刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#59

接見交通権と接見指定の合憲性

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第2章 捜査 ㉚/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

独房で一人になった被疑者は、弁護人とどう会えるのか

取調べの合間独房で一人になった被疑者が弁護人に会いたいが警察官に今は会わせられないと言われたら許されるのかという今日の問いを示す板

今日は、その中身に入ります。まず、前提を思い出しましょう。身体を拘束された人に、弁護人を頼む権利を保障している憲法の条文は、何条だったでしょうか?34条前段です。選任権の回で見ました。今日は、選んだ弁護人と実際に会うための制度、接見交通権を見ます。そして、なぜその権利が制限されうるのか、そこまで確かめます。先に答えを言うと、警察官にできるのは、会う日時や時間をずらす指定までです。会わせないことはできません。

①接見交通権の中身——立会人なしの秘密交通権

刑訴法39条1項の接見交通権と一般の面会との立会いの有無の違いを示す板 図:刑訴法39条1項の接見交通権と一般の面会との立会いの有無の違いを示す板

まず条文を見ましょう。

条文刑事訴訟法第39条第1項

刑事訴訟法第39条第1項 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。

この権利を接見交通権と呼びます。「立会人なくして」って、そんなに特別なことなんですか。特別です。家族が面会に来る一般の面会には、警察官の立会いが付きます。話した内容は捜査機関に筒抜けになります。だから接見交通権は、秘密交通権とも呼ばれます。誰にも聞かれずに、弁護人と話せるという意味です。例えば、被疑者Aと弁護人Bが接見室に入ると、警察官は部屋の外に出ます。AとBが何を話したか、記録も残りません。81条が禁じるのは、弁護人以外の者との接見で、弁護人との接見はそもそも対象外です。向いている先が、39条1項の接見交通権とは逆なんです。

①なぜ弁護人だけ秘密が保障されるか——萎縮的効果の防止

立会いがあると被疑者が本当のことを話せなくなる萎縮的効果を防ぐために弁護人との接見だけ秘密が保障されるという板

弁護人が実質的な弁護活動をするには、被疑者と十分に意思疎通して、信頼関係を築く必要があります。しかも捜査段階の弁護人は、捜査機関が集めた証拠にアクセスできません。もしこのやり取りに警察官の立会いがあったらどうなるか、考えてみてください。被疑者Aが本当は否認したいと思っていても、そばで聞かれていると、「正直に話すと心証が悪くなるのでは」と恐れて、弁護人にすら本音を言えなくなります。この萎縮的効果を防ぐために、立会いを排除した秘密交通権が保障されています。

②接見交通権はなぜ憲法上の権利か——34条前段に由来する

憲法34条前段の弁護人依頼権が援助を受ける機会を実質的に保障するものであり39条1項の接見交通権はその趣旨にのっとり憲法の保障に由来するという最大判平11年判旨の対応関係を示す板

ここで、一段踏み込みます。39条1項はただの法律の条文ですが、判例はこの接見交通権を憲法上の権利だと位置づけています。まず憲法の条文を確認しましょう。

条文憲法第34条前段

憲法第34条前段 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。

判例は、この弁護人依頼権の中身を、こう述べています。

判例最高裁判所大法廷判決(民集53巻3号514頁)

弁護人依頼権の中身が争われた事件 この弁護人に依頼する権利は、身体の拘束を受けている被疑者が、拘束の原因となっている嫌疑を晴らしたり、人身の自由を回復するための手段を講じたりするなど自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものである。したがって、右規定は、単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである。

34条前段は、弁護人を選ぶ自由の保障にとどまらず、選んだ弁護人から実際に相談し、助言を受ける機会まで実質的に保障しています。例えば、Aに犯行時刻のアリバイがあるなら、弁護人Bは誰に裏付けを取ればいいか、接見でAから直接聞かなければ動けません。そして、39条1項の接見交通権は、まさにこの「機会」を具体化した制度です。選んだだけで会えなければ、相談も助言も絵に描いた餅になります。接見交通権は、単なる法律上の権利ではなく、憲法の保障に由来する権利だと位置づけられています。

②弁護人の固有権の中でも最重要なもの

弁護活動に不可欠で専門的判断を要する権利として接見交通権が弁護人の固有権の中でも最重要なものと位置づけられる理由を示す板

固有権は、弁護人だけが主語になって、本人の意思にかかわらず行使できる権利でしたね。秘密交通権は、弁護活動に必要不可欠で、しかも立会いなしの場をどう使うかは、弁護人の専門的な判断に委ねられます。だから弁護人固有の権利として、とりわけ重要なものとされています。例えば、取調べに疲れたAが「もう誰にも会いたくない」と言ったとします。それでも弁護人Bは、自分の判断で接見を求めることができます。それが固有権という位置づけの意味です。憲法に由来する権利であり、かつ弁護人固有の権利の中でも最重要のもの、この2つの評価が重なっています。

③接見指定という例外——39条3項の枠組み

39条3項本文が捜査のため必要があるときに公訴の提起前に限り日時場所時間を指定できるとし但書が防御準備を不当に制限してはならないと歯止めをかける枠組みを示す板

ここまでが原則です。しかし法は、この原則に例外を用意しています。

条文刑事訴訟法第39条第3項

刑事訴訟法第39条第3項 検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。

ここで見落としてはいけない点があります。39条3項が検察官らに認めているのは、接見を拒否する権限ではありません。日時、場所、時間を指定する権限だけです。しかも、指定できるのは起訴される前の捜査段階だけです。起訴された後は、この条文による指定はできず、1項の原則に戻るのが基本です。面会の時間をずらすだけ、というたとえは的確です。接見指定は、まさに時間の付け替えで、会わせない権限ではありません。そして但し書きが、この付け替えにも限度を課しています。指定が「防禦の準備をする権利を不当に制限する」ものであってはなりません。

1週間も一切会わせない、というような制限が、但し書きが許さない、不当な制限にあたります。

④なぜ39条3項は合憲か——捜査権との合理的な調整

弁護人依頼権に由来する接見交通権も捜査権に絶対優先しないという合憲性の理屈の前半(第一段・第二段)を示す板

39条3項が憲法に反しないかという問題は、まさに最高裁の大法廷まで争われた論点です。この事件は、接見の指定を受けた側が、国などに損害賠償を求めた裁判で、その中で39条3項そのものが憲法違反だと主張されました。結論は合憲ですが、その理屈は、四つの段階でできています。順に見ましょう。第一段。さっき確認したとおり、弁護人依頼権は援助を受ける機会を実質的に保障し、39条1項の接見交通権は憲法の保障に由来します。しかし第二段が効いてきます。判例は、こう述べます。

判例最高裁判所大法廷判決(民集53巻3号514頁)

接見交通権と捜査権の調整が争われた事件 もっとも、憲法は、刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が国家の権能であることを当然の前提とするものであるから、被疑者と弁護人等との接見交通権が憲法の保障に由来するからといって、これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものということはできない。そして、捜査権を行使するためには、身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が生ずることもあるが、憲法はこのような取調べを否定するものではないから、接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図らなければならない。

なぜなら憲法自身が、捜査権の行使、つまり身体拘束中の被疑者を取り調べることも国家の正当な権能として前提にしているからです。

捜査権と接見交通権の合理的な調整の必要性と但書の歯止めという合憲性の理屈の後半(第三段・第四段)を示す板

だから両方とも正当な要請として、合理的な調整を図らなければなりません。これが第三段、「合理的な調整」の必要性です。例えば、検察官が今まさにAを取り調べていて、あと1時間で供述をまとめ終えたいとします。検察官は取調べを優先したい、Bは今すぐ防御方針を固めたい。この綱引きを、どちらか一方の総取りにせず、「調整」で解決しようとするのが39条3項です。そこに歯止めをかけるのが、第四段です。

判例最高裁判所大法廷判決(民集53巻3号514頁)

接見指定の歯止めが示された事件 刑訴法三九条三項ただし書は、「但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。」と規定し、捜査機関のする右の接見等の日時等の指定は飽くまで必要やむを得ない例外的措置であって、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限することは許されない旨を明らかにしている。

さっきの場面でいえば、検察官の都合だけを理由に「明日まで一切会わせない」とは言えません。この四段の流れをまとめると、こうなります。

論文で書く規範:39条3項の合憲性を支える理屈 ①弁護人依頼権は身体拘束中の被疑者が援助を受ける機会を実質的に保障し、接見交通権はこれに由来する。②しかし接見交通権は捜査権に絶対的に優先する性質のものではない。③捜査権の行使と接見交通権の行使との間に合理的な調整を図らなければならない。④ただし書は指定を必要やむを得ない例外的措置に限り、防禦の準備をする権利を不当に制限してはならない旨の歯止めを明らかにしている。 (規範(最大判平11・3・24))

判例は、39条3項本文は「憲法三四条前段の弁護人依頼権の保障の趣旨を実質的に損なうものではない」として、合憲と判断しました。この合憲判断は、この事件で初めて出た考え方なんですか。違います。この大法廷判決は、昭和53年の判決以来、積み重ねられてきた同じ理屈を、確認したものです。事案はそれぞれ違いますが、「絶対優先しない・合理的調整・ただし書の歯止め」という骨格は、一貫しています。合憲なら、どんな指定でも許されるんですか。違います。この判決が決めたのは、39条3項という仕組みが憲法に反しない、ということまでです。目の前の指定が適法かどうかは、一件ごとに問われます。捜査機関にできるのは、会う日時の付け替えまで。会わせないことはできない。これが今日の答えの骨組みです。

⑤指定の運用の変遷——一般指定から通知事件へ

かつての一般的指定書と具体的指定書を持参させる運用から現在の通知書による都度確認の運用へ変わった経緯を対比する板

さて、この39条3項を、実際にどう運用するかは、時代とともに変わってきました。かつては、検察官が必要と認めた事件について、まず「一般的指定書」を発行します。そして弁護人が接見を申し出るたびに、具体的な日時を指定した「具体的指定書」、いわゆる面会切符を交付し、これを持参しなければ接見させない、という運用がありました。しかしこの運用は廃止されました。なぜ、やめたんですか。切符が無ければ会えない、ということは、会えないのが原則で、会えるのが例外になってしまうからです。39条は逆で、会えるのが原則、指定は例外でした。今は、刑事施設の長に対して、「捜査のため必要があるときは接見の日時等を指定することがある」という通知書をあらかじめ発しておき、弁護人から接見の申出があったつど、留置の担当官が検察官に問い合わせて、指定の必要性を判断する運用に変わりました。

もっとも通知事件でも、確認の結果が出るまでは弁護人は接見できないので、不満は残ります。ただし、その待ち時間が合理的な範囲にとどまる限り、違法にはならないとされています。

⑤指定に不服があるときの争い方

接見指定に不服があるときにその場で争う準抗告と後日弁護人が原告となって争う国家賠償訴訟という2つの経路を示す板

その場で異議を述べて是正を求める手段として、準抗告という争い方があります。見取り図の回で見た、430条の準抗告です。勾留の回の429条とは違い、裁判官ではなく、検察官や警察官の処分を争います。要件や手続の中身は、また別の回で見ます。準抗告でその場で解決できるかというと、そう単純ではありません。準抗告の判断を待っている間に、指定された日時が来て、結局接見できてしまうことも多いんです。だから実際には、弁護人を原告とする国家賠償訴訟という形で、後日争われることも多いです。さっき見た昭和53年以来の判例の系譜も、もともとはこの国賠訴訟の中で形成されてきました。

今日のまとめ

39条1項の接見交通権は憲法34条前段に由来する弁護人固有の最重要の権利であり39条3項の接見指定という例外は合理的な調整と但書の歯止めで合憲とされるという今日の骨格をまとめる板

今日の内容を振り返ります。1つ目。39条1項の接見交通権は、立会人なしに面会・書類物の授受ができる権利で、秘密交通権とも呼ばれます。立会いによる萎縮的効果を防ぐための保障です。2つ目。この権利は、憲法34条前段の弁護人依頼権、つまり援助を受ける機会の実質的保障に由来する憲法上の権利であり、弁護人固有権の中でも最重要のものとされます。3つ目。もっとも39条3項は、捜査のため必要があるときに限り、公訴提起前まで、接見の日時・場所・時間を指定できるという例外を置きます。4つ目。この例外は、接見交通権が捜査権に絶対優先しないこと、両者の合理的な調整が必要なこと、ただし書が防御準備権の不当な制限を許さない歯止めになっていることから、この大法廷判決で合憲と判断されました。5つ目。指定の運用は、面会切符を要求する一般指定から、通知に基づく都度確認の通知事件へと変わり、不服があれば準抗告や国家賠償訴訟で争われます。

出ました。「今は会わせられない」という一言だけで済ますことは許されません。それが捜査のため本当に必要な指定なのか、防御準備を不当に制限していないか、その線引きが問われます。

参照条文

  • 刑事訴訟法第39条第1項
  • 憲法第34条前段
  • 刑事訴訟法第39条第3項

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