刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#60

「捜査のため必要があるとき」の意味

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第2章 捜査 ㉚/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の続き——「合理的な調整」の中身を問う

前回39条3項の合憲性を見た続きとして具体的にどんな場合が捜査のため必要があるときにあたるのかという今日の問いを示す板

捜査権と接見交通権は、絶対的にどちらかが優先するのではなく、合理的な調整を図らなければならない、という結論でした。取調べの予定があるという理由で、弁護人との接見を後回しにしてよいのか。今日は、まさにその問題に入ります。39条3項本文の要件、「捜査のため必要があるとき」の中身です。先に答えを言うと、予定があれば何でもよいわけではありません。間近で確実な予定なら原則として指定できますが、それでも会わせる日時は、できる限り早くしなければなりません。今日は、その線引きを確かめましょう。

①「捜査のため必要があるとき」をめぐる2つの考え方

罪証隠滅の防止も含め広く捜査の支障を理由とする捜査全般説と被疑者の身体を現に利用した捜査に限る物理的限定説の対立を示す板

39条3項の「捜査のため必要があるとき」、この意味をめぐっては、かつて2つの考え方が対立していました。1つは、捜査全般説です。証拠を隠されるおそれへの対処を含め、捜査一般に何らかの差し支えが出そうなら、それで足りるとする、かなり緩やかな立場です。この立場は、身体拘束中の被疑者を、捜査機関が優先的に利用できる、と見る立場です。例えば、共犯者と口裏を合わせるおそれがあるから、今日は会わせない。捜査全般説なら、これも理由になりえます。もう1つが、物理的限定説です。指定できるのは、被疑者の身体そのものを今まさに使っている捜査、つまり取調べ中や実況見分に立ち会わせている最中など、そうした場面に限る、とする立場です。

物理的限定説は、捜査段階の被疑者にも防御の必要性が高いことを前提に、弁護人を通じた防御権の保障を、より重く見ています。この立場だと、30分後に取調べが始まる予定があっても、まだ始まっていない以上、会わせなければなりません。捜査優先の捜査全般説と、防御優先の物理的限定説、両極端があったんです。では判例は、どちらの立場を採ったのか。それとも第三の道があるのか。ここからが本題です。

②判例の流れ——杉山事件から平11大法廷へ

杉山事件が示した原則いつでも接見という枠組みが浅井事件若松事件を経て平11大法廷の3類型に至る判例の系譜を示す板

この対立に決着をつけたのが、判例です。ただし判例は、ある日突然基準を作ったわけではありません。出発点は、杉山事件です。弁護人が接見を申し入れたのに、警察官が指定書の持参を求めて接見を拒んだ、という国家賠償請求事件でした。

判例最高裁判所判決(民集32巻5号820頁)

杉山事件——接見指定の枠組みを最初に示した判決 捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申出があつたときは、原則として何時でも接見の機会を与えなければならないのであり、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防禦のため弁護人等と打ち合せることのできるような措置をとるべきである。

この判決が、後のすべての土台になる定式、原則いつでも接見、例外は捜査の中断による支障が顕著な場合に限る、という枠組みを最初に示しました。この定式は、その後、浅井事件と若松事件という2つの最高裁判決でも維持され、確認されました。大枠は同じです。どちらも杉山事件の定式を踏襲しています。ただ、中身が完全に同じというわけでもありません。浅井事件と若松事件は、杉山事件が挙げた、現に取調べ中である場合や立会わせている場合という場面に加えて、間近い時に取調べ等をする確実な予定があって、接見を認めると予定どおり開始できなくなるおそれがある場合も、捜査に顕著な支障が生ずる場合に含まれる、と踏み込みました。

そして、この系譜が最終的にたどり着いたのが、前回見た大法廷判決です。判決文自身も、この3つの判決を先例として引用しています。突然新しい基準を作ったのではなく、20年かけて積み上げられてきた到達点なんです。

③平11大法廷判決の基準——「取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合」

平11大法廷判決が捜査のため必要があるときを取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限るとした基準を示す板

前回のカードの続きを見ましょう。この部分で判決が言っていることは、3つに分かれます。「捜査のため必要があるとき」の意味。それにあたる典型的な場面。そして、それでも指定するときに守るべきこと。最後のものは、少し後で扱います。

判例最高裁判所大法廷判決(民集53巻3号514頁)

「捜査のため必要があるとき」の意義——大法廷判決(前回の続き) このような刑訴法三九条の立法趣旨、内容に照らすと、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり、同条三項本文にいう「捜査のため必要があるとき」とは、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、右要件が具備され、接見等の日時等の指定をする場合には、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきである。

「原則としていつでも接見の機会を与えなければならない」というのは、杉山事件以来の枠組みそのものです。そのうえでこの判決は、「捜査のため必要があるとき」を、「取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合」に限る、と明言しました。なぜここまで絞るのか。接見交通権は憲法に由来する権利で、前回見たとおり、指定は必要やむを得ない例外的措置にすぎないからです。捜査官が「必要だ」と言えば足りるなら、原則いつでも会えるという枠組みが、空っぽになってしまいます。そして判決は、この抽象的な基準を、具体的な3つの場面に落とし込みます。

判例最高裁判所大法廷判決(民集53巻3号514頁)

「捜査に顕著な支障が生ずる場合」にあたる3類型 そして、弁護人等から接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは、原則として右にいう取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきである(前掲昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決、前掲平成三年五月一〇日第三小法廷判決、前掲平成三年五月三一日第二小法廷判決参照)。

整理すると3つです。1つめ、現に被疑者を取調べ中である場合。2つめ、実況見分・検証等に立ち会わせている場合。3つめ、間近い確実な取調べ予定があって、接見を認めると予定どおり開始できなくなるおそれがある場合。3つめだけ少し違って、まだ取調べは始まっていません。でも、間近い時に確実な予定がある、という点で、もうすぐ体を使う場面として、同じ扱いになります。なぜ3つめまで入れるのか。今まさに取調べ中の場合に限ると、さっきの、30分後に取調べが始まる場面でも、接見を先にしなければならず、予定を組んで進める捜査が回らなくなるからです。

例えば、「そのうち取調べする予定がある」という程度の話でも、3つめに当たるんですか。当たりません。3つめは、間近い時に、かつ確実な予定があることが必要です。「そのうち」という漠然とした将来の話では、確実な予定とはいえず、3つめにはあたりません。

④この基準はどちらの学説でもない——中間的な立場

捜査全般説と物理的限定説の間に判例の基準が位置し①②は現在の身体利用③は間近い確実な予定を取り込む独自の立場であることを示す板

どちらでもありません。まず、さっきの口裏合わせのおそれのような、被疑者の身体の利用と関係しない事由は、基準に含まれていません。つまり、捜査全般説は採用されていません。物理的限定説でもありません。さっき見た例、つまり30分後に取調べが始まる場面のように、まだ取調べが始まっていない、間近い確実な予定がある場面まで、原則として含めているからです。厳格な物理的限定説なら、これは対象外のはずです。判例の基準は、捜査全般説より狭く、物理的限定説より少し広い、独自の中間的な立場です。

⑤「原則として」に含まれる例外の余地

①②③に形式的に該当しても一時中断や開始を遅らせても顕著な支障が生じない事情があれば要件を満たさないという原則の例外を示す板

ここに、例外の余地が含まれています。例えば、取調べがちょうど昼の休憩に入るところだったとします。その休憩時間を使って接見させても、午後の取調べの予定は崩れません。こういう場合です。このように、中断したり開始を少し遅らせたりしても捜査の支障につながらない事情が認められるなら、1つめから3つめの場面に形式的にあたっていても、要件を満たさないと理解されます。浅井事件では、裁判官の1人が補足意見の中で、この点を指摘しています。取調べの状況から形式的に判断するのではなく、中断したり、開始を少し遅らせたりすることができないか、十分に検討すべきだという趣旨です。

あくまで、取調べの中断等によって捜査に顕著な支障が生ずるか、という実質判断が本体で、1つめから3つめは、その代表例、という位置づけです。

⑥要件を満たしても課される配慮義務——但書とのつながり

但書の防禦の準備をする権利を不当に制限してはならないという要請から要件充足後もできる限り速やかな日時を指定する配慮義務が導かれることを示す板

ここで、前回の条文に戻ります。前回見た39条3項但書は、何と定めていたか、覚えていますか?「指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない」、でした。

条文刑事訴訟法第39条第3項

刑事訴訟法第39条第3項但書 但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。

この但書があるので、1つめから3つめのどれかにあたって「捜査のため必要があるとき」の要件を満たしても、それだけで指定が当然に適法になるわけではありません。判決は、要件が具備されて指定をする場合でも、捜査機関は、弁護人等と協議して、できる限り速やかな接見等の日時等を指定し、被疑者が防御の準備をすることができるような措置を採らなければならない、としています。これが、但書から導かれる配慮義務です。指定の日時等が不合理に遅ければ、要件を満たしていても、但書違反で違法になりえます。

⑦独自設例による当てはめ——2段階のチェック

被疑者Aと弁護人Bと担当官の関係図を用い間近い確実な取調べ予定による要件充足と3日後を一方的に指定した配慮義務違反を2段階で検討する場面を示す板

実際に、事例で確かめましょう。

論文で書く規範:独自設例——取調べ予定を理由とする接見指定 弁護人Bは、被疑者Aとの接見を申し出るため、午後1時に留置施設を訪れた。担当官は、「30分後の午後1時半からAの取調べを始める段取りになっている。取調べは午後4時に終わる予定だ」と答え、接見を断った。Bは、「取調べが終わった後、今日の夕方にもう一度来る」と申し出たが、担当官はBと協議せず、一方的に「接見は3日後の午前10時」と指定した。 (独自設例)

これを、どう検討するんですか。2段階です。ステップ1は、要件充足、1つめから3つめのいずれかにあたるか。ステップ2は、但書適合、指定された日時等が「できる限り速やか」といえるか。まずステップ1ですね。ここでいう担当官とは、捜査機関の担当者、つまり警察官や検察官のことです。担当官は、30分後に取調べを始める段取りになっていることを理由に、接見を断わっています。これは、3つめの場面、間近い確実な取調べ予定があって、接見を認めたのでは予定どおり開始できなくなるおそれがある場合、に対応します。ただし、ここで思い出してほしいのが、さっきの例外です。一時中断や開始を遅らせても顕著な支障が生じない事情があれば、話は別です。今回はそうした事情が見当たらないので、要件充足は認められます。

Bは、取調べが終わった後の同日夕方に、もう一度来ると申し出ていました。取調べは午後4時に終わる予定ですから、その後の時間帯に接見させても、捜査に支障が出るとは考えにくい状況です。しかも、Bと協議した形跡がありません。要件が具備されて指定をする場合でも、捜査機関は、弁護人等と協議して、できる限り速やかな日時等を指定しなければならない、というのが判決の立場でした。同日夕方という選択肢があるのに協議もせず、一方的に3日後を指定した、というのは、この配慮義務を尽くしたとは言いにくい対応です。要件を満たすことと、指定の中身が適法であることは、別の問題です。3日後という指定に、それを正当化するだけの合理的な理由が無ければ、但書に反して違法になりえます。要件充足の判断と、配慮義務の判断、この2段階を分けて検討する、というのが、今日の枠組みの使い方です。

前回も見た、430条の準抗告です。接見指定は裁判官の裁判ではなく、検察官や警察官の処分なので、429条ではありません。430条です。その場で争えますが、手続の詳しい中身は、また別の回で見ます。

今日のまとめ

捜査のため必要があるときとは取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合であり3類型が原則として該当するが例外もあり要件充足後も配慮義務を負うという今日の骨格を示す板

今日の内容を振り返ります。1つ目。「捜査のため必要があるとき」をめぐっては、捜査全般説と物理的限定説という2つの学説が対立していました。2つ目。杉山事件が示した「原則いつでも接見」という枠組みは、浅井事件・若松事件を経て、大法廷判決に受け継がれました。3つ目。大法廷判決は、「捜査のため必要があるとき」を「取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合」に限り、今まさに取調べ中、実況見分・検証等の立会い中、間近い確実な取調べ予定、という3つの場面が原則として該当する、としました。4つ目。この基準は、捜査全般説と物理的限定説のどちらでもない、独自の中間的な立場です。5つ目。この3つの場面は「原則として」該当するにとどまり、中断しても顕著な支障が生じない事情があれば要件を満たしません。逆に要件を満たしても、捜査機関はできる限り速やかな日時等を指定する配慮義務を負います。

出ました。間近い確実な予定があるというだけで、要件そのものは原則として満たされます。でも、それで指定のすべてが正当化されるわけではありません。できる限り速やかな日時になっているか、そこまで問われます。この判断枠組みが、そこでどう修正されるのか、確かめましょう。

参照条文

  • 刑事訴訟法第39条第3項

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