刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#56

被疑者国選弁護の要件と解任

印刷用PDFを開く

第2章 捜査 ㉙/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

お金が無くて弁護士を頼めない

逮捕された被疑者にお金が無く弁護士を頼めないという今日の問いを示す板 図:逮捕された被疑者にお金が無く弁護士を頼めないという今日の問いを示す板

今日は、前回触れた、国が弁護人をつける仕組みの続きです。前回、弁護人選任は「いつでも」できると学びました。でもそれは、頼めるお金がある人の話です。そこを埋めるのが今日のテーマ、被疑者国選弁護制度です。先に答えを言うと、国選弁護人が付くのは、勾留の段階からです。そして、いったん付いたら、本人や弁護人の一存では終われません。誰に、いつ、どう付くのか、そしてどう終わるのか、順番に見ていきます。

なぜ国が肩代わりするのか——私的契約から公費負担へ

国選弁護制度の意義=弁護人選任は本来私的な契約であり支払えなければ成立しないが本人を守る面と手続を健全に保つ面から国が費用を肩代わりする国選弁護制度が要るという板

まず、そもそもなぜ国が弁護士費用を肩代わりするのか、そこから確かめます。弁護人の選任は、本来、選ぶ側と弁護士との私的な契約です。契約である以上、費用を払えなければ成立しません。ここまでは私人どうしの取引と変わりません。でも、前回立てた2本柱は、何と何だったか、思い出せますか?拘束された本人を守る面と、手続そのものを健全に保つ面、でした。この2本柱で支えられている権利が、財布の中身だけで有る無しが決まってしまったら、どうなりますか。お金の有無で、守られる人と守られない人が分かれてしまいます。たとえば医療保険を考えてみてください。持病があって専門医にかからないと危ない人が、保険が効かず全額自己負担だったら、お金の切れ目が命の切れ目になりかねません。

弁護人選任権も同じ発想で、国が費用を肩代わりする仕組みが整えられました。これが国選弁護制度です。

憲法は「被告人」限定——それでも被疑者に広がった理由

被疑者国選弁護制度の根拠=憲法37条3項の国選弁護人請求権は文言上被告人にしか及ばないが2本柱を身体拘束の早い段階に当てはめて被疑者国選が広げられたという板

ただし、ここに落とし穴があります。前回見た憲法37条3項を、もう一度見てください。

条文憲法第37条第3項

憲法第37条第3項 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

憲法の文言上、国選弁護人を約束されているのは、「被告人」だけです。文言だけを見れば、そうなります。実際、刑訴法も長いあいだ、国選の対象を被告人に限っていました。さっきの2本柱に、もう一度戻ります。本人を守る面は、身体拘束のどの段階で一番強く効きますか。拘束されて孤立している間、です。それは起訴された後だけではなく、勾留されている捜査の段階からです。前回の被疑者Aが、「認めればすぐ帰れる」と言われ続けたのも、起訴される前の取調べでした。前回見た、捜査の行き過ぎに歯止めをかける働きは、捜査が進んでいる起訴前にこそ要ります。

そこで刑訴法は、憲法の明文が無いところに、法律で被疑者国選弁護制度を設けました。最初は重い事件に限って始まり、その後の改正を経て、平成28年の改正で、勾留された被疑者全体に広がりました。被疑者国選は、憲法が直接命じたものではなく、2本柱の趣旨を捜査段階に及ぼした、法律上の制度です。

では、逮捕された直後の被疑者はどうか

逮捕段階では被疑者国選を請求できず当番弁護士制度が代わりに機能するという板 図:逮捕段階では被疑者国選を請求できず当番弁護士制度が代わりに機能するという板

ここで1つ、考えてみてください。2本柱が一番強く効くのは、身体を拘束された直後です。では、逮捕された直後の被疑者は、この被疑者国選を請求できるでしょうか?冒頭で、勾留の段階から、と伺いました。でも、逮捕も拘束の一種です。それでも、現行法は逮捕段階を対象にしていません。逮捕から勾留までの間は、制度の対象外に残ります。ここで、さっきの「法律上の制度」が効いてきます。憲法が命じたものではないので、どこから付けるかは、法律が引く線です。今の法律は、その線を勾留に引いています。逮捕まで線を動かすことも、法律を変えればできます。実際、身体を拘束された人に弁護人の助けを保障する憲法34条を根拠に、国選を逮捕段階にまで広げるべきだ、という主張もあります。

逮捕から勾留までのそのすき間は、弁護士会が独自に動かしている当番弁護士制度が実務で補っています。今日は、逮捕段階は被疑者国選の対象外だ、ということだけ押さえてください。

被疑者国選の請求要件——いつから・誰が

被疑者国選弁護人の選任の要件=勾留状が発せられている被疑者が貧困その他の事由で弁護人を選任できないとき裁判官が請求により弁護人を付さなければならないという37条の2の要件を示す板

では、逮捕段階が対象外だとなぜ言えるのか、条文で確かめましょう。

条文刑事訴訟法第37条の2

刑事訴訟法第37条の2 被疑者に対して勾留状が発せられている場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付さなければならない。ただし、被疑者以外の者が選任した弁護人がある場合又は被疑者が釈放された場合は、この限りでない。 2 前項の請求は、勾留を請求された被疑者も、これをすることができる。

逮捕状ではなく、勾留状です。逮捕されただけの段階では、この条文はまだ動きません。2項は、勾留状が実際に発せられる前でも、検察官が裁判官に勾留を請求した段階から、もう請求できる、という意味です。勾留を請求された段階と、勾留状が発せられた段階、この2つのどちらかに入っていれば請求できます。たとえば、月曜に逮捕され、水曜に検察官が勾留を請求した被疑者なら、水曜のその時点から請求できます。月曜と火曜は、まだどちらにも入りません。次に、「貧困その他の事由」という要件です。この「その他の事由」には、お金が無いことのほかに、たとえば、弁護士会に頼んでも、引き受けてくれる弁護士が見つからなかった、という事情も入ります。そして、この要件を満たせば、裁判官は「付さなければならない」、つまり拒める裁量がありません。

ただし書きも大事です。すでに私選弁護人がいる場合や、被疑者が釈放された場合は、対象外です。

資力申告と基準額——先に私選を試す場面はどこまでか

資力申告書を提出し基準額50万円未満なら直ちに国選請求できるが基準額以上なら先に弁護士会への申出を経る必要があるという37条の3のフローを示す板

「貧困」を理由に請求するには、もう1つ手続があります。自分の資力を申告する書面、資力申告書を出すことです。

条文刑事訴訟法第37条の3第1項・第2項

刑事訴訟法第37条の3第1項・第2項 前条第一項の請求をするには、資力申告書を提出しなければならない。 2 その資力が基準額以上である被疑者が前条第一項の請求をするには、あらかじめ、その勾留の請求を受けた裁判官の所属する裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内に在る弁護士会に第三十一条の二第一項の申出をしていなければならない

資力申告書に書くのは、現金や預金など、政令で定める資産の合計額と、その内訳です。虚偽の資力申告には、10万円以下の過料という制裁があります。頭の片隅に置いてください。基準額は、政令で、50万円と定められています。標準的な生計費を賄ったうえで、弁護士費用に充てられる流動資産がこれを下回るかどうか、が基準です。資力が基準額未満なら、直ちに37条の2の請求ができます。手持ちの現金と預金を合わせても20万円ほどの被疑者が、こちらにあたります。基準額以上の場合が、さっきの条文の2項のポイントです。基準額以上の被疑者は、いきなり国選を請求できず、あらかじめ、弁護士会に弁護人選任の申出をしていなければなりません。預金が100万円ある被疑者は、こちらの、基準額以上の側にあたります。

31条の2の申出は、前回、誰に頼めばいいか分からない人が弁護士会に紹介を求める入口として見ました。資力がある人は、まずこの入口で私選を試してもらい、それでも引き受ける弁護士が見つからなかった場合に、さっきの「その他の事由」にあたるとして、国選の請求に進む、という流れです。国選は、私選がどうしても成り立たない場面を埋める制度、という位置づけが、この手続にも表れています。

本人が動けないとき・1人では足りないとき

精神上の障害等で弁護人の要否の判断が困難な場合に裁判官が職権で付す37条の4と死刑または無期拘禁刑にあたる事件で職権でさらに1人を追加できる37条の5を示す板

ここまでは、被疑者本人が請求する場面でした。本人が請求できない場合もあります。たとえば、精神上の障害などで、弁護人が必要かどうか、本人が自分で判断できない疑いがある場合です。

条文刑事訴訟法第37条の4

刑事訴訟法第37条の4 裁判官は、被疑者に対して勾留状が発せられ、かつ、これに弁護人がない場合において、精神上の障害その他の事由により弁護人を必要とするかどうかを判断することが困難である疑いがある被疑者について必要があると認めるときは、職権で弁護人を付することができる。ただし、被疑者が釈放された場合は、この限りでない。

財布の話ではなく、請求する判断能力そのものが問題になる場面の手当てです。人数は、原則1人です。ただし、重い事件では例外があります。

条文刑事訴訟法第37条の5

刑事訴訟法第37条の5 裁判官は、死刑又は無期拘禁刑に当たる事件について第三十七条の二第一項又は前条の規定により弁護人を付する場合又は付した場合において、特に必要があると認めるときは、職権で更に弁護人一人を付することができる。ただし、被疑者が釈放された場合は、この限りでない。

拘禁刑への一本化後の、現行の条文の言葉です。死刑、または無期拘禁刑にあたる重大事件で、すでに37条の2や37条の4で弁護人が付いている、または付ける場合に、特に必要があれば、裁判官が職権でもう1人追加できます。

終わり方——効力を失う場面と解任

国選弁護人の解任と効力の喪失=被疑者が釈放されると選任は効力を失うが勾留の執行停止による釈放は例外であり国選弁護人は自分からは辞められず裁判所が解任事由を認めたときだけ地位を失うという板

ここまでで、誰に、いつ、どう付くかを見ました。最後に、どう終わるかを見ます。まず、自然に効力を失う場面です。

条文刑事訴訟法第38条の2

刑事訴訟法第38条の2 裁判官による弁護人の選任は、被疑者がその選任に係る事件について釈放されたときは、その効力を失う。ただし、その釈放が勾留の執行停止によるときは、この限りでない。

国選は、身体拘束が続いていることを前提に付けられています。拘束が解ければ、前提が消えます。執行停止だけが例外なのは、なぜだと思いますか。以前、勾留から出る道具として見た、手術で数日だけ入院するときの執行停止です。勾留そのものは終わっていないんです。執行停止は、いつでも取り消されて身柄が戻り得る状態です。事件そのものは終わっていないので、国選弁護人の必要性も消えていません。だから効力は残ります。逆に、起訴されないまま釈放されたなら、勾留はそこで終わるので、国選の選任も効力を失います。釈放以外で終わらせる道が、解任です。

条文刑事訴訟法第38条の3

刑事訴訟法第38条の3 裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、裁判所若しくは裁判長又は裁判官が付した弁護人を解任することができる。一 第三十条の規定により弁護人が選任されたことその他の事由により弁護人を付する必要がなくなつたとき。二 被告人と弁護人との利益が相反する状況にあり弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき。三 心身の故障その他の事由により、弁護人が職務を行うことができず、又は職務を行うことが困難となつたとき。四 弁護人がその任務に著しく反したことによりその職務を継続させることが相当でないとき。五 弁護人に対する暴行、脅迫その他の被告人の責めに帰すべき事由により弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき。 2 弁護人を解任するには、あらかじめ、その意見を聴かなければならない。 3 弁護人を解任するに当たつては、被告人の権利を不当に制限することがないようにしなければならない。 4 公訴の提起前は、裁判官が付した弁護人の解任は、裁判官がこれを行う。この場合においては、前三項の規定を準用する。

大きくまとめると、もう弁護人が要らなくなった場合、本人と利益がぶつかる場合、心身の事情で続けられない場合、任務に著しく反した場合、本人の責めに帰すべきトラブルで続けられない場合、この5つです。4項を見てください。公訴提起前は、裁判官が同じ権限を行います。準用、という形です。そして2項にあるとおり、解任する前に、必ず弁護人本人の意見を聴かなければなりません。国選弁護人が自分から辞められるかどうか、そこが、私選と一番違う点です。最高裁の判断を見てみましょう。

判例最高裁昭和54年7月24日第三小法廷判決(刑集33巻5号416頁)

国選弁護人の地位・辞任の可否事件 国選弁護人は、裁判所が解任しない限りその地位を失うものではなく、したがつて、国選弁護人が辞任の申出をした場合であつても、裁判所が辞任の申出について正当な理由があると認めて解任しない限り、弁護人の地位を失うものではないというべきであるから、辞任の申出を受けた裁判所は、国選弁護人を解任すべき事由の有無を判断するに必要な限度において、相当と認める方法により、事実の取調をすることができるもの、と解するのが相当である。

弁護人が辞任を申し出ても、裁判所が正当な理由があると認めて解任しない限り、地位は続きます。私選は、依頼を受けた弁護士の判断で辞任できます。国選は、裁判所の判断でしか終われません。国選は、国が費用を負担して本人の防御を支える仕組みです。弁護人の都合だけで抜けられてしまうと、本人の防御が途切れてしまいます。だからこそ、判決は、解任すべき事由があるかどうかを、裁判所が事実の取調べまでして確かめられる、とも示しています。一存で消える権利ではない、ということです。

私選と国選、どこがどう違うか

始まり誰がいつ付くか続くあいだの人数終わり誰が終わらせるかという3つの軸で私選弁護人と国選弁護人を対比する表

ここまでの話を、私選弁護人と並べて整理しましょう。軸は3つです。始まり、続くあいだ、終わり、の3つで見ます。私選は、誰が付けるかというと、本人や家族です。いつ付けるかは、「いつでも」、拘束の有無すら問いません。国選は、被疑者の段階では裁判官が付けます。いつ付くかは、勾留を請求された段階、または勾留状が発せられた段階からです。次に「続くあいだ」です。ここは人数で見ます。私選の被疑者段階は、原則3人まで、特別の事情があれば超えられる、と前回見ました。国選は、原則1人。死刑・無期拘禁刑の事件だけ、職権でもう1人追加できます。

最後に「終わり」です。私選は、本人の意思でいつでも解任でき、弁護人の側も辞任できます。国選は、釈放で自然に終わる場合を除くと、裁判所・裁判官の判断でしか終われません。弁護人からの辞任はできません。費用も違います。私選は依頼者が負担しますが、国選は裁判所や支援機関が算定して国費から支給されます。

今日のまとめ

私的契約から公費負担への理由勾留段階からの要件資力申告と基準額職権選任と複数選任効力喪失と解任私選との対比という今日の骨格を1本にまとめる板

今日の内容を振り返ります。1つ目。弁護人選任は本来私的な契約ですが、2本柱で支えられる権利が財布の中身で分かれないように、国選弁護制度が整えられました。2つ目。憲法37条3項は「被告人」限定ですが、2本柱を捜査段階に及ぼした結果、被疑者国選が法律で設けられ、勾留された被疑者全体に広がりました。3つ目。逮捕段階は対象外で、起点は勾留を請求された段階、または勾留状が発せられた段階です。4つ目。資力が基準額、50万円以上なら、先に弁護士会への私選の申出を経る必要があります。5つ目。判断能力に疑いがある場合の職権選任と、重大事件でもう1人付ける複数選任があります。6つ目。釈放で効力を失いますが、勾留の執行停止は例外で、それ以外の終わりは裁判所・裁判官の解任しかなく、国選弁護人からの辞任はできません。7つ目。始まり、続くあいだ、終わり、この3つで見ると、私選と国選の違いが整理できます。

お金が無くても、勾留された段階から、国選弁護人を請求できます。ただし、逮捕されただけの段階は、まだその手前です。

参照条文

  • 憲法第37条第3項
  • 刑事訴訟法第37条の2
  • 刑事訴訟法第37条の3第1項・第2項
  • 刑事訴訟法第37条の4
  • 刑事訴訟法第37条の5
  • 刑事訴訟法第38条の2
  • 刑事訴訟法第38条の3

刑事訴訟法 全体ロードマップへ →

刑事訴訟法 の復習ノートを1ページで通して読む →