初回接見の特別な重要性
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第2章 捜査 ㉚/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の続き——「できる限り速やか」とは、どれくらい速やかか

前回、要件を満たしても、捜査機関はできる限り速やかな日時等を指定する配慮義務を負う、というところまで見ました。では、今日はその続きです。「できる限り速やか」というのは、具体的にどれくらい速やかであれば足りるんでしょうか。言われてみると、そこ、あいまいですね。場面によって、求められる速やかさの強さって、違うんですか。実は、違います。弁護人が被疑者に初めて会おうとする場面、初回接見では、この「速やかさ」への要求が、もっとも強く働きます。なぜ初回接見だけが特別なのか。そこを、今日確かめましょう。
①要件充足と但書適合は別の判断——2段階の枠組み

まず、前々回のカードを、もう一度見ましょう。
条文刑事訴訟法第39条第3項
刑事訴訟法第39条第3項但書 但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。
ここまでの話を整理すると、接見指定の適法性は、実は2段階で判断されています。第1段階は、本文の要件充足です。現に取調べ中である、実況見分等に立ち会わせている、間近い確実な取調べ予定がある。このいずれかに当たるかどうかです。そして第2段階が、今日の本題です。第1段階を満たしても、その指定の中身が、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものでないか。これは、別の判断です。要件は満たしているのに、指定の中身がダメ、ということもあるんです。では、この第2段階の判断が、もっとも重く働くのはどんな場面か。それを示したのが、今日見る判決です。
②ある逮捕直後の場面——即時の接見申出と翌日の指定

この判決の事案を、見ましょう。ある被疑者が、条例違反の容疑で現行犯逮捕され、警察署に引致されました。引致から間もなく、弁護士である、弁護人となろうとする者が警察署を訪れ、即時の接見を申し出ました。ところが、現場の責任者は、被疑者が取調べ中であることを理由に、接見を待つよう繰り返しました。その後、取調べを一時中断して被疑者が夕食を取っている最中に、責任者は改めて、接見の日時を翌日に指定する、と告げました。1時間あまり継続して接見を求めていたのに、協議らしい協議もないまま、最終的に翌日の指定を告げられた、という事案です。
取調べ中であるという理由は、前回見た1つめの類型、現に取調べ中である場合に対応します。要件充足自体は、問題になりません。問題になったのは、どこなんですか。そこが、今日の核心です。最高裁は、この事案を通じて、「初回接見」という場面に特別の重みを認めました。
③初回接見だけが特別な理由——憲法上の保障の出発点

なぜ、初回接見だけが特別なのか。判決は、こう述べています。
判例最高裁判所第三小法廷判決(民集54巻5号1635頁)
逮捕直後の初回接見が特に重要とされる理由 とりわけ、弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとっては、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であって、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障の出発点を成すものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。
理由は、大きく2つに整理できます。1つは、逮捕直後の初回接見が、弁護人の選任を目的とし、かつ、これから受ける取調べへの助言を得るための、最初の機会だということです。もう1つが、これが前々回見た憲法34条前段、直ちに弁護人に依頼する権利の保障の、出発点をなす、という理由です。選んだだけで会えなければ意味がない、という話をしましたよね。初回接見は、まさにその「会う」が実現する最初の瞬間なんです。手術を控えた患者を考えてみてください。担当医とまだ一度も話したことがない状態です。これから受ける手術がどんなものか、術後どう過ごせばよいか、それを聞けるのは、最初の診察の機会だけです。
2回目以降の診察は、方針の細かな調整にすぎません。でも最初の診察だけは、後回しにできない重みがある。被疑者にとっての初回接見も、同じ重みを持っています。
④具体的な検討義務——協議と接見時間の指定という代替手段

この重要性を踏まえて、判決は、捜査機関に、具体的な検討義務を課しました。
判例最高裁判所第三小法廷判決(民集54巻5号1635頁)
捜査機関に課される検討義務と、可能なときの措置 したがって、右のような接見の申出を受けた捜査機関としては、前記の接見指定の要件が具備された場合でも、その指定に当たっては、弁護人となろうとする者と協議して、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かどうかを検討し、これが可能なときは、留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情のない限り、犯罪事実の要旨の告知等被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く指紋採取、写真撮影等所要の手続を終えた後において、たとい比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認めるようにすべきであり、このような場合に、被疑者の取調べを理由として右時点での接見を拒否するような指定をし、被疑者と弁護人となろうとする者との初回の接見の機会を遅らせることは、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものといわなければならない。
ポイントは3つです。1つめ、要件が具備された場合でも、捜査機関は弁護人となろうとする者と協議しなければなりません。協議もせず一方的に指定してよい、とは書いていません。2つめ、協議のうえで、即時または近接した時点での接見を、接見の時間を指定することで確保できないか、を検討しなければなりません。単に「今は無理」で終わらせず、代替手段を探す義務です。例えば、逮捕直後に必ず行う手続や、指紋採取・写真撮影が終わったところで、取調べの予定を少しずらして15分だけ時間を区切って接見させる、という工夫です。日時をまるごと先送りするのではなく、時間の長さを区切ることで、捜査の支障を避けながら接見を確保できないか、を考えるということです。
3つめ、この検討の結果、それが可能なときは、留置施設の管理運営上の支障など特段の事情がない限り、たとえ比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時または近接した時点での接見を認めなければなりません。「引致後直ちに行うべき手続」とは、逮捕後の手続の回で見た弁解録取、つまり犯罪事実の要旨を告げて弁解を聞く手続などです。判決は、それと指紋採取・写真撮影などを済ませた後に会わせるべきだ、としています。弁解録取などは、法律で、引致したらすぐ行うよう決まっている手続です。だから、それが済むまでは待ってもらってかまわない。でも、それを終えたあとは、取調べ中であっても、短時間の接見を挟めないかを検討しなければならない、ということです。
検討もせず、被疑者の取調べを理由に、初回接見の機会を遅らせることは、それ自体が「防御の準備をする権利を不当に制限するもの」だと、判決ははっきり述べています。
⑤本件へのあてはめ——「不当」と判断された理由

この検討義務を、本件の事実に当てはめます。判決文に出てくる上告人A1は逮捕された被疑者、上告人A2は駆けつけた弁護士、D課長は現場の責任者です。この事件は、前々回見た国家賠償訴訟として争われたので、どちらも上告人と呼ばれています。あとで見る設例のA・Bとは別の人物です。
判例最高裁判所第三小法廷判決(民集54巻5号1635頁)
検討義務を欠いた一方的な指定への評価 そうすると、D課長は、上告人A2が午後四時三五分ころから午後五時四五分ころまでの間継続して接見の申出をしていたのであるから、午後五時ころ以降、同上告人と協議して希望する接見の時間を聴取するなどし、必要に応じて時間を指定した上、即時に上告人A2を上告人A1に接見させるか、又は、取調べが事実上中断する夕食時間の開始と終了の時刻を見計らい……夕食前若しくは遅くとも夕食後に接見させるべき義務があったというのが相当である。ところが、D課長は、上告人A2と協議する姿勢を示すことなく、午後五時ころ以降も接見指定をしないまま同上告人を待機させた上、午後五時四五分ころに至って一方的に接見の日時を翌日に指定したものであり、他に特段の事情のうかがわれない本件においては、右の措置は、上告人A1が防御の準備をする権利を不当に制限したものであって、刑訴法三九条三項に違反するものというべきである。
判決は、取調べが事実上中断する夕食の前後という、現実にある区切りに着目しています。その時間を使えば、即時または近接した時点での接見を確保できたはずだ、という趣旨です。要件充足自体は否定されませんでした。取調べ中であることは事実だったからです。でも、協議して代替手段を検討する義務を果たしていなかった。だから、不当な制限にあたる、と判断されました。要件を満たすかと、指定の中身が適法かを、分けて見る。それが、今日確かめている2段階の判断枠組みの意味です。ただし、この判決が判断したのは、警察署に引致された当日、逮捕直後に申し出られた初回接見です。
それより後の場面、例えば、逮捕の翌日、勾留請求のため被疑者を裁判所へ連れて行く準備をしている最中に、弁護人となろうとする者が初めて接見を申し出た、という場面です。まだ初回の接見なら、弁護人の側は、今こそ助言が要ると主張します。捜査機関の側は、協議したうえで裁判所への同行後に会わせるなら、なお近接した時点だと主張します。判決がそのまま当てはまる場面ではないので、協議を試みたか、指定した時点が近接といえるかを、具体的な事情で検討することになります。もう1つ。2回目以降の接見には、この判決の特別な検討義務ではなく、前回見た「できる限り速やかな日時等を指定する」配慮義務が働きます。
⑥独自設例による2段階チェック

実際に、事例で確かめましょう。
⭐ 論文で書く規範:独自設例——初回接見における2段階チェック 被疑者Aは、午前10時、万引きの容疑で現行犯逮捕され、午前10時20分、警察署に引致された。弁護人となろうとするBは、午前10時35分に警察署を訪れ、Aとの即時の接見を申し出た。Aの指紋採取・写真撮影は10時50分ごろ、実況見分は正午ごろに終わる見込みだった。担当官は、「Aは現在、指紋採取・写真撮影の手続中であり、11時15分から実況見分にAを立ち会わせる確実な予定がある」と答え、Bとの協議を一切行わないまま、「接見は本日午後3時から」と一方的に指定した。 (独自設例)
その前に1つ確認です。前回見た39条3項の「捜査のため必要があるとき」に当たるのは、どんな場面でしたか?えっと、現に取調べ中、実況見分等の立会い、それから間近い確実な取調べ予定、のいずれかでしたね。では、まずステップ1、要件充足から見ましょう。担当官は、11時15分から実況見分にAを立ち会わせる確実な予定があることを理由に、即時の接見を断っています。10時35分の申出から11時15分の実況見分開始まで、40分しかありません。間近い時点で、確実な予定があるといえるので、原則として要件は満たします。
ステップ2、ここが今日の核心です。担当官は、協議を一切していません。今日見た検討義務によれば、指紋採取と写真撮影が終わる10時50分ごろから実況見分が始まる11時15分までの間、あるいは実況見分が終わったあとの時点で、即時または近接した時点での接見を、時間を指定することで確保できないかを検討する義務があります。設例では、正午ごろに終わる見込みです。だとすれば、正午過ぎに近接した時点での接見を、比較的短時間でも確保する余地は、十分にあったはずです。協議する姿勢を示さないまま、近接した時点での接見を検討した形跡もなく、一方的に数時間後の時間を指定している。これは、さっき見た本件の構造と、ほとんど同じです。
ステップ1の要件充足は認められます。でも、ステップ2で、検討義務を欠いた一方的な指定として、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものと評価され、不適法と判断されます。もしBがこの指定に納得できなければ、前回も見た430条の準抗告で争うことになります。逆に、同じ場面で担当官がBと協議し、「10時50分から15分間だけ」と時間を区切って接見させていたら、どうでしょう。15分でも、協議して近い時点に会わせる工夫をしていれば、不当な制限にはあたりません。分かれ目は、会わせる時間の長さではなく、協議して近い時点を探したかどうかです。要件充足の判断と、検討義務を果たしたかという判断、この2段階を分けて考える。これが、初回接見という場面での、今日の枠組みの使い方です。
今日のまとめ

今日の内容を振り返ります。1つ目。接見指定の適法性は、第1段階の要件充足、「捜査のため必要があるとき」に当たるかと、第2段階の但書適合、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものでないか、という2段階で判断されます。2つ目。逮捕直後の初回接見は、弁護人選任の目的と取調べへの助言を得るための最初の機会であり、憲法上の保障の出発点をなすため、この第2段階の判断がとりわけ重く働きます。3つ目。捜査機関は、要件が具備された場合でも、弁護人となろうとする者と協議して、即時または近接した時点での接見を、接見の時間を指定することで確保できないかを検討する義務を負います。4つ目。この検討の結果、それが可能なときは、留置施設の管理運営上の支障など特段の事情がない限り、比較的短時間でも時間を指定した上で、即時または近接した時点での接見を認めなければなりません。5つ目。協議もせず、検討もせずに一方的に遠い日時を指定することは、それ自体が防御の準備をする権利を不当に制限するものと評価されます。
出ました。どれくらい速やかであればよいか。少なくとも初回接見では、協議して代替手段を検討したうえで、可能なら比較的短時間でも即時または近接した時点で会わせる、というところまでが求められます。「今は無理だから明日」では足りません。合憲性の枠組み、要件のあてはめ、そして今日の初回接見の特則。この3つで、接見交通権をめぐる基本的な骨格は一通りそろいました。
参照条文
- 刑事訴訟法第39条第3項