刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#64

取調べでの接見内容の聴取と秘密交通権

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第2章 捜査 ㉛/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の続き——取調べで接見の内容を聴くのは許されるのか

前回の予告を受け取調べで捜査官が接見の内容を聴くことは許されるのかという今日の問いと絶対保障説衡量説特段の事情限定説という3つの立場の名前を示す板

前回の最後に、こんな問いを予告しました。取調べで捜査官が接見の内容を聴くことは、許されるのか。先に答えを言うと、本人が自分から話しても、それだけで聴いてよいことにはなりません。壊れるのは本人の秘密だけではなく、弁護人の側の利益でもあるからです。今日はその理由を確かめます。前回、秘密交通権の制約をめぐる3つの立場を見ましたね。今日はこの3つの立場を道具箱として使いながら、実際に取調べで接見の内容を聴いた事案を見ていきます。まず、その場面を確かめるために、39条1項をもう一度出しましょう。

条文刑事訴訟法第39条第1項

刑事訴訟法第39条第1項 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。

この「立会人なくして接見」という保障には、前回見たとおり、後から知られない利益まで含まれます。今日はその利益が、実際にどこまで守られるのかを見ていきます。

①場面を設定する——独自の設例

被疑者Xと弁護人Y検察官の三者関係のもと接見内容を尋ねる場面弁護人への相談内容を聴き出す場面調書を証拠調べ請求する場面という3段階を示す関係図

具体的な場面を作って考えましょう。

⭐ 論文で書く規範:設例——接見内容の聴取と調書化・証拠調べ請求 被疑者Xは、傷害事件で逮捕された。逮捕直後の接見でXは弁護人Yに「実は正当防衛だった」と説明した。Xは最初の取調べでは「よく覚えていない」と述べていたが、その後の取調べで、捜査官に対し「反撃されたので身を守るためだった」という趣旨の供述をした。弁護人Yは、Xの同意を得て、接見でXが正当防衛だったと説明した事実を、すでに報道機関に公表していた。取調べで検察官は、①「接見の際に弁護人にも同じ説明をしたか」と尋ね、②さらに「弁護人にどう相談し、どう供述するよう助言されたか」まで聴き出して供述調書に記載し、③公判でその調書の取調べを請求した。 (独自設例)

まず①、Xが弁護人にも同じ説明をしたかを尋ねる場面。次に②、弁護人にどう相談し、どう助言されたかまで聴き出す場面。最後に③、その調書を公判で証拠として取り調べるよう請求する場面です。この3つを順番に検討していきます。

②何が問題か——聴取そのものと調書化・証拠調べ請求

接見内容の聴取そのものの適法性と聴取結果の調書化及び証拠調べ請求の適法性という2段構えの検討枠組みを示す図

この事例を検討するには、実は問題が2段階あります。まず、接見内容を聴取すること自体が39条1項に違反しないか、という問題。そして、聴取した結果を調書にして公判に出すこと自体が、別の問題を生まないか、という問題です。設例で言えば、検察官がXから弁護人Yとの話を聴き出した時点で、秘密はまず一度破られます。その調書を法廷に出せば、今度は「弁護人に話したことは法廷に出る」とXに知らせることになり、次にYに相談する場面まで傷つきます。傷つき方が違うから、分けて考えるんです。まず設例の1つ目と2つ目で「聴くこと」を、そのあとで3つ目の「使うこと」を見ていきます。

③本人が話しても保護は弱まらない——弁護人の固有権

秘密交通権を弁護人固有の権利と位置づけることで自発的供述があっても保護の必要性は低減しないという枠組みを示す板

まず前提になる問いから。取調べでXが、自分から接見の中身に触れて話してしまったらどうなるか、です。ここでいったん、法律から離れて考えてみましょう。学校で、生徒Aが、いじめに悩んで保健室の先生Bに相談したとします。Bにだけ話すという約束があるから、Aは誰にも言えなかった本当の気持ちを話せました。ところが後日、担任の先生Cが、Aを呼び出して「保健室の先生に何を相談したの」と聞き出し、Aが自分から答えてしまったとします。自分から話したなら守らなくていい、と感じるところが、まさにポイントです。壊れているのは、Aさん個人の秘密だけではありません。保健室が「誰にも言わない場所」として機能し続けるかどうかという、B先生の側の役割そのものが壊れているんです。次にAさんが本当に困ったとき、また保健室に行けるでしょうか。

担任の先生にまた聞き出されるかもしれないと思うと、行きにくくなります。しかもそれは、Aさん以外の生徒にとっても同じです。だから、この秘密を守る利益は、Aさん個人の持ち物というより、相談を受ける側であるB先生に属する権利だと考えるべきなんです。弁護人と被疑者の関係も、これと同じ構造です。弁護人の側にも権利がある。それが、前に弁護人の権限の回で見た固有権です。弁護人だけが主語で、本人の意思や権利と無関係に行使できる権利でした。この考え方を、実際に裁判所が示しました。佐賀県で実際にあった事件の裁判例で、捜査機関が被疑者から接見内容を聴取したことが問題になりました。裁判所の判断は2段です。1段目が原則、2段目が本人が自分から話した場合です。まず1段目。裁判所は、秘密交通権が守ろうとしているのは、捜査機関が被疑者と弁護人の自由なやり取りに萎縮的な効果を及ぼさないようにすることだ、という前提を確認したうえで、原則として、弁護人との接見でどんな話をしたかを聴取すること自体が禁止されると判断しました。

自分から接見内容を話し始めても秘密の放棄とは見ずに弁護人固有の権利と位置づけることで保護の必要性は下がらないという判断を示す板

前回の萎縮的効果の考え方が、ここでも出発点になっています。では2段目です。裁判所は、被疑者が取調べの中で自分から接見内容を話し始めた場合についても、踏み込んだ判断をしました。自分から話したのだから秘密を放棄したのだ、と見るのではなく、この秘密を守る利益を弁護人自身の固有の権利と位置づけて、被疑者が自発的に話したという事情だけでは、その権利を保護する必要性は下がらない、としたんです。壊れているのはA自身の秘密だけではなく、B先生、つまり弁護人の側の固有の利益でもあるから、本人の任意性だけでは正当化できない。これが冒頭の問いへの答えです。ただし、下がらないのは「本人が話した」という事情だけでは、という意味です。弁護人の側がその中身をすでに公表していれば事情は変わります。それは設例に当てるところで確かめます。

④捜査機関に課される義務と衡量の枠組み

捜査機関は接見内容の聴取を原則差し控え話し始めたら告知するなどの配慮義務を負い聴取の適否は保護の必要性と聴取の必要性の衡量で判断するという枠組みを示す板

では、捜査機関は具体的に何をすべきなのでしょうか。裁判所は、2つのことを求めました。1つは、捜査機関が自分から積極的に接見内容を聴き出すことを、原則として差し控えるべきだということ。もう1つは、被疑者が接見内容にわたる話を自分から始めてしまったときには、それを制止したり、話す必要はないと告げたりするなどして、秘密交通権に配慮すべき法的義務を負うということです。聴かないだけじゃなく、話し始めたら止める義務まであるんです。なぜそこまで求めるのか。さっき見たとおり、本人が話しても弁護人の側の利益は消えません。本人が止まれないなら、聴く側が止めるしかないからです。設例で言えば、Xが「弁護人の先生にも同じことを言ったんですが」と言いかけた時点で、捜査官が「接見で話したことは言わなくていいですよ」と告げる。これが配慮です。そのうえで、実際に聴いてしまった内容が適法かどうかは、秘密として保護する必要性と、捜査機関が聴取する必要性とを衡量して判断する、という枠組みが示されました。

さて、ここで前回の3つの立場を思い出してください。聴取は一切許されないとする絶対保障説、秘密を守る必要性と捜査の必要性を比べる衡量説、そして衡量説の一種で、捜査妨害のような極限的な場合に限って許すとする特段の事情限定説でした。今日のこの枠組みは、どれに近いと思いますか?聴くことを一切禁じる絶対保障説ではなく、実際に聴いた中身ごとに天秤にかける、衡量説の側です。ただ、前回見た衡量説の弱点は、捜査機関の言い分次第で天秤がいくらでも傾くことでした。この裁判例は、原則は聴取禁止、話し始めたら止める義務、という重りを先に秘密の側に載せてから天秤にかけています。それでも、極限的な場合に限るとまでは言っていないので、特段の事情限定説そのものではありません。

⑤あてはめ——公表済みの事実の確認はセーフ寄り・未公表の中身はアウト寄り

設例①の公表済み事実の確認はセーフ寄り設例②の未公表の相談内容の聴取はアウト寄りという対比表を示す板

この枠組みを、さっきの設例に当てはめてみましょう。設例の①、検察官がXに「弁護人にも同じ説明をしたか」と尋ねた場面です。この部分は、Xが接見で正当防衛だと説明したこと自体を、弁護人Y自身がXの同意を得てすでに公表していました。つまり、弁護人の側が自ら明らかにした部分ですから、弁護人の固有の利益として秘密を保護する必要性が、もともと下がっている部分です。しかも、Xの供述は「覚えていない」から「身を守るためだった」へ変わっていますから、変わった理由を確かめる必要性もあります。ですから、直ちに違法・不適切とまでは言えません。

では設例②、検察官がさらに「弁護人にどう相談し、どう助言されたか」まで聴き出した場面はどうでしょう。これは、単に事実の有無を確かめる範囲を超えて、弁護人との打ち合わせの詳細そのものに踏み込んでいます。被疑者と弁護人の自由な意思疎通に萎縮的効果を及ぼすおそれがあり、違法と考えられます。捜査官としては、Xが自分から②のレベルまで話し始めた場合でも、その時点で「接見の内容については話さなくていい」と告げるなどの配慮をすべきだった、ということになります。

⑥調書化と証拠調べ請求は別に評価する

聴取と一体で評価される調書化と信頼関係破壊のおそれから別個に違法と評価されうる証拠調べ請求という区別を示す板

続いて、設例③の場面です。聴取した内容を調書にして、それを公判で証拠として取り調べるよう請求した場面でした。ここは②の問題とは別に、もう一段考える必要があります。まず、聴いた内容を調書に書き起こす行為そのものは、聴取によっていったん侵害された秘密が、書き起こしによってさらに新しく侵害されたとまでは言いにくく、聴取行為と一体のものと評価されます。ところが、その調書を公判で証拠として取り調べるよう請求する行為は、話が違います。これは、被告人と弁護人の信頼関係そのものを壊すおそれがある行為です。弁護人に相談した内容が、検察官によって法廷に持ち出されるかもしれないと分かれば、被告人はその後、弁護人に本当のことを話さなくなります。弁護人が今後の弁護活動で秘密交通権を使おうとしても、心理的に萎縮してしまう。だから証拠調べ請求は、聴取行為そのものとは別個の、独立した違法行為と評価されうるんです。

設例に戻ると、③の証拠調べ請求は、この意味で違法と評価されることになります。

⑦補足——証拠開示と被告人質問

証拠開示を通じた萎縮効果と公判での被告人質問への対応を一言で示す板 図:証拠開示を通じた萎縮効果と公判での被告人質問への対応を一言で示す板

ここで、補足を2つだけします。まず、聴取した供述調書は、証拠調べ請求されなくても、弁護人が類型証拠開示、つまり検察官の手持ち証拠のうち一定の種類のものを見せるよう求める手続きを使えば、開示されることがあります。そこで接見内容を聴取した事実が明らかになれば、やはり信頼関係が壊れ、萎縮効果が生じかねません。だから、調書にすること自体も聴取とは別の違法と考える余地がある、という指摘もあります。もう1つ、公判での被告人質問で検察官が接見の内容について質問すること自体も問題になりえますが、弁護人立会いのもとで異議や黙秘権の行使によって防げるため、それ自体は違法とまでは言えないと理解されています。

コラム——再審請求弁護人との秘密面会

39条1項が直接当たらない再審請求権者にも刑事収容施設法121条ただし書の正当な利益として弁護人との秘密面会の利益が認められ440条1項の趣旨に照らし弁護人固有の利益でもあるという最高裁の判断の流れを示す図

最後にコラムです。今日見てきたのは、身体拘束中の被疑者・被告人の話でした。では、有罪判決が確定した人、たとえば死刑が確定した人が、確定した判決のやり直しを求める再審請求のために弁護人と会いたいときはどうでしょうか。もう被疑者でも被告人でもないから、39条は関係ないんですか。そこが問題になりました。39条1項は、身体拘束中の被疑者・被告人にしか適用されない条文なので、有罪が確定した人には直接は当てはまりません。再審の規定にも、弁護人を選べるとは書いてありますが、秘密で会えるとは書いていないんです。

最高裁は、秘密で会う利益がないとは判断しませんでした。判断は3段です。どの条文で守るのか、なぜ守るのか、そして断ってよいのはどんな場合か。まず条文です。刑事収容施設法には、施設の長が面会に立ち会わせたり内容を記録したりするのが原則だとしつつ、訴訟の準備など正当な利益を守るために、立会いなどをさせないのが適当な事情があって、相当と認めるときは、立会いなしで会わせることができる、という規定があります。次に、なぜ守るのか。最高裁は、再審請求に弁護人を選べる以上、再審請求弁護人から実質的な援助を受ける機会を保障する必要があるとして、死刑確定者には、再審請求の準備段階でも、弁護人と秘密に会う利益が、この「正当な利益」として認められるとしました。

39条1項を準用したわけではなく、別の条文の中で、同じ考え方を認めたということです。そのうえで最高裁は、秘密交通権が弁護人の固有の権利として大切にされてきたことを踏まえ、この秘密面会の利益も、再審請求弁護人自身の固有の利益でもあると位置づけました。最後に、断ってよい場合です。最高裁は、規律や秩序を害するおそれ、あるいは心情の安定を把握する必要性が高いなど、よほどの特段の事情がない限り、この秘密面会の申出を許さない措置は、施設の長に任された判断の幅を踏み外した、つまり裁量権の逸脱・濫用として違法だと判断しました。

今日見てきた「弁護人の固有権」という考え方が、被疑者・被告人の段階を超えて、再審請求という別の場面でも生きている、ということです。

今日のまとめ

弁護人固有権として保護必要性は低減しない・原則聴取禁止と衡量枠組み・公表済み確認と未公表内容の線引き・調書化と証拠調べ請求の別評価・再審請求弁護人の秘密面会という今日の骨格をまとめる板

今日の内容を振り返ります。1つ目。被疑者が接見内容を自分から話してしまっても、秘密交通権を弁護人の固有の権利と位置づけることで、保護の必要性は下がりません。2つ目。捜査機関は、接見内容の聴取を原則として差し控えるべき法的義務を負い、実際に聴いた内容の適法性は、秘密として保護する必要性と聴取する必要性との衡量で判断されます。3つ目。同じ接見内容でも、すでに公表された事実を確かめる聴取はセーフ寄り、その先の未公表の相談内容そのものを聴き出す聴取はアウト寄り、という線引きになります。4つ目。聴取内容の調書化は聴取行為と一体で評価されますが、その調書を証拠として取り調べるよう請求する行為は、信頼関係を破壊するおそれから、聴取行為とは別個に違法と評価されうるものです。5つ目。有罪確定後の再審請求の場面でも、再審請求弁護人との秘密面会の利益は、刑事収容施設法の「正当な利益」として保護され、弁護人自身の固有の利益でもあります。特段の事情がない限り、これを拒む措置は違法です。

壊れているのは、本人の秘密だけではなく、弁護人自身の固有の利益だから、というのが今日の芯でしたね。

参照条文

  • 刑事訴訟法第39条第1項

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