反対解釈すると、拘束されている被疑者には、出頭を拒む自由も、退去する自由も無い、とも読めます。ここから、拘束中の被疑者には取調べを受け入れる義務、取調べ受忍義務があるという考え方が出てきます。一方、学説は否定です。受忍義務を認めると、供述を強いられているのと同じ状態を作り出し、黙秘権の実質的な保障が損なわれる、というのが理由です。

捜査法の見取り図の回で見た、捜査観の違いが根っこにあります。被疑者を、調べられる客体と見るか、検察官と対等な防御の主体と見るか。客体だと見る発想が、糾問的捜査観でしたね。糾問的な捜査観は、受忍義務を認める発想に馴染みます。対等な主体だと見る弾劾的な捜査観は、受忍義務を否定する発想に馴染みます。現行法は、どちらか一方ではなく、両方のバランスの上に立っている、と言われます。実務が示す、出頭・在室の義務は認めるが供述義務は認めないという運用は、まさにこのバランスの落としどころです。家に来た訪問販売員なら、話を聞くかどうかも、途中で切り上げて奥に引っ込むかも、住人の自由です。一方、すでに合宿所に泊まり込んでいる人は、「話を聞かせてください」と言われても、部屋を出て帰ることはできません。
ただ、学説はここを突きます。部屋から出られずに、朝から晩まで「話してください」と言われ続けたら、話さない自由は、形だけになりませんか。それが否定説の核心です。帰れないことが、そのまま話す圧力に変わる。実務は、在室の義務を認めても、それだけで話さない自由を奪うことにはならない、と考えています。
黙秘権の告知——取調べの入口で告げる

この「話すかどうかは自由」という土台を支える条文が、もう1つあります。
条文刑事訴訟法第198条第2項
刑事訴訟法第198条第2項 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
取調べを始める前に、必ず告げなければなりません。黙っていていいと、わざわざ最初に告げるのはなぜですか。知らない権利は、使えないからです。取調室で質問されれば、答えなければいけないと思うのが普通です。だから、入口で必ず告げて、話すかどうかを自分で選べる状態にしてから始めます。
供述調書の作成——録取から署名押印拒否まで

取調べで話した内容は、調書という書面にまとめられます。この過程を条文どおりに追いかけます。
条文刑事訴訟法第198条第3項
刑事訴訟法第198条第3項 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
話した内容を、調書に書き取ります。
条文刑事訴訟法第198条第4項
刑事訴訟法第198条第4項 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
書いた後は、被疑者に見せるか、読み聞かせて、誤りがないかを確認します。被疑者が「ここは違う」と言えば、増減変更の申立てとして、その供述を調書に記載しなければなりません。
条文刑事訴訟法第198条第5項
刑事訴訟法第198条第5項 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。
ただし、拒否することもできます。窃盗の取調べを受けた被疑者Aが、話した内容を調書にまとめられたとします。読み聞かされたAが、「金額の部分は言っていない」と訂正を求めれば、その申立ての内容が調書に記載されます。そのうえで、Aが最後まで署名を拒めば、拒否したという結果ごと記録に残るだけです。署名を拒否された調書は、原則として、法廷で証拠として使えなくなります。署名にこだわるのは、調書を書くのが、取調官だからです。本当に本人の言葉どおりかは、書面だけでは分かりません。署名押印は、本人が「これは私の言葉です」と認める印です。だから、被告人になった本人の調書を証拠にする322条1項は、署名か押印を条件にしています。話すかどうかだけでなく、書かれた言葉を自分のものと認めるかも、最後まで本人が決める、ということです。
被疑者以外の者の取調べとの対比——223条

ここまでは、被疑者本人の取調べでした。被害者や目撃者のように、被疑者以外の者を調べるときはどうなるでしょうか。
条文刑事訴訟法第223条第1項
刑事訴訟法第223条第1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる。
さっきの198条1項と、かなり似た形ですね。鑑定の回では、この条文を鑑定を頼む根拠として見ました。今日使うのは、取調べの部分です。では、被疑者の取調べには黙秘権の告知が要るのに、被疑者以外の者の取調べには要らない、と言われたら、なぜだと思いますか。条文で確かめましょう。
条文刑事訴訟法第223条第2項
刑事訴訟法第223条第2項 第百九十八条第一項但書及び第三項乃至第五項の規定は、前項の場合にこれを準用する。
198条2項の告知が準用から外れている、そこが核心です。出頭拒否・退去の自由や、調書の作成手続は準用されますが、黙秘権の告知だけ、準用から外れています。処罰されるかどうかだけで分けると、少し不正確です。自分に不利益な供述を強いられないという権利自体は、被疑者以外の者にも及びます。違うのは、保障の広さです。被疑者には、取調べのどんな事柄についても黙っていてよいという、包括的な黙秘権があるとされています。だから、その広さを実質化するために、入口での告知が必要になります。被疑者以外の者は、自分が罪に問われかねない事柄についてだけ、供述を拒めます。この範囲の違いが、告知の有無につながります。
取調べの録音・録画義務——301条の2

ここまで見てきた取調べには、もう1つ、大事な仕組みがあります。話すかどうかが自由な取調べは、密室で行われます。密室である以上、中で本当に何があったかは、後から検証しにくい。この危険に応える制度が、301条の2の録音・録画です。対象は決まっています。まず1つ目、死刑または無期拘禁刑に当たる罪の事件。
条文刑事訴訟法第301条の2第1項各号
刑事訴訟法第301条の2第1項各号(対象事件) 一 死刑又は無期拘禁刑に当たる罪に係る事件 二 短期一年以上の拘禁刑に当たる罪であつて故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件 三 司法警察員が送致し又は送付した事件以外の事件(前二号に掲げるものを除く。)
短期1年以上とは、刑の下限が1年以上、という意味です。例えば、殺人は1号、けがをさせるつもりで殴って死なせた傷害致死は、2号に当たります。この1号・2号は、おおむね市民が裁判員として加わる裁判員裁判の対象事件と重なります。3つ目は、1号・2号とは性質が違います。3つ目は、警察から検察に送られてきた事件ではなく、検察官が自分で直接捜査している事件。検察官独自捜査事件と呼ばれます。さっきの窃盗のAは、対象ですか。対象外です。窃盗は1号にも2号にも当たらず、警察から送られる事件なので3号にも当たりません。

この録音・録画の義務は、一言では済みません。場面が違う、2つの義務に分かれています。ドライブレコーダーで考えてみましょう。走行中は常に記録しておく義務と、事故のときにその映像を提出する義務は、別の場面の別の義務です。まず1つ目、現場で記録しておく義務です。
条文刑事訴訟法第301条の2第4項柱書
刑事訴訟法第301条の2第4項柱書 検察官又は検察事務官は、第一項各号に掲げる事件(同項第三号に掲げる事件のうち、関連する事件が送致され又は送付されているものであつて、司法警察員が現に捜査していることその他の事情に照らして司法警察員が送致し又は送付することが見込まれるものを除く。)について、逮捕若しくは勾留されている被疑者を第百九十八条第一項の規定により取り調べるとき又は被疑者に対し第二百四条第一項若しくは第二百五条第一項(第二百十一条及び第二百十六条においてこれらの規定を準用する場合を含む。)の規定により弁解の機会を与えるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、被疑者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録媒体に記録しておかなければならない。
これは、検察官や検察事務官が、取調べの現場で負う義務です。次に、2つ目の義務、公判でその記録を使う義務を見ましょう。
条文刑事訴訟法第301条の2第1項
刑事訴訟法第301条の2第1項 次に掲げる事件については、検察官は、第三百二十二条第一項の規定により証拠とすることができる書面であつて、当該事件についての第百九十八条第一項の規定による取調べ(逮捕又は勾留されている被疑者の取調べに限る。第三項において同じ。)又は第二百三条第一項、第二百四条第一項若しくは第二百五条第一項(第二百十一条及び第二百十六条においてこれらの規定を準用する場合を含む。第三項において同じ。)の弁解の機会に際して作成され、かつ、被告人に不利益な事実の承認を内容とするものの取調べを請求した場合において、被告人又は弁護人が、その取調べの請求に関し、その承認が任意にされたものでない疑いがあることを理由として異議を述べたときは、その承認が任意にされたものであることを証明するため、当該書面が作成された取調べ又は弁解の機会の開始から終了に至るまでの間における被告人の供述及びその状況を第四項の規定により記録した記録媒体の取調べを請求しなければならない。ただし、同項各号のいずれかに該当することにより同項の規定による記録が行われなかつたことその他やむを得ない事情によつて当該記録媒体が存在しないときは、この限りでない。
公判で、被告人に不利益な供述が書かれた調書を、検察官が証拠として出そうとした場面です。そこで被告人側が、「その供述は自分の意思で話したものではない疑いがある」と異議を述べたとき。検察官は、4項で記録した記録媒体の取調べを請求しなければなりません。請求しなければどうなるか。
条文刑事訴訟法第301条の2第2項
刑事訴訟法第301条の2第2項 検察官が前項の規定に違反して同項に規定する記録媒体の取調べを請求しないときは、裁判所は、決定で、同項に規定する書面の取調べの請求を却下しなければならない。
記録媒体を出さないと、調書そのものが却下されるんですね。ドライブレコーダーの例えで言えば、事故のときに映像を出さなければ、自分の言い分を証明する手段を自分で失うのと同じです。現場で記録する義務と、公判で記録を出す義務は、別の場面の別の義務、という二層構造になっています。

記録する義務には、例外はないんですか。あります。4項各号の除外事由に当たれば、記録しなくてよくなります。
条文刑事訴訟法第301条の2第4項各号
刑事訴訟法第301条の2第4項各号(除外事由) 一 記録に必要な機器の故障その他のやむを得ない事情により、記録をすることができないとき。 二 被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動により、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき。 三 当該事件が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律…第三条の規定により都道府県公安委員会の指定を受けた暴力団の構成員による犯罪に係るものであると認めるとき。 四 前二号に掲げるもののほか、犯罪の性質、関係者の言動、被疑者がその構成員である団体の性格その他の事情に照らし…被疑者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあることにより、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき。
機器の故障で記録できないとき、それが1号です。2号は、被疑者自身が撮られることを拒んで、撮るとかえって十分に話せなくなる場合。3号は、指定を受けた暴力団の構成員が犯した罪の事件。4号は、記録されると被疑者や関係者が報復を恐れて話せなくなるおそれがある場合です。組織からの報復を恐れて供述できなくなることを防ぐための除外です。

平成28年改正、令和元年6月1日施行の新しい規定です。前回見た合意制度や刑事免責と同じ改正パッケージです。取調べで供述を得ることに過度に頼ってきた捜査・公判のあり方から、転換していこうという、共通の流れの一部です。
被疑者の防御の概観——4つの手段
図:弁護人選任権黙秘権不服申立て証拠保全請求という被疑者の防御手段の地図を示す板
ここまで、捜査機関の側から見た取調べを追いかけてきました。最後に、視点を被疑者の側に移します。被疑者は、ただ調べられるだけの立場ではありません。被疑者は嫌疑の対象にはなりますが、まだ犯人だと断定されたわけではなく、あらゆる制約を甘んじて受ける必要はありません。自分を守るための道具が、いくつも用意されています。弁護士を頼む弁護人選任権。話さずにいられる黙秘権。不当な処分に対する準抗告などの不服申立て。そして、179条の証拠保全請求。第1回公判期日より前の段階で、証拠が失われないよう裁判官に保全を求める制度です。今日は名前と条文番号だけ押さえておいてください。
今日見た取調べの場面で、被疑者が一番直接に使う道具は何ですか。黙秘権です。
今日のまとめ

今日の内容を振り返ります。1つ目。在宅の被疑者は出頭を拒み退去できますが、拘束中の被疑者には出頭・在室の受忍義務があるというのが実務の立場でした。ただし、話す義務までは認められていません。2つ目。調書は、録取から閲覧・読み聞かせ、増減変更の申立てを経て、署名押印を求められますが、拒否できます。拒否された調書は原則として証拠になりません。3つ目。被疑者以外の者の取調べには、黙秘権の告知だけが準用されません。被疑者の黙秘権が包括的な保護だからです。4つ目。301条の2は、現場で記録しておく義務と、公判で記録媒体を証拠として出す義務という、二層構造を持っています。
出頭・在室と供述、記録と提出、どちらも「近くにあるけど別の義務」という形でしたね。場面が違えば、義務も別。この見分け方を、覚えておいてください。
参照条文
- 刑事訴訟法第198条第1項
- 刑事訴訟法第198条第2項
- 刑事訴訟法第198条第3項
- 刑事訴訟法第198条第4項
- 刑事訴訟法第198条第5項
- 刑事訴訟法第223条第1項
- 刑事訴訟法第223条第2項
- 刑事訴訟法第301条の2第1項各号
- 刑事訴訟法第301条の2第4項柱書
- 刑事訴訟法第301条の2第1項
- 刑事訴訟法第301条の2第2項
- 刑事訴訟法第301条の2第4項各号