刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#75

訴因変更の可否と公訴事実の単一性

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第3章 公訴 ⑦/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

二人組の強盗致傷、殴ったのはどちらか

起訴状はXが自ら被害者を殴って金品を奪ったという訴因だが審理でYが実行した疑いが浮上することを示す板

前回は、訴因変更をめぐる問題が要否・可否・許否という三つの問いに分かれること、そして可否の枠を決めるのが公訴事実の同一性、つまり旧訴因と新訴因を比べる機能概念だという地図をお伝えしました。今日は、この地図を実際に使ってみましょう。まず、一つの事件を用意します。二人組が被害者を襲い、金品を奪い、被害者にけがを負わせた強盗致傷の事件です。起訴状の訴因は「Xが自ら被害者を殴って金品を奪った」というものでした。ところが審理が進むと、実際に殴って金品を奪ったのはYで、Xは指示役だったにすぎない疑いが出てきます。起訴状に書かれた実行者と、審理で見えてきた実行者が食い違う場面です。

この事件を、三つの場面に分けて見ていきます。

三つの場面——同じ事件のどこが問題か

検察官が訴因変更を請求した場面裁判所が請求なく認定した場面時機に遅れた場面という三つを比較した表

まず場面①です。検察官が「XまたはYが実行した」という訴因への変更を請求しました。裁判所がこの変更を許可できるかを判断する場面、これが可否です。前回の詐欺と窃盗の書き換えと、場面の形は同じです。ただ、中身まで前回と同じように悩ましいかは、あとで確かめます。場面②です。検察官が変更を請求しないまま、裁判所が判決で「XまたはYが実行した」という、訴因とは異なる事実を認定してしまいました。そもそも変更を経ずに認定してよかったのかを判断する場面、これが要否です。検察官ではなく裁判所が先に動くのが、場面②でした。続いて場面③です。場面①のように可否そのものは認められるとしても、この事件で、証拠調べがほぼ終わってから検察官が変更を請求したときのように、なお認めてよいか時機的な限界が問題になることがあります。これが許否です。

なぜ三つに分けるのか、軸は三つあります。誰が先に動くか——検察官が請求するのか、裁判所が請求なしに認定してしまうのか。何を判断するか——同一性の範囲内かどうか、変更を経ずに認定してよいかどうか、時機的になお認めてよいかどうか。そして、控訴審でどんな違反として争うかも、この区別を前提に組み立てます。それぞれの判断基準の中身は、要否も許否も別の回で扱います。今日は、可否の枠を決める単一性に絞ります。先に答えを言っておくと、単一性があるかどうかは刑法の罪数で決まります。一罪の関係なら単一性があり、別々に成り立つ二つの罪、つまり併合罪の関係なら単一性はありません。

控訴審ではどう争うか

可否を争うときの訴訟手続の法令違反と不告不理原則違反許否を争うときの訴訟手続の法令違反を示す表

この三つの場面を、被告人側が控訴審で争うときの主張の型も見ておきましょう。場面①、可否を争うときは、訴訟手続の法令違反を主張するのが基本です。

条文刑事訴訟法第379条

刑事訴訟法第379条 前二条の場合を除いて、訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。

訴因変更の許可に誤りがあった、という一般的な主張の型です。この型では、その誤りが判決に影響したことが明らかだ、というところまで示す必要があります。ただ、許してしまった変更が公訴事実の同一性を欠くものだったなら、もっと重く組み立てられます。そもそも審判の対象にできない事実を裁いたことになるので、判決への影響を示すまでもなく控訴の理由になります。それが、審判の請求を受けない事件について判決をしたという、不告不理原則違反です。

条文刑事訴訟法第378条第3号

刑事訴訟法第378条第3号 審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をしたこと。

場面③、許否を争うときは、時機に遅れた変更を裁判所が誤って許してしまった、として、同じく訴訟手続の法令違反を主張します。

可否の枠——公訴事実の同一性を、二段で見る

312条1項の限度に収まるかをまず単一性次に狭義の同一性という二段で検討する順番を示す図

場面①、可否の話に戻ります。前回見た312条1項の「公訴事実の同一性を害しない限度」、この枠の中に入っているかどうかが可否の判断です。この同一性は、単一性か狭義の同一性か、どちらか一方が認められれば足ります。そこで、刑法の罪数というすでにある物差しで白黒がつく単一性を、先に確かめます。一罪と言えれば、それだけで枠の中です。一罪と言えないときに初めて、事実どうしを比べる狭義の同一性に進む、という順番です。

なぜ罪数が物差しになるのか

一罪であれば刑罰権は一つで訴訟手続も一つにまとめてよいという理由づけを示す板 図:一罪であれば刑罰権は一つで訴訟手続も一つにまとめてよいという理由づけを示す板

単一性の中身に入る前に、一つ思い出してください。前回、公訴事実の同一性が及ぶのは訴因変更の範囲だけではなく、あと二つありましたね。何と何だったか、覚えていますか?……一事不再理効が及ぶ範囲と、二重起訴が禁止される範囲、でした。この「同じ範囲」という感覚を持ったまま、単一性の中身に入りましょう。単一性とは、新旧両方の訴因が、実体法上一罪を構成する関係にあるかどうかです。なぜ、訴訟法の話であるはずの訴因変更の可否が、刑法の罪数論と結びつくのか。一罪であれば、科される刑は一つです。発生する刑罰権が一つしかないのですから、これを審理する手続も一つにまとめてよい、というのが理由です。会社の経費精算に例えると分かりやすいと思います。同じ出張に紐づく交通費と宿泊費は、まとめて1枚の精算書で処理してよいですよね。交通費だけだと思って精算書を出したあとで、同じ出張の宿泊費の領収書が出てきても、同じ精算書に書き足せばよく、別の精算書を新しく起こす必要はありません。これが、一罪、単一性がある関係のイメージです。

別の出張の経費を混ぜたらどうなるんですか。それは、あとで見る併合罪の話につながります。先に、一罪の中身を見ましょう。もう一つ理由があります。さっき思い出してもらった一事不再理効です。一罪としてまとめて処理すべき範囲は、判決が確定すれば二度と裁かれない範囲とも一致します。訴因変更で追いつける範囲を一罪の範囲からずらしてしまうと、一事不再理効の範囲ともずれてしまうんです。訴因変更では取り込めない部分にまで一事不再理効が及べば、検察官はその部分を、この裁判でも別の裁判でも問えなくなります。逆に、取り込めた部分が一事不再理効から外れれば、同じ一つの事件で二度裁かれるおそれが出ます。だから二つの範囲は、一罪という同じ線にそろえておくんです。ここで一つ、考えてみてください。冒頭の事件で、Xから Yへの書き換えは、別々の事実を一つにまとめる話でしょうか。

……いいえ、二人で一緒にやった強盗致傷なので、共同正犯として、もともと罪数は一つですよね。別々の事実をまとめる話ではない気がします。共同正犯として、罪数は最初から一つです。この点は、あとで単一性と狭義の同一性の関係を整理するときにもう一度触れます。

牽連犯——住居侵入と窃盗、なぜ一つにまとまるのか

住居侵入と窃盗は別個の事実だが手段と結果の関係にあるため科刑上一罪になる理由を示す板

前回、住居侵入と窃盗は手段と結果の関係にあるので科刑上一罪だと、一例だけ見ましたね。今日はその「なぜ」まで掘ります。住居に立ち入る行為と、金品を持ち去る行為は別個の事実で、侵される利益も住居の平穏と財産という別のものです。それでも、手段と結果という密接な関係でつながっているために、刑を決めるときだけ一つにまとめて扱う、これが牽連犯です。別々の事実なのに、なぜ一つの刑罰権にまとまるんですか。手段としておこなった行為と、その結果としておこなった行為を、それぞれ独立に処罰すると、実質的に同じ一つの犯行計画を二重に評価することになってしまうからです。窃盗のために家に入ったのなら、住居侵入は窃盗という目的に従属する行為と見て、一つの刑にまとめる。だから、旧訴因が窃盗で、新訴因がその手段だった住居侵入なら、両者は科刑上一罪の関係にあり、単一性が認められます。訴因を追加できるわけです。

観念的競合——一つの行為が、二つの罪に触れるとき

椅子を振り回して窓ガラスを割ると同時に客にけがをさせた例で観念的競合が一つの行為から生じることを示す板

単一性が認められるもう一つの型が、観念的競合です。例えば、酔って暴れた人物が、振り回した椅子で店の窓ガラスを割ると同時に、居合わせた客にけがを負わせたとします。窓ガラスを割った行為と、客をけがさせた行為は、椅子を振り回したという一つの動作から生じています。一つの行為が、器物損壊と傷害という二つの罪に同時に触れる、これが観念的競合です。行為が一つである以上、行為者への非難も一回分と見て、刑も一つにまとめます。検察官が「けがをさせる犯意があった」として傷害の訴因で起訴したものの、審理で犯意の立証が難しくなれば、同じ一つの行為から生じた器物損壊の訴因へ、単一性を理由に変更できます。

集合犯・包括一罪——反復を織り込んだ犯罪類型

常習累犯窃盗を例に常習性の発露と認められる別の実行行為への訴因変更を示す板 図:常習累犯窃盗を例に常習性の発露と認められる別の実行行為への訴因変更を示す板

三つ目の型が、集合犯です。常習性や業務性を理由に、複数回の同種の行為を繰り返すことが最初から予定されている構成要件を、集合犯と呼びます。代表例が常習累犯窃盗です。この場合、各回の実行行為は、まとめて一つの包括一罪として扱われます。例えば、常習として空き巣を繰り返していた人物について、検察官が把握していた数件のうち一部は証拠が固いものの、一件は目撃証言が崩れてしまったとします。ところが審理の途中で、これまで把握していなかった別の空き巣が、同じ手口・同じ時期の犯行だと新たに判明したとしましょう。手がかりは、手口と時期の近さです。同じ道具、同じ時間帯、近い場所で繰り返されている犯行なら、単発の思いつきではなく、常習性が形を変えて現れたものだと認めやすくなります。今の例なら、立証が崩れた分を落として、新たに判明した分へ、包括一罪としての単一性を理由に訴因を変更できます。

単一性が認められない場合——併合罪と追起訴

窃盗幇助と盗品等有償譲受けは併合罪で単一性が認められず追起訴によるべきという結論を示す図

ここまでの三つの型は、いずれも単一性が認められる例でした。認められない場合も見ておきましょう。

⭐ 論文で書く規範:事案の概要 Xは、知人が盗んだ物を運ぶためのリヤカーを貸し、窃盗を手助けした。後日、Xはその盗まれた物品を、盗品だと知りながら買い受けた。検察官は、窃盗幇助の訴因で起訴した後、盗品等有償譲受けの訴因への追加を請求した。 (最判昭33・2・21の事案)

窃盗幇助と盗品等有償譲受けという二つの訴因が、単一性を認められるかどうかが争われました。最高裁は、窃盗を手伝った罪とは別に盗品を買い受けた罪が成り立ち、二つは独立した犯罪、つまり併合罪だと判断しました。さっきの牽連犯とは違うんですか。違います。牽連犯なら、手段と結果の関係にある二つの罪が一つの刑罰権にまとまります。しかし、窃盗を手伝う行為と、後になってその盗品を買い受ける行為は、手段と結果の関係にはありません。盗品の買い受けは、窃盗という犯罪が終わったあとに生じる、別個独立の犯罪です。別個独立の犯罪が二つ以上ある関係を、併合罪と呼びます。併合罪では、一つの刑罰権にまとめる理由がありませんから、単一性は認められません。だから、盗品等有償譲受けの訴因を追加することは認められず、検察官としては、別に起訴する、つまり追起訴によることになります。さっきの経費精算でいえば、別の出張の経費は今の精算書に混ぜられず、新しい精算書を起こすしかない、というのがこの場面です。

被告人側が追加に同意していても、許されません。単一性がないのに訴因を追加してしまうと、本来は別の事件として審判の請求を受けていないものについて、裁判所が判決をしたことになります。これは被告人の同意で治る性質の違法ではありません。実際、この事件の原審は追加された訴因で有罪の判決をしてしまい、最高裁はこれを、審判の請求を受けない事件について判決をした違法があると判断しました。可否の場面で公訴事実の同一性を誤って認め、単一性のない訴因への変更を許してしまうと、まさにこの378条3号の問題になります。

冒頭の事件はどちらの顔か

公訴事実の同一性は単一性と狭義の同一性という二つの顔を持ち今日見たのは単一性の顔だったことを示す図

公訴事実の同一性は、二つの顔を持ちます。別々の事実が一つの罪にまとまるかを見る単一性と、一つの事実どうしが本当に同じ事実と言えるかを見る狭義の同一性です。今日はここまで、単一性の顔を掘り下げてきました。さっきの冒頭の事件も、単一性の顔から見るんですか。違います。そこは注意が必要です。冒頭の事件は、そもそも一つの強盗致傷という事件の中で、実行者の記載がXからYに変わるだけです。別々の事実が一つの罪にまとまるかどうかを問う、単一性の場面ではありません。さっき確認したとおり、共同正犯として罪数はもともと一つですから、可否そのものはほとんど問題になりません。この事件で本当に問題になりやすいのは、そもそも訴因変更が必要かという要否の方です。中身は、別の回で扱います。

今日見た四つの例、牽連犯・観念的競合・集合犯、そして併合罪で単一性が否定される例が、単一性の顔の具体例です。

今日の地図(保存版)

三つの問いと単一性による否定肯定を今日の地図として再掲する表 図:三つの問いと単一性による否定肯定を今日の地図として再掲する表

今日のまとめです。訴因変更には要否・可否・許否という三つの問いがあり、そのうち可否は訴訟手続の法令違反、時に不告不理原則違反として、許否は訴訟手続の法令違反として、控訴審で争われます。可否の枠を決める公訴事実の同一性は、まず単一性、つまり新旧両訴因が実体法上一罪を構成するかを検討し、一罪でなければ次に狭義の同一性を検討します。単一性は、牽連犯・観念的競合・集合犯という一罪の型で認められ、併合罪の関係では認められません。併合罪の場合は、訴因の追加ではなく、追起訴によることになります。

参照条文

  • 刑事訴訟法第379条
  • 刑事訴訟法第378条第3号

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