刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#120

犯行・被害の再現写真と私人作成の報告書

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第5章 証拠法 ⑬/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

警察署の廊下で被害者が犯人役の警察官を相手にバッグを引かれた姿勢を再現し、その写真9枚と、被害者の言葉を書き取った説明文が調書に貼られている。作った警察官が法廷で「正確に書きました」と証言すれば、この写真でひったくりそのものを証明できるのかを問う導入板

  • 警察署の廊下で被害者が犯人役の警察官を相手にバッグを引かれた姿勢を再現し、その写真9枚と、被害者の言葉を書き取った説明文が調書に貼られている
  • 作った警察官が法廷で「正確に書きました」と証言すれば、この写真でひったくりそのものを証明できるのかを問う導入板

前回の最後に、予告を2つしました。1つは、一般の人が作った見分の書面の扱いです。もう1つは、犯行や被害の再現と、その写真です。今日は、この2つを、両方とも回収します。先に、答えを言います。警察官の証言で保証されるのは、警察官が見て書いた部分だけです。ひったくりが本当にあったことは、Fが体で語った内容です。だから、Fの供述として、別の条文の要件が要ります。今日の軸は、2本です。前半は、何を証明するのかで、誰の記憶を信じることになるのかが変わる。後半は、誰が作った書面かで、乗れる条文が変わる。どちらも、321条3項がどこまで届くか、という外縁の話です。

3項の確認と、今日使う前提

321条3項の確認板。検察官・検察事務官・司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、作成者が公判期日に証人として真正作成を供述すれば入る。供述不能も特信情況も署名押印も要らない。呼び戻し2点として、機械が写した現場写真は非供述証拠、立証趣旨が再現状況でも実質の要証事実は再現どおりの犯罪事実の存在、を並べる 図:321条3項の確認板

  • 検察官・検察事務官・司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、作成者が公判期日に証人として真正作成を供述すれば入る
  • 供述不能も特信情況も署名押印も要らない
  • 呼び戻し2点として、機械が写した現場写真は非供述証拠、立証趣旨が再現状況でも実質の要証事実は再現どおりの犯罪事実の存在、を並べる

前回の条文を、もう一度出します。

条文刑事訴訟法第321条第3項

刑事訴訟法第321条第3項 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。

前に見たとおりです。捜査機関が、物の状態を見て書いた書面は、作った本人が法廷で、真正に作成したと供述すれば入ります。供述不能も、特信情況も、署名押印も、要りません。実況見分調書も、同じ3項です。今日は、前に見た2つのことを、使います。1つ目。機械が写しただけの現場写真は、非供述証拠でした。人の知覚や記憶が入っていないからです。

判例最高裁判所第二小法廷決定・平成17年9月27日(刑集59巻7号753頁)

立証趣旨が再現状況でも、実質の要証事実は再現どおりの犯罪事実の存在 立証趣旨が「被害再現状況」,「犯行再現状況」とされていても,実質においては,再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になるものと解される。

2つ目が、この決定です。立証趣旨に再現状況と書いてあっても、実質は、再現どおりの犯罪事実があったことを証明するために使う。これは、要証事実の回で見ました。要証事実とは、この証拠で何を証明するのか、でした。今日の本体は、その次です。それなら、何の要件が要るのか。

再現写真は誰の供述か

現場写真と再現写真の対比板。無人の廊下の壁の傷を撮った現場写真は機械が写すだけで非供述証拠。人に動作を再現させた写真は、再現者が動作で語った内容を写したもので供述証拠。確かめる順番は供述証拠か、伝聞か、例外か、署名押印は要るか 図:現場写真と再現写真の対比板

  • 無人の廊下の壁の傷を撮った現場写真は機械が写すだけで非供述証拠
  • 人に動作を再現させた写真は、再現者が動作で語った内容を写したもので供述証拠
  • 確かめる順番は供述証拠か、伝聞か、例外か、署名押印は要るか

写真は、機械が撮るものですよね。前に、現場写真は非供述証拠と聞きました。再現した写真も、機械が写すだけなら、非供述証拠ではないのですか。大事な疑問です。機械が正確なのは、写す段だけです。写された中身は、別の段の話です。たとえば、身振り手振りで、道案内をしている人を、動画に撮ったとします。動画は、正確に動きを記録します。でも、その道が本当にそうなっているかは、案内した人の記憶しだいです。案内した人の記憶違いなら、動画がどれだけ鮮明でも、道の証明にはなりません。再現写真も、同じです。Fが、犯人役の警察官にバッグを引かれた姿勢を取る。これは、「私は、こう引かれた」と、言葉の代わりに、体で語っているのと同じです。これを、体による供述と考えます。言葉でなく、動作で語る供述です。対比です。無人の廊下の壁の傷を写した写真は、機械が写すだけで、人の記憶が入りません。非供述証拠です。Fが、引かれた姿勢を取っている写真は、Fの知覚、記憶、表現、叙述が、中身に入っています。供述証拠です。ここで、前に使った問いで確かめます。Fの再現が、仮に嘘だったら、この写真は、ひったくりの証明として、値打ちが残るでしょうか。

残りません。Fの再現が本当かどうかに、全部がかかっています。法廷の外でされたその再現を、再現どおりの犯罪事実が本当にあったことの証明に使うなら、伝聞です。中身が本当かに全部がかかっているのに、法廷で、Fに反対尋問をして確かめることができないからです。調書の中に、供述録取書が入っている状況と、同じです。だから、確かめる順番は、同じです。供述証拠か。伝聞か。例外に当たるか。そして、署名押印は要るか。この順番で、続けます。

再現写真に何の要件が要るのか

判例の要件の整理板。同意がないとき、3項の要件は当然に必要で、そのうえで再現者の供述の録取部分と写真は、再現者が被告人以外なら321条1項2号または3号、被告人なら322条1項の要件を満たす必要がある。号は録取した相手で決まる 図:判例の要件の整理板

  • 同意がないとき、3項の要件は当然に必要で、そのうえで再現者の供述の録取部分と写真は、再現者が被告人以外なら321条1項2号または3号、被告人なら322条1項の要件を満たす必要がある
  • 号は録取した相手で決まる

最高裁の決定を、読みます。

判例最高裁判所第二小法廷決定・平成17年9月27日(刑集59巻7号753頁)

再現調書・再現写真に必要な要件 このような内容の実況見分調書や写真撮影報告書等の証拠能力については,刑訴法326条の同意が得られない場合には,同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより,再現者の供述の録取部分及び写真については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の,被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要があるというべきである。もっとも,写真については,撮影,現像等の記録の過程が機械的操作によってなされることから前記各要件のうち再現者の署名押印は不要と解される。

3つに分けて読みます。1つ目。弁護人が同意しないとき、つまり326条の同意がないとき、3項の要件は、もとより必要です。2つ目。再現者の供述を書き取った部分と、写真は、再現者が誰かで、要件が決まります。再現者が、被告人以外の者なら、321条1項の2号か3号です。被告人なら、322条1項です。最後の3つ目は、次の節で見ます。写真は、署名押印が要りません。録取した相手で決まります。321条1項の軸と、同じです。1号は裁判官の面前、2号は検察官の面前、3号はその2つ以外、つまり警察官や私人の面前でした。再現を、検察官の前でしたなら2号。警察官の前でしたなら、3号です。設例Xの、警察署の廊下で、警察官を相手にしたFの再現は、3号です。

条文刑事訴訟法第321条第1項

刑事訴訟法第321条第1項(柱書・第3号) 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。 三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。ただし、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。

3号の要件は、前に見たとおりです。供述不能。犯罪事実の存否の証明に欠くことができないこと。そして、特に信用すべき情況。この3つが、そろう必要があります。被告人の再現なら、こちらです。

条文刑事訴訟法第322条第1項

刑事訴訟法第322条第1項 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第三百十九条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。

被告人に不利益な事実を、認める内容であること。または、特に信用すべき情況のもとでされたこと。認める内容の書面は、さらに、任意にされていることが要ります。自白でなくても、承認で足りる点は、前に見たとおりです。設例Xで、被告人のNが、犯人の動作を再現していれば、この条文で見ます。ここまでを、規範としてまとめます。

⭐ 論文で書く規範:再現者の属性で、必要な要件が決まる 再現の調書と写真は | 同意がなければ、まず3項の要件 | そのうえで、再現者の供述の録取部分と写真は、被告人以外なら321条1項2号3号、被告人なら322条1項 | 写真だけ、再現者の署名押印は不要 (規範(判例型・最高裁)——条文の要件ではない。論文で論点になりうる)

問いです。前に見た、1項の号の分け方を思い出してください。被害者のFが、検察官の前で、同じ再現をして、写真を撮られたとします。この写真に必要な要件は、1項の何号でしょうか?検察官の面前なので、2号です。号を決めるのは、誰が被害者か、ではなく、誰の前で再現したか、です。

写真に署名押印が要らない理由

説明文と写真の対比板。再現者の言葉を警察官が書き取った説明文は、人の手を通るので署名押印が要る。写真は撮影、現像などの記録の過程が機械的操作なので、再現者の署名押印は不要。ビデオも同じ理屈 図:説明文と写真の対比板

  • 再現者の言葉を警察官が書き取った説明文は、人の手を通るので署名押印が要る
  • 写真は撮影、現像などの記録の過程が機械的操作なので、再現者の署名押印は不要
  • ビデオも同じ理屈

最高裁が理由として書いているのは、1つです。撮影や現像などの記録の過程が、機械的操作によってなされる、という点です。判旨の言葉は、そこまでです。そこから、署名押印の目的に戻って、言い直してみます。前に見たとおり、録取書の署名押印は、録取者の関所の誤りを取り除くためでした。話した本人が、書かれた中身を確かめて、間違いないと認める印です。説明文は、Fの言葉を、警察官が聞いて、書き取った部分です。聞き違いや、書き間違いが入りうる。だから、署名押印が要ります。一方、写真は、Fの動作を、機械が写します。人が書き取る段が、ありません。確かめる相手が、いない。この整理は、判旨の言葉を、署名押印の目的から、言い直したものです。

動作の中身が正確かどうかを確かめるのは、署名押印の役目ではありません。動作の中身は、1項や322条の、別の要件で見ます。署名押印が支えるのは、書き取りの段だけです。ビデオで再現を撮った場合も、同じ理屈です。機械が記録するので、再現者の署名押印は要りません。前に、署名押印の要否を、あとで見ると言った点は、これで回収です。

なぜ3項も重ねて要るのか

1通の再現調書を3つに分ける板。警察官が再現の状況を見て書いた部分は見分の結果として3項。再現者の言葉を書き取った部分は再現者の供述として1項2号3号または322条1項と署名押印。再現写真は同じ要件で署名押印だけ不要 図:1通の再現調書を3つに分ける板

  • 警察官が再現の状況を見て書いた部分は見分の結果として3項
  • 再現者の言葉を書き取った部分は再現者の供述として1項2号3号または322条1項と署名押印
  • 再現写真は同じ要件で署名押印だけ不要

1項や322条の要件を満たせば、再現した人の供述は入るのですよね。それでも、なぜ3項も、重ねて要るのですか。ここは、2つを分けて語ります。判旨は、3項の要件が必要だと言っています。でも、なぜ必要か、その理由は、書いていません。だから、これから言うのは、判旨ではなく、そう整理される、という話です。前回の2つを、思い出してください。1つ目は、立会人の指示説明です。場所を示すだけの現場指示なら3項で足り、話の中身を証明に使う現場供述なら、321条1項などの要件と署名押印が要りました。再現は、この指示説明の延長でした。そして2つ目は、酒酔いの鑑識カードです。観察した欄は3項、聞き取った問答の欄は321条1項3号と、1通の中を部分で分けると、行き先が違いました。再現の調書も、同じ型です。設例Xの調書を、3つに分けます。1つ目。警察官が、再現の状況を見て書いた部分です。撮影した場所は、警察署の廊下。犯人役の警察官と、Fの距離。使った台の高さ。これは、見たものを書いた、見分の結果です。3項の部分です。2つ目。Fの言葉を書き取った説明文です。再現者の供述なので、1項の3号と、署名押印です。そして3つ目。Fの動作を写した写真。これも、再現者の供述なので、同じ要件で、署名押印だけ要りません。だから、2つ目と3つ目を、1項で通しても、1つ目は別です。警察官が見て書いた部分は、警察官が法廷で、真正作成を供述して、初めて入ります。3項の要件は、そのためです。

冒頭の問いの答えは、ここにあります。警察官が支えるのは、1つ目の部分だけです。

物理的に可能かを確かめる再現なら、3項だけ

要証事実で分岐するフローの板。再現調書に対して何を証明するかを問い、再現どおりの犯罪事実なら再現者の供述として1項または322条が重なる。物理的にその体格や距離で可能かなら再現者の知覚と記憶は問題にならず3項だけ。設例X-2は立証趣旨を、Nの腕の長さで走行中の自転車のカゴからバッグを抜けるか、に変える 図:要証事実で分岐するフローの板

  • 再現調書に対して何を証明するかを問い、再現どおりの犯罪事実なら再現者の供述として1項または322条が重なる
  • 物理的にその体格や距離で可能かなら再現者の知覚と記憶は問題にならず3項だけ
  • 設例X-2は立証趣旨を、Nの腕の長さで走行中の自転車のカゴからバッグを抜けるか、に変える

ここで、設例Xの続きです。X-2とします。今度は、被告人のNが、警察署で、犯人の動作を再現したとします。立証趣旨は、Nの腕の長さで、走行中の自転車のカゴから、バッグを抜くことができたか、です。警察官は、Nの腕の長さと、自転車の高さを測って、同じ姿勢を取ってもらった。ここで確かめたいのは、体格と距離と位置関係です。Nが、実際にやったかどうかは、問題にしません。この場合、Nの記憶や、自白は、使いません。Nが嘘をついていても、腕の長さと、カゴの位置の関係は、変わりません。再現者の知覚と記憶の正確さは、問題になりません。この写真は、動作が物理的に可能かを示す物で、見分者の観察を書いた書面です。3項だけで、足ります。

ただし、立証趣旨にそう書いてあれば、それで決まりですか。決まりません。字面ではなく、争点から見ます。同じ調書に、「私は、この位置で、バッグを奪いました」というNの説明文が付いていて、それを使うなら、再現どおりの犯罪事実を使っています。その部分は、再現者の供述として、別の要件が要ります。境界のペアで言います。腕を伸ばすと、カゴに届く。これは、体格の確認です。Nが、実際にここで奪った。これは、再現どおりの犯罪事実です。見分けは、Nの記憶を使うかどうか、です。ここも、最高裁の判旨と整理を、分けます。判旨は、その事案の再現を、再現どおりの犯罪事実が要証事実になる、と見ました。物理的な可能性の確認なら3項だけ、というのは、前回の最後に触れた点を深めた、学説や実務の整理です。取り違えないでください。

設例Xの当てはめ

設例Xの関係図。被害者Fが動作と説明を警察官に再現し、警察官が写真と調書に記録して裁判所に提出する。Fから警察官への再現と、警察官から裁判所への調書提出の2段 図:設例Xの関係図

  • 被害者Fが動作と説明を警察官に再現し、警察官が写真と調書に記録して裁判所に提出する
  • Fから警察官への再現と、警察官から裁判所への調書提出の2段

設例Xを、手順で当てはめます。1つ目、何のために使うのか。2つ目、誰の供述か。3つ目、どの要件か。設例Xには、もう1つ再現があります。被告人のNも、警察署で、犯人の動作を再現しました。その写真7枚と、Nの言葉を書き取った説明文があり、こちらも、Nの署名押印はありません。立証趣旨は、再現状況です。争点は、Nがバッグを引いたかどうかです。再現どおりの犯罪事実が、要証事実になります。Fの再現も、Nの再現も、それぞれの供述として見ます。

設例Xの当てはめ表。縦は再現者の被害者Fと被告人N、横は説明文の録取部分と写真。Fの説明文は署名押印がなく不可。Fの写真は署名押印を除く3号の要件を満たさなければ不可。Nの説明文は署名押印がなく不可。Nの写真は任意に再現していれば322条1項で可。3項は警察官が真正作成を供述していれば全部で満たす 図:設例Xの当てはめ表

  • 縦は再現者の被害者Fと被告人N、横は説明文の録取部分と写真
  • Fの説明文は署名押印がなく不可
  • Fの写真は署名押印を除く3号の要件を満たさなければ不可
  • Nの説明文は署名押印がなく不可
  • Nの写真は任意に再現していれば322条1項で可
  • 3項は警察官が真正作成を供述していれば全部で満たす

結論を、4つのマスで言います。Fの説明文は、Fの署名押印がありません。ほかの要件を見るまでもなく、証拠にできません。Nの説明文も、Nの署名押印がないので、同じです。Fの写真9枚は、署名押印を除いた、3号の要件を見ます。供述不能、不可欠性、特信情況です。Fが法廷で証言できるなら、供述不能に当たりません。入りません。Fを証人として呼んで、法廷で聞くことになります。Nの写真7枚は、Nが任意に再現していれば、322条1項です。不利益な事実の承認で、任意性に疑いがなければ、入りえます。署名押印は、写真には要りません。そして、どの部分でも、3項は、前提です。警察官が、法廷で真正作成を供述している必要があります。

決定の当てはめは、こうでした。

判例最高裁判所第二小法廷決定・平成17年9月27日(刑集59巻7号753頁)

再現調書・再現写真の当てはめ 各再現者の供述録取部分については,いずれも再現者の署名押印を欠くため,その余の要件を検討するまでもなく証拠能力を有しない。また,本件写真撮影報告書中の写真は,記録上被告人が任意に犯行再現を行ったと認められるから,証拠能力を有するが,本件実況見分調書中の写真は,署名押印を除く刑訴法321条1項3号所定の要件を満たしていないから,証拠能力を有しない。

設例Xと、同じ型です。録取部分は、署名押印を欠くので不可。被告人が任意に再現した写真は可。被害者の再現写真は、3号の要件を満たさないので不可です。事実は、設例Xで置き換えています。ここまでが、論文で論点になりうる骨格です。

私人が作った書面は、3項に乗れるか

設例Yの関係図。民間の検査会社の技術者Qが、同型のプレス機で安全装置の作動実験をして考察を書いた報告書を、検察官が請求する。依頼者は捜査機関ではない。3項の主語と4項の2本の道で分ける問いを置く 図:設例Yの関係図

  • 民間の検査会社の技術者Qが、同型のプレス機で安全装置の作動実験をして考察を書いた報告書を、検察官が請求する
  • 依頼者は捜査機関ではない
  • 3項の主語と4項の2本の道で分ける問いを置く

後半です。設例Yです。工場のプレス機の、安全装置の不具合で、作業員が負傷しました。被告人のTは、業務上過失致傷で起訴されています。民間の検査会社の技術者のQは、同種の機械の保守と検査に、約20年かかわってきました。Qは、同型のプレス機で、安全装置の作動実験をして、結果と考察を、報告書に書きました。検察官が、この報告書を請求します。弁護人は、不同意です。依頼したのは、捜査機関ではありません。前回見た、鑑定受託者と、混ぜないでください。受託者は、捜査機関が鑑定を頼んだ人で、その鑑定書には、4項が準用されました。

実際に機械を動かして、五感で状態を確かめて書く書面だ、という点は、3項への入口になります。ただ、3項の主語を、もう一度見てください。

条文刑事訴訟法第321条第3項

刑事訴訟法第321条第3項 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。

主語は、検察官、検察事務官、または司法警察職員です。Qは、どれでもありません。壁は、ここです。この列挙を、例示と見て、Qも入れてよいのか。もう1つの入口があります。Qの書面は、専門的な知見にもとづいて、分析と判断を書いたものです。それなら、前回の4項、つまり、鑑定人の鑑定書を、3項と同じく、作成者の真正作成の供述で入れる条文の側に近い、という見方です。2つの入口を、最高裁は、どう分けたのか。

私人の書面は3項不可、4項に準ずる

判例の2段の板。私人作成の書面に3項は準用できない、理由は規定の文言とその趣旨。他方、作成者が特別の学識経験を有し、その学識経験に基づいて実験を行い考察結果を報告し、作成の真正も立証されていれば、4項の書面に準ずるものとして同項により証拠能力を有する 図:判例の2段の板

  • 私人作成の書面に3項は準用できない、理由は規定の文言とその趣旨
  • 他方、作成者が特別の学識経験を有し、その学識経験に基づいて実験を行い考察結果を報告し、作成の真正も立証されていれば、4項の書面に準ずるものとして同項により証拠能力を有する

最高裁の決定は、火災の原因を調べる民間の専門家が、燃焼実験をして書いた報告書の事案です。判旨を、2つのカードで読みます。

判例最高裁判所第二小法廷決定・平成20年8月27日(刑集62巻7号2702頁)

私人作成の書面に3項は準用できない 同項所定の書面の作成主体は「検察官,検察事務官又は司法警察職員」とされているのであり,かかる規定の文言及びその趣旨に照らすならば,本件報告書抄本のような私人作成の書面に同項を準用することはできないと解するのが相当である。

1つ目。ここでいう「同項」は、3項です。3項の主語は、検察官、検察事務官、司法警察職員です。この規定の文言と、その趣旨に照らして、私人作成の書面に、3項を準用することはできない。判旨の理由は、文言とその趣旨まで、です。

判例最高裁判所第二小法廷決定・平成20年8月27日(刑集62巻7号2702頁)

4項の書面に準ずるものとして証拠能力を有する 上記作成者は,火災原因の調査,判定に関して特別の学識経験を有するものであり,本件報告書抄本は,同人が,かかる学識経験に基づいて燃焼実験を行い,その考察結果を報告したものであって,かつ,その作成の真正についても立証されていると認められるから,結局,本件報告書抄本は,同法321条4項の書面に準ずるものとして同項により証拠能力を有するというべきであり

2つ目。3項の準用はできない。でも、4項の書面に準ずるものとして、同項により、証拠能力がある、としました。4項の条文を、確認します。

条文刑事訴訟法第321条第4項

刑事訴訟法第321条第4項 鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。

前項と同様、とは、3項と同じく、作成者が法廷で真正に作成したと供述すれば入る、という意味です。4項に準ずる、と言える要素を、判旨から、3つ取り出します。1つ目。作成者が、特別の学識経験を有する者であること。2つ目。その学識経験にもとづいて、実験や分析をして、考察を書いた書面であること。最後に3つ目。作成の真正が立証されていること。作成者が、法廷で、真正に作成したと供述することです。準用は、前回の鑑定受託者で見たとおり、条文がそのまま当てはまるわけではないけれど、同じ要件で扱う、という意味でした。3項は、私人の書面には、その準用もできない、と言っています。4項のほうは、4項の書面に準ずるもの、つまり、4項の鑑定書と性質が同じだから、同項で扱う、という言い方です。設例Yで当てはめます。Qは、約20年、機械の保守と検査にかかわってきた。特別の学識経験があります。Qの報告書は、その経験にもとづいて、安全装置の作動実験をして、考察を書いたものです。あとは、Qが法廷で、真正に作成したと供述すれば、4項に準ずるものとして、入ります。

同僚のメモは、4項には準じません。同僚には、機械の検査の学識経験がなく、実験や分析もしていません。見たことを書いただけです。Qとの差は、専門知見にもとづく分析かどうか、の1点です。

⭐ 論文で書く規範:私人の書面は、3項は不可・4項に準ずる 私人作成の書面は | 3項は準用できない(主語は捜査機関) | 特別の学識経験を有する者が、その学識経験にもとづく実験や分析を報告し、作成の真正が立証されれば、4項に準ずる (規範(判例型・最高裁)——条文の要件ではない。論文で論点になりうる)

なぜ主語で分けるのか、地図に1行足す

3項と4項の担保の違いの比較板。3項は作成者が捜査機関を構成する公務員で、捜査という業務として検証した、つまり身分と業務で信用性を支える。4項は作成者が専門家で、専門知見にもとづいて客観的に分析・判断した、つまり専門性で信用性を支える。判旨は文言及びその趣旨までで、この対比は整理 図:3項と4項の担保の違いの比較板

  • 3項は作成者が捜査機関を構成する公務員で、捜査という業務として検証した、つまり身分と業務で信用性を支える
  • 4項は作成者が専門家で、専門知見にもとづいて客観的に分析・判断した、つまり専門性で信用性を支える
  • 判旨は文言及びその趣旨までで、この対比は整理

ここも、判旨と整理を分けます。判旨に書かれているのは、文言とその趣旨まで、です。これから言う対比は、そう整理される、という話です。3項の書面は、捜査を職務とする公務員が、職務として見て書いたものです。だから信用できる、と整理されます。4項の書面は、専門家が、専門の知識で調べて書いたものです。だから信用できる、と整理されます。ここからも、そう整理されます。私人でも、特別の学識経験とその知見にもとづく分析なら、4項に乗ります。一方、さっきの同僚のメモのように、五感で見ただけの私人の書面は、3項の主語の外にあり、専門性の裏づけもないので、3項にも4項にも乗りません。残るのは、前半で見た321条1項3号です。被告人以外の者が作成した供述書として、供述不能などの要件を見ます。

Qの書面は、3項では使えません。4項に準ずるものとして請求し、Qを証人として尋問して、真正作成を供述してもらう。それが、道筋です。

作成者の全体地図。裁判所の検証調書は2項で無条件、捜査機関の検証調書と実況見分調書は3項で作成者の真正作成供述、鑑定人と鑑定受託者の鑑定書は4項と準用、新しい1行として専門知見を持つ私人の実験・分析の報告書は4項に準ずる、を並べる 図:作成者の全体地図

前回の地図に、新しい1行を足します。裁判所、捜査機関、鑑定人、鑑定受託者の次に、専門知見を持つ私人の、実験や分析の報告書。4項に準ずる、です。作成者が変わるたびに、乗れる条が変わる。前回の軸の、延長です。

周辺の短答知識

周辺の短答知識の板。税関職員が犯則事件の調査で作った写真撮影報告書は、捜査に類似する性質を有するので、検証の結果を記載した書面と性質が同じなら3項書面に含まれうる。同じ判決で、差押調書は検証と性質が異なり3項書面に含まれない。4項に準ずるとされた書面の例は、ポリグラフ検査書、声紋鑑定書、事故調査報告書。臭気選別報告書は3項。出典は東京高裁平成26年3月13日判決 図:周辺の短答知識の板

  • 税関職員が犯則事件の調査で作った写真撮影報告書は、捜査に類似する性質を有するので、検証の結果を記載した書面と性質が同じなら3項書面に含まれうる
  • 同じ判決で、差押調書は検証と性質が異なり3項書面に含まれない
  • 4項に準ずるとされた書面の例は、ポリグラフ検査書、声紋鑑定書、事故調査報告書
  • 臭気選別報告書は3項
  • 出典は東京高裁平成26年3月13日判決

最後に、短答の知識です。2つだけです。1つ目。税関職員が、犯則事件、つまり関税法に違反した疑いのある事件の調査で作った、写真撮影報告書です。税関職員の調査は、検察官などが行う、犯罪の捜査に類似する性質を持ちます。だから、検証の結果を記載した書面と、性質が同じと認められる限り、3項の書面に含まれうる、とされました。同じ判決は、差押えの調書は、物を押さえた手続を記録したもので、物の状態を五感で確かめる検証とは性質が異なるので、3項の書面に含まれないとしました。2つ目。4項に準ずるものとして扱われてきた書面の例です。ポリグラフ検査書。声紋鑑定書。事故調査報告書です。ポリグラフは、前に、同意があった回答書の決定を見て、同意がないときの扱いは別の回で、と言いました。同意がなければ、この4項の道で見ます。一方、臭気選別の報告書は、4項ではなく、3項でした。立ち会った警察官が、犬の選んだ経過と結果を、見て記録した書面だからです。取り違えやすい点です。

今日の地図(保存版)

今日の保存版の板。再現の調書は3項に加えて再現者の属性で1項2号3号または322条1項、写真は署名押印のみ不要、物理的可能性の確認なら3項だけ。私人の書面は3項不可、特別の学識経験にもとづく実験や分析の報告なら4項に準ずる、見ただけのメモは1項3号、捜査を職務とする公務員と専門家の対比、作成者の地図の新しい1行 図:今日の保存版の板

  • 再現の調書は3項に加えて再現者の属性で1項2号3号または322条1項、写真は署名押印のみ不要、物理的可能性の確認なら3項だけ
  • 私人の書面は3項不可、特別の学識経験にもとづく実験や分析の報告なら4項に準ずる、見ただけのメモは1項3号、捜査を職務とする公務員と専門家の対比、作成者の地図の新しい1行

まとめます。再現の調書は、3項に加えて、再現者の属性で、321条1項2号3号か、322条1項が要ります。写真は、署名押印だけ要りません。再現の目的が、物理的な可能性の確認なら、3項だけです。私人の書面は、3項に乗りません。専門知見にもとづく分析なら、4項に準ずる、です。短答の落とし穴を、○×で言います。再現写真は、立証趣旨が再現状況なら、3項だけで足りる。×です。実質の要証事実を見ます。再現者の署名押印は、写真にも要る。×です。写真は、機械的操作なので、不要です。被害者が再現した写真は、322条1項で入る。×です。被告人以外なので、321条1項、検察官の面前なら2号、警察官の面前なら3号です。私人作成の書面にも、3項が準用される。×です。特別の学識経験にもとづく実験や分析の報告なら、4項に準ずる書面として見ます。見ただけのメモなら、321条1項3号です。税関職員の写真撮影報告書は、3項に含まれうる。○です。

冒頭の問いの答えは、こうですね。警察官が正確に書きましたと証言すれば、写した状況の部分は3項で入る。でも、ひったくりが本当にあったことは、再現した人の供述なので、別の要件が要る。次は、採用されなかった再現写真を、法廷の証人尋問でどう使えるかを見ます。

参照条文

  • 刑事訴訟法第321条第3項
  • 刑事訴訟法第321条第1項
  • 刑事訴訟法第322条第1項
  • 刑事訴訟法第321条第4項

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