刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#83

訴因変更命令の義務と罰条変更

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第3章 公訴 ⑩/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の続き——命令に強制力が無いなら、義務は無いのか

前回の結論(命令に形成力なし・裁判所は旧訴因で判断するしかない)と、今日の問い(命令を出す義務の有無)を対比して示す板 図:前回の結論と、今日の問い(命令を出す義務の有無)を対比して示す板

今日はその回です。命令には形成力が無い、という結論でした。裁判所に残る道は、検察官が動かない限り、元の訴因のまま判断することだけです。命令に強制力が無いからといって、裁判所が命令を出すかどうかを完全に自由にしてよいわけではありません。命令に強制力が無いことと、裁判所が命令を出さなくてよいこととは、別の問題です。命令を出さなかったこと自体が、手続上の落ち度として問題にされる場合があります。今日はそこを見ていきます。

義務を認めるべきか、認めるべきでないか——緊張関係

訴因は検察官の専権という原則と、明白な有罪を見過ごしてよいかという実体的要請の綱引きを示す板

まず、裁判所には訴因変更を促したり命じたりする義務があるのか、という出発点を確認します。

条文刑事訴訟法第312条第1項・第2項

刑事訴訟法第312条第1項・第2項 裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。 裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。

前回の当事者主義の考え方を貫けば、裁判所には自ら進んで訴因変更を促す義務は無い、という原則にたどり着きます。なぜなら、裁判所が自分から積極的に訴因変更を促したり命じたりすることを重ねれば、検察官の立証を裁判所が手伝っているように見えてしまい、被告人から見て、裁判所がもはや中立な判断者ではなく、検察官の側に立っているように映りかねないからです。ただ、もう一つ考えないといけないことがあります。裁判所が、検察官の訴因のままでは無罪にせざるを得ないと分かっていながら、実は訴因さえ変えれば有罪であることが証拠上明らかだと気づいている、という場面です。例えば、証拠を見れば人を死なせたことが明らかな重大な事件で、検察官が選んだ訴因の立て方が悪かったというだけの理由で、そのまま無罪にしてしまってよいでしょうか。

そのまま何もしなければ、明らかに有罪な人を無罪にしてしまう結果になります。それでよいのか、という問題です。中立な判断者としての立場を貫くか、明白な有罪を見過ごさない実体的な要請を優先するか、この二つが綱引きをしています。この綱引きに答えを出したのが、最初に見る判断です。

重過失致死なら有罪が明らかな事件——例外的に義務を認めた場合

殺人の訴因で無罪とするほかない事件で、裁判所が変更を促さず無罪とした第一審と、審理不尽として破棄した控訴審の対立を示す板

Aは、殺人の訴因で起訴されました。ところが審理の結果、殺す意思があったとまでは証明できず、殺人の訴因のままでは無罪とするほかない状況になりました。しかし証拠を見れば、重過失によって人を死なせた、重過失致死であれば有罪であることは明らかでした。第一審裁判所は、検察官の意向を軽く打診しただけで、積極的に訴因変更を促したり命じたりすることなく、殺人の訴因についてのみ審理し、Aに無罪を言い渡しました。控訴審はこれを、審理不尽、つまり裁判所が尽くすべき審理を尽くさなかった違法があるとして第一審判決を破棄し、予備的に追加されていた重過失致死の訴因についてAを有罪としました。最高裁はこの判断を支持しました。この義務に反した第一審の手続は、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反として、刑訴法379条の控訴理由になり、控訴審で破棄されることになります。

判例最高裁判所第三小法廷 昭和43年11月26日決定(刑集22巻12号1352頁)

訴因変更命令義務——例外を認める場合 裁判所は、原則として、自らすすんで検察官に対し、訴因変更手続を促しまたはこれを命ずべき義務はないのである(中略)が、本件のように、起訴状に記載された殺人の訴因についてはその犯意に関する証明が充分でないため無罪とするほかなくても、審理の経過にかんがみ、これを重過失致死の訴因に変更すれば有罪であることが証拠上明らかであり、しかも、その罪が重過失によつて人命を奪うという相当重大なものであるような場合には、例外的に、検察官に対し、訴因変更手続を促しまたはこれを命ずべき義務があるものと解するのが相当である。

原則と例外の両方が、この一つの判断の中に書き込まれています。例外が成り立つ要件は二つです。一つは、訴因を変更すれば有罪であることが証拠上明らかであること。もう一つは、その罪が重過失によって人の命を奪うという、相当重大なものであることです。証拠上明らかというだけでも、罪が軽ければ足りません。重大な罪だというだけで、証拠が微妙でも足りません。両方そろって、初めて例外が働きます。これが、さっきの綱引きへの答えです。原則は中立を守って動かない。ただ、動かなかったせいで、明らかに有罪の人を、それも重い罪で見逃すことになるときだけは、見過ごす代償が大きすぎるので、裁判所が一歩踏み出す、ということです。

求釈明で義務を尽くしたとされた事件

検察官が長期の審理を通じ一貫して主張を維持し、求釈明にも明確に変更しないと答えた事件で、義務が尽くされたとした判断を示す板

ところが、この二つの要件がそろっているように見える事件でも、義務が否定された例があります。事件は、人を死なせてしまった傷害致死の事件で、検察官が、現場での共謀に基づく犯行だという訴因で起訴したものです。ところが審理を進めると、事前の共謀に基づく犯行だったと認定するには、訴因変更の手続が必要になる状況でした。第一審裁判所は、無罪を言い渡す前に、審理の最終段階で検察官に求釈明を行いました。前回見た、検察官に「この訴因のままでいいんですか」と気づかせるための求釈明です。検察官は、従前の主張を変える意思はないと、明確かつ断定的に答えました。第一審は、それ以上訴因変更を命じたり促したりすることなく、その部分について無罪を言い渡しました。

似ています。ですが、控訴審はこの第一審を審理不尽だとして破棄しました。最高裁はこれを見て、控訴審の判断のほうを誤りだとしました。

判例最高裁判所第三小法廷 昭和58年9月6日判決(刑集37巻7号930頁・百選47)

訴因変更命令義務——義務を尽くしたとされる場合 第一審裁判所としては、検察官に対し前記のような求釈明によつて事実上訴因変更を促したことによりその訴訟法上の義務を尽くしたものというべきであり、さらに進んで、検察官に対し、訴因変更を命じ又はこれを積極的に促すなどの措置に出るまでの義務を有するものではないと解するのが相当である。

ここで最高裁が重く見たのは、審理の経過です。判決文を見ると、検察官は約8年半に及ぶ審理の全過程を通じて、一貫して当初の訴因を維持する主張をしていました。しかも、裁判所からの求釈明に対しても、変更する意思はないと明確に答えています。被告人側の防御活動も、検察官のこの主張を前提に組み立てられていました。さらに、他の関係者との処分の均衡といった事情も指摘されています。これらの事情を踏まえて、裁判所は求釈明によって事実上訴因変更を促した、それだけで訴訟法上の義務を尽くしたことになる、と判断されました。それ以上に、正式な命令を出したり、積極的に勧告したりするところまでは、義務として求められません。なぜ求釈明で足りるのか。訴因を選ぶのは検察官です。裁判所が求釈明で気づかせ、それでも検察官がはっきり断ったのに、さらに押せば、裁判所が検察官に代わって訴因を選ぶことに近づきます。しかも被告人の防御は、ずっとその訴因を前提に組まれてきました。最後になって有罪の方向へ押せば、被告人にとっては不意打ちになります。

公判前整理手続を経た事件でも同じ枠組み

公判前整理手続と証拠調べ終了後の二段階で求釈明を行い、検察官がいずれも変更予定なしと答えた経過を示す板

この考え方は、比較的最近の判断でも確認されています。検察官は、保護責任者遺棄致死の訴因で起訴しました。第一審の公判前整理手続の中で、検察官は、重過失致死として処罰を求める予定はないと釈明しました。証拠調べが終わった後、裁判長が改めて、訴因について何か手当てをする予定はないのかと確認したところ、検察官は「今のところございません」と答え、第一審は無罪を言い渡しました。重過失致死が予備的な訴因として追加されたのは、控訴審になってからです。

判例最高裁判所第二小法廷 平成30年3月19日判決(刑集72巻1号1頁)

訴因変更命令義務——公判前整理手続を経た場合 以上のような訴訟経緯、本件事案の性質・内容等の記録上明らかな諸般の事情に照らしてみると、第1審裁判所としては、検察官に対して、上記のような求釈明によって事実上訴因変更を促したことによりその訴訟法上の義務を尽くしたものというべきであり、更に進んで、検察官に対し、訴因変更を命じ又はこれを積極的に促すなどの措置に出るまでの義務を有するものではないと解するのが相当である。

同じ枠組みを、公判前整理手続を経た事件にも及ぼしたものです。公判前整理手続の段階と、証拠調べが終わった段階と、求釈明を二回にわたって行い、検察官がどちらも変更の予定はないと答えた、という審理の経過が決め手になっています。

3つの判断を並べる——何が義務を生み、何が義務を消すか

昭43決定を義務の入口、昭58・平30判決を義務の歯止めとして対比する弁別表 図:昭43決定を義務の入口、昭58・平30判決を義務の歯止めとして対比する弁別表

ここで3つの判断を並べてみます。両者は矛盾しません。重過失致死の決定は、義務が生まれる入口を示しました。証拠上明らかな有罪と、相当重大な罪という二つの要件です。あとの二つの判断は、その入口を通った先で、義務がどこまでで足りるかという歯止めを示しています。検察官が求釈明に対して明確に変更しない意思を示し、被告人側の防御もその主張を前提に組み立てられ、審理の経過や事案の性質から見ても求釈明で十分に促したと言える、という事情があれば、裁判所はそこで義務を尽くしたことになります。証拠の明白さと罪の重さだけで機械的に義務の有無が決まるのではなく、審理がどう進んできたか、検察官がどう答えたかまで見て判断する、というのが今の到達点です。

この重過失致死の要件を満たしそうな事件で、裁判所が求釈明をして、検察官が「変更しません」とはっきり答えていたら、それでも義務は残るんでしょうか。残りません。今見たとおり、検察官の意思が明確で、防御もその主張を前提に組まれているなら、裁判所は求釈明で義務を尽くしたことになります。要件を満たすかどうかと、義務が最後まで残るかどうかは、別の話だということです。

前回の残る問い——検察官が無罪になる訴因への変更を請求してきたら

窃盗罪の訴因で起訴されたが本犯者本人には盗品等の罪が成立しない設例を、A・V・Cの関係図で示す板

ここで、前回残した問いに戻ります。Aは、V宅の金庫から現金を持ち出したとして、窃盗罪の訴因で起訴されました。裁判所は、Aこそが現金を盗み出した本人だという心証を得ました。ところが検察官は、Aは第三者Cが盗んだ現金だと知りながら、Cから有償で買い受けただけだと判断し、盗品等を有償で譲り受けた罪の訴因に変更するよう請求しました。盗品等に関する罪は、自分で盗んだ本人には成立しません。だから、Aこそが盗んだ本人だという裁判所の心証に立てば、新しい訴因では無罪になってしまう、という場面でした。ここまで見てきた命令義務の理屈を当てはめて、整理してみます。まず、この場面は今日見てきた3つの判断とは向きが逆です。あちらは、検察官の訴因のままでは無罪になるところを、裁判所が変更を促す・命じる場面でした。今回は逆に、検察官の方から訴因変更を請求してきています。しかも訴因を選ぶのは、あくまで検察官の権限です。

一つの考え方としては、まず裁判所が釈明を求めて、検察官に請求の再考を促すべきだ、という整理があります。訴因を選ぶのは検察官なので、裁判所が自分の判断を押しつけるのではなく、まず検察官自身に気づかせる。前回見た、命令の前にまず求釈明から入るのと同じ発想です。それでもなお検察官が変更請求を強行するなら、裁判所は請求を許可した上で、無罪を言い渡すほかない、という整理です。ただし、これは判例が示した結論ではなく、今日見た理屈を当てはめた整理だということは、区別しておいてください。

罰条だけが訴因と違う場合——変更手続は要るか

山林から立木を伐採して持ち去った訴因のまま、適用すべき罰条が窃盗罪か森林法の罰条かで分かれる設例を、AとVの関係図で示す板

ここから、少し話の向きを変えます。ここまでは、訴因、つまり事実の主張という検察官が選ぶ領域に、裁判所がどこまで踏み込めるか、という話でした。今度は、訴因に書かれた事実そのものは動かないのに、当てはめる罰条だけが変わる、という場面です。312条1項を思い出してください。この条文は、訴因だけでなく罰条についても、追加・撤回・変更を許さなければならないと定めていました。検察官が罰条の変更を請求してくる場面は、訴因と同じ扱いになります。今日問題にしたいのは、検察官が請求していないのに、裁判所が独自に違う罰条を適用してよいか、という場面です。例えば、次のような場面を考えます。Aは、V所有の山林に立ち入り、立木を伐採して持ち去ったとして、窃盗罪、刑法235条の訴因・罰条で起訴されました。訴因には、伐採した立木がV所有の森林から生えていた森林の産物であることまで、はっきり書かれていました。ところが調べてみると、この事実であれば、通常の窃盗罪ではなく、森林の産物を対象とする、森林法197条の罰条が適用されるべき事案でした。

動いているのは事実ではなく、その事実にどの条文を当てはめるかという部分だけです。裁判所は、罰条変更の手続を経ないまま、森林法197条の罰条を適用できるでしょうか。この問いに入る前に、一度前の回を振り返ります。256条4項で、罰条の記載に誤りがあったら公訴提起はどうなると見ましたか?

条文刑事訴訟法第256条第4項

刑事訴訟法第256条第4項 罪名は、適用すべき罰条を示してこれを記載しなければならない。但し、罰条の記載の誤は、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない限り、公訴提起の効力に影響を及ぼさない。

罪名・罰条の記載の誤りは、被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがない限り、公訴提起の効力には影響しない、という話でした。この規律と今日の問題が、同じ発想でつながっていることを意識しながら見ていきます。

罰条変更が原則不要とされる理由

傷害・暴行の訴因のまま、控訴審が暴力行為等処罰に関する法律の罰条を罰条変更手続なしに適用した経過を示す板

ここでも判断があります。第一審判決が認定した事実に対応する訴因の罪名・罰条は、傷害罪と暴行罪の、刑法204条・208条・60条でした。ところが控訴審は、公訴事実の中には暴力行為等処罰に関する法律1条の罪の事実も含まれているとして、罰条変更の手続を経ないまま、この法律の罰条を適用しました。

判例最高裁判所第二小法廷 昭和53年2月16日決定(刑集32巻1号47頁・百選A20)

罰条変更の要否 起訴状における罰条の記載は、訴因をより一層特定させて被告人の防禦に遺憾のないようにするため法律上要請されているものであり、裁判所による法令の適用をその範囲内に拘束するためのものではないと解すべきである。それ故、裁判所は、訴因により公訴事実が十分に明確にされていて被告人の防禦に実質的な不利益が生じない限りは、罰条変更の手続を経ないで、起訴状に記載されていない罰条であつてもこれを適用することができるものというべきである。

法令の適用は、あくまで裁判所の職責です。訴因によって公訴事実が十分明確にされていて、被告人の防御に実質的な不利益が生じない限り、裁判所は罰条変更の手続を経ずに、別の罰条を適用できます。Aの例で見てみます。山林で立木を伐採して持ち去ったという事実は訴因に明記されており、窃盗罪と森林法の197条、どちらの罰条でも被告人の防御準備が大きく変わるとは考えにくいので、罰条変更の手続なしで森林法197条を適用できます。さっき振り返った256条4項の規律と、同じ発想がここにも流れています。罰条は、訴因と違って付随的な記載であり、それだけを動かしても手続そのものは揺らがない、という考え方が一貫しています。

済まない場合もあります。さっきの例で、訴因には「Vの木材を持ち去った」としか書かれておらず、Vの山林で立木を伐採したという事実が書かれていなかったとします。森林法197条を当てはめるには、その事実が要ります。訴因に無い事実を前提にすることになるので、これはもう罰条だけの話ではなく、事実の側を動かす話、つまり前に見た訴因変更の要否の問題になります。

罪数の評価が変わるとき

事実関係の変動あり・なしで、一罪だと思っていたものが数罪に変わる場合の振り分けを示す見取り図

最後に、もう一つ形の似た問題を見ておきます。証拠調べの結果、罪数の評価そのものが変わることがあります。訴因は、実体法上一罪にあたる事実については、ひとつの訴因としてまとめて記載するのが原則です。刑罰権の個数に対応させる、という理解に基づきます。ところが審理の結果、当初は、一つの罪だと思っていたものが、実は別々の罪の集まりだった、あるいはその逆だった、と判明することがあります。例えば、前に単一性の回で見た、常習として空き巣を繰り返していた人物を思い出してください。あのときは、訴因を変えることが許されるか、という可否の問いでした。今日は同じ空き巣で、訴因を変える必要があるか、という要否の側を見ます。一つの罪としてまとめて起訴していた三件が、実は別々の機会に盗んだ三つの窃盗、つまり併合罪だったと分かる。これが一罪から数罪への変動です。反対に、空き巣三件を別々の窃盗三つとして起訴していたところ、審理の結果、常習として繰り返した一つの罪だと評価が変わる。これが数罪から一罪への変動です。まず、一つの罪だと思っていたものが、実は複数の罪だったと評価が変わる場合です。訴因に書かれた事実関係そのものに変動が無く、評価だけが変わるのであれば、訴因変更は不要とされています。訴因変更の手続は、訴因に無い事実で有罪にされる不意打ちを防ぐためのものなので、事実が動かなければ、防御の前提は崩れないからです。ただし、複数の罪それぞれに対応する事実を、訴因の記載からきちんと区別できないときは、区別できる程度まで訴因を補正すべきだとされています。

一方、事実関係そのものにも変動がある場合は、話が変わります。裁判所は検察官に求釈明を行って、罪数についての主張を明確にさせ、必要なら罪数の補正を伴う訴因変更手続を促すなどして、被告人・弁護人に防御の機会を与えるべき義務があるとされています。

数罪から一罪への変動を、事実関係の変動あり・なしで振り分ける見取り図 図:数罪から一罪への変動を、事実関係の変動あり・なしで振り分ける見取り図

事実関係に変動が無ければ、起訴状に書かれた複数の訴因を、裁判所が一つの訴因として解釈すれば足り、訴因変更の手続も原則不要とされています。ただし、一つにまとめることで、さっきの空き巣でいえば、一件一件がばらばらの機会の思いつきではなく、同じ手口や近い時期・場所で繰り返された一つながりの行動だという、常習性の発露を訴因に新しく書き加える必要が出る場合には、訴因変更が必要になることもあります。事実関係にも変動がある場合は、さっきと同じように、求釈明・訴因変更で防御の機会を確保する、という筋になります。

事実が動かず評価だけが動くなら、訴因変更は原則不要。事実そのものが動くなら、求釈明を経て防御の機会を確保する。今日見てきた罰条変更の理屈とも、根っこは同じです。

論文の型

義務の要件→義務を消す事情→罰条変更の判断枠組み→罪数変動の振り分け、という答案の流れを示す板

⭐ 論文で書く規範:訴因変更命令義務・罰条変更・罪数変動の検討順序 検察官が訴因を変更しない場面で裁判所の義務が問題になるときは、まず二つを確かめる。訴因を変えれば有罪となることが証拠からはっきりしているか、そしてその罪が相当に重いか。満たしても、検察官が求釈明に対して変更しない意思を明確に示し、防御がその主張を前提に組まれているなどの事情があれば、裁判所は求釈明で義務を尽くしたことになり、それ以上の命令義務は無い。罰条だけが訴因記載と異なるときは、訴因により公訴事実が十分明確で防御に実質的な不利益が生じない限り、罰条変更の手続を経ずに別の罰条を適用できる。罪数が変わるときは、事実関係に変動が無ければ訴因変更は原則不要、変動があれば求釈明・訴因変更で防御の機会を確保する。 (最決昭43・11・26、最判昭58・9・6、最判平30・3・19、最決昭53・2・16にもとづく答案の流れ)

まとめると、まず変更すれば有罪が証拠上明らかで、罪が相当重大かを確認します。満たしても、検察官が求釈明に対して変更しない意思を明確に示し、防御もその主張を前提に組まれているなら、裁判所は求釈明で義務を尽くしたことになります。罰条だけが違うときは、事実が十分明確で防御に実質的な不利益が生じない限り、手続なしで別の罰条を適用できます。罪数が変わるときは、事実関係の変動の有無で振り分けます。

今日の地図(保存版)

命令義務の原則・例外・歯止め、罰条変更の原則不要、罪数変動の振り分け、という今日の到達点を一本の軸で束ねて示す板

今日のまとめです。裁判所には、原則として自ら進んで訴因変更を促す義務はありません。しかし、変更すれば有罪であることが証拠上明らかで、罪が相当重大なときは、例外的に義務が生じます。もっとも、検察官が求釈明に対して変更しない意思を明確に示し、防御もその主張を前提に組まれているなどの事情があれば、裁判所は求釈明で義務を尽くしたことになり、それ以上の命令義務はありません。罰条だけが訴因記載と違う場面では、訴因により公訴事実が十分明確で、防御に実質的な不利益が生じない限り、裁判所は罰条変更の手続を経ずに別の罰条を適用できます。罪数の評価が変わる場面では、事実関係に変動が無ければ訴因変更は原則不要、変動があれば求釈明・訴因変更で防御の機会を確保します。

事実に手を入れるときは慎重に、法令の当てはめだけなら裁判所の職責の範囲内、という区別が、今日ずっと流れていましたね。

参照条文

  • 刑事訴訟法第312条第1項・第2項
  • 刑事訴訟法第256条第4項

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