秘密交通権の保障範囲と面会接見
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第2章 捜査 ㉛/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の続き——秘密交通権は、その場だけの話なのか

前回の最後に、こんな問いを予告しました。立会人なしで弁護人と話せる秘密交通権は、話したその場だけの話なのか。話した内容を、後から捜査機関に知られないことまで守られるのか。いいでしょう。復習です。秘密交通権とは、身体拘束中の被疑者・被告人に、何を認める権利でしたか?弁護人と、立会人なしで接見し、書類や物をやり取りできる権利、でした。この権利を定めているのが39条1項です。
条文刑事訴訟法第39条第1項
刑事訴訟法第39条第1項 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
「立会人なくして接見し」、誰にも聞かれずに弁護人と話せるという意味で、秘密交通権とも呼ばれます。今日はそこから一歩進みます。「立会人がいない」という保障は、接見しているその場に限られるのか、それとも、もっと広い範囲まで及んでいるのか。先に答えを言うと、その場だけでなく、後から知られないことや、やり取りした物にまで及びます。なぜそこまで及ぶのかを、確かめましょう。
①保障の拡がり——その場・事後・物

秘密交通権が守ろうとしている本体は、被疑者・被告人が、弁護人に何でも安心して話せる状態です。この本体から逆算すると、保障は、接見の場で誰かに見聞きされないというだけでは終わりません。そこから広がって、2つの利益にまで及ぶと理解されています。1つは、被疑者・被告人と弁護人が接見で何を話したかを、後になって捜査機関に把握されない利益。もう1つは、その接見で弁護人とやり取りした書類や物を、差し押さえられたり中身を検閲されたりしない利益です。整理すると、保障には3つの顔があります。1つ目、その場で聞かれない。2つ目、後から知られない。3つ目、やり取りした物を取り上げられない。今日はこのうち、1つ目と2つ目を中心に扱います。3つ目、書類や物の差押え・検閲の具体的な判断枠組みは、別の回で扱います。
ここで、幼なじみの例で考えてみましょう。AさんとBさんは幼なじみで、放課後、公園のベンチでこっそり悩み事を相談し合う仲だとします。誰にも聞かれないという約束があるから、Aさんは家庭の事情まで正直に話せます。もし親がベンチの後ろに隠れて聞いていたら、その場で秘密が破れます。これが1つ目の顔です。隠れて聞いてはいなかったけれど、後日、親がAさんを問い詰めて「Bと何を話したの」と聞き出したらどうでしょう。これが2つ目の顔です。さらに、二人が交換ノートを使っていて、それを親が取り上げて読んだら、書くこと自体をやめてしまうでしょう。これが3つ目の顔です。逆に、Aさんが自分から「今すぐ話したいから、親が同じ部屋にいてもいい」と決めて話したなら、秘密を破られたことにはなりません。勝手に聞かれたのではなく、Aさん自身がそう選んだからです。この形は、後半でもう一度出てきます。
②なぜそこまで保障するのか——萎縮的効果

では、なぜ立会人なしで話せることに加えて、後から知られないことまで保障しなければならないのでしょうか。さっきの幼なじみの例で考えてみてください。もしAさんが「あとで親に問い詰められるかもしれない」と分かっていたら、公園のベンチでも、本当のことを話さなくなってしまうのではないでしょうか。前に、立会人がそばにいると本音を言えなくなる、萎縮的効果を見ました。後から知られる可能性があるだけでも、同じ萎縮がその場で起きるんです。被疑者・被告人も同じです。接見内容が後で捜査機関に知られるかもしれないと分かっていれば、弁護人にすべてを話すことを差し控えてしまいます。
被疑者・被告人が弁護人から実質的で効果的な援助を受けるためには、萎縮せずに何でも話せる状態そのものを守らなければならない。だから秘密交通権の保障は、その場だけでなく、事後的に知られない利益にまで広く及ぶのです。実際に、捜査機関が秘密交通権を侵害したとして国家賠償が認められた裁判例もあります。
③制約は一切許されないのか——見解の対立

ここまでの保障が広く及ぶとして、では捜査機関が被疑者から接見内容を聴取するような行為は、一切許されないのでしょうか。そこは、考え方が3つに分かれます。1つ目は絶対保障説。秘密交通権の性質上、接見内容を聴取するような行為は一切許されないとする立場です。2つ目は衡量説。接見の秘密を保護する必要性と、捜査機関が接見内容を聴取する必要性とを比較して決めるべきだとする立場です。3つ目は、衡量説の一種ですが、捜査妨害的な行為など「接見交通権の保護に値しない事情」がある、極限的な場合に限って制約が許されるとする理解です。「特段の事情」限定説と呼びましょう。
それぞれに弱点があります。絶対保障説には、捜査上どうしても対応しなければならない極限的な場面、例えば接見を利用した罪証隠滅の相談が現に進行しているような場面にも対応できないのではないか、という弱点があります。衡量説には、天秤にかける基準があいまいで、捜査機関の言い分次第で、いくらでも制約が正当化されてしまう恐れがあるという弱点があります。そして「特段の事情」限定説にも、2つの弱点が考えられます。1つは、衡量説を名乗りながら、実質的には絶対保障説にかなり近づいてしまい、両説の違いが見えにくくなること。もう1つは、「特段の事情」の中身自体があいまいで、結局は歯止めとして機能しないのではないか、ということです。
さっきの幼なじみの例で言えば、「親は理由があっても絶対に問い詰めてはいけない」というのが絶対保障、「親の心配の大きさと子どもの秘密の重さを見比べて決める」というのが衡量、「よほど深刻な非行の兆候があるときだけ問い詰めてよい」というのが特段の事情限定です。3つは種類が違うのではなく、どこまで踏み込んでよいかという程度の違いなんです。
④設例で確認——3つの場面

ここで、事例を使って整理しましょう。
⭐ 論文で書く規範:設例——秘密交通権の保障範囲・3つの場面 被疑者Aは、接見室で弁護人Bに相談し、事件の動機について「実は正当防衛だった」とBに打ち明けた。①取調官がその場に立ち会って聞いていた場合。②取調官は立ち会っていなかったが、後日Aを取り調べて「Bと何を話したか」を聞き出した場合。③Aが接見中にBへ手紙を渡し、その手紙を捜査機関が差し押さえた場合。それぞれ、秘密交通権のどの保障との関係が問題になるか。 (独自設例)
①は、取調官がその場に立ち会って聞いていた場合。これは、その場で聞かれないという保障、同時性の保障に違反することに争いはありません。②は、立ち会ってはいなかったけれど、後日Aを取り調べて「Bと何を話したか」を聞き出した場合。これが、後から知られない利益の問題であり、さっき見た見解対立が関わってくる場面です。③は、Aが接見中にBへ渡した手紙を、捜査機関が差し押さえた場合。これは、やり取りした物を差し押さえられ検閲されない利益との関係で問題になります。
⑤面会接見——秘密交通権を弁護人の承諾で手放す場面

ここまでは、秘密交通権が保障される場面を見てきました。後半は、秘密交通権を弁護人自身の判断であえて手放す場面、面会接見を見ましょう。面会接見とは、立会人のいる部屋で、短時間だけ弁護人と会うやり方です。家族の面会と同じように立会人が付きますが、会う相手はあくまで弁護人です。留置施設の接見室は、普通、外から会話が聞こえない個室として作られています。ところが、検察庁舎の中には、そうした接見に適した設備がない場合があります。設備がない場合、接見自体を断れるんですか。そこが問題になった事案があります。最高裁は、こう判断しました。
判例最高裁判所判決(民集59巻3号563頁)
検察庁舎に接見設備がない場合の面会接見 接見に適した設備がないことを理由に接見の申出を拒否しても、それだけで直ちに違法とはいえない。もっとも、「弁護人等がなお検察庁の庁舎内における即時の接見を求め、〔その〕必要性が認められる場合」には、検察官は「立会人の居る部屋での短時間の『接見』」(面会接見)であってもよいかどうか弁護人等の意向を確かめ、弁護人等が差し支えないとの意向を示したときは「面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務がある」。
順番を整理しましょう。最高裁の判断は、3つの段階に分かれます。まず、設備がないことを理由に拒否しても、それだけでは直ちに違法にはなりません。立会人のいない接見を、逃亡や証拠隠しの心配なく行える部屋がなければ、39条1項どおりの接見そのものを用意できないからです。しかし、それでも弁護人が庁舎の中で今すぐ会うことを諦めず、その必要が認められるときには、検察官は、面会接見、つまり立会人のいる部屋での短時間の接見でもよいかどうか、弁護人の意向を確かめなければなりません。そして、弁護人が「面会接見でも差し支えない」という意向を示したときは、検察官は面会接見ができるよう、特別の配慮をすべき義務を負います。
Aさんがどうしても今すぐBさんに会いたいけれど、防音の部屋が空いていない場面を考えてください。「今日は無理」と言われても仕方ない場面ですが、それでもAさんが「今すぐでないと困る、多少他の人に聞こえる部屋でもいいから会いたい」と申し出て、それでよいと自分で決めるなら、周りに配慮してもらいながら会う機会を作ってもらえる。これが面会接見です。前半の幼なじみの例で、Aさん自身が選んだ場合と同じ形です。面会接見は、検察官が一方的に秘密交通権を制限する場面ではありません。弁護人が、即時に会うことを優先して、自らの判断で秘密交通権を一時的に手放す場面なんです。だから、弁護人の意向確認が判断枠組みの中心に置かれています。
⑥面会接見の実施方法——判断が分かれている

面会接見が行われるとして、誰を立会人にするか、何人付けるか、どのくらい離れた場所に座らせるか、被疑者の腰に縄を付けたまま会わせてよいかなど、具体的な実施方法については、まだ争いがあります。この点、実施方法の細かい部分を検察官の裁量に委ねてよいとする考え方の裁判例と、秘密交通権にできるだけ近づけるよう検察官に配慮義務を求める考え方の裁判例とがあり、高裁の判断が分かれています。分かれ目は、弁護人が手放したのは秘密交通権のどこまでか、という見方の違いです。弁護人が「立会人がいてもいい」と一度承諾した以上、誰をどう立ち会わせるかは検察官に任せてよい、と見れば、裁量の考え方になります。手放したのは今すぐ会うために必要な分だけで、残りの秘密はできるだけ守るべきだ、と見れば、配慮義務の考え方になります。
さっきの幼なじみの例で言えば、Aさんが「多少聞こえる部屋でもいい」と言ったとき、周りの人がすぐ隣に座っていてよいのか、部屋の隅にいてもらうべきなのか、という違いです。面会接見は、あくまで、秘密交通権が十分には保障されない例外的な運用です。だからこそ、実施方法をどこまで秘密交通権に近づけるべきかについて、考え方に幅が出ているのです。
コラム——なぜ検察庁で接見したい弁護人が多いのか

最後に、実務の背景を少しだけ紹介します。都市部では、身体拘束中の被疑者を検察官が取り調べる際、その日の対象者をまとめてバスに乗せて検察庁まで一斉に運ぶ、集中押送という運用が行われています。この方式だと、被疑者は検察庁内で自分の順番を待ち、取調べが終わっても、全員が揃うまで庁舎内で待機することになります。留置施設での接見は事実上難しくなる一方、遠方の留置施設まで往復する時間を考えると、弁護人にとっては検察庁にいる時間を使って接見できるほうが都合がよく、取調べの直前に助言することもできます。ところが、検察庁内の接見室は数が限られていて、面会接見の需要は今も残っています。
今日のまとめ

今日の内容を振り返ります。1つ目。秘密交通権の保障は、接見の場で聞かれないことにとどまらず、接見内容を事後的に知られない利益、やり取りした書類や物を差し押さえられ検閲されない利益にまで及びます。2つ目。これほど広く保障される理由は、萎縮的効果を防ぎ、被疑者・被告人が弁護人から実質的で効果的な援助を受けられるようにするためです。3つ目。もっとも、その制約が一切許されないのかについては、絶対保障説・衡量説・特段の事情限定説の対立があり、それぞれに弱点があります。4つ目。検察庁舎に接見に適した設備がない場合、設備がないことを理由とする拒否は直ちに違法ではありませんが、弁護人がなお即時の接見を求め、差し支えないとの意向を示したときは、検察官は面会接見ができるよう特別の配慮をすべき義務を負います。5つ目。面会接見の具体的な実施方法については、検察官の裁量に委ねる考え方と、秘密交通権に近づける配慮を求める考え方とで、高裁の判断が分かれています。
その場だけの保障だと思っていたら、事後や物にまで広がっていて、びっくりしました。保障の本体は、被疑者・被告人が弁護人に何でも安心して話せる状態そのものです。そこから逆算すると、その場・事後・物という3つの顔が自然に出てくるんです。
参照条文
- 刑事訴訟法第39条第1項