刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#121

公判廷での再現写真の提示と調書への添付

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第5章 証拠法 ⑬/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

夜の繁華街の路地での傷害事件で、被害者が証言台で相手の体勢を言葉と身振りで説明しているが、聞く側には高さや向きが伝わりにくい。検察官の手元には警察署で撮った再現写真6枚があるが、弁護人の不同意で採用されていない。この写真を今ここで証人に見せてよいのかを問う導入板

  • 夜の繁華街の路地での傷害事件で、被害者が証言台で相手の体勢を言葉と身振りで説明しているが、聞く側には高さや向きが伝わりにくい
  • 検察官の手元には警察署で撮った再現写真6枚があるが、弁護人の不同意で採用されていない
  • この写真を今ここで証人に見せてよいのかを問う導入板

前回の最後に、予告しました。採用されなかった再現写真を、法廷の証人尋問でどう使えるか。今日は、その回収です。この設例を、設例Zと呼びます。前回の結論を、思い出します。再現の調書や写真は、実質の要証事実が再現どおりの犯罪事実なら、再現者の供述として見ます。321条3項に加えて、被害者の再現なら、321条1項の2号か3号が要りました。被害者の再現写真は、3号の供述不能などの要件を満たさないと、入りません。今回の路地の写真も、その要件を満たせず、採用されなかった、という前提です。先に答えを言います。証拠としては、入りません。でも、証言を分かりやすくする道具としてなら、条件つきで使えます。そこで、今日の問いです。採用されていない写真を、証人に見せて話させ、その写真を記録に綴じたら、伝聞の規定を、すり抜けたことになりませんか。答えは、なりません。その理由が、今日の軸です。

おさらい:証人に書面や物を示す3つの場面

証人に書面や物を示す3場面の対比板。成立や同一性の確認は規則199条の10で許可不要、記憶喚起は規則199条の11で許可が要り供述録取書は不可、供述の明確化は規則199条の12で許可が要る。今日の主役は3つ目で、まだ証拠調べを終えていないものは相手方に閲覧の機会を与える(異議がなければ不要) 図:証人に書面や物を示す3場面の対比板

  • 成立や同一性の確認は規則199条の10で許可不要、記憶喚起は規則199条の11で許可が要り供述録取書は不可、供述の明確化は規則199条の12で許可が要る
  • 今日の主役は3つ目で、まだ証拠調べを終えていないものは相手方に閲覧の機会を与える(異議がなければ不要)

まず、証人に書面や物を見せる場面を、思い出します。前に、3つの場面に分けて見ました。1つ目は、成立や同一性の確認です。成立とは、この書面は誰が書いたのか。同一性とは、これは同じ物か。たとえば、目の前の調書の署名が、本人のものかどうかを確認する場面です。この場面は、裁判長の許可が要りません。規則199条の10です。2つ目は、記憶の喚起です。証人の記憶が明らかでない事項について、思い出す手がかりを与えるために見せます。こちらも、裁判長の許可が要ります。しかも、供述を録取した書面は、見せられません。規則は、199条の11です。そして3つ目が、供述の明確化です。証人の供述を明確にするために、図面、写真、模型などを使って尋問する。これも、裁判長の許可が要ります。規則199条の12。今日の主役は、この3つ目です。

見せる物が、証言の中身に入り込むかどうか、の違いです。署名が本人のものかを確かめるのは、物そのものについて聞くだけで、証人の記憶の中身には触れません。記憶の喚起や明確化では、見せた物が、証人に答えを教えてしまうおそれがあります。だから、裁判長が先に、見せてよいかを判断します。供述を録取した書面がだめなのも、前に話した言葉を、なぞらせてしまうからでした。相手方への配慮は、あります。まだ証拠調べを終えていない書面や物を示すときは、あらかじめ相手方に、閲覧の機会を与えます。ただし、相手方に異議がなければ、不要です。この閲覧の規定を、3つ目の場面も準用しています。条文は、この後で読みます。

要件を満たせないとき、残る道は証人尋問

設例Zの図。再現写真は不同意で採用されず、証拠としては法廷に入らない。一方、被害者本人が法廷で証言すれば、被害の状況は証拠になる。ただし言葉だけでは動作や位置関係が伝わりにくい、という困りごとを示す板 図:設例Zの図

  • 再現写真は不同意で採用されず、証拠としては法廷に入らない
  • 一方、被害者本人が法廷で証言すれば、被害の状況は証拠になる
  • ただし言葉だけでは動作や位置関係が伝わりにくい、という困りごとを示す板

法廷に出す道は、残っています。被害者本人を証人として呼べば、法廷で、直接証言してもらえます。公判廷での証言は、伝聞になりません。宣誓をさせ、反対尋問で問いただし、裁判官が話しぶりを見られるからです。伝聞として締め出すのは、こうした確かめが働かない、法廷の外の供述でした。被害の状況は、その証言で、証拠になります。ただ、困りごとがあります。設例Zの被害者は、「このくらいの高さから」と、手を宙に上げて説明していました。聞いている裁判官は、その高さを、頭の中で思い描くしかありません。地図に例えます。道案内で、言葉だけだと迷う所に、補助線を1本引く。それで、話が通じやすくなります。法廷でも、言葉で伝わりにくい所に、写真という補助線を引けないか。これが、規則199条の12の発想です。補助線は、道を説明するための道具です。補助線そのものが、道の証拠になるわけではありません。この違いが、今日の全部につながります。

規則199条の12:証言を明確にするための提示

規則199条の12の条文を3つに分けて示す板。目的は証人の供述を明確にするため必要があること、手続は裁判長の許可を受けること、対象は図面、写真、模型、装置等。2項は証拠調べを終えていないものを示すときの閲覧の機会の準用 図:規則199条の12の条文を3つに分けて示す板

  • 目的は証人の供述を明確にするため必要があること、手続は裁判長の許可を受けること、対象は図面、写真、模型、装置等
  • 2項は証拠調べを終えていないものを示すときの閲覧の機会の準用

条文を、読みます。

条文刑事訴訟規則第199条の12

刑事訴訟規則第199条の12 訴訟関係人は、証人の供述を明確にするため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、図面、写真、模型、装置等を利用して尋問することができる。 前項の場合には、第百九十九条の十第二項の規定を準用する。

3つに分けて読みます。1つ目。目的は、証人の供述を明確にするため、です。供述の代わりをさせるためではありません。供述が、先にあります。2つ目。裁判長の許可を受けます。許可なしには、できません。3つ目。対象は、図面、写真、模型、装置等です。2項は、さっきの閲覧の機会です。第百九十九条の十第二項を準用しています。証拠調べを終えていない物を示すなら、相手方に見る機会を与える。異議がなければ、不要です。次の決定が、この問いに答えます。最高裁は、採用されていない被害再現写真について、規則199条の12を根拠に示して尋問することを許可しても違法でない、としました。

提示を許可してよい場合:被害再現写真の決定

被害再現写真の提示を許可した決定の板。強制わいせつ事件で被害者の証人尋問中に検察官が捜査段階の被害再現写真を示す許可を求め、第1審の裁判官が許可した。最高裁は許可に違法はないとした。判旨が挙げた事情は、供述が十分にされた後、供述を明確化するため、示す写真が既にされた供述と同趣旨の3つ 図:被害再現写真の提示を許可した決定の板

  • 強制わいせつ事件で被害者の証人尋問中に検察官が捜査段階の被害再現写真を示す許可を求め、第1審の裁判官が許可した
  • 最高裁は許可に違法はないとした
  • 判旨が挙げた事情は、供述が十分にされた後、供述を明確化するため、示す写真が既にされた供述と同趣旨の3つ

事案の骨子です。強制わいせつの事件で、被害者の証人尋問の途中に、検察官が、捜査段階で作られた被害再現写真を示す許可を求めました。第1審の裁判官が、許可しました。最高裁は、この許可は違法でない、と判断しました。理由の部分を、読みます。

判例最高裁判所第一小法廷決定・平成23年9月14日(刑集65巻6号949頁)

被害再現写真を示して尋問することの許可 本件において,検察官は,証人(被害者)から被害状況等に関する具体的な供述が十分にされた後に,その供述を明確化するために証人が過去に被害状況等を再現した被害再現写真を示そうとしており,示す予定の被害再現写真の内容は既にされた供述と同趣旨のものであったと認められ,これらの事情によれば,被害再現写真を示すことは供述内容を視覚的に明確化するためであって,証人に不当な影響を与えるものであったとはいえないから,第1審裁判所が,刑訴規則199条の12を根拠に被害再現写真を示して尋問することを許可したことに違法はない。

判旨が挙げた事情を、3つに分けて見ます。まず、証人から、被害状況等に関する具体的な供述が、十分にされた後であること。次に、その供述を、明確化するために示すこと。最後に、示す予定の写真の内容が、既にされた供述と同趣旨であること。この3つで、何が言えるのか。判旨は、視覚的に明確化するためであって、証人に不当な影響を与えるものとはいえない、と結びました。3つの事情を要件と読むのは、取り違えやすい所です。判旨は、これらの事情によれば、と書いています。つまり、本件で許可が適法といえる理由として、3つの事情を挙げているのです。3つを、限定列挙の要件だ、とは書いていません。論文では、判旨が挙げた事情として、使います。

判旨が挙げた3つの事情。供述が十分にされた後、その供述を明確化するために、示す写真の内容は既にされた供述と同趣旨。判旨は、これらの事情によれば、視覚的に明確化するためで不当な影響を与えるものとはいえない、とした 図:判旨が挙げた3つの事情

  • 供述が十分にされた後、その供述を明確化するために、示す写真の内容は既にされた供述と同趣旨
  • 判旨は、これらの事情によれば、視覚的に明確化するためで不当な影響を与えるものとはいえない、とした

判旨の言葉は、そこまでです。なぜ不当な影響とはいえないのか、理由を補って説明します。すでに話した内容と同じ写真を、話した後に示すだけなので、写真が新しい記憶を作る心配は小さい。写真が、証人の記憶を上書きしない使い方になっている、と説明できます。設例Zに当てはめます。被害者は、肩を左手で押さえられ、右の拳を振り下ろされたことを、十分に証言しました。そのあとで、検察官が、同じ体勢を写した写真を示して、証言を明確にしたい、と許可を求めます。十分に証言した後。明確にするため。同趣旨の写真。この3つの事情があり、裁判長が許可するので、示してよい、という結論です。

⭐ 論文で書く規範:提示の許可が適法とされた理由 被害状況の具体的な供述が十分にされた後 | その供述を明確化するために示す | 示す写真の内容は既にされた供述と同趣旨 | → 視覚的な明確化で、証人に不当な影響を与えるものではない (規範(判例型・最高裁)——判旨が挙げた事情。限定列挙の要件とは書かれていない。論文で論点になりうる)

示す時機や中身を誤ると:判旨と整理を分ける

判旨と整理の対比板。左は判旨が書いたこととして、本件で許可が適法な理由まで。右は整理として、供述の前に示すと写真が証人の記憶や証言に影響しうる、証言と食い違う写真は明確化でなく新しい内容を持ち込む、規則199条の11第2項の不当な影響への注意と同じ発想。設例Z-2とZ-3 図:判旨と整理の対比板

  • 左は判旨が書いたこととして、本件で許可が適法な理由まで
  • 右は整理として、供述の前に示すと写真が証人の記憶や証言に影響しうる、証言と食い違う写真は明確化でなく新しい内容を持ち込む、規則199条の11第2項の不当な影響への注意と同じ発想
  • 設例Z-2とZ-3

ここで、判旨と整理を、分けて話します。判旨が書いたのは、本件で許可が適法といえる理由まで、でした。これから言うのは、判旨ではなく、そう整理される、という話です。設例Z-2です。同じ事案で、被害者が、「よく思い出せません」と言った段階で、検察官が写真を示そうとします。具体的な供述が、まだありません。思い出す前に写真を見せるのは、危ないのです。写真を見た被害者は、写真の体勢を、自分の記憶だと思い込むかもしれません。そうなると、写真が、証人の記憶や証言の内容に影響します。不当な影響のおそれがある、と整理されます。記憶を思い出すための手がかりなら、別の規則があります。規則199条の11です。ただし、その2項も、書面の内容が証人の供述に不当な影響を及ぼすことのないように注意しなければならない、と定めています。設例Z-3です。写真の1枚に、被害者が証言していない体勢が写っています。相手が両手で首元をつかむ体勢です。この写真を示すと、供述を明確にするのではなく、新しい内容を、法廷に持ち込むことになります。明確化とはいえない、と整理されます。つながりを、まとめます。記憶を喚起するときの注意と、明確化するときの注意は、同じ発想です。証人自身の記憶で語ってもらう。写真に語らせない。論文では、不当な影響を与えるか、という物差しで書きます。

規則49条:調書への添付と、同意は要らない理由

規則49条の条文と、添付の位置づけの板。示した写真を証人尋問調書の末尾に綴じて調書の一部にすることができる。最高裁は、証言の経過と内容を明らかにするための適切な措置で、独立した証拠として扱う趣旨でないから当事者の同意は不要とした。同意は326条の同意(証拠能力を与える同意)とは別 図:規則49条の条文と、添付の位置づけの板

  • 示した写真を証人尋問調書の末尾に綴じて調書の一部にすることができる
  • 最高裁は、証言の経過と内容を明らかにするための適切な措置で、独立した証拠として扱う趣旨でないから当事者の同意は不要とした
  • 同意は326条の同意(証拠能力を与える同意)とは別

次の問いです。示した写真を、記録に綴じてよいのか。まず、条文です。

条文刑事訴訟規則第49条

刑事訴訟規則第49条 調書には、書面、写真その他裁判所又は裁判官が適当と認めるものを引用し、訴訟記録に添附して、これを調書の一部とすることができる。

添付とは、記録に綴じて、調書の一部にすることです。尋問に使った写真を、証人尋問調書の末尾に綴じる。設例Zなら、6枚の写真が、被害者の証人尋問調書の後ろに付きます。綴じることは、証拠にすることと同じではない。最高裁は、そう判断しました。次のカードです。

判例最高裁判所第一小法廷決定・平成23年9月14日(刑集65巻6号949頁)

示した写真を証人尋問調書に添付すること また,本件証人は,供述の明確化のために被害再現写真を示されたところ,被害状況等に関し具体的に証言した内容がその被害再現写真のとおりである旨供述しており,その証言経過や証言内容によれば,証人に示した被害再現写真を参照することは,証人の証言内容を的確に把握するために資するところが大きいというべきであるから,第1審裁判所が,証言の経過,内容を明らかにするため,証人に示した写真を刑訴規則49条に基づいて証人尋問調書に添付したことは適切な措置であったというべきである。この措置は,訴訟記録に添付された被害再現写真を独立した証拠として扱う趣旨のものではないから,この措置を決するに当たり,当事者の同意が必要であるとはいえない。

2つに分けて読みます。1つ目。添付は、証言の経過と内容を明らかにするための、適切な措置です。あとで記録を読んだ人が、この証言は、どの写真を見ながらされたのか、を的確に把握できるからです。2つ目。この措置は、添付された写真を、独立した証拠として扱う趣旨ではありません。だから、添付を決めるのに、当事者の同意は要りません。混ぜないでください。326条の同意は、証拠能力を与える同意です。証拠能力とは、法廷で証拠として取り調べるために、法律上必要な資格のことでした。同意は、その資格を与えて、書面を証拠として取り調べるための入口です。今回の添付は、証拠調べではありません。入口を通らないので、326条の出番が、そもそもありません。綴じることと、証拠にすることは、別なのです。

添付された写真は何になるか:引用された限度で証言の一部

設例Zの提示関係図。検察官が裁判長の許可を得て被害者の証人に写真を示し、被害者が証言し、裁判所がその証言で事実を認定する。写真は裁判所へ直接つながらない。写真は引用された部分だけが証言の一部になる 図:設例Zの提示関係図

  • 検察官が裁判長の許可を得て被害者の証人に写真を示し、被害者が証言し、裁判所がその証言で事実を認定する
  • 写真は裁判所へ直接つながらない
  • 写真は引用された部分だけが証言の一部になる

添付した写真は、結局、何になるのか。決定の最後の部分です。

判例最高裁判所第一小法廷決定・平成23年9月14日(刑集65巻6号949頁)

引用された限度での証言の一部と、伝聞証拠規定の潜脱でないこと そして,本件において証人に示した被害再現写真は,独立した証拠として採用されたものではないから,証言内容を離れて写真自体から事実認定を行うことはできないが,本件証人は証人尋問中に示された被害再現写真の内容を実質的に引用しながら上記のとおり証言しているのであって,引用された限度において被害再現写真の内容は証言の一部となっていると認められるから,そのような証言全体を事実認定の用に供することができるというべきである。このことは,被害再現写真を独立した供述証拠として取り扱うものではないから,伝聞証拠に関する刑訴法の規定を潜脱するものではない。

3つに分けて読みます。1つ目。写真は、独立した証拠として採用されたものではないので、証言内容を離れて、写真自体から事実認定を行うことはできません。2つ目。ただし、証人が、示された写真の内容を実質的に引用しながら証言しているなら、引用された限度で、写真の内容は証言の一部になります。3つ目。そのため、証言全体を、事実認定に使えます。証人が、写真を見て、「そうです、この写真のとおりです」と言って、触れた部分、ということです。設例Zで言えば、被害者が、写真を見て、「相手は、こう私の肩を押さえました」と言った部分です。その部分は、被害者自身の証言です。写真は、証言の中に溶けた、と言えます。設例Z-4です。尋問のあと、写真が、証人尋問調書に添付されました。裁判所が、被害者が証言で触れていない写真の部分、たとえば、背景に写っている位置関係から、犯人の体勢を認定しようとします。この認定は、できるでしょうか? できません。その部分は、証言の一部になっていないので、写真自体から認定することになるからです。冒頭の問いに、答えます。綴じても、すり抜けにはなりません。写真を、独立の供述証拠として使っていないからです。事実を認定する材料は、あくまで証言です。写真は、証言のうち、引用された部分を、見える形にしているだけです。事実認定の大原則を、確認します。事実の認定は、証拠による。証言が証拠で、写真は証拠ではない。条文を、読みます。

条文刑事訴訟法第317条

刑事訴訟法第317条 事実の認定は、証拠による。

⭐ 論文で書く規範:添付された写真の位置づけ 添付は証拠調べではない | 写真自体から事実認定はできない | 証言に引用された限度で、写真の内容は証言の一部 | → 証言全体を事実認定に使える。伝聞の規定の潜脱ではない (規範(判例型・最高裁)——論文で論点になりうる)

被告人質問で示した電子メール

被告人質問で示した電子メールの決定の板。詐欺事件で検察官が証拠として取り調べていない電子メールを被告人に示して質問し、公判調書の末尾に添付された。第1審判決はそのメールの存在と記載内容を故意や共謀の認定に使い、原判決は同一性や真正な成立の確認で供述と一体になったと是認した。最高裁は原判断は違法とし、ただし被告人がメールについてした供述やその他の関係証拠で認定でき、違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえない、として棄却。根拠規定は規則199条の10第1項と199条の11第1項で、199条の12ではない 図:被告人質問で示した電子メールの決定の板

  • 詐欺事件で検察官が証拠として取り調べていない電子メールを被告人に示して質問し、公判調書の末尾に添付された
  • 第1審判決はそのメールの存在と記載内容を故意や共謀の認定に使い、原判決は同一性や真正な成立の確認で供述と一体になったと是認した
  • 最高裁は原判断は違法とし、ただし被告人がメールについてした供述やその他の関係証拠で認定でき、違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえない、として棄却
  • 根拠規定は規則199条の10第1項と199条の11第1項で、199条の12ではない

ここまでは、証人尋問でした。同じ線は、被告人質問にも及ぶのか。次の決定を見ます。事案の骨子です。詐欺の事件の、被告人質問でした。検察官が、証拠として取り調べていない電子メール、ほかの人から被告人に宛てたメールを、被告人に示して質問しました。被告人は、そのメールの同一性や、真正な成立を確認しました。メールは、公判調書の末尾に添付されました。第1審判決は、そのメールの存在と記載内容を、被告人の詐欺の故意や、共犯者との共謀の認定に使いました。原判決は、被告人が同一性や真正な成立を確認しているから、メールは供述と一体になった、として是認しました。最高裁は、この原判断を違法としました。

真正な成立とは、その人が本当に作った物か、という意味です。たとえば、書いた人が、このメールは確かに自分が送ったものです、と認める。それが、真正な成立の確認です。同一性は、目の前のメールが、あのとき届いたメールと同じ物か、です。この事案の被告人は、メールの同一性や真正な成立を確認しました。これを根拠に、メールが供述と一体になった、というのが原判決の理屈でした。まず、示した根拠の規定を、見ます。ここは、大事な点です。この事案で、メールを示した根拠は、規則199条の10第1項と、199条の11第1項です。成立や同一性の確認と、記憶の喚起です。明確化の規則199条の12は、使っていません。証人尋問の決定とは、ここが違います。

条文刑事訴訟規則第199条の10

刑事訴訟規則第199条の10 訴訟関係人は、書面又は物に関しその成立、同一性その他これに準ずる事項について証人を尋問する場合において必要があるときは、その書面又は物を示すことができる。 前項の書面又は物が証拠調を終つたものでないときは、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。ただし、相手方に異議がないときは、この限りでない。

根拠規定が異なる理由。証人尋問の決定は規則199条の12を根拠に、被告人質問の決定は規則199条の10と11を根拠にした 図:根拠規定が異なる理由

1項が、成立や同一性を確認するために示せる、という規定です。2項が、証拠調べを終えていないものなら、相手方に閲覧の機会を与える、という規定でした。もう1つの根拠、記憶の喚起の条文も読みます。

条文刑事訴訟規則第199条の11

刑事訴訟規則第199条の11 訴訟関係人は、証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、書面(供述を録取した書面を除く。)又は物を示して尋問することができる。 前項の規定による尋問については、書面の内容が証人の供述に不当な影響を及ぼすことのないように注意しなければならない。 第一項の場合には、前条第二項の規定を準用する。

1項は、記憶を喚起するため、裁判長の許可を受けて示す規定です。供述を録取した書面は、除かれます。2項は、設例Z-2で見た、不当な影響への注意です。3項で、閲覧の機会の規定も準用されます。では、最高裁の判断を、3つのカードで読みます。カードの被告人乙の乙は、事件の符号です。被告人のことです。

添付されたメールの法的地位。公判調書への書面の添付は証拠の取調べではない。引用された限度で供述の一部となる。独立の証拠にはならない 図:添付されたメールの法的地位

  • 公判調書への書面の添付は証拠の取調べではない
  • 引用された限度で供述の一部となる
  • 独立の証拠にはならない

判例最高裁判所第三小法廷決定・平成25年2月26日(刑集67巻2号143頁)

公判調書への書面の添付は証拠の取調べではない 本件電子メールは,刑訴規則199条の10第1項及び199条の11第1項に基づいて被告人乙に示され,その後,同規則49条に基づいて公判調書中の被告人供述調書に添付されたものと解されるが,このような公判調書への書面の添付は,証拠の取調べとして行われるものではなく,これと同視することはできない。したがって,公判調書に添付されたのみで証拠として取り調べられていない書面は,それが証拠能力を有するか否か,それを証人又は被告人に対して示して尋問又は質問をした手続が適法か否か,示された書面につき証人又は被告人がその同一性や真正な成立を確認したか否か,添付につき当事者から異議があったか否かにかかわらず,添付されたことをもって独立の証拠となり,あるいは当然に証言又は供述の一部となるものではないと解するのが相当である。

1つ目のカードです。添付は、証拠の取調べとして行われるものではありません。だから、添付されただけで、証拠として取り調べられていない書面は、4つのことにかかわらず、独立の証拠にならず、当然に供述の一部にもなりません。4つのこととは、証拠能力があるか。示した手続が適法か。被告人が同一性や真正な成立を確認したか。添付に異議があったか。確認したから、供述と一体になる、という原判決の理屈は、ここで退けられました。なぜ、添付と確認だけでは足りないのか。ここは判旨の言葉ではなく、趣旨の整理です。犯罪事実の認定に使えるのは、証拠能力があり、法廷で証拠調べを経た証拠です。証拠として取り調べる手続のなかで、相手方は、その証拠能力を争えます。被告人が同一性や真正な成立を認めても、その手続を飛ばしてよいことにはなりません。さっきの317条、事実の認定は証拠による、の証拠とは、この手続を経たものです。

判例最高裁判所第三小法廷決定・平成25年2月26日(刑集67巻2号143頁)

引用された限度で供述の一部となる 本件電子メールは,被告人乙の供述に引用された限度においてその内容が供述の一部となるにとどまる(最高裁平成21年(あ)第1125号同23年9月14日第一小法廷決定・刑集65巻6号949頁参照)。

2つ目のカードです。供述の一部になるのは、被告人の供述に引用された限度だけです。先ほどの、証人尋問の決定と、同じ線です。カードの最後の括弧は、その決定を参照している、という意味です。

判例最高裁判所第三小法廷決定・平成25年2月26日(刑集67巻2号143頁)

存在や記載が証拠価値を持ち得ても、独立の証拠にならない 本件電子メールについては,原判決が指摘するとおり,その存在及び記載が記載内容の真実性と離れて証拠価値を有するものであること,被告人乙に対してこれを示して質問をした手続に違法はないこと,被告人乙が本件電子メールの同一性や真正な成立を確認したことは認められるが,これらのことから証拠として取り調べられていない本件電子メールが独立の証拠となり,あるいは被告人乙の供述の一部となるものではないというべきである。

3つ目のカードです。ここは、見落としやすい所です。メールの存在と記載は、記載内容の真実性と離れて、つまり、書いてある中身が本当かどうかとは別に、証拠価値を持ちうる。示した手続も適法で、被告人は同一性や真正な成立も確認した。最高裁は、これらを認めました。そのうえで、証拠として取り調べていない以上、独立の証拠にも、供述の一部にもならない、としたのです。たとえば、共犯とされた人から被告人宛てのメールが届いていた。その事実だけで、2人の間に連絡があったことが分かります。中身の真偽は、使っていません。真実性と離れた使い方なら、取り調べなくてよいのか。そこが、この決定の読みどころです。前に、非伝聞の見分け方として、中身が仮に偽でも証拠の値打ちが残るか、を見ました。あれは、取り調べる証拠を、どう使うかの判定でした。伝聞か非伝聞かは、320条で締め出されるかどうかの区別で、取調べを省いてよい理由にはなりません。法廷で取り調べてはじめて、相手方は、本当にその人から届いたメールなのか、などを争えるからです。判旨の言葉は、取り調べていない以上、独立の証拠にならない、までです。そこから、非伝聞の使い方も、証拠として取り調べてはじめて問題になる、と整理できます。

添付されたメールの扱い―違法だが上告棄却。原判断は違法だが、被告人の供述や関係証拠で認定でき、違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえないとして棄却。証人尋問・被告人質問とも同じ:添付は証拠調べではなく、引用された限度でだけ供述の一部。違うのは根拠規定 図:添付されたメールの扱い―違法だが上告棄却

  • 原判断は違法だが、被告人の供述や関係証拠で認定でき、違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえないとして棄却
  • 証人尋問・被告人質問とも同じ:添付は証拠調べではなく、引用された限度でだけ供述の一部
  • 違うのは根拠規定

結論です。原判断は違法でした。ただし、被告人がメールについてした供述や、その他の関係証拠で犯罪事実を認定でき、違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえない、として、上告は棄却されました。違法だが、判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない、という結論も、短答では問われます。ここまでの線を、並べます。証人尋問の決定も、被告人質問の決定も、同じです。添付は、証拠調べではない。引用された限度でだけ、供述の一部になる。違うのは、示す根拠となった規定です。証人尋問の決定は規則199条の12、被告人質問の決定は、規則199条の10と199条の11でした。

設例Zの当てはめ

設例Zの当てはめ表。縦はZ、Z-2、Z-3、Z-4。横は示す許可、調書への添付、事実認定への使用。Zは許可可・添付可で同意不要・証言全体で認定可。Z-2は供述前で、明確化(規則199条の12)としては許されない場合がありうる(整理)。Z-3は食い違う写真で引用されておらず証言の一部にならない(整理)。Z-4は写真単独の認定は不可。整理の欄には整理と注記 図:設例Zの当てはめ表

  • 縦はZ、Z-2、Z-3、Z-4
  • 横は示す許可、調書への添付、事実認定への使用
  • Zは許可可・添付可で同意不要・証言全体で認定可
  • Z-2は供述前で、明確化(規則199条の12)としては許されない場合がありうる(整理)
  • Z-3は食い違う写真で引用されておらず証言の一部にならない(整理)
  • Z-4は写真単独の認定は不可
  • 整理の欄には整理と注記

設例Zを、手順で当てはめます。1つ目、何のために示すのか。2つ目、いつ示すのか。3つ目、何を示すのか。4つ目、示した後にどうなるのか。まず、設例Zの本体です。被害者が、肩を押さえられ、拳を振り下ろされた、と十分に証言しました。そのあと、検察官が、証言を明確にするために、同じ体勢の写真を示す許可を求めます。目的は、明確化で、証拠にするためではありません。時機は、十分な供述の後。中身は、既にされた供述と同趣旨。裁判長が許可すれば、示してよい、という結論です。尋問のあと、写真を調書に添付するのも、適切な措置で、同意は要りません。事実認定に使えるのは、証言全体です。写真の内容は、引用された限度で、その証言の一部になっています。設例Z-2です。供述の前に示す場合です。記憶があいまいな段階なので、写真が、証人の記憶や証言に影響するおそれがあります。規則199条の12の明確化としては、不当な影響のおそれから、許されない場合がありうる、と整理されます。判旨の言葉ではなく、整理です。設例Z-3です。証言していない体勢が写った写真です。明確化ではなく、新しい内容の持ち込みになります。示すことが、明確化といえない。そして、被害者が引用していないので、その部分は、証言の一部にもなりません。これも、整理です。設例Z-4です。尋問のあと、添付された写真だけで、証言していない部分を認定することは、できません。証言内容を離れて、写真自体から事実認定を行うことはできない、という判旨のとおりです。

論文では、この順番で書けます。規則199条の12。判旨が挙げた事情。不当な影響を与えるか。添付。引用された限度。ここまでが、論文で論点になりうる骨格です。

再現写真の2本の道

再現写真の2本の道の板。1本目は証拠として請求する道で、321条3項に加え被害者なら321条1項2号3号、被告人なら322条1項、写真は署名押印が不要。2本目は証拠にせず証言を明確にする道具として使う道で、規則199条の12と49条、証拠の入口を通らない代わりに引用された限度でしか使えない 図:再現写真の2本の道の板

  • 1本目は証拠として請求する道で、321条3項に加え被害者なら321条1項2号3号、被告人なら322条1項、写真は署名押印が不要
  • 2本目は証拠にせず証言を明確にする道具として使う道で、規則199条の12と49条、証拠の入口を通らない代わりに引用された限度でしか使えない

前回と今回を、1枚にまとめます。再現写真の使い道は、2本の道です。1本目は、証拠として請求する道です。321条3項に加えて、被害者なら321条1項の2号か3号、被告人なら322条1項が要ります。写真は、再現者の署名押印だけ要りません。伝聞の例外という入口を、通ります。なぜ、ここまで要るのか。証拠にするなら、写真は、再現者が法廷の外で、動作で語った供述として使われるからです。321条3項は、調書を作った捜査官が、法廷で、真正に作ったと証言すること。そのうえで、被害者の再現なら、たとえば3号では、供述できない事情、その証拠が欠かせないこと、特に信用できる情況、の3つがそろわないと入りません。被告人の再現なら、322条1項で、自分に不利益な事実を認める内容などが要ります。写真に署名押印が要らないのは、機械が写すので、書き取りの誤りが入らないからでした。2本目は、証拠にせず、証言を明確にする道具として使う道です。規則199条の12と49条です。伝聞の入口を、通りません。その代わり、効くのは、証言に引用された限度だけです。

証言に引用されない部分は、使えません。使い切りたいなら、1本目の道で、証拠にする必要があります。なお、証明力を争う証拠を扱う328条は、また別の道です。それは、後の回で見ます。

短答の落とし穴

短答の落とし穴6問を○×で並べた板。採用されていない写真を証人に示す尋問、調書への添付と同意、添付された写真の独立の証拠性、引用された限度での証言の一部、被告人質問での添付と供述の一体化、2つの決定の根拠規定 図:短答の落とし穴6問を○×で並べた板

短答の落とし穴を、○×で言います。採用されていない写真を、証人に示して尋問することは、いかなる場合も許されない。×です。供述が十分にされた後で、同趣旨の写真なら、規則の199条の12で許可できます。尋問に用いた写真を調書に添付するには、当事者の同意が要る。×です。独立の証拠として扱う趣旨ではないので、同意は要りません。調書に添付された写真は、独立の証拠になり、写真だけで事実認定できる。×です。写真自体から事実認定はできません。写真が添付されても、証人が引用した限度では、その内容は、証言の一部として事実認定に使える。○です。被告人質問で示した書面に、被告人が同一性や真正な成立を確認すれば、公判調書に添付されたその書面は、供述と一体になる。×です。確認の有無にかかわらず、独立の証拠にも、当然に供述の一部にもなりません。被害再現写真の決定は規則199条の12を根拠規定にし、電子メールの決定は、規則199条の10と199条の11を根拠にした。○です。

今日の地図(保存版)

今日の保存版の板。示す、綴じる、使うの線引き。示すのは規則199条の12で供述が十分にされた後の同趣旨の写真、綴じるのは規則49条で同意不要、使えるのは証言に引用された限度のみ。再現写真の2本の道。被告人質問の電子メールの決定も同じ線 図:今日の保存版の板

  • 示す、綴じる、使うの線引き
  • 示すのは規則199条の12で供述が十分にされた後の同趣旨の写真、綴じるのは規則49条で同意不要、使えるのは証言に引用された限度のみ
  • 再現写真の2本の道
  • 被告人質問の電子メールの決定も同じ線

まとめます。採用されていない再現写真は、証拠としては入りません。でも、証言を明確にする道具としてなら、使えます。示す、綴じる、使う、の3つで、線を引きました。示すのは、規則199条の12で、裁判長の許可を受けて。判旨が挙げた事情は、まず供述が十分にされた後、明確化のため、既にされた供述と同趣旨、でした。綴じるのは、規則49条で、同意は要りません。使えるのは、証言に引用された限度だけです。被告人質問の決定も、同じ線でした。冒頭の問いの答えは、こうですね。写真を綴じても、伝聞の規定をすり抜けたことにはならない。写真は独立の証拠ではなく、証言の一部になるのは、引用された部分だけだから。

参照条文

  • 刑事訴訟規則第199条の12
  • 刑事訴訟規則第49条
  • 刑事訴訟法第317条
  • 刑事訴訟規則第199条の10
  • 刑事訴訟規則第199条の11

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