刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#85

公訴時効の起算点と停止

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第3章 公訴 ⑫/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

犯人が分かっても裁けない時

賞味期限スタンプの押された商品を並べ犯人が判明していても時計が尽きれば裁けないという公訴時効の疑問を提示する板

前回、訴訟条件の三つの出口の一つとして、時効が完成した場合を名前だけ挙げました。三つの出口、覚えていますか? 今日は、その中身に入ります。犯人が分かっていても時間が経てば裁けなくなるという点が、今日の出発点です。時効が数えているのは、有罪か無罪かではなく、検察官が起訴できる権利、つまり公訴権の寿命です。いつから数え始めて、何年で尽きるのか。そして、その時計を止める方法はあるのか。ここを順番に見ていきます。

公訴時効とは・刑の時効との違い

起訴する前の公訴時効と判決確定後の刑の時効を確定判決の有無で分ける対比板 図:起訴する前の公訴時効と判決確定後の刑の時効を確定判決の有無で分ける対比板

公訴時効とは、一定の期間が経過することで、検察官の公訴権、つまり起訴する権利を消滅させる制度です。時効が完成すると、裁判所は有罪か無罪かを判断せず、免訴の判決で手続を打ち切ります。前回見た337条4号です。刑法31条以下の刑の時効と、混同しやすいところです。分かれ目は、確定判決があるかどうかです。公訴時効は、まだ起訴すらしていない、あるいは起訴したけれど確定判決に至っていない段階で、起訴する権利そのものが消える話です。刑の時効は、いったん有罪の判決が確定した後、その刑を執行する権利が消える話です。

公訴時効の趣旨——なぜ時間が経つと裁けなくなるのか

実体法説処罰の必要性の減少訴訟法説証拠の散逸競合説両方プラス政策的判断という三学説を並べる板

この点は、学説がいくつかに分かれます。一つ目は実体法説です。時間が経つほど、犯人の社会的な制裁や反省が進み、処罰の必要性そのものが薄れていく、という考え方です。二つ目は訴訟法説です。時間が経つほど、証拠、たとえば目撃者の記憶や物的証拠が失われ、公正な裁判ができなくなる、という考え方です。三つ目は、両方の理由に加えて、いつまでも訴追の可能性を残すのは望ましくないという政策的な判断も踏まえる、競合説です。判例も、一つの説だけを採るとは言い切っていません。最高裁は、公訴時効制度の趣旨をこう述べています。

判例最高裁判所第一小法廷 平成27年12月3日判決(刑集69巻8号815頁)

公訴時効制度の趣旨 公訴時効制度の趣旨は、時の経過に応じて公訴権を制限する訴訟法規を通じて処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにある。

処罰の必要性、つまり実体法説が挙げる理由と、法的安定性、つまり訴訟法説が挙げる理由の両方を調和させる、という言い方です。どちらか一方に絞らず、両方を根拠として説明していると読めます。

250条の期間表——法定刑の重さで機械的に決まる

人を死亡させた罪であって死刑にあたるものだけが時効なしで残りは法定刑の重さに応じた期間になる区分板

時効の期間は、その罪の法定刑の重さに応じて、機械的に決まります。250条を見てみましょう。まず1項です。

条文刑事訴訟法第250条第1項

刑事訴訟法第250条第1項 時効は、人を死亡させた罪であつて拘禁刑に当たるものについては、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。 一 無期拘禁刑に当たる罪については三十年 二 長期二十年の拘禁刑に当たる罪については二十年 三 前二号に掲げる罪以外の罪については十年

死亡という結果を伴う罪のうち、法定刑が拘禁刑にとどまるものが対象です。長期というのは、緊急逮捕の回でも見た、法定刑の上限のことです。無期拘禁刑にあたる罪は期間が最も長く三十年、長期二十年の拘禁刑にあたる罪は二十年、それ以外は十年という、三段階になっています。たとえば傷害致死なら、上限が二十年なので、期間も二十年です。次に2項を見てみましょう。

条文刑事訴訟法第250条第2項

刑事訴訟法第250条第2項 時効は、人を死亡させた罪であつて拘禁刑以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。 一 死刑に当たる罪については二十五年 二 無期拘禁刑に当たる罪については十五年 三 長期十五年以上の拘禁刑に当たる罪については十年 四 長期十五年未満の拘禁刑に当たる罪については七年 五 長期十年未満の拘禁刑に当たる罪については五年 六 長期五年未満の拘禁刑又は罰金に当たる罪については三年 七 拘留又は科料に当たる罪については一年

2項は、人を死亡させた罪のうち、拘禁刑にあたるもの、つまり1項の対象と、死刑にあたるものの両方を除いた、それ以外すべての罪を対象にします。人を死亡させていない罪の大半が、ここに入ります。死刑にあたる罪の二十五年から、拘留・科料にあたる罪の一年まで、法定刑が軽くなるにつれて期間も短くなる、七段階です。たとえば空き巣の窃盗は、上限が十年なので、四号の七年です。良い点に気づきましたね。2項は、死亡という結果を伴わない罪も対象にしています。人が死ななくても死刑がありうる罪、放火のような罪です。そうした罪は、死亡結果が無いので1項には入らず、2項の中で「死刑に当たる罪」として二十五年という期間が定められています。

殺人のように、死亡という結果があり、かつ法定刑に死刑が含まれる罪は、1項からも2項からも外れます。期間の定めがどこにも無い、つまり時効がない、ということです。平成22年の改正で、この扱いが導入されました。

平成22年改正で人を死亡させた罪であって死刑にあたるものの時効をなくした理由を整理する板

なぜ、この種の罪だけ時効をなくしたのか。人の命を奪った罪では、遺族の処罰を求める気持ちが時が経っても薄れにくく、DNA型鑑定のように古い証拠から犯人を割り出す技術も進みました。さっき見た二つの理由、処罰の必要性が薄れることと証拠が失われることが、この種の罪では当てはまりにくくなった、ということです。冒頭の、逃げ得ではないかという疑問に、法律の側が応えたわけです。そう言えます。殺人の法定刑には拘禁刑も含まれますが、それでも1項にも2項にも入らないのは、251条が関わるからです。殺人罪の法定刑は、刑法199条で死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑と定められていて、死刑も拘禁刑も、どちらも含まれています。

条文刑事訴訟法第251条

刑事訴訟法第251条 二以上の主刑を併科し、又は二以上の主刑中その一を科すべき罪については、その重い刑に従つて、前条の規定を適用する。

殺人のように、死刑・無期拘禁刑・拘禁刑のいずれかを言い渡しうる罪は、そのうち最も重い刑、つまり死刑を基準にして、250条を適用します。だから、殺人は拘禁刑にあたる罪としてではなく、死刑にあたる罪として扱われます。そのため、1項にも入らず、2項からも除かれます。重い罪ほど、処罰の必要性が長く残ると考えられているので期間が長く設定され、死亡結果があってなお死刑がありうる罪だけは、期間そのものが定められていません。続いて、3項を見てみましょう。令和5年の改正で新設された、性犯罪に関する特則です。

令和5年改正で新設された性犯罪の時効特則である3項の期間区分と被害者が18歳未満の場合に加算する4項の図

条文刑事訴訟法第250条第3項第一号

刑事訴訟法第250条第3項(第一号) 前項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる罪についての時効は、当該各号に定める期間を経過することによつて完成する。 一 刑法第百八十一条の罪(人を負傷させたときに限る。)若しくは同法第二百四十一条第一項の罪又は盗犯等の防止及び処分に関する法律(昭和五年法律第九号)第四条の罪(同項の罪に係る部分に限る。) 二十年

一号は、不同意わいせつ等致傷にあたる罪、強盗・不同意性交等の罪、盗犯等防止法の一定の罪について、二十年という期間を定めています。

条文刑事訴訟法第250条第3項第二号・第三号

刑事訴訟法第250条第3項(第二号・第三号) 二 刑法第百七十七条若しくは第百七十九条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪 十五年 三 刑法第百七十六条若しくは第百七十九条第一項の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は児童福祉法第六十条第一項の罪(自己を相手方として淫行をさせる行為に係るものに限る。) 十二年

二号は、不同意性交等の罪と監護者性交等の罪、それぞれの未遂を含めて十五年。三号は、不同意わいせつの罪と監護者わいせつの罪、それぞれの未遂、それに児童福祉法の淫行させる行為の罪について、十二年です。罪の種類ごとに、二十年・十五年・十二年という段階があるんです。続いて4項です。

条文刑事訴訟法第250条第4項

刑事訴訟法第250条第4項 前二項の規定にかかわらず、前項各号に掲げる罪について、その被害者が犯罪行為が終わつた時に十八歳未満である場合における時効は、当該各号に定める期間に当該犯罪行為が終わつた時から当該被害者が十八歳に達する日までの期間に相当する期間を加算した期間を経過することによつて完成する。

4項は、3項の各号にあたる罪について、犯罪行為が終わった時点で被害者が十八歳未満であれば、その号で定められた期間に、被害者が十八歳に達する日までの期間を加算する、という定めです。被害を訴え出るまでに時間がかかりやすい被害者の事情に配慮した規定です。

起算点——いつから数え始めるか

犯罪行為が終わった時から進行するが結果犯は結果発生時から進行するという起算点の分岐板

期間の長さが分かっても、いつから数え始めるかが決まらなければ、時効は完成しません。253条を見てみましょう。

条文刑事訴訟法第253条

刑事訴訟法第253条 時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。 共犯の場合には、最終の行為が終つた時から、すべての共犯に対して時効の期間を起算する。

そこは253条とは別に、期間の数え方そのものを定めた規定があります。55条1項です。

条文刑事訴訟法第55条第1項

刑事訴訟法第55条第1項 期間の計算については、時で計算するものは、即時からこれを起算し、日、月又は年で計算するものは、初日を算入しない。但し、時効期間の初日は、時間を論じないで一日としてこれを計算する。

期間を日・月・年で数えるときは、原則として初日を算入しません。ですが、時効期間だけは例外で、初日を時間にかかわらず一日として数えます。原則はそのとおりです。ただし、結果が出て初めて処罰の必要性の大きさが決まる罪、たとえば人を死亡させる結果を伴う罪は、行為の時点ではなく、結果が発生した時点から進行が始まります。この考え方を示したのが、最高裁の決定です。

判例最高裁判所第三小法廷 昭和63年2月29日決定(刑集42巻2号314頁)

「犯罪行為」の意味——結果を含む 「犯罪行為」とは、刑法各本条所定の結果をも含む趣旨と解するのが相当である。

この事件は、工場が有害物質を含む排水を流し続け、それを摂取した住民が、排水の後、長い年月を経てから死亡した、という事案です。行為、つまり排水そのものは何年も前に終わっていますが、死亡という結果が出たのは後になってからです。最高裁は、「犯罪行為」には結果も含まれると解釈し、結果が発生した時点から時効が進行すると判断しました。1個の行為から複数の被害者に結果が生じた場合も、一体として観察し、最後の被害者に結果が生じた時点から、全員について時効の進行が始まると考えられています。被害者ごとにばらばらに数えると、同じ行為なのに時効の完成時期が被害者ごとに違ってしまい、不自然だからです。253条2項の共犯の起算も同じ発想で、最後の共犯者の行為が終わった時から、全員について一律に数えます。結果犯における起算点の判断は、論文でも論点になりうるところです。

一罪として扱うなら基準も統一する——科刑上一罪の時効期間

一個の行為から生じた複数の罪を一体観察し最も重い罪の時効期間で統一するという判別図

もう一つ、期間の計算で問題になる場面があります。1個の行為から複数の罪が成立し、それらが科刑上一罪、つまり別々の罪であっても刑を科すときは一体として扱われる関係として扱われる場合です。手段と結果の関係にある牽連犯や、一個の行為が複数の罪にあたる観念的競合がこれにあたり、刑法54条1項は、そのときは最も重い刑により処断すると定めています。中身の罪数論自体は刑法の範囲なので今日は立ち入りませんが、たとえば1個の行為が二つの罪にあたり、それぞれ法定刑も時効期間も違う場合、時効期間はどちらを基準にするのかが問題になります。最高裁はこう述べています。

判例最高裁判所第一小法廷 昭和41年4月21日判決(刑集20巻4号275頁)

科刑上一罪の時効期間の算定基準 科刑上一罪として取り扱うものであるから、公訴の時効期間算定については、各別に論ずることなく、これを一体として観察し、その最も重い罪の刑につき定めた時効期間によるを相当とする。

各罪を別々に扱わず、一体として観察したうえで、最も重い罪の刑を基準に時効期間を決める、という判断です。一罪として起訴・処罰する以上、時効期間も一つに統一するのが筋だ、という考え方です。殺人と放火が、一個の行為で成立します。放火だけなら、さっきの2項で二十五年ですが、最も重い殺人を基準にするので、全体として時効はありません。ここも、論文で当てはめが問われうる論点です。

遡って時効をなくすことは許されるか——憲法39条

平成22年改正で時効が完成していない事件に時効廃止を適用しても行為時点の評価は変えていないので憲法39条に反しないという説明板

さっき、人を死亡させた罪で死刑にあたるものは時効がない、と説明しました。この扱いは、平成22年の改正で導入されました。ここで一つ、疑問が出ます。改正の時点で、まだ時効が完成していない事件については、新しい規定、つまり時効なしが適用されます。ここで、憲法39条が問題になります。時効を遡って延長・廃止することが、この事後法の禁止に触れるのではないかが争われました。最高裁はこう判断しています。

判例最高裁判所第一小法廷 平成27年12月3日判決(刑集69巻8号815頁)

遡って時効を廃止することと憲法39条 行為時点における違法性の評価や責任の重さを遡って変更するものではない。

時効の規定を変えても、行為の時点でその行為がどれだけ悪いか、責任がどれだけ重いかという評価自体は変わっていません。変わるのは、その罪を処罰できる期間という、手続の面だけです。だから、憲法39条には反しない、という判断です。

時効の停止——起訴で止まる

公訴の提起で時計が止まり管轄違いや公訴棄却の裁判確定でまた動き出す254条の停止と再進行の図

ここまでは、時効の時計が止まらずに進んだ場合の話でした。ここからは、時計を止める方法を見ていきます。まず254条です。

条文刑事訴訟法第254条

刑事訴訟法第254条 時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。 共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める。

時効の時計を止めるのは、検察官が公訴という形で、処罰する意思を対外的に示したことです。逮捕は捜査機関の身柄確保の手段であって、検察官が訴追するという意思表示そのものではありません。だから、逮捕だけでは止まらず、起訴して初めて止まります。止まる範囲は、起訴した事件と、旧訴因と新訴因を比べる物差しである公訴事実の同一性が認められる範囲全体です。訴訟条件と訴因変更の回で、詐欺で起訴した後に横領へ変えても、起訴の時点で止まったままだと見た話です。そして、管轄違いや公訴棄却の裁判が確定すれば、また時計が動き出します。倉庫に一時的に置かれて、出荷し直せる状態に戻ったら、また賞味期限のカウントが再開する、というイメージです。

2項の、共犯の一人を起訴すると他の共犯にも止まる、というのは、なぜですか。一人の共犯を起訴した時点で、検察官はその事件全体について訴追する意思を示していると考えられるからです。他の共犯者が起訴されていないからといって、その共犯者についてだけ時効が先に完成してしまうのは不均衡です。ですから、一人への起訴で、他の共犯者に対しても停止の効力が及びます。この、一人への効力が共犯全員に及ぶという構造は、親告罪の告訴を扱った回で見た、共犯の一人への告訴が他の共犯にも及ぶ主観的不可分の原則と、形はよく似ています。もっとも、告訴の不可分と時効の停止は別の制度なので、同じものと考えないでください。逮捕では止まらず起訴で止まるのは、時効が数えているのが、検察官が起訴できる権利、公訴権の寿命だからです。

時効の停止——国外在住・逃げ隠れで止まる

犯人が国外にいる期間や逃げ隠れて起訴状謄本を送達できない期間は捜査機関の認識を問わず停止するという255条の図

もう一つの停止事由が、255条です。

条文刑事訴訟法第255条1項

刑事訴訟法第255条1項 犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつた場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する。

犯人が国外にいる期間、または逃げ隠れて起訴状謄本の送達・略式命令の告知ができなかった期間は、その間、時効が停止します。ここで一つ、実務上重要な判断があります。国外にいる間、停止するかどうかに、捜査機関がその犯人の存在や犯罪を知っていたかどうかは関係するのでしょうか。最高裁は、捜査機関が知っていたかどうかで区別しない、としました。

判例最高裁判所第三小法廷 昭和37年9月18日判決(刑集16巻9号1386頁)

国外在住による停止——主観要件は不要 捜査官において犯罪の発生またはその犯人を知ると否とを問わず、犯人の国外にいる期間、公訴時効の進行を停止すると解することには、十分な合理的根拠がある。

捜査機関が知っていたかどうかにかかわらず、犯人が国外にいる期間は、単純に停止する、という判断です。国外にいる間は、事実上、起訴状の送達や身柄の確保が難しいという客観的な事情そのものが理由になっているからです。短い渡航の扱いについても、最高裁の判断があります。

判例最高裁判所第一小法廷 平成21年10月20日決定(刑集63巻8号1052頁)

一時的な海外渡航でも停止する 犯人が国外にいる間は、それが一時的な海外渡航による場合であっても、刑訴法255条1項により公訴時効はその進行を停止すると解される。

短期間の旅行のような一時的な渡航であっても、国外にいる間は停止する、という判断です。条文は国外にいる期間とだけ書いていて、長さで区別していませんし、国外にいる間は日本の捜査の手が届かないという事情は、短い渡航でも変わらないからです。配送先が海外にあって配達員が追跡できない期間は、その日数がどれだけ短くても、追跡できない期間としてカウントを止める、というイメージに近いものです。

起訴に不備があっても、一旦は時効が止まる

起訴状謄本が届かなかった場合や訴因が特定不十分な場合でも検察官の訴追意思の表明があれば一旦は停止するという2類型の図

ここで、少し応用的な場面を見ておきます。起訴そのものに不備があった場合でも、時効はいったん止まるのでしょうか。前回、起訴状の謄本が2か月以内に届かないと、公訴の提起がさかのぼって効力を失う、という271条2項を見ました。あの271条2項が働いて、公訴棄却の決定で終わった場合を考えてみます。この場合、公訴の提起は遡って効力を失いますが、決定が確定するまでの間、時効はどう扱われるのでしょうか。254条1項は、公訴の提起があれば止まる、としか書いておらず、後になって提起が無効になった場合を区別していません。そこで、決定が確定するまでの間は、いったん停止していたと扱われます。

同じ発想が、訴因の特定が不十分な起訴にも及びます。訴因が具体的に特定されていない起訴であっても、検察官が起訴という形で処罰の意思を示している以上、訴追の意思の表明そのものは存在します。ですから、訴因不特定を理由に後から公訴棄却になったとしても、それまでの間は一旦停止していたと扱われます。止まるかどうかの決め手は、起訴の中身が完璧かどうかではなく、検察官が訴追の意思を対外的に表明したかどうかです。この発想は、被告人の氏名が不詳のまま起訴された場合にも同じように及びます。被告人を特定する記載があれば、氏名が分からなくても起訴として有効に扱われますが、その場合も、検察官が訴追の意思を表明している点は変わりません。ですから、氏名不詳のまま起訴されていても、時効は同じ理屈で停止すると考えられます。

今日の地図(保存版)

公訴権の寿命という一本の軸で趣旨期間起算点停止をまとめる板 図:公訴権の寿命という一本の軸で趣旨期間起算点停止をまとめる板

今日のまとめです。公訴時効が数えているのは、有罪か無罪かではなく、検察官が起訴できる権利、公訴権の寿命です。だから時効が完成しても、それは無罪ではなく免訴、中身を判断しない形式裁判です。刑の時効とは、確定判決の有無で区別されます。期間は、250条で法定刑の重さに応じて機械的に決まり、人を死亡させた罪で死刑にあたるものは時効がありません。起算点は、犯罪行為が終わった時が原則ですが、結果犯は結果発生時から進行します。科刑上一罪なら、最も重い罪の刑を基準に一体で扱います。そして、平成22年改正による時効廃止を遡って適用しても、行為時点の評価自体を変えるものではないので、憲法39条には反しません。時計を止める方法は、起訴による停止、国外在住・逃げ隠れによる停止の二つです。どちらも、検察官が動ける状態が欠けている、あるいは訴追の意思を表明した、という点が共通しています。起訴に不備があっても、訴追の意思の表明自体は変わらないので、いったんは停止します。

公訴権にも寿命があり、その寿命は法定刑の重さで決まる期間と、結果の発生や検察官の訴追行為によって測られます。単純な「逃げ得」ではなく、証拠の散逸や処罰の必要性といった理由に支えられた制度だということが、見えてきたと思います。

参照条文

  • 刑事訴訟法第250条第1項
  • 刑事訴訟法第250条第2項
  • 刑事訴訟法第251条
  • 刑事訴訟法第250条第3項第一号
  • 刑事訴訟法第250条第3項第二号・第三号
  • 刑事訴訟法第250条第4項
  • 刑事訴訟法第253条
  • 刑事訴訟法第55条第1項
  • 刑事訴訟法第254条
  • 刑事訴訟法第255条1項

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