刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#116

国際捜査共助と321条1項3号

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第5章 証拠法 ⑩/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

事件の共犯者はすでに母国へ帰り、母国の捜査官に全部を話した。その供述を書いた書面が日本の法廷に届いたが、日本の裁判官も検察官もその場にいなかった、という問いを示す導入板 図:事件の共犯者はすでに母国へ帰り、母国の捜査官に全部を話した

前回の最後に置いた予告が、この問いです。供述者が国外にいるとき、国際捜査共助で作られた供述録取書を、どんな条件で使えるのか。今日は、321条1項3号の中身を、国外の書面に当てはめて見ます。答えを先に言います。国外にいることは、供述不能の事由として条文に書かれています。だから残る勝負は、2つです。その供述が、犯罪事実の証明に欠くことができないか。そして、特に信用すべき情況があるか。外国の手続は、日本と違うことがあります。それでも、日本の側が取調べの方法を求め、黙秘権が実質的に告げられ、強制の形跡がない、といった具体的な事実があれば、最高裁は3号での採用を認めました。今日は、この判断の組み立て方を身につけます。

条文と、なぜ3号なのか

刑事訴訟法321条1項3号を、供述不能、不可欠性、絶対的特信情況の3要件に色分けして示した条文板

条文です。321条1項の柱書と、3号を出します。

条文刑事訴訟法第321条第1項

刑事訴訟法第321条第1項(柱書・第3号) 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。 三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。ただし、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。

3号は、3つの要件です。供述不能、不可欠性、そして特に信用すべき情況。この3つは、321条1項の3類型を見た回で整理しました。

1号から3号の並びを、話を聞いた人で整理した板。1号は裁判官の面前、2号は検察官の面前、3号はそれ以外。外国の捜査官、公証人、外国の裁判所は、日本の裁判官でも検察官でもないので3号 図:1号から3号の並びを、話を聞いた人で整理した板

  • 1号は裁判官の面前、2号は検察官の面前、3号はそれ以外
  • 外国の捜査官、公証人、外国の裁判所は、日本の裁判官でも検察官でもないので3号

321条1項の軸は、話を聞いた人の中立性でした。1号は日本の裁判官の面前、2号は日本の検察官の面前です。中立性が下がるほど、要件が厳しくなる。外国の捜査官も、外国の公証人も、外国の裁判所も、条文の言う裁判官でも検察官でもありません。だから、1号と2号の書面ではなく、「前二号に掲げる書面以外の書面」として、3号に入ります。もう1つ。国外にいることは、供述不能の事由です。供述不能の事由は例示で、その中に国外にいることも書かれている。前々回に見たとおりです。ここで、問いです。前回の2号後段の特信情況は、何と何を比べる基準だったでしょうか?

公判での供述と、前の供述を比べる基準でした。相対的特信情況です。3号の特信情況は、比べる相手がありません。その供述が、特に信用すべき情況の下にされたかだけを見ます。絶対的特信情況です。今日、勝負になるのは、ここです。

国際捜査共助と、外国の手続の違い

国際捜査共助の流れの板。日本の捜査機関が外国の捜査機関に依頼し、外国の捜査官が共犯者を取り調べ、録取書を日本へ送る。関係者は被告人Z、帰国した共犯者、外国の捜査官、日本の捜査官、検察官 図:国際捜査共助の流れの板

  • 日本の捜査機関が外国の捜査機関に依頼し、外国の捜査官が共犯者を取り調べ、録取書を日本へ送る
  • 関係者は被告人Z、帰国した共犯者、外国の捜査官、日本の捜査官、検察官

設例Rで考えます。被告人のZは、日本国内で、共犯者と共謀して、貴金属店から商品をだまし取ったとして起訴されました。Zは、共謀があったことを争っています。共犯者は、事件の直後に母国へ帰りました。そして、別の件で、その国で勾留されています。日本の検察官は、その国に、捜査共助を要請しました。外国の捜査官が、共犯者を取り調べて、供述録取書を作り、日本に送ってきました。書面には、「Zと一緒に計画した」と書かれています。共犯者は、国外にいて、日本の法廷には来られません。Zの弁護人は、書面に不同意です。検察官は、3号で請求します。

外国にいる人の取調べは、日本の捜査官が、その国で勝手に行うことはできません。その国の主権の範囲だからです。そこで、日本側が、その国の捜査機関に、取調べを頼みます。これが、国際捜査共助です。頼むのは、日本の側です。実際に取り調べるのは、外国の捜査官です。

日本の手続と外国の手続の対比表。黙秘権の告知は日本は必ず告げるが外国は告げない法制もある、供述の義務は日本は課さないが外国は真実を述べる義務を課す法制もある、記録の取り方、その場にいる人が国によって違う 図:日本の手続と外国の手続の対比表

問題は、ここからです。外国の手続は、日本と同じとは限りません。比べる場所を、4つ挙げます。1つ目。黙秘権の告知です。日本は、供述を拒める権利を告げます。外国には、告げない法制もあります。2つ目。供述の義務です。日本は、被疑者に供述を義務づけません。外国には、真実を述べる義務を課す法制もあります。3つ目。記録の取り方です。供述を、そのまま記録するのか、要約して書くのか。4つ目。その場にいる人です。弁護人がいるのか、誰が立ち会うのか。日本の基準に合わない書面を一律に締め出す、という考え方ですね。分かりやすいのですが、それは困ります。外国の捜査機関は、日本の刑訴法に従う義務がありません。日本と同じ手続を、厳格に要求すると、国際捜査共助で得た書面は、ほぼ全部使えなくなります。一方、違いを一切見ないでよいとすると、強制や利益誘導で作られた供述まで入ってしまいます。だから、判断の場所を分けます。2か所です。1つ目は、3号の要件、とくに絶対的特信情況です。2つ目は、証拠としての許容性です。供述の自由が害されていないか、手続が公正かという、一般の問題です。外国の手続の違いは、この2か所のどちらかで効きます。次の判例が、その典型です。

最高裁の判決、国際捜査共助で作られた供述調書

判決が事実として述べた部分、上告した側の主張、判旨の3段の板。事実は中国の捜査官が身柄を拘束されていた共犯者2名を取り調べ供述調書等が第1審で採用された、主張は供述の自由が保障された状態でなされていないから許容性がない、判旨は3号での採用を是認 図:判決が事実として述べた部分、上告した側の主張、判旨の3段の板

最高裁の判決です。この判決は、事実、上告した側の主張、判旨の3つに分けて読みます。事実と、判旨を混ぜると、判旨の射程を読み違えるからです。まず、事実です。判決が事案として述べているのは、こうです。被告人は、強盗殺人などの罪で起訴されました。中国の捜査官が、中国で身柄を拘束されていた共犯者2名を取り調べて、その供述を録取した供述調書等が作られました。これが、第1審で採用されています。次に、上告した側の主張です。取調べは、供述の自由が保障された状態でなされたものではない。だから、証拠能力、ないし、証拠としての許容性がない、という主張でした。そして、判旨です。読みます。

判例最高裁判所判決・平成23年10月20日(刑集65巻7号999頁)

国際捜査共助で作成された供述調書等を321条1項3号で採用した措置を是認した判旨 上記供述調書等は、国際捜査共助に基づいて作成されたものであり、前記(5)の犯罪事実の証明に欠くことができないものといえるところ、日本の捜査機関から中国の捜査機関に対し両名の取調べの方法等に関する要請があり、取調べに際しては、両名に対し黙秘権が実質的に告知され、また、取調べの間、両名に対して肉体的、精神的強制が加えられた形跡はないなどの原判決及びその是認する第1審判決の認定する本件の具体的事実関係を前提とすれば、上記供述調書等を刑訴法321条1項3号により採用した第1審の措置を是認した原判断に誤りはない。

判旨に出てくる事情を、拾います。国際捜査共助に基づいて作られたこと。犯罪事実の証明に欠くことができないこと。日本の捜査機関が、中国の捜査機関に、取調べの方法等を要請したこと。黙秘権が、実質的に告知されたこと。肉体的、精神的な強制が加えられた形跡がないこと。判旨の最後の「具体的事実関係を前提とすれば」は、大事な言葉です。この判決は、こういう事情があれば、必ず採用できる、という一般的な基準を立てていません。下級審が認定した具体的な事実を前提にして、採用は誤りではない、と結論を出しました。事例についての判断です。この点は、あとで使います。

判旨の読み方

判旨が挙げた事情の仕分け表。欠くことができない事情は不可欠性、日本側の要請と黙秘権の実質的告知と強制の形跡なしは許容性に関する説示と理解されるが特信情況を認める一事情にもなりうる、具体的事実関係を前提とした事例判断である 図:判旨が挙げた事情の仕分け表

ここで、立ち止まります。問いです。判旨が挙げた事情は、日本の捜査機関の要請、黙秘権の実質的な告知、強制の形跡がないこと、でした。では、画面の判旨の、この部分に、「特に信用すべき情況」という言葉は出てくるでしょうか?読み直します。「欠くことができない」は出てきます。でも、「特に信用すべき情況」という言葉は、どこにも出てきません。ここが、この判決の読み方の山場です。判旨の事情を、3つに仕分けます。1つ目。「欠くことができない」。これは、3号の不可欠性です。条文の言葉そのままです。2つ目。日本側の要請、黙秘権の実質的な告知、強制の形跡がないこと。これは、先ほどの上告した側の主張への答えです。供述の自由が保障されていたか、証拠としての許容性があるか。そこに答える説示です。事情が、上告した側の主張への答えとして並んでいる。しかも、特信情況という言葉が無い。この2つから、特信情況を積極的に基礎づける趣旨ではなく、証拠の許容性に関して述べたもの、と理解するのが一般的です。

この事情が、特信情況とまったく無関係かというと、関係しうる、というのが、私の整理です。判決は、特信情況の認定を、明示していません。ただ、日本側が、取調べの方法を要請し、手段を尽くした。黙秘権が実質的に告げられ、強制も無かった。こうした事情は、その供述が信用できる情況の下でされた、と見る一事情になりえます。ただし、判決が、そう言ったわけではありません。ここは、断定しません。3つ目。「具体的事実関係を前提とすれば」。事例判断です。黙秘権の告知が無ければ必ず否定する、という基準ではありません。告知があれば必ず肯定する、という基準でもありません。ここは論文で論点になりうる部分です。中身は、判例の事情が、3号の要件のどれに効くのか、それとも許容性に効くのか、という整理です。不可欠性は条文の言葉どおりです。日本側の要請や告知、強制の形跡のなさは、許容性に答える事情であり、特信情況を認める一事情にもなりえます。

設例Rの当てはめ

設例Rの主張の対照表。検察官は国外にいて供述不能、共謀の唯一の証明で欠くことができない、日本側の関与と黙秘権告知等で特信情況あり。弁護人は外国の手続は日本の基準に達していない、反対尋問できない、特信情況の立証が足りない 図:設例Rの主張の対照表

  • 検察官は国外にいて供述不能、共謀の唯一の証明で欠くことができない、日本側の関与と黙秘権告知等で特信情況あり
  • 弁護人は外国の手続は日本の基準に達していない、反対尋問できない、特信情況の立証が足りない

設例Rに戻ります。検察官は、共犯者の供述録取書を、3号で請求しました。Zの弁護人は、不同意です。まず、双方の主張を対照します。検察官は、こう主張します。共犯者は国外にいて、日本に来られないから、供述不能です。共謀があったことを直接語れるのは共犯者だけで、ほかの証拠では、共謀の証明が足りないから、欠くことができません。そして、日本の側が取調べの方法を要請し、黙秘権も実質的に告げられて、強制の形跡もないから、特に信用すべき情況があります。弁護人は、こう反論します。外国の手続は、日本の基準に達していない。共犯者には、反対尋問もできない。特信情況を基礎づける事情は、検察官が立証していない。さらに、共犯者は、自分の責任を軽くするために、Zを巻き込んだかもしれない。

どちらの言い分も、もっともに聞こえます。場面によって、結論は変わりますか。変わります。3つの場面で見ます。

設例Rの3場面の比較表。場面1は日本側が方法を要請し黙秘権が実質的に告げられ強制の形跡なしで採用の方向、場面2は供述義務を課す法制で要請も告知も無く苦しい、場面3は強制や利益誘導の形跡があり3号とは別に許容性で否定されうる 図:設例Rの3場面の比較表

場面1です。日本側が、取調べの方法を要請しました。黙秘権は、実質的に告げられました。強制の形跡は、ありません。録取書には、共犯者の署名があります。判例の事情が、揃っています。供述不能は、国外にいるから満たします。不可欠性は、共謀の直接の証明が、この書面しかないから満たします。絶対的特信情況は、日本側が取調べの方法まで要請して手段を尽くし、告知も強制のなさも確かめられることを一事情として、認められる方向です。許容性も、問題になりません。採用できる方向です。弁護人の、反対尋問できない、という反論は、どうでしょう。3号そのものが、反対尋問を経ない書面を、要件を満たしたときに使うための規定です。反対尋問できないことだけでは、3号を否定する理由になりません。一方、巻き込んだ可能性は、特信情況の吟味の中で、弁護人が具体的に指摘することになります。場面2に入る前に、問いです。外国の法制が、被疑者に、真実を述べる義務を課していました。日本側の要請もありません。黙秘権の告知も、ありません。それだけで、3号は使えないでしょうか?

日本の基準に、まったく合っていません。使えないと言いたくなります。でも、判例は事例判断でした。それだけでは、決まらない気がします。判例は、要件の列挙ではなく、具体的事実関係を見ました。ただ、場面2は、苦しいです。供述義務がある中で、日本側も関与していなければ、自由に話せた情況だったのか、という疑いが強く残ります。検察官が補える事情は、あります。作成の経緯を、立証するのです。誰が、どんな状況で、どのくらいの時間、取り調べたのか。供述義務の制裁が、実際に告げられたのか。強制的な事情は、何も無かったのか。こうした経緯を具体的に示せれば、特信情況を認める余地は、残ります。示せなければ、弁護人の反論が勝ちます。場面3です。取調べの最中に、強制や利益誘導の形跡があります。たとえば、「話せば、釈放する」と約束されていた、という事情です。この場合、3号の要件とは別に、許容性の段階で否定されうる場面です。供述の自由が害された供述は、特信情況を満たすかどうかにかかわらず、使えないと見る方向になります。供述の任意性の問題は、別の回で扱います。

ここで、結論の型を言います。判例は事例判断ですから、「黙秘権の告知があるから採用できる」「無いから採用できない」と、要素を1つだけ取り出して、結論を断定しないでください。具体的事実関係を挙げて、3要件に当てはめます。

ほかの国外書面

国外書面の3件の比較表。最判平23は中国の捜査官の供述調書で許容性の説示、最決平12は米国の公証人の面前の宣誓供述書で特信情況を認定、最決平15は韓国の裁判所の公判調書で特信情況を認定 図:国外書面の3件の比較表

国外の書面の判例は、ほかに2つあります。3件を比べます。共通するのは、どれも3号の書面だという点です。違うのは、効いた要件です。1つ目。米国に住んでいる人の宣誓供述書です。日本政府が米国政府に、捜査共助を要請して、作られました。判旨を読みます。

判例最高裁判所決定・平成12年10月31日(刑集54巻8号735頁)

米国の宣誓供述書を321条1項3号の特信情況の下にされた供述とした判旨 原判決の認定によれば、Aの宣誓供述書は、日本国政府からアメリカ合衆国政府に対する捜査共助の要請に基づいて作成されたものであり、アメリカ合衆国に在住するAが、黙秘権の告知を受け、同国の捜査官及び日本の検察官の質問に対して任意に供述し、公証人の面前において、偽証罪の制裁の下で、記載された供述内容が真実であることを言明する旨を記載して署名したものである。このようにして作成された右供述書が刑訴法三二一条一項三号にいう特に信用すべき情況の下にされた供述に当たるとした原判断は、正当として是認することができる。

この決定は、「特に信用すべき情況」という言葉を、はっきり使っています。黙秘権の告知、任意の供述、公証人の面前で、偽証罪の制裁の下で真実と言明した、という事情をまとめて、特信情況に当たるとしました。2つ目。韓国の裁判所の公判調書です。韓国で起訴された共犯者の供述を、その国の裁判所が録取した調書です。この決定は、前段で、供述者が国外にいて供述不能であり、密輸入の謀議の内容などを証明するのに不可欠な証拠だ、と確認しています。そのうえで、こう述べます。

判例最高裁判所決定・平成15年11月26日(刑集57巻10号1057頁)

韓国の裁判所の公判調書を321条1項3号の書面として是認した判旨 同人の上記供述は、自らの意思で任意に供述できるよう手続的保障がされている大韓民国の法令にのっとり、同国の裁判官、検察官及び弁護人が在廷する公開の法廷において、質問に対し陳述を拒否することができる旨告げられた上でされたというものである。このようにして作成された本件公判調書は、特に信用すべき情況の下にされた供述を録取したものであることが優に認められるから、刑訴法321条1項3号により本件公判調書の証拠能力を認めた原判決の判断は正当として是認することができる。

米国の宣誓供述書の決定と、韓国の公判調書の決定は、どちらも3号の絶対的特信情況を、直接認定しています。手続的な保障が整った書面だった、という点が共通します。裁判官、検察官、弁護人が在廷する公開の法廷。公証人の面前で、偽証罪の制裁の下。どちらも、中立的な人の前で、制裁や保障の下に、供述がされています。先ほどの最高裁の判決は、違います。中国の捜査官が取り調べた供述調書で、特信情況という言葉は出ず、許容性に関する説示でした。同じ国外書面でも、作成主体の手続的保障は、米国や韓国の例ほど厚くありません。だから、日本側の要請や、告知、強制の形跡といった、具体的事情が、前に出ます。

ロッキード事件と、日本の刑訴法

2段構えの板。1段目は3号の3要件、2段目は日本の刑訴法全体の枠に照らした許容性。国際司法共助で得た証拠でも日本の刑訴法等で決まる、刑事免責に当たる約束の下で得た嘱託尋問調書は証拠能力なし 図:2段構えの板

  • 1段目は3号の3要件、2段目は日本の刑訴法全体の枠に照らした許容性
  • 国際司法共助で得た証拠でも日本の刑訴法等で決まる、刑事免責に当たる約束の下で得た嘱託尋問調書は証拠能力なし

最後に、捜査の章の、刑事免責を見た回で扱ったロッキード事件を、今日の角度から見直します。外国にいる証人を、日本の裁判所が現地の裁判所に頼んで、尋問してもらいました。裁判所どうしのこの頼み合いを、国際司法共助と言います。捜査機関どうしの捜査共助とは、頼む側が違います。その嘱託証人尋問の調書です。特徴は、作成の経緯です。検事総長らが、証人たちに、将来にわたって起訴しない、と確約して、証言を得ていました。証言と引き換えに、自分の刑事責任を問わない。これは、刑事免責に当たる約束です。詳しくは、その回で見ました。ここで確認したいのは、1点だけです。大法廷は、この調書の証拠能力を否定しました。理由の中心は、こうです。国際司法共助によって獲得された証拠であっても、日本の刑事裁判で事実認定の証拠にできるかどうかは、「我が国の刑訴法等の関係法令にのっとって決せられるべきもの」である。日本の刑訴法は、当時、刑事免責の制度を採用していなかった。だから、共助で得られた証拠でも、事実認定の証拠にすることは許されない。なぜ、明文が要るのか。その回で見たとおり、免責を採るかどうかは、公正さや国民の法感情を慎重に考えて決めることで、採るなら明文で定めるべきだ、というのが大法廷の考え方でした。

今日の話と、どうつながりますか。2段構えです。1段目は、3号の3要件です。2段目は、日本の刑訴法全体の枠に照らした許容性です。ロッキード事件で、大法廷が理由にしたのは、証言が信用できるかどうかではありません。日本の刑訴法が採っていない約束の下で得た、という得られ方でした。信用できるかを見る3号の要件とは、別の関門です。外国で得られたから、3号の要件だけで決まるのではありません。大法廷は、3号の要件とは別に、刑訴法全体の精神に照らして、事実認定の証拠にすることが許されるかを問いました。そして、日本の刑訴法が採っていない刑事免責を与えて得た供述は、共助で得たものでも許されない、としました。先ほど判旨の読み方で出てきた許容性と、同じ筋です。

今日の地図(保存版)

今日の内容を1枚に整理した保存版のまとめ板。国外書面の判断の型としてどの号かから供述不能、不可欠性、絶対的特信情況、許容性の順、短答の落とし穴の整理 図:今日の内容を1枚に整理した保存版のまとめ板

まとめます。国外書面の判断は、5ステップです。1つ目。どの号か。外国の捜査官、公証人、外国の裁判所が作った書面は、裁判官でも検察官でもないので、3号です。2つ目。供述不能。国外にいることで満たします。3つ目。不可欠性。犯罪事実の存否の証明に、欠くことができないか。4つ目。絶対的特信情況。手続的な保障の厚さと、日本側の関与、黙秘権の告知、強制の形跡の有無などの、具体的事実関係から見ます。5つ目。許容性。供述の自由が害されていないかを、日本の刑訴法の枠で確認します。ただ、これは3号とは別の関門です。場面3のように、許容性が否定されれば、2つ目から4つ目を満たしていても、証拠にはできません。短答の落とし穴を、○×で言います。外国の捜査官が作成した書面は、1号か2号の書面に当たる。これは×です。3号です。外国で黙秘権の告知が無ければ、常に証拠能力が無い。これも×です。判例は、事例判断です。国際司法共助で得た証拠は、外国の法に従っていれば、日本の刑訴法と関係なく証拠にできる、も×です。日本の刑訴法等で決まります。米国の宣誓供述書と、韓国の公判調書は、どちらも3号の絶対的特信情況を直接認めた例です。

今日の1問の答えは、こうですね。外国で作られた供述録取書は3号の書面で、国外にいることで供述不能は満たす。残りは、不可欠性と絶対的特信情況で、具体的事実関係を見て決める。ただし、日本の刑訴法が採っていない刑事免責で得た供述のように、刑訴法全体の精神に照らして許されない証拠は、使えない。

参照条文

  • 刑事訴訟法第321条第1項

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