弁護人選任権と私選弁護人の選び方
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第2章 捜査 ㉙/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
逮捕されていなくても、弁護士に頼めるか

どうしましたか。逮捕される前でも弁護士に相談すべきか、ということですね。それは良い問いです。前回までで、被疑者が使える防御の道具を4つ挙げました。何だったか、覚えていますか?弁護士を頼む弁護人選任権、話さずにいられる黙秘権、不服申立て、証拠保全請求でした。今日は、その1つ目、弁護人選任権の中身に入ります。先に答えを言うと、逮捕を待つ必要はありません。刑訴法は、弁護人を「いつでも」選べる、としています。なぜそう言えるのか、今日はそこを確かめます。
弁護人選任権の根拠——憲法と刑訴法の関係

まず、憲法から確かめましょう。条文を並べて思い出しましょう。
条文憲法第34条前段
憲法第34条前段 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。
34条前段の権利は、身体拘束が条件です。
条文憲法第37条第3項
憲法第37条第3項 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
憲法の条文だけを見ると、そうなってしまいます。ここを埋めるのが、刑事訴訟法30条1項です。
条文刑事訴訟法第30条第1項
刑事訴訟法第30条第1項 被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。
刑訴法30条1項は、被告人が持つ「いかなる場合にも」という厚い保障を、拘束の有無を問わず、被疑者にも及ぼしています。34条前段は「拘束された人」、37条3項は「被告人」、それぞれ別の切り口で弁護人依頼権を保障しています。刑訴法30条1項は、この2つを合わせて、被疑者・被告人の双方に、拘束の有無を問わない「いつでも」の権利として与えています。この続きは、後半でもう一度戻ります。
なぜ弁護人選任権が保障されるか——本人と手続の両面から

先ほどの34条や37条3項の保障には、大きく分けて2つの柱があります。1つは、拘束されて孤立した本人を守るという柱。もう1つは、手続そのものを健全に保つという柱です。まず、本人の側から見てみます。身柄を拘束されると、外の世界とのつながりがほとんど絶たれます。身に覚えのない万引きで逮捕された被疑者Aは、留置されている間、外と話せる相手がほとんど弁護人だけ、という状態になります。その窓口があるからこそ、取り返しのつかない誤りを止められます。Aが取調べで「認めればすぐ帰れる」と言われ続けたとします。弁護人が面会して、覚えていないことは覚えていない、と言っていい、と伝えるだけで、虚偽の自白を1つ止められます。
次に、手続の側から見てみます。争える人がそばにいると、捜査や手続の行き過ぎに、歯止めがかかります。しかも争うだけでなく、事件の後の立て直しにもつながります。更生に向けた助言や、被害者との関係を整える働きかけです。本人を守る話と、手続を守る話は、どちらか1つに絞られるわけではありません。
誰を弁護人に選べるか——弁護士に限る原則

次に、「誰を」呼べるかです。
条文刑事訴訟法第31条
刑事訴訟法第31条 1項 弁護人は、弁護士の中からこれを選任しなければならない。 2項 簡易裁判所又は地方裁判所においては、裁判所の許可を得たときは、弁護士でない者を弁護人に選任することができる。ただし、地方裁判所においては、他に弁護士の中から選任された弁護人がある場合に限る。
弁護士でなければ弁護人になれないのが原則、簡裁・地裁では裁判所の許可があれば弁護士でない特別弁護人を選べる、という関係でした。弁護士に限るのは、法律の知識と、依頼人のために動く職業上の義務を持つ専門家でなければ、捜査機関と向き合う助けにならないからです。逮捕直後から知人を特別弁護人にできるか、そこが今日の境目です。起訴された後の段階でなら、特別弁護人を選べます。しかし、起訴される前、つまり被疑者の段階では、特別弁護人を選ぶことはできません。最高裁も、この点を判断しています。
判例最決平成5年10月19日(刑集47巻8号67頁)
起訴前の特別弁護人事件 刑訴法三一条二項によりいわゆる特別弁護人を選任することができるのは公訴が提起された後に限られる。
理由は2つあります。1つ目。31条1項は、弁護士でない者の選任を、一般的に禁止しています。2項は、その例外規定なんです。2つ目。2項をよく見ると、裁判所の種類で要件を分けています。地方裁判所では、他に弁護士の弁護人がいる場合に限る、というただし書きがあります。そこが問題なんです。例えば、簡易裁判所が許可した後、事件が地方裁判所に起訴されたとします。このとき、弁護士の弁護人がいなければ、ただし書きに抵触してしまいます。どの裁判所が事件を担当するか定まってからでないと、許可の要件を判断できないんです。
捜査段階で弁護人は何をするか——2つの顔

大きく分けて、2つの顔があります。1つ目は、捜査手続がきちんと適正に進んでいるかを見張り、被疑者が持っている権利の行使を支える顔です。取調べで何を話すか、何を黙るかについて助言したり、行き過ぎた捜査があれば、是正を働きかけたりします。2つ目は、被疑者の言い分を踏まえて、事実や法律上の主張を組み立て、その裏づけになる証拠を集める顔です。無実を示す証拠を独自に集めたり、被害者との話し合いを進めたりする活動も、この2つ目の顔に含まれます。1つ目の監視・支援は、昔からある中心的な役割です。2つ目の主張・証拠収集は、裁判員裁判や、公判の前に主張と証拠を出し合う公判前整理手続、それに、起訴される前の被疑者にも国が弁護人を付ける、被疑者国選の導入を経て、重要性が増してきた役割です。起訴されてから証拠を集め始めたのでは間に合わないので、捜査段階から準備する役割が重くなったのです。
今日は、この2つの顔があるという骨格だけ押さえてください。中身は、弁護人の権限を扱う回で改めて見ます。
私選弁護人はいつ選べるか——「いつでも」に戻る

さて、ここで冒頭の友人の話に戻りましょう。先ほど見た刑訴法30条1項の「何時でも」の中身を、もう少し具体的に見ます。「いつでも」には、少なくとも3つの場面が含まれます。1つ目、捜査機関から呼出しを受けた時点。2つ目、事情聴取を受けた人が、周りの状況から自分に嫌疑がかかっていると判断できる時点。3つ目、近い将来、自分が被疑者として捜査の対象になりそうだと予想できる時点。3つ目は、例えば、会社で経費の使い込みの社内調査が始まり、自分の名前が挙がっていると聞いた経理担当者です。警察がまだ動いていなくても、この時点で選べます。
身体拘束は、要件ではありません。逮捕されるのを待つ必要はありません。今、この時点で、弁護人選任権は使えます。
私選弁護人を選ぶ3つの入口

大きく分けて、3つの入口があります。1つ目は、頼みたい弁護士がすでに決まっている場合です。本人と弁護士の間で委任契約を結び、弁護人選任届を作って提出します。2つ目は、誰に頼めばいいか分からない場合です。この場合、弁護士会に選任の申出をできます。
条文刑事訴訟法第31条の2
刑事訴訟法第31条の2 1項 弁護人を選任しようとする被告人又は被疑者は、弁護士会に対し、弁護人の選任の申出をすることができる。 2項 弁護士会は、前項の申出を受けた場合は、速やかに、所属する弁護士の中から弁護人となろうとする者を紹介しなければならない。 3項 弁護士会は、前項の弁護人となろうとする者がないときは、当該申出をした者に対し、速やかに、その旨を通知しなければならない。同項の規定により紹介した弁護士が被告人又は被疑者がした弁護人の選任の申込みを拒んだときも、同様とする。
紹介できる弁護士がいなければ、その旨を通知する義務もあります。3つ目は、すでに逮捕や勾留で身体拘束されている場合です。
条文刑事訴訟法第78条第1項
刑事訴訟法第78条第1項 勾引又は勾留された被告人は、裁判所又は刑事施設の長若しくはその代理者に弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる。ただし、被告人に弁護人があるときは、この限りでない。
逮捕された被疑者にも、この仕組みが準用されています。拘束されて外部と連絡を取りづらい人でも、施設の長や裁判官という、その場にいる人を通じて、弁護人を探してもらえます。
選任届の方式——起訴前後で何が変わるか

弁護人選任届には、もう1つ、気をつけたい点があります。起訴の前と後で、選任届の方式と提出先が変わることです。起訴される前は、選任そのものの方式についてはっきりした定めがありません。選任する側、つまり被疑者やその家族の署名や捺印だけでも、起訴前の選任としては成り立ちます。ただし、それだけだと、起訴された後まで効力が引き継がれません。
条文刑事訴訟規則第17条
刑事訴訟規則第17条 公訴の提起前にした弁護人の選任は、弁護人と連署した書面を当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員に差し出した場合に限り、第一審においてもその効力を有する。
本人だけの署名では、その弁護士が本当に受任したのかが分かりません。弁護人本人にも署名させることで、受任の事実をその場で確かめられるようにしている、と説明されます。起訴前の選任を起訴後にも引き継ぎたいなら、選任する側と弁護人の両方が署名した書面を、その事件を扱っている検察官か司法警察員に出しておく必要があります。提出先を具体的に言うと、事件が検察庁に送られる前は、事件を扱っている警察署の司法警察員、送られた後は、送致先の検察庁の検察官です。例えば、さっきのAがまだ警察署にいる段階で、Aの署名だけの選任届を出したとします。この選任は、起訴前の選任としては有効ですが、弁護人の署名が無いので、起訴された後には引き継がれません。
起訴後に新しく選ぶときも、選任する側と弁護人の両方が連署した書面を、事件が係属する裁判所に差し出さなければなりません。刑事訴訟規則18条に定めがあります。起訴前の連署の届が起訴後も有効かは、被告人と弁護人の回で一度見た条文です。もう一度条文で確認しましょう。
条文刑事訴訟法第32条第1項
刑事訴訟法第32条第1項 公訴の提起前にした弁護人の選任は、第一審においてもその効力を有する。
連署の届を出してあれば、起訴前に選んだ弁護人は、第一審が終わるまで、そのまま効力を持ち続けます。連署の無い選任届だと、この32条の保護を受けられません。
私選弁護人は何人まで選べるか

実は、人数には上限があります。私選弁護人は、原則として3人までです。刑事訴訟規則27条に定めがあります。
条文刑事訴訟規則第27条第1項
刑事訴訟規則第27条第1項 被疑者の弁護人の数は、各被疑者について三人を超えることができない。但し、当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員の所属の官公署の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所が特別の事情があるものと認めて許可をした場合は、この限りでない。
許可を出すのは、事件を扱う検察官や司法警察員が所属する役所の所在地を管轄する裁判所です。上限を決めているのは、弁護人が増えすぎると、手続の連絡や進行が混乱しやすくなるからです。そこには例外があります。規則27条には、「特別の事情」があれば、3人を超えて選任できる但し書きがあります。実際に争われた事件があります。6人の弁護人を選任したいと申し出て、却下されたケースです。最高裁は、「特別の事情」があるといえる場合を、こう示しました。
判例最決平成24年5月10日(刑集66巻7号663頁)
私選弁護人の人数超過許可事件 事案が複雑で、頻繁な接見の必要性が認められるなど、広範な弁護活動が求められ、3人を超える数の弁護人を選任する必要があり、かつ、それに伴う支障が想定されない場合には、これがあるものと解される。
しかも、人数を増やしたことで、手続に支障が出ないこともあわせて必要とされました。複雑さと必要性、そして支障が無いこと、この組み合わせが「特別の事情」に当たるかどうかの判断材料になります。この決定は、6人という超過の請求を退けた下級審の判断を、取り消しました。上限を置いた理由は、弁護人が増えすぎて手続が混乱するのを防ぐことでした。広い弁護活動が必要で、しかも混乱のおそれが無いなら、その理由自体が働きません。だから超えてよい、という筋です。
本人以外にも選べる人——独立代理人

実は、本人以外にも、弁護人を選べる人がいます。今日は、その選任が「独立して」できるとはどういうことか、突っ込んで見ます。
条文刑事訴訟法第30条第2項
刑事訴訟法第30条第2項 被告人又は被疑者の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができる。
「独立して」というのがポイントです。本人の意思にかかわりなく、選任できる、という意味です。例えば、さっきのAが拘束されていて連絡が取りづらい間に、Aの配偶者Bが、Aに一言も確認しないまま、弁護士Cを選んで選任届を出すこともできます。ただし、そのまま何でも通るわけではありません。選任は独立してできても、解任、つまり弁護人をやめさせる場面では、本人の意思が最優先されます。Aは、Bが選んだCを、自分の判断で解任できます。逆に、Bが「Cをやめさせたい」と考えても、Aの意思に反してまで解任することはできません。
解任だけ本人が最優先なのは、弁護人選任権が本人の防御のためにある権利だからです。誰を味方としてそばに置くかは、最終的に本人にしか決められません。なお、すでに国が選んだ弁護人がいる場合、私選弁護人を新たに選ぶことは、その国選弁護人の解任事由にもなります。この国選弁護人の制度そのものは、改めて別に見ます。
今日のまとめ

今日の内容を振り返ります。1つ目。憲法34条前段の身体拘束時の権利と、憲法37条3項の被告人の権利を、刑訴法30条1項が「いつでも」として被疑者・被告人の双方に及ぼしています。2つ目。弁護人選任権は、拘束された本人を守る面と、手続そのものを健全に保つ面、その両方から支えられています。3つ目。弁護人は弁護士に限るのが原則で、弁護士でない特別弁護人は、起訴後の例外です。4つ目。捜査段階の弁護人には、適正手続の監視・支援と、事実・証拠面の主張・収集という、2つの顔があります。5つ目。「いつでも」とは、身体拘束を要件としない、という意味です。6つ目。私選弁護人を選ぶ入口は、委任契約、弁護士会への申出、裁判官等への申出の3つがあり、起訴前の選任を第一審まで引き継ぐには、弁護人との連署の届が必要です。7つ目。私選弁護人は原則3人までですが、事案の複雑さと接見の必要性など特別の事情があれば、超過が許可されることがあります。8つ目。本人以外にも、配偶者や親族が独立して弁護人を選べますが、解任する権利は本人に優先します。
逮捕を待つ必要はなく、今この時点で、弁護人選任権は使えます。弁護人がいなければ、国が弁護人をつける仕組みも別に用意されています。そこは、また改めて見ましょう。
参照条文
- 憲法第34条前段
- 憲法第37条第3項
- 刑事訴訟法第30条第1項
- 刑事訴訟法第31条
- 刑事訴訟法第31条の2
- 刑事訴訟法第78条第1項
- 刑事訴訟規則第17条
- 刑事訴訟法第32条第1項
- 刑事訴訟規則第27条第1項
- 刑事訴訟法第30条第2項