弁護人との信書の押収・検閲と秘密交通権
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第2章 捜査 ㉛/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の続き——手紙の中身も守られるのか

前回の最後に、こんな問いを予告しました。弁護人とやり取りした手紙や書類を、捜査機関が押収したり検閲したりすることは、許されるのか。会って話した中身は守られると前回まで見てきました。同じ中身を手紙に書いたら、それも守られるんですか。守られます。ただし、会話とは違う守り方をします。誰が、どんな根拠で、どこまで中身を見ようとしているのか。この違いで、許される範囲が変わるんです。今日は「やり取りした物」を、差押え、任意提出、検閲、中身の確認という4つの場面に分けて見ていきます。
保障の位置づけと4つの場面

まず思い出してほしいのが、以前立てた3層の整理です。秘密交通権の保障は、その場で聞かれない、事後に知られない、そしてやり取りした物を取り上げられない、という3つの顔を持っていました。前々回、二人の交換ノートを親が取り上げて読んだら、書くこと自体をやめてしまう、という例で見た顔です。今日は、その3つ目「物」を掘り下げます。具体的な場面を作りましょう。
⭐ 論文で書く規範:設例——勾留中の被告人と弁護人の書面のやり取り 被告人Xは勾留され、公判に向けて弁護人Yとの間で、防御方針をまとめたメモや、Yに宛てて書いた手紙の下書きを居室でやり取りしていた。この書面や手紙をめぐって、①捜査機関が令状で居室を捜索し差し押さえようとする場面、②捜査機関がXに任意提出を求める場面、③施設がXの発受する信書を検査する場面、④証拠として扱われる物の中身を施設職員が確認しようとする場面、という4つの場面が起こりうる。 (独自設例)
同じXとYの関係を使い回しながら、①から④まで順番に見ていきます。
場面①令状による居室の捜索差押え

まず①、捜査機関が令状で居室を捜索し、Yとのやり取りの書面を差し押さえる場面です。ある裁判例は、この場面の判断を2段で示しました。1段目は原則です。防御のために弁護人とやり取りした中身は、原則として捜査機関には見せなくてよいものだ、と位置づけました。ただし2段目、この原則は絶対の保障ではありません。捜索差押えの必要性と、差し押さえられる被告人の被る不利益とを比べて、必要かつ合理的な範囲の制約には服する、としました。前回見た衡量の発想と、根っこは同じです。この事件で決め手になったのは「時期」でした。公判が始まったあと、期日と期日の間に争点と証拠を整理し直す期日間整理手続、これが終わったあとという時期には、部屋の中にはもう防御のための材料がかなり溜まっているはずだ、と考えられます。だから被告人の被る不利益が大きく、差押えの必要性を欠くとして、違法と判断されました。
設例に当てはめましょう。同じXの居室でも、期日間整理手続の前、まだYとのやり取りが少ない時期に差し押さえる場合と、手続の後、メモや下書きが積み重なった時期に差し押さえる場合とでは、結論が変わりえます。前者は必要性が不利益に優越しやすく、後者は不利益のほうが重くなりやすい。同じ捜索でも、時期が結論を左右するんです。
場面②任意提出と領置——令状が無いからこそ厳しく見る

ここで1つ、考えてほしいことがあります。①には令状がありました。今度は②、令状によらず、捜査機関がXに書面の提出を求め、Xがそれに応じて渡す場面です。こうして任意に出された物を受け取ることを、以前見たとおり領置と言います。令状が無いことは、捜査機関にとって有利でしょうか、不利でしょうか。令状が無いなら、裁判官のチェックを通っていないということですよね。だからかえって厳しく見られる気がします。令状があれば、裁判官のチェックを経ているので、あとは必要性と不利益の天秤だけで足ります。ところが令状が無い任意提出は、そのチェックが無いぶん、裁判所が事後に別のところを厳しく見ます。それが、Xの自由な意思に基づく真摯な同意があったかどうか、そして捜査機関がそれを受け取るやり方が、常識に照らして相当と言えるかどうか、という2つです。
ある裁判例では、弁護人宛ての信書の下書きを書いた便箋を検察官が任意提出させた行為が、国に損害賠償を求める裁判、つまり国家賠償の裁判で、違法と判断されました。設例で言えば、Xが「渡さないと不利になる」と感じて渡した便箋があるなら、それが本当に自由な意思によるものだったかが、あとで問われることになります。前回、秘密交通権は弁護人の固有権でもあるので、本人が自分から話しても保護は弱まらない、と見ました。手紙の下書きも同じで、本人が「はい」と言っただけでは足りないんです。ただし、この裁判例は、任意提出なら必ず違法だとは言っていません。たとえば、XがYと相談して、Yも納得したうえで、自分に有利な資料として自分から差し出したのなら、真摯な同意も相当性も認められる余地が出てきます。不利を恐れて渡したのか、防御の方針として自分から出したのか。そこが線です。
場面③施設による信書の検閲——施設法で訴訟法上の権利を制約できるか

さて、ここでいったん前回の内容を思い出してください。捜査機関が接見内容を聴取する場面で、裁判所はどんな原則と、どんな判断の方法を示しましたか?原則は聴取を差し控えるべきで、実際に聴いた内容の適法性は秘密として守る必要性と聴く必要性の衡量で決める、という話でした。今日の③も、根っこは同じ発想です。ただし今度は行為者が変わります。捜査機関ではなく、Xの身柄を預かる施設です。施設には、信書に危険物や逃亡・罪証隠滅の手引きが紛れていないかを確かめる役目があります。ここで問題になるのが、施設の法律で、訴訟法上の権利である秘密交通権を制約してよいのか、という筋です。
条文刑事収容施設法第135条第1項
刑事収容施設法第135条第1項 刑事施設の長は、その指名する職員に、未決拘禁者が発受する信書について、検査を行わせるものとする。
未決拘禁者とは、Xのように勾留されていて、まだ判決が確定していない人のこと。発受は、出す手紙と受け取る手紙の両方です。ただし、この検査がすべての信書に同じ強さで及ぶわけではありません。
条文刑事収容施設法第135条第2項
刑事収容施設法第135条第2項(一部) 次に掲げる信書については、前項の検査は、これらの信書に該当することを確認するために必要な限度において行うものとする。ただし、第三号に掲げる信書について、刑事施設の規律及び秩序を害する結果又は罪証の隠滅の結果を生ずるおそれがあると認めるべき特別の事情がある場合は、この限りでない。 一 未決拘禁者が弁護人等から受ける信書 三 未決拘禁者が自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し弁護士法第三条第一項に規定する職務を遂行する弁護士から受ける信書
宛先や差出人が本当に弁護人かどうかを確かめる限度でしか、検査できません。中身を読んで内容を評価してよいわけではないんです。設例で言えば、Yから届いた封筒の差出人が本当にYの事務所かを確かめるのは、この限度の内です。けれども便箋を広げて、Yが書いた防御の方針まで読むのは、限度を超えます。しかも、この1号には例外がありません。特別の事情があっても、この限度を超えて中身を読むことはできないんです。ただし、これは1号の話です。今見た2項の3号には、未決拘禁者が自分の処遇について弁護士から受ける信書という、別の類型があります。こちらは事件の弁護人ではなく、施設での扱いへの不服などを相談する弁護士からの手紙です。こちらは、罪証隠滅などのおそれがあると認めるべき特別の事情があるときだけ、限定が外れます。
条文刑事収容施設法第135条第3項
刑事収容施設法第135条第3項 刑事施設の長は、刑事施設の規律及び秩序を害する結果並びに罪証の隠滅の結果を生ずるおそれがないと認める場合には、前二項の規定にかかわらず、第一項の検査を行わせないことができる。

この現行法の姿になる前、旧監獄法の下で、弁護人と被疑者の間の信書検閲そのものの適法性が争われた最高裁の判断があります。多数意見は、この検閲について違法はないとしました。秘密交通権も絶対ではなく、逃亡や罪証隠滅を防ぐという勾留の目的と、施設の規律を守るための、必要かつ合理的な制限には服する、という考え方です。さきほどの問い、施設の法律で訴訟法上の権利を制約できるのかに対する多数意見の答えは、その範囲でならできる、ということになります。ただし、この判断には反対意見が付いています。逃亡や罪証隠滅の具体的な危険がうかがわれるといった特段の事情がないのに、一般的・抽象的なおそれがあるというだけで一律に検閲することは、障害の防止に必要かつ合理的な制限の範囲を超えるものであり、もっと抑制的な確認方法によるべきだ、という考え方です。
前々回の3つの立場で言えば、保護に値しない極限的な場合に限って制約を許す、特段の事情限定説に近い発想です。ここで押さえてほしいのは、多数意見の結論、つまり検閲は違法でないという結論はそのまま生きている、ということです。ただし今日見た135条2項は、少なくとも弁護人から受ける信書については、特別の事情があっても限定を外さない、例外の無い規律になっています。受け取る信書については、一律に中身を読む検閲はしない。ここまでは反対意見の発想に近い部分です。けれども、さきほど1項で見たとおり、検査の対象は出す信書と受け取る信書の両方でした。それなのに2項に挙がっている号は、1号も3号も、未決拘禁者が「受ける」信書です。Xが弁護人に「出す」信書は、どの号にも挙がっていません。
だから出す信書には、確認の限度という絞りがかからず、1項の検査の原則がそのまま及びます。一律の検閲を行き過ぎとした反対意見とは、ここで食い違います。現行法が反対意見の側に立ったとまでは言えないのは、このためです。検閲をめぐる問題は、現行法の下でもなお残っている、ということです。
場面④中身の確認——差し押さえる・検閲するとは別の切り口

最後に④、中身の確認です。ここまでの3つは「差し押さえる」「検閲する」という、事前に統制する話でした。④は違う切り口で、現場でその場の中身を見てよいかという話になります。ある裁判例では、弁護人が接見の場で、すでに証拠として採用されていたビデオを被告人に見せようとしたら、施設の職員が先に中身を確かめさせてほしいと求めた、という事案がありました。この内容確認は違法と判断されています。中身を確かめられれば、弁護人が被告人とどの場面を見て何を打ち合わせようとしているのか、防御の手の内が施設に知られてしまいます。すでに証拠として採用された物でも同じです。もう1つ、関連する場面を見ておきます。被疑者の取調べの回で見た、301条の2の録音・録画を思い出してください。裁判員裁判の対象事件などでは、被疑者取調べの録音・録画が義務づけられていました。この記録は、公判の準備段階で弁護人に開示され、被告人も接見で見る必要が出てきます。そこで、接見室に再生機やパソコンを持ち込んで再生しながら打ち合わせることが問題になりました。ある裁判例は、これを、書類を見ながら打ち合わせることと区別する理由がないとして、秘密交通権として保障されるとしました。
紙も映像も、同じ打ち合わせの道具、ということです。他方で、これらの機材を持ち込むこと自体を事前に申告するよう求めることは、どうでしょうか。被告人の様子を撮影したり会話を録音したりすることは、そもそも接見に含まれる行為ではありません。だから、録音・録画機能があるかどうかだけを申告させることは、許されるとされました。中身に踏み込むかどうかで、線が引かれています。
4場面の比較——接見交通権シリーズの締め

今日見た4つの場面を、1つの表にまとめます。①差押えは、捜査機関が令状を根拠に、必要性と不利益の衡量、とりわけ時期で判断されます。②任意提出は、捜査機関が本人の任意提出を根拠に、真摯な同意と社会通念上の相当性で判断されます。③検閲は、施設が刑事収容施設法135条を根拠に、弁護人から受ける信書は例外なく該当確認の限度にとどまり、特別の事情による例外は別の類型にだけ及ぶ、という区別で判断されます。④中身の確認は、施設職員による個別の判断で、証拠物の内容確認は原則できず、機能の有無の申告要求はできる、という整理でした。
これを、以前立てた3層の整理に重ねると、今日の4場面はすべて「やり取りした物」という3つ目の顔を、行為者と根拠を変えながら見てきたものだった、ということになります。
今日のまとめ

今日の内容を振り返ります。1つ目。令状による居室の捜索差押えは、防御方法の中身は基本的に秘匿されるべきという原則のもと、必要性と不利益の衡量で判断され、期日間整理手続の後という時期は不利益を重くします。2つ目。令状によらない任意提出は、令状によるチェックが無いぶん、Xの自由な意思による真摯な同意と、捜査機関の行為の社会通念上の相当性を、事後に厳しく見ます。3つ目。施設による信書の検閲は、刑事収容施設法135条により、弁護人から受ける信書について該当確認に必要な限度に限られ、特別の事情があっても例外はありません。最高裁の多数意見は検閲そのものを違法としませんでしたが、反対意見は一律の検閲を行き過ぎとし、被告人が弁護人に出す信書のように、今なお検閲の問題が残る場面もあります。4つ目。中身の確認は、事前の統制とは別の切り口で、証拠物の内容確認は原則許されず、録音・録画機能の有無の申告要求は許されます。
会話も手紙も、誰がどこまで見ていいかを一つずつ決めていくんですね。それが、今日で一区切りになる接見交通権シリーズの全体像でした。
参照条文
- 刑事収容施設法第135条第1項
- 刑事収容施設法第135条第2項
- 刑事収容施設法第135条第3項