刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#131

共犯者・共同被告人の供述(証拠にする3つのルート・補強の要否)

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第5章 証拠法 ⑲/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

共犯の2人が起訴された。1人は認めた、もう1人は否認している。認めた本人は自分の自白だけでは有罪にならない。否認した相手は、判例の理屈ではその供述だけで有罪にできる余地がある。なぜか 図:共犯の2人が起訴された

  • 1人は認めた、もう1人は否認している
  • 認めた本人は自分の自白だけでは有罪にならない
  • 否認した相手は、判例の理屈ではその供述だけで有罪にできる余地がある
  • なぜか

前回の最後に、問いを2つ置きました。1つ目は、一緒にやった人が「あの人もやった」と言うだけで、その人を有罪にできるのか、つまり共犯者の供述は本人の自白に当たり、補強が要るのか。2つ目は、一緒に裁かれている被告人の供述ならどうか、でした。今日はこの2つに答えます。先に場面を置きます。共犯の2人が起訴されました。1人は罪を認め、もう1人は否認しています。他に証拠は何もありません。認めた本人は、自分の自白しか証拠がないので、有罪にできません。ところが否認している相手は、判例の理屈では、認めた人の供述だけで有罪にできる余地があります。

認めた側が助かり、否認した側が危うくなる。この結論に違和感を覚えるのは自然です。今日の後半で、その違和感の正体を見ます。ただ、その前に出発点があります。一緒に裁かれている被告人の供述を、相手の被告人の証拠にするには、そもそもどの道を通るのか。入口から順に見ていきます。

共同被告人とは:誰から見て誰か

共同被告人。弁論の併合、313条1項。併合されても法律関係は被告人ごとに別個、同意も不同意も被告人ごと。共犯でなくても併合されれば共同被告人。相手の被告人から見ると被告人以外の者 図:共同被告人

  • 弁論の併合、313条1項
  • 併合されても法律関係は被告人ごとに別個、同意も不同意も被告人ごと
  • 共犯でなくても併合されれば共同被告人
  • 相手の被告人から見ると被告人以外の者

先に条文を呼び戻します。分離と併合の条文です。

条文刑事訴訟法第313条第1項

刑事訴訟法第313条第1項 裁判所は、適当と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定を以て、弁論を分離し若しくは併合し、又は終結した弁論を再開することができる。

一緒に審理される被告人どうしを、共同被告人と言います。相手の被告人のことを、相被告人と呼ぶこともあります。同じ意味です。複数の被告人の弁論が併合されると、共同被告人になります。共犯であることは条件ではありません。刑法上の共犯どうしが併合されて共同被告人になることは多いです。ただ、共犯でなくても、事件が密接に関連していて併合されれば、共同被告人です。基準は併合されているかどうかで、共犯かどうかではありません。もう1つ思い出してください。併合されても、法律関係は被告人ごとに別個です。同意するか不同意にするかも被告人ごとで、証拠を採用するかどうかも被告人ごとに判断します。1つの法廷に並んでいても、被告人どうしは別々の当事者です。ここで、今日の出発点を言います。被告人Gの犯罪事実を証明するために、共同被告人Sの供述を使うとします。このときSは、Gから見れば被告人以外の者です。被害者や目撃者と同じ、第三者の位置に立ちます。Sにとっての自分の事実を証明するために使う場面は、別でした。そちらは前に見た322条1項の話です。今日見るのは、Sの供述をGに対して使う場面です。ここから道が3つに分かれます。

3つのルートの地図と、設例W

3つのルートの比較表。1、弁論を分離して証人として尋問、通る条文は143条と146条、限界は証言拒絶。2、併合のまま被告人質問、311条3項、限界は黙秘。3、公判廷外の供述、321条1項、要件を満たすこと 図:3つのルートの比較表

  • 1、弁論を分離して証人として尋問、通る条文は143条と146条、限界は証言拒絶
  • 2、併合のまま被告人質問、311条3項、限界は黙秘
  • 3、公判廷外の供述、321条1項、要件を満たすこと

先に地図を見てください。Sの供述をGに対して使う道は3つです。1つ目は、弁論を分離して、Sを証人として尋問する道です。2つ目は、併合のまま、被告人質問で供述を引き出す道です。3つ目は、公判廷の外でした供述、つまり調書などを使う道です。今日はこの3つを1つの設例で通します。設例Wです。

設例W。被告人SとGは窃盗罪で起訴され併合審理。Sは検察官面前調書で認め、公判の被告人質問でも認めている。Gは否認し、その夜は家にいたと述べる。被害を裏づける在庫記録も被害届もない 図:設例W

  • 被告人SとGは窃盗罪で起訴され併合審理
  • Sは検察官面前調書で認め、公判の被告人質問でも認めている
  • Gは否認し、その夜は家にいたと述べる
  • 被害を裏づける在庫記録も被害届もない

夜の工事現場の資材置き場から、銅線ケーブルが持ち出されました。被告人のSとGが、2人とも窃盗罪で起訴され、併合して審理されています。Sは検察官の取調べで「Gと2人で夜に入って、ケーブルを台車に積んで持ち出した」と話し、署名押印した調書があります。公判の被告人質問でも、Sは同じように認めています。Gは一貫して否認です。その夜は家にいた、と言います。そして資材置き場の管理会社は在庫を厳密に数えておらず、被害届もありません。Sの供述のほかに、盗難を裏づける証拠がありません。問いは3つです。1つ目、SはGを有罪にする証拠として、どの道で供述を出せるか。2つ目、SとGは、それぞれSの供述だけで有罪にできるか。3つ目、Gが一部を認めたら、Sの供述はGの自白の補強に使えるか。順番に答えていきます。

ルート1:弁論を分離して証人として尋問する

ルート1、分離して証人。併合のままでは証人にできない、黙秘権と証人の義務が両立しない。分離すれば第三者に戻り証人適格あり、143条。ただし自己に不利益な証言は拒める、146条。拒まれたら調書へ。分離後の証言は自己の事件でも証拠になる 図:ルート1、分離して証人

  • 併合のままでは証人にできない、黙秘権と証人の義務が両立しない
  • 分離すれば第三者に戻り証人適格あり、143条
  • ただし自己に不利益な証言は拒める、146条
  • 拒まれたら調書へ
  • 分離後の証言は自己の事件でも証拠になる

ルート1です。まず、併合のままではなぜ証人にできないのかを思い出してください。被告人には終始沈黙できる黙秘権があります。証人には出頭、宣誓、証言の義務があり、正当な理由なく拒めば過料や刑罰の対象になります。1人の人間に、黙っていてよいという地位と、話さなければならないという地位を同時には与えられません。だから、併合したままでは、共同被告人を相手の事件の証人にできません。ではどうするか。弁論を分離します。分離すると、SはもうGと一緒に審理される被告人ではありません。Gの事件から見れば、Sはただの第三者に戻ります。証人適格は原則として誰にでもあります。条文は143条で、特別の定めがない限り、何人でも証人として尋問できます。だから、Gの事件で、Sを証人として尋問できます。

条文刑事訴訟法第143条

刑事訴訟法第143条 裁判所は、この法律に特別の定のある場合を除いては、何人でも証人としてこれを尋問することができる。

判例もこれを認めています。

判例最判昭35・9・9 刑集14巻11号1477頁

共同被告人を分離して証人として尋問すること 共同被告人を分離して証人として尋問しても、同証人は自己に不利益な供述を拒むことができ、これを強要されるものでないこと(……)および共同被告人でも事件が分離された後、他の共同被告人の証人として証言することは差支えなく、また他の事件の証人としての証言が自己の犯罪に対しても証拠となること(……)もまた当裁判所の判例とするところであるから、所論違憲の主張は採用できない。

判旨には3つの内容があります。先に2つを見ます。1つ目は、分離したあとなら、他の共同被告人の証人として証言してよいということです。2つ目は、その証言は、Sが自分の犯罪について裁かれる場面でも、証拠になるということです。そこで、3つ目の内容が効きます。判旨は、証人として尋問しても、自己に不利益な供述は拒むことができ、強要されないと述べています。拒む根拠になる条文が146条です。

条文刑事訴訟法第146条

刑事訴訟法第146条 何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。

自分が訴追されたり有罪になったりするおそれのある証言は、拒めます。Sは窃盗で起訴されている本人です。だから、Gと2人で持ち出したかという質問は、拒めます。ここで注意があります。拒めるのは、証言全部ではありません。包括的に黙秘する権利が証人にあるわけではなく、質問ごとに、この質問は自分の罪に関わるから拒む、と判断します。拒まれたら、どうなるでしょう。Gの側は、Sに反対尋問ができません。Sが答えなければ、Gの証拠になる証言そのものが出てきません。前に見た刑事免責を検察官が請求し、裁判所が決定すれば、Sは146条で拒めなくなります。その代わり、その証言は、Sの事件ではS自身に不利な証拠にできません。免責なしで分離して証言しただけなら、その証言はSの事件でも証拠になる、という判例とは、ここが違います。そこで、公判廷の外でしたSの供述、つまり検察官面前調書のほうが検討されます。ルート3に戻ります。

ルート2:併合のまま被告人質問で引き出す

ルート2、併合のまま被告人質問。311条3項、共同被告人又はその弁護人も裁判長に告げて供述を求められる。判例は共犯者たる共同被告人の供述であるからといって全く証拠能力を欠くものではないとする。限界は、Sは黙秘できること 図:ルート2、併合のまま被告人質問

  • 311条3項、共同被告人又はその弁護人も裁判長に告げて供述を求められる
  • 判例は共犯者たる共同被告人の供述であるからといって全く証拠能力を欠くものではないとする
  • 限界は、Sは黙秘できること

先に確認です。前に見た311条を思い出してください。被告人質問と証人尋問の大きな違いは何でしたか?宣誓があるかどうか、供述の義務があるかどうか、偽証罪があるかどうか、でした。被告人質問は、宣誓もなく、答える義務もなく、偽証罪もありません。その違いを踏まえてルート2を見ます。

条文刑事訴訟法第311条第1項〜第3項

刑事訴訟法第311条第1項〜第3項 被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。 被告人が任意に供述をする場合には、裁判長は、何時でも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができる。 陪席の裁判官、検察官、弁護人、共同被告人又はその弁護人は、裁判長に告げて、前項の供述を求めることができる。

併合のままなら、Sは被告人の地位にあります。証人ではありません。だからGの側がSの供述を引き出すなら、被告人質問の形になります。3項の、共同被告人又はその弁護人は、裁判長に告げて、供述を求めることができる、という部分です。Gの弁護人が、裁判長に告げてSに質問します。ではそうして出たSの公判廷の供述を、Gの有罪の証拠にしてよいか。判例を見ます。

判例最判昭28・10・27 刑集7巻10号1971頁

共犯者たる共同被告人の供述の証拠能力 共犯者たる共同被告人の供述であるからといつて全く証拠能力を欠くものではないことは当裁判所の判例の趣旨に徴して明らかである。……被告人及び弁護人は刑訴三一一条三項により共同被告人に対し任意の供述を求めうる機会が与えられているのであつて、所論は未だ共同被告人の公判廷における供述の証拠能力を当然に否定すべき事由となるものではない

言葉を正確に読んでください。「全く証拠能力を欠くものではない」と言っています。そして、質問する機会が与えられているので、証拠能力を「当然に否定すべき事由」にはならない、と言っています。何でも使ってよい、と言い切ったのではありません。証拠能力を否定する理由にはならない、という言い方です。ここで、Gの反対尋問の権利とぶつかります。Gには憲法37条2項の、証人を審問する権利があります。他方でSには黙秘権があります。Gの弁護人が質問する機会は制度上あります。ただしSは、答えたくなければ黙れます。質問できたことと、反対尋問で信用性をテストできたことは、同じではありません。だから有力な説は、Gの側からSへの質問、つまり反対質問が現実に効果を収めた場合に限って、証拠能力を認めるべきだとします。判決が述べているのは、質問する機会が与えられている、という点までです。機会で足りるとする側の考え方を補うと、こうなります。答えるかどうかを決めるのはSですが、Gの側が問いを立てて矛盾を突く場は、制度として用意されています。Sが答えなかった部分には、そもそも証拠になる供述がありません。問題になるのは、Sが答えた部分です。それは裁判官の目の前で、Gの側も問いを向けられる場でされた供述です。Gの質問にだけ黙ったなら、その様子も裁判官は見ています。だから、証拠から一律に外すのではなく、どこまで信用できるかの評価に回せばよい、という考え方です。答案では、判例の立場と自説をはっきり区別して書いてください。そして、どちらの立場でも、Sが黙ったり答えをはぐらかしたりしたなら、その供述の信用性は慎重に吟味されます。

ルート3:公判廷の外の供述

ルート3、公判廷外の供述。Gに対しては被告人以外の者の書面として321条1項、検察官面前調書は2号。S自身に対しては322条1項。共同被告人の調書を相手に322条で使うのは違法。証言を拒まれたらここへ戻る 図:ルート3、公判廷外の供述

  • Gに対しては被告人以外の者の書面として321条1項、検察官面前調書は2号
  • S自身に対しては322条1項
  • 共同被告人の調書を相手に322条で使うのは違法
  • 証言を拒まれたらここへ戻る

ルート3は、前に見た整理の呼び戻しです。Sの検察官面前調書をどう使うか。誰に対して使うかで条文が変わりました。Sの検察官面前調書をGに対して使うなら、Sは被告人以外の者ですから、321条1項です。被告人以外の者の供述を書いた書面を、号ごとの条件を満たせば証拠にできる、という規定でした。検察官面前調書は2号です。S自身に対して使うなら、322条1項です。被告人自身の書面は、自分に不利益な事実を認める内容なら、任意性に疑いがない限り使える、という規定でした。そして、Gに対して322条で使うのは違法だと、判例が示していました。共同被告人の調書だから被告人の供述として使ってよい、とはなりません。Gから見れば、Sは第三者だからです。設例Wなら、検察官面前調書は、Sが公判で証言を拒み続けて、前に見た供述不能に当たったり、前の供述と相反する供述をして相対的に特信情況が認められたりした場合に、2号で使える道が開けます。ルート1で拒まれた証言が、ここにつながるのです。

共犯者の供述は本人の自白に当たるか

共犯者の供述は本人の自白に当たるか。補強法則の対象は、憲法38条3項の本人の自白。当たるなら補強が要る。判例は当たらないとする。練馬事件、共犯者の供述は被告人以外の者の供述で純然たる証人とその本質を異にしない 図:共犯者の供述は本人の自白に当たるか

  • 補強法則の対象は、憲法38条3項の本人の自白
  • 当たるなら補強が要る
  • 判例は当たらないとする
  • 練馬事件、共犯者の供述は被告人以外の者の供述で純然たる証人とその本質を異にしない

ここから山場です。3つのルートは、供述を証拠にしてよいかという入口の話でした。次は、証拠にした供述だけで有罪にできるか、という出口の話です。前回見た補強法則です。呼び戻します。

条文日本国憲法第38条第3項

日本国憲法第38条第3項 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

補強が要るのは、本人の自白です。ではSの供述は、Gにとって、本人の自白でしょうか。Sの供述が本人の自白に当たるなら、Gを有罪にするにも補強が要ります。当たらなければ、要りません。ここで1問考えてください。設例Wで、Sは調書に「Gと2人で夜に入って、ケーブルを台車に積んで持ち出した」と話しています。この話は、Gにとって本人の自白にあたるのか。理由も含めて、少し考えてみてください。Sは自分の罪も認めているので、自白に見えます。他方でGにとっては、他人の話にも見えます。この両面があることが出発点です。最高裁の大法廷が、これを判断しました。練馬事件と呼ばれる判決です。複数の被告人の共謀が問題になった、傷害致死などの事件です。判例の言葉を読みます。

判例最大判昭33・5・28 刑集12巻8号1718頁

共犯者の自白と本人の自白 共犯者の自白をいわゆる「本人の自白」と同一視し又はこれに準ずるものとすることはできない。けだし共同審理を受けていない単なる共犯者は勿論、共同審理を受けている共犯者(共同被告人)であつても、被告人本人との関係においては、被告人以外の者であつて、被害者その他の純然たる証人とその本質を異にするものではないからである。されば、かかる共犯者又は共同被告人の犯罪事実に関する供述は、憲法三八条二項のごとき証拠能力を有しないものでない限り、自由心証に委かさるべき独立、完全な証明力を有するものといわざるを得ない。

判決は2段で考えています。1段目、証明力の評価は裁判官に委ねる、というのが自由心証主義でした。憲法38条3項は、それに対する例外規定です。例外ですから、厳格に解釈します。だから共犯者の自白を、本人の自白と同じ、あるいはそれに準ずるものとして広げることはできません。2段目、理由です。共犯者も、共同被告人も、被告人本人との関係では被告人以外の者です。被害者などの純然たる証人と本質を異にしません。だから、その供述は自由心証に委ねられ、独立で完全な証明力を持ちます。ここで決め手を1つに絞ります。Gにとって、Sは第三者だということです。もし近所の人が「あの夜、Gが資材置き場から出てくるのを見た」と話したら、それはGの自白ではなく、目撃者の供述です。Sの話も、Gから見れば、これと同じ位置にあります。補強が要るのは、本人が自分で自分の罪を認めた場合です。前回見た趣旨の2つ目です。自白は決定的に見えるので、証明力を過大に評価する恐れがある、というのがこのルールの理由でした。Sの供述は、Gが自分を不利に語ったものではありません。だから本人の自白ではない、と見ます。この判決で、これと矛盾する限度で、従来の大法廷の判決も変更されました。

後の小法廷の判決。最判昭51・2・19、練馬事件の考え方を確認し、本件は共犯者の供述だけで認定したものではない。最判昭51・10・28、共犯者2人以上の自白で有罪としても憲法38条3項に違反しない。直接解釈したのは憲法38条3項、刑訴319条2項も判例・実務は同じ扱い 図:後の小法廷の判決

  • 最判昭51・2・19、練馬事件の考え方を確認し、本件は共犯者の供述だけで認定したものではない
  • 最判昭51・10・28、共犯者2人以上の自白で有罪としても憲法38条3項に違反しない
  • 直接解釈したのは憲法38条3項、刑訴319条2項も判例・実務は同じ扱い

後の小法廷の判決でも、この立場が確認されています。1つ目です。

判例最判昭51・2・19 刑集30巻1号25頁

共犯者の供述と憲法38条3項 共犯者の供述を、右憲法の規定にいう「本人の自白」と同一視し、又はこれに準ずるものとすべきでないことは、当裁判所の判例(……)とするところであるばかりでなく、本件については、原判決が共犯者の供述のみによつて被告人の本件犯罪事実を認定したものでないことは、原判決が掲記する証拠の標目自体によつても明らかであるから、所論は採用することができない。

この判決は、練馬事件の考え方を確認したものです。そして本件では、共犯者の供述だけで認定したものではない、とも述べています。2つ目です。

判例最判昭51・10・28 刑集30巻9号1859頁

共犯者2名以上の自白と憲法38条3項 共犯者二名以上の自白によつて被告人を有罪と認定しても憲法三八条三項に違反しないことが明らかであるから、共犯者三名の自白によつて本件の被告人を有罪と認定したことは、違憲ではない。のみならず、原判決がその基礎とした第一審判決の証拠の標目によると、共犯者らの自白のみによつて被告人の犯罪事実を認定したものでないことも、明らかである。

言葉を正確に押さえます。この判決が述べたのは、共犯者2人以上の自白で被告人を有罪と認定しても、憲法38条3項に違反しない、ということです。事案は、共犯者3人の自白がありました。しかも判決自身が、共犯者らの自白のみによって認定したものではない、と付け加えています。この判決を、共犯者の供述だけで有罪にしてよいという判決と覚えるのは不正確です。判決の言葉は、共犯者2人以上の自白でも違憲ではない、というものです。共犯者の供述は本人の自白に当たらないという考えの土台は、練馬事件の判決にあります。だから補強は憲法38条3項からは求められません。刑事訴訟法の319条2項は、公判廷の自白まで含む点で憲法より広い、と前回見ました。ただ、共犯者の供述を本人の自白に含めない点は、判例・実務は319条2項でも同じに扱っています。ただし判決が直接解釈したのは憲法38条3項だと、区別して覚えてください。

理由と批判:巻き込みの危険と信用性

理由と批判。判例の理由、被告人以外の者の供述で純然たる証人と本質を異にしない。通説的な説明、反対尋問で真実性をテストできる。批判、巻き込みの危険、自分の責任を軽くするため他人を引き込む。応答、危険があるからこそ信用性を慎重に吟味する 図:理由と批判

  • 判例の理由、被告人以外の者の供述で純然たる証人と本質を異にしない
  • 通説的な説明、反対尋問で真実性をテストできる
  • 批判、巻き込みの危険、自分の責任を軽くするため他人を引き込む
  • 応答、危険があるからこそ信用性を慎重に吟味する

判例の理由を整理します。判決自身の言葉は、被告人以外の者の供述で、純然たる証人と本質を異にしない、というものでした。これとは別に、通説的な説明があります。共犯者の供述は、相手の被告人の側から反対尋問や反対質問にさらされます。そこで真実かどうかをテストできる、という説明です。判決の言葉と、この説明は、別のものです。答案で判例の理由として書くのは、判決の言葉のほうです。補強を要求すべきだという側の根拠は、共犯者による巻き込みの危険です。共犯者は、自分の責任を軽くするために、他人を巻き込む危険があります。責任をなすりつけたり、関係のない人を引っ張り込んだりする危険です。設例Wで言えば、本当はSが1人で持ち出したのに、自分の刑を軽くしようとして「Gに誘われた」とGを引き込む、という形です。自分の自白なら、自分を不利にするので信用できます。他人を巻き込む供述には、その担保がありません。これに対する応答は、巻き込みの危険があるからこそ、裁判所は共犯者の供述の信用性を慎重に吟味する、というものです。法律上は補強が要らなくても、実際には、信用性の吟味がとても重い証拠です。結論は、補強は法律上は不要、でも信用性は別に厳しく見る、という二段構えです。

逆転現象

逆転現象。Sの自白だけではSは無罪、補強不足。GはSの供述が第三者の供述なので有罪にできる。団藤裁判官の反対意見、はなはだしく非常識な結論。判例側の再反論、補強を要すると自白した共犯者らは相互に補強されて有罪、否認した被告人は処罰を免れる 図:逆転現象

  • Sの自白だけではSは無罪、補強不足
  • GはSの供述が第三者の供述なので有罪にできる
  • 団藤裁判官の反対意見、はなはだしく非常識な結論
  • 判例側の再反論、補強を要すると自白した共犯者らは相互に補強されて有罪、否認した被告人は処罰を免れる

冒頭の違和感に戻ります。設例Wです。Sは認め、Gは否認し、Sの供述のほかに証拠がありません。判例の立場では、どうなりますか。Sは、自分の自白しか証拠がありません。補強が要るのに補強がないので、無罪です。Sは公判でも認めていますが、法廷の自白にまで補強を求めるのは、前回見た刑事訴訟法の319条2項でした。一方Gにとって、Sの供述は本人の自白ではなく、第三者の供述です。だから補強なしでも、有罪にできる余地があります。自白した人が無罪で、否認した人が有罪になりうる。これが逆転現象です。補強が必要だと考える側は、ここを根拠にします。

判例最判昭51・2・19 刑集30巻1号25頁(団藤裁判官の反対意見)

共犯者の自白と補強をめぐる団藤裁判官の反対意見 共犯者中の一人が自白をし他の一人が否認をしていて、しかも、他に補強証拠がないという事案を想定するときは、反対説においては、自白をした者は自分の自白しかないから無罪となり、否認をした者は共犯者の自白があるから有罪となるという結果になる。自白をしたものが有罪、否認をしたものが無罪というのならばまだしも、自白をした者が無罪、否認をした者が有罪というのは、はなはだしく非常識な結論である。

これは法廷意見ではなく、反対意見です。判例の結論と取り違えないでください。同じ指摘は、練馬事件の少数意見にもあります。自白した者は有罪にならないのに、同じ事実を否認した共同被告人は処罰されるのは不合理だ、という意見です。判例の立場からは、この不均衡は次のように説明されます。誰にとって誰が第三者か、で整理するのです。Sの自白はSにとっては本人の自白で、補強が要ります。同じ供述がGにとっては第三者の供述で、補強は要りません。同じ言葉でも、立つ位置で性質が変わる。だから不均衡に見えても、矛盾ではない、という整理です。さらに再反論があります。共犯者2人以上の自白を扱った判決の補足意見は、補強を要するとすると、自白した共犯者らは相互に自白が補強されて有罪とされるのに、被告人は自白していないため処罰を免れるという不均衡をもたらすことになり、妥当ではない、と述べています。これも法廷意見ではなく補足意見です。逆向きの不均衡が出る、という指摘です。実務の見方もあります。信用性の吟味が厳しいので、Sが無罪になるような証拠状況で、Gだけが有罪になることは、ほとんど起こりません。理論上は逆転しうるが、実際には信用性で調整される、という整理です。

共同被告人の供述を、補強証拠に使えるか

共同被告人の供述を補強証拠に使えるか。被告人自身の自白は補強にならないが、共同被告人の供述は別人の供述で自白から独立している。判例は肯定、各自の自白を相互に補強証拠とした。黙秘や証言拒絶があれば信用性は慎重に 図:共同被告人の供述を補強証拠に使えるか

  • 被告人自身の自白は補強にならないが、共同被告人の供述は別人の供述で自白から独立している
  • 判例は肯定、各自の自白を相互に補強証拠とした
  • 黙秘や証言拒絶があれば信用性は慎重に

先に確認です。前回見た、補強証拠になれる条件は何でしたか?自白から独立していることでした。被告人自身の供述は、何度繰り返しても、補強になりません。では、共同被告人の供述はどうか。Gが「見張りだけはした」と一部を認めたとします。Gの自白だけでは有罪にできないので、自白とは別の証拠で、たとえばケーブルが本当に持ち出されたことを裏づける必要があります。その裏づけに、Sの供述を使えるか。これが設例Wの3つ目の問いです。判例は肯定しています。練馬事件の判決は、原判決の維持した第一審判決の認定について、こう述べています。

判例最大判昭33・5・28 刑集12巻8号1718頁

共謀の認定と各自の自白の相互補強 原判決の維持した第一審判決は、共謀の点については、共謀を否認した被告人に対する関係においては共同被告人のこの点に関する自白を独立証拠とし、また、共謀を是認した被告人本人に対する関係においてはこの点に関する各自の自白を相互に補強証拠とし、……

共謀を認めた被告人本人との関係では、各自の自白を相互に補強証拠としています。つながりは簡単です。補強証拠適格は、自白から独立していることでした。Gの自白とSの供述は、出どころが別の人です。だから独立していて、補強になりえます。被告人自身が自白を繰り返すのとは違います。さきほどの巻き込みの危険は、ここでも残りませんか。残ります。だから使えるとしても、信用性は慎重に評価します。しかもSが黙秘したり証言を拒んだりすれば、Gの側から質問して確かめることができません。独立していることと、信用できることは、別の話です。

設例Wの当てはめ

設例Wの当てはめ。ルート、検察官が分離を請求してSを証人尋問、Sは146条で拒める、併合のままGの弁護人が被告人質問、Sの調書はGに対して321条1項2号、Sに対して322条1項。補強の要否、Sは自白だけで無罪、GはSの供述が第三者の供述なので有罪にできる余地、信用性は慎重に。補強に使う、Gが一部認めたらSの供述は独立した別人の供述 図:設例Wの当てはめ

  • ルート、検察官が分離を請求してSを証人尋問、Sは146条で拒める、併合のままGの弁護人が被告人質問、Sの調書はGに対して321条1項2号、Sに対して322条1項
  • 補強の要否、Sは自白だけで無罪、GはSの供述が第三者の供述なので有罪にできる余地、信用性は慎重に
  • 補強に使う、Gが一部認めたらSの供述は独立した別人の供述

設例Wに当てはめます。順番は、供述の証拠能力、補強の要否、補強証拠として使えるか、です。1つ目の問い、どの道で供述を出せるか。ルート1は、検察官が分離を請求してSを証人尋問する道です。ただしSは146条で、自分の罪に関わる質問を拒めます。拒まれたらルート2かルート3です。ルート2は、併合のまま、Gの弁護人が被告人質問でSに質問する道です。Sは黙秘できますが、答えれば、その供述は証拠になりえます。ルート3は、Sの検察官面前調書です。Gに対しては321条1項2号、Sに対しては322条1項です。Gに対して322条は使えません。2つ目の問い、Sの供述だけで有罪にできるか。Sは自分の自白しかなく、被害を裏づける証拠がありません。補強がないので、Sは無罪です。Gにとって、Sの供述は本人の自白ではありません。判例の立場なら、Sの供述だけでGを有罪にできる余地があります。逆転現象です。ただし、SがGを巻き込んでいないか、信用性は慎重に吟味されます。3つ目の問い、Gが「見張りだけはした」と一部認めた場合です。Gの自白の補強に、Sの供述を使えるか。使えます。Sの供述は、ケーブルが持ち出されたことを、Gの自白とは別の口から裏づけます。別人の供述で、独立しているからです。ただしSが黙秘すれば質問できないので、信用性は慎重に評価します。

短答の落とし穴と、答案の順序

短答の落とし穴。併合のまま証人にできる、誤り、分離が要る。分離すれば証人にできる、正しい、ただし自己に不利益な証言は拒める。併合のままの被告人質問の供述に証拠能力がない、誤り。322条1項で相手に使える、誤り。共犯者の自白だけでは他の共犯者を有罪にできない、誤り。共同被告人の供述は補強証拠にできる、正しい。共犯者の自白は本人の自白、誤り 図:短答の落とし穴

  • 併合のまま証人にできる、誤り、分離が要る
  • 分離すれば証人にできる、正しい、ただし自己に不利益な証言は拒める
  • 併合のままの被告人質問の供述に証拠能力がない、誤り
  • 322条1項で相手に使える、誤り
  • 共犯者の自白だけでは他の共犯者を有罪にできない、誤り
  • 共同被告人の供述は補強証拠にできる、正しい
  • 共犯者の自白は本人の自白、誤り

短答の落とし穴を、○×で言います。共同被告人は、併合したままで相手の事件の証人にできる。×です。分離が要ります。弁論を分離すれば、相手の事件の証人にできる。○です。ただし自己に不利益な証言は拒めます。併合のままの被告人質問で得た共同被告人の供述には、相手に対する証拠能力がない。×です。判例は、全く証拠能力を欠くものではないとします。共同被告人の検察官調書を、相手の被告人に対して322条1項で使える。×です。321条1項です。共犯者の自白だけでは、他の共犯者を有罪にできない。×です。判例は、本人の自白に当たらないとします。ただし信用性は慎重に吟味されます。共同被告人の供述は、被告人の自白の補強証拠にできる。○です。共犯者の自白は本人の自白に当たり、補強が必要。×です。判例上、当たりません。答案の順序は、3つです。まず供述の証拠能力を、3つのルートのどれかで確かめます。次に、補強の要否を、本人の自白に当たるかで見ます。最後に、被告人の自白があるときは、補強証拠として使えるかを見ます。ここは論文で論点になりうるところです。3つのルートと補強の要否は、別の問いです。混ぜないで書いてください。

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まとめ。3つのルート、分離して証人、併合のまま被告人質問、公判廷外の供述。共犯者の供述は本人の自白に当たらない、判例。理由と批判、巻き込みの危険は信用性で。逆転現象、判例側の説明。共同被告人の供述は補強証拠になりえる 図:まとめ

  • 3つのルート、分離して証人、併合のまま被告人質問、公判廷外の供述
  • 共犯者の供述は本人の自白に当たらない、判例
  • 理由と批判、巻き込みの危険は信用性で
  • 逆転現象、判例側の説明
  • 共同被告人の供述は補強証拠になりえる

まとめます。共同被告人の供述を相手の証拠にする道は3つです。分離して証人にする、併合のまま被告人質問で引き出す、公判廷の外の供述を使う、でした。判例は、共犯者の供述を本人の自白とは見ません。被告人以外の者の供述だからです。巻き込みの危険があるので、信用性は慎重に吟味します。逆転現象は、同じ供述が自分にとっては本人の自白、相手にとっては第三者の供述だという位置の違いで説明されます。共同被告人の供述は、自白から独立しているので、補強証拠にもなりえます。冒頭の違和感は、同じ供述でも、自分に向けた話なのか、相手に向けた話なのかで性質が変わる、ということで解けました。次は違法収集証拠排除法則です。警察が違法な方法で集めた証拠は、そのまま裁判で使えるのか。法律に書かれていないのに、なぜ裁判所は証拠から外せるのか。その考え方と判断の枠組みを見ます。

参照条文

  • 刑事訴訟法第313条第1項
  • 刑事訴訟法第143条
  • 刑事訴訟法第146条
  • 刑事訴訟法第311条第1項〜第3項
  • 日本国憲法第38条第3項

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