起訴後の接見指定と余罪捜査
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第2章 捜査 ㉛/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回までの続き——起訴された後は、もう関係ないのか

これまで3回にわたって、起訴される前の被疑者が、捜査機関から接見の日時を指定される場面を見てきました。合憲性の枠組み、要件のあてはめ、それから初回接見の特則、でした。では、起訴された後は、もう接見を制限されることはないんでしょうか。起訴された後は、もう被告人ですよね。39条3項の出番は無さそうですけど。実は39条3項本文には、こうはっきり書いてあります。
条文刑事訴訟法第39条第3項
刑事訴訟法第39条第3項 検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。
文言だけを読めば、起訴後の接見指定は許されないように見えます。ここでいったん、なぜ「公訴の提起前に限り」と書かれているのか、その理由も確認しておきましょう。起訴前の捜査段階は、証拠の収集や身柄の確保が急がれる時期で、捜査機関の側に接見の日時調整を求める必要性が特に強い。これに対して起訴後は、事件は本来、公判に向けた準備の段階に移ります。捜査そのものの必要性は薄れていくはずだから、39条3項は「公訴の提起前」に限って指定権を与えた。これが本文の趣旨です。事件そのものについては、そのとおりです。ところが実際には、起訴された被告人が、同時に「別の事件」については、まだ起訴されていない被疑者の立場にあることがあります。
「別の事件」を「余罪」と呼びます。事件そのものへの捜査の必要は薄れても、余罪の捜査の必要は、もとの事件が起訴されたかどうかとは無関係に生じます。この場合、この人への接見指定は、どうなるのか。今日は、それを確かめましょう。その前に1つ復習です。前々回、最高裁は「捜査のため必要があるとき」を、どんな場合に絞りましたか?取調べの中断などで、捜査に顕著な支障が生ずる場合、でした。この起訴前の枠組みを横に置いて、今日の場面と並べます。

まず整理のために、前回までの「起訴前」の接見指定と、今日扱う「起訴後」の接見指定を、要件で並べてみます。起訴前は、指定できる要件が「捜査のため必要があるとき」、歯止めが「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限しない」でした。これに対して今日見る起訴後の場面は、まず「余罪について現に身体拘束を受けていること」が前提になり、そのうえで、歯止めは、すでに起訴された事件の防御の準備を不当に妨げないかどうか、に置き換わります。「被告事件」とは、すでに起訴されて、裁判にかかっている事件のことです。「捜査の必要」と「防御権の不当な制限にわたらないこと」という2本柱は共通していて、今日の場面では、防御権を制限されてはいけない相手が「被疑者自身」から「同じ人が抱える被告事件」に置き換わる、というイメージです。
①同じ1人が併せ持つ、2つの地位——同一弁護人の事案

まず、こういう事案を考えましょう。ある人が、事件Xで勾留されたまま起訴されました。その後、別の事件Y、いわゆる余罪で、あらためて逮捕・勾留されました。事件X・事件Yのどちらも、同じ弁護人が選任されていました。起訴された事件Xが、さっきの「被告事件」にあたります。事件Xについては起訴後だから、39条3項は適用されません。でも事件Yについては、まだ起訴前ですから、39条3項の対象になりえます。事件Yを理由にした接見指定ができるかどうかが、今日の核心です。最高裁は、この場面についてこう述べました。
判例最高裁判所決定(刑集34巻3号178頁)
起訴後、同一人が被告事件と余罪の被疑事件を併有する場合の接見指定 「同一人につき被告事件の勾留とその余罪である被疑事件の逮捕、勾留とが競合している場合」について、検察官等は「被告事件について防禦権の不当な制限にわたらない限り、刑訴法三九条三項の接見等の指定権を行使することができる」。
整理すると、こうなります。事件Yについては、まだ起訴前の被疑事件だから、39条3項の指定権自体は行使できる。ただし、その指定が、事件Xについての防御権を不当に制限するものであってはならない。なぜこの歯止めが要るのか。事件Xについては起訴後なので、本来39条3項による指定はできません。余罪の捜査を口実にすれば、許されないはずの被告事件の接見制限が裏口から入ってしまう。だから、事件Xの防御権を不当に制限しない範囲に限られるのです。指定できるかどうかは、起訴されているかどうかだけでは決まりません。「同じ人が、未起訴の余罪も抱えているか」という、地位の併存が鍵になります。ここで見えてくるのが、39条1項が保障する接見交通権の意義との関係です。39条1項は、身体の拘束を受けている被告人や被疑者に、立会人なしで弁護人と会う権利を認めていました。今日の場面は、その保障そのものを取り上げるのではなく、事件Yの捜査の必要という別の利益と、事件Xについてのその保障とを、どう調整するかという話になっています。
会社に勤めるAさんを考えてみてください。Aさんは、いま会社Xの社員で、来月の人事面談の日程がすでに確定しています。ところが同じAさんは、同時に会社Yの中途採用にも応募していて、まだ選考中の候補者でもあります。会社Yの採用担当者が「選考の都合で、面接の日程はこちらで決めさせてほしい」と言うこと自体は、正当な業務上の必要です。でも、その日程調整権を使って、Aさんが会社Xの人事面談前に相談役と話す時間を、実質的に奪ってしまったらどうでしょう。会社Yの必要性は否定されない。でも、それが会社Xでの正当な権利行使を不当に押しつぶすところまでは許されない。これが、今日見ている判例の構造そのものです。
②その弁護人が被告事件だけの担当だったら——選任のされ方が違う事案

さっきの事案は、弁護人Bが事件Xと事件Yの両方について選任されていました。では、Bが事件Xについてだけ選任されていて、事件Yの弁護人ではないとしたら、結論は変わるでしょうか。実際に、そういう事案がありました。弁護人が、被告事件についてだけ選任されていたケースです。最高裁は、こう判断しました。
判例最高裁判所決定(集刑280号115頁)
起訴後、被告事件についてだけ選任された弁護人に対する接見指定 被告事件の勾留と余罪の被疑事件の勾留が競合する場合について、「検察官は,被告事件について防御権の不当な制限にわたらない限り,被告事件についてだけ弁護人に選任された者に対しても,同法39条3項の接見等の指定権を行使することができる」。
では、なぜ選任のされ方で結論が変わらないのか、考えてみましょう。最高裁の歯止めが守っているのは「被告事件についての防御権」、つまり事件Xの被告人としてのAさん自身の権利です。これは、その弁護人が事件Yについても選任されているかどうかで広がったり狭まったりしない、Aさん自身の権利です。もし選任のされ方で結論が変わるとしたら、同じAさんの同じ余罪の捜査なのに、弁護人が事件Yも兼ねていれば指定でき、事件Xだけの弁護人なら一切指定できない、という食い違いが起きます。接見指定で比べているのは、余罪の捜査の必要と、Aさんが事件Xの防御を準備する機会との釣り合いであって、弁護人がどの事件で選任されたかではありません。だから最高裁は、同じ判断枠組みをそのまま使ったのです。
起訴後の接見指定は、「その弁護人が事件Yの弁護人でもあるか」ではなく、「同じ人に未起訴の余罪があるか」で決まる、ということです。人物ではなく、この人が今、どんな地位を併せ持っているか。それが判断の出発点になります。会社の例で言えば、会社Xの相談役が会社Yの調整も兼ねている場合でも、会社Xだけを担当している場合でも、問われるのは「Aさんが会社Xで受けるべき面談準備の機会が実質的に奪われていないか」だけです。兼務しているかどうかは関係ありません。
③限界——身体拘束が無ければ、そもそも指定できない

ここまでは、余罪についても逮捕・勾留されている、つまり身体を拘束されている場面でした。では、余罪について身体拘束を受けていない場合はどうでしょう。例えば、事件Xでは起訴後も勾留が続いているけれど、余罪については逮捕・勾留がされないまま、任意で取調べを受けているだけ、という場面です。実際に、こうした事案で最高裁が判断を示しています。
判例最高裁判所決定(刑集20巻6号728頁)
起訴後、余罪について身体拘束を受けていない場合の接見指定 刑訴法について、「公訴の提起後は、余罪について捜査の必要がある場合であつても、検察官等は、被告事件の弁護人または弁護人となろうとする者に対し、同三九条三項の指定権を行使しえないものと解すべき」とした。
この事案は、余罪について逮捕・勾留がされておらず、任意の取調べにとどまっていたことが前提でした。理由を考えてみましょう。39条3項が指定できるのは、身体を拘束された被疑者との接見です。身体の拘束を受けていない以上、そもそも39条3項が適用される対象を欠きます。さっきの①の決定と食い違って見えますが、あちらは余罪でも逮捕・勾留されていた事案、こちらはされていなかった事案です。会社Yの例で言えば、Aさんがまだ会社Yに応募すらしていない段階、つまり選考の枠組みそのものに入っていない段階で、会社Yの担当者が日程に口出しできないのと同じです。枠組みの外にいる人には、その枠組みのルールは及びません。
まず身体拘束があるかどうかで前提を確認し、あって初めて、防御権を不当に制限しないかという歯止めの話に進みます。
④独自設例で確認——3つの場合分け
図:被告人Aと弁護人Bが事件Xと余罪事件Yについて併せ持つ地位の関係を示す図
実際に、事例で整理しましょう。
⭐ 論文で書く規範:独自設例——起訴後の接見指定・3つの場合分け 被告人Aは、収賄事件Xで勾留されたまま起訴された。その後、別の収賄事件Y(余罪)についても逮捕・勾留され、事件Xと同じ弁護人Bが選任された。検察官は、事件Yの捜査の必要を理由に、Bとの接見を指定できるか。もしBが事件Xについてだけ選任された弁護人で、事件Yの弁護人ではなかったら。もしAが事件Yについて身体拘束を受けておらず、任意で取調べを受けているだけだったら。 (独自設例)
まずパターン①、事件Xと事件Yを同じ弁護人Bが担当し、Aは事件Yでも身体を拘束されている場合です。Aは、事件Xでは被告人、事件Yでは被疑者という2つの地位を併せ持っています。Bへの接見指定は、事件Yの捜査の必要性を理由に、事件Xの防御権を不当に制限しない範囲でできます。例えば、Bとの接見自体は認めたうえで、日時をずらす程度の指定であれば、事件Xの防御準備を妨げないので許されます。これが「該当する」側の具体例です。逆に、事件Xの公判期日が目前に迫り、その準備の打合せのためにBが接見を求めているのに、事件Yの取調べを理由に公判期日まで会わせないような指定は、事件Xの防御権を不当に制限するので許されません。
Bが事件Yについては選任されていなくても、判断枠組みは変わりません。Bへの接見指定は、同じ基準で適法になりえます。その弁護人が事件Yの弁護人でもあるかどうかに関係なく、鍵は「Aが事件Yについても現に身体拘束を受けているか」です。

Aが事件Yについて逮捕・勾留されておらず、任意で取調べを受けているだけの場合です。この場合、Bへの接見指定は、一切できません。これが「該当しない」側の具体例です。たとえ検察官が「Bとの接見を、事件Yの取調べが終わるまで待ってほしい」と求めても、そもそも指定権の根拠を欠くので、Bはいつでも自由にAと接見できます。39条3項が適用される前提、身体拘束を受けた被疑者であること、これ自体を欠くからです。3つを並べると、最初の分かれ目は身体拘束の有無、次の分かれ目は被告事件の防御権を不当に制限しないか、ということが見えてきます。
⑤コラム——任意同行中の被疑者との面会

最後に、少し離れた場面のコラムです。身体拘束されていない被疑者への面会という点で、今日の話とつながっています。警察に任意で呼ばれて取調べを受けている人のところへ、弁護人が会いに来た場面です。裁判例は、弁護人は弁護活動として被疑者といつでも自由に会えるのが原則で、それは被疑者が任意同行のあと取調べを受けている場面でも基本的に同じだ、としました。そのうえで、捜査機関の側は、取調べをいったん止めて弁護人が来たことを本人に知らせ、本人が会いたいと言えば会えるように措置を執るべきだ、としました。なぜ伝えることまで求められるのか。取調室の中にいる被疑者は、弁護人が来たことを自分では知りようがありません。会うかどうかを決めるのは被疑者自身なのに、申出が伝わらなければ、その選択の機会そのものが消えてしまう。だから、まず伝え、会いたいと言えば会えるように措置を執る、という形で面会の自由を実際に使えるものにしているのです。
任意捜査の場面であっても、弁護人と会う道を、捜査機関の側から閉ざしてはならない。この回のテーマである「地位の併存」とは別の場面ですが、身体拘束の有無がすべてを決めるわけではない、という点で覚えておくと役立ちます。
今日のまとめ

今日の内容を振り返ります。1つ目。39条3項本文は「公訴の提起前に限り」と定めていますが、同じ人が、被告事件では起訴後、余罪の被疑事件では起訴前という2つの地位を併せ持つ場合には、余罪を理由とする接見指定が問題になります。2つ目。事件Xと事件Yを同一の弁護人が担当している場合、被告事件の防御権を不当に制限しない範囲で、接見指定はできます。3つ目。弁護人が事件Xについてだけ選任されていて、事件Yの弁護人でなくても、判断枠組みは変わらず、結論は同じです。守られているのは被告人自身の防御権であって、弁護人の選任のされ方ではないからです。4つ目。余罪について身体拘束を受けていない場合には、39条3項が適用される前提を欠くため、接見指定は一切できません。5つ目。任意同行中の被疑者に対しても、弁護人が面会を申し出た以上、捜査機関は取調べを中断してそれを被疑者に伝え、被疑者が望めば面会を実現する措置を執るべきだ、とされています。
起訴された後の話、というタイトルのわりに、結局は「余罪があるか」次第だったんですね。起訴後かどうかだけでは決まらない。同じ人が、いま余罪という別の地位を持っているかどうか。そこが出発点です。
参照条文
- 刑事訴訟法第39条第3項