補強法則(補強の範囲・補強証拠適格・補強の程度)
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第5章 証拠法 ⑲/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:裁判官が、この自白は本当だと確信した
- しかし、証拠は自白しかない
- この被告人は有罪か、無罪か
- 自白のほかに、何を、どれだけ用意すればよいのか
前回の最後に予告しました。自白があってもそれだけでは有罪にできない、という補強法則です。共犯者の供述は本人の自白に当たるのかという問いは、次の回で正面から扱います。今日は補強法則そのものを、1本で通します。最初に場面を1つ置きます。公判で被告人が「自分がやりました」と認めました。裁判官も、この自白は本当だと確信しています。ところが検察官が出せた証拠は、その自白しかありません。この被告人を有罪にできるでしょうか。裁判官の確信と、有罪にできるかどうかは、別の問題です。これが今日の出発点です。答えは、有罪にできません。裁判官がどれだけ確信していても、です。では自白のほかに何をどれだけ用意すれば有罪にできるのか。これが今日の問いです。以前、自白の縛り方は2段だと見ました。入口は自白法則で、そもそも証拠にしてよいかという証拠能力の規制でした。今日は出口です。証拠に入ったあとも自白だけでは有罪にしない、という証明力の規制です。
条文の構造:憲法38条3項と319条
図:3つの条文の構造
- 憲法38条3項、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合は有罪とされない
- 刑訴319条2項、公判廷における自白であると否とを問わない
- 319条3項、有罪の自認を含む
- 318条の自由心証主義に対する明文の例外
先に基本の条文を呼び戻します。自由心証主義の条文です。
条文刑事訴訟法第318条
刑事訴訟法第318条 証拠の証明力は、裁判官の自由な判断に委ねる。
証拠の証明力、つまりその証拠をどれくらい信じるかは、裁判官の自由です。ただし自白だけは、ここに明文の例外があります。まず憲法です。
条文日本国憲法第38条第3項
日本国憲法第38条第3項 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
次に刑事訴訟法の319条2項です。
条文刑事訴訟法第319条第2項
刑事訴訟法第319条第2項 被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。
そして3項です。
条文刑事訴訟法第319条第3項
刑事訴訟法第319条第3項 前二項の自白には、起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む。
唯一の証拠とは、証拠が1つしかないという意味とは少し違います。自白しか頼れる証拠がない状態です。自白のほかに有罪を支える証拠があれば、唯一ではありません。自白とは、自分の犯罪事実の全部か主要な部分を認める供述のことです。ここで前に預けた話を回収します。裁判官がこの自白は100パーセント本当だと信じても、その自白しか証拠がなければ有罪にできません。法定証拠主義の考え方がここに残っていると見ました。証拠の値打ちを法が外から決める発想が、自白についてだけ残っているのです。今日はその要件の詳しい中身です。
趣旨:このルールは何を恐れているのか
図:補強法則の趣旨
- 1つ目、架空の事件で処罰しない
- 2つ目、自白の証明力を過大評価した誤判を防ぐ
- 3つ目、捜査機関に自白以外の客観証拠の収集を促す
- 後の学説の根っこ、1つ目を重視すれば何者かによる被害の存在、2つ目を重視すれば犯人が被告人であること
先に確認です。入口は何の規制で、出口は何の規制でしたか?入口は自白法則で証拠能力の規制です。出口は補強法則で証明力の規制でした。では出口のルールは何を恐れているのか、趣旨を見ます。3つあります。1つ目は、架空の事件で処罰してしまうことです。本当は犯罪そのものが無かったのに、自白があるせいで有罪にしてしまう場合です。次に、自白の証明力を過大に評価して事実を誤認することです。自白は決定的に見えるので、本当は別の人が犯人なのに、自白した人を犯人だと思い込む恐れがあります。最後に、捜査機関に自白以外の客観的な証拠を集めさせることです。
どれも大切ですが、この回で特に使うのは、誤判を防ぐ1つ目と2つ目です。3つ目は捜査の姿勢への働きかけで、自白法則も似た面を持ちます。そしてこの1つ目と2つ目のどちらを重く見るかが、後で見る範囲の学説の対立の根っこになります。覚えておいてください。1つ目を重く見れば、何者かによる被害があったことを支えたい。2つ目を重く見れば、被告人が犯人であることまで支えたい、となります。
憲法と刑訴のズレ:公判廷の自白と有罪の自認
図:憲法と刑訴のズレ
- 憲法38条3項の本人の自白は公判廷の自白を含まない、最高裁の判断
- 理由、自由な状態で供述、黙秘権がある、弁護人をつけられる、裁判所の直接審理
- しかし319条2項は公判廷であると否とを問わない、刑訴は憲法より広く補強を要求
- 319条3項、有罪の自認にも補強が要る、有罪答弁制度は採らない
ここで1問考えてください。公判廷で裁判官の目の前で被告人が自白したら、補強証拠は要らないのか。憲法上と刑事訴訟法上で答えは違います。それぞれどうでしょうか。刑事訴訟法では、319条2項の文言どおり、公判廷の自白にも補強が要ります。憲法の方は、最高裁が含まないと判断しました。判旨を見ます。
判例最大判昭23・7・29 刑集2巻9号1012頁
公判廷の自白と憲法38条3項 公判廷における被告人の自白が、裁判所の自由心証によつて真実に合するものと認められる場合には、公判廷外における被告人の自白とは異り、更に他の補強証拠を要せずして犯罪事実の認定ができると解するのが相当である。すなわち、前記法条のいわゆる「本人の自白」には、公判廷における被告人の自白を含まないと解釈するを相当とする。
事案は、農業を営む被告人が米を統制額を超える代金で売った事件です。第二審は公判廷での被告人の供述だけで有罪にしました。被告人はこれが唯一の証拠だから憲法違反だと上告しました。最高裁は上告を認めませんでした。憲法の本人の自白には公判廷の自白を含まないとしたのです。自白の意味が変わったのではありません。憲法が補強を求める範囲から、法廷の自白を外した、ということです。理由がいくつか挙げられています。公判廷では、身体を拘束されたり強制されたりしない自由な状態で話します。黙秘権があるので軽々しく嘘の自白はしません。弁護人をつけることもできます。そして裁判所が目の前で真実性と任意性をその場で判断できます。ただし判決自身が、安易に直ちに断罪することは早計だと戒めています。心証をきちんと形成した場合に限る、ということです。そしてここが大事です。憲法は最低線です。刑事訴訟法はそれより広く、法廷の自白にも補強を求めました。法廷の自白でも、身代わりや、取調べで固まった話の繰り返しはありえます。趣旨の1つ目と2つ目の恐れは、法廷でも消えないからです。この上乗せが、319条2項の「公判廷における自白であると否とを問わない」という部分です。だから「公判廷の自白に補強は要らない」という○×は、憲法上は○で刑訴上は×です。必ずどちらの話かを先に言ってください。次は319条3項です。起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合も、自白に含まれます。つまり被告人が法廷で「有罪です」と認めただけでは、有罪にできません。罪を認めれば証拠調べなしで有罪になる制度を、有罪答弁制度と呼びます。外国にはあります。しかし現行の刑事訴訟法はこれを採りません。認めただけで有罪にすると、架空の事件や身代わりを止められないからです。
補強が足りないまま有罪にした判決は、訴訟手続の法令違反になり、判決に影響を及ぼすことが明らかなら、上訴で破棄されます。ただし別の証拠が補強に足りるなら影響はなく、破棄されません。以前、違法な手続と破棄は別だと見たのと同じ型です。憲法違反になるのは、憲法の射程、つまり公判廷外の自白の範囲だけです。
設例Tと、3つの問い
図:設例T
- 被告人Pは深夜の路地で通行人Vを後ろから殴り肩の骨を折らせた傷害罪で起訴
- Pは捜査段階でも公判でも、自分が殴った、傘は帰りに駅のごみ箱に捨てた、と認めている
- 検察官の証拠、診断書、防犯カメラ映像、傘、記録アプリの記載、実況見分調書
- Vは犯人の顔を見ていない
設例Tを置きます。例えば、深夜の繁華街の路地で通行人のVが後ろから殴られ、肩の骨を折りました。Vは犯人の顔を見ていません。被告人のPが傷害罪で起訴されました。Pは捜査でも公判でも、自分が殴った、使った傘は帰りに駅のごみ箱に捨てた、と認めています。検察官が請求した証拠は5つです。具体的に見ていきます。1つ目はVの診断書で、骨折があります。2つ目は路地の入口の店の防犯カメラの映像です。黒っぽい上着の人物が路地に入る様子が映っていますが、顔は分かりません。Pは当日、黒っぽい上着を持っていました。3つ目は事件の翌朝に駅の清掃員が見つけて届けた傘で、Vの血痕が付いているという鑑定です。4つ目は、Pが事件の夜に自分のスマートフォンの記録アプリへ、その日の出来事の1つとして「Vを殴った」と書いたものです。事件の前から毎日つけていた私的な記録で、内容や量は日によってまちまちです。5つ目は、警察官が現場でPに殴った位置を指で示させ、説明させて作った実況見分調書です。問いは、Pの自白のほかに何が補強になって有罪にできるか、です。3つの問いに分けます。何について補強が要るかという範囲。どんな証拠が補強になれるかという適格。そしてどれくらい強ければよいかという程度です。
補強の範囲:罪体説と実質説
図:補強の範囲の学説
- 条文は唯一の証拠としか書いていない、解釈問題
- 罪体説は犯罪の客観的な部分に定型的に補強を要求
- その中で、何者かによる法益侵害があれば足りる説と、被告人が犯人であることまで要る説
- 実質説は自白の真実性を裏づければ足りる、範囲を定型的に決めない
- 補強が要らないもの、故意などの主観面、前科
まず範囲です。条文は唯一の証拠としか書いていません。だから自白のほかに何について補強が要るのかは解釈の問題です。大きく罪体説と実質説があります。罪体説は、犯罪の客観的な部分、つまり罪体について定型的に補強を要求します。定型的に、とは、事件ごとの心証で決めずに、あらかじめ決めた部分には必ず補強を求める、という意味です。自白だけで合理的な疑いを超えてよいという発想そのものが誤判を生む、という問題意識です。罪体説の中に2つあります。1つ目は、何者かによる法益侵害があれば足りるという考えです。傷害なら、誰かがけがをさせられたということです。故意や過失などの主観的な要素や、被告人が犯人であることまでは求めません。趣旨の1つ目、架空の事件を重く見ています。2つ目は、被告人が犯人であることまで求める考えです。趣旨の2つ目、犯人の取り違えを重く見ています。設例Tなら、殴ったのがPだという点まで、自白の外の証拠で支える必要があります。もう1つの学説が実質説です。補強の範囲を定型的に決めません。自白の真実性を裏づける証拠があれば足りるという考えです。自白と補強証拠があいまって、合理的な疑いを超える証明に達していればよい、とします。設例Tなら、自白どおり駅で見つかった傘のように、自白の中身が本当だと裏づける証拠があれば足りる、という考えです。
実質説には批判があります。結局は裁判官の心証に戻ってしまい、自由心証への歯止めにならないという批判です。反対に罪体説には、犯人性まで求めると立証が重くなりすぎるという批判があります。補強が要らないものも確認します。故意や目的など主観面は、一般に自白だけでよいとされます。また累犯前科のような、犯罪事実でない事実にも補強は要りません。補強が要るのは、あくまで犯罪事実のうち補強が必要とされる部分です。全部ではありません。
範囲の判例:無免許運転と三鷹事件
図:範囲の判例
- 無免許運転の判例、運転行為だけでなく運転免許を受けていなかった事実にも補強証拠が必要
- 三鷹事件、犯人であると推断するに足る直接の補強証拠が欠けていても、自白の真実性を裏づける補強証拠があり、自白と総合して認定できれば足りる
- 判例の読まれ方は一様でない
この範囲について最高裁の判決が2つあります。1つ目は無免許運転の事件です。原判決は、免許を持っていなかったという点は、無免許という消極的な身分のような主観的な側面だとして、被告人の自白だけで認定してよいとしました。最高裁はこれを誤りとしました。
判例最判昭42・12・21 刑集21巻10号1476頁
無免許運転の罪と補強証拠 無免許運転の罪においては、運転行為のみならず、運転免許を受けていなかつたという事実についても、被告人の自白のほかに、補強証拠の存在することを要するものといわなければならない。
ただし結論は上告棄却でした。同じ職場の同僚の、警察官に対する供述調書に、被告人が免許を受けていなかったことを知っていたと思われる趣旨の供述がありました。これが公判廷の自白の補強に足りたので、判決に影響がなかったのです。実務では、警察本部への免許の有無の照会結果で補強します。免許があったかどうかは、被告人の頭の中ではなく、警察本部への照会で外から確かめられる事実です。そういう事実まで自白だけで認めると、架空の事件の恐れが残ります。この判決の読まれ方は割れています。自白の真実性には触れていないので罪体説に近づいた、という読み方。当然に真実性を考えているので実質説は維持された、という読み方。実質説に立ちつつ、法益侵害に関わる事実には補強が要るとした、という読み方です。もう1つは三鷹事件です。電車が運転者なしで暴走し人が死亡した事件で、自白以外の証拠に、被告人の作為を直接証明するものはありませんでした。最高裁はこう述べました。
判例最大判昭30・6・22 刑集9巻8号1189頁
犯人性の補強について 被告人が犯罪の実行者であると推断するに足る直接の補強証拠が欠けていても、その他の点について補強証拠が備わり、それと被告人の自白とを綜合して本件犯罪事実を認定するに足る以上、憲法三八条三項の違反があるものということはできない。
カードの少し前で、判決は、自白の真実性を裏づけるに足りる補強証拠はある、と述べています。犯人が誰かという点のほかには、補強証拠が備わっていたということです。犯人であることを直接示す補強がなくても、自白の真実性を裏づける補強があれば足りるということです。なぜ直接の補強まで要らないのか。実質説の考え方で言えば、自白の中身が外の証拠と合っていれば、自白が真実である見込みは高まるからです。これも読み方が割れます。実質説と見る読み方と、罪体説に立ちつつ犯人性は真実性の裏づけで足りるとした、と見る読み方です。
判例が罪体説か実質説かは、断定できません。言えることは2つです。1つ、無免許の事実にも補強が要る。もう1つ、犯人性は直接の補強がなくても、自白の真実性を裏づける補強があれば足りうる。答案では、判例から結論を引き出すのではなく、自分がどの説に立つかをはっきり書き、その説から結論を出してください。
補強の程度:絶対説と相対説
図:範囲と程度の対応表
- 罪体説、補強証拠だけで犯罪事実を一応証明できる程度、絶対説
- 実質説、自白と相まって合理的な疑いを超えればよい、相対説
- 範囲の説と程度の説は対応する
- 判例をどちらかと断定しない
次に程度です。範囲を広く求める罪体説は、補強証拠にどれくらいの強さを求めるでしょうか。範囲と程度は連動します。なぜ連動するのか。罪体説は、決まった部分を補強証拠に支えさせる考えなので、その部分は補強証拠だけで一応言えなければ意味がありません。実質説は、自白が本当かを支えれば足りる考えなので、自白と合わせて測れば足ります。罪体説は、補強証拠だけで犯罪事実の存在を一応証明できる程度を求めます。これを絶対説と呼びます。一応証明できるとは、補強証拠だけを見ても犯罪事実があったらしいと思わせる程度です。有罪の確信までは要りません。実質説は、自白と補強証拠があいまって合理的な疑いを超えれば足りるとします。これを相対説と呼びます。補強証拠だけで一定の水準に届く必要はありません。設例Tで言えば、絶対説は自白を脇に置いて、診断書や傘だけで事件があったらしいと言えるかを問います。相対説は、自白と傘を並べて、合理的な疑いが残らないかを問います。
範囲の説と程度の説は、罪体説と絶対説、実質説と相対説の組になります。答案では、範囲で選んだ説と程度の説を揃えて書きます。なお判例を絶対説か相対説かどちらかに断定することもしません。
補強証拠適格:自白から独立していること
図:補強証拠適格
- 補強証拠は犯罪事実を認定する実質証拠なので証拠能力が要る
- そのうえで自白から独立していること
- 被告人自身の供述は原則として補強にならない、自白を何度繰り返しても補強にならない
- 被告人の供述を基に作られた捜査書類、指示説明の実況見分調書や報告書も補強にならない
3つ目の問いは、どんな証拠が補強になれるかです。まず補強証拠は犯罪事実を認定する実質証拠です。だから証拠能力が要ります。そのうえで自白から独立している必要があります。自白と同じ出どころではないということです。例えば、お金を返したと言う人の話を、メモに何枚書き写しても、出どころは本人の話1つです。裏づけには、銀行の入出金記録のような別の経路の記録が要ります。補強も同じです。被告人自身の供述は原則として補強になりません。自白を何度繰り返しても「本人がそう言っている」にすぎないからです。被告人の供述を基にして作られた捜査書類も同じです。警察官が被告人の供述を書き取った報告書や、被告人に指で示させ説明させて作った実況見分調書は、自白を書き換えたものにすぎません。補強になりません。設例Tの実況見分調書が、これです。自白を聞いた第三者の証言も、自白の繰り返しなら独立性が無いと考えられます。例えば、Pから「俺が殴った」と聞いた友人の証言は、中身がPの話そのものなので補強になりません。友人が自分の目でPを路地で見ていたなら、それは別の出どころです。
例外:未収金控帳と、2つの読み方
図:例外の控帳
- 被告人が犯罪の嫌疑を受ける前に、関係なく、備忘のためその都度記入した控帳は、自白と目すべきでなく、323条2号の書面として補強証拠になりうる
- 理由づけの読み方は2つ、1つ目、機械的継続的に作られた定型的な信頼性のある書面だから
- 2つ目、捜査と無関係に自白から独立して作られたから
原則には例外があります。思い出してください。前に見た323条で、業務の通常の過程で作られた書面は、何号でしたか?2号でした。2号は、業務の基礎資料として継続的、規則的に作られる書面でした。そのとき2号の例に挙げた未収金控帳が、今日は補強の問題として出てきます。具体的な判例を見ます。米穀の小売販売業者が闇米を売った事件で、被告人は公判廷で自白しました。被告人が自分で付けていた販売未収金の控帳が補強になるかが争われました。
判例最決昭32・11・2 刑集11巻12号3047頁
未収金控帳の補強証拠適格 所論未収金控帳は原判決説示の如く、被告人が犯罪の嫌疑を受ける前にこれと関係なく、自らその販売未収金関係を備忘のため、闇米と配給米とを問わず、その都度記入したものと認められ、その記載内容は被告人の自白と目すべきものではなく、右帳面はこれを刑訴三二三条二号の書面として証拠能力を有し、被告人の第一審公判廷の自白に対する補強証拠たりうるものと認めるべきである。
帳面は被告人自身が書いたものです。それでも補強になりました。理由は、嫌疑を受ける前に犯罪とは関係なく備忘のためその都度記入したもので、記載内容が自白と目すべきではないからです。ここには関門が2つあります。まず、書面を証拠として使えるか、という関門です。書面は伝聞なので例外に当たる必要があり、控帳は323条2号で通りました。補強証拠にも証拠能力が要る、と言ったのはこのことです。次に、使えるとして、自白から独立した補強になれるか、という関門です。決定は、記載内容が自白と目すべきでない、としてここも通しました。
そこで理由づけの読み方が二通りに分かれます。1つ目の読み方は、機械的継続的に作られた定型的に信頼できる書面だから補強になる、とみるものです。業務の記録は正確に書かざるをえないので、本人が書いても、本人の話とは別の支えがある、という考えです。もう1つは、捜査と無関係に自白から独立して作られたから補強になる、とみるものです。嫌疑の前なら、捜査を意識して書いたものではないので、後の自白とは出どころが別だ、という考えです。決定は「嫌疑の前」「関係なく」「備忘のため」「その都度」と両方の要素を挙げているので、どちらか一方に決め打ちできません。分かれ目になるのは私的な日々の記録です。1つ目の読み方なら定型性がないので不適格になります。2つ目の読み方なら、嫌疑の前に捜査と無関係に作られていれば適格の余地が残ります。私的な日々の記録が補強になるかは、どの読み方で決まるか。ここを押さえてください。
設例Tの当てはめ
図:設例Tの当てはめ
- 適格、傘は独立の物証で適格あり、実況見分調書は指示説明で補強にならない、記録アプリは読み方で割れる
- 範囲、診断書、防犯カメラ映像、傘
- 程度、絶対説と相対説
- 罪体説の1つ目と絶対説なら足りる、罪体説の2つ目と絶対説なら足りない可能性が高い、実質説と相対説なら傘があるので足りうる
設例Tに当てはめます。答案では範囲、適格、程度の順に書きますが、当てはめでは先に適格で証拠を仕分けます。補強になれない証拠で範囲や程度を測っても意味がないからです。実況見分調書は、Pに指で示させて作ったものです。自白を基にしているので補強になりません。傘は清掃員が別の経路で見つけた物です。自白が出どころではないので独立していて、適格があります。記録アプリは読み方で割れます。書面として使えるかは、Pが自分に不利なことを書いたものなので、前に見た322条の不利益な事実の承認で通りえます。割れるのは、補強になれるかのほうです。内容や量がまちまちなので、定型的な信頼性を重く見る読み方なら不適格です。一方で、事件の夜に嫌疑を受ける前、捜査と無関係に書かれた点を重く見る読み方なら、適格の余地が残ります。次に範囲と程度を説ごとに見ます。罪体説の1つ目、何者かによる傷害があれば足りるという立場で絶対説なら、診断書と、Vの血痕が付いた傘で、何者かに殴られて傷害を負ったことが一応証明できます。犯人性の補強は要りません。足ります。罪体説の2つ目、犯人性まで求める立場で絶対説ならどうでしょう。防犯カメラは顔が分からず、犯人性の補強として弱いです。傘はVの血痕が付いていて自白どおり駅から出てきたので自白の真実性は支えますが、Pと結びつける独立の証拠は乏しいです。足りない可能性が高いです。もし防犯カメラにPの顔がはっきり映っていたら、罪体説の2つ目でも足ります。説ごとに結論が割れるのは、犯人性を直接示す証拠が無いときです。
実質説で相対説なら、傘が自白の真実性を裏づけます。自白と傘と診断書があいまって合理的な疑いを超えれば足ります。足りうるという結論です。設例Tの結論は、範囲と程度でどの説に立つかによって変わります。答案で求められるのは、正解の説を探すことではありません。自分の説を明示して、その説の中で一貫して当てはめることです。
短答の落とし穴と、答案の順序
図:短答の落とし穴
- 公判廷の自白に補強は不要、憲法上は正しい、刑訴上は誤り
- 被告人が罪を認めれば証拠調べなしで有罪にできる、誤り
- 補強は犯罪事実の全部について要る、誤り
- 被告人の書いたものは補強にならない、原則は正しいが例外あり
- 無免許運転で免許不所持の事実に補強不要、誤り
- 補強法則は証明力の問題、自白の任意性とは別、正しい
短答の落とし穴を○×で言います。公判廷の自白には補強は要らない。憲法上は○で刑訴上は×です。先にどちらの話かを言ってください。被告人が罪を認めれば証拠調べなしで有罪にできる。×です。319条3項があるからです。補強は犯罪事実の全部について要る。×です。主観面などは自白だけでよく、全部でなくても足ります。被告人の書いたものは補強にならない。原則として○です。ただし嫌疑を受ける前に業務の中でつけていた控帳のような例外があります。無免許運転で免許を受けていなかった事実に補強は要らない。×です。免許の有無は内心ではなく外から確かめられる事実で、判例は補強が要るとしました。最後です。補強法則は自白の証明力の問題で、自白の証拠能力、つまり任意性とは別だ。この言い方なら○です。任意性のある自白でも、それだけでは有罪にできない、ということです。答案の順序は、補強法則の趣旨を押さえたうえで、範囲、適格、程度の順です。程度は、補強になれる証拠だけで測るので、適格が程度より先です。ここは論文で論点になりうるところです。範囲で選んだ説と程度の説を揃えて書きます。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- 補強法則は出口の規制
- 憲法38条3項は公判廷の自白を含まず、319条2項は含む
- 319条3項で有罪の自認も足りない
- 範囲、罪体説の2つと実質説、判例の読み方は割れる
- 程度、絶対説と相対説、範囲と対応
- 適格、独立性、被告人の供述と捜査書類は不可、嫌疑前の控帳は例外
まとめます。補強法則は自白の出口の規制で、自白だけでは有罪にできません。憲法は公判廷の自白を含みませんが、319条2項は含み、3項は有罪の自認も足りないとします。補強の範囲は罪体説の2つと実質説で、判例の読まれ方は割れています。程度は絶対説と相対説で、範囲と対応します。適格は独立性で、被告人の供述とそれを基にした捜査書類は補強になれず、嫌疑の前の控帳が例外でした。冒頭の「確信しても自白だけでは有罪にできない」というのは、自白という証拠だけを別の証拠で外から支えさせる、ということですね。次は共犯者の供述です。一緒にやった人が「あの人もやった」と言うだけで有罪にできるのか。共犯者の供述は本人の自白に当たり、補強が要るのか。一緒に裁かれている被告人の供述ならどうかも見ます。
参照条文
- 刑事訴訟法第318条
- 日本国憲法第38条第3項
- 刑事訴訟法第319条第2項
- 刑事訴訟法第319条第3項