刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#86

起訴後、裁判所がすること

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第4章 公判手続 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

起訴されたら、もう裁判は始まっている?

起訴状提出から第1回公判期日までの間に裁判所が必ず行う知らせる呼び出すの二段階を示す板

ここまで、起訴するかどうか、そして起訴が訴訟条件を満たすかどうかを見てきました。今日から、起訴された事件がどう裁判にかけられるかという章に入ります。実は、起訴から最初の法廷までの間には、欠かせない作業が挟まっています。起訴状が裁判所に届いてから、最初の公判の日を迎えるまでの間に、被告人が何もしなくても、裁判所が必ずやらなければならないことが3つあります。何を訴えられているかを知らせること、どんな権利があるかを知らせること、そしていつ来るべきかを呼び出すことです。今日は、この3つを見ていきます。

公判手続とは——広い意味と狭い意味

起訴から確定までを含む広義の公判手続と公判期日公判廷での手続だけを指す狭義の公判手続を包含関係で示す板

「公判手続」という言葉は、実は2つの広さで使われます。広い意味では、起訴で事件が裁判所に係属した時点に始まり、判決などの裁判が確定するまでに行われる手続のすべてを指します。今日これから見る準備段階や、判決の後の上訴まで含みます。だから、狭い意味の使い方も区別しておく必要があります。狭い意味では、裁判長が定めた公判期日に、公開された法廷である公判廷で行われる手続だけを指します。この章では、主に狭い意味の公判手続に向けて、裁判所が何を準備するかを見ていきます。公判期日に行われる証拠調べなどの取調は、公判廷で行うと条文で定められています。

条文刑事訴訟法第282条第1項

刑事訴訟法第282条第1項 公判期日における取調は、公判廷でこれを行う。

判決の言渡しは取調そのものには含まれませんが、別の規定によって、やはり公判廷で行うと定められています。法廷という公開された場所で行うという点は共通しています。

公判準備の地図——事前準備と公判前整理手続

すべての事件で行う事前準備と充実した計画審理のための公判前整理手続という公判準備の二本立てと公判中心主義の関係を示す板

公判期日を開く前には、公判準備という段階があります。公判期日の審理をきちんと進めるために、裁判所や検察官・弁護人が行う準備のことです。大きく2種類あります。1つは、すべての事件で行われる事前準備です。もう1つは、争点が複雑な事件などで、充実した、継続的で計画的な審理のために行われる公判前整理手続です。この章では、まず事前準備の側、それも裁判所が主体になる部分を見ます。この準備を手厚くする流れは、シリーズの最初の回で名前を出した公判中心主義とつながっています。捜査段階で作られた調書に頼るのではなく、公判の証拠調べそのもので心証を形成しようという考え方です。審理に2日以上かかる事件については、できる限り連日開廷して続けて審理する、と281条の6が定めています。

起訴状が裁判所に届くと——受訴裁判所への係属

検察官が起訴状を提出し書記官が受領すると事件が係属し事務分配規程で機械的に受訴裁判所へ配分される流れ板

検察官が起訴状を裁判所に提出すると、裁判所書記官がこれを受け取ります。受け取った時点で起訴状は受理され、事件は裁判所に係属した、と言います。その事件が、この裁判所で扱われる状態になった、という意味です。あらかじめ定められた事務分配の規程に従って、機械的に各部・各係へ配分されます。その事件を担当することになった単独の裁判官、あるいは合議体を、受訴裁判所と呼びます。もし担当を誰かが自由に選べるとしたら、都合のいい裁判官に事件を割り振ることもできてしまいます。誰が裁判をするかをあらかじめ決まった規程だけで決めておくことで、そうした操作を防いでいます。

起訴状謄本の送達——裁判所の最初の仕事

起訴状謄本の送達が適正手続の告知にあたり被告人が防御の準備に取りかかる出発点になるという図

思い出してください。3章の訴訟条件の回で、271条2項が定める、起訴状の謄本が2か月以内に届かないと起訴が遡って効力を失うという出口を見ましたね。では、その謄本を届けるのは、誰の仕事でしょうか?事件が係属したら、裁判所がまず行うのが、起訴状の謄本を被告人に送り届けることです。今日は、同じ条文を、届ける裁判所の仕事という角度から見ていきます。例えば、Aさんがコンビニで商品を万引きし、窃盗罪で地方裁判所に起訴されたとします。逮捕はされず、自宅で普段どおり暮らしているAさんのもとに、ある日、裁判所から封書が届きます。中身は起訴状の写し、つまり起訴状の謄本です。法律で決まった方式で書類を相手に確実に届けることを、送達と呼びます。

ただの事務連絡ではありません。被告人は、起訴状の謄本を受け取って初めて、自分が何を訴えられているのかを正確に知ります。何を訴えられているか分からなければ、弁護士に相談することも、証拠を集めることも、防御の準備を何一つ始められません。届けるという行為そのものが、適正な手続で言うところの「告知」にあたり、被告人の防御が始まる出発点になっています。だからこそ、裁判所の義務の中でも、最初に位置づけられています。この送達が期限内にできなかった場合、公訴の時効がどう扱われるかは、直前の回で見たとおりです。期限切れで公訴棄却の決定を受けても、その決定が確定するまでの間、時効はいったん停止していたものとして扱われます。

弁護人選任権等の告知と必要的弁護事件

弁護人選任権と国選弁護人選任請求権の告知内容と既に弁護人がいれば告知不要になる但書の図

起訴状謄本の送達と同時に、裁判所はもう1つ、被告人に知らせなければならないことがあります。弁護人を選任できる権利があること、それに、貧困などの理由で弁護人を選べないときは国選弁護人の選任を請求できる権利があることです。頼めることは知っていても、お金が無いから無理だと思い込んで、弁護人なしで法廷に来てしまう人がいます。さっきのAさんのように逮捕されずに起訴された人は、それまで弁護人と話したことがないことも少なくありません。国の費用で弁護人を付けるよう請求できると知らなければ、その権利は無いのと同じです。だから、知らせることを裁判所の義務にしてあります。

条文刑事訴訟法第272条第1項

刑事訴訟法第272条第1項 裁判所は、公訴の提起があつたときは、遅滞なく被告人に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を知らせなければならない。但し、被告人に弁護人があるときは、この限りでない。

多くの事件では、被疑者段階からすでに国選弁護人が付いていることがあります。その場合は、あらためて告知する必要がありません。実務では、この告知は起訴状謄本の送達と同じ書面で、同時に行われます。もう1つ、死刑や無期、あるいは長期3年を超える拘禁刑にあたる重い事件では、弁護人がいなければ開廷そのものができません。拘禁刑というのは、懲役と禁錮が一本化されて、令和7年6月から使われている刑罰の名称です。これを必要的弁護事件と呼びます。

条文刑事訴訟法第289条第1項

刑事訴訟法第289条第1項 死刑又は無期若しくは長期三年を超える拘禁刑に当たる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない。

長期というのは、法定刑の上限のことです。窃盗罪の法定刑は、刑法235条により10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。Aさんの窃盗罪は、上限が10年の拘禁刑なので、3年を超え、必要的弁護事件にあたります。これに対して、他人の家に無断で入る住居侵入罪は、刑法130条により3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金で、上限がちょうど3年です。3年を「超える」わけではないので、必要的弁護事件にはあたりません。こうした事件に該当する場合は、開廷できないことも、あわせて告知します。

条文刑事訴訟規則第177条

刑事訴訟規則第177条 裁判所は、公訴の提起があつたときは、遅滞なく、被告人に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨のほか、死刑又は無期若しくは長期三年を超える拘禁刑に当たる事件については、弁護人がなければ開廷することができない旨をも知らせなければならない。ただし、被告人に弁護人があるときは、この限りでない。

289条1項のほかにも、公判前整理手続に付された事件や、即決裁判手続の事件も、必要的弁護事件にあたります。それぞれの中身は、また別の回で見ていきます。今日は、開廷できるかどうかを左右する事件がある、という位置づけだけつかんでおいてください。なお、選任された弁護人の権限は、第一審が終わるまで続きます。被疑者段階から関わっている弁護人は、起訴の直後から、保釈の請求など次の手続に着手できます。保釈そのものは、また別の回で扱います。

第1回公判期日の指定と召喚

裁判長が第1回公判期日を指定し被告人を召喚するまでの流れと召喚状送達の猶予期間5日簡裁3日の図

送達と告知が終わると、次に裁判長がやることは、最初の公判の日を決めて、被告人を呼び出すことです。第1章で見たとおり、この期日を定めるのは裁判所ではなく裁判長でした。

条文刑事訴訟法第273条

刑事訴訟法第273条 裁判長は、公判期日を定めなければならない。 公判期日には、被告人を召喚しなければならない。 公判期日は、これを検察官、弁護人及び補佐人に通知しなければならない。

特定の日時・場所に出頭するよう命じることを召喚と呼びます。被告人だけでなく、証人などを呼び出すときにも、同じ考え方が準用されます。なお、一度決まった期日を動かすには、やむを得ない事由が必要だと条文で定められています。理由もなく期日が動けば、証人や関係者の予定にも影響するためです。ただ、呼び出す日を伝えるだけでは足りません。被告人が防御の準備をする時間を確保するため、召喚状の送達と公判期日の間には、一定の猶予期間を置かなければなりません。

条文刑事訴訟法第275条第1項

刑事訴訟法第275条第1項 第一回の公判期日と被告人に対する召喚状の送達との間には、裁判所の規則で定める猶予期間を置かなければならない。

条文刑事訴訟規則第179条

刑事訴訟規則第179条 被告人に対する第一回の公判期日の召喚状の送達は、起訴状の謄本又は起訴状抄本等の被告人に対する送達の前には、これをすることができない。 第一回の公判期日と被告人に対する召喚状の送達との間には、少なくとも五日の猶予期間を置かなければならない。ただし、簡易裁判所においては、三日の猶予期間を置けば足りる。 被告人に異議がないときは、前項の猶予期間を置かないことができる。

Aさんで言えば、召喚状が月曜日に届いたのに、その週の水曜日を第1回の公判期日にすることはできません。間に5日を置けないからです。簡易裁判所が扱うのは、比較的軽い事件が中心です。争点も比較的単純なことが多く、防御の準備にかかる時間も短くて済むと考えられているためです。逆に、被告人の側が猶予期間を置かなくてよいと言うのであれば、置かないこともできます。防御のための期間なので、本人が要らないと言うなら、無理に置く必要はない、という発想です。起訴状謄本の送達より先に、召喚状だけ先に届く、ということはないんですか。それはできません。何を訴えられているかも分からないうちに、出頭の日だけ知らされても、防御の準備のしようがないからです。だから、召喚状の送達は、起訴状謄本の送達より前には行えません。知らせてから、呼び出す。今日の3つの仕事の順番そのものが、条文になっているわけです。

公判廷の構成——誰がいなければ開廷できないか

公判廷を開くために必ず必要な裁判官書記官検察官の三者と被告人弁護人は別条文で必須化される構造の図

ここまでで、被告人には知らせと呼び出しが済みました。最後に、公判廷そのものについて、少し補っておきます。第1章で、法廷に誰がいるかを見ましたが、公判廷を開くために、必ずそこにいなければならない人が決まっています。条文上、必ずいなければならないと定められているのは、裁判官、裁判所書記官、検察官の3者です。この3者が揃わなければ、開廷そのものができません。

条文刑事訴訟法第282条第2項

刑事訴訟法第282条第2項 公判廷は、裁判官及び裁判所書記が列席し、且つ検察官が出席してこれを開く。

条文の言葉は今も「裁判所書記」ですが、これは裁判所書記官を指す古い呼び方です。書記官と検察官がいないと開廷できない理由は、第1章で見たとおりです。条文上の必須の構成員としては、被告人・弁護人は別の扱いです。被告人の出頭は286条が定めており、出頭しなければ原則として開廷できません。さっき見た必要的弁護事件で弁護人が必要になるのも、289条という別の条文によるもので、いま見た282条2項とは別枠になっています。

今日の地図(保存版)

送達告知期日指定召喚という起訴後に裁判所が必ず行う三つの仕事を一本の軸でまとめる板

今日のまとめです。起訴されてから最初の公判期日までの間、裁判所は、被告人が望むかどうかに関わらず、必ず3つの仕事をこなします。何を訴えられているかを知らせる起訴状謄本の送達、どんな権利があるかを知らせる弁護人選任権等の告知、そして、いつ来るべきかを呼び出す第1回公判期日の指定と召喚です。この3つは、知らせなければ被告人は防御を始められない、という一本の考え方でつながっています。送達が遅れれば起訴そのものが失効し、召喚状の送達には猶予期間が要る。どれも、被告人に十分な準備の機会を与えるための仕組みです。

参照条文

  • 刑事訴訟法第282条第1項
  • 刑事訴訟法第272条第1項
  • 刑事訴訟法第289条第1項
  • 刑事訴訟規則第177条
  • 刑事訴訟法第273条
  • 刑事訴訟法第275条第1項
  • 刑事訴訟規則第179条
  • 刑事訴訟法第282条第2項

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